知的能力障害は,神経発達障害の1つと考えられている。神経発達障害とは,小児期早期,典型的には就学前に現れる神経学的病態で,対人関係機能,社会的機能,学業能力,および/または職業的機能の発達が障害を受ける。一般的に,特定の技能または情報の獲得,保持,応用に困難を伴う。神経発達障害では,注意,記憶,知覚,言語,問題解決,社会的交流のうち,少なくとも1つに機能障害がみられる。その他のよくみられる神経発達障害として, 注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADD,ADHD) 注意欠如・多動症(ADHD)は,不注意,多動性,および衝動性から構成される症候群である。不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つの病型に分類される。診断は臨床的な基準により下される。治療では通常,精神刺激薬による薬物療法,行動療法,教育的介入などが行われる。 注意欠如・多動症(ADHD)は,神経発達障害と考えられている。神経発達障... さらに読む , 自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症とは,社会的交流およびコミュニケーションの障害,反復常同的な行動様式,ならびにしばしば知的能力障害を伴う不均一な知的発達を特徴とする,神経発達障害の1つである。症状は小児期早期に始まる。患児の大部分においてその原因は不明であるが,エビデンスから遺伝的要素の存在が支持されており,また一部の患者では,何らかの内科的病態によって自閉症が引き起こされることもある。診断は発達歴および観察に基づく。治療は行動管理であり,ときに薬物... さらに読む , 学習障害 学習障害の概要 学習障害とは,学業成績において個人の知的能力から予測される潜在的な水準と実際の水準との間に乖離を生じさせる病態のことである。学習障害では,集中または注意,言語発達,視覚および聴覚情報処理に機能障害や困難がみられる。診断では,認知的,教育的,言語的,内科的,心理学的評価が行われる。治療は主に教育的管理であり,ときに内科的治療,行動療法,および精神療法も行われる。 学習障害は神経発達障害の一種と考えられている。神経発達障害とは,小児期早期,... さらに読む (例, 読字障害 読字障害 読字障害(dyslexia)とは,一次性の読みの障害を総称する用語である。診断は知能的,教育的,言語的,内科的,心理学的評価に基づく。治療は主として教育的管理であり,単語の認識およびコンポーネント技能の指導で構成される。 読字障害は 学習障害の具体的な病型である。学習障害は,読み,計算,綴り,書字表現または文字の手書き,言語性および非言語性コミュニケーションなどの問題にまつわるものである(... さらに読む )などがある。
知的能力障害は,以下の両方における障害が小児期早期に発症していなければならない:
知的機能(例,推理,計画および問題解決,抽象的思考,学校での学習または経験からの学習)
適応機能(すなわち,日常生活動作における自立機能に関して,年齢相応の基準および社会文化的に相応な基準を満たす能力)
IQのみに基づく重症度の定義(例,軽度,52~70または75;中等度,36~51;重度,20~35;最重度,20未満)は不十分である。分類は必要とされる支援の水準も考慮したものでなければならず,これには断続的な支援から全ての活動に対する高水準の継続的な支援までがある。このようなアプローチでは,個人の強みと弱みに焦点を当て,それらを当人の周囲の要求ならびに家族および地域社会の期待および態度に関連づける。
全人口の約3%がIQ 70未満(一般集団の平均IQ[100弱]から2標準偏差以上下回る数値)の機能を有する;支援の必要性を考える場合,重度の知的能力障害を有する者は人口の約1%しかいない。重度の知的能力障害は,全ての社会経済的集団および教育水準の家族から生じうる。重症度の低い知的能力障害(断続的または限定的支援を必要とする)は社会経済的地位の低い集団で最も発生頻度が高く,このことはIQが特定の器質的因子ではなくむしろ学校および社会経済的地位における成功度と最もよく相関するという観測結果と対応している。しかしながら最近の研究では,軽度の認知障害においても遺伝因子が関与していることが示唆されている。
病因
知能は遺伝的および環境的因子の両方によって決定される。知的能力障害の親に生まれた小児は一連の発達障害に対するリスクが高いが,知的能力障害が明確に遺伝することはまれである。染色体マイクロアレイ解析およびコード領域(エクソーム)の全ゲノム配列決定などの遺伝学の進歩によって知的能力障害の原因が同定される可能性が高まっているが,知的能力障害の特異的な原因は同定できないことが多い。原因の同定の可能性が最も高いのは重症例の場合である。言語および個人的・社会的技能の障害は,知的能力障害ではなく,情緒的問題,環境的剥奪, 学習障害 学習障害の概要 学習障害とは,学業成績において個人の知的能力から予測される潜在的な水準と実際の水準との間に乖離を生じさせる病態のことである。学習障害では,集中または注意,言語発達,視覚および聴覚情報処理に機能障害や困難がみられる。診断では,認知的,教育的,言語的,内科的,心理学的評価が行われる。治療は主に教育的管理であり,ときに内科的治療,行動療法,および精神療法も行われる。 学習障害は神経発達障害の一種と考えられている。神経発達障害とは,小児期早期,... さらに読む ,または 難聴 小児の聴覚障害 難聴の一般的な原因は,新生児では遺伝子異常,小児では耳の感染症および耳垢である。多くの症例がスクリーニングにより検出されるが,小児が音に反応しない場合または言語発達の遅滞がみられる場合は,難聴を疑うべきである。診断は通常,新生児では電気診断検査(誘発耳音響放射検査および聴性脳幹反応)により,小児では診察およびティンパノメトリーによる。不可... さらに読む に起因している場合もある。
出生前
いくつかの染色体異常ならびに遺伝性の代謝性および神経疾患が知的能力障害の原因となることがある( Professional.see table 知的能力障害の染色体および遺伝子レベルの原因* 知的能力障害の染色体および遺伝子レベルの原因* )。
先天性感染 新生児感染症の概要 新生児感染症は以下の経路で発生する: 子宮内で経胎盤的に,または破水を介して 分娩時に産道内で(分娩時感染) 出生後に外部の感染源から(分娩後感染) 頻度の高い原因ウイルスとしては, 単純ヘルペスウイルス, HIV, サイトメガロウイルス(CMV), B型肝炎ウイルスなどがある。HIVまたはB型肝炎ウイルスによる分娩時感染は,感染した産道... さらに読む により知的能力障害を引き起こしうる病原体としては, 風疹ウイルス 先天性風疹 先天性風疹は,妊娠中の母子感染によって発生するウイルス感染症である。徴候は胎児死亡の原因となりうる多発性の先天異常である。診断は血清学的検査およびウイルス培養による。特異的な治療法はない。予防はルーチンのワクチン接種による。 ( 新生児感染症の概要および Professional.See also page 風疹。) 先天性風疹は典型的には母親の初感染の結果として生じる。予防接種プログラムが大きな成功を収めたことにより,現在の米国では先... さらに読む , サイトメガロウイルス 先天性および周産期サイトメガロウイルス感染症(CMV) サイトメガロウイルス(CMV)感染症は,出生前または周産期の感染によって発生することがあり,最も頻度の高い先天性ウイルス感染症である。出生時にみられることのある徴候は,子宮内胎児発育不全,未熟性,小頭症,黄疸,点状出血,肝脾腫,脳室周囲石灰化,脈絡網膜炎,肺炎,肝炎,および感音難聴である。乳児期後期に感染した場合の徴候としては,肺炎,肝脾腫,肝炎,血小板減少,敗血症様症候群,異型リンパ球増多などが挙げられる。新生児感染症の診断法としては... さらに読む , Toxoplasma gondii 先天性トキソプラズマ症 先天性トキソプラズマ症は,Toxoplasma gondiiの経胎盤感染によって引き起こされる。みられることのある臨床像は,未熟性,子宮内胎児発育不全,黄疸,肝脾腫,心筋炎,肺炎,発疹,脈絡網膜炎,水頭症,頭蓋内石灰化,小頭症,痙攣である。診断は血清学的検査またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査による。治療はピリメタミン,スルファジアジン,およびロイコボリンによる。... さらに読む ,梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum), 単純ヘルペスウイルス 新生児単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症 新生児単純ヘルペスウイルス感染症は通常,分娩時の感染によって発生する。典型的な徴候は水疱性の発疹であるが,これに全身型の病態が合併する場合や,後に全身型に進行する場合もある。診断はウイルス培養,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査,蛍光抗体法,または電子顕微鏡検査による。治療は高用量アシクロビルの静注と支持療法による。 (成人における Professional.See also... さらに読む ,または, HIV 乳児および小児におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,レトロウイルスの一種であるHIV-1により(また頻度は低くなるが近縁のレトロウイルスであるHIV-2によっても)引き起こされる。感染すると進行性の免疫機能低下が引き起こされ,日和見感染症や悪性腫瘍が発生するようになる。末期には後天性免疫不全症候群(AIDS)となる。診断は,生後18カ月以上の小児では... さらに読む などがある。出生前の ジカウイルス ジカウイルス(ZV)感染症 ジカウイルスは蚊を媒介とするフラビウイルス科のウイルスで,抗原的および構造的にデングウイルス感染症,黄熱,ウエストナイルウイルス感染症の原因ウイルスに似る。ジカウイルス感染症は一般的には無症状であるが,発熱,発疹,関節痛,または結膜炎を引き起こすこともある;妊娠中にジカウイルス感染症にかかると,先天性ジカ症候群(congenital Zika syndrome)と呼ばれる小頭症(重篤な先天異常),眼の異常,およびいくつかの発達障害が胎児... さらに読む 感染は, 先天性小頭症 小頭症 小頭症とは,頭囲が年齢平均値より標準偏差の2倍を超えて小さい状態である。 ( 頭蓋顔面部および筋骨格系の先天異常に関する序論ならびに 先天性頭蓋顔面異常の概要も参照のこと。) 小頭症では,頭部が他の部位に比して不釣り合いに小さい。小頭症には染色体または環境に起因する原因が数多くあり,具体的には,出生前の 薬物, アルコール,または 放射線への曝露,出生前の感染症(例,TORCH[... さらに読む とそれに伴う重度の知的能力障害の原因となる。
出生前の薬物および毒性物質への曝露 妊娠中の薬物 全妊娠の半分以上で薬物が使用されており,使用率は高まっている。特に頻用されている薬剤としては,制吐薬,制酸薬,抗ヒスタミン薬,鎮痛薬,抗菌薬,利尿薬,睡眠薬,精神安定薬,社会的薬物および違法薬物などがある。この傾向にもかかわらず,妊娠中の薬物使用に関する確固たるエビデンスに基づいたガイドラインはいまだ不足している。... さらに読む が知的能力障害を引き起こすことがある。 胎児性アルコール症候群 胎児性アルコール症候群 子宮内でのアルコール曝露によって,自然流産リスクが増大し,出生体重が減少し,一連の身体面および認知面の様々な異常を示す胎児性アルコール症候群が起こりうる。 胎児性アルコール症候群(FAS)の新生児には,出生時より低身長と以下の顔面部の特徴から成る典型的パターンがみられる(小頭症,小眼球症,眼瞼裂短小,内眼角贅皮,顔面中央部の矮小または扁平,平坦で長い人中,薄い上唇,小顎)。異常な手掌紋,心奇形,関節拘縮がみられることもある。... さらに読む はこのような状態のうちで最も多くみられるものである。フェニトインやバルプロ酸などの抗てんかん薬,化学療法薬,放射線被曝,鉛,およびメチル水銀も原因となる。
妊娠期における重度の低栄養は胎児の脳の発達を障害し,結果として知的能力障害を招くことがある。
周産期
未熟性 早産児 在胎37週未満で出生した児は早産児とみなされる。 未熟性は出生時点での 在胎期間により定義される。かつては,体重2.5kg未満の新生児であればいずれも未熟児と呼ばれていた。早産児は小さい傾向にあるが,多くの体重2.5kg未満の乳児は成熟している場合や 過期産児および過熟児である場合,および 在胎不当過小である場合もあるため,この体重に基づいた定義は不適切である;このような新生児は外観も異なれば,抱える問題も異なる。... さらに読む , 中枢神経系出血 頭蓋内出血 分娩時の力により,ときに新生児に身体的損傷が引き起こされる。難しい回転術, 吸引分娩, 中位鉗子分娩または高位鉗子分娩に代わり 帝王切開を用いることが増えているため,困難な分娩または外傷を引き起こしうる分娩に起因する新生児の損傷発生率は低下している。 新生児が 在胎期間に対して大きい場合( 母体糖尿病に関連する場合がある)や, 骨盤位や他の異常胎位である場合(特に初産婦において)などに,外傷のリスクが上昇する。... さらに読む ,脳室周囲白質軟化症, 骨盤位 骨盤位 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む または高位鉗子分娩, 多胎妊娠 多胎妊娠 多胎妊娠では子宮内に胎児が複数存在する。 多胎児(多胎)妊娠は,最大で分娩30件当たり1件発生する。 多胎妊娠の危険因子としては以下のものがある: 排卵誘発(通常クロミフェンまたはゴナドトロピンによる) 生殖補助医療(例,体外受精) さらに読む , 前置胎盤 前置胎盤 前置胎盤とは,内子宮口またはその付近を覆って胎盤が付着している状態である。典型的には妊娠20週以降に痛みを伴わない鮮紅色の性器出血が起こる。診断は経腟または腹部超音波検査によって行う。治療法は,妊娠36週前で少量の性器出血には安静(modified activity)とし,36週~37週6日では帝王切開とする。出血が重度であったり再発性,または胎児の状態がnonreassuringである場合は,通常帝王切開による早急な分娩の適応となる。... さらに読む , 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む ,周産期仮死などに関係する合併症は,知的能力障害のリスクを増大させることがある。リスクは 在胎不当過小児 在胎不当過小児(SGA児) 体重が在胎期間に対して10パーセンタイル未満の乳児は,在胎不当過小(small for gestational age)に分類される。合併症には,周産期仮死,胎便吸引,赤血球増多症,および低血糖がある。 在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの期間を指す。在胎期間は実際の胎齢とは異なるが,産科医および新生児専門医が胎児の成熟を議... さらに読む で高く,知的能力障害と体重減少は類似の原因を共有するものである。極および超低出生体重児は知的能力障害となる可能性が高く,その程度は在胎期間,周産期事象,ケアの質に依存して様々である。
出生後
乳児期および幼児期における低栄養および環境的剥奪(成長,発達,社会適応に必要とされる身体的,情緒的,認知的支援の欠如)は,世界中で最も多くみられる知的能力障害の原因であろう。ウイルス性および細菌性の脳炎(AIDSに関連する神経脳症を含む)および髄膜炎(例, 肺炎球菌感染症 肺炎球菌感染症 肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)(肺炎球菌)は,莢膜を有するα溶血性のグラム陽性好気性双球菌である。肺炎球菌感染は,米国における中耳炎,肺炎,敗血症,髄膜炎,および死亡の主な原因である。診断はグラム染色と培養による。治療法は耐性プロファイルに依存し,β-ラクタム系,マクロライド系,レスピラトリーキノロン系,プレウロムチリン系薬剤のいずれかのほか,ときにバンコマイシンが使用される。... さらに読む , インフルエンザ菌[Haemophilus influenzae]感染症 Haemophilus属細菌による感染症 グラム陰性細菌であるHaemophilus属細菌は,菌血症,髄膜炎,肺炎,副鼻腔炎,中耳炎,蜂窩織炎,喉頭蓋炎など,数多くの軽度および重篤な感染症を引き起こす。診断は培養および血清型別検査による。治療は抗菌薬による。 多くのHaemophilus属細菌は上気道の常在菌叢の一部であり,疾患を引き起こすことはまれである。病原性株は飛沫の吸入または直接接触を介して上気道に侵入する。免疫のない集団では急速に拡大する。... さらに読む ),中毒(例, 鉛 鉛中毒 鉛中毒は,最初は最小限の症状しか引き起こさないことが多いが,急性脳症または不可逆性の臓器障害を引き起こす場合があり,小児では一般に認知障害を来す。診断は全血中鉛濃度により行う。治療としては,鉛への曝露の中止,およびときにサクシマー(succimer)またはエデト酸カルシウム二ナトリウムの単独またはジメルカプロールとの併用による キレート療法を行う。 ( 中毒の一般原則も参照のこと。)... さらに読む ,水銀),事故による 重度の頭部損傷 外傷性脳損傷(TBI) 外傷性脳損傷(TBI)は,脳機能を一時的または恒久的に障害する脳組織の物理的損傷である。診断は臨床的に疑い,画像検査(主にCT)により確定する。初期治療は確実な気道確保,十分な換気,酸素化,および血圧の維持で構成される。損傷が重度の患者では,しばしば外科手術が必要となり,頭蓋内圧亢進の追跡および治療のためにモニターを設置し,頭蓋内圧亢進に... さらに読む または仮死状態は,知的能力障害の原因となることがある。
症状と徴候
知的能力障害の主要な臨床像を以下に示す:
新しい知識および技能の習得の遅れ
未熟な行動
セルフケア技能の制限
軽度の知的能力障害では,就学前期まで認識可能な症状が現れないこともある。しかしながら,中等度から重度の知的能力障害の患児および知的能力障害に身体的異常または知的能力障害の特定の原因(例,周産期仮死)と関連のありそうな状態(脳性麻痺 脳性麻痺症候群 脳性麻痺は,出生前の発育異常または周産期もしくは出生後の中枢神経系損傷に起因する,随意運動または姿勢制御の障害を特徴とする非進行性の症候群である。症状は2歳までに出現する。診断は臨床的に行う。治療法としては,理学療法,作業療法,装具,薬物療法またはボツリヌス毒素の注入,整形外科手術,バクロフェンの髄腔内投与,特定の症例における脊髄後根切断... さらに読む )の徴候を合併している患児では,早期に同定されるのが一般的である。発達の遅れは通常,就学前期までに明確になる。児童期においては,適応行動技能(例,コミュニケーション,自己主導,社会的技能,自己管理,社会資源の利用,自身の安全の維持)の制限を伴うIQ低値が主徴となる。発達のパターンは多様ではあるものの,知的能力障害児は発達停止よりも発達の遅れを経験することが圧倒的に多い。
知的能力障害患者の精神科医への紹介と施設への収容は,その大半が行動上の問題を理由としている。行動上の問題はしばしば状況依存的であり,通常は誘発因子を同定することができる。許容できない行動の素因としては以下のものがある:
社会的責任を伴う行動における訓練の欠如
一貫性のないしつけ
不適切な行動の強化
コミュニケーション能力の障害
併存する身体的問題および精神衛生上の問題(抑うつや不安など)による不快感
施設に収容されている場合(米国では現在まれ)は,過密,スタッフの不足,活動の不足などが行動症状と機能的発達の制限の一因となる。大規模な集団治療施設への長期収容を避けることは,個人の能力の最大化に極めて重要である。
併存症
併存症がよくみられ,特に 注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADD,ADHD) 注意欠如・多動症(ADHD)は,不注意,多動性,および衝動性から構成される症候群である。不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つの病型に分類される。診断は臨床的な基準により下される。治療では通常,精神刺激薬による薬物療法,行動療法,教育的介入などが行われる。 注意欠如・多動症(ADHD)は,神経発達障害と考えられている。神経発達障... さらに読む ,気分障害(うつ病 小児および青年における抑うつ障害 抑うつ障害は,機能の障害やかなりの苦悩を発生させるほど重度または持続的な悲しみまたは易怒性を特徴とする。診断は病歴および診察による。治療は,抗うつ薬,支持療法および認知行動療法,またはこれらの治療法の組合せによる。 (成人における 抑うつ障害群の考察も参照のこと。) 小児および青年の抑うつ障害としては以下のものがある: 重篤気分調節症 うつ病 さらに読む , 双極性障害 小児および青年における双極性障害 双極性障害は,躁状態,抑うつ状態,正常な気分状態の期間が交互に出現することによって特徴づけられ,さらにそれぞれが1回につき数週間から数カ月間継続する障害である。診断は臨床基準に基づく。治療は気分安定薬(例,リチウム,ある種の抗てんかん薬,抗精神病薬),精神療法,および抗うつ薬の併用である。 双極性障害は,典型的には青年期中期から20代中盤にかけて発症する。多くの小児において,初発症状は1回以上の... さらに読む ), 自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症とは,社会的交流およびコミュニケーションの障害,反復常同的な行動様式,ならびにしばしば知的能力障害を伴う不均一な知的発達を特徴とする,神経発達障害の1つである。症状は小児期早期に始まる。患児の大部分においてその原因は不明であるが,エビデンスから遺伝的要素の存在が支持されており,また一部の患者では,何らかの内科的病態によって自閉症が引き起こされることもある。診断は発達歴および観察に基づく。治療は行動管理であり,ときに薬物... さらに読む , 不安症 小児および青年における不安症の概要 不安症は,正常な機能を大きく障害する,目の前の環境と釣り合わない恐怖,心配,または脅威を特徴とする。不安から身体症状を来すこともある。診断は臨床的に行う。治療法は行動療法のほか,通常はSSRIによる薬物療法による。 (成人における 不安症の概要も参照のこと。) 以下のような場合,一部の不安は正常な発達の側面である: 歩行開始後間もない幼児は,母親から引き離されたとき,特に不慣れな環境に置かれたときに恐怖を感じる。... さらに読む などがよくみられる。
一部の患児には, 脳性麻痺 脳性麻痺症候群 脳性麻痺は,出生前の発育異常または周産期もしくは出生後の中枢神経系損傷に起因する,随意運動または姿勢制御の障害を特徴とする非進行性の症候群である。症状は2歳までに出現する。診断は臨床的に行う。治療法としては,理学療法,作業療法,装具,薬物療法またはボツリヌス毒素の注入,整形外科手術,バクロフェンの髄腔内投与,特定の症例における脊髄後根切断... さらに読む やその他の運動障害,言語発達遅滞,難聴など,運動または感覚機能障害の併存症が発生する。このような運動または感覚機能障害は認知障害と類似することがあるが,それ自体が原因というわけではない。患児の成熟に従い,他の小児から社会的に拒絶された場合や,自分が他者から異様ないし障害があると見られていることに気づいて動揺した場合に,不安または抑うつが生じることもある。よく管理された包括的な学校プログラムは,社会統合を最大限に高め,ひいてはこのような情動反応を最小限に抑えることの助けとなる。
診断
出生前検査
知能および発達評価
中枢神経系の画像検査
遺伝学的検査
胎児に知的能力障害の素因となる遺伝性疾患などの異常がないかを判定するために,出生前検査を行うことができる。
出生以降は,認知能力を含めた 成長および発達 小児の発達 発達は,粗大運動や微細運動,言語,認知,社会的/情緒的成長などの,個々の分野に分割して扱われることが多い。こうした呼称は有用であるが,大きく重複する部分もある。個々のマイルストーンが達成される平均年齢および正常範囲が,複数の研究により確立されている。正常な小児における各分野の進歩の度合いは,歩行開始の遅い幼児で文形式での会話が早いなど,一定ではない( Professional... さらに読む を小児健診時にルーチンに評価する。知的能力障害が疑われる場合には,発達および知能の評価をさらに詳しく行うが,それらは典型的には早期介入または学校職員によって実施される。
知的能力障害が証明されたら,続いて原因の同定を試みるが,これには中枢神経系の画像検査と遺伝子および代謝検査が含まれることが多い。原因が正確に特定されれば,発達予後の推定ならびに教育および訓練プログラムの立案が可能となり,遺伝カウンセリングの補助的情報も得られ,また,親の罪悪感を軽減させることもできる。
出生前検査
遺伝カウンセリング 出生前遺伝カウンセリング 出生前遺伝カウンセリングは,将来親となる全ての者に対して提供されるものであり,理想的には受胎前に先天性疾患の危険因子を評価するものである。先天異常の予防に役立つ特定の予防策(例, 催奇形因子の回避, 葉酸の補充)を,妊娠を予定している全ての女性に勧める。危険因子を有する両親に対して,起こりうる結果および... さらに読む は,高リスクのカップルに可能性のあるリスクを理解させる助けとなる。1人の児に知的能力障害がある場合,病因の評価を行うことで,その家族に将来の妊娠に対する適切なリスク情報を提供することが可能となる。
児を産むことを選択した高リスクのカップルでは, 出生前検査 遺伝学的評価 遺伝学的評価はルーチンの出生前ケアの一環であり,理想的には受胎前に行う。女性がどの程度までの遺伝学的評価を選択するかは以下の要因をどの程度重視するかに関係する: 危険因子および以前の検査結果に基づく胎児異常の可能性 侵襲的な胎児検査による合併症の可能性 結果を知ることの重要性(例,異常が診断された場合妊娠中絶するのか,結果を知らないことで不安になるか) これらの理由から,決定は個人的なものであり,たとえ同様のリスクがある場合であっても,... さらに読む が行われることがある。出生前検査によりカップルは妊娠中絶やその後の家族計画についての検討が可能となる。具体的な検査としては以下のものがある:
羊水穿刺または絨毛採取
クアッドスクリーニング(quad screen)
超音波検査
母体血清α-フェトプロテイン
非侵襲的出生前スクリーニング
羊水穿刺 羊水穿刺 遺伝学的評価はルーチンの出生前ケアの一環であり,理想的には受胎前に行う。女性がどの程度までの遺伝学的評価を選択するかは以下の要因をどの程度重視するかに関係する: 危険因子および以前の検査結果に基づく胎児異常の可能性 侵襲的な胎児検査による合併症の可能性 結果を知ることの重要性(例,異常が診断された場合妊娠中絶するのか,結果を知らないことで不安になるか) これらの理由から,決定は個人的なものであり,たとえ同様のリスクがある場合であっても,... さらに読む または 絨毛採取 絨毛採取 遺伝学的評価はルーチンの出生前ケアの一環であり,理想的には受胎前に行う。女性がどの程度までの遺伝学的評価を選択するかは以下の要因をどの程度重視するかに関係する: 危険因子および以前の検査結果に基づく胎児異常の可能性 侵襲的な胎児検査による合併症の可能性 結果を知ることの重要性(例,異常が診断された場合妊娠中絶するのか,結果を知らないことで不安になるか) これらの理由から,決定は個人的なものであり,たとえ同様のリスクがある場合であっても,... さらに読む を施行すれば,遺伝性代謝障害,染色体異常症,保因者状態,および中枢神経系奇形(例,神経管閉鎖不全,無脳症)を検出でき,35歳以上の全妊婦(ダウン症候群の児を出産するリスクが高いため)と先天性代謝性疾患の家族歴をもつ妊婦で考慮してもよい。
ダウン症候群,18トリソミー,二分脊椎,腹壁異常のリスクを評価するため,ほとんどの妊婦に対してクアッドスクリーニング(quad screen)(すなわち,母体のβ-hCG,非抱合型エストリオール,α-フェトプロテイン,およびインヒビンAの測定)が推奨されている。
超音波検査 出生前超音波検査 遺伝学的評価はルーチンの出生前ケアの一環であり,理想的には受胎前に行う。女性がどの程度までの遺伝学的評価を選択するかは以下の要因をどの程度重視するかに関係する: 危険因子および以前の検査結果に基づく胎児異常の可能性 侵襲的な胎児検査による合併症の可能性 結果を知ることの重要性(例,異常が診断された場合妊娠中絶するのか,結果を知らないことで不安になるか) これらの理由から,決定は個人的なものであり,たとえ同様のリスクがある場合であっても,... さらに読む で中枢神経系の異常が同定されることもある。
母体血清α-フェトプロテイン値は,神経管閉鎖不全,ダウン症候群,その他の異常のスクリーニングに役立つ。
非侵襲的出生前スクリーニング スクリーニング 染色体異常は様々な疾患の原因となる。性染色体(XおよびY染色体)の異常よりも常染色体(男女とも22対ある相同な染色体)の異常の方が多くみられる。 染色体異常はいくつかのカテゴリーに分けられるが,大きく数的異常と構造異常に分けて考えることができる。 数的異常としては以下のものがある:... さらに読む (NIPS)の方法は,染色体の数的異常を同定するために用いることができ,22q11欠失などの一部の比較的大きな微小欠失症候群を同定するのに使用されている。
知能および発達評価
標準化された知能検査を実施すれば,知的能力が平均を下回っていることを確認できるが,誤りも生じやすいため(疾患,運動または感覚機能障害,言語障壁,文化的相違などが検査成績を低下させることがある),臨床所見と一致しない場合は結果を疑うべきである。また,このような検査には中産階級バイアスが生じるが,一般に小児(特に児童)の知的能力を評価する場合には妥当である。
Ages and Stages Questionnaire(ASQ)やParents’ Evaluation of Developmental Status(PEDS)などの発達スクリーニング検査は,幼児の発達を大まかに評価することができ,医師以外でも施行できる。このような検査はスクリーニング目的でのみ利用されるべきであり,資格をもった心理士による実施が要求される標準化された知能検査の代わりになるものではない。発達遅滞が疑われたら,できるだけ早期に神経発達学的評価を開始すべきである。
以下に該当する症例は,必ず発達専門の小児科医または小児神経科医が評価を行うべきである:
中等度から重度の発達遅滞
進行性の機能障害
神経筋機能の悪化
痙攣性疾患の疑い
原因の診断
病歴(周産期歴,発達歴,神経学的病歴,家族歴を含む)から原因を同定できることもある。(American Academy of Neurology and the Practice Committee of the Child Neurology Societyの全般性の発達遅滞がある小児に対する遺伝子および代謝検査に関するエビデンスレポートも参照のこと。)
頭部画像検査(例,MRI)では,中枢神経系奇形(神経線維腫症や結節性硬化症などの神経皮膚症候群においてみられるもの)や治療可能な水頭症のほか,裂脳症など,より重度の脳奇形を描出できる。
遺伝学的検査も疾患の同定に有用なことがある:
染色体マイクロアレイ解析 診断 染色体異常は様々な疾患の原因となる。性染色体(XおよびY染色体)の異常よりも常染色体(男女とも22対ある相同な染色体)の異常の方が多くみられる。 染色体異常はいくつかのカテゴリーに分けられるが,大きく数的異常と構造異常に分けて考えることができる。 数的異常としては以下のものがある:... さらに読む では,5p欠失症候群(5p-症候群)やディジョージ症候群(染色体22q欠失)で認められるようなコピー数変異が同定される。
染色体マイクロアレイ解析は最も好まれる検査ツールであり,これは具体的に疑われる症候群の同定にも,具体的に疑われる症候群がない場合でも適用できる。染色体マイクロアレイ解析によって,他の方法では認識できなかった染色体異常の同定が可能となったが,陽性を示した結果の解釈には親の検査が必要である。コード領域の 全ゲノム配列決定 遺伝子診断技術 遺伝子診断技術は急速に発展している。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法でDNAまたはRNAを増幅することで,遺伝子または遺伝子断片のコピーを大量に複製することが可能である。 ( 遺伝学の概要も参照のこと。) 遺伝子プローブを用いれば,特定の正常または変異DNA断片の位置を同定することが可能である。様々な種類のプローブにより,幅広い大きさのDNA配列を検討することができる。既知のDNA分節をクローニングして蛍光分子で標識することもでき(蛍光... さらに読む (全エクソーム配列決定)は,知的能力障害の別の原因を明らかにする可能性がある,より詳細で新しい方法である。
臨床像(例,発育不良,嗜眠,嘔吐,痙攣発作,筋緊張低下,肝脾腫,顔貌粗造,尿臭気の異常,巨舌症)から 遺伝性の代謝性疾患 遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチ 遺伝性代謝疾患(先天性代謝異常症)は大半がまれであるため,診断するには強く疑う必要がある。適切な時期に診断を下すことができれば,早期治療が可能となり,急性および慢性の合併症や発達障害,さらには死を回避できる可能性がある。 症状と徴候は非特異的となる傾向があり,それらは遺伝性代謝疾患以外の原因(例,感染)によって生じることの方が多いため,そうしたより可能性の高い原因も検討すべきである。... さらに読む が示唆されることがある。座るまたは歩く動作(粗大運動技能)と指先でつまむ,絵を描く,または文字を書く動作(微細運動技能)のどちらかだけに遅れが認められることは, 神経筋疾患 遺伝性筋疾患に関する序論 筋ジストロフィーとは,筋肉が正常な構造と機能を維持するのに必要な遺伝子の1つまたは複数の異常を原因とする遺伝性かつ進行性の筋疾患であり,筋生検でジストロフィー変化(例,筋線維の壊死および再生)が認められる。筋ジストロフィーの病型では 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーが最も一般的であり,... さらに読む を示唆するものである。
疑われる原因に応じて特異的な臨床検査を行う( Professional.see table 知的能力障害の主な原因に対する検査 知的能力障害の主な原因に対する検査 )。視覚および聴覚の評価を低年齢のうちに施行すべきであり,しばしば鉛中毒のスクリーニングが適切である。
予後
軽度から中等度の知的能力障害をもつ人々の多くは,自給が可能であり,自立した生活ができ,基本的な知的技能を要する職業において成功を収めることもできている。
機能障害の原因によっては期待余命が短くなることもあるが,ヘルスケアにより健康面の長期的転帰があらゆる発達障害において改善してきている。重度の知的能力障害がある人々には生涯にわたる支援が必要になる可能性が高い。認知機能障害が重度になるほど,不動の程度も重くなり,死亡リスクも高くなる。
治療
早期の介入プログラム
集学的チームによる支援
治療および支援の必要性は社会生活能力および認知機能に依存する。乳児期のうちに早期の介入プログラムを紹介することにより,周産期に起こった損傷から生じる機能障害を予防または軽減できることがある。患児ケアの実際的な方法を確立する必要がある。
家族支援およびカウンセリングは極めて重要である。知的能力障害が確定するか強く疑われた場合は,速やかに親に知らせるとともに,原因,影響,予後,患児の教育および訓練,ならびに予想通りに実現しうる否定的な状況(期待が低下することで将来の機能予後が悪化する)と既知の予後リスクのバランスを取ることの重要性について話し合うために,親に十分な時間を与えるべきである。家族適応のためには,配慮の行き届いた継続的なカウンセリングが不可欠である。家庭医が調整およびカウンセリングを実施できない場合は,集学的チームで知的能力障害児の評価および治療を行っている施設に患児および家族を紹介すべきであるが,その場合も家庭医は内科的ケアおよびアドバイスを継続して提供していくべきである。
教育者などの適切な専門家の援助による個別化された総合的プログラムの作成が行われている。
集学的チームには以下のメンバーを含める:
神経科医または発達行動面の問題を専門とする小児科医
整形外科医
理学療法士 理学療法 理学療法の目的は関節および筋肉の機能(例,可動域,筋力)を向上させることであり,そのため理学療法により起立,平衡,歩行,階段昇降の能力が改善される。例えば,理学療法は通常,下肢切断患者の訓練に用いられる。一方, 作業療法はセルフケア活動,および筋肉や関節の微細な協調運動(特に上肢)の回復に主眼をおいている。 ( リハビリテーションの概要も参照のこと。) 可動域に制限があると,機能が損なわれ,疼痛を来たしたり,褥瘡が生じやすくなる傾向があ... さらに読む および 作業療法士 作業療法 (OT) 作業療法(OT)はセルフケア活動,および筋肉や関節の微細な協調運動(特に上肢)の回復に主眼をおいている。筋力および関節可動域に焦点を当てる理学療法とは異なり,作業療法では,自立した生活を送るための基礎となる日常生活動作(ADL)に焦点を当てる。 基礎的ADL(BADL)には,食事,更衣,入浴,身繕い,トイレ,および移動(すなわち,ベッド,椅子,浴槽やシャワーなどの間を移動すること)などがある。... さらに読む (運動障害のある患児において併存症の管理を行う)
栄養士(低栄養の治療を支援する)
ソーシャルワーカー(環境的剥奪の低減と重要な資源の特定を支援する)
心理士(行動療法の計画を監督する)
うつ病などの精神障害が併存する患児には,適切な向精神薬を,知的能力障害のない小児と同様の用量で投与してもよい。行動療法と環境調整を併用しない向精神薬の使用が役立つことはまれである。
あらゆる努力を払い,患児が家庭または地域内の住居で生活できるようにすべきである。著明な行動障害のために家族が提供可能な水準を超える監督が必要になっている場合を除き,代替施設よりも自宅で家族と暮らす方が通常は児にとってよい選択となる。家族には,心理的支援に加えて,託児所,ホームヘルパー,介護者休養支援などによる日常ケアの援助が有益となりうる。生活環境は,自立を奨励し,その目標を達成するのに必要な技能の学習を強化するものでなければならない。
知的能力障害児には,可能であれば,よく適合した託児所か認知機能障害のない生徒の学校へ通わせるべきである。主要な米国の特殊教育法であるIndividuals with Disabilities Education Act(IDEA)では,機能障害のある全ての小児に,制限が最小限で最も包括的な環境において適切な教育機会およびプログラムが与えられるべきと規定されている。Americans with Disability Actおよび Rehabilitation ActのSection 504でも,学校およびその他の公的な場での受入れについて規定されている。
知的能力障害患者が成人期に達した際には,数々の支持的な生活および職業環境が整えられている。現在,大規模収容施設が,個人の機能およびニーズに合わせた小集団またはサポート付きの個人用の収容施設に取って代わられようとしている。
予防
ワクチン 小児期の予防接種スケジュール 予防接種は,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC),米国小児科学会(American Academy of Pediatrics),American Academy of Family Physicians,およびAmerican College of Obstetricians and Gynecologistsが推奨するスケジュールに従う。... さらに読む により,知的能力障害の原因としての先天性風疹症候群ならびに肺炎球菌およびインフルエンザ菌(H. influenzae)による髄膜炎はほとんどみられなくなった。
胎児性アルコール症候群 胎児性アルコール症候群 子宮内でのアルコール曝露によって,自然流産リスクが増大し,出生体重が減少し,一連の身体面および認知面の様々な異常を示す胎児性アルコール症候群が起こりうる。 胎児性アルコール症候群(FAS)の新生児には,出生時より低身長と以下の顔面部の特徴から成る典型的パターンがみられる(小頭症,小眼球症,眼瞼裂短小,内眼角贅皮,顔面中央部の矮小または扁平,平坦で長い人中,薄い上唇,小顎)。異常な手掌紋,心奇形,関節拘縮がみられることもある。... さらに読む は,知的能力障害の原因として非常に頻度が高く,完全に予防可能である。アルコールが妊娠中のどの時点で最も胎児に害をもたらす可能性が高いのか,また絶対的に安全なアルコール下限量というものがあるのかは不明であるため,妊娠中の女性はアルコールを一切摂取しないようにすることが望ましい。
受胎3カ月前から第1トリメスターまでの母体への葉酸補充(400~800µg,経口,1日1回)により,神経管閉鎖不全のリスクを低減することができる(神経系の先天異常の予防 予防 二分脊椎とは,脊柱の閉鎖に欠陥が生じた状態のことである。原因は不明であるが,妊娠中の葉酸低値によりリスクが増大する。無症状の患児もいるが,病変より下位に重度の神経機能障害を呈する患児もいる。開放性二分脊椎は,超音波検査による出生前診断が可能であり,母体血清中または羊水中α-フェトプロテイン濃度の高値からも示唆される。典型例では,出生後に背部に病変を見ることができる。通常,治療法は手術である。... さらに読む を参照)。
産科および新生児ケアの継続的改善および普及と新生児の溶血性疾患予防のための交換輸血およびRho(D)免疫グロブリンの使用により,知的能力障害の発生率は低下してきており,これに極低出生体重児の生存率の向上が加わって,有病率は一定の水準で推移している。
要点
知的能力障害では,知的発達の遅れとともに,平均を下回る知的機能,未熟な行動,およびセルフケア技能の制限がみられ,それらは様々なレベルの支援を必要とするほど重度である。
知的能力障害は出生前,周産期,および出生後に生じるいくつかの疾患で生じるが,具体的な原因が同定できないことが多い。
言語および個人的・社会的技能の障害は,知的能力障害ではなく,むしろ情緒的問題,環境的剥奪,学習障害,または難聴に起因する。
Ages and Stages Questionnaire(ASQ)やParents’ Evaluation of Developmental Status(PEDS)などの検査法を用いたスクリーニングを行い,疑い例は標準化された知能検査および神経発達評価に紹介する。
頭部画像検査,遺伝学的検査(例,染色体マイクロアレイ解析,エクソーム配列決定),および臨床的な適応に応じたその他の検査により,具体的な原因を検索する。
集学的チームにより,個別化された包括的プログラム(家族支援およびカウンセリングなど)を提供する。
より詳細な情報
American Academy of Neurology and the Practice Committee of the Child Neurology Society's evidence report on genetic and metabolic testing on children with global developmental delay