糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリン,経口血糖... さらに読む 患者における長年にわたるコントロール不良の高血糖は,複数の合併症をもたらすが,主なものは血管性の合併症であり,小径血管(微小血管性),大径血管(大血管性),またはその両方が侵される。
血管障害の発生機序としては,以下のものがある:
血清タンパク質および組織タンパク質の糖付加(終末糖化産物の形成を伴う)
超酸化物産生
血管透過性を亢進させ,内皮機能障害を引き起こすシグナル分子であるプロテインキナーゼCの活性化
ヘキソサミン生合成経路およびポリオール経路の促進(組織内でのソルビトール蓄積につながる)
高血圧および脂質異常症(糖尿病に随伴して一般的にみられる)
動脈微小血栓
高血糖および高インスリン血症による炎症誘発効果や血栓誘発効果(血管の自己調節を障害する)
以下に挙げる,頻度が高く破壊的な糖尿病の3つの臨床像の基礎には,微小血管障害がある:
微小血管障害は皮膚の治癒も阻害する場合があるため,特に下肢では,皮膚にわずかな傷ができただけでも深い潰瘍が生じて容易に感染を起こしうる。徹底した血漿血糖コントロールによってこれらの合併症の多くを予防または遅延できるが,一度生じてしまった合併症は回復しないこともある。
大血管疾患には大血管のアテローム性動脈硬化が関与し,以下の合併症を引き起こす恐れがある:
狭心症 狭心症 狭心症とは,梗塞を伴わない一過性の心筋虚血によって前胸部に不快感または圧迫感が生じる臨床症候群である。狭心症は典型的には労作または精神的ストレスにより増悪し,安静またはニトログリセリンの舌下投与により軽快する。診断は症状,心電図,および心筋イメージングによる。治療法としては,抗血小板薬,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,スタチン系薬剤,冠動脈形成術または冠動脈バイパス術などがある。... さらに読む および 心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む
一過性脳虚血発作 一過性脳虚血発作 (TIA) 一過性脳虚血発作(TIA)は,一過性の神経脱落症状を突然引き起こす局所的な脳虚血で,永続的な脳梗塞を伴わない(例,MRIの拡散強調画像で陰性)ものである。診断は臨床的に行う。頸動脈内膜剥離術またはステント留置術,抗血小板薬,および抗凝固薬は,特定の病型のTIA後に生じうる脳卒中のリスクを低下させる。 TIAは,症状の持続時間が通常は1時間未満(ほとんどのTIAは5分未満)である点を除けば,... さらに読む および 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中とは,神経脱落症状を引き起こす突然の局所的な脳血流遮断が生じる多様な疾患群である。脳卒中には以下の種類がある: 虚血性(80%):典型的には血栓または塞栓によって生じる 出血性(20%):血管の破裂によって生じる(例, くも膜下出血, 脳内出血) 明らかな急性脳梗塞の所見(MRIの拡散強調画像に基づく)を伴わない一過性(典型的には1... さらに読む
免疫機能不全はもう1つの主要合併症であり,高血糖が 細胞性免疫 免疫系を構成する細胞 免疫系は,共同で抗原を破壊する細胞成分および 分子成分から成る。( 免疫系の概要も参照のこと。) 一部の抗原(Ag)は免疫応答を直接活性化することがあるが,T細胞依存性の獲得免疫応答では,典型的には主要組織適合抗原複合体(MHC)分子内で抗原由来ペプチドを提示する抗原提示細胞(APC)を必要とする。 あらゆる有核細胞はMHCクラスI分子を発現するため,細胞内抗原(例,ウイルス)は有核細胞によって処理されてCD8陽性の細胞傷害性T細胞に提... さらに読む に直接及ぼす影響に起因する。糖尿病患者は,細菌および真菌 感染症 感染症 糖尿病患者における長年にわたるコントロール不良の高血糖は,複数の合併症をもたらすが,主なものは血管性の合併症であり,小径血管(微小血管性),大径血管(大血管性),またはその両方が侵される。 血管障害の発生機序としては,以下のものがある: 血清タンパク質および組織タンパク質の糖付加(終末糖化産物の形成を伴う) 超酸化物産生 血管透過性を亢進させ,内皮機能障害を引き起こすシグナル分子であるプロテインキナーゼCの活性化 さらに読む に特に罹りやすい。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症 糖尿病網膜症 糖尿病網膜症の臨床像には,毛細血管瘤,網膜内出血,滲出,黄斑浮腫,黄斑虚血,新生血管,硝子体出血,および牽引性網膜剥離がある。症状は疾患の後期まで出現しないことがある。診断は眼底検査による;カラー眼底写真撮影,フルオレセイン蛍光眼底造影,および光干渉断層撮影により,さらに詳細を明らかにする。治療には血糖および血圧のコントロールが含まれる。眼の治療法としては,網膜レーザー光凝固,血管内皮増殖因子阻害薬(例,アフリベルセプト,ラニビズマブ,... さらに読む は米国における成人の失明の最も一般的な原因である。初期の特徴は網膜毛細血管の微小動脈瘤(単純網膜症)であり,後期の特徴は血管新生(増殖性網膜症)および黄斑浮腫である。初期には症状や徴候はないが,限局性の霧視,硝子体剥離または網膜剥離,部分的または全体的な視力障害がやがて生じ,進行速度は極めて多様である。
1型糖尿病および2型糖尿病のいずれにおいても,スクリーニングおよび診断は網膜検査により,これは定期的に(年1回)施行すべきである。早期発見および治療が視力障害の予防に極めて重要である。全ての患者において,治療は血糖および血圧の徹底的なコントロールである。比較的進行した網膜症では,汎網膜光凝固術や,よりまれであるが硝子体切除術が必要になる場合がある。黄斑浮腫に対して,また増殖性網膜症の補助療法として血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬も使用されている。
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症 糖尿病性腎症 糖尿病性腎症は,糖尿病による代謝および血行動態の変化に起因する糸球体の硬化および線維化である。悪化する高血圧および腎機能不全を伴って緩徐に進行するアルブミン尿として発症する。診断は病歴,身体診察,尿検査および尿中アルブミン/クレアチニン比に基づく。治療は厳格な血糖コントロール,アンジオテンシン阻害(アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]を使用),ならびに血圧および脂質のコントロールによる... さらに読む は米国における 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む の主要な原因である。糸球体基底膜の肥厚,メサンギウム領域の拡大,および糸球体硬化を特徴とする。これらの変化は糸球体性高血圧および進行性の糸球体濾過量の低下を引き起こす。全身性の 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む が進行を加速させる恐れがある。糖尿病性腎症は通常, ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群では,糸球体疾患が原因で尿タンパク排泄量が3g/日を超え,これに浮腫および低アルブミン血症が伴う。小児でより多くみられ,原発性および続発性いずれの原因もある。診断は随時尿検体の尿タンパク/クレアチニン比測定または24時間蓄尿での尿タンパクの測定により,原因は病歴,身体診察,血清学的検査,腎生検に基づき診断される。予後および治療は原因によって異なる。 ( 糸球体疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む または腎不全が生じるまでは無症状である。
診断は尿中アルブミンの検出による。糖尿病が一旦診断されたら(また,その後年1回の頻度で),腎症を早期に発見できるよう,尿中アルブミン濃度をモニタリングすべきである。モニタリングは,随時尿検体のアルブミン/クレアチニン比,または24時間尿の尿中総アルブミンの測定による。アルブミン/クレアチニン比が30mg/g(3.4mg/mmol)を上回るか,アルブミン排泄量が30~300mg/日であれば,中等度アルブミン尿(以前の微量アルブミン尿)および早期糖尿病性腎症を意味する。300mg/日を超えるアルブミンの排泄は,高度アルブミン尿(以前の顕性アルブミン尿),または顕性タンパク尿とみなされ,糖尿病性腎症がより進行していることを意味する。試験紙法では,一般に,タンパク質排泄量が300~500mg/日を超えて初めて尿タンパク陽性となる。
治療は,血圧コントロールと組み合わせた厳格な血糖コントロールである。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は,糸球体内圧を低下させて腎保護作用を示すため,高血圧の治療のほか,アルブミン尿の初発徴候がみられた時点で腎疾患の進行予防のために使用すべきである。しかしながら,これらの薬剤が一次予防に(すなわち,アルブミン尿がない患者において)有益であることは証明されていない。ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT-2)阻害薬は,糖尿病性腎症患者において腎疾患の進行を遅らせることが最近明らかになった。
糖尿病性神経障害
糖尿病性神経障害は,微小血管症による神経虚血,高血糖がニューロンに直接及ぼす影響,および神経機能を障害する細胞内代謝変化の結果である。以下のような複数の病型が存在する:
対称性多発神経障害(小径線維型および大径線維型がある)
脳神経障害
対称性多発神経障害は最も多く,四肢遠位を侵す(手袋-靴下型の分布);錯感覚,異常感覚,または触覚,振動覚,固有感覚,もしくは温度覚の無痛性消失を呈する。これらの症状により下肢の知覚が鈍麻し,合わない靴や異常な荷重によって生じた足の外傷に気づかないことがあり,その結果足の潰瘍および感染が生じたり,骨折,亜脱臼,脱臼,および正常な足構造の破壊(シャルコー関節)を来すことがある。小径線維神経障害は疼痛,しびれ感,温度覚消失を特徴とし,振動覚および位置覚は保たれる。足潰瘍や神経障害性関節変形が生じやすく,自律神経性ニューロパチーの発生率も高い。大径線維神経障害はより顕著であり,筋力低下,振動覚および位置覚の消失,および深部腱反射の消失を特徴とする。足の内在筋の萎縮および下垂足が起こりうる。
自律神経性ニューロパチーによって起立性低血圧,運動耐容能低下,安静時頻脈,嚥下困難,悪心・嘔吐(胃不全麻痺による),便秘および/または下痢(ダンピング症候群を含む),便失禁,尿閉および/または尿失禁,勃起障害および逆行性射精,腟潤滑の低下などが生じることがある。
神経根障害は腰椎(L2~L4)の神経根近位を侵して下肢の疼痛,脱力,萎縮を引き起こすか(糖尿病性筋萎縮),近位胸椎(T4~T12)の神経根近位を侵して腹痛を引き起こす(多発神経根障害)ことが非常に多い。
脳神経障害により,第3脳神経が侵されると複視,眼瞼下垂,および瞳孔不同を,第4または第6脳神経が侵されると眼球運動麻痺を来す。
単神経障害は指の脱力およびしびれ(正中神経)または下垂足(腓骨神経)を引き起こす。糖尿病患者は, 手根管症候群 手根管症候群 手根管症候群は,手関節の手根管を通る位置での正中神経の圧迫である。症状としては,正中神経の分布領域における疼痛および錯感覚などがある。症状および徴候によって本症が示唆され,神経伝導速度検査によって確定される。治療には,人間工学的な改善,鎮痛,副子固定,およびときにコルチコステロイド注射または手術などがある。 ( 手疾患の概要および評価も参照のこと。) 手根管症候群は非常によくみられ,30~50歳の女性に最も多く起こる。危険因子として,... さらに読む などの神経圧迫障害も来しやすい。単神経障害はいくつかの部位で同時に生じることもある(多発性単神経炎)。いずれも主に高齢患者が罹患する傾向があり,通常数カ月で自然に軽快する;ただし,神経圧迫障害は自然軽快しない。
対称性多発神経障害の診断は,感覚障害およびアキレス腱反射低下の確認による。ナイロン製モノフィラメントの軽い接触を検知できない患者は,足潰瘍のリスクが非常に高い(糖尿病患者の足のスクリーニング 糖尿病患者の足のスクリーニング の図を参照)。代わりに,128Hzの音叉を使用して第1趾背側の振動覚を評価してもよい。
筋電図検査および神経伝導検査 筋電図検査と神経伝導検査 筋力低下が神経,筋肉,神経筋接合部のいずれの疾患によるものか判断することが臨床的に困難である場合には,これらの検査によって侵されている神経および筋肉を同定することができる。 筋電図検査では,針を筋に刺入し,筋が収縮および静止している間の電気的活動を記録する。正常では,静止時の筋は電気的に無活動であり,わずかに収縮すると単一運動単位の活動電位が現れる。収縮が増大するにつれて,活動電位の数が増え,干渉パターンを形成する。... さらに読む はあらゆる種類の神経障害に必要で,ときに非糖尿病性神経根障害や手根管症候群など神経障害の症状を引き起こす他の原因を除外するために使用される。
神経障害の管理には,血糖コントロール,定期的なフットケア,および疼痛管理を含む多元的なアプローチが必要である。厳格な血糖コントロールにより神経障害が軽減することがある。症状緩和のための治療には,カプサイシンクリームの塗布,三環系抗うつ薬(例,アミトリプチリン),セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(例,デュロキセチン),および抗てんかん薬(例,プレガバリン,ガバペンチン)などがある。感覚障害のある患者は,足を毎日調べて小さな傷がないか確認し,下肢切断に至る恐れのある感染に発展しないよう注意すべきである。
糖尿病患者の足のスクリーニング
10gモノフィラメントの知覚テスターで各足の特定部位に触れ,曲がるまで押しつける。この検査では一定で再現性の高い圧刺激(通常,10gの力)が与えられ,感覚変化の長期モニタリングに使用できる。いずれの足でも検査を行い,各部で感覚の有無(+または−)を記録する。 |
大血管疾患
大径血管のアテローム性動脈硬化症は,糖尿病に特徴的な高インスリン血症,脂質異常症,および高血糖症の結果である。臨床像は以下の通りである:
狭心症 狭心症 狭心症とは,梗塞を伴わない一過性の心筋虚血によって前胸部に不快感または圧迫感が生じる臨床症候群である。狭心症は典型的には労作または精神的ストレスにより増悪し,安静またはニトログリセリンの舌下投与により軽快する。診断は症状,心電図,および心筋イメージングによる。治療法としては,抗血小板薬,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,スタチン系薬剤,冠動脈形成術または冠動脈バイパス術などがある。... さらに読む および 心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む
一過性脳虚血発作 一過性脳虚血発作 (TIA) 一過性脳虚血発作(TIA)は,一過性の神経脱落症状を突然引き起こす局所的な脳虚血で,永続的な脳梗塞を伴わない(例,MRIの拡散強調画像で陰性)ものである。診断は臨床的に行う。頸動脈内膜剥離術またはステント留置術,抗血小板薬,および抗凝固薬は,特定の病型のTIA後に生じうる脳卒中のリスクを低下させる。 TIAは,症状の持続時間が通常は1時間未満(ほとんどのTIAは5分未満)である点を除けば,... さらに読む および 脳卒中 脳卒中の概要 脳卒中とは,神経脱落症状を引き起こす突然の局所的な脳血流遮断が生じる多様な疾患群である。脳卒中には以下の種類がある: 虚血性(80%):典型的には血栓または塞栓によって生じる 出血性(20%):血管の破裂によって生じる(例, くも膜下出血, 脳内出血) 明らかな急性脳梗塞の所見(MRIの拡散強調画像に基づく)を伴わない一過性(典型的には1... さらに読む
診断は病歴および身体診察に基づいて行う;冠動脈カルシウムスコアなどのスクリーニング検査の役割は進化している。治療はアテローム性動脈硬化症の危険因子を厳格にコントロールすることであり,血漿血糖値,脂質,および血圧の正常化に加え, 禁煙 禁煙 ほとんどの喫煙者は禁煙したいと願い,それを試みているが,成功率は限られている。効果的な介入としては,禁煙カウンセリングとバレニクリン,ブプロピオン,ニコチン代替製品などの薬剤投与がある。 米国の喫煙者の約70%は,喫煙をやめることを望んでおり,少なくとも1回は禁煙を試みたことがあると言う。ニコチンの離脱症状は,禁煙の重大な障壁となりうる。 ( タバコおよび ベイピングも参照のこと。)... さらに読む ,ならびにアスピリンおよびACE阻害薬の連日服用を行う。心血管イベントの発生率を下げるには,血糖コントロール,高血圧,および脂質異常症の管理を含む多因子的アプローチが効果的な場合がある。微小血管疾患とは対照的に,1型糖尿病では血漿血糖コントロールの強化のみでリスクが低下することが示されているが,2型糖尿病についてはこれが示されていない。
心筋症
糖尿病心筋症は,心外膜のアテローム性動脈硬化, 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む および左室肥大,微小血管疾患,内皮および自律神経の機能不全, 肥満 肥満 肥満とは,体重が過度に重い状態であり,BMI(body mass index)が30kg/m2以上である場合と定義されている。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断... さらに読む ,ならびに代謝異常など多数の因子に起因すると考えられる。患者は左室の収縮機能および拡張機能の障害により 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む を来し,心筋梗塞後は心不全がさらに起こりやすくなる。
感染症
高血糖が顆粒球およびT細胞の機能に及ぼす悪影響が原因で,コントロール不良な糖尿病患者は細菌や真菌に感染しやすい。感染症のリスクが全般的に高いことに加え,糖尿病患者は粘膜皮膚の真菌感染症(例,口腔カンジダ症,腟カンジダ症)および足の細菌感染症(骨髄炎を含む)に罹りやすく,後者は通常,下肢の血流不全や糖尿病性神経障害によって増悪する。高血糖は,手術部位の感染の危険因子として確立されている。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
非アルコール性脂肪性肝疾患 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) 脂肪肝とは,肝細胞内に脂質が過度に蓄積した状態である。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)には単純な脂肪浸潤(脂肪肝と呼ばれる良性の病態)が含まれるのに対し,非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は脂肪沈着があって脂肪毒性および肝細胞の炎症性傷害が生じている場合と定義される。組織学的にNASHをアルコール性肝炎と鑑別するのは困難である。したがって,NASHと診断するには,背景因子としての飲酒を除外する必要がある。単純性脂肪肝をNASHと... さらに読む (NAFLD)の症例は増えており,2型糖尿病の重要な併存疾患となっている。2型糖尿病患者の半数以上にNAFLDがあるという報告もある。また,糖尿病がなく, メタボリックシンドローム メタボリックシンドローム メタボリックシンドロームは,大きなウエスト周囲長(過剰な腹部脂肪による),高血圧,異常な空腹時血漿血糖値またはインスリン抵抗性,および脂質異常症を特徴とする。原因,合併症,診断,および治療は, 肥満の場合と同様である。 先進国では,メタボリックシンドロームは深刻な問題である。非常によくみられ,米国では,50歳以上の人のうち40%を超える割合でみられる可能性がある。小児および青年がメタボリックシンドロームを発症することがあるが,これらの年... さらに読む , 肥満 肥満 肥満とは,体重が過度に重い状態であり,BMI(body mass index)が30kg/m2以上である場合と定義されている。合併症として,心血管疾患(特に過剰な腹部脂肪のある人),糖尿病,特定のがん,胆石症,脂肪肝,肝硬変,変形性関節症,男女の生殖障害,精神障害,およびBMIが35以上の人での若年死などがある。診断... さらに読む , 脂質異常症 脂質異常症 脂質異常症とは,血漿コレステロール,トリグリセリド(TG)値,もしくはその両方が高値であること,またはHDLコレステロールが低値であることであり, 動脈硬化発生に寄与する。原因には原発性(遺伝性)と二次性とがある。診断は,総コレステロール,TG,および各リポタンパク質の血漿中濃度測定による。治療は食習慣の変更,運動,および脂質低下薬である。 ( 脂質代謝の概要も参照のこと。)... さらに読む のある患者に起こることもある。NAFLDには,画像検査または病理組織検査による脂肪肝の所見および脂肪の蓄積をもたらすその他の原因(飲酒や脂肪の蓄積をもたらす薬物など)がないことが必要である。NAFLDには,非アルコール性脂肪肝(NAFL)および非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が含まれる。NAFLは,≥ 5%の脂肪肝があるが肝細胞傷害の所見がないものを言う。対照的に,NASHでは脂肪肝(≥ 5%)と肝細胞傷害を伴う炎症を必要とする。NASHでは線維化が起こることもあり, 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む に移行することがある。NAFLDの発生機序は十分に解明されていないが,肝臓へのトリグリセリドの蓄積につながるインスリン抵抗性と明らかに関連している。治療の中心は食事療法,運動,および減量である。NASHの所見のある糖尿病患者では,ピオグリタゾンが有益な場合もある。
糖尿病の他の合併症
糖尿病による足の合併症(皮膚変化,潰瘍形成,感染,壊疽)はよくみられ,血管疾患,神経障害,および関連する免疫抑制に起因する。
糖尿病患者では,筋梗塞, 手根管症候群 手根管症候群 手根管症候群は,手関節の手根管を通る位置での正中神経の圧迫である。症状としては,正中神経の分布領域における疼痛および錯感覚などがある。症状および徴候によって本症が示唆され,神経伝導速度検査によって確定される。治療には,人間工学的な改善,鎮痛,副子固定,およびときにコルチコステロイド注射または手術などがある。 ( 手疾患の概要および評価も参照のこと。) 手根管症候群は非常によくみられ,30~50歳の女性に最も多く起こる。危険因子として,... さらに読む , デュピュイトラン拘縮 デュピュイトラン拘縮 デュピュイトラン拘縮は手掌腱膜(筋膜帯)の進行性の拘縮であり,手指の屈曲変形を引き起こす。治療は,コルチコステロイド注射,外科手術,またはクロストリジウム由来のコラゲナーゼの注射による。 ( 手疾患の概要および評価も参照のこと。) デュピュイトラン拘縮はよくみられる手の変形の1つであり,発生率は男性の方が高く,45歳を過ぎると増加する。浸透率が一定でないこの常染色体優性遺伝疾患は,糖尿病,アルコール依存症,またはてんかんの患者に発生する... さらに読む ,癒着性関節包炎,および 強指症 全身性強皮症 全身性強皮症は,皮膚,関節,および内臓(特に食道,下部消化管,肺,心臓,腎臓)におけるびまん性の線維化および血管異常を特徴とする,原因不明のまれな慢性疾患である。一般的な症状としては,レイノー現象,多発性関節痛,嚥下困難,胸やけ,腫脹などがあり,最終的には皮膚の硬化と手指の拘縮が起こる。肺,心臓,および腎臓の病変がほとんどの死亡の原因である。診断は臨床的に行うが,臨床検査は診断の裏付けになり,予後予測に役立つ。特異的治療は困難であり,合... さらに読む など,一部の筋骨格系疾患が一般人口より多くみられる。
糖尿病患者は以下を発症することもある:
肝胆道疾患(例,非アルコール性脂肪性肝疾患, 肝硬変 肝硬変 肝硬変は,正常な肝構築が広範に失われた 肝線維化の後期の病像である。肝硬変は,密な線維化組織に囲まれた再生結節を特徴とする。症状は何年も現れないことがあり,しばしば非特異的である(例,食欲不振,疲労,体重減少)。後期の臨床像には, 門脈圧亢進症, 腹水,代償不全に至った場合の 肝不全などがある。診断にはしばしば肝生検が必要となる。肝硬変は通常,不可逆的と考えられている。治療は支持療法である。... さらに読む , 胆石 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む )
皮膚疾患(例, 白癬感染症 皮膚糸状菌症の概要 皮膚糸状菌症は,ケラチンを含む皮膚および爪の真菌感染症である(爪の感染は爪白癬または 爪真菌症と呼ばれる)。症状と徴候は感染部位により異なる。診断は臨床的な外観と皮膚擦過物のKOH直接鏡検による。治療は部位により異なるが,常に抗真菌薬の外用または内服を用いる。 病原性を示す可能性がある真菌としては,酵母(例,Candida albicans)や皮膚糸状菌などがある。皮膚糸状菌は,栄養としてケラチンを必要とするカビであり,角... さらに読む ,下肢潰瘍,糖尿病性皮膚障害,糖尿病性リポイド類壊死症,糖尿病性全身性強皮症, 白斑 白斑 白斑とは,皮膚メラノサイトの欠損によって皮膚に様々な大きさの脱色素斑が生じる病態である。原因は不明であるが,遺伝因子と自己免疫因子が関与している可能性が高い。診断は通常,皮膚の診察所見から明らかとなる。一般的な治療法としては,コルチコステロイドの外用(しばしばカルシポトリオールとの併用),カルシニューリン阻害薬(タクロリムスおよびピメクロリムス),ナローバンドUVB(紫外線B波)療法またはソラレンとUVAの併用療法などがある。多くの疾患... さらに読む , 環状肉芽腫 環状肉芽腫 環状肉芽腫は,丘疹または結節が遠心性に拡大して,正常またはわずかに陥凹した皮膚の周囲に環状の病変を形成することを特徴とする,良性かつ慢性の特発性疾患である。診断は臨床的評価のほか,ときに生検による。治療はコルチコステロイドの外用または病変内注射,タクロリムスの外用,凍結療法,および光線療法による。 環状肉芽腫の病因は不明であるが,提唱されている機序としては,細胞性免疫(IV型),免疫複合体性血管炎,および組織単球の異常などがある。環状肉... さらに読む ,黒色表皮腫[インスリン抵抗性の徴候])
抑うつ
認知症
糖尿病の合併症についてのより詳細な情報
American Diabetes Association: Standards of Medical Care in Diabetes: provides comprehensive guidelines for clinicians
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Endocrine Society: Clinical Practice Guidelines: provides guidelines on evaluation and management of patients with diabetes as well as links to other information for clinicians
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