α1-アンチトリプシン欠乏症

執筆者:Robert A. Wise, MD, Johns Hopkins Asthma and Allergy Center
Reviewed ByRichard K. Albert, MD, Department of Medicine, University of Colorado Denver - Anschutz Medical
レビュー/改訂 2024年 5月 | 修正済み 2024年 6月
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α1-アンチトリプシン欠乏症は,肺の主要なアンチプロテアーゼであるα1-アンチトリプシンの先天的欠乏であり,成人においてプロテアーゼを介した組織破壊および気腫の増大を招く。異常なα1-アンチトリプシンの肝臓への蓄積は,小児でも成人でも肝疾患の原因となる。血清α1-アンチトリプシン値が < 11mmol/L(< 80mg/dL)であれば,診断が支持される。診断は特定の遺伝子型または表現型の検査により確定すべきである。治療として,禁煙,気管支拡張薬,感染症の早期治療,および選択された症例ではα1-アンチトリプシン補充療法を行う。重度の肝疾患は,移植を必要とすることがある。予後は主に肺障害の程度に関連する。

α1-アンチトリプシン欠乏症の病態生理

α1-アンチトリプシンは好中球エラスターゼ阻害物質(アンチプロテアーゼ)であり,その主な機能は,プロテアーゼを介した組織破壊から肺を守ることである。α1-アンチトリプシンの大部分は肝細胞および単球により合成され,血行を介して肺内へ受動拡散する;一部は肺胞マクロファージおよび上皮細胞により二次的に産生される。タンパク質の高次構造(およびそれに由来する機能性)および循環血中のα1-アンチトリプシンの量は,両親のアレルが共顕性(共優性)の形式で発現することで決定される;140以上のアレルが同定されており,プロテアーゼインヒビター(PI*)の表現型を用いて表す(1)(の表を参照)。

肝臓

一部の変異型アレルが遺伝することにより,α1-アンチトリプシン分子の高次構造に変化が生じて,重合が起きて肝細胞内にたまるようになる。異常なα1-アンチトリプシン分子が肝臓に蓄積すると,10~15%の患者では新生児胆汁うっ滞性黄疸が引き起こされる一方,残りの患者では,その正確な防御機構は不明であるが,異常タンパク質を分解することができる可能性がある(2)。肝臓が侵された新生児の約20%で,小児期に肝硬変が発生する。小児期に肝疾患がみられない患者の約10%に,成人期に臨床的肝硬変が発生する。一連の剖検では,罹患成人の約3分の1に肝硬変がみられることが明らかになっている(3)。肝が侵されている場合は肝癌のリスクが増大する。

肺では,α1-アンチトリプシン欠乏症により好中球エラスターゼ活性が増大し,それが組織の破壊を促進し,肺気腫を引き起こす(タバコ煙もプロテアーゼ活性を高めるため,特に喫煙患者でみられる)。α1-アンチトリプシン欠乏症は,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の全症例の1~2%を占める。α1-アンチトリプシン欠乏症により引き起こされる疾患で最も多いものは早期発症の肺気腫である;肺疾患の症候は,非喫煙者より喫煙者で早くみられるが,25歳より前で肺が侵されることはまれである。気管支拡張症の一部の患者は,α1-アンチトリプシン欠乏症を有する。

その他の組織

α1-アンチトリプシンの変異型が関連している可能性があるその他の障害としては,脂肪織炎(皮下組織の炎症性疾患),生命を脅かす出血(α1-アンチトリプシンを好中球エラスターゼ阻害物質から凝固因子阻害物質に変換する変異による),動脈瘤,潰瘍性大腸炎,抗好中球細胞質抗体(ANCA)陽性血管炎,糸球体疾患などがある。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Mróz J, Pelc M, Mitusińska K, Chorostowska-Wynimko J, Jezela-Stanek A.Computational Tools to Assist in Analyzing Effects of the SERPINA1 Gene Variation on Alpha-1 Antitrypsin (AAT). Genes (Basel).2024;15(3):340.doi:10.3390/genes15030340

  2. 2.American Thoracic Society; European Respiratory Society: American Thoracic Society/European Respiratory Society statement: standards for the diagnosis and management of individuals with alpha-1 antitrypsin deficiency. Am J Respir Crit Care Med 168(7):818–900, 2003.doi:10.1164/rccm.168.7.818

  3. 3.Fairbanks KD, Tavill AS.Liver disease in alpha 1-antitrypsin deficiency: a review. Am J Gastroenterol 2008;103(8):2136-2142.doi:10.1111/j.1572-0241.2008.01955.x

α1-アンチトリプシン欠乏症の分類

正常なPIの表現型はPI*MMである。肺気腫を合併したα1-アンチトリプシン欠乏症の重症患者は,95%以上がZアレルのホモ接合体である(PI*ZZ)。一般集団における有病率は1/2000~1/10,000である(1)。大半の患者が北欧系であり,Zアレルはアジア系やアフリカ系ではまれである。

肺気腫はZアレルのホモ接合体の患者でよくみられるが,非喫煙者でPI*ZZのホモ接合体の患者の多くは肺気腫を発症しない;発症する患者にはCOPDの家族歴がみられるのが典型的である。喫煙者でPI*ZZのホモ接合体である人は,非喫煙者でPI*ZZのホモ接合体である人より期待余命が短い。非喫煙者でPI*ZZホモ接合体の人は,PI*MMの人(喫煙の有無は問わない)より期待余命が短い。喫煙者の場合,PI*MZのヘテロ接合体の個人は,一般集団と比べて経時的に1秒量(FEV1)の急速な低下を経験する可能性が高い。

その他のまれな表現型として,PI*SZや無発現のアレルを含む2つのα1-アンチトリプシン欠乏症の型(PI*Z-nullおよびPI*null-null)がある(の表を参照)。アレルの発現がない表現型では,α1-アンチトリプシンの血清中濃度は検出できない。まれな突然変異を有する患者では,機能異常があるもののα1-アンチトリプシンの血清中濃度が正常なこともある。

表&コラム
表&コラム

分類に関する参考文献

  1. 1.Ali­-Munive A, Leidy P, Proanos NJ, et al.Prevalence of genetic mutations in alpha-1 antitrypsin deficiency (aatd) in patients with chronic obstructive pulmonary disease in Colombia. BMC Pulm Med 2023;23(1):156.doi:10.1186/s12890-023-02453-0

α1-アンチトリプシン欠乏症の症状と徴候

肝臓が侵された新生児では,生後1週間で胆汁うっ滞性黄疸と肝腫大がみられるが,黄疸は通常2~4カ月までに消失する。肝硬変が小児期または成人期に発生することもある(肝硬変および肝細胞癌の症状と徴候については,本マニュアルの別の箇所で考察されている)。

肺気腫のある成人には,呼吸困難,咳嗽,喘鳴,および呼気の延長などのCOPDの症状および徴候がみられる。

肺疾患の重症度は,表現型,喫煙状況,およびその他の因子によって大きく異なる。喫煙者でPI*ZZのホモ接合体である患者の一部では,肺機能が良好に保持される場合がある。PI*ZZのホモ接合体であるが非喫煙者である患者の一部では,肺機能が重度に障害されることもある。一般集団における調査で同定されたPI*ZZのホモ接合体の人(すなわち,症状も肺疾患もない人)は,喫煙の有無にかかわらず,肺疾患があるために同定されたPI*ZZの人より良好な肺機能を有する傾向がある。気流閉塞は,男性でより頻度が高く,また喘息,繰り返す呼吸器感染症,職業性の塵埃曝露,および肺疾患の家族歴がみられる場合にも高い頻度で起こる。

脂肪織炎は,皮下軟部組織の炎症性疾患であり,硬結して圧痛のある変色した局面または結節が典型的には下腹部,殿部,および大腿部に現れる。

α1-アンチトリプシン欠乏症の診断

  • 血清α1-アンチトリプシン値

  • 遺伝子型

α1-アンチトリプシン欠乏症は以下の場合に疑われる:

  • 喫煙者で45歳以前に肺気腫を発症した人

  • 非喫煙者で職業曝露がなく肺気腫を発症(発症年齢は問わない)した人

  • 胸部X線で主に下肺に肺気腫がみられる患者

  • 肺気腫または説明のつかない肝硬変の家族歴を有する患者

  • α1-アンチトリプシン欠乏症の家族歴を有する患者

  • 脂肪織炎のある患者

  • 黄疸または肝酵素上昇のある新生児

  • 説明のつかない気管支拡張症または肝疾患のある患者

スクリーニングは通常,遺伝子型解析により行う。放射免疫拡散法によって測定した血清α1アンチトリプシン値が < 80mg/dL(< 15μmol/L)または,ネフェロメトリーによる測定濃度が < 50mg/dL(< 9μmol/L)であれば,診断が確定される(1)。

診断に関する参考文献

  1. 1.American Thoracic Society; European Respiratory Society: American Thoracic Society/European Respiratory Society statement: standards for the diagnosis and management of individuals with alpha-1 antitrypsin deficiency. Am J Respir Crit Care Med 168(7):818–900, 2003.doi:10.1164/rccm.168.7.818

α1-アンチトリプシン欠乏症の治療

  • 支持療法

  • 肺疾患には,しばしばα1アンチトリプシン補充を行う

肺疾患の治療は精製ヒトα1-アンチトリプシンを用いて行い,これにより,放射免疫拡散法で測定したときの血清中α1-アンチトリプシン濃度を発症予防効果のある目標値である80mg/dL(正常値の35%)以上に維持することができる。

肺気腫は恒久的な構造変化をもたらすため,障害された肺構造を修復または肺機能を治療によって改善できるわけではないが,それでも治療は肺気腫の進行を止めるために行われる。治療は高額となるため,2つの異常アレルを有する非喫煙患者において,軽度から中等度の肺機能障害があり,血清α1-アンチトリプシン濃度の低値により確定診断が得られた場合にのみ,治療を行う。治療は重症の患者,または1つもしくは両方のアレルが正常である患者には適応とならない。

禁煙,気管支拡張薬の使用,および呼吸器感染症の早期治療は,肺気腫およびα1-アンチトリプシン欠乏症のある患者では特に重要である。

重度の障害がある60歳未満の患者には,肺移植を考慮すべきである。

α1-アンチトリプシン欠乏症の肺気腫の治療を目的とした肺容量減少手術の施行には議論がある;α1-アンチトリプシン欠乏症のない患者と比較して転帰は不良である。

肝疾患の治療は支持療法による。肝疾患は酵素の欠乏ではなく異常なプロセシングが原因であるため,酵素補充療法は有効ではない。肝不全のある患者には,肝移植が行われることもある。

脂肪織炎の治療は十分に定義されていない。ジアフェニルスルホン(ダプソン),コルチコステロイド,およびテトラサイクリン系薬剤が用いられている(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Franciosi AN, Ralph J, O'Farrell NJ, et al: Alpha-1 antitrypsin deficiency-associated panniculitis. J Am Acad Dermatol 87(4):825–832, 2022.doi:10.1016/j.jaad.2021.01.074

α1-アンチトリプシン欠乏症の予後

集団としてみると,重症のα1-アンチトリプシン欠乏症があるものの喫煙歴がない場合,期待余命は平均的であり,中等度の肺機能障害を有するのみである。

α1-アンチトリプシン欠乏症における最も一般的な死因は肺気腫であり,次に肝硬変(しばしば肝細胞癌を伴う)が続く。

要点

  • 原因不明の肺気腫,肝疾患(特に新生児における),脂肪織炎,または気管支拡張症がある患者では,α1-アンチトリプシン欠乏症を疑う。

  • 診断には遺伝子型解析を用い,α1-アンチトリプシンの血清中濃度が < 80mg/dL(< 15μmol/L)であることを確認して診断を確定する。

  • 選択された患者(両方のアレルが異常である非喫煙者で,肺機能障害が軽度から中程度であり,血清α1-アンチトリプシン濃度が低い患者)に対し,精製ヒトα1-アンチトリプシンを用いて治療を行う。

  • 肝不全が発生すれば,肝移植を考慮する。

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