免疫不全疾患では,感染症,自己免疫疾患,リンパ腫,その他の癌など,様々な合併症がみられたり,そのような合併症が発生しやすくなったりする。原発性免疫不全症は遺伝性であり,続発性免疫不全症は後天性である。続発性免疫不全症の方がはるかに多くみられる。
免疫不全症の評価には病歴,身体診察,および免疫機能の検査が含まれる。どのような検査を行うかは以下によって決まる:
続発性免疫不全症
原因( 続発性免疫不全症の原因)としては以下のものがある:
続発性免疫不全症は,重症(critically ill)の患者,高齢の患者,または入院患者でも起こる。長期にわたる重篤な疾病があると免疫応答が減弱することがある;基礎疾患が解消すれば元に戻ることが多い。
続発性免疫不全症の原因
分類 |
例 |
内分泌 |
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消化管 |
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血液 |
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医原性 |
化学療法薬,免疫抑制薬,コルチコステロイドなどの特定の薬剤;放射線療法;脾臓摘出 |
感染性 |
ウイルス感染症(例,サイトメガロウイルス,エプスタイン-バーウイルス,HIV,麻疹ウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス),細菌感染症,スーパー抗原(多数のT細胞を活性化して大量のサイトカイン産生をもたらす可能性のある抗原で,最も有名なのは黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus]に由来するもの)を伴うまれな細菌感染症,抗酸菌感染症 |
栄養 |
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生理的 |
免疫系が未発達なことによる乳児の生理的な免疫不全症,妊娠 |
腎 |
ネフローゼ症候群,腎機能不全,尿毒症 |
リウマチ学 |
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その他 |
免疫抑制を引き起こす一部の薬剤
クラス |
例 |
抗てんかん薬 |
ラモトリギン,フェニトイン,バルプロ酸 |
疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD) |
IL-1阻害薬(例,anakinra) IL-6阻害薬(例,トシリズマブ) IL-17阻害薬(例,ブロダルマブ) TNF阻害薬(例,アダリムマブ,エタネルセプト,インフリキシマブ) T細胞活性化阻害薬(例,アバタセプト,バシリキシマブ) CD20阻害薬(例,リツキシマブ) CD3阻害薬(例,ムロモナブ-CD3) ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(例,ルキソリチニブ) |
カルシニューリン阻害薬 |
シクロスポリン,タクロリムス |
コルチコステロイド |
メチルプレドニゾロン,プレドニゾン |
細胞傷害性の化学療法薬 |
多数( 一般的に用いられる抗腫瘍薬) |
プリン代謝阻害薬 |
アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル |
ラパマイシン |
エベロリムス,シロリムス |
免疫抑制作用のある免疫グロブリン |
抗リンパ球グロブリン,抗胸腺細胞グロブリン |
免疫不全症は,以下の部位から血清タンパク(特にIgGおよびアルブミン)を喪失する結果として発生することがある:
腸疾患では,リンパ球の喪失につながり,リンパ球減少症が生じることもある。いずれの疾患も,B細胞およびT細胞の異常に似た臨床像がみられることがある。治療は基礎疾患に重点を置く;中鎖脂肪酸トリグリセリドが多い食事は,消化管からの免疫グロブリン(Ig)およびリンパ球の喪失を軽減するため,非常に有益なことがある。
特定の続発性免疫不全症が臨床的に疑われる場合は,当該疾患(例,糖尿病,HIV感染症,嚢胞性線維症,原発性線毛機能不全症)に焦点を合わせた検査を行うべきである。
原発性免疫不全症
これらの疾患は遺伝性である;単独で起こることもあれば症候群の一部として生じることもある。100を超える疾患が報告されており,各疾患は互いにかなり異なることがある。約80%については分子的基盤が知られている。
原発性免疫不全症は,典型的には乳児期および小児期に現れ,患者は異常に高頻度(反復性)に感染症にかかったり,まれな感染症にかかったりする。約70%の患者は発症時20歳未満である;X連鎖で遺伝する場合が多いため,60%が男性である。症状がみられる症例の全発生率は約280人に1人である。
原発性免疫不全症は,以下の免疫系の主な構成要素の欠乏,欠失,または欠陥によって分類される:
より多くの分子生物学的異常が明らかになるにつれ,対応する分子生物学的異常による免疫不全症の分類が一層妥当なものになるであろう。
原発性免疫不全症候群は,免疫系の異常および免疫系以外の異常を伴う遺伝性免疫不全症の総称である。非免疫系の臨床像は,免疫不全症のそれより容易に見分けられることが多い。非免疫系の臨床像として,毛細血管拡張性運動失調症,軟骨毛髪形成不全症,DiGeorge症候群,高IgE症候群,およびWiskott-Aldrich症候群などがある。
免疫不全症は,典型的には反復性感染症として現れる。反復性感染症が始まった年齢は,免疫系のどの構成要素に異常があるかの手がかりとなる。他の特徴的な所見により,暫定的に臨床診断が示唆される ( 一部の原発性免疫不全症に特徴的な臨床所見)。しかしながら,免疫不全症の診断を確定するには検査が必要である ( 免疫不全症の初回および追加臨床検査)。臨床所見または初回検査で,免疫細胞または補体機能の特定の異常が示唆された場合,追加の検査が適応となる( 免疫不全症*に対する特異的で高度な臨床検査)。
原発性免疫不全症の予後は,個々の疾患によって異なる。
液性免疫不全
液性免疫不全(B細胞の異常)は抗体の欠損を生じるもので,原発性免疫不全症の50~60%を占める( 液性免疫不全)。血清抗体価が低下し,細菌感染を起こしやすくなる。
最もよくみられるB細胞疾患は,以下のものである:
液性免疫不全の診断評価については, 免疫不全症が疑われる患者へのアプローチおよび 免疫不全症*に対する特異的で高度な臨床検査を参照のこと。
液性免疫不全
細胞性免疫不全
細胞性免疫不全(T細胞の異常)は,原発性免疫不全症の約5~10%を占め,ウイルス,Pneumocystis jirovecii,真菌,その他の日和見病原体,および多くの一般的な病原体による感染症の素因となる( 細胞性免疫不全)。B細胞およびT細胞の免疫系は相互依存性のため,T細胞疾患でもIg欠損症が生じる。
最も頻度の高いT細胞疾患は以下の通りである:
原発性のナチュラルキラー細胞の異常は,非常にまれであり,ウイルス感染症および腫瘍の素因となることがある。続発性のナチュラルキラー細胞の異常は,他の様々な原発性または続発性の免疫不全症患者に発生することがある。
細胞性免疫不全の診断評価については, 免疫不全症の初回および追加臨床検査および 免疫不全症*に対する特異的で高度な臨床検査を参照のこと。
細胞性免疫不全
液性免疫および細胞性免疫の複合免疫不全
液性免疫および細胞性免疫の複合免疫不全(B細胞およびT細胞の両方の異常)は,原発性免疫不全症の約20%を占める( 液性免疫および細胞性免疫の複合免疫不全)。
最も重要な病型は以下のものである:
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重症複合免疫不全症(SCID)
複合免疫不全症の一部の病型(例,プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症)では,Igレベルは正常または上昇しているが,T細胞機能が不十分なため,抗体産生が阻害される。
液性免疫および細胞性免疫の複合免疫不全の診断評価については, 免疫不全症*に対する特異的で高度な臨床検査を参照のこと。
液性免疫および細胞性免疫の複合免疫不全
食細胞の異常
食細胞の異常は,原発性免疫不全症の10~15%を占める;食細胞(例,単球,マクロファージ,好中球および好酸球などの顆粒球)の病原体殺傷能が低下する( 食細胞の異常)。皮膚のブドウ球菌およびグラム陰性菌による感染が特徴的である。
最も頻度の高い(とはいっても一般的にはまれであるが)食細胞の異常は以下のものである:
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白血球接着不全症(1型および2型)
食細胞の異常の診断評価については, 免疫不全症の初回および追加臨床検査および 免疫不全症*に対する特異的で高度な臨床検査を参照のこと。
食細胞の異常
補体欠損症
補体の欠損はまれである(2%以下);補体成分または補体インヒビターの単独欠損があり,遺伝性も後天性もありうる( 補体欠損症)。遺伝性の欠損症は,常染色体優性のC1インヒビター欠損症およびX連鎖のプロパージン欠損症を除いて,常染色体劣性である。これらの欠損症により,病原体のオプソニン化,食作用,および溶解作用の欠陥,ならびに抗原抗体複合体のクリアランスの欠陥が生じる。
最も重篤な転帰は以下のものである:
補体制御タンパクの欠損は遺伝性血管性浮腫を引き起こす。
補体欠損症は,古典経路および/または副経路に影響を及ぼす( 補体系)。副経路は,C3およびC5~C9を古典経路と共有するが,さらにD因子,B因子,プロパージン(P),ならびに制御因子のH因子およびI因子といった成分を必要とする。
補体欠損症の診断評価については, 免疫不全症の初回および追加臨床検査および 免疫不全症*に対する特異的で高度な臨床検査を参照のこと。
補体欠損症
老年医学的重要事項
加齢に伴ってある程度の免疫低下が起こる。例えば,高齢者では,胸腺によるナイーブT細胞の産生が少ない傾向にある;そのため,新たな抗原に応答できるT細胞が少ない。T細胞の数は減少しない(オリゴクローナルであるため)が,このような細胞は限られた数の抗原を認識できるに過ぎない。
シグナル伝達(抗原結合シグナルが細胞膜を越えて細胞内に伝達されること)が阻害され,T細胞が抗原に応答する可能性が低くなる。さらに,ヘルパーT細胞がB細胞に抗体産生を促すシグナルを伝える可能性が低くなる場合もある。
好中球の数は減少しないが,これらの細胞の食作用および殺菌作用は低下する。
高齢者でよくみられる低栄養は,免疫応答を阻害する。カルシウム,亜鉛,およびビタミンEは,免疫にとって特に重要である。加齢とともに腸管からのカルシウム吸収能力が低下するため,高齢者ではカルシウム欠乏症のリスクが高まる。さらに,高齢者では食事で十分なカルシウムを摂取しないことがある。亜鉛欠乏症は,施設に入居した高齢者および在宅患者に非常に多くみられる。
高齢者により多くみられる特定の疾患(例,糖尿病,慢性腎臓病,低栄養),および高齢者に使用する可能性が高い特定の治療法(例,免疫抑制薬,免疫調節性の薬剤および治療)により免疫が損なわれることもある。