胆石症

執筆者:Yedidya Saiman, MD, PhD, Lewis Katz School of Medicine, Temple University
レビュー/改訂 2023年 8月
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胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によってディスペプシアや高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状または合併症が生じた場合,胆嚢摘出術が必要になる。

胆道機能の概要も参照のこと。)

胆石の危険因子には,女性,肥満,高齢,アメリカンインディアン,欧米式の食事,急激な体重減少,家族歴などがある。米国では,60~75歳の高齢者の15%以上で胆石がみられる(1)。胆道疾患の大半が胆石によるものである。

総論の参考文献

  1. 1.Everhart JE, Khare M, Hill M, et al: Prevalence and ethnic differences in gallbladder disease in the United States.Gastroenterology 117(3):632-639, 1999. doi: 10.1016/s0016-5085(99)70456-7

胆石症の病態生理

胆泥は,しばしば胆石の前駆物質となる。胆泥はビリルビンカルシウム(ビリルビンの重合体),コレステロールの微小結晶,およびムチンから構成される。胆泥は胆嚢の停滞時に発生するほか,妊娠中や完全静脈栄養の実施中にも生じる。胆泥は大半が無症状であり,基礎疾患が解消されれば消失する。一方で,胆泥が胆石に成長したり,胆道内に移動して閉塞を引き起こしたりすることもあり,胆道仙痛,胆管炎膵炎などを引き起こす。

胆石にはいくつかの種類がある。

欧米では全胆石の85%以上がコレステロール結石である(1)。コレステロール胆石が形成されるには,以下の条件を満たす必要がある:

  • 胆汁がコレステロール過飽和状態となる。正常時には,本来水溶性でないコレステロールは胆汁酸塩およびレシチンと結合し,混合ミセルを形成することによって水溶性となっている。胆汁がコレステロール過飽和状態となる原因としては,コレステロールの過剰分泌(肥満糖尿病でみられる)が最も一般的であるが,胆汁酸塩の分泌低下(例,胆汁酸塩の吸収不良を招く嚢胞性線維症)やレシチンの欠乏(例,一種の進行性家族性肝内胆汁うっ滞症を引き起こすまれな遺伝性疾患でみられる)が原因でも起こりうる。

  • 溶液中の過剰なコレステロールが析出して,固体の微小結晶となる。このような胆嚢内での析出は,胆汁中に含まれるムチン,糖タンパク質,その他のタンパク質によって加速される。

  • 微小結晶が凝集して成長する。この過程は,足場を形成するムチンの結合作用により,また胆汁中の過剰なコレステロールによって収縮能が障害された胆嚢内に微小結晶が停滞することにより促進される。

黒色色素結石は,ビリルビンカルシウムと無機カルシウム塩(例,炭酸カルシウム,リン酸カルシウム)から成る小さな硬い胆石である。結石の発生を促進する因子には,アルコール性肝疾患,慢性溶血,高齢などがある。

褐色色素結石は,柔らかく,脂肪分を多く含み,ビリルビン塩と脂肪酸(パルチミン酸またはステアリン酸カルシウム)から構成される。この種の結石は,感染時,炎症時,および寄生虫(例,アジアでみられる肝吸虫)による寄生時に形成される。

胆石は年に約1~2mmのペースで成長し,問題を引き起こすほどに大きくなるまでには5~20年を要する。大半の胆石が胆嚢内で形成されるが,褐色色素結石は胆管内で形成される。胆石は胆嚢摘出後に胆管へ移動したり,特に褐色色素結石の場合は,うっ滞や感染の結果として生じた狭窄部で発生することがある。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.European Association for the Study of the Liver (EASL): EASL Clinical Practice Guidelines on the prevention, diagnosis and treatment of gallstones.J Hepatol 65(1):146-181, 2016. doi: 10.1016/j.jhep.2016.03.005

胆石症の症状と徴候

胆石患者の約80%は無症状である。残りの患者では,胆嚢炎に特徴的な疼痛(胆道仙痛)から,生命を脅かす胆管炎まで幅広い症状がみられる。胆道仙痛が最も一般的な症状である。

胆石はときに,症状を引き起こさないまま胆嚢管を通過することがある。しかしながら,胆石の移動は大抵の場合,胆嚢管閉塞につながり,一時的にせよ,胆道仙痛を引き起こす。胆道仙痛は右上腹部で始まるのが特徴的であるが,腹部のその他の部位に生じることもある。しばしば限局が不明瞭であり,特に糖尿病や高齢患者で多い。仙痛は背部または腕に放散することがある。

突然始まり,15分から1時間で激痛となり,その疼痛強度が最長12時間(通常は6時間未満)にわたり持続し(仙痛性ではない),やがて30~90分間かけて徐々に消失するが,鈍痛が残る。疼痛は通常,鎮痛のために患者を救急診療部に送るほど重度である。悪心や嘔吐もよくみられるが,胆嚢炎が発生しない限り,発熱や悪寒はみられない。右上腹部または心窩部に軽度の圧痛がみられるが,腹膜炎の所見はない。発作間の体調は良好である。

過食に続いて胆道仙痛が生じることがあるが,高脂肪食は特異的な誘発因子ではない。ガス,腹部膨満,悪心などの非特異的な消化管症状が胆嚢疾患によるものと考えられてきたが,これは誤りである。これらは,胆石症,消化性潰瘍,および機能性消化管疾患にほぼ同じ頻度で認められる一般的な症状である。

パール&ピットフォール

  • 高脂肪食は胆道仙痛の特異的な原因ではなく,ガス,腹部膨満,および悪心は胆嚢疾患に特異的な症状ではない。

胆道仙痛の重症度や頻度と胆嚢の病理学的変化との間には,ほとんど相関は認められない。胆嚢炎がなくても胆道仙痛を起こすことがある。嘔吐または発熱を伴う仙痛が12時間を超えて持続する場合は,急性胆嚢炎または膵炎である可能性が高い。

胆石症の診断

  • 超音波検査

胆道仙痛のある患者では,胆石を疑う。腹部超音波検査は,胆嚢結石を検出する上で最初に選択すべき画像検査であり,その感度と特異度はともに95%である。超音波検査では胆泥も精度よく検出できる。CTおよびMRIも選択可能である。超音波内視鏡検査は,小さな(3mm未満)胆石も精度よく検出できるため,他の検査で明確な結果が得られない場合に必要となりうる。

臨床検査は通常は参考にならず,典型的には合併症が発生しない限り正常となる。

無症状の胆石および胆泥は,他の理由で施行された画像検査(通常は超音波検査)で偶然発見されることが多い。胆石の約10~15%は石灰化を伴い,単純X線撮影で描出される。

胆石症の治療

  • 症状を引き起こしている結石:腹腔鏡下胆嚢摘出術またはときにウルソデオキシコール酸による胆石溶解療法

  • 症状を引き起こしていない結石:待機的管理

症状のない胆石患者の大半は,待機手術に伴う疼痛,費用,リスクを考慮すると,臨床的な疾患に至る可能性はないと考えられる臓器をわざわざ切除する価値はないと判断する。しかしながら,症状が発生すると,疼痛が再発する可能性が高く,重篤な合併症が発生する可能性もあるため,胆嚢切除(胆嚢摘出術)の適応となる。

手術

手術は開腹下または腹腔鏡下で行うことができる。

開腹下胆嚢摘出術では,腹部を大きく切開して直視下での検索が可能であり,安全かつ効果的である。合併症がない時期に待機的にこの手術を施行すれば,全死亡率は約0.1%である。

腹腔鏡下胆嚢摘出術が第1選択の治療である。腹部の小さな切開口を通してビデオ内視鏡と手術器具を使用するため,開腹下胆嚢摘出術と比べて侵襲性が少ない。回復期間もはるかに短く,術後疼痛も小さく,審美面の成績も改善された上,合併症発生率や死亡率が上昇することもない。腹腔鏡下胆嚢摘出術は4~8%(1)の症例で開腹下の手技に変更されるが,その理由は通常,胆道系の解剖を同定できないためか,あるいは合併症を管理できないためである。高齢者では一般的に,手術の種類に関係なくリスクが高くなっている。

胆嚢摘出術には,将来の胆道仙痛を効果的に予防する効果があるが,ディスペプシアなどの非典型的症状に対する有効性は低い。胆嚢摘出によって栄養面の問題が生じることはなく,術後の食事制限も不要である。一部の患者で下痢がみられるが,その多くは回腸における胆汁酸塩の吸収不良が顕在化したためである。予防的胆嚢摘出術は,無症状の胆石症患者において大きな(3cm以上)胆石または胆嚢の石灰化(磁器様胆嚢)がみられる場合に限り適応となる;これらの病態は胆嚢癌のリスクを高める。

胆石溶解療法

手術を拒否する患者や手術リスクの高い患者(例,併存疾患または高齢者などの理由ため)では,何カ月にもわたって胆汁酸を経口投与することにより,ときに胆嚢結石を溶解させることが可能となる。この治療に最適な対象は,X線透過性の小さい結石(コレステロールで構成される可能性が高い)があり,胆嚢に閉塞がなく機能が維持されている(胆道シンチグラフィーで正常な充満を確認するか,胆嚢頸部に結石のないことを確認する)患者である。

ウルソデオキシコール酸を経口投与すると,直径0.5cm未満の微小結石の80%が6カ月以内に溶解する(2)。より大きな結石(大多数)では,たとえウルソデオキシコール酸をより高用量で使用しても,成功率ははるかに低くなる。さらに,溶解療法が成功した後も,5年以内に50%の患者で結石が再発する。したがって,大半の患者で,腹腔鏡下胆嚢摘出術が好まれる。ただし,肥満外科手術後または超低カロリー食により急速に体重が減少している病的肥満の患者では,ウルソデオキシコール酸の経口投与が結石形成の予防に役立つ可能性がある。

結石破砕法(体外衝撃波砕石術)は,結石の溶解と排除を促進するが,めったに行われない。

治療に関する参考文献

  1. 1.European Association for the Study of the Liver (EASL): EASL Clinical Practice Guidelines on the prevention, diagnosis and treatment of gallstones.J Hepatol 65(1):146-181, 2016. doi: 10.1016/j.jhep.2016.03.005

  2. 2.Portincasa P, Di Ciaula A, Bonfrate L, et al: Therapy of gallstone disease: What it was, what it is, what it will be.World J Gastrointest Pharmacol Ther 3(2):7-20, 2012. doi: 10.4292/wjgpt.v3.i2.7

胆石症の予後

胆石を有する無症状の患者では,年に約2%のペースで症状が出現するようになる(1)。最も一般的な症状は,胆道系の重大な合併症ではなく,胆道仙痛である。胆道系の症状が一旦出現すると,再発の可能性が高く,年に20~40%の患者で疼痛が再発し,約1~2%で,胆嚢炎総胆管結石症胆管炎胆石性膵炎などの合併症が発生する(2)。

予後に関する参考文献

  1. 1.European Association for the Study of the Liver (EASL): EASL Clinical Practice Guidelines on the prevention, diagnosis and treatment of gallstones.J Hepatol 65(1):146-181, 2016. doi: 10.1016/j.jhep.2016.03.005

  2. 2.Friedman GD, Raviola CA, Fireman B: Prognosis of gallstones with mild or no symptoms: 25 years of follow-up in a health maintenance organization.J Clin Epidemiol 1989;42(2):127-36.doi: 10.1016/0895-4356(89)90086-3

要点

  • 胆石がよくみられるが,80%は無症状である。

  • 腹部超音波検査では,胆嚢結石の検出において95%の感度および特異度を備えている。

  • 症状(通常は胆道仙痛)が一旦発生すると,1年に20~40%のペースで疼痛の再発がみられる。

  • 症状のある胆石患者の大半は腹腔鏡下胆嚢摘出術で治療する。

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