ウイルスは最も小さな寄生体であり,典型的な大きさは0.02~0.3μmであるが,最大では全長1μmに及ぶ非常に大きなウイルス(メガウイルス,パンドラウイルス)も近年発見されている。ウイルスの複製は完全に(細菌,植物,または動物の)細胞に依存する。ウイルスは,タンパク質およびときに脂質で構成される外被,RNAまたはDNAのコアのほか,ときにウイルス複製の最初のステップに必要な酵素を保有する。
ウイルスは,基本的にはゲノムの性質および構造,ならびに複製方法に従って分類されており,各ウイルスが引き起こす疾患に従って分類されているわけではない。すなわち,DNAウイルスとRNAウイルスに分けられ,それぞれの遺伝物質は一本鎖の場合と二本鎖の場合がある。一本鎖RNAウイルスはさらに(+)鎖RNAを有するウイルスと(-)鎖RNAを有するウイルスに分けられる。DNAウイルスの複製は典型的には宿主細胞の核内で起こり,RNAウイルスの複製は典型的には細胞質内で起こる。ただし,レトロウイルスと名付けられた特定の一本(+)鎖RNAウイルスは大きく異なる方法で複製する。
レトロウイルスは逆転写によりRNAゲノムの二本鎖DNAコピー(プロウイルス)を作製し,それが宿主細胞のゲノムに挿入される。逆転写はウイルスが殻内に保持する逆転写酵素を用いて行われる。レトロウイルスの例としては,ヒト免疫不全ウイルスやヒトT細胞白血病ウイルスなどがある。プロウイルスが宿主細胞DNAに一旦組み込まれると,通常の細胞機構によって転写され,ウイルスタンパク質および遺伝物質が産生される。感染細胞が生殖細胞系に属している場合には,組み込まれたプロウイルスは内在性レトロウイルスとして定着し,子孫に伝達される可能性がある。
ヒトゲノムの配列決定により,ヒトゲノムの少なくとも1%が内在性レトロウイルス塩基配列で構成されることが判明しており,これはヒトが進化の過程でレトロウイルスと遭遇したことを表している。少数の内在性ヒトレトロウイルスは転写活性を保っており,機能タンパク質を産生する(例,ヒト胎盤構造に寄与するシンシチン)。一部の専門家は,多発性硬化症,特定の自己免疫疾患,および種々のがんなど病因不明の疾患の中には,内在性レトロウイルスによって引き起こされているものがあると推測している。
RNA転写ではDNA転写の場合のようなエラーチェック機構が働かないので,RNAウイルス,特にレトロウイルスは,非常に突然変異を起こしやすい。
感染を起こすために,ウイルスはまず宿主細胞表面にある単一の受容体分子またはいくつかある受容体分子の1つに付着する。次に,ウイルスDNAまたはRNAが宿主細胞に侵入して外被から分離(脱殻)し,宿主細胞内で特異的酵素を要する過程を経て複製される。次に,新たに合成されたウイルス成分が会合して完全なウイルス粒子になる。宿主細胞は典型的には死滅し,新しいウイルスが放出されて他の宿主細胞に感染する。ウイルス複製の各ステップにはそれぞれ異なる酵素および基質が関与しており,それらは感染過程を阻害する上での鍵となる。
ウイルス感染症の転帰は著しく多様である。多くの感染は短い潜伏期間の後に急性疾患を引き起こすが,一部の感染は症状がないか,あっても軽度で,回顧的に確認して初めて気づかれる場合がある。多くのウイルス感染は,生体防御機構によって排除されるが,一部は潜伏状態でとどまり続け,また一部は慢性疾患を引き起こす。
潜伏感染状態では,ウイルスDNAまたはRNAは宿主細胞内にとどまるが,長期間ときに何年もの間複製もしなければ疾患を引き起こすこともない。ウイルスの潜伏感染は無症状期間でも伝染力をもつことがあり,これがヒトからヒトへの伝播を促進している。ときにある誘因(特に免疫抑制)が再活性化を引き起こす。
一般的な潜伏感染ウイルスとしては,以下のものがある:
パポバウイルス
慢性のウイルス感染は,長期にわたってウイルス排出が持続することを特徴とする;例として, 先天性の風疹ウイルス 先天性風疹 先天性風疹は,妊娠中の母子感染によって発生するウイルス感染症である。徴候は胎児死亡の原因となりうる多発性の先天異常である。診断は血清学的検査およびウイルス培養による。特異的な治療法はない。予防はルーチンのワクチン接種による。 ( 新生児感染症の概要および Professional... さらに読む または サイトメガロウイルス 先天性および周産期サイトメガロウイルス感染症(CMV) サイトメガロウイルス(CMV)感染症は,出生前または周産期の感染によって発生することがあり,最も頻度の高い先天性ウイルス感染症である。出生時にみられることのある徴候は,子宮内胎児発育不全,未熟性,小頭症,黄疸,点状出血,肝脾腫,脳室周囲石灰化,脈絡網膜炎,肺炎,肝炎,および感音難聴である。乳児期後期に感染した場合の徴候としては,肺炎,肝脾... さらに読む 感染,および B型 B型肝炎,慢性 B型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。患者は無症候性または疲労および倦怠感のように非特異的症状を呈することがある。診断は血清学的検査による。無治療の場合,しばしば肝硬変を起こし,肝細胞癌のリスクが高まる。抗ウイルス薬を使用すれば,治癒は得られないものの,ウイルスをコントロールすることができる。... さらに読む または C型肝炎ウイルスの持続感染 C型肝炎,慢性 C型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。慢性肝疾患の症状が現れるまで無症状に経過する場合が多い。HCV抗体陽性の所見がみられ,かつ初回感染から6カ月以上経過してもHCV-RNAが陽性であれば,診断が確定する。治療は直接作用型抗ウイルス薬による;検出可能なウイルスRNAの永続的な排除が可能である。... さらに読む などが挙げられる。 HIV ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む は潜伏感染および慢性感染の両方を引き起こしうる。
非常に長い潜伏期間の後,中枢神経系でウイルスが再活性化されることで発生する疾患もある。具体的には以下の疾患がある:
変異型クロイツフェルト-ヤコブ病 変異型CJD(vCJD) クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)は,最も頻度の高いヒトプリオン病である。世界中で発生しており,いくつかの発症様式と病型がある。CJDの症状としては認知症,ミオクローヌス,その他の中枢神経系障害などがあり,CJDの発症様式と病型にもよるが,通常は発症後4カ月から2年で死に至る。治療は支持療法による。... さらに読む とウシ海綿状脳症は,潜伏期間(数年)が長いことから,かつて遅発性ウイルス疾患と呼ばれていたが,現在ではプリオンが原因であることが知られている; プリオン プリオン病の概要 プリオン病は,進行性で治療不能の致死的な脳変性疾患である。 主要な病型としては以下のものがある: クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD),原型(通常は孤発性) 変異型CJD(vCJD;プリオンに汚染された牛肉を摂取することで感染する) Variably protease-sensitive... さらに読む は細菌,真菌,ウイルスのいずれでもなく,遺伝物質を保持しない,タンパク質の病原因子である。
数百種類のウイルスがヒトに感染する。主にヒトに感染するウイルスは,しばしば呼吸器および腸管からの排泄物を介して伝播する。性行為,血液の移入(例,輸血,粘膜接触,汚染された注射針の穿刺を介する),または組織移植により伝播されるものもある。多くのウイルスは齧歯類または節足動物によって媒介されており,コウモリは最近,ほぼ全ての哺乳類ウイルスにとって宿主であることが確認され,その中には特定の重篤なヒト感染症(例, 重症急性呼吸器症候群 コロナウイルスおよび急性呼吸器症候群(MERSおよびSARS) コロナウイルスは,感冒から致死的な肺炎に至るまでの様々な重症度の呼吸器疾患を引き起こす,エンベロープを有するRNAウイルスである。 1930年代に家禽で初めて発見された多くのコロナウイルスは,動物で呼吸器,消化管,肝臓,および神経系の疾患を引き起こす。ヒトに疾患を引き起こすことが知られているのは7種類のみである。... さらに読む [SARS])の原因となるウイルスも含まれている。
ウイルスは世界中に存在するが,生まれつきの抵抗力,以前の感染またはワクチンによる免疫,衛生対策およびその他の公衆衛生管理対策,ならびに抗ウイルス薬の予防投与によって,ウイルスの拡大が制限される。
人畜共通ウイルス アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症の概要 アルボウイルス(節足動物媒介ウイルス)という名称は,特定の吸血性節足動物,主に昆虫(ハエおよび蚊)とクモ形網動物(マダニ)を媒介生物としてヒトおよび/または他の脊椎動物に伝播する全てのウイルスに適用される。アルボウイルスは,ウイルスゲノムの性質および構造に基づいた現在のウイルス分類体系には含まれていない。... さらに読む は主に動物の中でその生物学的サイクルが進行する;ヒトは二次的または偶発的な宿主である。これらのウイルスは,ヒトを除く自然感染サイクル(脊椎動物,節足動物,またはその両方)を維持できる地域および環境にのみ存在する。
(ウイルス性疾患の種類 ウイルス性疾患の種類 最もよく侵される器官系(例,肺,消化管,皮膚,肝臓,中枢神経系,粘膜)によってウイルス感染症を分類することは臨床的に有用であるが,一部の特定のウイルス性疾患(例,流行性耳下腺炎)は分類困難である。様々な特定のウイルスおよびそれらが引き起こす疾患については,本マニュアルの別の箇所でも考察されている。... さらに読む も参照のこと。)
ウイルスとがん
一部のウイルスには発がん性があり,特定の悪性腫瘍の素因となる:
ヒトパピローマウイルス ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症 ヒトパピローマウイルス(HPV)は疣贅を形成させる。皮膚に疣贅を形成させる型もあれば,性器に隆起した疣贅や扁平な疣贅(性器の皮膚または粘膜の病変)を形成させる型もある。特定の型のHPV感染はがんの発生につながることがある。外部疣贅の診断は,臨床的な外観に基づく。複数の治療法があるが,数週間から数カ月にわたって繰り返し行わない限り,非常に効... さらに読む (HPV): 子宮頸癌 子宮頸癌 子宮頸癌は,多くは扁平上皮癌であり,ヒトパピローマウイルス感染により引き起こされる;頻度は低いが腺癌であることもある。子宮頸部腫瘍は無症状である;早期子宮頸癌の最初の症状は通常,不正性器出血,しばしば性交後の性器出血である。診断は,頸部パパニコロウ検査および生検による。進行期診断は臨床所見のほか,利用可能であれば画像検査および病理検査の結... さらに読む , 陰茎癌 陰茎癌 陰茎癌のほとんどは扁平上皮癌であり,通常は包皮切除を受けていない男性,特に局所の衛生状態が不良な場合に起こる。診断は生検による。治療は切除などによる。 陰茎癌はまれであり,米国では症例数が約2000,死亡数が約400であるが,南米などの地域ではこれより頻度が高い。病因には ヒトパピローマウイルス(HPV),特に16型および18型が関与して... さらに読む , 腟がん 腟がん 腟がんは通常は扁平上皮癌であり,60歳以上の女性に最も多く発症する。最も頻度の高い症状は異常性器出血である。診断は生検による。多くの小さな限局がんに対する治療は,子宮摘出および腟切除とリンパ節郭清であり,残りの大半には放射線療法を用いる。 原発性腟がんはまれであり,米国において婦人科がんの1%を占める。腟原発の腫瘍よりも,腟への遠隔転移や... さらに読む , 肛門癌 肛門癌 米国では,肛門癌の年間症例数は推定8,590例,年間死亡数は約1,350例である( 1)。主症状は排便時の出血である。診断は内視鏡検査による。治療選択肢としては,切除,化学療法,放射線療法などがある。 肛門直腸の扁平上皮癌(非角化型または類基底細胞型癌)は遠位大腸癌の3~5%を占める。... さらに読む , 中咽頭癌 中咽頭扁平上皮癌 中咽頭扁平上皮癌とは,扁桃,舌根および舌後方3分の1,軟口蓋,ならびに咽頭後壁および側壁のがんを指す。中咽頭癌の95%以上を扁平上皮癌が占める。タバコおよびアルコールが主要な危険因子であるが,現在ではヒトパピローマウイルス(HPV)がこれらの腫瘍の大半を引き起こしている。症状としては,咽頭痛,嚥下痛,嚥下困難などがある。治療には放射線,化... さらに読む ,および 食道癌 食道癌 食道の近位3分の2で最もよくみられる悪性腫瘍は扁平上皮癌であり,遠位3分の1では腺癌が最も多くみられる。症状は進行性の 嚥下困難および体重減少である。診断は内視鏡検査により,続いて病期診断のためにCTおよび超音波内視鏡検査を施行する。治療は病期によって異なり,一般に外科手術で,場合によって化学療法および放射線療法を併用する。長期生存率は限... さらに読む
ヒトTリンパ球向性ウイルス1型 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 :特定の組織型のヒト白血病およびリンパ腫
エプスタイン-バーウイルス 伝染性単核球症 伝染性単核球症は,エプスタイン-バーウイルス(EBV,ヒトヘルペスウイルス4型)により引き起こされ,疲労,発熱,咽頭炎,およびリンパ節腫脹を特徴とする。疲労は数週間から数カ月間続くことがある。気道閉塞,脾破裂,および神経症候群などの重症合併症がときに起こる。診断は臨床的に,またはEBVの血清学的検査により行う。治療は支持療法による。... さらに読む : 上咽頭癌 上咽頭癌 扁平上皮癌は上咽頭で最も一般的な悪性腫瘍である。症状は後期に発生し,具体的には片側性の血性鼻漏,鼻閉,難聴,耳痛,顔面腫脹,顔面のしびれなどがある。診断は視診および生検に基づき,範囲を評価するためのCT,MRI,またはPETも行う。治療は放射線,化学療法,およびまれに手術による。... さらに読む , バーキットリンパ腫 バーキットリンパ腫 バーキットリンパ腫は,小児および成人にみられるアグレッシブB細胞リンパ腫である。病型として風土病型(アフリカ人),散発型(非アフリカ人),および免疫不全型がある。 ( リンパ腫の概要も参照のこと。) 古典的バーキットリンパ腫は,中央アフリカで風土病となっており,米国では小児リンパ腫の30%を占めている。アフリカに多い風土病型は,下顎または... さらに読む , ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫 ホジキンリンパ腫は,リンパ細網系細胞の限局性または播種性の悪性増殖であり,主にリンパ節組織,脾臓,肝臓,および骨髄に浸潤する。典型的な症状としては,無痛性のリンパ節腫脹のほか,ときに発熱,盗汗,意図しない体重減少,そう痒,脾腫,肝腫大などがある。診断はリンパ節生検に基づく。治療により大半の症例で治癒が得られるが,化学療法を基本として,抗体... さらに読む ,および免疫抑制状態の臓器移植レシピエントにおけるリンパ腫
B型肝炎 B型肝炎,急性 B型肝炎は,しばしば血液感染するDNAウイルスによって引き起こされる。食欲不振,倦怠感,黄疸など,ウイルス性肝炎の典型症状がみられる。劇症肝炎や死に至ることがある。慢性肝炎は肝硬変および/または肝細胞癌につながる可能性がある。診断は血清学的検査による。治療は支持療法である。ワクチン接種で予防可能であり,曝露後もB型肝炎免疫グロブリンを使用... さらに読む および C型肝炎 C型肝炎,急性 C型肝炎は,しばしば血液感染するRNAウイルスによって引き起こされる。ときに食欲不振や倦怠感,黄疸などのウイルス性肝炎の典型症状を引き起こすが,無症状のこともある。まれに劇症肝炎や死に至る。約75%で慢性肝炎となり,肝硬変やまれに肝細胞癌に至ることもある。診断は血清学的検査による。治療は抗ウイルス薬による。利用可能なワクチンはない。... さらに読む ウイルス: 肝細胞癌 肝細胞癌 肝細胞癌は通常,肝硬変患者に発生し,B型およびC型肝炎ウイルス感染症の有病率が高い地域ではよくみられる。症状と徴候は通常,非特異的である。診断はα-フェトプロテイン(AFP)値と画像検査のほか,ときに肝生検に基づく。高リスク患者には,定期的なAFPの測定および超音波検査によるスクリーニングがときに推奨される。がんが進行した場合または肝合成... さらに読む
ヒトヘルペスウイルス8型 ヘルペスウイルス感染症の概要 ヒトに感染するヘルペスウイルスとしては,8つの型が存在する( Professional.see table ヒトに感染するヘルペスウイルス)。初回感染後,全てのヘルペスウイルスは特定の宿主細胞内に潜伏し続け,その後再活性化することがある。初感染による臨床症候群は,それらのウイルスの再活性化によって引き起こされるものとは大きく異なることがあ... さらに読む : カポジ肉腫 カポジ肉腫 カポジ肉腫は,ヘルペスウイルス8型によって引き起こされる多中心性の血管性腫瘍である。病型として古典的カポジ肉腫,AIDS関連カポジ肉腫,風土病型(アフリカ型)カポジ肉腫,および医原性カポジ肉腫(例,臓器移植後)がある。診断は生検による。進行の緩徐な表在性病変に対する治療としては,凍結療法,電気凝固術,切除,または電子線照射療法が施行される... さらに読む ,原発性滲出性リンパ腫,および多中心性キャッスルマン病(リンパ増殖性疾患)
ウイルス感染症の診断
一部のウイルス疾患は,以下の方法で診断可能である:
臨床的に(例, 麻疹 麻疹 麻疹は,小児で最も多くみられる感染性の高いウイルス感染症である。発熱,咳嗽,鼻感冒,結膜炎,口腔粘膜の粘膜疹(コプリック斑),および頭尾方向に拡大する斑状丘疹状皮疹を特徴とする。診断は通常,臨床的に行う。治療は支持療法による。予防接種が非常に効果的である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニ... さらに読む , 風疹 風疹 ( Professional.See also page 先天性風疹。) 風疹は,リンパ節腫脹と発疹のほか,ときに全身症状(通常は軽度かつ短期間)を引き起こす,感染性の強いウイルス感染症である。妊娠早期に感染すると,自然流産,死産,または先天性感染症につながる可能性がある。診断は通常臨床的に行う。症例は公衆衛生当局に報告する。通常,治療は... さらに読む , 突発性発疹 突発性発疹 突発性発疹は,ヒトヘルペスウイルス6B型(HHV-6B)または頻度は下がるがHHV-7によって引き起こされる乳幼児の感染症である。感染により,高熱に加えて解熱中または解熱後に風疹様の発疹が生じるが,局所的な症候はみられない。診断は臨床的に行い,治療は対症療法である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについ... さらに読む , 伝染性紅斑 伝染性紅斑 伝染性紅斑は,パルボウイルスB19による急性感染症であり,軽度の全身症状と頬部から始まって主に四肢の露出部へ拡大する斑状または斑状丘疹状の発疹が生じる。診断は臨床的に行い,一般に治療は不要である。 ヒトに感染するウイルスの大半は成人と小児の両方に感染するが,それらについては本マニュアルの別の箇所で考察されている。新生児に特異的な影響を及ぼ... さらに読む , 水痘 水痘 水痘は,通常は小児期にみられる急性の全身感染症であり,水痘帯状疱疹ウイルス(ヒトヘルペスウイルス3型)によって引き起こされる。通常は軽度の全身症状から始まり,その後すぐに斑状疹,丘疹,小水疱,および痂皮を特徴とする皮膚病変が群発して現れる。重度の神経系またはその他の全身性合併症(例,肺炎)のリスクのある患者は,成人,新生児,および易感染性... さらに読む などのよく知られたウイルス症候群の場合)
疫学的に(例, インフルエンザ インフルエンザ インフルエンザは,発熱,鼻感冒,咳嗽,頭痛,および倦怠感を引き起こす ウイルス性呼吸器感染症である。季節的な流行の際には特に高リスク患者(例,施設入所者,低年齢児と高齢者,心肺機能不全患者,または妊娠後期の妊婦)の間で死亡も起こりうる;パンデミックの間は,健康な若年患者でさえ死に至る可能性がある。診断は通常,臨床的に,また地域の疫学的パタ... さらに読む , ノロウイルス感染症 ウイルス性胃腸炎 ,および 流行性耳下腺炎 ムンプス ムンプスは,通常は唾液腺(最も多くは耳下腺)の有痛性腫脹を引き起こす,感染性の強い全身性の急性ウイルス性疾患である。合併症として,精巣炎,髄膜脳炎,膵炎などが起こりうる。診断は通常臨床的に行い,症例は全て速やかに公衆衛生当局に報告する。治療は支持療法による。ワクチン接種が予防に効果的である。... さらに読む などのアウトブレイク中)
検査による確定診断が必要となる主な状況は,特異的な治療が助けになりうる場合と,ウイルスが公衆衛生上脅威となる可能性がある場合(例,HIV)である。一部のウイルスの検査は典型的な病院検査室でも可能であるが,頻度の低い疾患(例, 狂犬病 狂犬病 狂犬病は,感染したコウモリやその他特定の哺乳類の唾液を介して伝播するウイルス性脳炎である。症状としては抑うつや発熱などがあり,続いて興奮,唾液の過剰分泌,および恐水病がみられる。診断は皮膚生検検体を用いた直接蛍光抗体法またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査による。曝露のリスクが高い個人には,ワクチン接種が適応となる。曝露後予防は創傷ケア... さらに読む ,東部ウマ脳炎,ヒトパルボウイルスB19)については,検体を州の保健研究所または米国疾病予防管理センターに送付する必要がある。
急性期および回復期血清での血清学的検査は感度および特異度が高い可能性があるが,時間がかかる;一部のウイルス,特にフラビウイルス科のウイルスは交差反応によって診断を混同させる。培養検査,ポリメラーゼ連鎖反応検査,またはウイルス抗原検査の方が,ときにより迅速に診断できる場合がある。電子(光学ではない)顕微鏡による病理組織学的検査がときに役立つ可能性がある。具体的な診断手順については, 感染症の臨床検査診断 感染症の臨床検査診断に関する序論 臨床検査では,微生物を直接的(例,肉眼観察,顕微鏡の使用,培養での微生物の増殖)または間接的(例,微生物に対する抗体の同定)に同定できる可能性がある。一般的な検査の種類としては以下のものがある: 顕微鏡検査 培養 免疫学的検査(ラテックス凝集法などの凝集試験,酵素免疫測定,ウェスタンブロット,沈降試験,補体結合試験)... さらに読む を参照のこと。
ウイルスゲノムは小さく,RNAウイルスのゲノムは3.5kb(一部のレトロウイルス)から27kb(一部のレオウイルス)であり,DNAウイルスのゲノムは5kb(一部のパルボウイルス)から280kb(一部のポックスウイルス)である。このようにゲノムのサイズが小さいことと,塩基配列決定技術の現在の進歩を考慮すると,将来的にはウイルスゲノムの部分配列または全配列を決定することが,疾患のアウトブレイクに関する疫学的調査において必須の要素になると考えられる。
ウイルス感染症の治療
抗ウイルス薬
抗ウイルス薬の使用は急速に進歩し続けている。抗ウイルス化学療法はウイルス複製の様々な段階を標的にできる。抗ウイルス薬には以下の作用がある:
ウイルス粒子の宿主細胞膜への付着またはウイルス核酸の脱殻を阻害する
ウイルス複製に必要な細胞側の受容体または因子を阻害する
宿主細胞で産生され,ウイルスの複製には必須であるが正常な宿主細胞の代謝には必須でない,ウイルスにコードされた特定の酵素およびタンパク質を阻害する
抗ウイルス薬は, ヘルペスウイルス ヘルペスウイルス感染症の概要 ヒトに感染するヘルペスウイルスとしては,8つの型が存在する( Professional.see table ヒトに感染するヘルペスウイルス)。初回感染後,全てのヘルペスウイルスは特定の宿主細胞内に潜伏し続け,その後再活性化することがある。初感染による臨床症候群は,それらのウイルスの再活性化によって引き起こされるものとは大きく異なることがあ... さらに読む (サイトメガロウイルス サイトメガロウイルス(CMV)感染症 サイトメガロウイルス(CMV,ヒトヘルペスウイルス5型)は,重症度に大きな幅のある感染症を引き起こす。伝染性単核球症に類似するが重度の咽頭炎を欠いた症候群がよくみられる。HIV感染患者,臓器移植レシピエント,およびその他の易感染性患者において,網膜炎など重度の局所疾患が生じうる。新生児および易感染性患者では,重度の全身性疾患が発生すること... さらに読む を含む), 呼吸器系ウイルス ウイルス性呼吸器感染症の概要 ウイルス感染症では上気道または下気道がよく侵される。 呼吸器感染症は原因ウイルスで分類することができるが(例, インフルエンザ),一般的には症候群に基づいて臨床的に分類される(例, 感冒, 細気管支炎, クループ, 肺炎)。通常は個々の病原体がそれぞれ特徴的な臨床像を引き起こすが(例,ライノウイルスは典型的には感冒を,... さらに読む , HIV ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む , B型慢性肝炎 B型肝炎,慢性 B型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。患者は無症候性または疲労および倦怠感のように非特異的症状を呈することがある。診断は血清学的検査による。無治療の場合,しばしば肝硬変を起こし,肝細胞癌のリスクが高まる。抗ウイルス薬を使用すれば,治癒は得られないものの,ウイルスをコントロールすることができる。... さらに読む ,および C型慢性肝炎 C型肝炎,慢性 C型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。慢性肝疾患の症状が現れるまで無症状に経過する場合が多い。HCV抗体陽性の所見がみられ,かつ初回感染から6カ月以上経過してもHCV-RNAが陽性であれば,診断が確定する。治療は直接作用型抗ウイルス薬による;検出可能なウイルスRNAの永続的な排除が可能である。... さらに読む の治療または予防に使用されることが最も多い。しかしながら,一部の薬剤はこれら以外の多くのウイルスにも効果的である。HIVに効果を示す薬剤の一部は,B型肝炎など他のウイルス感染症にも使用されている。新しい抗ウイルス薬は エボラウイルス 治療 マールブルグおよびエボラウイルスは,出血および多臓器不全を引き起こす,致死率の高い フィロウイルスである。診断は,酵素結合免疫吸着測定法,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査,または電子顕微鏡検査による。治療は支持療法による。アウトブレイクを封じ込めるために厳重な隔離および検疫処置が必要である。... さらに読む に対して効果的である。
インターフェロン
インターフェロンは,ウイルスまたは他の異物抗原に反応して,感染した宿主細胞から放出される物質である。
多数の異なるインターフェロンが存在するが,ウイルスRNAの翻訳および転写を阻害することで,正常な宿主細胞の機能を妨げずにウイルス複製を停止させるなど多数の作用を有する。
インターフェロンはときにポリエチレングリコールに結合させて(ペグ製剤)投与されることがあるが,それにより緩徐で持続的なインターフェロンの放出が可能になる。
ときにインターフェロンで治療されるウイルス疾患として,以下のものが挙げられる:
B型慢性肝炎 B型肝炎,慢性 B型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。患者は無症候性または疲労および倦怠感のように非特異的症状を呈することがある。診断は血清学的検査による。無治療の場合,しばしば肝硬変を起こし,肝細胞癌のリスクが高まる。抗ウイルス薬を使用すれば,治癒は得られないものの,ウイルスをコントロールすることができる。... さらに読む および C型慢性肝炎 C型肝炎,慢性 C型肝炎は,慢性肝炎の一般的な原因の1つである。慢性肝疾患の症状が現れるまで無症状に経過する場合が多い。HCV抗体陽性の所見がみられ,かつ初回感染から6カ月以上経過してもHCV-RNAが陽性であれば,診断が確定する。治療は直接作用型抗ウイルス薬による;検出可能なウイルスRNAの永続的な排除が可能である。... さらに読む
インターフェロンの有害作用には発熱,悪寒,筋力低下,筋肉痛などの症状があり,典型的には初回の注射から7~12時間後に始まり,最長12時間持続する。抑うつ,肝炎,および高用量では骨髄抑制も発生する可能性がある。
ウイルス感染症の予防
ワクチン
ワクチン 予防接種の概要 は免疫を刺激することで効果を発揮する。一般に使用されているウイルスワクチンとしては, A型肝炎 A型肝炎(HepA)ワクチン 2つのA型肝炎ワクチンは,どちらも A型肝炎に対する長期の防御効果をもたらす。 詳細については,Hepatitis A Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters for... さらに読む , B型肝炎 B型肝炎(HepB)ワクチン B型肝炎ワクチンは,所定回数の接種を完了した場合,感染予防または B型肝炎の発症予防において80~100%の効果を示す。 詳細については,Hepatitis B Advisory Committee on Immunization Practices Vaccine RecommendationsおよびCenters... さらに読む , ヒトパピローマウイルス ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症は最もよくみられる性感染症である。HPVはその型に応じて,皮膚疣贅, 尖圭コンジローマ,または特定のがんを引き起こす可能性がある。尖圭コンジローマやがんを引き起こすHPV株の多くに対して予防効果のあるワクチンが使用可能になっている。ただし,ワクチンに含まれていない型のHPVによって引き起こされる... さらに読む , インフルエンザ インフルエンザワクチン インフルエンザワクチンは毎年,世界保健機関および米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の勧告に基づき,最も流行しているウイルス株(通常はインフルエンザA型の2株とインフルエンザB型の1~2株)が含まれるように変更されている。ときに,北半球と南半球で若干異なる... さらに読む ,日本脳炎, 麻疹 麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合(MMR)ワクチン 麻疹・ ムンプス・ 風疹混合(MMR)ワクチンは,3つの感染症全ての予防に効果的である。米国の予防接種スケジュールに従ってMMRワクチンの接種を受ければ,生涯にわたり予防効果が維持されると考えられている。 詳細については,MMR Advisory Committee on Immunization... さらに読む , ムンプス 麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合(MMR)ワクチン 麻疹・ ムンプス・ 風疹混合(MMR)ワクチンは,3つの感染症全ての予防に効果的である。米国の予防接種スケジュールに従ってMMRワクチンの接種を受ければ,生涯にわたり予防効果が維持されると考えられている。 詳細については,MMR Advisory Committee on Immunization... さらに読む , ポリオ ポリオワクチン 大規模な予防接種の導入により, ポリオは世界的にほぼ根絶された。ただし,サハラ以南アフリカや南アジアなど予防接種が不完全な地域では,依然として症例の発生がみられる。 ポリオウイルス( エンテロウイルスの一種)には3つの血清型がある。 詳細については,Polio Advisory... さらに読む , 狂犬病 予防 狂犬病は,感染したコウモリやその他特定の哺乳類の唾液を介して伝播するウイルス性脳炎である。症状としては抑うつや発熱などがあり,続いて興奮,唾液の過剰分泌,および恐水病がみられる。診断は皮膚生検検体を用いた直接蛍光抗体法またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査による。曝露のリスクが高い個人には,ワクチン接種が適応となる。曝露後予防は創傷ケア... さらに読む , ロタウイルス 0~6歳を対象とする推奨予防接種スケジュール , 風疹 麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合(MMR)ワクチン 麻疹・ ムンプス・ 風疹混合(MMR)ワクチンは,3つの感染症全ての予防に効果的である。米国の予防接種スケジュールに従ってMMRワクチンの接種を受ければ,生涯にわたり予防効果が維持されると考えられている。 詳細については,MMR Advisory Committee on Immunization... さらに読む ,ダニ媒介性脳炎, 水痘 水痘ワクチン 水痘ワクチンは, 水痘(水疱瘡)の予防に効果的である。水痘に対する予防効果がどれくらい持続するのかは不明である。それでも,水痘ワクチンのような生ウイルスワクチンは通常,長期間持続する予防効果をもたらす。 詳細については,Varicella Advisory Committee on... さらに読む ,および 黄熱 予防 のワクチンがある。アデノウイルスおよび 天然痘 予防 天然痘は,オルソポックスウイルス属の一種である天然痘ウイルスによって引き起こされる,非常に感染力の強い疾患である。致死率は約30%である。自然感染は根絶されている。アウトブレイクに対する主な懸念はバイオテロによるものである。重度の全身症状と特徴的な膿疱が発生する。治療は一般に対症療法であり,抗ウイルス薬を使用することもある。予防にはワクチ... さらに読む のワクチンも使用可能であるが,高リスク群(例,軍の新兵)にのみ使用されている。 ザイールエボラウイルス 予防 マールブルグおよびエボラウイルスは,出血および多臓器不全を引き起こす,致死率の高い フィロウイルスである。診断は,酵素結合免疫吸着測定法,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査,または電子顕微鏡検査による。治療は支持療法による。アウトブレイクを封じ込めるために厳重な隔離および検疫処置が必要である。... さらに読む によって引き起こされる疾患を予防するためのワクチンがある。
ウイルス性疾患は優良なワクチンによって根絶が可能である。天然痘は1978年に根絶され,牛疫(ヒト麻疹ウイルスの近縁ウイルスによって引き起こされる)は2011年に根絶された。ポリオは,物資面の問題や宗教的理由からワクチン接種が行われていない少数の国を除き,ほとんどの国で根絶された。麻疹は世界の一部の地域(特にアメリカ大陸)ではほぼ根絶されたが,麻疹は感染性が高く,根絶されたと考えられる地域でもワクチン接種率は100%ではないため,最終的な根絶はまだ先のことである。
より難治性の他のウイルス感染症(HIVなど)が根絶される見通しは,現在のところ不明である。
免疫グロブリン
受動免疫による予防のため,限定的な状況では 免疫グロブリン 受動免疫 受動免疫付与には以下の投与を必要とする: 微生物に対する抗体または微生物によって産生された毒素 受動免疫は以下の状況で行われる: 患者が体内で抗体を合成できないとき 患者が免疫を有していない疾患または合併症を引き起こす可能性が高い疾患に曝露したとき さらに読む が利用できる。曝露前(例,A型肝炎),曝露後(例,狂犬病または肝炎),および疾患の治療(例,ワクシニア性湿疹)に使用することができる。
予防法
多くのウイルス感染は,常識的な予防法(それぞれのウイルスの伝播様式によって変わる)で防止できる。
重要な予防法としては以下のものがある:
手洗い
適切な調理および公共用水処理
病気の人との接触を避ける
安全な性行為
昆虫媒介性(例,蚊,ダニ)の感染に関しては,媒介動物を避けることが重要である。