(気分障害の概要 気分障害の概要 精神障害のうち、長期間にわたり悲しみで過度に気持ちがふさぎ込む(うつ病)、喜びで過度に気持ちが高揚する(躁病)、またはその両方を示す感情的な障害を示す障害を気分障害といいます。うつ病と躁病は気分障害の両極にある状態です。 気分障害は感情障害とも呼ばれます。感情とは、顔の表情やしぐさによって表現される気持ちの状態を意味します。... さらに読む も参照のこと。)
双極性障害の発症には、おそらく遺伝も一部関与しています。
抑うつ状態と躁状態は、別々に生じることもあれば、同時に生じることもあります。
過度に気持ちがふさぎ込んで人生に興味がなくなる時期と、気分が高揚し、極端に活動的になって、しばしば易怒性を示す時期とが交互にみられ、その間に気分が比較的正常な時期がみられます。
診断は症状のパターンに基づいて下されます。
リチウムなどの気分を安定させる薬(気分安定薬)や特定の抗てんかん薬が役立つことがあり、ときに精神療法が役立ちます。
双極性障害には、 気分障害 気分障害の概要 精神障害のうち、長期間にわたり悲しみで過度に気持ちがふさぎ込む(うつ病)、喜びで過度に気持ちが高揚する(躁病)、またはその両方を示す感情的な障害を示す障害を気分障害といいます。うつ病と躁病は気分障害の両極にある状態です。 気分障害は感情障害とも呼ばれます。感情とは、顔の表情やしぐさによって表現される気持ちの状態を意味します。... さらに読む の両極にあたる 抑うつ状態 うつ病 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む と躁状態が含まれるため、この名前がつけられています。米国では人口の4%弱に何らかの程度の症状がみられます。 双極性障害の発生率に男女差はありません。双極性障害は通常、10代から30代までに発症します。 小児の双極性障害 小児と青年における双極性障害 双極性障害では、強烈な高揚感と興奮状態の時期(躁状態)と気分がふさぎ込んで落胆した時期(抑うつ状態)が交互に現れます。それぞれの時期の間は、気分が正常なことがあります。 小児は、興奮して幸せで活動的な状態から、ふさぎ込んで引きこもり、動作が緩慢になった状態、もしくは激怒と暴力に満ちた状態へと、急激に変わることがあります。 診断は症状と精神医学的検査の結果に基づいて下されます。... さらに読む はまれです。
ほとんどの双極性障害は次のように分類されます。
双極I型障害:完全な躁状態(通常の役割を果たすことができない、または妄想がみられる)が1回でもみられたことがあり、通常はうつ状態も経験しているが、その有無は問わない。
双極II型障害:うつ病のエピソードを複数回経験し、かつ軽い躁病(軽躁病)のエピソードを少なくとも1回経験したことがあるが、完全な躁病といえるエピソードは起きたことがない。
ただし、双極性障害に似た症状を示しながら、軽症であり、双極I型またはII型障害の具体的な診断基準を満たさない人もいます。このような状態は、特定不能の双極性障害または 気分循環性障害 気分循環性障害 気分循環性障害では、比較的軽度で短期間の高揚(軽躁状態)と軽度で短期間の悲しみ(うつ状態)が交互にみられます。 気分循環性障害は 双極性障害と似ていますが、それほど重度ではありません。気持ちの高揚や悲しみの程度は比較的軽く、典型的には数日間しか続きませんが、不規則な間隔でかなり頻繁に再発します。この病気が悪化して双極性障害に発展したり、極端な気分の変動が続いたりすることもあります。... さらに読む と分類される場合があります。
双極性障害の原因
双極性障害の正確な原因は分かっていません。双極性障害の発症には遺伝が関与していると考えられています。また、体内で作られる特定の物質(ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質)が正常に調節されていない可能性があります。(神経伝達物質は神経細胞が情報を伝達する際に必要な物質です。)
ときに、ストレスを感じる出来事の後に双極性障害を発症することがあり、また、そのような出来事が再発の引き金になることもあります。ただし、因果関係は証明されていません。
甲状腺ホルモンの量が過剰になる 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少、排便回数の増加などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む など、その他の特定の病気に伴って、双極性障害の躁症状が現れることがあります。また躁病エピソードは、 コカイン コカイン コカインは、植物のコカの葉から作られる、依存性のある中枢刺激薬です。 コカインは、強い覚醒作用があり、人々に多幸感をもたらし、自分たちには力があると感じさせる強い刺激物です。 大量に摂取すると、 心臓発作や 脳卒中など、生命を脅かす重篤な病態を引き起こす可能性があります。 診断は尿検査により確定します。 ロラゼパムなどの鎮静薬を静脈内投与すると多くの症状が軽減します。 さらに読む や アンフェタミン類 アンフェタミン類 アンフェタミン類は、特定の病状の治療に使用される中枢刺激薬ですが、乱用されることもあります。 アンフェタミン類には覚醒作用があり、身体機能を高め、高揚感や幸福感をもたらします。 アンフェタミン類には食欲を抑える作用があるため、体重を減らす目的で不適切にアンフェタミン類を使用する人もいます。 過剰摂取により異常な興奮、せん妄、生命を脅かすほどの体温上昇、 心臓発作や 脳卒中が起こることがあります。... さらに読む などの薬物が原因や引き金になって起こることもあります。
双極性障害の症状
双極性障害では、症状がある時期(エピソード)とほとんどない時期(寛解期)が交互にみられます。1回のエピソードは数週間から3~6カ月間続きます。エピソードの始まりから次のエピソードの始まりまでの期間をサイクルといい、その長さは様々です。まれにしかエピソードがみられない人もいれば(生涯に数回のみ)、毎年4回以上のエピソードがみられる人(急速交代型と呼ばれます)もいます。このように大きなばらつきがありますが、それぞれの患者の中ではサイクルに比較的一貫性がみられます。
エピソードには、うつ状態、躁状態、軽度の躁状態(軽躁状態)があります。各サイクルの中で躁状態とうつ状態が交互に入れ替わる人は少数だけで、たいていの場合、躁状態とうつ状態の一方が優勢にみられます。
双極性障害の人は 自殺 自殺行動 自殺とは、死に至るように計画した、自身に害をなす、意図的な行為によって命を経つことです。自殺行動には、自殺既遂、自殺企図(自殺未遂のこと)、および希死念慮が含まれます。 自殺は多くの要因の相互作用の結果として生じるのが通常で、その中でも うつ病が最も一般的かつ重大ですが、これだけが自殺の危険因子というわけではありません。... さらに読む を試みたり、実際に自殺したりすることがあります。生涯全体で見ると、一般の人と比べて少なくとも15倍、自殺で死亡する可能性が高くなります。
うつ状態
双極性障害のうつ状態は、 うつ病 症状 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む が単独で生じる場合と似ています。強い悲しみを感じ、日常の活動に対する興味が失われます。思考や動作が緩慢になり、通常よりも睡眠時間が長くなることがあります。食欲が増加したり、低下したりすることがあり、体重が増加したり、減少したりすることがあります。絶望感や罪悪感に圧倒されることもあります。集中できなくなったり、決断ができなくなったりすることもあります。
躁状態
躁状態のエピソードはうつ状態よりも急に終わり、一般的に短く、1週間余りしか続きません。
いきいきとして、目に見えて元気にあふれ、気分が高揚したり、怒りやすくなったりします。また、自信過剰になり、浪費したり派手な服装をしたりし、ほとんど眠らなくなり、普段よりも口数が多くなります。また、様々な考えが次々と浮かんできます。気が散りやすく、あるテーマや試みから別のものへと絶えず関心の対象が変わります。散財やけがといった起こりうる結果について考えることなく、次々と様々な活動(リスクの高いビジネス、ギャンブル、危険な性行動など)を追い求めます。しかし、しばしば自分は最高の精神状態にあると思っています。
自分の病状に対する認識が欠如しています。この認識の欠如に加えて、様々な活動をせわしなく行うため、せっかち、出しゃばり、おせっかいになり、邪魔をされるとかんしゃくを起こすなどの問題がみられます。その結果、対人関係に問題が生じたり、不当に扱われている、迫害を受けているなどと思い込んだりします。
幻覚が生じて、現実には存在しないものを見たり聞いたりする人もいます。
躁病性精神病は、躁状態が極端に現れる病気です。躁病性精神病になると、 統合失調症 統合失調症 統合失調症は、現実とのつながりの喪失(精神病症状)、幻覚(通常は幻聴)、妄想(誤った強い思い込み)、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下、日常生活(仕事、対人関係、身の回りの管理など)の問題を特徴とする精神障害です。 統合失調症については、その原因もメカニズムも分かっていません。 症状は様々で、奇異な行動、とりとめのない支離滅裂な発言、感情鈍麻、寡黙、集中力や記憶力の低下など、多岐にわたります。... さらに読む でみられるのと似た精神病症状が現れます。自分はキリストの生まれ変わりだなどと、極端な誇大妄想を抱くことがあります。迫害を受けていて、連邦捜査局(FBI)に追われているなどと思い込む場合もあります。活動レベルが著しく高まり、走り回ったり、金切り声をあげたり、人をののしったり、歌を歌ったりすることがあります。精神的にも身体的にも狂乱状態に陥り、一貫性のある思考や行動が完全に失われ(せん妄躁病)、極度の疲労感に襲われることもあります。このような場合は早急に治療する必要があります。
軽躁病
軽躁病の症状は躁病ほど重くありません。軽躁病の人は、元気がよく、あまり睡眠を必要とせず、心身ともに活発です。
一部の人にとっては、軽躁状態は生産的な時間となります。活気にあふれ、創造的で自信に満ち、社会の中で存分に役割を果たすことができます。この心地よい状態を終わらせたくないと望むこともあります。しかし、注意が散漫になり、怒りやすくなり、ときに怒りを爆発させる人もいます。しばしば守れない約束をしたり、完遂できない計画に着手したりします。また、気分が目まぐるしく変わります。軽躁病の人は、このような影響を認識していて、周囲の人々と同様に悩んでいる場合もあります。
混合性エピソード
うつ状態と躁状態または軽躁状態が一度に発生すると、高揚している最中に涙ぐんだり、うつ状態の最中にとりとめのない考えが次々と浮かんできたりします。就寝時はうつ状態にあったのに、早朝に意気揚々と元気に目覚めることもしばしばみられます。
混合性エピソードの最中は自殺のリスクが特に高くなります。
双極性障害の診断
医師による評価
ときに、ほかの病気を除外するための血液検査と尿検査
双極性障害の診断は、具体的な症状のリスト(基準)に基づいて下されます。しかし、躁病の人は何も悪いところはないと思っているため、医師に症状を正確に知らせないことがあります。そのため、多くの場合、医師は家族から情報を得る必要があります。患者と家族に短い質問票に回答してもらうことが、双極性障害のリスクの評価に役立ちます(気分障害の質問票[Mood Disorder Questionnaire]を参照)。
医師は自殺について考えることがないかも尋ねます。
医師は服用中の薬を確認し、症状の一因になっているものがないかを調べます。また、症状の一因になる他の病気の徴候がないかも確認します。例えば、 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は甲状腺が働きすぎている状態で、甲状腺ホルモンの値が高く、身体の重要な機能が働く速度が上昇します。 バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最もよくみられます。 心拍数と血圧の上昇、不整脈、過剰な発汗、神経質や不安、睡眠障害、意図しない体重減少、排便回数の増加などの症状がみられます。 診断は血液検査により確定されます。 甲状腺機能亢進症の管理には、チアマゾールまたはプロピルチオウラシルが用いられます。 さらに読む の有無を調べる血液検査や、薬物乱用の有無を調べる血液または尿の検査を行います。
適切な治療を行うため、医師はその時点で患者がうつ状態と躁状態のどちらにあるかを判断します。
双極性障害の治療
薬
精神療法(心理療法)
教育と支援
重度のうつ状態や躁状態では、しばしば入院が必要になります。躁状態がそれほど重度ではない場合でも、自殺のおそれがある場合、自身や他人を傷つけようとする場合、身の回りのことができない場合、ほかに深刻な問題(アルコール使用障害 飲酒 アルコール(エタノール)は、中枢神経系の機能を抑制します(脳と神経系の働きを遅くします)。急激または定期的に大量の飲酒をすると、臓器の損傷、昏睡、死亡などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 アルコール関連障害の発症には遺伝的な特性や個人的な性質が関与している場合があります。 アルコールを飲みすぎると、眠くなったり攻撃的になり、運動協調や精神機能が損なわれたり、仕事、家族関係、その他の活動が妨げられたりします。... さらに読む やその他の 物質使用障害 物質使用障害 物質使用障害では一般に、ある物質(例えば、レクリエーショナルドラッグ)の使用により問題が生じているにもかかわらず、その使用を継続する行動パターンがみられます。 そのような物質は、以下のような物質関連障害の典型的な原因として知られる10種類の薬物のいずれかであることが多いです。 アルコール 抗不安薬と鎮静薬 カフェイン さらに読む など)がある場合は、入院が必要になることもあります。ほとんどの場合、軽躁病は外来で治療可能です。急速交代型の場合は治療がより困難になります。治療せずに放置すると、双極性障害はほぼ例外なく再発します。
治療法には以下のものがあります。
リチウムなどの気分安定薬(気分を安定させる薬)や一部の抗てんかん薬
抗精神病薬
特定の抗うつ薬
精神療法
教育と支援
光療法 光療法 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む (季節性感情障害 症状を特定するための用語 遷延性悲嘆症についての短い考察。 うつ病とは、悲しみを感じたり、活動に対する興味や喜びが減少したりする症状がその人の社会生活を困難にするほど強くなり、病気になった状態です。喪失体験などの悲しい出来事の直後に生じることがありますが、悲しみの程度がその出来事とは不釣り合いに強く、妥当と考えられる期間より長く持続します。 遺伝、薬の副作用、つらい出来事、ホルモンなど体内の物質の量の変化、その他の要因がうつ病の一因になる可能性があります。... さらに読む の一般的な特徴を伴う季節性双極性障害の治療に役立つことがある)
リチウム
リチウムには躁状態とうつ状態の症状を軽減する作用があります。リチウムは多くの双極性障害患者で気分の変動を予防するのに役立ちます。リチウムは効果が出始めるまでに4~10日かかるため、しばしば抗てんかん薬や新しい抗精神病薬(第2世代抗精神病薬)など即効性のある薬剤を併用して、興奮した思考や行動をコントロールします。典型的な双極性障害の家族歴がある人では、リチウムで効果が得られる可能性が高くなります。
リチウムには副作用もあります。眠気、錯乱、意図しない振戦(ふるえ)、筋肉のひきつり、吐き気、嘔吐、下痢、のどの渇き、多尿、体重増加を引き起こすことがあります。しばしば、にきびや乾癬を悪化させます。しかし、これらの副作用は通常一時的で、医師が用量を調節することで、しばしば軽減されます。ときに、副作用のためリチウムの服用を中止せざるを得なくなりますが、中止すれば副作用は消失します。
血中濃度が高くなり過ぎると副作用が起こりやすくなるため、医師は定期的な血液検査により血液中のリチウム濃度をモニタリングします。長期にわたるリチウムの服用は、 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが低下し、甲状腺ホルモンの生産が不十分になる病気で、身体の重要な機能が働く速度が低下します。 顔の表情が乏しく、声がかすれ、話し方はゆっくりになり、まぶたは垂れて、眼と顔が腫れます。 通常は1回の血液検査で診断が確定されます。 甲状腺機能低下症の人は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの投与を受ける必要があります。 甲状腺は、体内の化学反応が進行する速度(代謝率)を制御する甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホル... さらに読む (甲状腺ホルモンが減少した状態)や腎機能障害の原因になることがあります。したがって、定期的に血液検査を行い、甲状腺と腎臓の機能をモニタリングする必要があり、効果のある最小限の投与量を採用します。
血液中のリチウム濃度が非常に高くなると、リチウムの毒性が発現します。その毒性により、持続性の頭痛、錯乱、眠気、けいれん発作、不整脈が生じることがあります。以下の状況では、毒性が発現する可能性が高くなります。
高齢者
腎機能障害のある人
嘔吐、下痢、利尿薬(腎臓から尿に排出されるナトリウムと水の量を増大させる)の使用により大量のナトリウムを失っている人
リチウムはまれに、発育中の胎児の心臓に異常を引き起こすことがあるため、妊娠を考えている女性はリチウムの使用を中止しなければなりません。
抗てんかん薬
抗てんかん薬のバルプロ酸とカルバマゼピンは、気分安定薬として作用します。初めて躁病を発症した場合と、躁状態とうつ状態を併発した場合(混合性エピソード)には、これらの薬が使用されることがあります。リチウムとは異なり、これらの薬は腎臓に損傷を与えません。しかし、カルバマゼピンは赤血球数と白血球数を大きく減少させる可能性があります。まれに、バルプロ酸によって肝臓に障害が生じたり(主に小児)、膵臓に重度の障害が起きたりすることがあります。医師が注意深くモニタリングすれば、これらの問題は迅速に発見することができます。バルプロ酸は胎児の脳や脊髄の先天異常(神経管閉鎖不全 神経管閉鎖不全と二分脊椎 神経管閉鎖不全は脳、脊椎、脊髄に生じる先天異常の一種です。 神経管閉鎖不全により、神経損傷、学習障害、麻痺、死亡が起こることがあります。 血液検査、羊水検査、または超音波検査の結果に基づいて出生前から診断できます。 出生後、医師は身体診察を行い、追加の画像検査を行う場合もあります。 母親が妊娠前と第1トリメスター【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】に葉酸を摂取することが、これらの異常の予防に役立つ可能性があります。 さらに読む )、 注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADHD) 注意欠如・多動症(注意欠陥/多動性障害とも呼ばれます)(ADHD)は、注意力が乏しいか注意の持続時間が短い状態、年齢不相応の過剰な活動性や衝動性のため機能や発達が妨げられている状態、あるいはこれら両方に該当する状態です。 ADHDは脳の病気で、生まれたときからみられる場合もあれば、出生直後に発症する場合もあります。 主に注意を持続したり、集中したり、課題をやり遂げたりすることが困難な場合もあれば、過剰に活動的で衝動的な場合もあり、その両... さらに読む 、 自閉症 自閉スペクトラム症 自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害とも呼ばれます)は、正常な社会的関係を構築することができず、言葉の使い方に異常がみられるか、まったく言葉を使おうとせず、限定的な行動または反復行動がみられる病気です。 自閉スペクトラム症の患者は、他者とコミュニケーションをとったり関係をもったりすることが苦手です。 自閉スペクトラム症の患者は、行動、関心や動作のパターンが限定的で、多くの場合、決まった行為に従って毎日を過ごします。... さらに読む のリスクを高めると考えられているため、妊娠中または妊娠可能年齢の双極性障害の女性には通常は処方されません。バルプロ酸とカルバマゼピンは、他の治療法が無効に終わった人では特に有用となります。
ときに、ラモトリギンが気分変動のコントロールとうつ状態の治療のために使用されます。ラモトリギンは重篤な発疹を引き起こす可能性があります。まれですが、その発疹が生命を脅かす スティーブンス-ジョンソン症候群 スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融解症(TEN) スティーブンス-ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は、生命を脅かす同じ皮膚の病気がそれぞれ異なる形態で生じたもので、どちらも発疹、皮膚の剥離、粘膜のびらんを引き起こします。 ( 過敏症と反応性皮膚疾患の概要も参照のこと。) スティーブンス-ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死融解症は、一般的に薬または感染が原因となって発生します。 両方の病気に典型的な症状としては、皮膚の剥離、発熱、全身の痛み、平坦な赤い発疹、粘膜の水疱とびらんがありま... さらに読む に発展する場合もあります。ラモトリギンを服用している人は、新たな発疹(特に肛門と性器周辺の部位)、発熱、リンパ節の腫れ、口内または眼の水疱状のただれ、唇または舌の腫れなどがないか注意する必要があります。このような症状があれば、医師に報告する必要があります。このような症状が起きるリスクを減らすために、医師は用量の増加について推奨されるスケジュールを注意深く守ります。ラモトリギンは比較的少ない用量で開始し、非常にゆっくりと(数週間かけて)推奨される維持量まで増やします。3日以上投与が中断された場合は、用量を徐々に増やすスケジュールを再び始める必要があります。
抗精神病薬
突然の躁状態の治療には、第2世代 抗精神病薬 抗精神病薬の種類 精神病とは、妄想、幻覚、支離滅裂な思考や発言、奇妙で不適切な運動行動など、現実との接触の喪失を示す症状のことです。いくつかの精神障害が精神病症状を引き起こします( 統合失調症および関連障害群に関する序を参照)。 精神病症状を軽減または消失させるのには、抗精神病薬が有効です。これは、幻覚、妄想、支離滅裂な思考、および攻撃性の治療に最も効果的とみられています。抗精神病薬は、 統合失調症に対して処方されるのが最も一般的ですが、統合失調症、... さらに読む が使用されるケースが増えていますが、その理由は、即効性があり、双極性障害の治療に使用される他の薬よりも重篤な副作用のリスクが低いからです。具体的な薬剤としては、アリピプラゾール、ルラシドン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン、カリプラジンなどがあります。
双極性の抑うつに対しては、ある種の抗精神病薬が最良の選択になる場合があります。一部の薬については抗うつ薬と併用します。
抗精神病薬の長期的な副作用として、体重増加や メタボリックシンドローム メタボリックシンドローム メタボリックシンドロームは、腹部脂肪の過剰による大きいウエスト周囲長、高血圧、インスリンの作用への反応低下(インスリン抵抗性)または糖尿病、血液中のコレステロールなどの脂肪の異常な値(脂質異常症)を特徴とします。 腹部脂肪の過剰は 高血圧、 冠動脈疾患、 2型糖尿病のリスクを高めます。 メタボリックシンドロームの診断には、医師はウエスト周囲長、血圧、空腹時血糖値、脂肪(脂質)値を測定します。... さらに読む などがあります。メタボリックシンドロームとは、腹部への過剰な脂肪の蓄積に加えて、インスリンの作用に対する感受性の低下(インスリン抵抗性)、血糖値の上昇、コレステロール値の異常、および高血圧がみられる病態です。アリピプラゾールとジプラシドンでは、この症候群の発生リスクはそれほど高くはありません。
抗うつ薬
ときに特定の抗うつ薬が双極性障害患者の重度のうつ状態の治療に使用されますが、そのような使用については議論があります。そのため、抗うつ薬は短期間に限って使用し、通常は気分安定薬や非定型抗精神病薬を併用します。
その他の治療
電気けいれん療法(ときに「ショック療法」とも呼ばれます)は、治療抵抗性のうつ病および躁病に対して、ときに用いられます。
光療法は、日光に似せた明るい光を見るという治療法で、季節性(秋から冬にかけてうつ病になり、春から夏にかけて軽躁病になるもの)または季節性でない双極I型または双極II型障害の治療に役立つ可能性があります。他の治療を補完する目的で行う場合に最も有用になると考えられています。
経頭蓋磁気刺激療法は、機器を使って頭部に無害な磁場を加える治療法で、重度の難治性うつ病の治療に用いられるほか、双極性の抑うつの治療にも効果的であることが証明されています。
精神療法
精神療法は、指示通りに治療が受けられるようになることを主な目的として、気分安定薬を服用している人によく勧められます。
集団療法は、患者とそのパートナーまたは家族が双極性障害とその影響について理解を深めるのにしばしば役立ちます。
個人療法は、日常生活の様々な問題によりよく対処する方法を学ぶのに役立ちます。
教育と支援
この病気の治療に使用される薬の効果について学ぶことで、患者は指示通り服用することができるようになります。なかには薬によって注意力や創造性が低下すると考え、薬の服用に難色を示す人もいます。しかし、通常は気分安定薬の効果により、職場や学校あるいは人間関係や芸術活動において能力を発揮しやすくなることから、創造性が低下することは比較的まれです。
症状の予防に役立つ方法や、症状が始まったらできるだけ早く気づくための方法を学ぶ必要があります。例えば、刺激物質(カフェインやニコチンなど)やアルコールの摂取を控えたり、十分な睡眠をとることが有効です。
医師や精神療法家は、患者に自分の行動がどのような結果につながるのかを話すことがあります。例えば、性的に過剰に活発な傾向がある患者に対しては、そのような行為が結婚生活に与える影響や、不特定多数との性行為のリスク(特にエイズなど)について情報を伝えます。また、金銭を浪費する傾向がある患者には、家族の中で信頼の置ける人物に金銭管理を任せるようアドバイスします。
家族が双極性障害を理解し、治療に関わり、支えとなることが重要です。
支援団体が開催する会に参加することで、患者同士で体験や感情を共有することができます。
さらなる情報
役立つ可能性がある英語の資料を以下に示します。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
うつ病・躁うつ病支援連合会、双極性障害(Depression and Bipolar Support Alliance [DBSA], Bipolar Disorder):双極性障害に関する一般的な情報(緊急電話相談や支援グループへの連絡先など)
米国精神保健協会、双極性障害(Mental Health America, Bipolar Disorder):双極性障害に関する一般的な情報(診断についての説明や双極性障害に関連する用語など)
全米精神障害者家族会連合会、双極性障害( National Alliance on Mental Illness [NAMI], Bipolar Disorder):双極性障害に関する一般的な情報(原因、症状、診断、治療など)
米国国立精神衛生研究所、双極性障害(National Institutes of Mental Health[NIMH], Bipolar Disorder):治療法、教材、研究や臨床試験に関する情報を含めた双極性障害の様々な側面に関する一般的な情報