気管支拡張症の病因
気管支拡張症は慢性的な気道炎症を引き起こす様々な疾患の共通の最終段階であると考えるのが最も適切である。気管支拡張症には以下の2種類がある:
びまん性:肺の多領域が侵される
限局性:肺の1つまたは2つの領域に限られる
びまん性気管支拡張症
びまん性気管支拡張症は,気道を侵す遺伝的,免疫学的または解剖学的異常を伴う患者で主に発生する。先進国では,多くの症例が初期には特発性にみえるが,これは一部には,発症が緩徐であることにより,気管支拡張症が認識された時点では原因である病態がそれほど明らかでないためと考えられる。改良された新しい遺伝学的および免疫学的検査を用い,注意深くかつ体系的な評価を行うことにより,これらの特発性とされてきた症例の病因を解明したとする報告が増えている。
嚢胞性線維症 嚢胞性線維症 嚢胞性線維症は,主に消化器系と呼吸器系を侵す外分泌腺の遺伝性疾患である。慢性肺疾患,膵外分泌機能不全,肝胆道疾患,および汗の電解質濃度の異常高値を引き起こす。診断は,新生児スクリーニング検査で陽性と判定された患者または特徴的な臨床的特徴を認める患者において,汗試験を行うか,嚢胞性線維症の原因遺伝子変異を2つ同定することによる。治療は,積極... さらに読む (CF)がこの病態に関連する頻度が高く,未診断のCFが特発性症例の最大20%を占める可能性がある。典型的にはCFの臨床像を呈さないヘテロ接合体の患者でも,気管支拡張症のリスクが高い可能性がある。
分類不能型免疫不全症 分類不能型免疫不全症(CVID) 分類不能型免疫不全症(後天性または成人発症型低ガンマグロブリン血症)はIg低値を特徴とし,B細胞は表現型が正常で増殖できるものの免疫グロブリン(Ig)産生細胞に分化しない。患者には反復性の副鼻腔肺感染症がみられる。診断は主に血清Ig濃度に基づく。治療には,予防的IgG補充療法および感染に対する抗菌薬投与などがある。... さらに読む (CVID)などの免疫不全症,また気道構造のまれな異常によっても,びまん性気管支拡張症を発症する可能性がある。低栄養やヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症もリスクを高めると考えられている。
原発性線毛機能不全(PCD)症候群などの先天的な粘膜線毛クリアランスの異常も原因となることがあり,特発性と診断されていた症例の約3%を占める可能性がある。
びまん性気管支拡張症はときに, 関節リウマチ 関節リウマチ(RA) 関節リウマチ(RA)は,主に関節を侵す慢性の全身性自己免疫疾患である。RAは,サイトカイン,ケモカイン,およびメタロプロテアーゼを介した損傷を引き起こす。特徴として,末梢関節(例,手関節,中手指節関節)に対称性に炎症が生じ,結果として関節構造が進行性に破壊される(通常は全身症状を伴う)。診断は特異的な臨床所見,臨床検査結果,および画像所見... さらに読む または シェーグレン症候群 シェーグレン症候群 シェーグレン症候群は,比較的よくみられる原因不明の慢性,自己免疫性,全身性,炎症性の疾患である。外分泌腺のリンパ球浸潤およびそれに続く二次的な分泌機能障害による,口腔,眼,およびその他の粘膜の乾燥を特徴とする。シェーグレン症候群は様々な外分泌腺または他の器官に影響を及ぼすことがある。診断は,眼,口腔,および唾液腺の障害に関連する特異的な基... さらに読む などの一般的な自己免疫疾患に合併するほか,血液悪性腫瘍,臓器移植,またはこれらの病態の治療に伴う易感染性状態の患者で発生することもある。気管支拡張症は, 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,毒素の吸入(しばしばタバコ煙)に対する炎症反応によって引き起こされる気流制限である。比較的まれな原因として,非喫煙者におけるα1-アンチトリプシン欠乏症および様々な職業曝露がある。症状は数年かけて発現する湿性咳嗽および呼吸困難であり,一般的な徴候には呼吸音の減少,呼気相の延長,および喘鳴などがある。重症例で... さらに読む , 喘息 喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む ,または慢性かつ反復性の誤嚥をはじめとする,より一般的な病態に伴って発生することもある。
Aspergillus属に対する過敏反応である アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA) アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)は,Aspergillus属(一般にA. fumigatus)に対する過敏反応であり,ほとんどは喘息患者に限定的に,またはまれに嚢胞性線維症の患者にみられる。アスペルギルス(Aspergillus)抗原に対する免疫応答が気道閉塞を引き起こし,治療しな... さらに読む は,喘息患者に最も多くみられるが,ときにCF患者でもみられ,気管支拡張症の原因あるいは寄与因子となりうる。
発展途上国では,ほとんどの症例,特に 低栄養 低栄養の概要 低栄養は栄養障害の一種である。(栄養障害には栄養過多も含まれる。)低栄養は,栄養素の不十分な摂取,吸収不良,代謝障害,下痢による栄養素の喪失,または栄養必要量の増大(がんや感染症などで起こる)に起因する。低栄養は段階的に進行する;食欲不振による場合にゆっくりと発生することもあれば,ときにがん関連の急速に進行する悪液質による場合のように非常... さらに読む や ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む により免疫機能に障害を来した患者においては,おそらく 結核 結核 結核は,しばしば初感染から一定期間の潜伏期を経て発症する慢性進行性の抗酸菌感染症である。結核は肺を侵すことが最も多い。症状としては,湿性咳嗽,発熱,体重減少,倦怠感などがある。診断は喀痰の塗抹および培養によることが最も多いが,分子生物学に基づく迅速診断検査の利用も増えてきている。治療では複数の抗菌薬を少なくとも6カ月間投与する。... さらに読む が原因である。
限局性気管支拡張症
気管支拡張症の病態生理
気管支拡張症の病態はまだ完全に解明されておらず,その理由の1つとして,おそらく本疾患が慢性気道炎症を来しやすい質の異なる疾患群の共通の最終段階であることが挙げられる。
びまん性気管支拡張症は,原因である病態が小~中サイズの気道に炎症を引き起こし,気管内の好中球から炎症メディエーターが放出されることで発生する。炎症メディエーターはより大きい気道のエラスチン,軟骨および筋肉を破壊し,不可逆性の気管支拡張をもたらす。同時に,炎症の起こった小~中サイズの気道において,マクロファージおよびリンパ球が浸潤巣を形成し,粘膜壁を肥厚させる。肺機能検査でしばしば認められる気道閉塞は,この肥厚によるものである。
疾患が進行するにつれ,炎症が気道を越えて波及し,周囲の肺実質に線維化をもたらす。末梢気道に炎症を引き起こす要因は,気管支拡張症の病因によって異なる。よくみられる寄与因子には気道クリアランスの障害(CFにおける濃厚で粘稠度の高い粘液の産生,PCDにおける線毛運動の欠如,または感染もしくは損傷に続発する線毛かつ/または気道への損傷による),ならびに宿主防御機構の障害などがあり,これらの要素をもつ患者は慢性感染症や慢性炎症を起こしやすい。免疫不全(特にCVID)の場合には,自己免疫性の炎症も寄与しうる。
限局性気管支拡張症は通常太い気道が閉塞した際に生じる。その結果,気道分泌物を除去できなくなり,感染,炎症,および気道壁の損傷というサイクルを繰り返す。右肺中葉が最も侵されやすいが,これは中葉気管支が小さくかつ屈曲しており,またリンパ節に近接していることによる。抗酸菌感染によるリンパ節腫脹はときに気管支の閉塞および限局性気管支拡張症を引き起こす。
持続する炎症が気道に解剖学的変化をもたらすに従って,病原性細菌(ときに抗酸菌を含む)が気道に定着する。一般的な病原体には以下のものがある:
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
Moraxella catarrhalis
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)
混合細菌叢
非結核性抗酸菌
黄色ブドウ球菌(S. aureus)の定着は嚢胞性線維症と強い関連があり,培養で黄色ブドウ球菌(S. aureus)がみられた場合は未診断のCFを疑うべきである。また,緑膿菌(P. aeruginosa)の定着は重症疾患を示唆する傾向があり,肺機能の急速な低下の前兆となる。複数の病原体による定着がよくみられ,増悪治療のため頻回の抗菌薬投与を必要とする患者においては,抗菌薬耐性が懸念される。
合併症
疾患が進行するにつれ,慢性炎症と低酸素血症のため,気管支動脈(肺動脈ではなく)に血管新生が生じる。気管支動脈の壁は破裂しやすく,大量喀血の原因となる。その他の血管系合併症として,血管収縮による 肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつ... さらに読む ,動脈炎,およびときに気管支血管から肺血管への短絡形成などがみられる。
多剤耐性の病原体が定着した場合,軽度の気道炎症が慢性的に続く可能性がある。この炎症が進行すると,繰り返す増悪の原因となり,肺機能検査における気流制限(airflow limitation)を悪化させる可能性がある。
気管支拡張症の症状と徴候
特徴的には症状は潜行性で始まり,数年にわたって徐々に悪化し,急性増悪のエピソードを伴う。
最も一般的な症状は慢性咳嗽であり,濃厚で,粘稠な,しばしば膿性の痰を伴う。呼吸困難および喘鳴の頻度は高く,また胸膜性胸痛も出現しうる。進行例では,低酸素血症および肺高血圧症による右心不全が呼吸困難を悪化させることがある。喀血はときに大量となりうるが,これは気道に生じた血管新生によるものである。
急性増悪の頻度は高く,新しい感染または感染の悪化によって生じることが多い。増悪の特徴は咳嗽の悪化,呼吸困難の増大,ならびに喀痰の産生量および膿性の増大である。微熱と全身症状(例,疲労,倦怠感)がみられることもある。
口臭および異常呼吸音(断続性ラ音,類鼾音,および喘鳴など)が典型的な身体所見である。まれではあるが,ばち指が認められることがある。進行例では,低酸素血症,肺高血圧症(例,呼吸困難,めまい),および右心不全の徴候がよくみられる。慢性副鼻腔炎および鼻茸が,特にCFまたはPCDの患者に,生じることがある。一般に除脂肪体重は減少するが,これは炎症およびサイトカイン過剰によるものと考えられ,またCF患者では吸収不良が原因であると考えられる。
気管支拡張症の診断
病歴聴取および身体診察
胸部X線
胸部高分解能CT
ベースラインを評価するための肺機能検査および疾患進行のモニタリング
喀痰中の細菌および抗酸菌培養による,病原体の特定
疑われる原因に対する特異的検査
診断は病歴,身体診察,および放射線学的検査に基づくが,まず胸部X線検査から始める。慢性気管支炎は気管支拡張症に臨床的に類似する場合があるが,気管支拡張症は喀痰の膿性が高く1日当たりの産生量が多いこと,および画像検査で拡張した気道がみられることにより鑑別される。
画像検査
通常,胸部X線で異常がみられ,診断に有用と考えられる。気管支拡張症を示唆するX線所見として気道壁の肥厚かつ/または気道の拡張があり,典型的な所見としては,肺動脈中枢部と区別しがたい肺門周囲の境界不明瞭な線状陰影,水平断(X線線束に平行な面)でみられる気道の肥厚による不明瞭なリング状陰影,およびX線線束に対して垂直方向にみられる肥厚し拡張した気道による「軌道陰影(tram lines)」(またはtram-track sign)などがある。粘液栓子で満たされ拡張した気道による縦長の管状陰影が散在性にみられることもある。
画像パターンは基礎疾患によって異なる場合があり,嚢胞性線維症による気管支拡張は主に上葉に発生し,一方で気管支内閉塞による気管支拡張はより限局したX線異常所見を示す。
気管支拡張の範囲の確定には高分解能CTが選択すべき検査であり,感度特異度ともに非常に高い。典型的なCT所見として,気道の拡張(2つ以上の気道の内腔が近接する動脈径より大きいことにより判断する)および signet ring sign(体軸横断像で肥厚,拡張した気道がより径の小さい動脈に接している像)がある。正常な気管支の先細りがないことにより,ほぼ胸膜まで中サイズの気管支が可視化される。「軌道陰影(tram lines)」はCTで容易に観察できる。
気道損傷が時間とともに増大するにつれ,気管支拡張の画像上の変化は,円柱状から静脈瘤状,さらに嚢状所見へと進行する。無気肺,コンソリデーション(浸潤影),粘液栓子,および血管分布の減少は非特異的な所見である。牽引性の気管支拡張では,肺の線維化により気道が牽引または歪曲され,画像上気管支拡張症に類似した像を呈する。
肺機能検査
肺機能検査 肺機能検査の概要 肺機能検査は, 流量, 肺気量, ガス交換,気管支拡張薬への反応,および 呼吸筋機能を測定する検査である。 外来で利用できる基本的肺機能検査には以下のものがある: スパイロメトリー パルスオキシメトリー スパイロメトリーおよび パルスオキシメトリーは肺機能を生理学的に測定できるほか,鑑別診断を迅速に限定し,その後の追加検査または治療の戦略... さらに読む はベースラインの肺機能の記録および疾患進行のモニタリングに役立つことがある。気管支拡張症は気流制限(FEV1/FVC比の低下を伴う1秒量[FEV1]減少)の原因となる;FEV1はβ作動性気管支拡張薬に反応して改善することがある。より進行した症例では,進行性の線維化によって努力肺活量(FVC)の減少,拘束性障害を示す肺気量測定値,および肺拡散能(DLco)の低下につながることがある。
原因の診断
増悪のない期間に,全ての患者の自発あるいは誘発喀痰を培養し,定着している主な細菌とその細菌の感受性を同定すべきである。この情報は増悪時に抗菌薬を選択する際に有用である。
血算と白血球分画は疾患活動性の判定と好酸球増多の同定に役立つ可能性があり,好酸球増多は複数疾患の合併を示唆している可能性がある。
喀痰中の細菌,抗酸菌(Mycobacterium avium complexおよび結核菌[M. tuberculosis]),および真菌(Aspergillus属)の染色および培養は慢性気道炎症の原因の同定に有用である。
臨床的意義のある非結核性抗酸菌感染症は,生検で肉芽腫が認められた患者または疾患に一致するX線所見が得られた患者において,複数回の喀痰培養または気管支肺胞洗浄液培養で多数の抗酸菌コロニーを検出することにより診断する。
気管支拡張症の原因が不明である場合,病歴および画像所見に基づいて追加検査を実施することもある。検査には以下のものが含まれる:
血清免疫グロブリン(IgG,IgA,IgM)および血清電気泳動により分類不能型免疫不全症を診断
ペプチド抗原および多糖体抗原(すなわち,破傷風,肺炎球菌[S. pneumoniae]およびインフルエンザ菌[H. influenzae]b型の莢膜多糖体)を標的としたベースラインおよび抗原特異的抗体反応の評価による,患者の免疫応答評価
2回の汗中塩化物イオン濃度測定とCFTR遺伝子変異解析により嚢胞性線維症を診断(40歳以上で気管支拡張症の原因が特定できず,特に上葉の病変,吸収不良,または男性不妊を伴う症例を含む)
自己免疫疾患が疑われる場合はリウマトイド因子,抗核抗体(ANA),および抗好中球細胞質抗体の検査
患者に好酸球増多を認める場合には,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症除外のための血清IgEおよびAspergillus沈降抗体検査
高分解能CTで下葉に気腫を認める場合,α1-アンチトリプシン欠乏症評価のためのα1-アンチトリプシン濃度の測定
成人の気管支拡張症で,慢性の副鼻腔疾患または中耳炎を合併している場合,特にこれらの症状が小児期から続いている場合は原発性線毛機能不全症を考慮すべきである。このような患者では主に右肺中葉および舌区に気管支拡張がみられ,男性不妊または右胸心を認めることがある。鼻または口から排出される一酸化窒素濃度は低いことが多い。確定診断には,鼻腔または気管支上皮検体を用いた透過型電子顕微鏡による線毛構造異常の検査が必要である。
PCDの評価は困難であるため,一般に診断は専門施設で行うべきである。健常者および肺疾患患者において,最大で10%の線毛に非特異的な構造異常が認められることがあり,また感染により一過性の線毛機能不全を来すこともある。一部のPCD症候群の患者において,線毛の超微細構造が正常である場合もあり,線毛の機能異常同定のためにさらなる検査を必要とする。
器質的病変または閉塞病変が疑われる場合,気管支鏡検査の適応となる。
増悪の定義と評価
気管支拡張症の増悪は,気管支拡張症患者において以下のうち3つ以上の症状の悪化が48時間以上続くことと定義される(1 診断に関する参考文献 気管支拡張症とは,慢性の感染および炎症によって引き起こされる太い気管支の拡張および破壊である。一般的な原因は嚢胞性線維症,免疫異常,および反復性の感染であるが,一部の症例は特発性とみられる。症状は慢性咳嗽および膿性痰の喀出であり,一部の患者では発熱および呼吸困難も伴う。診断は病歴および画像検査に基づき,通常は高分解能CTを必要とするが,通... さらに読む ):
咳嗽
喀痰の量および/または粘度
喀痰の膿性
呼吸困難および/または運動耐容能低下
疲労および/または倦怠感
喀血
どこまで検査を実施するかは臨床像の重症度に依存する。軽症から中等症の増悪患者に対しては,喀痰培養を繰り返すことによる,起因菌と感受性パターンの確定で十分である。これにより抗菌薬のスペクトラムが狭まり,日和見病原体の除外に役立つ。
より重症な患者に対しては, 肺膿瘍 肺膿瘍 肺膿瘍は膿で満たされた空洞性病変を特徴とする,肺の壊死性感染症である。肺膿瘍は,意識障害のある患者において,口腔内分泌物の誤嚥が原因で生じることが最も多い。症状は持続性の咳嗽,発熱,発汗,および体重減少である。診断は主に胸部X線に基づく。治療には通常βラクタム系/βラクタマーゼ阻害薬の合剤またはカルバペネム系薬剤を用いる。... さらに読む および肺気腫などの重篤な肺感染症によくみられる合併症を除外するため,血算,胸部X線,および可能性としてその他の検査が必要となりうる。
診断に関する参考文献
1.Hill AT, Haworth CS, Aliberti S, et al: Pulmonary exacerbation in adults with bronchiectasis: A consensus definition for clinical research.Eur Respir J 49:1700051, 2017.
気管支拡張症の予後
予後は多岐にわたる。FEV1低下の年平均は約50~55mL(健常者における正常な低下は約20~30mL)である。CF患者は生存期間の中央値が36年と最も予後が悪く,またほとんどの患者で断続的な増悪が続く。
気管支拡張症の治療
定期的なワクチン接種およびときに抑制的抗菌薬の投与による増悪の予防
気道分泌物の除去を促す処置
可逆性の気道閉塞を認める場合は,気管支拡張薬,およびときに吸入コルチコステロイドの投与
急性増悪に対しては,抗菌薬および気管支拡張薬の投与
難治性の症状または出血がある場合は,ときに限局した病変の外科的切除
治療の主要目標は,症状のコントロールおよびQOLの改善,増悪頻度の低減,および肺機能の保持である。(1,2 治療に関する参考文献 気管支拡張症とは,慢性の感染および炎症によって引き起こされる太い気管支の拡張および破壊である。一般的な原因は嚢胞性線維症,免疫異常,および反復性の感染であるが,一部の症例は特発性とみられる。症状は慢性咳嗽および膿性痰の喀出であり,一部の患者では発熱および呼吸困難も伴う。診断は病歴および画像検査に基づき,通常は高分解能CTを必要とするが,通... さらに読む )
慢性肺疾患の全ての患者に対して, 以下が推奨されている 禁煙 ほとんどの喫煙者は禁煙したいと願い,それを試みているが,成功率は限られている。効果的な介入としては,禁煙カウンセリングとバレニクリン,ブプロピオン,ニコチン代替製品などの薬剤投与がある。 米国の喫煙者の約70%は,喫煙をやめることを望んでおり,少なくとも1回は禁煙を試みたことがあると言う。ニコチンの離脱症状は,禁煙の重大な障壁となりうる。... さらに読む :
最初の肺炎球菌ワクチン接種時に65歳未満であった患者および無脾または免疫抑制状態にある患者に対し,5年後のPPSV23再接種が推奨されている。
気道クリアランス処置は,多量の喀痰産生および粘液栓子を伴う患者において慢性咳嗽を減少させ,また増悪期間に症状を軽減する目的で行われる。具体的には,定期的な運動,体位ドレナージおよび胸部軽打法による 胸部理学療法 胸部理学療法 胸部理学療法は,体外から物理的な力を加えて気道分泌物の移動および除去を促進する手技であり,胸壁軽打法,体位ドレナージ,振動法などがある。濃厚,粘稠,大量,または被包化した分泌物を除去するのに,咳嗽では不十分な患者に対して適応となる( 1)。例としては以下の疾患を有する患者があげられる:... さらに読む ,呼気陽圧装置,肺内パーカッションベンチレーター,加圧ベスト,ならびに自律性排痰法(末梢から中枢気道へ分泌物の移動を促すと考えられる呼吸法)などが行われる。これらの手技は呼吸療法士によって指導されるべきであり,また最も効果的かつ患者が持続可能な手法を用いるべきである;特に1つの手技を好ましいとするエビデンスはない。
気道閉塞がある場合は,気管支拡張薬療法(例, COPDの患者と同様 安定期COPDの治療 慢性閉塞性肺疾患( COPD)の管理には,COPDの慢性安定期の治療および 増悪時の治療がある。 慢性安定期COPDの治療は,以下の手段により増悪を予防し,肺および身体の機能を改善することを目標とする。 禁煙 薬物療法 酸素投与 さらに読む ,長時間作用型β作動薬,チオトロピウム,および短時間作用型β作動薬を症状と肺閉塞の重症度に応じて組み合わせる)が肺機能およびQOLの改善に役立つ可能性がある。頻回の増悪を認める患者または肺機能の検査値に著明なばらつきがある(すなわち,気管支拡張薬の投与後に気道閉塞が改善する)患者には,吸入コルチコステロイドが使用されることもあるが,その効果については賛否両論がある。 呼吸リハビリテーション 呼吸リハビリテーション 呼吸リハビリテーションとは,慢性呼吸器疾患を有する患者の機能を改善し,生活の質を高めるために,運動,教育,行動療法を用いることである。 慢性呼吸器疾患の多くの患者にとって,内科的治療は,疾患の症状および合併症を部分的に軽快させるに過ぎない。呼吸リハビリテーションの包括的プログラムにより,以下のようなかなりの臨床的改善がもたらされる可能性が... さらに読む も役立つことがある。
嚢胞性線維症患者では,粘液溶解薬(rhDNase)および高張(7%)食塩水などを用いた多様なネブライザー療法が,喀痰の粘稠度の低下および気道クリアランスの向上に役立つ可能性がある。CFではない患者については,これらの対策の便益を示すエビデンスが決定的ではないため,加湿と生理食塩水のみが吸入療法として推奨される。吸入テルブタリン,マンニトールドライパウダー,ならびにカルボシステインおよびブロムヘキシンなどの粘液溶解薬は,気管気管支のクリアランスの促進が期待できる機序を有している。しかしながら,これらの対策の大部分は,CF患者およびCFではない患者を対象とした限られた試験において,様々な結果を示している。
急性増悪を予防または頻度を制限するための最適な抗菌薬使用に関しては,見解の一致は得られていない。抑制的抗菌薬の定期的使用またはローテーションでの使用は症状および増悪を低減するが,将来,耐性微生物に感染するリスクを高める可能性がある。現行のガイドラインは,年に3回以上の増悪を来す患者,および増悪頻度はより低いが培養で緑膿菌(P. aeruginosa)の定着が証明された患者での,抗菌薬の使用を推奨している。
マクロライド長期療法は,気管支拡張症患者の急性増悪を軽減し,CF患者の肺機能の低下を遅らせる可能性がある(3–5 治療に関する参考文献 気管支拡張症とは,慢性の感染および炎症によって引き起こされる太い気管支の拡張および破壊である。一般的な原因は嚢胞性線維症,免疫異常,および反復性の感染であるが,一部の症例は特発性とみられる。症状は慢性咳嗽および膿性痰の喀出であり,一部の患者では発熱および呼吸困難も伴う。診断は病歴および画像検査に基づき,通常は高分解能CTを必要とするが,通... さらに読む )。例えばアジスロマイシン500mg,経口,3回/週または250mg,経口,1日1回の投与が行われているが,最適な用量は不明である。マクロライド系薬剤は,主に抗炎症作用または免疫調節作用によって有益な効果を発揮すると考えられている。
抗菌薬の吸入(アミカシン,アズトレオナム,シプロフロキサシン,ゲンタマイシン,コリスチン,またはトブラマイシン)により,喀痰中の細菌量を減少させ,また増悪の頻度を低減させることができる。これらの薬剤の使用と便益を支持するエビデンスはCFの患者集団で最も顕著である。
肺疾患の進行を遅らせるため,基礎疾患を治療すべきである。
基礎に免疫不全状態がある患者:スケジュールに沿った免疫グロブリン静注(これにより下気道感染症の頻度が低減する可能性がある[ 6 治療に関する参考文献 気管支拡張症とは,慢性の感染および炎症によって引き起こされる太い気管支の拡張および破壊である。一般的な原因は嚢胞性線維症,免疫異常,および反復性の感染であるが,一部の症例は特発性とみられる。症状は慢性咳嗽および膿性痰の喀出であり,一部の患者では発熱および呼吸困難も伴う。診断は病歴および画像検査に基づき,通常は高分解能CTを必要とするが,通... さらに読む ])。
嚢胞性線維症 治療 嚢胞性線維症は,主に消化器系と呼吸器系を侵す外分泌腺の遺伝性疾患である。慢性肺疾患,膵外分泌機能不全,肝胆道疾患,および汗の電解質濃度の異常高値を引き起こす。診断は,新生児スクリーニング検査で陽性と判定された患者または特徴的な臨床的特徴を認める患者において,汗試験を行うか,嚢胞性線維症の原因遺伝子変異を2つ同定することによる。治療は,積極... さらに読む の患者:抗菌薬および吸入気管支拡張薬,包括的な支持療法,ならびに食事による栄養。一部の嚢胞性線維症患者では,CFTRを標的とした遺伝子治療が有益な場合があり,これにより増悪が軽減する可能性がある。
α1-アンチトリプシン欠乏症の患者:補充療法。
急性増悪
急性増悪の治療は抗菌薬,吸入気管支拡張薬(特に喘鳴を伴う患者),および頻繁な粘液の除去であり,粘液の除去には機械的方法,加湿,および生理食塩水(およびCF患者に対しては粘液溶解薬)噴霧を用いる。気道炎症および悪化する気道閉塞の治療には,しばしば吸入または経口コルチコステロイドが投与される。抗菌薬の選択は過去の培養結果および患者がCFかどうかに依存する(7 治療に関する参考文献 気管支拡張症とは,慢性の感染および炎症によって引き起こされる太い気管支の拡張および破壊である。一般的な原因は嚢胞性線維症,免疫異常,および反復性の感染であるが,一部の症例は特発性とみられる。症状は慢性咳嗽および膿性痰の喀出であり,一部の患者では発熱および呼吸困難も伴う。診断は病歴および画像検査に基づき,通常は高分解能CTを必要とするが,通... さらに読む )。
CFではない患者および過去の培養結果がない患者への初回の抗菌薬は,インフルエンザ菌(H. influenzae),M. catarrhalis,黄色ブドウ球菌(S. aureus),および肺炎球菌(S. pneumoniae)に対し効果的である必要がある。例えばアモキシシリン/クラブラン酸,アジスロマイシン,クラリスロマイシン,およびトリメトプリム/スルファメトキサゾールなどを投与する。抗菌薬は培養結果に基づいて調整し,典型的には14日間の投与を行うべきである。緑膿菌(P. aeruginosa)の定着が判明している患者あるいはより重症の増悪を来した患者には,反復培養の結果が判明するまで,この菌に対して効果的な抗菌薬(例,シプロフロキサシン500mgの1日2回経口投与またはレボフロキサシン500mgの1日1回経口投与を7日~14日間)を投与すべきである。
CF患者に対する初回の抗菌薬は過去の喀痰培養(全てのCF患者でルーチンに行われる)の結果に基づいて決定する。小児期によく感染する病原体として,黄色ブドウ球菌(S. aureus)およびインフルエンザ菌(H. influenzae)があり,シプロフロキサシンおよびレボフロキサシンなどキノロン系の抗菌薬を使用することがある。CFの後期では,緑膿菌(P. aeruginosa),Burkholderia cepacia,およびStenotrophomonas maltophiliaなどの非常に耐性の強いグラム陰性菌株による感染が生じる。このような菌による感染が起こった場合,複数の抗菌薬(例,トブラマイシン,アズトレオナム,チカルシリン/クラブラン酸,セフタジジム,セフェピム)で治療を行う。しばしば静脈内投与が必要である。
合併症
大量喀血は気管支動脈塞栓術によって通常治療するが,塞栓術が無効で肺機能が十分であれば外科的切除が考慮されることもある。
M. avium complexなどの 抗酸菌 非結核性抗酸菌感染症 ときに結核菌以外の抗酸菌がヒトに感染することがある。それらの菌(非結核性抗酸菌と呼ばれる)は一般的に土壌中や水中に存在し,ヒトにおいては結核菌(Mycobacterium tuberculosis)よりもはるかに病原性が低い。これらの菌による感染症は,非定型環境性非結核性抗酸菌感染症と呼ばれてきた。... さらに読む による重複感染には,クラリスロマイシンまたはアジスロマイシン;リファンピシンまたはリファブチン;およびエタンブトールなどを含む多剤併用レジメンがほぼ常に必要である。薬物療法は一般に,喀痰培養が12カ月間陰性になるまで継続される。
外科的切除を要することはまれであるが,気管支拡張が限局し,至適な内科的治療が行われており,かつ症状が耐えがたい場合に考慮されることがある。びまん性気管支拡張症を有する特定の患者,特に嚢胞性線維症患者では,肺移植も選択肢の1つである。
心肺同時移植または両肺移植を施行した患者の5年生存率は65~75%という高い結果が報告されている。肺機能は通常6カ月以内に改善し,改善した肺機能は最低5年間維持される。
治療に関する参考文献
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気管支拡張症の要点
気管支拡張症では,様々な原因による慢性炎症がより太い気道のエラスチン,軟骨,および筋肉を破壊し,その結果不可逆的な損傷を来し,拡張した気道には慢性的に感染性微生物が定着するようになる。
患者は慢性の湿性咳嗽を伴い,断続的な急性増悪を呈する。
診断は画像検査により,通常はCTを用いる;定着している病原体を同定するために培養を行うべきである。
適切な予防接種,気道クリアランス処置,およびときにマクロライド系抗菌薬の投与を行い,増悪を予防する。
増悪の治療には,抗菌薬,気管支拡張薬,より頻繁な気道クリアランス処置,およびコルチコステロイドを用いる。