神経膠腫は脳実質に由来する原発性腫瘍である。症状は多様で部位によっても異なり,局所神経脱落症状,脳症,または痙攣発作として現れる。診断は主にMRIに基づき,標準的なT1およびT2強調画像の両方(できればガドリニウムで造影する)を施行した後,生検と分子プロファイリングを行う。治療には外科的切除,放射線療法などがあり,一部の腫瘍には化学療法を行うこともある。切除による治癒はまれである。
神経膠腫には以下のものがある:
星細胞腫
乏突起膠腫
多形性膠芽腫
上衣腫
多くの神経膠腫はびまん性かつ不規則性に脳組織に浸潤する。
星細胞腫は最も頻度の高い神経膠腫である(小児の星細胞腫も参照)。組織学的に分類され,場合によっては,世界保健機関(World Health Organization:WHO)の分類に従い,特定の遺伝子マーカーの有無に基づいて分類される(1)。
星細胞腫は,悪性度の低い順に以下のように分類される:
グレードI:毛様細胞性星細胞腫および上衣下巨細胞性星細胞腫(結節性硬化症で最も頻度が高い)
グレードII:低悪性度星細胞腫(多形性黄色星細胞腫を含む)
グレードIII:退形成性星細胞腫
グレードIV:膠芽腫およびびまん性正中膠腫
毛様細胞性星細胞腫,その他の低悪性度星細胞腫,または退形成性星細胞腫は,より若年の患者に発生する傾向がある。特に退形成性星細胞腫は,後に膠芽腫に進行することがある(二次性膠芽腫と呼ばれる)。膠芽腫はde novo腫瘍(原発性膠芽腫と呼ばれる)として発生することもあり,その場合は中年または高齢者にみられるのが通常である。膠芽腫は染色体構成が不均一な細胞で構成される。原発性膠芽腫と二次性膠芽腫には,それぞれ明確に異なる遺伝学的特徴があるが,それらは腫瘍の進行に従って変化する可能性がある。二次性膠芽腫は典型的にはIDH1またはIDH2遺伝子に変異を有する。
まれに,星細胞腫に星細胞腫細胞と乏突起膠腫細胞が混在していることがある。このような腫瘍は以前は乏突起星細胞腫と呼ばれていたが,この用語は現在では,単一の組織型を指すのではなく,むしろ混合型の腫瘍を指して用いられている。
乏突起膠腫(WHOグレードII)は最も増殖の遅い神経膠腫の1つである。前脳,特に前頭葉で最もよくみられる。乏突起膠腫は,典型的には1番染色体短腕の欠失および19番染色体長腕の欠失(1p/19q共欠失)を特徴とする。これらの欠失は乏突起膠腫の診断につながる所見であり,このような特徴がみられる患者は生存期間が長く,放射線療法および化学療法に対する反応が良好と予測される。星細胞腫と同様に,乏突起膠腫も進行して退形成性乏突起膠腫(WHOグレードIII)などのより進行の速い型に変化することがあるため,それに応じた管理が行われる。
星細胞腫と乏突起膠腫はいずれも変異型のIDH1またはIDH2遺伝子を発現していることがあり,その結果として2-ヒドロキシグルタル酸の異常産生が生じ,その代謝物が正常な神経前駆細胞およびグリア前駆細胞のDNAメチル化を修飾することで,神経膠腫細胞の発生につながる。IDH1/2変異を有する患者は,腫瘍のIDH1/2遺伝子が野生型の患者よりも予後良好の傾向にあり,これは一部には,テモゾロミドなどのアルキル化薬による化学療法への反応が良好であることによる。乏突起膠腫では,1p/19q共欠失およびIDH1/2変異がみられる傾向がある。星細胞腫では,典型的にはIDH1/2変異がみられるが,1p/19q共欠失はみられない;その代わりに,ATRX遺伝子の変異または欠失,およびpTP53の変異がより一般的にみられる(2)。
びまん性正中膠腫は,主に小児に発生する高悪性度(WHOグレードIII~IV)星細胞腫瘍である。この種の腫瘍にはびまん性内在性橋神経膠腫が含まれるが,これは進行が速く典型的には死に至る腫瘍であり,脳幹に浸潤して吻側へは視床下部および視床に進展し,下方では延髄および脊髄に浸潤する。びまん性正中膠腫は典型的にはH3K27M変異を発現している。
神経線維腫症I型の小児では,びまん性正中膠腫の発生リスクが高い。
上衣腫は主に小児および若年成人に発生し,青年期以降ではまれである(小児の上衣腫も参照)。以下のように分類される:
グレードI:上衣下腫
グレードII:上衣腫
グレードIII:退形成性上衣腫
グレードIV:上衣芽腫(まれであり,主に乳児に発生する)
全ての上衣腫は典型的には脳室系の壁から発生するため,脳,脳幹,または脊髄に発生する可能性がある。そのため,発生部位に基づいてテント上上衣腫,後頭蓋窩上衣腫,および脊髄上衣腫に分類される。これらの各カテゴリーには,分子生物学的および組織学的に定義された3つの下位分類があり,結果として,上衣腫は表現型および分子生物学的性質が明確に異なる9つの型に分けられ,それぞれで治療法および予後に顕著な相違がみられる。特に第4脳室の上衣腫は,閉塞性水頭症を伴って発症することがあり,そのため他の上衣腫より早く発症する可能性がある(3)。
MRIで撮像されたこのT2-FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)画像には,腫瘤または浮腫を示唆する白い高信号域が認められる。左前頭葉の信号は境界が非常に明瞭であり,腫瘤を示唆する。造影剤を使用しても増強されない。低悪性度(グレードII)乏突起膠腫である。
Image courtesy of William R. Shapiro, MD.
このT2-FLAIR MRI画像では,側頭葉後部に白い高信号域が認められる。この信号は造影剤によって増強されない。退形成性(グレードIII)星細胞腫である。
Image courtesy of William R. Shapiro, MD.
MRIのT2-FLAIR像(上)には,異型度および悪性度が最も高い星細胞腫である膠芽腫の周りに大きな両側性の白い(高信号)領域が認められる。この種類の膠芽腫は,腫瘍周囲の白い高信号域が蝶の羽形に見えることから特にbutterfly gliomaと呼ばれ,この変化は脳浮腫によって引き起こされる。MRIのT1強調画像(下)では,腫瘍の縁が造影されている(リング状造影効果)。浮腫はT1上で暗い(低信号)領域として現れる。
Images courtesy of William R. Shapiro, MD.
総論の参考文献
1.Louis DN, Perry A, Reifenberger G, et al: The 2021 World Health Organization classification of tumors of the central nervous system: A summary.Neuro Oncol 23 (8):1231–1251, 2021.doi: 10.1093/neuonc/noab106
2.Reifenberger G, Wirsing H, Knobbe-Thomsen CB, Weller M: Advances in the molecular genetics of gliomas - implications for classification and therapy.Nat Rev Clin Oncol 14 (7):434-452 2017.doi: 10.1038/nrclinonc.2016.204
3.Pajtler K, Mack S, Ramaswamy V, et al: The current consensus on the clinical management of intracranial ependymoma and its distinct molecular variants.Neuropathologica 133:5–12, 2017.doi: 10.1007/s00401-016-1643-0
神経膠腫の診断
MRIのT1およびT2強調画像
生検
神経膠腫の診断は主にMRIに基づき,標準的なT1およびT2強調画像を両方(できればガドリニウムで造影する)を施行した後,生検と病理組織学的検査および分子プロファイリングを行う。病理組織学的検査としては,細胞形態の古典的な病理学的分析,免疫組織化学染色(例,IDH1/2変異),in situハイブリダイゼーション(例,EGFR変異)などがある。
特定のがん遺伝子パネル,標的もしくは全エクソーム配列決定,RNA配列決定,および/またはメチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)メチル化分析を行ってもよい。MGMT遺伝子プロモーターのメチル化は,多形性膠芽腫患者における予後因子の1つであり,術後のテモゾロミドに対する良好な反応と生存期間の延長を予測する(1)。
診断に関する参考文献
1.Stupp R, Taillibert S, Kanner A, et al: Effect of tumor-treating fields plus maintenance temozolomide vs maintenance temozolomide alone on survival in patients with glioblastoma: A randomized clinical trial.JAMA 318 (23):2306–2316, 2017.doi: 10.1001/jama.2017.18718
神経膠腫の治療
外科的切除
放射線療法
一部の組織型には化学療法
退形成性星細胞腫および膠芽腫
治療としては,腫瘍量を減らすために手術,放射線療法,および化学療法を行う。できるだけ多くの腫瘍組織を安全に(脳のeloquent領域[発話や運動などの機能を担っている領域]を不必要に損傷することなく)切除することで,生存期間が延長し,神経機能が改善する。
手術後には,腫瘍に対する最大線量(6週間かけて60Gy)で放射線療法を施行する;原体照射療法(腫瘍のみを標的とし,正常な脳組織を温存する方法)を用いるのが理想的である。
膠芽腫に対しては,現在,テモゾロミドによる化学療法が放射線療法と併用でルーチンに行われている。用量は以下の通りである:
75/mg/m2/日,42日間(放射線照射を行わない週末を含む)
続く1カ月間は150mg/m2,経口,1日1回,5日間/月
以降は全体で6~12カ月間にわたり,200mg/m2,経口,1日1回,5日間/月
テモゾロミドによる治療中は,ニューモシスチス肺炎を予防するため,トリメトプリム/スルファメトキサゾール800mg/160mgを週3回投与する。
化学療法を受けている患者では,様々な間隔で血算を行う必要がある。
一部の患者では外科的切除中に化学療法用のウエハーのインプラントが適切となる場合もある。
一部の患者には,腫瘍治療電場療法とテモゾロミドによるアジュバント療法の併用が適切となる場合がある。腫瘍治療電場療法では,交流電場を頭皮に印加することで,膠芽腫の細胞分裂と細胞小器官の組立てを阻害する。あるランダム化臨床試験では,腫瘍治療電場療法によって膠芽腫患者の生存率が改善されたようである(1)。
研究段階の治療法(例,定位放射線手術,新規化学療法薬,遺伝子または免疫療法)も考慮すべきである。多数の免疫チェックポイント阻害薬,特にCTLA4およびPD1依存性の免疫調節薬の臨床試験が進行中である。
従来の集学的治療での膠芽腫患者の生存率は,1年後で50%,2年後で25%,5年後で10~15%である。以下に該当する場合は比較的予後良好である:
患者が45歳未満である。
組織像が(膠芽腫ではなく)退形成性星細胞腫または低悪性度腫瘍のそれである。
最初の切除により神経機能が改善し,残存腫瘍が最小限である,または根絶されている。
腫瘍にIDH1変異がある。
MGMT(メチルグアニン-メチルトランスフェラーゼ)プロモーターのメチル化が認められる。
標準治療を行った場合の生存期間の中央値は,退形成性星細胞腫の患者で約30カ月,膠芽腫の患者で約15カ月である。広範な臨床試験,特にいくつかの治験段階の免疫療法および免疫チェックポイント阻害薬を含む臨床試験が現在行われている。進行中の試験および最近完了した試験はclinical trials.govで参照できる。
低悪性度星細胞腫および低悪性度乏突起膠腫
低悪性度星細胞腫および乏突起膠腫には,安全な範囲での最大限の摘出(maximum safe resection)が適応となる。40歳未満の患者での完全切除後には,経過観察を考慮してもよい。その他の患者では,放射線療法とアジュバント化学療法の併用により生存期間が延長する(2)。
生存期間の中央値は,高リスク患者(IDH1変異がなく切除が不完全)で1~2年,予後良好因子がある患者で10年超と幅がある。高リスク患者では,悪性腫瘍がさらに進行する可能性が高い。
びまん性正中膠腫
びまん性正中膠腫の患者では,進行を遅らせるために放射線療法が用いられることがあるが,生存期間が典型的には1年未満であるため,主に緩和目的で施行される。これらの腫瘍は典型的にはヒストンタンパク質のH3K27M変異を有しており,細胞内のDNAおよびDNA関連タンパク質を修飾して遺伝子発現を変化させるエピジェネティックな治療戦略が研究されている(3)。H3K27M変異を有する患者は,腫瘍の組織学的悪性度にかかわらず予後不良である。
上衣腫
上衣腫の病期分類および中枢神経系内部での進展の評価には,生検と遺伝子解析,髄液の採取,および頭蓋脊髄の画像検査を行うべきである。
上衣腫の治療としては,単一病巣または症候性腫瘍に対する安全な範囲での最大限の摘出(maximum safe resection)などがある。より悪性度の高い腫瘍には,腫瘍の進展度に応じて,局所的に,または頭蓋脊髄全域に対して放射線療法を施行することができる。化学療法の役割は明確に定義されていない。
予後は腫瘍の部位,遺伝学的特徴および病期によって異なる(4)。一般に,治療した場合の5年生存率は全体では約50%であるが,残存腫瘍がない患者での5年生存率は70%を超える。
治療に関する参考文献
1.Stupp R, Taillibert S, Kanner A, et al: Effect of tumor-treating fields plus maintenance temozolomide vs maintenance temozolomide alone on survival in patients with glioblastoma: A randomized clinical trial.JAMA 318 (23):2306–2316, 2017.doi: 10.1001/jama.2017.18718
2.Buckner JC, Shaw EG, Pugh SL, et al: Radiation plus procarbazine, CCNU, and vincristine in low-grade glioma.N Engl J Med 374 (14):1344-1355, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1500925
3.Miklja Z, Pasternak A, Stallard S, et al: Molecular profiling and targeted therapy in pediatric gliomas: Review and consensus recommendations.Neuro Oncol 21:968–980, 2019.
4.Pajtler K, Mack S, Ramaswamy V, et al: The current consensus on the clinical management of intracranial ependymoma and its distinct molecular variants.Neuropathologica 133:5–12, 2017.doi: 10.1007/s00401-016-1643-0
要点
神経膠腫は脳実質に由来する原発性腫瘍であり,具体的には星細胞腫,乏突起膠腫,上衣腫などがある。
神経膠腫の発生部位,悪性度,治療,および予後は様々である。
大半の神経膠腫では,脳のeloquent領域を不要に損傷することなく,可能な限り腫瘍を外科的に切除し(肉眼的全摘出),続いて放射線療法および/または化学療法を施行する。