ジカウイルスは,抗原的および構造的にデングウイルス感染症,黄熱,およびウエストナイルウイルス感染症の原因ウイルスと類似する,蚊を媒介とするフラビウイルスである。ジカウイルス感染症は一般的には無症状であるが,発熱,発疹,関節痛,または結膜炎を引き起こすこともある;妊娠中にジカウイルス感染症にかかると,先天性ジカ症候群(congenital Zika syndrome)と呼ばれる小頭症(重篤な先天異常),眼の異常,およびいくつかの発達障害が胎児に生じることがある。診断は,酵素結合免疫吸着測定法または逆転写PCR(RT-PCR)検査による。治療は支持療法による。予防策としては,蚊の刺咬を避けることと,ジカウイルス感染症のリスクのあるパートナーとの無防備な性行為を避けることなどがあり,妊婦およびそのパートナーは流行地域への旅行を控えるようにする。
ジカウイルスは,デングウイルス感染症,黄熱,およびチクングニア熱の原因ウイルスと同様,よどんだ水場に散乱するヤブカ(Aedes属の蚊)によって伝播される。これらの蚊は,屋内および屋外で人を刺し,人の近くに住む;日中は盛んに人を刺す。夜間に刺すこともある。
主な媒介生物はネッタイシマカ(A. aegypti)およびヒトスジシマカ(A. albopictus)である。米国では,ネッタイシマカの分布は,米国とメキシコの国境に沿ったディープサウスからカリフォルニア南部までの範囲に限られている。ヒトスジシマカは,寒冷な気候によりよく適応し,南東部の大部分から中西部北部にかけてと,カリフォルニア南部にみられる。ネッタイシマカは,ジカウイルス感染症の流行における主要な媒介生物であると考えられている一方,ヒトスジシマカはジカウイルス感染症の二次的な媒介生物であると考えられているが,米国のより温暖な気候で媒介生物であるかは不明である。ネッタイシマカはほぼ例外なくヒトのみを吸血するが,ヒトスジシマカはヒトのほか,このウイルスに感受性がなく伝播に関与しない様々な動物を吸血する。
ジカウイルス感染症の疫学
ジカウイルスは,1947年にウガンダのジカ森に生息するサルから初めて分離されたが,2007年に南太平洋諸島で最初の大規模なアウトブレイクが発生するまでは,ヒトにとって重要な病原体であるとは考えられていなかった。2015年5月に南米で地域内伝播が初めて報告された後,中米およびカリブ諸国でも報告された。
ジカウイルスの地域内伝播の持続は以下の地域で報告されている:
南米
中米およびメキシコ
カリブ諸島(プエルトリコおよび米国領ヴァージン諸島を含む)
太平洋諸島
カーボベルデ(アフリカ北西岸の島国)
南アジアおよび東南アジア(散発例)
アフリカ
フロリダ州およびテキサス州
米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,アウトブレイクが発生した場合に,これらの地域の国への渡航注意勧告を出す(1)。
2016年および2017年には,ジカウイルス感染症の地域内伝播がフロリダ州南東部のマイアミ・デイド郡およびテキサス州ブラウンズビルで報告された。ジカウイルスの米国本土内での伝播は2019年以来報告されていない。ただし,地域内伝播のある国から米国に帰国した旅行者におけるジカウイルス感染症が報告されている。
2025年5月現在,ジカウイルスのアウトブレイクが進行している地域はない(1)。
ジカウイルスがどこで発生するかを予測するのは困難である。しかしながら,ジカウイルスを伝播する蚊はデングウイルスやチクングニアウイルスも伝播するため,デングウイルス感染症やチクングニア熱の伝播がみられる地域であればどこであれ,ジカウイルスの地域内伝播が起こりうる。
疫学に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: Countries & Territories at Risk for Zika.February 25, 2025.Accessed June 18, 2025.
ジカウイルスの伝播
感染した最初の週は,ジカウイルスが血中に存在する。蚊は感染者を刺すことでウイルスを獲得し,他の人々を刺すことでウイルスを伝播させる。ジカウイルスの伝播が持続している地域から帰還した旅行者は,帰還した時点で血液中にジカウイルスを保有している可能性があり,媒介生物となる蚊がその地域に生息していれば,ジカウイルスの伝播が起こりうる。しかしながら,米国本土やハワイではヤブカ(Aedes属の蚊)と人との接触はまれであり(蚊の防除が行われ,空調設備が整い壁で仕切られた環境で人々が生活・労働しているため),ジカウイルスの地域内伝播はまれであるか限定的である。
ジカウイルスは主に蚊によって伝播されるが,そのほかにも以下のような感染経路がある:
性感染(腟性交,肛門性交,オーラルセックスなど)
子宮内母子感染(先天性感染症につながる)
輸血
臓器または組織の移植(理論的な可能性)
ジカウイルスは,デングウイルス感染症,チクングニア熱,およびウエストナイルウイルス感染症を引き起こすウイルスと同様,妊娠中に母から子に伝播する。ジカウイルスは,デングウイルスと同様,母乳中から検出されているが,乳児が授乳を介して感染するかどうかは不明である(1)。ただし,母乳栄養には多くの利点があるため,CDCはジカウイルスの伝播が持続している地域であっても母乳育児を奨励している(2, 3)。
ジカウイルスは精液中に存在するため,たとえ男性に症状がなくても,性行為によって男性からセックスパートナーへ感染することがあり,腟性交,肛門性交のほか,おそらくオーラルセックスによっても伝播する。ジカウイルスは,血液や腟分泌液など他の体液と比べて,精液中には長く残存する。無防備な(コンドームを使用しない)性行為によって,男性から女性への感染および男性から男性への感染が起こっている(4)。
ジカウイルスは,たとえ感染者に症状がなくても,性玩具を共用することで,男性または女性からセックスパートナーに伝播する可能性がある。
ジカウイルスは血中および尿中から消失した後も腟分泌物中に残存し,女性から男性へのジカウイルスの性感染が報告されている(4)。腟分泌物では最長6カ月にわたり間欠的なウイルスRNAの排出が検出されているが,PCR法で検出される遺伝子断片は必ずしも感染性ウイルスのものとは限らないため,ウイルスRNAの検出は感染性ウイルスの存在を証明することにはならない。
輸血による伝播がブラジルで報告されているが,米国では輸血による伝播の症例は報告されていない(5)。研究者が実験室でジカウイルスに感染した事例が報告されており,針刺し事故を通じて発生するものと考えられている(6)。
伝播に関する参考文献
1.Colt S, Garcia-Casal MN, Peña-Rosas JP, et al: Transmission of Zika virus through breast milk and other breastfeeding-related bodily-fluids: A systematic review. PLoS Negl Trop Dis 11(4):e0005528.2017.Published 2017 Apr 10.doi:10.1371/journal.pntd.0005528
2.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: How Zika Spreads.January 30, 2025.Accessed June 20, 2025.
3.World Health Organization: Guideline: infant feeding in areas of Zika virus transmission, 2nd edition.Geneva, WHO.June 15, 2021.Accessed June 20, 2025.
4.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: Sexual Transmission of Zika Virus.January 30, 2025.Accessed June 20, 2025.
5.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: Transmission of Zika Virus.January 30, 2025.Accessed June 20, 2025.
6.Hills SL, Morrison A, Stuck S, et al: Case Series of Laboratory-Associated Zika Virus Disease, United States, 2016-2019. Emerg Infect Dis 27(5):1296-1300, 2021.doi:10.3201/eid2705.203602
ジカウイルス感染症の症状と徴候
大半の患者は症状を示さない。
ジカウイルス感染症の症状としては,発熱,斑状丘疹状皮疹,結膜炎,関節痛,眼球後部の痛み,頭痛,筋肉痛などがある。症状は典型的には軽度で,4~7日間持続する(1)。入院を要する重症感染症はまれである。まれに,ジカウイルス感染症により成人に脳症が発生している。ジカウイルス感染症による死亡はまれである。
非常にまれに,ジカウイルス感染症の後にギラン-バレー症候群(GBS)が発生することがある(2)。GBSは,急性で,通常は急速に進行するが自然治癒する炎症性多発神経障害であり,自己免疫反応が原因と考えられている。
先天性ジカウイルス感染症
妊娠中のジカウイルス感染症は,小頭症(胎児期の脳の発育が不完全で頭部が小さくなった状態)のほか,神経,眼,および心臓の異常や整形外科的異常を引き起こすことがあり,これらを合わせて先天性ジカ症候群(congenital Zika syndrome)と呼ぶ(3)。
子宮内で感染した乳児は,小頭症の有無にかかわらず,眼病変または先天性の拘縮(例,内反足)を有することがある。子宮内で感染した乳児は,先天性ジカ症候群を伴わない場合でも,神経発達遅滞のリスクがある。子宮内でジカウイルスに曝露したが先天性ジカ症候群を発症しなかった小児では,遂行機能,気分,および適応的運動機能に遅れが現れて継続的な評価が必要になる可能性がある。
症状と徴候に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Clinical Signs and Symptoms of Zika Virus Disease.January 30, 2025.Accessed June 23, 2025.
2.Shahrizaila N, Lehmann HC, Kuwabara S.Guillain-Barré syndrome. Lancet 2021;397(10280):1214-1228.doi:10.1016/S0140-6736(21)00517-1
3.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: Congenital Zika Syndrome and Other Birth Defects.January 31, 2025.Accessed June 20, 2025.
ジカウイルス感染症の診断
血清学的検査
逆転写PCR(RT-PCR)法による核酸増幅検査(NAAT)
ジカウイルス感染症は,症状と地理的な場所または旅行歴に基づいて疑われる。ジカウイルス感染症の臨床像は熱帯地方の多くの発熱性疾患(例,デングウイルス感染症,マラリア,レプトスピラ症,その他のアルボウイルス感染症)と類似し,その地理的分布も他のアルボウイルス感染症と類似しているため,ジカウイルス感染症の診断には以下のいずれかによる臨床検査での確認が必要である(1):
NAATによる血清中または尿中ウイルスRNAの同定
血清学的検査(IgMに対する酵素結合免疫吸着測定法[ELISA],ジカウイルス抗体に対するプラーク減少中和試験[PRNT])
ジカウイルスはNAATを用いることで,症状出現後1週間以内なら血清検体から,最長14日以内なら尿検体から検出できることが多い。全血中のジカウイルスはNAATで最長3カ月間検出できる可能性がある(2)。
米国では,Trioplex社のリアルタイムRT-PCR検査に対して緊急使用許可が出されており,これは血清,血液,および髄液からデングウイルス,チクングニアウイルス,およびジカウイルスのRNAを検出でき,さらにジカウイルスRNAは尿および羊水からも検出することができるマルチプレックスPCR検査である。
ウイルス特異的IgMおよび中和抗体は,感染1週目の終わりに現れるのが典型的であるが,近縁種のフラビウイルス(例,デングウイルス,黄熱ウイルス)との交差反応がよくみられる。急性期と回復期のペア血清を用いたPRNTは,ウイルス特異的な中和抗体を測定し,フラビウイルスの近縁種間で交差反応する抗体を区別するのに役立つ。PRNTで抗体価の4倍以上の上昇は診断の決め手となる。
IgMは感染後数カ月間持続することがあるため,IgM検査による診断には限界がある。そのため,IgM検査の結果では,現在の妊娠中に発生した感染と現在の妊娠前に発生した感染とを常に確実に鑑別できるとは限らず,特に現在の妊娠前にジカウイルスに曝露した可能性がある女性では鑑別が困難である。
ジカウイルス検査に関する推奨は,患者集団および医療機関によって異なる(3, 4)。
ジカウイルス感染症のルーチン検査は,無症状の妊婦には推奨されない。しかしながら,伝播の多い地域に居住しているか最近旅行した妊婦や,曝露リスクが高い相手と性行為をしたことがある妊婦には,RT-PCR検査を考慮してもよい(曝露後12週間まで)。
ジカウイルスに最近曝露した症状のある妊婦に対して:
CDC:発症後12週未満の間に血中および尿中ジカウイルスRT-PCR(陽性の場合は,同じ検体から新たに抽出したRNAで再検査する);IgM抗体検査は推奨されない
WHO:発症後14日以内に血中および尿中ジカウイルスRT-PCRを行い,陰性であればIgM検査;14日以降はIgM検査
胎児超音波検査で先天性ジカウイルス感染症に一致する所見が認められ,妊娠中にジカウイルスの感染リスクがある地域に居住しているか旅行した妊婦について,CDCは血清および尿検体でRT-PCR検査とIgM検査の両方を行うよう推奨している。RT-PCRが陰性でIgMが陽性の場合は,確認のためPRNTを実施すべきである。羊水穿刺検体を用いたジカウイルスRT-PCR検査ならびに胎盤および胎児組織の検査も考慮することがある。ジカウイルス症候群が疑われる新生児には検査を行うべきである(3, 5)。
妊娠していない患者にジカウイルス感染症が疑われ,かつ重度の症状がみられる場合は,検査を行うべきである。性感染のリスク評価を目的とする無症状の男性に対する検査は推奨されない(6)。ジカウイルスの活発な伝播がある地域に居住しているか旅行した男性に,妊娠しているパートナーがいる場合は,妊娠期間中の性行為を避けるか,性交(すなわち,腟性交,肛門性交,オーラルセックス)時はコンドームを常に正しく使用するべきである。
米国では,医師がジカウイルス感染症の症例を同定した場合,CDCに報告することが求められる(3)。
診断に関する参考文献
1.Sharp TM, Fischer M, Muñoz-Jordán JL, et al: Dengue and Zika Virus Diagnostic Testing for Patients with a Clinically Compatible Illness and Risk for Infection with Both Viruses. MMWR Recomm Rep 68(1):1-10, 2019.Published 2019 Jun 14.doi:10.15585/mmwr.rr6801a1
2.Stone M, Bakkour S, Lanteri MC, et al: Zika virus RNA and IgM persistence in blood compartments and body fluids: a prospective observational study. Lancet Infect Dis 20(12):1446-1456, 2020.doi:10.1016/S1473-3099(19)30708-X
3.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: Clinical Testing and Diagnosis for Zika Virus Disease.February 12, 2025.Accessed June 20, 2025.
4.World Health Organization: Laboratory testing for Zika virus and dengue virus infections: interim guidance.July 14, 2022.Accessed June 20, 2025.
5.Fleming-Dutra KE, Nelson JM, Fischer M, et al: Update: Interim Guidelines for Health Care Providers Caring for Infants and Children with Possible Zika Virus Infection--United States, February 2016. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 65(7):182-187, 2016.Published 2016 Feb 26.doi:10.15585/mmwr.mm6507e1
6.Polen KD, Gilboa SM, Hills S, et al: Update: Interim Guidance for Preconception Counseling and Prevention of Sexual Transmission of Zika Virus for Men with Possible Zika Virus Exposure - United States, August 2018. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2018;67(31):868-871.Published 2018 Aug 10.doi:10.15585/mmwr.mm6731e2
ジカウイルス感染症の治療
支持療法
ジカウイルス感染症に対する特異的な抗ウイルス療法はない。
治療としては以下のような支持療法を行う:
安静
輸液による脱水の予防
アセトアミノフェンにより発熱および疼痛を緩和する
アスピリンとその他の非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用を控える
アスピリンやその他のNSAIDが妊娠中に使用されるのは一般的ではないが,出血のリスクがあるため,とりわけジカウイルス感染症の治療を受けている全ての患者では,デングウイルス感染症が除外されるまで使用を控えるべきである。また,ジカウイルスによる死亡および重症感染症が免疫性血小板減少症および出血と関連付けられている(1, 2)。
妊婦の血清,尿または羊水中のジカウイルスの存在を示す所見が検査で得られた場合,胎児の解剖および成長をモニタリングするため,3~4週間毎に超音波検査を行うべきである。妊娠管理に長けた母子医学または感染症医学の専門家への紹介が推奨される(3)。
ジカウイルスに感染した母親から生まれた全ての乳児に対し,小頭症,眼病変,または先天性ジカ症候群を示唆するその他の所見の有無にかかわらず,脳の発達を2年間以上にわたりモニタリングするべきである。CDCは,ジカウイルスに感染した乳児の検査およびケアに関する広範な情報を提供している(4, 5)。
治療に関する参考文献
1.Sharp TM, Muñoz-Jordán J, Perez-Padilla J, et al: Zika virus infection associated with severe thrombocytopenia.Clin Infect Dis 63 (9):1198–1201, 2016.doi: 10.1093/cid/ciw476
2.Karimi O, Goorhuis A, Schinkel J, et al: Thrombocytopenia and subcutaneous bleedings in a patient with Zika virus infection.The Lancet 387 (10022):939–940, 2016.doi: 10.1016/S0140-6736(16)00502-X
3.Oduyebo T, Polen KD, Walke HT, et al: Update: Interim Guidance for Health Care Providers Caring for Pregnant Women with Possible Zika Virus Exposure — United States (Including U.S. Territories), July 2017.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2017;66:781-793, 2017.Published 2017 Jul 28.doi:10.15585/mmwr.mm6629e1
4.Russell K, Oliver SE, Lewis L, et al: Update: Interim Guidance for the Evaluation and Management of Infants with Possible Congenital Zika Virus Infection - United States, August 2016. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 65(33):870-878, 2016.Published 2016 Aug 26.doi:10.15585/mmwr.mm6533e2
5.Adebanjo T, Godfred-Cato S, Viens L, et al.Update: Interim Guidance for the Diagnosis, Evaluation, and Management of Infants with Possible Congenital Zika Virus Infection - United States, October 2017. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 66(41):1089-1099, 2017.Published 2017 Oct 20.doi:10.15585/mmwr.mm6641a1C
ジカウイルス感染症の予防
妊婦は可能なら,ジカウイルスのアウトブレイクが続いている地域に旅行すべきでない。そのような地域へ旅行する妊婦は,渡航前にジカウイルス感染症のリスクについて産婦人科医と相談し,旅行中に蚊の刺咬を回避する方法についてアドバイスを受けるべきである。
ジカウイルス感染症を予防できるワクチンはない。
蚊による伝播の予防
ジカウイルス感染症の予防は,ジカウイルスの伝播が持続している地域に旅行する際に,ヤブカ(Aedes属の蚊)の対策をして,その刺咬を回避することにかかっている。ネッタイシマカ(A. aegypti)の制御は非常に困難となっているが,2つのアプローチが有望とみられている(1)。
雄が野生の雌と交尾した場合に幼虫が成熟しないよう,または卵が無精卵となるよう,遺伝子操作した雄または不妊化した雄を放つ
感染した蚊とその子孫の体内でジカウイルスへの感受性を阻害するWolbachia属細菌を感染させた雌のネッタイシマカを放つ
蚊の刺咬を回避するには,以下の対策をとるべきである(2, 3):
長袖のシャツおよび長ズボンを着用する。
空調設備のある場所,窓や戸に蚊を寄せ付けない網戸のある場所にとどまる。
十分な網戸や空調設備がない場所では,蚊帳の中で寝る。
Environmental Protection Agency(米国環境保護庁)に登録されているDEET(ジエチルトルアミド)やその他の承認済みの活性物質を使用した防虫剤を露出部の皮膚に使用する。
服や持ち物を殺虫剤のペルメトリンで処理する(皮膚に直接散布しないこと)。
小児には,以下の対策が推奨される:
2カ月未満の乳児には防虫剤を使用しない。
3歳未満の小児にはユーカリレモン(パラ-メンタン-ジオール)を含有する製品を使用しない。
より年長の小児には,大人が自分の手に防虫剤を噴霧し,それを小児の皮膚に塗布する。
小児には腕や脚を覆う服を着せ,ベビーベッド,ベビーカー,抱っこ紐に虫よけネットを被せる。
防虫剤を小児の手,眼,口,または皮膚の傷口やただれた部位に使用しない。
性感染の予防
ジカウイルスRNAは,症状出現から最大281日後まで精液中から検出されているが(1),ウイルスRNAの検出は必ずしも感染性ウイルスの存在を意味しない。一般に,感染性ジカウイルスの排出は発症後数週間までに限られるが,その後も伝播の可能性は残っている。ジカウイルスは精液を介して伝播する可能性があるため,パートナーの片方または両方がジカウイルスの伝播が現在みられるか最近みられた地域に居住しているか旅行した場合には,そのペアはコンドームを使用するか,性行為を控えるべきである。ジカウイルス感染症の大半は無症状であるか軽度の症状しかみられないため,この推奨は症状の有無にかかわらず適用されるべきである。
パートナーが妊娠している男性:妊娠中は性行為を控えるか,コンドームを使用し,性玩具の共用を避ける
女性パートナー同伴の有無にかかわらず,ジカウイルス感染リスクのある地域へ旅行した男性:帰国後(または症状出現後)3カ月間は性行為を控えるかコンドームを使用する
男性パートナーを伴わず,ジカウイルスのリスクがある地域へ旅行した女性:帰国後(または症状出現後)2カ月間は性行為を控えるかコンドームを使用する
コンドームは,腟性交,肛門性交,またはオーラルセックスによる性行為の最初から最後まで使用すべきである。
女性から女性への性感染は報告されていないものの,CDCの推奨によると,ジカウイルスの流行地に旅行したまたは居住している女性のセックスパートナーがいる全ての妊婦は,妊娠期間中,腟性交,肛門性交,およびオーラルセックスの際は必ずバリア法を用いるか性行為を控え,性玩具の共用を避けるべきである。
妊娠を試みている患者がジカウイルスに曝露した可能性がある場合は,症状の出現または想定しうる最後のジカウイルス曝露から3カ月間にわたって,妊娠の試みを延期すべきでる(5, 6)。
予防に関する参考文献
1.Rahul A, Reegan AD, Shriram AN, Fouque F, Rahi M.Innovative sterile male release strategies for Aedes mosquito control: progress and challenges in integrating evidence of mosquito population suppression with epidemiological impact. Infect Dis Poverty 2024;13(1):91.Published 2024 Dec 3.doi:10.1186/s40249-024-01258-5
2.Connelly CR, Gimnig JE: Mosquitoes, Ticks, and Other Arthropods.In CDC Yellow Book: Health Information for International Travel.April 23, 2025.Accessed June 20, 2025.
3.Centers for Disease Control and Prevention: Zika Virus: Preventing Zika.January 30, 2025.Accessed June 20, 2025.
4.Mead PS, Duggal NK, Hook SA, et al: Zika Virus Shedding in Semen of Symptomatic Infected Men. N Engl J Med 378(15):1377-1385, 2018.doi:10.1056/NEJMoa1711038
5.Petersen EE, Meaney-Delman D, Neblett-Fanfair R, et al: Update: Interim Guidance for Preconception Counseling and Prevention of Sexual Transmission of Zika Virus for Persons with Possible Zika Virus Exposure - United States, September 2016. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 65(39):1077-1081, 2016.Published 2016 Oct 7.doi:10.15585/mmwr.mm6539e1
6.Polen KD, Gilboa SM, Hills S, et al: Update: Interim Guidance for Preconception Counseling and Prevention of Sexual Transmission of Zika Virus for Men with Possible Zika Virus Exposure - United States, August 2018. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 67(31):868-871, 2018.Published 2018 Aug 10.doi:10.15585/mmwr.mm6731e2
要点
ジカウイルスはヤブカ(Aedes属の蚊)によって伝播する。
大半のジカウイルス感染症は無症状であり,症状がみられる場合も通常は軽症で,発熱,斑状丘疹状皮疹,結膜炎,関節痛,眼窩後部の痛み,頭痛,筋肉痛などがみられる。
妊娠中にジカウイルスに感染すると,先天性ジカウイルス症候群が発生する可能性があり,この病態では小頭症と呼ばれる重篤な先天異常のほか,眼病変やその他の病変がみられることがある。
ジカウイルスに感染した母親から生まれた全ての乳児に対し,小頭症または眼病変の有無にかかわらず,脳の発達を2年以上にわたりモニタリングするべきである。
ジカウイルスの伝播が持続している地域へ旅行したまたは居住している妊婦には,血清学的検査(IgMに対するELISA,ジカウイルス抗体に対するプラーク減少中和試験)またはRT-PCRを行う。
治療は支持療法である;発熱はアセトアミノフェンで治療し,アスピリンなどのNSAIDはデング熱が除外されるまで使用しない。
妊婦はジカウイルスのアウトブレイクが続いている地域に旅行すべきでない。
ジカウイルス感染症の予防は,ヤブカの対策とその刺咬を回避することにかかっている。
ジカウイルスは性行為を介して感染する可能性があるため,ジカウイルスの伝播が持続している地域に居住しているか旅行した人は,男女を問わず,性行為を控えるか,女性が妊娠している間も含めてバリア法を一貫して正しく用いるべきである。



