肥満

執筆者:Adrienne Youdim, MD, David Geffen School of Medicine at UCLA
レビュー/改訂 2020年 1月
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肥満とは,体重が過度に重い状態であり,BMI(body mass index)が30kg/m以上である場合と定義されている。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断はBMIに基づく。治療法としては,生活習慣の改善(例,食事,身体活動,行動)や,特定の患者に対する薬剤または肥満(減量)外科手術などがある。

青年期の肥満も参照のこと。)

米国における肥満の有病率は全ての年齢層で高い(NHANESによる肥満の有病率の変遷の表を参照)。2015~2016年では39.6%を超える成人が肥満であった(1)。

有病率は,白人(37.9%),およびアジア系(12.7%[2])と比べて,ヒスパニック系(47.0%),非ヒスパニック系黒人(46.8%)で最も高い。高所得層の黒人男性は,低所得層よりも肥満である可能性が高い。しかしながら高所得層の女性は,黒人女性を除き,肥満である可能性が低い。黒人女性については,収入に基づく肥満の有病率に差はみられなかった。

表&コラム

米国では,肥満およびその合併症が毎年300,000人もの若年死を引き起こしており,予防しうる死亡の原因としては喫煙に次いで第2位である。

総論の参考文献

  1. 1.Hales CM, Fryar CD, Carroll MD, et al: Trends in obesity and severe obesity prevalence in US youth and adults by sex and age, 2007-2008 to 2015-2016.JAMA 319 (16):1723–1725, 2018.doi:10.1001/jama.2018.3060.

  2. 2.CDC: Adult Obesity Facts.Accessed 12/16/19.

肥満の病因

肥満の原因はおそらく多因子的であり,遺伝的素因が含まれる。肥満は究極的には,エネルギー摂取とエネルギー消費(基礎代謝過程のためのエネルギー利用および身体活動によるエネルギー消費を含む)の長期にわたる不均衡に起因する。しかし,その他にも内分泌撹乱物質(例,ビスフェノールA[BPA]),腸内細菌叢,睡眠/覚醒のサイクル,環境因子など,多数の因子によって肥満になりやすい傾向が強まると考えられる。

遺伝因子

BMIの遺伝率は約66%である。視床下部と消化管の一部が食物摂取量を調節するのに用いられる多数のシグナル伝達分子や受容体に遺伝因子が影響を及ぼしている可能性がある(コラム「食物摂取を調節する経路」を参照)。遺伝因子は,遺伝的に受け継がれるか,子宮内での状態に起因する(遺伝子刷り込みと呼ばれる)可能性がある。まれに,食物摂取を調節するペプチド(例,レプチン)の濃度異常やその受容体(例,メラノコルチン-4受容体)の異常によって肥満が生じる場合もある。

食物摂取を調節する経路

消化管での吸収前後にみられるシグナルと栄養素の血漿中濃度の変化によって,以下のような,食物摂取量を調節するための短期的および長期的フィードバックが構築される:

  • 消化管ホルモン(例,グルカゴン様ペプチド1[GLP-1],コレシストキニン[CCK],ペプチドYY[PYY])は,食物摂取量を減少させる。

  • 主に胃から分泌されるグレリンは,食物摂取量を増加させる。

  • 脂肪細胞から分泌されるレプチンは,どの程度の脂肪が蓄積されているかを脳に知らせる。レプチンは正常体重の人では食欲を抑制するが,高濃度のレプチンは体脂肪の増加と相関する。体重が減少するとレプチン濃度が低下することがあり,空腹シグナルを脳に送る。

視床下部はエネルギーバランスの調整に関わる様々なシグナルを統制し,以下のように,食物摂食量を増加または減少させる経路を活性化する:

  • 神経ペプチドY(NPY),アグーチ関連ペプチド(ARP),α‐メラノサイト刺激ホルモン(α‐MSH),CART(cocaine- and amphetamine-related transcript),オレキシン,およびメラニン凝集ホルモン(MCH)は,食物摂食量を増加させる。

  • 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)およびウロコルチンは食物摂食量を減少させる。

大脳辺縁系(扁桃体,海馬,前頭前野)は,渇望,習慣,報酬を含む食物摂取につながる快楽経路(hedonistic pathway)を媒介する。感情やストレスがグレリンなどの調節ペプチドに影響を及ぼすことが示されていることから,摂食欲求が恒常性維持の経路より優先される可能性がある。それらの作用はドパミンが媒介する。

遺伝因子は,基礎代謝率,食事誘発性熱産生,不随意運動に伴う熱産生などのエネルギー消費も調節している。遺伝因子は体脂肪の量よりも体脂肪の分布,特に腹部脂肪(メタボリックシンドロームのリスクを増大させる)の分布に,より大きな影響を及ぼす可能性がある。

環境因子

体重は,カロリー摂取量がエネルギー必要量を超えた場合に増加する。エネルギー摂取量の重要な決定因子としては以下のものがある:

  • 食物の分量

  • 食品のエネルギー密度

高カロリー食品(例,加工食品),精製炭水化物を多く含む食事,ならびにソフトドリンク,フルーツジュース,およびアルコールの摂取は,体重増加を促進する。新鮮な果物および野菜,食物繊維,複合炭水化物,ならびに低脂肪で高タンパク質の食品を多く含み,水を主な水分摂取源とする食事は,体重増加を最小限に抑える。

座位時間の長い生活習慣は,体重増加を促進する。

調節因子

妊婦の肥満,妊婦の喫煙,および子宮内胎児発育不全は体重調節を乱し,小児期およびその後の体重増加の一因となることがある。肥満が幼児期を超えて持続すると,その後の減量がより困難になる。

腸内細菌叢の組成も重要な因子と考えられる;早期の抗菌薬使用や,腸内細菌叢の組成を変えるその他の因子によって,その後の生涯における体重増加および肥満が促進される可能性がある(1)。

内分泌撹乱化学物質の一種であるオビソゲン(例,タバコ煙,ビスフェノールA,大気汚染,難燃剤,フタル酸エステル,ポリ塩化ビフェニル)への早期曝露は,エピジェネティック変化や核への作用を介して代謝のセットポイントを変化させ,肥満の発生傾向を高める可能性がある(2)。

小児期逆境体験(adverse childhood events)や幼少期の虐待は,肥満を含むいくつかの疾患のリスクを高める。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)による小児期逆境体験に関する研究では,言語的,身体的,または性的虐待の小児期の既往により,BMIが30以上となるリスクが8%増加し,BMIが40以上となるリスクが17.3%増加するという予測が実証された。特定の種類の虐待が最も大きなリスクをもたらしていた。例えば,頻繁な言語的虐待はBMIが40超となるリスクを最も大きく増加させた(88%)。頻繁に叩かれたり傷つけられたりする経験は,BMIが30超となるリスクを71%増加させた(3)。虐待と肥満の関連について提唱されている機序としては,神経生物学的現象やエピジェネティック現象などがある(4)。

約15%の女性では,妊娠のたびに20ポンド(約9.1kg)以上の永続的な体重増加がみられる。

睡眠不足(通常は一晩6~8時間未満とされる)は,空腹感を促す満腹ホルモンの血中濃度を変化させることで体重増加につながる可能性がある。

コルチコステロイド,リチウム,従来の抗うつ薬(三環系抗うつ薬,四環系抗うつ薬,モノアミン酸化酵素阻害薬[MAOI]),ベンゾジアゼピン系薬剤,抗てんかん薬,チアゾリジン系薬剤(例,ロシグリタゾン,ピオグリタゾン),β遮断薬,抗精神病薬などの薬剤は,体重を増加させる可能性がある。

まれに,以下の疾患の1つによって体重増加が引き起こされる:

  • 腫瘍(特に頭蓋咽頭腫)または感染症(特に視床下部を侵すもの)によって生じ,過剰なカロリー摂取を促す脳損傷

  • 膵腫瘍による高インスリン血症

  • 主に腹部肥満を引き起こす,クッシング症候群による高コルチゾール血症

  • 甲状腺機能低下症(まれに大幅な体重増加の原因となる)

摂食障害

少なくとも2つの病的な摂食パターンが肥満と関連している可能性がある:

  • 過食性障害は,自制できないと感じながら,短時間に大量の食物を摂取し,その後心理的苦痛を感じるものである。この障害では,嘔吐などの浄化行動がない。生涯のうちに過食性障害が発生するのは,女性で約3.5%,男性で約2%であり,減量プログラムに参加する人では約10~20%である。肥満は通常は重度であり,体重の大幅な増加または減少がよくみられ,著しい心理的障害がみられる。

  • 夜食症候群は,朝の食欲不振,夜の過食,および不眠症から成り,さらに夜中の摂食がみられる。夕食より後に,1日の摂取量の少なくとも25~50%を摂取する。重度の肥満に対する治療を求める人の約10%にこの障害がみられることがある。まれに,類似の障害がゾルピデムなどの睡眠薬の使用によって誘発される。

おそらく,似ているがそれほど極端ではないパターンが,より多くの人で過剰な体重増加の一因になっている。例えば,夕食後の摂食は,夜食症候群ではない多くの人の過剰な体重増加の一因となっている。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Ajslev TA, Andersen CS, Gamborg M, et al: Childhood overweight after establishment of the gut microbiota: The role of delivery mode, pre-pregnancy weight and early administration of antibiotics.Int J Obes 35 (4): 522–529, 2011.doi: 10.1038/ijo.2011.27.

  2. 2.Heindel JJ, Newbold R, Schug TT: Endocrine disruptors and obesity.Nat Rev Endocrinol 11 (11):653–661, 2015.doi: 10.1038/nrendo.2015.163.

  3. 3.Williamson DF, Thompson TJ, Anda RF, et al: Body weight and obesity in adults and self-reported abuse in childhood.Int J Obes Relat Metab Disord  26(8):1075-82, 2002.doi: 10.1038/sj.ijo.0802038.

  4. 4.Anda RF, Felitti VJ, Bremner JD, et al: The enduring effects of abuse and related adverse experiences in childhood.A convergence of evidence from neurobiology and epidemiology. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci 256(3):174-86, 2006.doi: 10.1007/s00406-005-0624-4.

肥満の合併症

肥満の合併症としては以下のものがある:

インスリン抵抗性脂質異常症,および高血圧(メタボリックシンドローム)が生じることがあり,しばしば糖尿病冠動脈疾患につながる。これらの合併症は,腹部に集中した脂肪,血清トリグリセリドの高値,2型糖尿病もしくは早期の心血管疾患の家族歴,またはこれらの危険因子の組合せがある患者でより可能性が高い。

頸部の過剰な脂肪が睡眠中に気道を圧迫すると,閉塞性睡眠時無呼吸症候群を来すことがある。一晩に数百回にも及ぶ頻度で呼吸が短時間停止する。この疾患は,しばしば見逃されることがあり,大きないびきや日中の過度の眠気を引き起こしたり,高血圧不整脈,およびメタボリックシンドロームのリスクを高めたりする可能性がある。

肥満は肥満低換気症候群(ピックウィック症候群)の原因となることがある。呼吸障害により,高炭酸ガス血症,呼吸刺激の二酸化炭素に対する感受性低下,低酸素症,肺性心,および若年死のリスクが生じる。この症候群は,単独でまたは閉塞性睡眠時無呼吸症候群に続発して起こることがある。

皮膚疾患がよくみられる;厚い皮膚のヒダに閉じ込められる汗と皮膚の分泌物が増えて真菌および細菌の増殖を助長し,間擦部の感染の頻度が特に高くなる。

過体重であることは,おそらく痛風深部静脈血栓症,および肺塞栓症の素因となる。

肥満により,偏見,差別,不良な身体像,および低い自尊心の結果として,社会的,経済的,および心理的な問題が生じる。例えば,不完全雇用や失業中であるなどである。

肥満の診断

  • BMI(body mass index)

  • ウエスト周囲長

  • ときに身体組成分析

成人では,体重(kg)を身長の2乗(m2)で割った値と定義されるBMIが,過体重または肥満のスクリーニングに用いられる(BMI[Body Mass Index]の表を参照):

  • 過体重 = 25~29.9kg/m2

  • 肥満 = 30kg/m2以上

しかし,BMIは大まかなスクリーニングツールであり,多くの亜集団で限界がある。一部の専門家は,BMIのカットオフ値は民族,性別,および年齢に基づいて変えるべきであると考えている。例えば,特定の非白人集団では,白人よりも大幅に低いBMIで肥満の合併症が発生する。

小児および青年では,過体重はBMIが米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の年齢別および男女別成長曲線(age- and sex-specific growth charts)に基づく95パーセンタイル以上である場合と定義されている。

表&コラム

アジア人および多数の先住民族では,過体重のカットオフ値が低い(23kg/m2)。さらに,BMIは過剰な体脂肪がない筋肉質のアスリートで高くなることがあり,以前に過体重であり筋肉量が減少した人では正常または低いことがある。

ウエスト周囲長およびメタボリックシンドロームの有無は,代謝性および心血管系の合併症のリスクを,BMIよりよく予測するように思われる。

肥満による合併症のリスクが増大するウエスト周囲長は,以下のように民族集団および性別によって異なる:

  • 白人男性:93cm超(36.6in超),特に101cm超(39.8in超)

  • 白人女性:79cm超(31.1in超),特に87cm超(34.2in超)

  • インド人男性:78cm超(30.7in超),特に90cm超(35.4in超)

  • インド人女性:72cm超(28.3in超),特に80cm超(31.5in超)

医学計算ツール(学習用)

身体組成分析

肥満を診断する場合は身体組成(体脂肪と筋肉の割合)も考慮する。おそらくルーチンの臨床診療には必要でないが,高いBMIが筋肉によるものか過剰な脂肪によるものか医師が疑問をもつ場合,身体組成分析が役立つことがある。

体脂肪の割合は,皮下脂肪厚(通常は上腕三頭筋上で)を測定するか上腕筋面積を求めることによって算出できる。

生体電気インピーダンス法(BIA)で体脂肪率を簡単かつ非侵襲的に推定できる。BIAでは,体内総水分量の割合を直接推定し,体脂肪率を間接的に求める。BIAは,健常者および体内総水分量の割合が変わらない少数の慢性疾患(例,中等度の肥満,糖尿病)だけがある患者で最も信頼できる。植込み型除細動器の使用者でBIAによる測定を行うとリスクをもたらすか否かは不明である。

水中(静水)体重測定が体脂肪の割合を測定する最も正確な方法である。高価で時間がかかり,臨床診療よりも研究で用いられることが多い。水中に入っている間に正確に体重を測定するために,あらかじめ完全に息を吐き出しておく必要がある。

CT,MRI,および二重エネルギーX線吸収法(DXA)などの画像検査法でも体脂肪の割合および分布を推定できるが,通常は研究のためだけに用いられる。

その他の検査

肥満患者には,閉塞性睡眠時無呼吸症候群糖尿病脂質異常症高血圧脂肪肝うつ病など,よくみられる併存症に対するスクリーニングを行うべきである。スクリーニングツールが役に立つことがあり,例えば,閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対して,医師はSTOP-BANG質問票(閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関するSTOP-BANGリスクスコアの表を参照)およびしばしば無呼吸低呼吸指数(睡眠1時間当たりの無呼吸および低呼吸の総エピソード数)などの方法を使用できる。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は過小診断されることが多く,肥満によりリスクが増大する。

肥満の予後

無治療では,肥満は進行する傾向がある。合併症の確率および重症度は以下のものに比例する:

  • 脂肪の絶対量

  • 脂肪の分布

  • 筋肉の絶対量

減量後には,ほとんどの患者が5年以内に治療前の体重に戻ることから,他の慢性疾患と同様,肥満には生涯にわたる管理プログラムが必要となる。

肥満の治療

  • 食事管理

  • 身体活動

  • 行動療法

  • 薬剤(例,フェンテルミン[phentermine],オルリスタット,ロルカセリン[lorcaserin][米国では入手できない],フェンテルミン[phentermine]/トピラマート,徐放性ナルトレキソン/ブプロピオン,リラグルチド)

  • 肥満外科手術

減量はたとえ5~10%でも,全体的な健康状態の改善につながり,心血管系合併症(例,高血圧脂質異常症インスリン抵抗性)の発生リスクの軽減および重症度の低減に役立つとともに,閉塞性睡眠時無呼吸症候群脂肪肝不妊症うつ病など,他の合併症および併存症の重症度を軽減するのにも役立つ可能性がある。

医療従事者,同僚,および家族からの支援と様々な体系的なプログラムが体重の減量と維持に役立つ可能性がある。

食事

体重の減量と維持にはバランスのとれた食事が重要である。

戦略には以下のものがある:

  • 少量の食事を摂り,間食は避けるまたは注意して選ぶ

  • 精製炭水化物と加工食品の代わりに,新鮮な果物および野菜ならびにサラダを摂る

  • ソフトドリンクまたはジュースの代わりに水を摂る

  • アルコールの摂取を中等度レベルに制限する

  • 健康食の一部であり十分なビタミンDを供給するのに役立つ無脂肪または低脂肪乳製品を含める

適度にカロリーを制限し(600kcal/日)低脂肪で高タンパク質の食品を組み込んだ,低カロリーの高食物繊維食が,長期的に最善の結果をもたらすと思われる。グリセミック指数(食品のグリセミック指数の表を参照)の低い食品および魚油または植物由来の一価不飽和脂肪(例,オリーブ油)は,心血管疾患および糖尿病のリスクを減少させる。

食事代わりの栄養補給食の使用が体重の減量と維持に役立つことがあり,それらの製品は定期的または断続的に利用できる。

過度に制限を加えた食事は,継続する可能性や長期的な減量につながる可能性が低い。基礎エネルギー消費量(BEE)の50%未満にカロリー摂取を制限する食事は,超低カロリー食と称されるが,カロリーがわずか800kcal/日となることがある。超低カロリー食は肥満患者に適応となることがあるが,そのような食事には医師による監督が必要であり,体重が減少した後に摂取量を徐々に増やして患者の体重が再び増えるのを予防する必要がある。

身体活動

運動はエネルギー消費量,基礎代謝率,および食事誘発性熱産生を増加させる。また運動により,食欲がカロリーの必要量によりよく合うように調節されると考えられる。身体活動に伴うその他の便益としては以下のものがある:

  • インスリン感受性の増加

  • 脂質プロファイルの改善

  • 血圧の低下

  • 有酸素運動能の向上

  • 心理的健康感の増進

  • 乳癌および結腸癌のリスク低下

  • 余命の延長

筋力強化(抵抗)運動など,運動は筋肉量を増大させる。筋肉組織は脂肪組織よりも安静時に多くカロリーを燃焼するため,筋肉量が増大すると基礎代謝率が持続的に増加する。面白く楽しい運動の方が,持続する可能性が高い。有酸素運動およびレジスタンス運動を組み合わせる方が,どちらか一方のみを行うよりもよい。ガイドラインでは,健康上の便益を目的として150分/週の身体活動が,体重の減量とその維持を目的として300~360分/週の身体活動が提唱されている。より身体活動量の多い生活習慣を作り出すことが,体重の減量と維持に役立つ可能性がある。

行動療法

医師は減量の助けになる様々な行動療法を患者に勧めることができる。具体的には以下のものがある:

  • 支援

  • セルフモニタリング

  • ストレス管理

  • 随伴性マネジメント

  • 問題解決

  • 刺激統制法

支援は,グループ,友人,または家族から受けることができる。支援団体への参加は,生活習慣の改善に対するアドヒアランスの改善から,減量の促進につながる可能性がある。グループミーティングにより多く参加する患者ほど,より多くの支援,モチベーション,および監督を受けられ,責任感が増し,結果としてより大幅な減量を達成できる。

セルフモニタリングには,食事の記録(食物中のカロリー数を含む),定期的な体重測定,行動パターンの観察および記録などが含まれる。他に記録すべき有用な情報には,食物を摂取した時間および場所,他の人の有無,気分などがある。医師は,患者がどのように食習慣を改善できるかについてのフィードバックを与えることができる。

ストレス管理としては,ストレスの多い状況を特定することおよび食べることを伴わずにストレスを管理するための戦略を作り出すこと(例,散歩に行く,瞑想,深呼吸)を患者に教える。

随伴性マネジメントとしては,望ましい行動(例,ウォーキング時間の増加や特定の食品の摂取量の減少)に対して有形報酬を与える。報酬は,他の人(例,支援団体のメンバーまたは医療従事者から)が与えても,本人によるものでもよい(例,新しい服やコンサートチケットの購入)。言葉での報酬(称賛)も有用となることがある。

問題解決としては,不健康な摂食のリスクが増す状況(例,旅行,夕食の外食)または身体活動の機会が減る状況(例,国中をドライブする)を前もって特定し計画を立てる。

刺激統制法としては,健康的な食事や活動的な生活習慣に対する障壁を特定して,それらを克服する戦略を考案する。例えば,ファストフードレストランに立ち寄るのを避けたり,家に甘いものを置かないようにしたりすることがある。より活動的な生活習慣のために,活動的な趣味を始める(例,庭仕事),定期的なグループ活動に参加する(例,エクササイズクラス,スポーツチーム),もっと歩く,エレベーターの代わりに階段を使う習慣をつける,および駐車場の遠い端に駐車する(より多く歩くことになる)などがありうる。

インターネットの情報源,モバイル機器のアプリケーション,その他の電子機器も,生活習慣の改善や減量に対するアドヒアランスの補助となりうる。アプリケーションは,患者が減量のゴールを設定したり,自身の進歩をモニタリングしたり,食事内容をたどったり,身体活動を記録したりするのに役立つことがある。

薬剤

BMIが30以上または合併症(例,高血圧インスリン抵抗性)のある患者のBMIが27以上である場合,薬剤(例,オルリスタット,フェンテルミン[phentermine],フェンテルミン[phentermine]/トピラマート,ロルカセリン[lorcaserin][米国では入手できない])を用いることがある。通常,薬物治療によって軽度(5~10%)の減量がみられる。

オルリスタットは腸リパーゼを阻害し,脂肪の吸収を減らし,血糖および血中脂質を改善する。オルリスタットは吸収されないため,全身作用はまれである。放屁,脂肪便,および下痢がよくみられるが,2年間の治療中に消失する傾向がある。用量120mg,経口,1日3回で,脂肪を含む食事とともに服用すべきである。オルリスタットを服用する少なくとも2時間前または2時間後にビタミンサプリメントを服用すべきである。吸収不良と胆汁うっ滞は禁忌であり,過敏性腸症候群やその他の消化管疾患があると,オルリスタットに耐えるのが困難になることがある。オルリスタットは米国ではOTC医薬品として入手できる。

フェンテルミン(phentermine)は,短期間(3カ月以内)使用する中枢作用性の食欲抑制薬である。通常の開始量は15mgを1日1回であり,用量は30mgを1日1回,37.5mgを1日1回,15mgを1日2回,または8mgを食前1日3回まで増量することがある。よくみられる副作用としては,血圧および心拍数の上昇,不眠症,不安,便秘などがある。フェンテルミン(phentermine)は,心血管疾患がすでにある患者のほか,コントロール不良の高血圧,甲状腺機能亢進症,または薬物乱用もしくは薬物依存の既往がある患者に用いるべきではない。1日2回の投与は,1日を通して食欲を良好に管理する助けになることがある。

フェンテルミン(phentermine)とトピラマート(痙攣発作および片頭痛の治療に用いる)の併用は,米国では長期使用が承認されている。この合剤により,最長で2年間の体重減少が得られる。徐放性製剤の開始量(フェンテルミン[phentermine]3.75mg/トピラマート23mg)は2週間後に7.5mg/46mgに増量すべきであり,その後も減量後の体重維持に必要であれば,最大で15mg/92mgまで徐々に増量することができる。先天異常のリスクがあるため,妊娠可能年齢の女性へのこの併用は,患者が避妊を行い,妊娠検査を毎月受ける場合のみに限定すべきである。他に起こりうる有害作用には,睡眠障害,認知障害,心拍数増加などがある。心血管系への長期の影響は明らかではなく,市販後調査が実施中である。

ロルカセリン(lorcaserin)(米国では入手できない)は,セロトニン2C(5-HT2C)脳内受容体の選択的作動を介して食欲を抑制する。減量のために以前用いられていたセロトニン作動薬とは異なり,ロルカセリン(lorcaserin)は視床下部の5-HT2C受容体を選択的に標的としており,これにより食欲低下が得られる一方,心臓弁の5-HT2B受容体は刺激しない。臨床研究では,ロルカセリン(lorcaserin)を投与された患者における弁膜症の発生率に,プラセボを投与された患者と比較して有意な上昇は認められなかった。ロルカセリン(lorcaserin)の通常用量かつ最大用量は,10mg,経口,12時間毎である。糖尿病のない患者における最も頻度の高い有害作用は,頭痛,悪心,めまい,疲労,口腔乾燥,および便秘であり,これらは通常は自然に軽快する。ロルカセリン(lorcaserin)は,セロトニン症候群のリスクがあるため,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI),モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)などのセロトニン作動薬と併用すべきではない。

ナルトレキソン/ブプロピオン徐放錠を減量の補助として用いることができる。ナルトレキソン(断酒の補助に用いられる)はオピオイド拮抗薬であり,脳内における満腹感を伝える経路の負のフィードバックを遮断すると考えられている。ブプロピオン(うつ病治療および禁煙補助に用いられる)は,視床下部におけるアドレナリン系およびドパミン系に作用することによって,食欲低下を誘発できる。開始量はナルトレキソン8mg/ブプロピオン90mgの錠剤1錠であり,用量を4週間かけて最大量である2錠の1日2回投与まで漸増する。最も頻度の高い有害作用としては,悪心,嘔吐,頭痛,収縮期および拡張期血圧の1~3mmHgの上昇などがある。この薬剤の禁忌は,コントロール不良の高血圧や,痙攣発作の病歴または危険因子(ブプロピオンは痙攣発作の閾値を低下させるため)などである。

リラグルチドは,2型糖尿病の治療に最初に用いられるGLP-1受容体作動薬である。リラグルチドは,ブドウ糖を介した膵臓からのインスリン分泌を増強し,血糖コントロールを改善するとともに,満腹感を刺激して食物摂取を減らす効果もある。研究では,リラグルチド3mgを毎日投与することで,56週間後に12.2%の体重減少が得られることが示されている。初回投与量は0.6mgの1日1回投与であり,用量は週に0.6mgずつ,最大量である3mgの1日1回投与まで増量する。リラグルチドは注射で投与する必要がある。有害作用には悪心および嘔吐があり,リラグルチドには急性膵炎や甲状腺C細胞腫瘍のリスクに関する警告がある。

減量薬は,治療開始後12週間で患者に体重減少がみられない場合,中止すべきである。

ほとんどのOTC医薬品の減量薬は,有効性が示されていないため推奨されない。そのような薬物の例として,ブリンドルベリー,L-カルニチン,キトサン,ペクチン,グレープシードエキス,トチノキ,ピコリン酸クロム,コンブ,およびイチョウが挙げられる。一部のもの(例,カフェイン,エフェドリン,ガラナ,フェニルプロパノールアミン)には利点を上回る有害作用がある。さらに,これらの薬物の一部には,混ぜ物が入っているものや,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration)が禁止している有害物質(例,エフェドラ,トウヒ,シブトラミン)が含まれているものもある。

手術

肥満外科手術は,重度の肥満患者に対して最も効果的な治療である。

特別な集団

肥満は小児および高齢者では特に懸念となる。

小児

肥満児では,肥満の期間がより長いため,合併症を発症する可能性がより高い。25%を超える小児および青年が過体重または肥満である。(青年期の肥満も参照のこと。)

乳児の肥満の危険因子は,低出生体重,ならびに母体の肥満糖尿病,および喫煙である。

思春期以降,食物摂取が増大し,男児では過剰なカロリーはタンパク質蓄積の増大に利用されるが,女児では脂肪蓄積が増大する。

肥満児では,心理的合併症(例,低い自尊心,社会的困難,抑うつ)および筋骨格系合併症が早期に発生することがある。大腿骨頭すべり症などの一部の筋骨格系合併症は小児にのみ発生する。その他の早期合併症としては,閉塞性睡眠時無呼吸症候群インスリン抵抗性,高脂血症,非アルコール性脂肪肝炎などが考えられる。こうした小児が成人になった際,心血管系,呼吸器,代謝性,肝臓,その他肥満関連の合併症のリスクが増大する。

成人期まで持続する肥満のリスクは,以下のように,いつ肥満が最初に出現するかに部分的に依存する:

  • 乳児期:リスクは低い

  • 6カ月~5歳:25%

  • 6歳以降:50%を超える

  • 親が肥満である場合で青年期:80%を超える

小児では,減量よりもそれ以上の体重増加を防ぐことが合理的目標である。食事を見直し,身体活動を増やすべきである。一般的な活動や遊びを増やす方が,構造化された運動プログラムよりも効果的である可能性が高い。小児期に身体的な活動に参加することにより,生涯にわたる身体的に活発な生活習慣が促される可能性がある。座ったままの活動(例,テレビを見る,コンピュータまたは携帯端末を使用する)の制限も役立つことがある。薬物および手術は避けるが,肥満の合併症が生命を脅かすものである場合は正当化される。

小児の体重を管理し肥満を予防する対策が,公衆衛生上最も便益が大きい可能性がある。そのような対策を,家族,学校,およびプライマリケアのプログラムで実施すべきである。

高齢者

米国では,高齢者における肥満の割合が増えている。

加齢に伴って,主に運動不足のために体脂肪が増加して腹部に再分布し,筋肉量が減少するが,それにはアンドロゲンおよび成長ホルモン(タンパク質同化性)の減少ならびに肥満において産生される炎症性サイトカインも関与する可能性がある。

合併症のリスクは以下のものに依存する:

  • 体脂肪分布(主に腹部の分布を伴う増加)

  • 肥満の期間および重症度

  • 合併するサルコペニア

腹部脂肪の分布を示唆するウエスト周囲長の増加は,高齢者の病的状態(例,高血圧糖尿病冠動脈疾患)および死亡のリスクをBMIよりもよく予測する。加齢とともに,脂肪はウエストにより多く蓄積する傾向がある。

医師は高齢者に対して,カロリー摂取を減らし身体活動を増やすように推奨することがある。しかし,高齢患者がカロリー摂取量の大幅な減少を望む場合は,医師が患者の食事を監督すべきである。身体活動はさらに筋力,持久力,および全体的な健康状態を改善し,糖尿病などの慢性疾患の発生リスクを下げる。活動には,筋力強化運動と持久力運動を含めるべきである。

カロリー制限が必要であると考えられるかどうかにかかわらず,栄養を最適化すべきである。

減量薬は,高齢者で特別に研究されていない場合が多く,得られるかもしれない便益が有害作用を上回らないことがある。しかし,オルリスタットは肥満の高齢患者(特に糖尿病または高血圧がある場合)に有用となる場合がある。身体機能の状態が良好な健常な高齢患者では,手術を考慮してもよい。

肥満の予防

定期的な運動と健康的な食事は,全身の健康状態を改善し,体重の管理を可能にし,肥満および糖尿病の予防に役立つ。体重減少がなくても,運動は心血管疾患のリスクを低減する。食物繊維は,結腸癌および心血管疾患のリスクを減らす。

十分で質の高い睡眠,ストレスの管理,および飲酒の節制も重要である。

肥満の要点

  • 肥満は,多くの一般的な健康問題のリスクを増加させ,米国では最多で毎年300,000人の若年死を引き起こしており,予防しうる死亡の原因としては喫煙に次いで第2位である。

  • 過剰なカロリー摂取および少な過ぎる身体活動が肥満に最も寄与するが,遺伝的感受性および様々な障害(摂食障害を含む)も一因となることがある。

  • BMIおよびウエスト周囲長によって患者をスクリーニングし,身体組成分析が適応となる場合は,皮下脂肪厚の測定または生体電気インピーダンス法によってスクリーニングする。

  • 肥満患者には,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,糖尿病,脂質異常症,高血圧,脂肪肝,うつ病など,よくみられる併存症のスクリーニングを行う。

  • 食生活の変更,身体活動の増加,および可能であれば行動療法を用いることによって,体重をたとえ5~10%でも減らすよう,患者に奨励する。

  • BMIが30以上の場合,またはBMIが27以上で合併症(例,高血圧,インスリン抵抗性)がある場合は,オルリスタット,フェンテルミン(phentermine)/トピラマート,ロルカセリン(lorcaserin),ナルトレキソン/ブプロピオン,またはリラグルチドによる治療を試みるが,重度肥満には手術が最も効果的である。

  • 全ての患者に運動,健康的な食事,十分な睡眠,およびストレスの管理を奨励する。

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