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消化管出血の概要

執筆者:

Parswa Ansari

, MD, Hofstra Northwell-Lenox Hill Hospital, New York

レビュー/改訂 2019年 10月
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吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常, 消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍が Helicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内... さらに読む 消化性潰瘍 血管病変 消化管の血管性病変 よく知られた複数の先天性または後天性の症候群は,消化管の粘膜または粘膜下の血管異常を伴う。これらの血管は再発性出血を引き起こすことがあるが,大出血はまれである。診断は内視鏡検査のほか,ときに血管造影による。治療は内視鏡的止血術により,ときに血管造影による塞栓術または外科的切除が必要になることがある。... さらに読む 消化管の血管性病変 ,または 静脈瘤 静脈瘤 静脈瘤は,門脈圧亢進症に起因する下部食道または近位胃の静脈拡張で,門脈圧亢進症の原因は典型的には肝硬変である。大出血することがあるが,他には何も症状を引き起こさない。診断は上部消化管内視鏡検査による。治療は主に内視鏡的結紮術およびオクトレオチド静脈内投与による。ときに経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術を行う必要がある。... さらに読む 静脈瘤 である。コーヒー残渣様嘔吐では,コーヒーの出がらしに似た暗褐色で顆粒状の吐物がみられる。これは上部消化管出血のうち緩徐なものやすでに止血したものに起因し,赤色のヘモグロビンが胃酸によって褐色のヘマチンに変化したものである。

血便は,肛門から肉眼的な血液の排出がみられる症状であり,通常は下部消化管出血を示唆するが,激しい上部消化管出血で血液が腸管を急速に通過することで生じる場合もある。

黒色便は,黒色のタール便がみられる症状であり,典型的には上部消化管出血を示唆するが,小腸または右側結腸が出血源である場合もある。黒色便には約100~200mLの上部消化管出血が必要で,止血後も黒色便が数日間続くことがある。潜血が認められない黒い便は,鉄,ビスマス,種々の食物の摂取に起因すると考えられ,黒色便と間違えてはならない。

慢性的な潜在性出血は,消化管のいずれの部位でも生じる可能性があり,便検体の化学的検査で検出できる。

消化管出血の病因

考えられる原因は多数あるが( Professional.see table 消化管出血の一般的な原因 消化管出血の一般的な原因 消化管出血の一般的な原因 ),それらは上部消化管(トライツ靱帯より上),下部消化管,および小腸に分けられる。

慢性肝疾患の患者(例, アルコール性肝疾患 アルコール性肝疾患 欧米諸国の大半ではアルコール摂取量が高くなっている。精神疾患の診断・統計マニュアル DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)によると,米国では任意の12カ月という期間で8... さらに読む アルコール性肝疾患 慢性肝炎 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は肝炎が6カ月以上続く場合をいう。一般的な原因としては,B型およびC型肝炎ウイルス,非アルコール性脂肪肝炎(NASH),アルコール性肝疾患,自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎)などがある。多くの患者では急性肝炎の病歴がなく,最初の徴候は無症候性のアミノトランスフェラーゼ高値である。受診時から肝硬変やその合併症(例,門脈圧亢進症)がみ... さらに読む ),遺伝性凝固障害の患者,および特定の薬物を使用している患者では,原因にかかわらず出血を起こしやすく,発生時の重症度も高くなる。消化管出血に関連する薬剤として,抗凝固薬(例,ヘパリン,ワルファリン),血小板機能に影響を及ぼす薬剤(例,アスピリンおよびその他の非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],クロピドグレル,選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]),粘膜防御に影響を及ぼす薬剤(例,NSAID)などがある。

消化管出血の評価

診断的評価の前および評価中は,気道管理,輸液,または輸血による安定化が不可欠である。

病歴

現病歴の聴取では,出血の量および頻度を突き止めるよう努めるべきである。しかしながら,少量(5~10mL)の出血でも便器の水は不透明な赤色となり,また中等量の嘔吐した血液でも不安な患者には大量に見えるため,出血量の評価は難しい可能性がある。しかしながら,多くの場合,縞状の血液,スプーン数杯分の血液,および凝血塊の鑑別は可能である。

吐血患者では,吐血は初回の嘔吐に伴ってか,または初回(もしくは数回)の非血性嘔吐後に初めて吐血したのかを尋ねるべきである。さらに,患者が吐血と喀血を混同する可能性があるため,医師はこれら2つの症状を鑑別するために具体的な問診を行うべきである。

下血の患者では,血液のみが出たのか,血液が便,膿,粘液と混ざっていたのか,単に便やトイレットペーパーに血液が付着していたのかについて尋ねるべきである。血性下痢の患者では,旅行,または消化管病原体への曝露の他の可能性について尋ねるべきである。

症状把握(review of symptoms)には,腹部不快感,体重減少,出血または皮下出血の傾向,以前の大腸内視鏡検査あるいは内視鏡検査の結果,および貧血の症状(例,脱力,易疲労性,めまい)を含めるべきである。

既往歴の聴取では,消化管出血(診断または未診断)の既往,既知の炎症性腸疾患,出血性素因,肝疾患,および出血または慢性肝疾患の可能性を増加させる薬物の使用(例,アルコール)について尋ねるべきである。

身体診察

全身状態の観察では,バイタルサインならびにショックまたは循環血液量減少(例,頻脈,頻呼吸,蒼白,発汗,乏尿,錯乱)および貧血(例,蒼白,発汗)の他の指標に焦点を置くべきである。出血がそれほど重度でない患者では,軽度の頻脈(心拍数100超)がみられるだけの場合もある。

2単位以上の急性失血後には,しばしば起立時に脈拍(10回/分を超える変化)または血圧(10mmHg以上の低下)変化がみられる。しかしながら,重度の出血患者においては起立性変化の測定は賢明な手段ではなく(失神を引き起こす可能性がある),一般に循環血液量の尺度としては感度・特異度ともに低い(特に高齢患者の場合)。

出血性疾患の外部徴候(例,点状出血,斑状出血)がないか検討するとともに,慢性肝疾患の徴候(例,くも状血管腫,腹水,手掌紅斑)および門脈圧亢進症の徴候(例,脾腫,腹壁静脈拡張)がないか検討する。

便色,腫瘤,裂傷を調べるために直腸指診を行う必要がある。痔を診断するために肛門鏡検査を行う。肉眼的な血便がなければ,化学的便潜血検査を行って診察を完了する。

警戒すべき事項(Red Flag)

いくつかの所見は,循環血液量減少または出血性ショックを示唆する:

  • 失神

  • 低血圧

  • 蒼白

  • 発汗

  • 頻脈

所見の解釈

約50%の患者では病歴聴取と身体診察で診断が示唆されるが,それらの所見だけで診断を下せることはまれであり,確定診断のための検査が必要である。

食事または制酸薬で軽減する心窩部不快感は 消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍が Helicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内... さらに読む 消化性潰瘍 を示唆する。しかしながら,出血性潰瘍患者の多くは疼痛の既往がない。体重減少および食欲不振は,便の変化の有無にかかわらず,消化器癌を示唆する。肝硬変または慢性肝炎の既往は 食道静脈瘤 静脈瘤 静脈瘤は,門脈圧亢進症に起因する下部食道または近位胃の静脈拡張で,門脈圧亢進症の原因は典型的には肝硬変である。大出血することがあるが,他には何も症状を引き起こさない。診断は上部消化管内視鏡検査による。治療は主に内視鏡的結紮術およびオクトレオチド静脈内投与による。ときに経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術を行う必要がある。... さらに読む 静脈瘤 を示唆する。 嚥下困難 嚥下困難 嚥下困難とは,嚥下が困難になった状態である。この病態は,咽頭から胃への液体,固形物,またはその両方の輸送阻害に起因する。嚥下困難を球感覚と混同してはならず, 球感覚は咽喉に塊があるような異常感覚であり,嚥下障害ではなく,輸送障害も生じない。 ( 食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。)... さらに読む 食道癌 食道癌 食道の近位3分の2で最もよくみられる悪性腫瘍は扁平上皮癌であり,遠位3分の1では腺癌が最も多くみられる。症状は進行性の 嚥下困難および体重減少である。診断は内視鏡検査により,続いて病期診断のためにCTおよび超音波内視鏡検査を施行する。治療は病期によって異なり,一般に外科手術で,場合によって化学療法および放射線療法を併用する。長期生存率は限... さらに読む 食道癌 または食道狭窄を示唆する。出血発生前の嘔吐およびレッチングは, マロリー-ワイス症候群 マロリー-ワイス症候群 マロリー-ワイス症候群は,嘔吐,レッチング,または吃逆に起因する下部食道および近位胃の非穿孔性粘膜裂傷である。 ( 食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。) この画像には,扁平円柱上皮接合部の直上から始まり口側に伸びる細い線状の裂傷(矢印)が写っている。 マロリー-ワイス症候群は,当初はアルコール使用障害の患者で報告されたが,激しい嘔... さらに読む マロリー-ワイス症候群 の食道裂傷を示唆するが,マロリー-ワイス症候群患者の約50%には,この病歴が認められない。

出血の既往(例,紫斑,斑状出血,血尿)は, 出血性素因 凝固障害の概要 異常出血は 血液凝固系の障害, 血小板障害,または 血管障害により生じる。凝固障害には,後天性のものと遺伝性のものがある。 後天性凝固障害の主要な原因は以下のものである: ビタミンK欠乏症 肝疾患 播種性血管内凝固症候群(DIC) さらに読む (例,血友病,肝不全)を示唆している可能性がある。血性下痢,発熱,および腹痛は, 虚血性大腸炎 虚血性大腸炎 虚血性大腸炎は,大腸への血流が一過性に減少することにより生じる病態である。診断はCTまたは大腸内視鏡検査による。治療は輸液,腸管安静,および抗菌薬投与による支持療法である。 壊死が起こることがあるが,通常は粘膜内と粘膜下層に限局し,外科手術を要する全層壊死が起こることはごくまれである。虚血性大腸炎は主に高齢者(60歳以上)にみられ,小型血... さらに読む 虚血性大腸炎 炎症性腸疾患 炎症性腸疾患の概要 炎症性腸疾患(IBD)は,消化管の様々な部位で再燃と寛解を繰り返す慢性炎症を特徴とする病態であり,下痢および腹痛を引き起こし, クローン病と 潰瘍性大腸炎が含まれる。 消化管粘膜における細胞性免疫応答により炎症が生じる。炎症性腸疾患の正確な病因は不明であるが,多因子性の遺伝的素因を有する患者において,腸内常在菌叢が異常な免疫反応を引き起こ... さらに読む (例, 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎 潰瘍性大腸炎は,大腸粘膜を侵す炎症性かつ潰瘍性の慢性疾患で,ほとんどの場合に血性下痢を特徴とする。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。結腸癌の長期リスクが非罹患者と比較して高くなる。診断は大腸内視鏡検査による。治療はメサラジン,コルチコステロイド,免疫調節薬,生物製剤,および抗菌薬のほか,ときに手術である。... さらに読む 潰瘍性大腸炎 クローン病 クローン病 クローン病は,全層性炎症性腸疾患を引き起こす慢性疾患であり,通常は遠位回腸と結腸を侵すが,消化管のいかなる部位にも発生しうる。症状としては下痢や腹痛などがある。膿瘍,内瘻孔,外瘻孔,および腸閉塞が発生することがある。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。診断は大腸内視鏡検査および画像検査による。治療はメサラジン,コル... さらに読む クローン病 )または感染性大腸炎(例, Shigella 細菌性赤痢 細菌性赤痢は,グラム陰性菌である赤痢菌(Shigella)属細菌による腸管の急性感染症である。症状は発熱,悪心,嘔吐,しぶり腹,下痢などであり,下痢は通常血性である。診断は臨床的に行い,便培養で確定する。軽症例の治療は支持療法(主に水分補給)による;中等症から重症の患者と血性下痢または易感染状態がみられる高リスク患者には抗菌... さらに読む 属, Salmonella 非チフス性サルモネラ(Salmonella)感染症 チフス以外のSalmonella属細菌は,主として胃腸炎,菌血症,および局所感染症を引き起こすグラム陰性細菌である。症状は下痢,極度の疲労を伴う高熱,局所感染症状などである。診断は血液,便,または病変部の検体の培養による。適応がある場合の治療は,トリメトプリム/スルファメトキサゾール,シプロフロキサシン,アジスロマイシン,またはセフトリア... さらに読む 非チフス性サルモネラ(<i >Salmonella</i>)感染症 属, Campylobacter カンピロバクター(Campylobacter)および関連感染症 カンピロバクター(Campylobacter)感染症は,典型的には自然に治癒する下痢を引き起こすが,ときに菌血症を引き起こし,結果として心内膜炎,骨髄炎,または化膿性関節炎を呈することもある。診断は培養(通常は便培養)による。必要な場合の治療にはアジスロマイシンなどがある。... さらに読む 属, アメーバ症 アメーバ症 アメーバ症は,赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)による感染症である。糞口感染により発生する。感染症は一般的には無症状であるが,軽度の下痢から重度の赤痢まで様々な症状が生じることもある。腸管外感染症には肝膿瘍などがある。診断は便検体中の赤痢アメーバ(E... さらに読む )を示唆する。血便は 憩室症 大腸憩室症 大腸憩室症とは,結腸に1つまたは複数の憩室が存在する状態である。大半の憩室は無症候性であるが,炎症または出血を引き起こすものもある。診断は大腸内視鏡検査,カプセル内視鏡検査,下部消化管造影,CT,またはMRIによる。無症候性の憩室症には治療は必要ない。症状が現れた場合の治療は,臨床像に応じて異なる。... さらに読む 大腸憩室症 または 血管異形成 消化管の血管性病変 よく知られた複数の先天性または後天性の症候群は,消化管の粘膜または粘膜下の血管異常を伴う。これらの血管は再発性出血を引き起こすことがあるが,大出血はまれである。診断は内視鏡検査のほか,ときに血管造影による。治療は内視鏡的止血術により,ときに血管造影による塞栓術または外科的切除が必要になることがある。... さらに読む 消化管の血管性病変 を示唆する。トイレットペーパーまたは有形便の表面にのみ付着する鮮血は 内痔核 痔核 痔核は,肛門管において直腸静脈叢の血管が拡張したものである。症状としては刺激感や出血などがある。血栓性痔核は通常,疼痛を伴う。診断は視診または肛門鏡検査による。治療は対症療法,またはゴム輪結紮術,硬化剤注入療法,赤外線光凝固術,あるいはときに手術による。 ( 肛門直腸疾患の評価も参照のこと。)... さらに読む 痔核 または 裂肛 裂肛 裂肛は,肛門管の扁平上皮における急性の縦走する裂傷,または慢性の卵円形の潰瘍である。重度の疼痛を特に排便時に引き起こし,ときに出血を伴う。診断は視診による。治療は,局所の清潔,便軟化剤,外用療法のほか,ときにボツリヌス毒素注射および/または外科的手技である。 ( 肛門直腸疾患の評価も参照のこと。)... さらに読む 裂肛 を示唆するのに対し,便と混在している血液はより近位の出血源を示唆する。便潜血は, 結腸癌 大腸癌 大腸癌は極めてよくみられる。症状としては血便や排便習慣の変化などがある。いくつかある方法のうち1つを用いたスクリーニングを,適切な集団に対して行うことが推奨される。診断は大腸内視鏡検査による。治療は外科的切除とリンパ節転移に対する化学療法である。 米国では,大腸癌の年間症例数は推定147... さらに読む 大腸癌 または結腸 ポリープ 結腸および直腸のポリープ 腸管ポリープとは,腸壁から発生して内腔に突出する組織塊の総称である。少量の出血(通常は潜血)があることを除いては,ほとんどが無症状である。最大の懸念事項は悪性化であり,ほとんどの 結腸癌は,以前は良性であった腺腫性ポリープに由来する。診断は内視鏡検査による。治療は内視鏡的切除である。... さらに読む 結腸および直腸のポリープ の最初の徴候である場合があり,特に45歳以上の患者ではその可能性がある。

鼻血または咽頭を伝わる血液は出血源として上咽頭を示唆する。くも状血管腫,肝脾腫,腹水は,慢性肝疾患と一致することから,食道静脈瘤の可能性がある。動静脈奇形,特に粘膜の動静脈奇形は, 遺伝性出血性毛細血管拡張症 遺伝性出血性毛細血管拡張症 遺伝性出血性毛細血管拡張症は,遺伝性の血管奇形疾患で,常染色体優性形質で遺伝し,男女を問わず発生する。 ( 血管性の出血性疾患の概要も参照のこと。) 80%を超える患者が以下の遺伝子の1つに変異を有する( 1): 形質転換増殖因子β1(TGF-β1)および形質転換増殖因子β3の受容体をコードするエンドグリン( さらに読む 遺伝性出血性毛細血管拡張症 (Rendu-Osler-Weber症候群)を示唆する。皮膚の爪床および消化管の毛細血管拡張症は, 全身性強皮症 全身性強皮症 全身性強皮症は,皮膚,関節,および内臓(特に食道,下部消化管,肺,心臓,腎臓)におけるびまん性の線維化および血管異常を特徴とする,原因不明のまれな慢性疾患である。一般的な症状としては,レイノー現象,多発性関節痛,嚥下困難,胸やけ,腫脹などがあり,最終的には皮膚の硬化と手指の拘縮が起こる。肺,心臓,および腎臓の病変がほとんどの死亡の原因であ... さらに読む 全身性強皮症 または 混合性結合組織病 混合性結合組織病(MCTD) 混合性結合組織病は,全身性エリテマトーデス,全身性強皮症,および多発性筋炎の臨床所見を特徴とし,リボ核タンパク質抗原に対する血中の抗核抗体価が著しく上昇する,特異的に定義されるまれな症候群であり。手の腫脹,レイノー症候群,多発性関節痛,炎症性ミオパチー,食道運動の減弱,および間質性肺疾患がよくみられる。診断は,臨床的特徴,リボ核タンパク質... さらに読む 混合性結合組織病(MCTD) を示唆している可能性がある。

検査

疑われる診断を確定するための補助として,いくつかの検査を行う。

  • 血算,凝固検査のほか,しばしばその他の臨床検査

  • 軽微な下血を除く全例に経鼻胃管

  • 上部消化管出血の疑いには上部消化管内視鏡検査

  • 下部消化管出血(原因が明らかに痔核の場合は除く)に対しては大腸内視鏡検査

大出血または潜血陽性がみられる患者には,血算を行うべきである。より有意な出血を呈する患者には,凝固検査(例,血小板数,プロトロンビン時間[PT],部分トロンボプラスチン時間[PTT])および肝機能検査(例,ビリルビン,アルカリホスファターゼ,アルブミン,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST],アラニンアミノトランスフェラーゼ[ALT]も行う必要がある。出血が持続する場合は,血液型検査および交差適合試験を施行する。重度出血の患者では,ヘモグロビンおよびヘマトクリットの測定を最大6時間毎の頻度で繰り返してもよい。さらに,典型的には少なくとも1つの診断手技を行う必要がある。

上部消化管出血が疑われる患者(例,吐血,コーヒー残渣様吐物,黒色便,大量下血)の全例で,経鼻胃管吸引および洗浄を行うべきである。血液の混入した経鼻胃管吸引物は活動性の上部消化管出血を示唆するが,上部消化管出血患者の約10%では経鼻胃管吸引物中に血液の混入が認められない。コーヒー残渣様物質は,出血速度が遅いか,止血していることを示唆する。出血の徴候がなく胆汁が吸引される場合は経鼻胃管を抜去し,それ以外の場合は,持続性または再発性出血のモニタリングのためそのまま留置する。非出血性,非胆汁性の吸引物は診断に役立たないと考えられる。

上部消化管出血を調べるために,上部消化管内視鏡検査(食道,胃,十二指腸の診察)を行うべきである。内視鏡検査は診断に加えて治療にも使用できるため,有意な出血に対しては迅速に行うべきであるが,出血が止まった場合や極めて少ない場合には24時間延長してもよい。バリウムによる上部消化管X線撮影は,急性出血には有用ではないばかりか,使用した造影剤によって,その後に試みた血管造影が不明瞭になることがある。血管造影は,上部消化管出血の診断に有用であり,特定の治療手技(例,塞栓術,血管収縮薬の注入)を可能にする。

痔出血に典型的な症状を有する患者で緊急に必要となるのは,S状結腸内視鏡検査および肛門鏡検査だけであると考えられる。それ以外の血便患者では全例に大腸内視鏡検査を行うべきであり,有意な持続性出血がある場合を除き,ルーチンの前処置後に待機的に施行できる。これらの患者では,迅速な前処置(ポリエチレングリコール溶液5~6Lを経鼻胃管または経口にて3~4時間かけて投与)で,しばしば十分な観察が可能である。大腸内視鏡検査で出血源を観察できず,持続性出血の速度が十分に速い場合(0.5~1mL/min超),血管造影で出血源が同定されることがある。血管造影の施行者によっては,検査の的を絞るために最初に核医学検査を行うこともあり,これは核医学検査と比較して血管造影の感度が低いためである。American College of Gastroenterologyによる急性下部消化管出血患者の管理に関する2016年版ガイドラインでは出血部位を同定するために血管造影や手術の前にCT血管造影の施行が提案されている。

便潜血陽性は消化管のいずれの部位の出血にも起因する可能性があるため,潜血の診断は困難なことがある。望ましい検査法は内視鏡検査であり,上部または下部消化管のいずれを最初に検査するかは症状によって決まる。大腸内視鏡検査を施行できない場合または患者が拒否した場合には,下部消化管に対して二重造影法による下部消化管造影およびS状結腸鏡検査を施行することができる。

上部消化管内視鏡検査および大腸内視鏡検査の結果が陰性で便潜血が持続している場合は,上部消化管造影と小腸造影,CT小腸造影,小腸内視鏡検査(小腸鏡検査),カプセル内視鏡検査(錠剤様の小型カメラを飲み込んで用いる),ならびにテクネチウム標識コロイドまたは赤血球シンチグラフィー,血管造影を考慮すべきである。カプセル内視鏡検査の有用性は,活動性出血のある患者では限定的となる。

消化管出血の治療

  • 必要であれば気道確保

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)

  • 必要であれば輸血

  • ときに薬剤

  • 場合によっては,内視鏡下または血管造影下の止血術

(American College of Gastroenterology[ACG]による急性下部消化管出血患者の管理に関する診療ガイドライン,潰瘍性出血の管理に関する診療ガイドライン,小腸出血の診断および管理に関する診療ガイドラインも参照のこと。)

吐血,血便,黒色便は緊急事態とみなすべきである。重度の消化管出血では,集中治療室での管理と消化器専門医および外科医の両者によるコンサルテーションが全例に推奨される。全般的治療は気道維持および循環血液量の回復に向けられる。止血および他の治療は出血の原因によって異なる。

気道

活動性上部消化管出血の患者における合併症および死亡の主な原因は,血液の誤嚥とそれに続く呼吸障害である。これらの問題を予防するために,咽頭反射が不十分な患者と意識消失を含む意識障害がある患者については,特に上部消化管内視鏡検査を行う場合,気管挿管を考慮すべきである。

輸液蘇生および血液製剤の輸注

静脈内アクセスを直ちに確保すべきである。中心静脈カテーテルには,太い(8.5 Fr)シースを用いていない限り,肘部静脈に短い大口径(例,14~16ゲージ)静脈カテーテルを用いるのが望ましい。循環血液量減少または出血性ショックを呈する患者の全例に,直ちに輸液を開始する( Professional.see page 輸液蘇生(fluid resuscitation) 輸液蘇生(fluid resuscitation) ほぼ全ての循環 ショック状態では,重度の血管内容量減少(例,下痢または熱中症による)と同様に,大量の輸液が必要となる。血管内容量の欠乏は血管収縮によって強力に代償され,それに続いて,数時間に及ぶ血管外から血管内への体液移動があり,体内総水分量を費やして循環体液量が維持される。しかしながら,大量に体液が喪失されると,この代償機構では追いつか... さらに読む )。健康成人に対しては,循環血液量減少の徴候が緩和するまで生理食塩水500~1000mLずつを最大2Lまで静脈内投与する(小児に対しては20mL/kg,1回繰り返してもよい)。

さらに急速輸液を行う必要がある患者には,濃厚赤血球を輸血すべきである。輸血は,血管内容量が回復するまで継続し,その後,持続的な失血を補うために必要に応じて行う。高齢患者または冠動脈疾患患者に対する輸血は,患者に症状がある場合を除き,ヘマトクリットが30で安定すれば中止してもよい。若年患者または慢性出血患者に対する輸血は,ヘマトクリットが23未満,または呼吸困難もしくは冠動脈虚血などの症状を有する場合でない限り,通常は行わない。

血小板数を綿密にモニタリングすべきであり,重度出血では血小板輸血が必要になることがある。抗血小板薬(例,クロピドグレル,アスピリン)の使用患者では血小板機能異常が認められ,しばしば出血量が増加する。これらの薬剤の使用患者で重度の持続性出血が認められる場合には血小板輸血を考慮すべきであるが,循環血中の残留薬剤(特にクロピドグレル)によって輸血血小板が不活化される可能性がある。患者が最近の心血管系の適応のために抗血小板薬または抗凝固薬を服用している場合,可能であれば,その薬剤の中止,用量の減量,または血小板輸血の実施に先立ち心臓専門医へのコンサルテーションを行うべきである。

大量の輸血が必要な場合は,施設の大量輸血プロトコルに従って新鮮凍結血漿および血小板も濃厚赤血球とともに輸血すべきである。患者に凝固障害がある場合は,新鮮凍結血漿,またはプロトロンビン複合体製剤による是正も考慮すべきである。

薬剤

上部消化管出血の可能性がある場合はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の静注を開始すべきである。

静脈瘤出血が疑われる患者にはオクトレオチド(ソマトスタチンの合成アナログ)を使用する。オクトレオチドは,50μgの急速静注に続いて50μg/時で持続静注する。

止血

消化管出血は,約80%の患者で自然に止まる。残りの患者では何らかの介入が必要となる。特異的治療法は出血部位によって異なる。出血コントロールのための早期介入は,死亡率を最小限に抑えるために重要であり,特に高齢患者で重要である。

消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍が Helicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内... さらに読む 消化性潰瘍 では,持続性出血または再出血は内視鏡下の凝固止血(バイポーラ鉗子による電気凝固術,硬化剤注入療法,ヒータープローブ法,クリップ,レーザー)により治療する(1 治療に関する参考文献 消化管出血は,口腔から肛門までのいずれの部位でも発生する可能性があり,顕性の場合と不顕性の場合がある。臨床像は出血部位および出血速度によって異なる。( 静脈瘤および 消化管の血管性病変も参照のこと。) 吐血は,鮮紅色の血液を吐出する症状であり,上部消化管出血を示唆し,その出血源は通常,... さらに読む )。潰瘍のクレーター内に見える出血を起こしていない血管も治療する。内視鏡下の処置で止血できない場合は,血管造影下で出血血管の塞栓術を試みることができるが,さもなければ出血部位を縫合する外科手術が必要になる。消化性潰瘍性疾患に対する内科的治療にもかかわらず,出血を繰り返している場合は,同時に 胃酸分泌を減らすための外科的手技 手術 手術 を行う。

憩室 大腸憩室症 大腸憩室症とは,結腸に1つまたは複数の憩室が存在する状態である。大半の憩室は無症候性であるが,炎症または出血を引き起こすものもある。診断は大腸内視鏡検査,カプセル内視鏡検査,下部消化管造影,CT,またはMRIによる。無症候性の憩室症には治療は必要ない。症状が現れた場合の治療は,臨床像に応じて異なる。... さらに読む 大腸憩室症 または 血管腫 消化管の血管性病変 よく知られた複数の先天性または後天性の症候群は,消化管の粘膜または粘膜下の血管異常を伴う。これらの血管は再発性出血を引き起こすことがあるが,大出血はまれである。診断は内視鏡検査のほか,ときに血管造影による。治療は内視鏡的止血術により,ときに血管造影による塞栓術または外科的切除が必要になることがある。... さらに読む 消化管の血管性病変 に起因する重度かつ活動性の下部消化管出血は,ときに,大腸内視鏡下でのクリップ留置,電気焼灼,ヒータープローブ,または希釈アドレナリン含有溶液の注入による止血処置でコントロールできる(ACGによる急性下部消化管出血患者の管理に関する診療ガイドラインを参照)。ポリープは,スネアまたは焼灼により切除できる。これらの方法が無効または実行不能の場合は,血管造影と塞栓術またはバソプレシン静注の併用が奏効することがある。しかしながら,腸管への側副血行路は限られているため,超選択的カテーテル挿入法を用いない限り,血管造影では腸管虚血または腸梗塞のリスクが有意に高くなる。ほとんどの症例研究では,虚血性合併症の発生率は5%未満である。バソプレシン静注による止血成功率は約80%であるが,約50%の患者で出血が再発する。また,高血圧および冠動脈虚血のリスクもある。血管造影は,さらに出血源をより正確に特定するために用いることができる。

下部消化管出血が持続する患者(6単位を超える輸血が必要な場合)には外科手術を施行することができるが,出血部位の同定が非常に重要である。出血部位が同定できない場合は,結腸亜全摘術が推奨される。盲目的半結腸切除術(術前に出血部位を同定しない)は,特定された区域の切除よりも死亡リスクがはるかに高く,出血部位を切除できない可能性があり,再出血率は40%である。しかしながら,手術が不必要に遅延しないように評価を迅速に行う必要がある。10単位を超える濃厚赤血球輸血を受けた患者では,死亡率は約30%である。

治療に関する参考文献

老年医学的重要事項

高齢者における少量出血の最も一般的な原因は 痔核 痔核は,肛門管において直腸静脈叢の血管が拡張したものである。症状としては刺激感や出血などがある。血栓性痔核は通常,疼痛を伴う。診断は視診または肛門鏡検査による。治療は対症療法,またはゴム輪結紮術,硬化剤注入療法,赤外線光凝固術,あるいはときに手術による。 ( 肛門直腸疾患の評価も参照のこと。)... さらに読む 痔核 核と 大腸癌 大腸癌 大腸癌は極めてよくみられる。症状としては血便や排便習慣の変化などがある。いくつかある方法のうち1つを用いたスクリーニングを,適切な集団に対して行うことが推奨される。診断は大腸内視鏡検査による。治療は外科的切除とリンパ節転移に対する化学療法である。 米国では,大腸癌の年間症例数は推定147... さらに読む 大腸癌 である。大出血の原因で最も頻度が高いものは, 消化性潰瘍 消化性潰瘍 消化性潰瘍は,消化管粘膜の一部,典型的には胃(胃潰瘍)または十二指腸の最初の数cmの部分(十二指腸潰瘍)に生じるびらんで,粘膜筋板を貫通する。ほぼ全ての潰瘍が Helicobacter pylori感染症または非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の使用に起因する。典型的な症状として心窩部の灼熱痛があり,しばしば食事により軽減する。診断は内... さらに読む 消化性潰瘍 憩室性疾患 憩室性疾患の定義 憩室とは,管腔臓器から突出した袋状の粘膜構造である。 消化管の真性憩室は消化管壁の全層を備えている。 食道憩室および メッケル憩室は真性憩室である。 仮性憩室または偽憩室は,粘膜および粘膜下層が腸壁の筋層を越えて突出したものである。 大腸憩室は仮性憩室である。 英語では,単一の憩室はdiverticulum,複数の憩室はdiverticu... さらに読む ,および 血管異形成 消化管の血管性病変 よく知られた複数の先天性または後天性の症候群は,消化管の粘膜または粘膜下の血管異常を伴う。これらの血管は再発性出血を引き起こすことがあるが,大出血はまれである。診断は内視鏡検査のほか,ときに血管造影による。治療は内視鏡的止血術により,ときに血管造影による塞栓術または外科的切除が必要になることがある。... さらに読む 消化管の血管性病変 である。静脈瘤出血の頻度は若年患者と比べて低い。

大量の消化管出血は,高齢患者では耐えられないことがある。出血エピソードの反復にも耐えられる可能性が高い若年患者と比較して,より迅速な診断とより早期の治療開始が必要になる。

消化管出血の要点

  • 下血は上部または下部消化管出血により生じる。

  • バイタルサインの起立性変化は,重篤な出血のマーカーとしては信頼できない。

  • 吐血,血便,黒色便は緊急事態とみなして,集中治療室で管理すべきである。

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)を直ちに開始すべきであり,血液製剤の輸注が必要になることがある。

  • 約80%の患者で出血は自然に止まり,残りの患者では,様々な内視鏡的手技が通常第1選択である。

消化管出血についてのより詳細な情報

  • The American College of Gastroenterology’s practice guidelines on management of patients with acute lower GI bleeding

  • The American College of Gastroenterology’s practice guidelines on management of patients with ulcer bleeding

  • The American College of Gastroenterology's practice guidelines on diagnosis and management of small bowel bleeding

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