脳性麻痺症候群

執筆者:M. Cristina Victorio, MD, Akron Children's Hospital
レビュー/改訂 2019年 10月
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脳性麻痺は,出生前の発育異常または周産期もしくは出生後の中枢神経系損傷に起因する,随意運動または姿勢制御の障害を特徴とする非進行性の症候群である。症状は2歳までに出現する。診断は臨床的に行う。治療法としては,理学療法,作業療法,装具,薬物療法またはボツリヌス毒素の注入,整形外科手術,バクロフェンの髄腔内投与,特定の症例における脊髄後根切断術などが挙げられる。

脳性麻痺は,非進行性の痙縮,運動失調,または不随意運動を引き起こす一連の症候群であり,1つの特異的な疾患でも単一の症候群でもない。脳性麻痺症候群は,全小児の0.1~0.2%に発生し,早産児の最高15%が罹患する。

病因

脳性麻痺の病因には複数の因子が関与しており,特異的な単一の原因を確定することはときに困難である。未熟性,子宮内障害,新生児脳症,および核黄疸がしばしば一因となる。周産期因子(例,周産期仮死,脳卒中中枢神経系感染症)が原因の症例は,おそらく全体の15~20%と考えられている。

脳性麻痺の種類としては,例えば以下のものがある:

  • 早産児に生じる痙性両麻痺

  • 周産期仮死後に生じる痙性四肢不全麻痺

  • 周産期仮死または核黄疸の発生後に生じるアテトーゼ型およびジストニア型

中枢神経系外傷や重度の全身性疾患(例,脳卒中,髄膜炎,敗血症,脱水)が小児期早期(2歳まで)に起こった場合にも,脳性麻痺が発生することがある。

症状と徴候

特異的な症候群が発現する前の症状としては,運動発達の遅れがあり,しばしば乳児反射の残存,反射亢進,および筋緊張異常もみられる。

脳性麻痺症候群の分類

中枢神経系の奇形または損傷部位に応じて,症候群は主に以下のいずれかに分類される:

  • 痙性症候群は,症例の70%以上に発生する。痙縮(痙性)とは,関節可動域内の他動運動に対して抵抗が生じる状態で,運動が速いほど抵抗が強くなるものである。上位運動ニューロンの障害によるもので,軽度または重度の運動機能障害を引き起こす。この症候群では,片麻痺,四肢麻痺,両麻痺,または対麻痺が生じることがある。通常,患肢の深部腱反射が亢進し,筋緊張も亢進し,随意運動が減弱し,協調が不良となる。関節拘縮が起こり,関節のアライメント異常を来すこともある。はさみ足歩行とつま先歩きが典型的である。軽症例では,特定の活動中(例,ランニング)にのみ機能障害が発生する。口,舌,口蓋の運動に関係する皮質延髄路の障害は,結果として構音障害または嚥下困難につながり,一般的には四肢麻痺とともに発生する。

  • アテトーゼまたはジスキネジア症候群は,症例の約20%に発生し,基底核障害の結果として生じる。これらの症候群は,四肢近位部および体幹のもがくような緩徐な不随意運動(アテトーゼ運動)により定義され,随意運動の試みまたは興奮によってしばしば活性化する。唐突で痙攣性の四肢遠位(舞踏病様)運動がみられることがある。運動は感情的緊張によって増加し,睡眠時は消失する。構音障害が発生し,しばしば重症となる。

  • 失調症候群は,症例の5%未満に発生し,小脳またはその伝導路の障害によって生じる。筋力低下,協調運動障害,および企図振戦により,不安定感と開脚歩行が生じ,迅速または微細運動に困難を来すようになる。

  • 混合型症候群はよくみられ,痙縮とアテトーゼの混合が最も多い。

脳性麻痺に伴う所見

約25%の患者には他の症状がみられ,特に痙縮型の患者で最も多い。斜視とその他の視覚異常が発生することがある。核黄疸によるアテトーゼがある患児では,一般的に神経性難聴と上方注視麻痺がみられる。

痙性片麻痺または対麻痺の患児の多くは,正常な知能を有するが,痙性四肢麻痺または混合型症候群の患児では重度の知的障害がみられることがある。

診断

  • 脳MRI

  • ときに,遺伝性の代謝または神経疾患を除外する検査

脳性麻痺が疑われる場合は,基礎疾患の同定が重要となる。病歴から原因が示唆されることがある。脳MRIによりほとんどの症例で異常を検出できる。

脳性麻痺を乳児期早期に確定できることはまれで,特異的な症候群は2歳になるまで認識できないことが多い。高リスクの小児(例,早産児の頭部超音波検査での仮死,脳卒中,脳室周囲異常の所見,黄疸,髄膜炎,新生児痙攣,筋緊張亢進,筋緊張低下,反射抑制などがみられる小児)には,詳細なフォローアップを行うべきである。

鑑別診断

脳性麻痺は進行性遺伝性神経疾患や外科的または他の特異的な神経学的治療を必要とする疾患と鑑別する必要がある。

運動失調型は特に鑑別が難しく,運動失調が持続する患児では,最終的には進行性小脳変性疾患が原因と判明する例が多い。

男児におけるアテトーゼ,自傷行為,および高尿酸血症の存在は,レッシュ-ナイハン症候群を示唆する。

皮膚または眼の異常は,結節性硬化症(tuberous sclerosis complex)神経線維腫症毛細血管拡張性運動失調症フォン・ヒッペル-リンドウ病,またはスタージ-ウェーバー症候群を示唆する。

乳児脊髄性筋萎縮症および筋ジストロフィー,ならびに筋緊張低下および反射低下を伴う神経筋接合部疾患では,脳疾患の徴候がみられないのが通常である。

副腎白質ジストロフィーは小児期後期に始まるが,他の白質ジストロフィーは早期に始まり,当初は脳性麻痺と誤診されることがある。

原因の同定

病歴および/または脳MRIで原因を明確に同定できない場合は,運動系が侵される特定の進行性蓄積症(例,テイ-サックス病異染性白質ジストロフィームコ多糖症)および代謝性疾患(例,有機酸またはアミノ酸代謝異常症)を除外するための臨床検査を行うべきである。

その他の進行性疾患(例,乳児型神経軸索ジストロフィー)が神経伝導検査および筋電図検査で示唆されることもある。上記のものも含めて脳性麻痺(および他の臨床像)を呈する多くの脳疾患が遺伝子検査により同定されることが増えてきており,特定の疾患をチェックしたり多数の疾患をスクリーニングしたりする目的で遺伝子検査を行うことが可能になっている(マイクロアレイおよび全エクソーム解析)。

予後

ほとんどの患児は成人期まで生存する。吸啜と嚥下に重度の制限がある場合は,胃瘻管による栄養が必要となることがあり,期待余命は短縮する可能性がある。

目標は,運動障害および関連する機能障害の制限内で患児が最大限の自立を遂げることである。適切に管理できれば,多くの患児(特に痙性対麻痺または片麻痺の患児)がほぼ正常な生活を送ることができる。

治療

  • 理学療法および作業療法

  • 装具,強制使用療法(CI療法),薬剤,または痙縮を治療するための手術

  • ボツリヌス毒素の注射

  • バクロフェンの髄腔内投与

  • 補助器具

通常は,ストレッチング,筋力強化,および適正運動パターンの促進を目的とする理学療法および作業療法で治療を開始し,そのまま継続する。装具,強制使用療法(CI療法),および薬剤を追加することもある。

関節にかかる不均等な牽引を減少させ,固定性の拘縮を予防するために,ボツリヌス毒素を筋肉内注射することもある。

バクロフェン,ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ジアゼパム),チザニジンのほか,ときにダントロレンにより,痙縮を軽減できることがある。バクロフェンの髄腔内投与(皮下ポンプおよびカテーテルによる)は,重度の痙縮の治療として最も効果的である。

整形外科的手術(例,筋腱解離術または移行術)は,関節運動の制限やアライメント異常を軽減する助けとなりうる。痙縮が主に下肢にみられ,認知能力が良好であれば,少数の患児で選択的脊髄後根切断術(脳外科医が施行する)が役立つことがある。

知的機能の制限が重度でない場合は,普通学級への出席や,調整された運動プログラム,さらには競技にも参加できる可能性がある。言語訓練やその他の形でコミュニケーションを容易にすることが相互作用を強めるため必要となることもある。

重症の患児では,日常生活動作(例,洗濯,着替え,食事)の訓練が有益となる可能性があり,自立性と自尊心が高められるとともに,家族や他の介助者の負担が大幅に軽減されることもある。補助器具は,移動とコミュニケーションを促進し,関節可動域の維持や日常生活動作の介助に役立つ場合がある。一部の小児では,様々な程度で生涯の監督および支援が必要になる。

多くの小児施設は,患児が成人になると特殊なニーズに対する支援が少なくなることから,移行プログラムを確立しつつある。

慢性的な制限のある小児の親には,児の現状と可能性を理解し,自身の罪悪感,怒り,否定,悲しみの感情に対処するための援助および指導が必要である( see page 家族に及ぼす影響)。そのような小児でも,思慮のある安定した親によるケアと,公的および私的機関(例,地域の保健機関,職業リハビリテーション機関,United Cerebral Palsyなどの市民健康団体)による援助さえあれば,潜在的な最大限の能力を獲得できる。

要点

  • 脳性麻痺は,非進行性の痙縮,運動失調,および/または不随意運動が生じる症候群である(特異的な疾患ではない)。

  • 病因にはしばしば複数の因子が関与し,ときに不明であるが,中枢神経系の奇形または損傷(例,遺伝性疾患,子宮内で生じる疾患,未熟性,核黄疸,周産期仮死,脳卒中,中枢神経系感染症)に関連した出生前および周産期の因子が関与する。

  • 知的障害やその他の神経症状(例,斜視,難聴)は,本症候群の一部ではないが,本症候群の原因に応じてみられることがある。

  • 本症候群は2歳未満で発症する;類似の症状がこれより後に発症した場合は,別の神経疾患が示唆される。

  • 脳MRIのほか,必要に応じて遺伝性の代謝および神経疾患の検査を行う。

  • 治療法は障害の性質および程度に依存するが,典型的には理学療法および作業療法が用いられる;その他にも一部の患児では,装具,ボツリヌス毒素,ベンゾジアゼピン系薬剤,その他の筋弛緩薬,髄腔内投与によるバクロフェン,および/または手術(例,筋腱解離術または移行術,まれに脊髄後根切断術)が有益となる。

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