肺腎症候群

執筆者:Joyce Lee, MD, MAS, University of Colorado School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 4月
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肺腎症候群とは,びまん性肺胞出血糸球体腎炎の併発である(これらはしばしば同時に発生する)。原因はほぼ常に自己免疫疾患である。診断は血清学的検査,ならびにときに肺生検および腎生検による。治療には典型的には,免疫抑制薬とコルチコステロイドおよび細胞傷害性薬剤の併用が含まれる。

肺腎症候群は,ある特定の疾患単位ではなく,特異的な鑑別診断および特定の一連の検査を要する症候群である。

肺の病態は,細動脈,細静脈,および,しばしば肺胞毛細血管を侵す小血管の血管炎である。

腎の病態は小血管の血管炎であり,結果として,巣状分節性増殖性糸球体腎炎(focal segmental proliferative glomerulonephritis)の形態に至る。

肺腎症候群の病因

肺腎症候群は,ほぼ常に基礎にある自己免疫疾患が発現したものである。グッドパスチャー症候群が典型的な原因であるが,肺腎症候群は,全身性エリテマトーデス多発血管炎性肉芽腫症顕微鏡的多発血管炎,またより頻度は低いが,その他の血管炎,結合組織疾患,および薬剤性血管炎(例,プロピルチオウラシル―肺腎症候群の原因の表を参照)によって引き起こされることもある。

比較的まれではあるが,IgA腎症IgA血管炎などの免疫グロブリンA(IgA)を介する疾患,および本態性混合型クリオグロブリン血症などの免疫複合体を介する腎疾患の症候として肺腎症候群が現れることもある。まれに,急速進行性糸球体腎炎が単独で,腎不全,体液量過剰,および喀血を伴う肺水腫に関連する機序により,この症候群を引き起こすことがある。

表&コラム

肺腎症候群の症状と徴候

典型的な症状と徴候には,以下のものがある:

  • 呼吸困難

  • 咳嗽

  • 発熱

  • 喀血

  • 末梢浮腫

  • 血尿

患者は,糸球体腎炎のその他の徴候を示すこともある。肺の症候と腎の症候は数週間から数カ月間を空けて生じることがある。

パール&ピットフォール

  • 肺胞出血および糸球体腎炎に一致する所見がみられる患者では,肺と腎の所見が異なる時期に生じていても,肺腎症候群を考慮する。

肺腎症候群の診断

  • 血清学的検査

  • ときに肺生検および腎生検

肺腎症候群は,他の原因(例,肺炎がん,または気管支拡張症)に起因することが明らかでない喀血がある患者において,特にびまん性実質性肺浸潤および腎疾患を示唆する所見を伴う場合に疑われる。

初期検査には,血尿および赤血球円柱(糸球体腎炎を示唆する)を証明するための尿検査,腎機能評価のための血清クレアチニン,および貧血を証明するための血算などがある。未実施であれば胸部X線を行う。

血清抗体検査は,以下に挙げるいくつかの原因の鑑別に役立つ可能性がある:

診断の確定には,肺生検における小血管の血管炎の所見,または腎生検における糸球体腎炎の所見(抗体沈着を伴うことがある)が必要である。

肺機能検査および気管支肺胞洗浄は診断に有用ではないが,糸球体腎炎および肺浸潤があるが喀血のない患者において,びまん性肺胞出血の確定の補助に用いることができる。洗浄液が連続採取の後に血性のままであれば,びまん性肺胞出血の診断が確定する(特にヘマトクリットが低下している場合)。

肺腎症候群の治療

  • コルチコステロイド

  • ときにシクロホスファミド

  • 血漿交換

免疫抑制が肺腎症候群の治療の要である。標準の寛解導入レジメンには,メチルプレドニゾロンのパルス静注などがある(500~1000mgを1日1回,3~5日間静注)。生命を脅かす所見が鎮静化するにつれて,コルチコステロイドを減量できる;最初の1カ月はプレドニゾン(または同等の薬剤)1mg/kg,1日1回経口投与,その後3~4カ月かけて漸減する。

全身性疾患がある重症(critically ill)患者においては,コルチコステロイド療法にシクロホスファミドを追加すべきであり,用量はパルス静注0.5~1g/m2を月1回,または経口(1~2mg/kg,1日1回)とする。シクロホスファミドの代わりにリツキシマブが使用されることがある;リツキシマブはシクロホスファミドと同等の効果があり,有害作用はより少ない。

血漿交換もしばしば用いられ,特にグッドパスチャー症候群および特定の血管炎でよく行われる。

維持療法への移行は,導入療法開始後6~12カ月経過後または臨床的寛解後に行われることがある。維持療法には,低用量コルチコステロイドおよび細胞傷害性薬剤の併用などがある。しかしながら,治療の継続にもかかわらず再発することがある。

肺腎症候群の要点

  • 肺腎症候群を最も強く示唆する手がかりとして頻度が高いのは,たとえ発生時期が異なるとしても,肺と腎の両方に説明のつかない症状がみられることである。

  • ルーチンの臨床検査(尿検査および胸部X線を含む)ならびに自己抗体検査を行う。

  • 必要であれば,肺生検または腎生検により診断を確定する。

  • 基礎にある自己免疫疾患を治療する。

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