頭蓋内腫瘍は脳またはその他の構造物(例,脳神経,髄膜)を侵しうる。腫瘍は通常,成人期初期または中期に発生するが,どの年齢層でも発生しうる;現在は高齢者における頻度が増加している。脳腫瘍はルーチンの剖検の約2%で発見される。
腫瘍は良性の場合もあるが,頭蓋内には腫瘍が増大する余地がないため,たとえ良性の腫瘍でも重篤な神経機能障害や死を招く可能性がある。
分類
脳腫瘍には2つの種類がある:
転移性脳腫瘍は原発性腫瘍の約10倍多くみられる。
腫瘍の種類は部位( 脳腫瘍の一般的な局在症候を参照のこと)および患者年齢によって若干異なる( 一般的な腫瘍を参照のこと)。
脳腫瘍の一般的な局在症候
病態生理
神経機能障害の原因としては以下のものがある:
-
腫瘍による脳組織への浸潤および破壊
-
腫瘍による隣接組織の直接圧迫
-
頭蓋内圧亢進(腫瘍が頭蓋内を占拠するため)
-
腫瘍内部または外部からの出血
-
脳浮腫
-
硬膜静脈洞の閉塞(特に骨または硬膜外への転移性腫瘍によるもの)
-
髄液排出路の閉塞(第3脳室または後頭蓋窩腫瘍の早期に起こる)
-
髄液吸収路の閉塞(例,白血病または癌が髄膜に及ぶとき)
-
動脈血流の閉塞
-
まれに腫瘍随伴症候群( 腫瘍随伴症候群)
悪性腫瘍は内部に血管を新生し,これが出血または閉塞することで,壊死および脳卒中に類似した神経機能障害を引き起こすことがある。
良性腫瘍は緩徐に増大する。かなり大きくなるまで症状を引き起こさないことがあるが,その理由の1つは,しばしば脳浮腫を欠くことである。原発性悪性腫瘍は急速に増殖するが,中枢神経系を越えて広がることはまれである。死亡は腫瘍の局所的増大に起因するため,悪性腫瘍だけでなく良性腫瘍も死に至る可能性がある。したがって脳腫瘍においては,良性か悪性かを鑑別することの予後予測上の重要性が他の部位の腫瘍と比べて低くなっている。
症状と徴候
原発性腫瘍および転移性腫瘍によって引き起こされる症状は同じである。多くの症状は頭蓋内圧亢進の結果として起こる:
頭痛は最も頻度の高い症状である。頭痛は深いノンレム睡眠(通常は入眠後数時間)からの覚醒時に最も強くなりうるが,これはノンレム睡眠中に低換気が最大になり,それが脳血流を増加させ,ひいては頭蓋内圧を亢進させるからである。頭痛はまた進行性であり,臥位またはバルサルバ手技で悪化する可能性がある。頭蓋内圧が非常に高い場合,頭痛は嘔吐を伴うことがあり,ときに前兆の悪心がほとんどないこともある。乳頭浮腫は脳腫瘍患者の約25%に発生するが,頭蓋内圧が亢進した場合でもみられないことがある。乳児期および幼児期早期には,頭蓋内圧亢進により頭部が拡大することがある。頭蓋内圧亢進が一定以上になると,脳ヘルニアが起こる( 脳ヘルニア)。
精神状態の悪化は2番目に頻度の高い症状である。臨床像としては,眠気,嗜眠,人格変化,異常行動,認知障害などがあり,特に悪性脳腫瘍の患者にみられる。全般発作が生じることもあり,転移性脳腫瘍と比べて原発性脳腫瘍でより発生頻度が高い。意識障害( 昏睡および意識障害)は,脳ヘルニア,脳幹機能障害,またはびまん性両側性の大脳皮質機能不全により生じうる。気道反射も障害されることがある。
局所脳機能障害では,様々な症状が引き起こされる。腫瘍の位置( 脳腫瘍の一般的な局在症候を参照のこと)に応じて,局所神経脱落症状,内分泌機能異常,または焦点発作(ときに二次性全般化を伴う)が生じる。局所神経脱落症状はしばしば腫瘍の位置を示唆する。しかしながら,ときに局所神経脱落症状と腫瘍の位置が対応しない場合もある。そのような障害はfalse localizing signと呼ばれ,具体的には以下のものがある:
髄膜の炎症を引き起こす腫瘍もあり,その結果亜急性または慢性の髄膜炎になる( 髄膜炎)。
診断
早期の脳腫瘍はしばしば誤診される。以下のいずれかを有する患者では脳腫瘍を考慮すべきである:
類似の所見は,その他の頭蓋内腫瘤(例,膿瘍,動脈瘤,動静脈奇形,脳内出血,硬膜下血腫,肉芽腫,神経嚢虫症などの寄生虫性嚢胞)または虚血性脳卒中により生じる可能性もある。
完全な神経学的診察,神経画像検査,胸部X線(転移の原発巣探索のため)検査を行うべきである。ガドリニウム造影剤を用いるT1強調MRIが第1選択の検査である。造影CTは代替選択肢の1つである。MRIはCTと比べて低悪性度星細胞腫および乏突起膠腫の早期検出に優れ,骨付近の脳構造(例,後頭蓋窩)をより鮮明に描出する。全脳画像で標的部位(例,トルコ鞍,小脳橋角部,視神経)の細部を十分に示せない場合は,その部位に限局した画像またはその他の特殊画像を撮影する。神経画像検査では正常であるが頭蓋内圧亢進が疑われる場合は,特発性頭蓋内圧亢進症( 特発性頭蓋内圧亢進症)を考慮して腰椎穿刺( 腰椎穿刺)を施行すべきである。
腫瘍の種類に関する画像上の手がかりは,主に部位( 脳腫瘍の一般的な局在症候を参照のこと)とMRIでの増強パターンであるが,これらによっても結論を下せない場合があり,脳生検(ときに切除生検)が必要になることがある。一部の症例では,特殊検査(例,血中および髄液中の分子および遺伝子腫瘍マーカー)が有用となりうる;例,AIDS患者では,中枢神経系リンパ腫を合併すると,髄液中でエプスタイン-バーウイルスの力価が上昇するのが典型的である。
治療
昏睡状態または気道反射障害のある患者には気管挿管が必要である( 気管挿管)。腫瘍による脳ヘルニアは,マンニトール25~100gの点滴静注,コルチコステロイド(例,デキサメタゾン16mg,静注に続いて4mg,経口または静注,6時間毎),および気管挿管により治療する。腫瘤性病変には可及的速やかに外科的減圧を行うべきである。
腫瘍による頭蓋内圧亢進があるが脳ヘルニアはない場合は,コルチコステロイド(例,デキサメタゾンを上述の脳ヘルニアに対する方法で投与,またはプレドニゾン30~40mg,経口,1日2回)により治療する。
脳腫瘍の治療は病理および部位に依存する(聴神経腫瘍については 聴神経腫瘍)。外科的切除は,診断(切除生検)および症状緩和のために行うべきである。良性腫瘍はこれにより治癒することもある。脳実質へ浸潤している腫瘍に対しては,集学的な治療を行う。放射線療法が必要であり,また一部の患者では化学療法が有益となるようである。
転移性腫瘍の治療には放射線療法などがあり,ときに定位放射線手術も行われる。単発性転移の患者では,放射線療法の前に腫瘍の外科的切除を行うことで予後が改善する。
終末期の問題
脳腫瘍のため死期が近いと予想される場合は,終末期の問題について検討すべきである( 臨死患者)。
頭蓋放射線療法および神経毒性
放射線療法は,びまん性または多中心性の腫瘍には脳全体に広く行い,境界明瞭な腫瘍には局所的に行うことがある。脳に対する局所的な放射線療法は,正常な脳組織が温存されるように腫瘍を標的にする原体照射法によることもあれば,近接照射,ガンマナイフ,または直線加速器を用いた定位放射線照射を行うこともある。近接照射では,安定な放射性ヨウ素(125I3)またはイリジウム192 (192Ir4)を腫瘍の内部または近傍に留置する。神経膠腫は原体照射療法により治療する;転移性腫瘍にはガンマナイフまたは直線加速器による治療が有用である。照射を毎日行うことで,効力が最大になり,正常な中枢神経系組織への神経毒性が最小になる傾向がある( 急性放射線症候群(ARS))。
神経毒性の程度は以下の因子に依存する:
感受性が一様ではないため,照射による神経毒性を正確に予測することはできない。症状は,治療開始後最初の数日(急性)または数カ月(早期遅発性)に発生することもあれば,治療後数カ月から数年後(晩期遅発性)に発生することもある。まれに,放射線照射が何年も経ってから神経膠腫,髄膜腫,または末梢神経鞘腫瘍を引き起こす。
放射線による急性神経毒性
早期遅発性神経毒性
小児または成人において,早期遅発性神経毒性(early-delayed neurotoxicity)によって脳症が発生する可能性があるが,これはMRIまたはCTにより脳腫瘍の増悪または再発と鑑別する必要がある。白血病に対する予防的全脳照射を受けた小児に発生し,傾眠を来すが,これは数日から数週かけて自然に軽減し,またコルチコステロイドを使用すれば,より速やかに軽減する可能性がある。
頸部または上胸部に対する放射線療法の施行後には,早期遅発性の神経毒性によって,Lhermitte徴候(頸部屈曲時に電気ショック様の感覚が背部から下肢に放散する)を特徴とする脊髄症が発生することがある。脊髄症は自然に消失する。
晩期遅発性神経毒性
脳の広範囲に対する放射線療法後には,患者が長期間生存する場合,多くの小児および成人で晩期遅発性神経毒性(late-delayed neurotoxicity)が発生する。小児で最も一般的な原因は,白血病の予防または髄芽腫の治療として施行された脳の広範囲に対する放射線療法である。広範囲に対する放射線療法後には,進行性の認知症が主な症状であり,さらに成人では不安定歩行も生じる。MRIまたはCTでは大脳萎縮がみられる。
局所照射療法後の神経毒性は,局所神経脱落症状を引き起こす頻度がより高い。MRIまたはCTでは,造影剤により増強される腫瘤がみられ,原発性腫瘍の再発との鑑別が困難なことがある。腫瘤の切除生検は診断に有用であり,またしばしば症状を改善する。
脊髄外腫瘍(例,ホジキンリンパ腫による)に対する放射線療法の施行後には,晩期遅発性脊髄症が発生する可能性がある。これは進行性の不全麻痺および感覚消失を特徴とし,しばしば一種のBrown-Séquard症候群(同側の不全麻痺および固有覚低下,対側の温痛覚の低下)として生じる。大半の患者は最終的には対麻痺になる。