高齢者における疾患予防

執筆者:Magda Lenartowicz, MD, Altais Health Solutions
レビュー/改訂 2020年 10月
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疾患予防とは,疾患の発生または悪化を予防することを目的とした治療のことである。慢性疾患がわずかか,または全くなく,自立した高齢者,および治癒不能であるが治療可能な疾患がいくつかある高齢者には,疾患予防対策が有益である。

一次予防および二次予防

一次予防の目的は,疾患をその発生前に阻止することであり,多くは危険因子の低減または排除による。一次予防の方法としては,免疫学的予防(予防接種),化学予防( see table 高齢患者の化学予防および予防接種),生活習慣の改善( see table 一般的な慢性疾患の予防に有用な生活習慣対策)などがある。

二次予防の目的は,症状または機能喪失が生じる前の早期に疾患またはその合併症を発見し治療することにより,罹病率および死亡率を最小限に抑えることである。

表&コラム
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スクリーニング

スクリーニングは一次予防または二次予防の手段となりうる。スクリーニングは危険因子を検出し,疾患を予防するため是正したり,無症状者から疾患を検出し早期に治療を施すために利用できる。

複数の組織がスクリーニングのガイドラインを公表しているが,互いに異なる場合がある。ガイドラインによる推奨にかかわらず,個別の患者の特性および希望も考慮されるべきである。がんのスクリーニングについては see table 高齢患者に対するがんスクリーニング*の推奨度,また他の特定の疾患のスクリーニングについては see table 高齢患者に対するスクリーニングの推奨度の抜粋を参照のこと。

表&コラム
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スクリーニングに関する参考文献

  1. 1.Jellinger PA, Handelsman Y, Rosenblit PD, et al: American Association of Clinical Endocrinologists and American College of Endocrinology Guidelines for Management of Dysipidemia and Prevention of Cardiovascular Disease.Endocrine Practice 23:1-87, 2017.doi:10.4158/EP171764.APPGL

  2. 2.American Diabetes Association: Standards of medical care in diabetes.Diabetes Care 43(Supplement 1): S1-S2, 2020.https://doi.org/10.2337/dc20-Sint

三次予防

三次予防では,すでに発症して通常は慢性化している症候性の疾患を適切に管理し,さらなる機能の喪失を予防する。疾患管理は,疾患別の診療ガイドラインおよびプロトコルを利用することで改善される。いくつかの疾患管理プログラムが開発されている:

  • 疾患別ケアマネジメント:特別な訓練を受けた看護師が,プライマリケア医または老年病専門医と協力しながら,プロトコル主導型ケアを取りまとめ,支援サービスを手配し,患者教育を行う。

  • 慢性疾患ケアクリニック:同一の慢性疾患を有する患者にグループで教育を行い,医療従事者が患者を訪問する;この方法は糖尿病患者の血糖コントロールの改善に役立つ可能性がある。

  • 専門医:安定させることが困難な慢性疾患患者を専門医に紹介する。この方法は,専門医とプライマリケア医が協力して治療に当たる場合に最も有効である。

高齢者によくみられる以下の慢性疾患を有する患者には,三次予防が有益であると考えられる。

関節炎

関節炎(主に変形性関節症,頻度は大幅に低いが関節リウマチ)は65歳以上の約半数に発生する。可動性が低下し,骨粗鬆症,心肺機能および筋のデコンディショニング,転倒,ならびに褥瘡のリスクが高まる。

骨粗鬆症

骨密度測定検査により,骨折に至る前に骨粗鬆症を検出できる。カルシウムおよびビタミンDの補充,運動,および禁煙が骨粗鬆症の進行予防に役立ち,治療により新たな骨折を予防できる。

糖尿病

高血糖で特に7.9%を上回る糖化ヘモグロビン(HbA1C)濃度が7年以上持続する場合は,網膜症神経障害腎症,および冠動脈疾患のリスクが高まる。血糖治療の目標は患者の希望,合併症,および期待余命に応じて調整する。例えば,適切なHbA1Cの目標値は以下のように設定しうる:

  • 糖尿病以外は健康な高齢患者で,期待余命が10年を超える場合は7.5%未満

  • 併存症を有し,期待余命が10年未満の患者は8.0%未満

  • フレイルな患者で,期待余命が短い場合は9.0%未満

糖尿病患者の高血圧および脂質異常症のコントロールは特に重要である。

患者教育および足部診を来院時に毎回行うと,足潰瘍の予防に役立つ。

血管疾患

冠動脈疾患,脳血管疾患,または末梢血管疾患の病歴を有する高齢患者では,生活に支障を来す事象の発生リスクが高い。リスクは,血管危険因子(例,高血圧,喫煙,糖尿病,肥満,心房細動,脂質異常症)の積極的な管理により低減できる。

心不全

高齢者は,心不全を原因とする病態の頻度が高く,その死亡率は多くのがんよりも高い。特に収縮機能障害に対し適切かつ積極的な治療を行うことで,機能低下,入院,および死亡率が軽減する。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

禁煙,吸入薬およびその他の薬剤の適切な使用,ならびにエネルギーを節約する行動療法に関する患者教育により,入院に至るCOPD増悪の回数および重症度を軽減できる。

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