妊娠高血圧腎症および子癇

執筆者:Antonette T. Dulay, MD, Main Line Health System
Reviewed ByOluwatosin Goje, MD, MSCR, Cleveland Clinic, Lerner College of Medicine of Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2024年 3月 | 修正済み 2024年 11月
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妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は,血圧および尿タンパクの測定と,臓器の損傷(例,肺水腫,肝または腎機能障害)がないか評価する検査による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩または母体もしくは胎児の合併症があればそれより早期の分娩である。

世界における分娩の4.6%で妊娠高血圧腎症が発生し,子癇は1.4%で発生する。(1)。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生するが,大半の症例は34週以降に起こる(2)。一部の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後6週間までに起こることがある。

無治療の妊娠高血圧腎症は,継続期間は様々であるが,突然,子癇に進行する可能性がある。子癇は無治療では通常,死に至る。

総論の参考文献

  1. 1.Abalos E, Cuesta C, Grosso AL, Chou D, Say L: Global and regional estimates of preeclampsia and eclampsia: a systematic review. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 170(1):1-7, 2013.doi:10.1016/j.ejogrb.2013.05.005

  2. 2.Lisonkova S, Sabr Y, Mayer C, Young C, Skoll A, Joseph KS.Maternal morbidity associated with early-onset and late-onset preeclampsia. Obstet Gynecol 124(4):771-781, 2014.doi:10.1097/AOG.0000000000000472

妊娠高血圧腎症および子癇の病因

妊娠高血圧腎症の病因は不明である。

しかしながら,高リスクおよび中リスク因子が同定されている(1, 2)。

高リスク因子としては以下のものがある:

  • 以前の妊娠における妊娠高血圧腎症の既往

  • 多胎妊娠

  • 腎疾患

  • 自己免疫疾患

  • 1型または2型糖尿病

  • 慢性高血圧

中リスク因子としては以下のものがある:

  • 初回妊娠

  • 母親が35歳以上

  • 妊娠前のBMI(body mass index)> 30

  • 妊娠高血圧腎症の家族歴(第1度近親者)

  • 非ヒスパニック系黒人の女性およびアメリカンインディアンまたはアラスカ先住民の女性(3)

  • 低収入

病因論に関する参考文献

  1. 1.Henderson JT, Whitlock EP, O'Conner E, et al: Table 8: Preeclampsia Risk Factors Based on Patient Medical History in Low-dose aspirin for the prevention of morbidity and mortality from preeclampsia: A systematic evidence review for the U.S. Preventive Services Task Force.Rockville (MD): Agency for Healthcare Research and Quality (US), 2014 

  2. 2.American College of Obstetrics and Gynecology (ACOG): ACOG Practice Bulletin, Number 222: Gestational Hypertension and PreeclampsiaObstet Gynecol 135(6):e237-e260, 2020.doi:10.1097/AOG.0000000000003891

  3. 3.Johnson JD, Louis JM: Does race or ethnicity play a role in the origin, pathophysiology, and outcomes of preeclampsia?An expert review of the literature. Am J Obstet Gynecol 226(2S):S876-S885, 2022.doi:10.1016/j.ajog.2020.07.038

妊娠高血圧腎症および子癇の病態生理

妊娠高血圧腎症および子癇の病態生理はあまり解明されていない。考えられる要因としては,子宮胎盤のらせん動脈の発達不良(妊娠後期の子宮胎盤血流の減少につながる),遺伝子異常,免疫学的異常,胎盤の虚血や梗塞などがある。フリーラジカルが誘発する細胞膜の脂質過酸化は,妊娠高血圧腎症に寄与している可能性がある。

凝固系が活性化されるが,これは内皮細胞機能障害に続発したものである可能性があり,血小板活性化の原因となる。

合併症

妊娠高血圧腎症および子癇は,米国(1)および世界(2)における妊産婦死亡の主要な原因である。妊娠高血圧腎症をもつ女性は現在の妊娠で常位胎盤早期剥離のリスクがあり,これはおそらく両方の疾患が胎盤機能不全に関連していることによる。妊婦には肺水腫,急性腎障害,肝臓の破裂,または脳血管からの出血が発生することがあり,痙攣発作は伴う場合も伴わない場合もある。

胎児の合併症としては発育不全羊水過少死産などがある(3)。びまん性または多病巣性の血管攣縮により母体の虚血が起こり,最終的には複数の臓器,特に脳,腎臓,肝臓が損傷する。血管攣縮に寄与する可能性のある因子として,プロスタサイクリン(内皮由来の血管拡張物質)の減少,エンドセリン(内皮由来の血管収縮物質)の増加,および可溶性Flt-1(血中を循環する血管内皮増殖因子受容体)の増加などが考えられる。

HELLP症候群(溶血,肝機能検査値上昇,および血小板数低値)が妊娠の0.2~0.6%に発生する(4)。HELLP症候群を起こした妊婦の大半で高血圧タンパク尿がみられるが,どちらもみられない患者もいる。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Ford ND, Cox S, Ko JY, et al: Hypertensive Disorders in Pregnancy and Mortality at Delivery Hospitalization - United States, 2017-2019. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 71(17):585-591, 2022.Published 2022 Apr 29.doi:10.15585/mmwr.mm7117a1

  2. 2.Say L, Chou D, Gemmill A, et al: Global causes of maternal death: a WHO systematic analysis. Lancet Glob Health 2(6):e323-e333, 2014.doi:10.1016/S2214-109X(14)70227-X

  3. 3.Harmon QE, Huang L, Umbach DM, et al: Risk of fetal death with preeclampsia. Obstet Gynecol 125(3):628-635, 2015.doi:10.1097/AOG.0000000000000696

  4. 4.Sarkar M, Brady CW, Fleckenstein J, et al: Reproductive Health and Liver Disease: Practice Guidance by the American Association for the Study of Liver Diseases. Hepatology 73(1):318-365, 2021.doi:10.1002/hep.31559

妊娠高血圧腎症および子癇の症状と徴候

妊娠高血圧腎症は無症状のこともあるが,浮腫や突然の過度の体重増加(1週間で5ポンド[約2.3kg]以上)を引き起こすこともある。顔面または手の腫脹(患者の指輪が指に合わなくなる)などの就下性(重力性)でない浮腫(nondependent edema)は,就下性の浮腫(dependent edema)よりも特異的である。

子癇は全般(強直間代)発作として発現する。

パール&ピットフォール

  • 妊婦に新規または悪化する高血圧がみられれば,妊娠高血圧腎症のより特異的な所見となりうる手(例,指輪が合わなくなる)または顔面の腫脹を調べる。

重症所見を伴う妊娠高血圧腎症(preeclampsia with severe features)は臓器損傷を引き起こす可能性があり,具体的な所見としては以下のものがある:

  • 重度の頭痛

  • 視覚障害

  • 錯乱

  • 反射亢進

  • 心窩部痛または右上腹部痛(肝虚血や肝被膜の伸展を反映)

  • 悪心および/または嘔吐

  • 呼吸困難(肺水腫,急性呼吸窮迫症候群[ARDS],または後負荷の増大に続発する心機能障害を反映)

  • 乏尿(血漿量低下または虚血性急性尿細管壊死を反映)

  • 脳卒中(まれ)

妊娠高血圧腎症および子癇の診断

  • 妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に新たに発症した高血圧に加え,新たな原因不明のタンパク尿> 300mg/24時間または尿タンパク/クレアチニン比 ≥ 0.3)および/または臓器損傷の徴候(1)

妊娠高血圧腎症における血圧の基準は以下のうち1つである:

  • 収縮期血圧 140mmHgまたは拡張期血圧 90mmHg(最低4時間は空けて2回ずつ測定)

  • 収縮期血圧 160mmHgおよび/または拡張期血圧 110mmHg(少なくとも2回測定)

タンパク尿は > 300mg/24時間と定義される。代わりに,タンパク尿はタンパク質/クレアチニン比 ≥ 0.3または試験紙で2+に基づいて診断される;試験紙検査は他の定量的方法が利用できない場合にのみ用いる。精度の低い検査(例,尿試験紙検査,ルーチンの尿検査)でタンパク尿が認められなくても妊娠高血圧腎症を除外しない。

タンパク尿がみられない場合でも,妊婦が新規発症の高血圧の診断基準を満たし,かつ臓器損傷の徴候の新規発症も認める場合に妊娠高血圧腎症と診断されることがある。

  • 重症所見を伴う妊娠高血圧腎症は,持続的な重度高血圧の新規発症および/または臓器損傷の徴候もしくは症状が認められる患者で診断される。この血圧の基準は,最低4時間は空けて2回ずつ測定して,収縮期血圧 160mmHgおよび/または拡張期血圧 110mmHgである。

臓器損傷の徴候または症状として,以下の1つ以上が含まれる:

  • 血小板減少(血小板 < 100 × 109/L)

  • 他の診断では説明できない肝機能障害(アミノトランスフェラーゼが正常の2倍を超える)

  • 薬物療法に反応しない重度の持続性右上腹部痛または心窩部痛

  • 腎機能不全(血清クレアチニン > 1.1mg/dLまたは腎疾患がない場合は血清クレアチニンが倍増)

  • 肺水腫

  • 薬物療法に反応せず,他の診断では説明できない新たに発症した頭痛

  • 視覚障害

妊娠高血圧腎症のその他の診断カテゴリーは以下の通りである:

  • HELLP症候群は重症型の妊娠高血圧腎症として分類され,乳酸脱水素酵素(LDH)≥ 600IU/L,アミノトランスフェラーゼ > 正常の2倍,および血小板数 < 100 × 109/Lの全てが認められる場合に診断される。HELLP症候群は非定型の臨床像を呈することがあり,最大15%の患者で高血圧やタンパク尿が認められない(2)。

  • 慢性高血圧に合併した妊娠高血圧腎症(preeclampsia superimposed on chronic hypertension)は,慢性高血圧が判明している患者で,妊娠20週以降に,原因不明のタンパク尿が新たに生じるかタンパク尿が悪化した場合,血圧がベースラインより上昇している場合,または臓器損傷の徴候が認められる場合のいずれかで,診断される。慢性高血圧の女性は妊娠高血圧腎症のリスクが高く,綿密にモニタリングすべきである。尿酸値の上昇は,単なる慢性高血圧ではなく,慢性高血圧に合併した妊娠高血圧腎症の診断を示唆する(3)。

妊娠高血圧腎症の病型にかかわらず,子癇が発生するリスクがある。ときに,妊娠高血圧腎症の診断前に子癇が発生することがある。

  • 子癇とは,他に既知の原因がなく(例,てんかん,脳動脈の虚血または梗塞,頭蓋内出血,薬物使用),新たに発症した強直間代発作,焦点発作,または多焦点性の発作のことである。

評価

妊娠高血圧腎症が疑われる場合の評価には,危険因子,現在の症状,および他の疾患を示唆する病歴または症状に関する病歴聴取を含める。身体診察には,血圧測定と,顔面,上肢,または下肢の浮腫,肺水腫,右上腹部の圧痛,および反射亢進の評価を含める。内診は,性器出血もしくは規則的な収縮がある場合,または陣痛誘発が計画されている場合に行う。臨床検査には血算,血小板数,尿酸,肝機能検査,血中尿素窒素(BUN),クレアチニンの測定を含め,クレアチニンが異常であれば,クレアチニンクリアランスの測定を含める。尿試験紙または尿検査で尿タンパクを確認する;緊急分娩の適応がない場合は24時間蓄尿を開始する。

胎児をノンストレステストまたはバイオフィジカルプロファイル(羊水量の評価を含む),および胎児体重を推測するための測定を用いて評価する。

妊娠中の他の高血圧疾患

妊娠高血圧腎症は,妊娠中の以下の他の高血圧疾患と鑑別する必要がある(1):

  • 妊娠高血圧症(gestational hypertension)は,タンパク尿および臓器損傷のその他の徴候を認めず,妊娠20週以降に新たに発症する高血圧であり,分娩後12週間までに(通常6週間までに)解消する。

  • 慢性高血圧は,高血圧が妊娠に先行する場合,妊娠20週より前から存在する場合,または分娩後6週間(通常12週間)を過ぎても持続している場合(高血圧が妊娠20週以降に初めて記録された場合であっても)に同定される。慢性高血圧は妊娠初期には生理的な血圧低下によりマスクされることがある。

診断に関する参考文献

  1. 1.American College of Obstetrics and Gynecology (ACOG): ACOG Practice Bulletin, Number 222: Gestational Hypertension and Preeclampsia, Obstet Gynecol 135(6):e237-e260, 2020.doi:10.1097/AOG.0000000000003891

  2. 2.Martin JNJr, Rinehart BK, May WL, et al: The spectrum of severe preeclampsia: comparative analysis by HELLP (hemolysis, elevated liver enzyme levels, and low platelet count) syndrome classification.Am J Obstet Gynecol 180: 1373– 84, 1999.doi:10.1016/s0002-9378(99)70022-0

  3. 3.Lim KH, Friedman SA, Ecker JL, Kao L, Kilpatrick SJ: The clinical utility of serum uric acid measurements in hypertensive diseases of pregnancy. Am J Obstet Gynecol 178(5):1067-1071, 1998.doi:10.1016/s0002-9378(98)70549-6

妊娠高血圧腎症および子癇の治療

  • 通常,入院

  • 在胎期間,胎児の状態,および妊娠高血圧腎症の重症度などの因子に応じて,分娩

  • 新たな痙攣発作の予防もしくは治療,または痙攣発作の再発予防を目的とする硫酸マグネシウム

  • ときに降圧治療(患者が重度の高血圧の基準を満たす場合)

一般的アプローチ

妊娠高血圧腎症の根治的治療は分娩である。しかしながら,在胎期間,胎児発育不全,胎児ジストレス,および妊娠高血圧腎症の重症度を鑑みて,早産のリスクとバランスを取る必要がある。

通常,以下の場合に母体を安定させた後(例,痙攣発作がコントロールされている,血圧がコントロールされつつある)の早急な分娩が適応となる:

  • 妊娠期間が37週以上

  • 妊娠34週以降の場合,重症所見を伴う妊娠高血圧腎症

  • 腎臓,肺,心臓,または肝臓の機能の悪化(HELLP症候群を含む)

  • 胎児のモニタリングで結果がnonreassuring

  • 子癇

重症所見を伴う妊娠高血圧腎症または子癇の患者は,しばしば周産期専門施設(maternal special care unit)または集中治療室(ICU)に収容される。

妊娠34週から37週未満の妊婦で早急な分娩を必要としない場合は,少なくとも最初は評価のために入院させる。母体と胎児の状態がreassuringであれば外来治療が可能であり,具体的には安静(modified activityまたはmodified rest),血圧測定,検査所見のモニタリング,胎児のノンストレステスト,週1回以上の診察などを行う。重症所見を伴う妊娠高血圧腎症の基準を満たさない限り,37週での分娩が可能である(例,誘発による)。

妊娠34週未満の場合は,安全に分娩を遅らせることが可能であれば,胎児の肺成熟を促進するために48時間コルチコステロイドを投与する。一部の安定している患者には,妊娠期間の前の段階でコルチコステロイドを投与されていなかった場合,34週以降から36週前まで(後期早産期)コルチコステロイドを投与できる。

モニタリング

妊娠高血圧腎症の全ての入院患者について,重症所見を伴う妊娠高血圧腎症,痙攣発作,または性器出血の所見の評価を頻回に行う;血圧,反射,および胎児の状態(ノンストレステストまたはバイオフィジカルプロファイルを用いる)も確認する。血小板数,血清クレアチニン,および血清肝酵素を安定するまでは頻回に,その後は少なくとも週1回測定する。

外来患者は通常,産科医または母体・胎児専門医がフォローアップを行い,少なくとも週1回,入院患者と同じ臨床検査により評価する。外来でのノンストレステストは典型的には週2回行い,通常32週からは週1回の羊水インデックスの評価も行う。一部の選択された症例では,これを28週時に勧めることができる。

硫酸マグネシウム

重症所見を伴わない妊娠高血圧腎症患者に,分娩前の硫酸マグネシウムの投与が常に必要か否かについては議論がある。

重症所見を伴う妊娠高血圧腎症がある場合は,痙攣発作を予防するために患者に硫酸マグネシウムを投与する。子癇と診断されたら,痙攣発作の再発を予防するため,速やかに硫酸マグネシウムを投与しなければならない。

硫酸マグネシウム4gを20分かけて静注した後,2g/時で持続静注する。用量は腎機能不全の有無に基づき調節する。硫酸マグネシウムは分娩後12~24時間にわたり投与する。

マグネシウム値の著明な高値および重大な症状(例,マグネシウム値 > 10mEq/Lまたは反射反応の突然の減少),心機能障害(例,呼吸困難または胸痛),または硫酸マグネシウム治療後の低換気がみられる患者では,グルコン酸カルシウム1g静注で治療しうる。

硫酸マグネシウムの静注は,新生児に嗜眠,筋緊張低下,および一過性呼吸抑制を引き起こしうる。しかしながら,新生児の重篤な合併症はまれである。

支持療法

経口摂取を禁じられている場合,入院患者は乳酸リンゲルまたは生理食塩水を静注し,約125mL/時から始める(血行動態を維持するため)。持続する乏尿は注意深くモニタリングしながら輸液負荷を行い治療する。利尿薬は通常用いられない。肺動脈カテーテルを用いたモニタリングが必要になることはまれであり,必要になった場合は,集中治療専門医へのコンサルテーションを行った上で集中治療室(ICU)で実施する。正常血液量の無尿患者には,腎血管拡張薬または透析が必要になる場合がある。

マグネシウム療法にもかかわらず痙攣が発生する場合,痙攣を止めるためジアゼパムまたはロラゼパムを静注し,収縮期血圧が140~155mmHgおよび拡張期血圧が90~105mmHgまで低下するよう,ヒドララジンまたはラベタロールを漸増しながら静注する。

分娩方法

最も効率的な分娩方法を用いるべきである。子宮頸部が熟化して迅速な経腟分娩が行えるようであれば,オキシトシンを希釈静注して陣痛を誘発または促進する;陣痛が有効であれば破水させる。頸部の熟化が不良で,迅速な経腟分娩が望めそうにない場合,帝王切開を考慮することがある。妊娠高血圧腎症および子癇の症状は,分娩前に消失しなかった場合,通常,分娩後6~12時間以内に急速に消失する。

フォローアップ

血圧は分娩後に正常化するまで綿密にモニタリングすべきである。その後,少なくとも分娩後1~2週間毎に定期的な血圧測定を行い,患者を評価すべきである。分娩後6週間以降も血圧高値が続く場合は,患者は慢性高血圧を有する可能性があり,管理のためプライマリケア医に紹介すべきである。

分娩後の妊娠高血圧腎症

妊娠高血圧腎症が分娩後に発生することがある。徴候と症状は妊娠中の妊娠高血圧腎症と同様であり,分娩後にそれらの症状を経験した場合は医療提供者に連絡するよう女性に指導すべきである。精査は妊娠中に行う精査と同様であり,血圧モニタリングおよび臨床検査を含む。重症の妊娠高血圧腎症の基準を満たす症例では,患者を入院させ,痙攣を予防するために24時間にわたって硫酸マグネシウムの静注による治療を行う。

治療に関する参考文献

  1. 1.American College of Obstetrics and Gynecology (ACOG): ACOG Practice Bulletin, Number 222: Gestational Hypertension and Preeclampsia, Obstet Gynecol 135(6):e237-e260, 2020.doi:10.1097/AOG.0000000000003891

予防

ランダム化試験を対象としたメタアナリシスにより,特定の危険因子を有する女性における低用量アスピリン療法は,重症の妊娠高血圧腎症および胎児発育不全の発生率を低下させることが示されている(1, 2)。

低用量アスピリン(81mg/日)は,妊娠高血圧腎症の高リスク因子(過去の妊娠における妊娠高血圧腎症の既往,多胎妊娠,腎疾患,自己免疫疾患,1型または2型糖尿病,慢性高血圧)を有する患者に推奨される(3)。中リスク因子(最初の妊娠,母体年齢35歳以上,妊娠前のBMI[body mass index]> 30,妊娠高血圧腎症の既往がある第1度近親者,黒人女性[人種は基礎にある人種差別の代替指標である],低収入,既往歴に関する因子[低出生体重児または在胎不当過小児(small-for-gestational-age infant),過去の不良な妊娠転帰,10年を超える妊娠間隔など])を2つ以上有する患者にも推奨される(4)。妊娠高血圧腎症の予防にはアスピリンの用量を162mg,1日1回に増量することがより効果的であることが一部のエビデンスから示唆されている(5)。

アスピリンによる予防は,妊娠12~28週(理想的には16週より前)に開始し,分娩まで継続すべきである。

予防に関する参考文献

  1. 1. Roberge S, Nicolaides K, Demers S et al: The role of aspirin dose on the prevention of preeclampsia and fetal growth restriction: Systematic review and meta-analysis. Am J Obstet Gynecol 216 (2):110–120.e6, 2017.doi: 10.1016/j.ajog.2016.09.076

  2. 2.Meher S, Duley L, Hunter K, Askie L: Antiplatelet therapy before or after 16 weeks gestation for preventing preeclampsia: An individual participant data meta-analysis. Am J Obstet Gynecol 216 (2):121–128.e2, 2017.doi: 10.1016/j.ajog.2016.10.016

  3. 3.American College of Obstetrics and Gynecology (ACOG): ACOG Committee Opinion No. 743 Summary: Low-Dose Aspirin Use During Pregnancy. Obstet Gynecol 132(1):254-256, 2018.Reaffirmed 2023.doi:10.1097/AOG.0000000000002709

  4. 4.American College of Obstetrics and Gynecology (ACOG): ACOG Practice Bulletin, Number 222: Gestational Hypertension and Preeclampsia. Obstet Gynecol 135(6):e237-e260, 2020.doi:10.1097/AOG.0000000000003891

  5. 5.Ayyash M, Goyert G, Garcia R, et al: Efficacy and Safety of Aspirin 162 mg for Preeclampsia Prophylaxis in High-Risk Patients. Am J Perinatol.Published online July 29, 2023.doi:10.1055/s-0043-1771260

要点

  • 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降に新たに発症する,タンパク尿を伴う高血圧であり,子癇は妊娠高血圧腎症患者における原因不明の全身痙攣である;ときに,妊娠高血圧腎症が分娩後に発生することがある。

  • 妊娠高血圧腎症は,新たに発症したタンパク尿および/または臓器損傷の存在により,慢性高血圧および妊娠高血圧症と鑑別される。

  • 妊娠高血圧腎症が持続的な重度の高血圧および/または重大な臓器機能障害(例,腎機能不全,肝機能障害,肺水腫,視覚症状)を引き起こしている場合は,たとえタンパク尿がなくても重症である。

  • HELLP症候群(Hemolysis, Elevated Liver Enzymes, and Low Platelets syndrome)は,重症所見を伴う妊娠高血圧腎症または子癇を有する女性の10~20%に発生する関連疾患である。

  • 通常,病院の周産期専門施設(maternal special care unit)で,母体および胎児を評価し,綿密にモニタリングするが,ときに妊娠37週未満の軽症例では外来でのモニタリングも可能である。

  • 妊娠37週以降になれば分娩の適応となるが,34週未満で妊娠高血圧腎症と診断した場合は,可能であれば分娩を遅らせる(胎児の肺成熟を促進する時間を確保するため);重症所見を伴う妊娠高血圧腎症,HELLP症候群,または子癇と診断した場合は直ちに分娩を行う。

  • 痙攣発作の再発を予防するため,子癇は直ちに硫酸マグネシウムで治療する;重症所見を伴う妊娠高血圧腎症の女性では痙攣発作の予防として硫酸マグネシウムを考慮するが,軽症の妊娠高血圧腎症の女性では通常考慮しない。

  • 痙攣発作の予防として硫酸マグネシウムを投与する場合は,分娩後12~24時間継続する。

  • 妊娠高血圧腎症のリスクを低減するため,特定の危険因子を有する妊婦には低用量アスピリンの投与を12~28週(理想的には16週より前)から開始する。

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