産科患者の評価

執筆者:Raul Artal-Mittelmark, MD, Saint Louis University School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 7月
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理想的には,妊娠を予定している女性は,受胎前に医師の診察を受けるべきである;これにより妊娠のリスクおよびそれらを減じる方策について学ぶことができる。受胎前のケアの一部として,プライマリケア医は妊娠可能年齢の全ての女性に葉酸400~800μg(0.4~0.8mg)を含むビタミンを1日1回服用するよう助言すべきである。葉酸は神経管閉鎖不全のリスクを減少させる。神経管閉鎖不全の胎児または乳児をもったことのある女性の場合は,推奨1日量は,4000μg(4mg)である。受胎の前後に葉酸を摂取することで,その他の先天異常のリスクも減少しうる(1)。

妊娠したら,女性は自分自身の健康および胎児の健康を確保できるよう,ルーチンの出生前ケアが必要である。また,疾患の症状と徴候に対する評価がしばしば必要となる。妊娠に関連してしばしば起こる症状には以下のものがある:

妊婦における具体的な産科疾患および産科以外の疾患については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

ルーチンに行う妊婦健診は,初回を妊娠6~8週とすべきである。

フォローアップ健診は以下のタイミングで行うべきである:

  • 妊娠28週までは約4週毎

  • 28~36週は2週毎

  • 以降,分娩までは毎週

妊婦健診の頻度は,妊娠転帰が不良となるリスクが高ければ多くなり,リスクが非常に低ければ少なくなりうる。

出生前ケアには以下のものが含まれる:

  • 疾患のスクリーニング

  • 胎児および母体のリスクを低減させる対策の実行

  • カウンセリング

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参考文献

  1. 1.Shaw GM, O'Malley CD, Wasserman CR, et al: Maternal periconceptional use of multivitamins and reduced risk for conotruncal heart defects and limb deficiencies among offspring.Am J Med Genet 59:536–545, 1995.doi:10.1002/ajmg.1320590428.

病歴

初診時に,以下を含めた完全な病歴を聴取すべきである:

  • 過去および現在の疾患

  • 薬物使用(治療薬物,社会的薬物,および違法薬物)

  • 妊娠合併症の危険因子(妊娠のリスク評価の表を参照)

  • 母体および胎児の合併症(例,妊娠糖尿病,妊娠高血圧腎症,先天奇形,死産)など,これまでの全妊娠の転帰を含む妊娠・分娩歴

家族歴には,遺伝性疾患の可能性を確認するために,親族の慢性疾患を全て含めるべきである(遺伝学的評価)。

以降の健診の際の質問は,健診間の経過,特に性器出血や水様帯下,頭痛,視覚の変化,顔面や手指の浮腫,および胎動の頻度や強度の変化に焦点を置く。

経妊回数および経産回数

確認された妊娠の回数が経妊回数である;妊婦は経妊婦である。経産回数とは20週以降の分娩回数である。多胎妊娠は,経妊回数および経産回数では1回と数える。流産回数は,原因(例,自然流産,治療による中絶,選択による中絶;異所性妊娠)にかかわらず20週前における妊娠喪失(流産)の回数である。経産回数および流産回数の合計が経妊回数となる。

妊娠歴はしばしば4つの数字で記録される:

  • 満期産の回数(37週以降)

  • 早産回数(20週以降37週未満)

  • 流産回数

  • 生存児数

したがって,妊婦で,満期産を1回,32週での双子の分娩を1回,流産を2回経験している場合,経妊回数5,妊娠歴1-1-2-3となる。

身体診察

血圧,身長および体重を含めて,最初に十分な全身状態の観察を行う。BMI(Body Mass Index)を計算し,記録すべきである。妊婦健診毎に血圧および体重を測定すべきである。

初回の産科診察では,以下の理由により腟鏡診および双合診を行う:

  • 病変または分泌物を調べる

  • 子宮頸管の色および硬さをみる

  • 検査のための子宮頸部検体を得る

また,胎児心拍および,受診が遅かった患者では,胎児の位置を評価する(レオポルド手技の図を参照)。

骨盤の大きさは,双合診における中指を用いた各種測定値を評価することで臨床的に推定できる。恥骨結合の下側から仙骨岬角までの距離が11.5cmを超えていれば,骨盤入口はほぼ確実に適正である。正常では,坐骨棘間の距離は9cm以上で,仙棘靱帯の長さは4~5cm以上,および恥骨弓角は90°以上である。

以降の健診の際には,血圧および体重の評価が重要となる。産科的診察では,子宮の大きさ,子宮底長(cmで恥骨結合上),胎児の心拍数および動き,母親の食事,体重増加,全体的な健康状態に焦点を置く。帯下や性器出血,液体の漏出,または疼痛がなければ,腟鏡診および双合診は通常必要ない。

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検査

臨床検査

出生前評価では尿検査および血液検査を行う。最初に十分な臨床検査を実施する;いくつかは,フォローアップ健診時にも再度行われる(ルーチンに行う出生前評価の要素の表を参照)。

表&コラム

妊婦の血液がRh陰性の場合,母体にRh(D)抗体が産生されるリスクがあり,父親の血液がRh陽性である場合は,その胎児に胎児赤芽球症が発生するリスクがある。妊婦ではRh(D)抗体価を初回の妊婦健診時に測定し,約26~28週時に再度測定すべきである。妊婦の血液がRh陰性の場合には,その時点でRh(D)免疫グロブリンを予防的に投与する。母体のRh抗体の発現を防ぐために,さらなる測定が必要なことがある。

一般に,妊婦には24~28週の間に,50g,1時間でのブドウ糖負荷試験を用いて,妊娠糖尿病に対するスクリーニングをルーチンに行う。しかしながら妊娠糖尿病の著明な危険因子がある女性では,第1トリメスターにスクリーニングを行う。該当する危険因子としては以下のものがある:

  • 以前の妊娠における妊娠糖尿病または巨大児(出生体重 > 4500g)

  • 原因不明の胎児死亡

  • 第1度近親者に糖尿病の濃厚な家族歴

  • 持続的糖尿の既往

  • BMI(body mass index)> 30kg/m2

  • インスリン抵抗性を伴う多嚢胞性卵巣症候群

第1トリメスターでの検査が正常であれば,24~28週で50gブドウ糖負荷試験を繰り返し,異常値であれば3時間検査を行う。両方の検査での異常結果は妊娠糖尿病の診断を確定する。

染色体異常(異数性)のリスクが高い場合には(例,年齢35歳以上,ダウン症候群児の出産歴がある),母体血清中のセルフリーDNAスクリーニングを勧めるべきである。

一部の妊婦では,甲状腺疾患を調べるための血液検査(甲状腺刺激ホルモン[TSH]の測定)が行われる。これには以下の場合が含まれる:

  • 症状がある

  • 中等度から重度のヨウ素欠乏がみられる地域の出身である

  • 自己免疫性甲状腺疾患の既往または家族歴がある

  • 1型糖尿病である

  • 不妊,早産,または流産の既往がある

  • 頭頸部の放射線療法を受けたことがある

  • 病的肥満である(BMI > 40 kg/m2)

  • 年齢が30歳以上である

超音波検査

大部分の産科医が,各妊娠中に少なくとも1回の超音波検査を,理想的には16~20週に行う(この時期に分娩予定日[EDD]をかなり正確に確認でき,さらに胎盤の位置および胎児の解剖が評価できる)ことを勧めている。在胎期間の推定は,胎児の頭囲,大横径,腹囲,および大腿骨長の測定値に基づく。第1トリメスターにおける胎児の頭殿長の測定は,EDDの予測という点で特に正確である:妊娠12週未満に測定が行われれば約5日以内,12~15週では約7日以内の正確さである。第3トリメスターでの超音波検査は,EDDを約2~3週以内の範囲で予測するには正確である。

超音波検査具体的な適応としては以下のものがある:

  • 第1トリメスターでみられた異常(例,非侵襲的な母体のスクリーニング検査の異常結果により示される)に関する精査

  • 染色体異常のリスク評価(例,ダウン症候群),NT測定を含む

  • 胎児の解剖に関する詳細な評価の必要性(通常約16~20週),先天性心疾患のリスクが高いとき(例,1型糖尿病または先天性心疾患の子供がいる女性)には,場合により20週で胎児心エコー検査を含む

  • 多胎妊娠,胞状奇胎,羊水過多,前置胎盤,または異所性妊娠の検出

  • 胎盤の位置,胎児の位置と大きさ,所定の妊娠期日に対応する子宮の大きさ(小さすぎるまたは大きすぎる)の決定

超音波検査はまた,絨毛採取羊水穿刺,および胎児輸血における針の誘導にも使用される。高分解能超音波検査には,胎児奇形検出の感度を最大化する処理方法が備わっている。

超音波検査が第1トリメスターに必要になる場合(例,疼痛,出血,または妊娠の存続性を評価するため),経腟プローブを使用することで診断精度は最大となる;子宮内妊娠の証拠(胎嚢または胎児の極)は4~5週ほどで認められることがあり,7~8週時には症例の95%以上で認められる。リアルタイムの超音波検査により,胎児の動きおよび心拍動が5~6週ほどで直接的に観察できる。

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その他の画像検査

通常用いられるX線照射は,特に妊娠初期に,自然流産または先天奇形を引き起こしうる。四肢のX線撮影,または子宮が被曝から防御されている場合,母体の四肢,頸部,頭部のX線撮影によるリスクは非常にわずか(最大で約1/100万)である。腹部,骨盤,および腰背部のX線はリスクがより高い。したがって,妊娠可能年齢の全女性に対して,電離放射線の少ない画像検査(例,超音波検査)をできるだけ代わりに使用し,X線が必要な場合には子宮を保護すべきである(妊娠の可能性があるため)。

X線や他の画像検査が医学的に必要であれば,妊娠により延期すべきではない。しかしながら,待機的X線は分娩後まで延期する。

治療

評価中に確認された問題に対応する。

妊婦には運動や食事についてカウンセリングを行い,体重増加についてはInstitute of Medicineのガイドライン(妊娠前のBMIに基づくもの―妊娠中の体重増加に関するガイドラインの表を参照)に従うよう助言するべきである。栄養補助食品を処方する。

避けるべきこと,予測されること,さらなる評価を受けるべき時期について,説明を行う。カップルに母親教室への参加を勧める。

表&コラム
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食事および栄養補助食品

胎児に栄養を供給するため,多くの妊婦が1日に約250kcalを余分に必要とする;大部分のカロリーはタンパク質由来であるべきである。母体の体重増加が過度(初期に > 1.4kg/月),または不十分(< 0.9kg/月)な場合,食事をさらに調整する必要がある。妊娠中の減量ダイエットは,たとえ病的肥満の妊婦であっても推奨しない。

多くの妊婦は,硫酸鉄300mgやグルコン酸鉄450mg(忍容性がより優れている可能性がある)といった経口鉄剤を毎日摂取する必要がある。貧血の妊婦は鉄剤を1日2回摂取すべきである。

全ての妊婦に,葉酸400μg(0.4mg)を含む経口の妊婦用ビタミン剤を1日1回投与すべきである;葉酸は神経管閉鎖不全のリスクを減少させる。神経管閉鎖不全の胎児または乳児をもったことのある妊婦に対しての1日推奨量は,4000μg(4mg)である。

運動

妊婦は中等度の身体活動および運動を続けることができるが,腹部を損傷しないように注意すべきである。

性交は,性器出血,疼痛,羊水の漏出または子宮の収縮が起こらない限り,妊娠中を通じて続けることができる。

旅行

妊娠中に最も安全に旅行ができる時期は14~28週であるが,妊娠中のどの時期にも旅行についての絶対的禁忌はない。妊婦は,妊娠期間および車種にかかわらず,シートベルトを装着すべきである。

飛行機での旅行は妊娠36週までが安全である。この制限の主な理由は,慣れない環境での陣痛および分娩のリスクによる。

どのような旅行であれ,静脈うっ滞および血栓症の可能性を防ぐため,妊婦は定期的に両脚と両足首の屈伸運動を行うべきである。例えば,長時間のフライトでは,2~3時間毎に歩行またはストレッチをすべきである。症例によっては,医師が長時間の旅行のために血栓予防薬を推奨することもある。

予防接種

麻疹,ムンプス,風疹,および水痘用のワクチンは妊娠中に使用すべきではない。B型肝炎ワクチンは,適応がある場合に安全に使用することができ,インフルエンザワクチンは,インフルエンザシーズンに妊娠中または分娩後である女性に強く推奨される。ジフテリア,破傷風,および百日咳ワクチン(Tdap)の追加接種は,女性がワクチンを完全に受けている場合でも,妊娠27週~36週の間に推奨される。

Rh陰性の妊婦にはRh(D)抗体発現のリスクがあるため,以下の場合はいずれもRh(D)免疫グロブリン300μgを筋注で投与する:

  • 著明な性器出血または胎盤の出血や剥離(常位胎盤早期剥離)のその他の徴候がみられた後

  • 自然または治療的流産の後

  • 羊水穿刺または絨毛採取の施行後

  • 28週時に予防的に

  • 分娩後,新生児の血液がRh(D)陽性である場合

避けるべき危険因子

妊婦は飲酒および喫煙を行うべきではなく,受動喫煙も避けるべきである。また,以下も避けるべきである:

  • 化学物質や塗料の蒸気への曝露

  • ネコのトイレの素手での処理(トキソプラズマ症のリスクのため)

  • 長時間の体温上昇(例,温水浴槽やサウナ)

  • 活動期のウイルス感染(例,風疹,パルボウイルス感染症[伝染性紅斑],水痘)患者への曝露

物質乱用の問題を有する妊婦は,ハイリスク妊娠の専門医によってモニタリングされるべきである。ドメスティックバイオレンスに対するスクリーニングおよびうつ病に対するスクリーニングを行うべきである。

医学上適応とならない薬物およびビタミン類は控えるべきである(妊娠中の薬物を参照)。

評価を必要とする症状

妊婦には,異常な頭痛,視覚障害,骨盤痛や痙攣痛,性器出血,破水,手または顔面の極端な腫脹,尿量減少,その他の持続する疾患や感染,または陣痛症状の持続がある場合には,評価を求めるよう助言する。

急速な分娩の既往がある経産婦は,分娩の最初の症状が起きた時点で医師に知らせる。

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