斜視

執筆者:Leila M. Khazaeni, MD, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 2月
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斜視とは眼位の異常で,正常では平行になる注視時の視線に偏位が生じたものである。診断は,角膜光反射の観察や遮閉試験の実施など,臨床的に行う。治療には,眼帯および矯正レンズの装用による視力障害の是正,矯正レンズによる眼位矯正,外科的修復などがある。

斜視は小児の約3%に発生する。無治療で放置すると,斜視患児の約50%で弱視(視力発達過程における眼の不使用によって引き起こされる機能的な視力低下)に起因する視力障害が発生する。

斜視の分類

偏位の方向,偏位発生下の特異的な条件,および偏位が恒常性か間欠性かといったことに基づいて,斜視の種類がいくつか報告されている。この種類について記載するには,いくつかの用語を定義する必要がある:

  • 内(eso-):鼻側偏位

  • 外(exo-):耳側偏位

  • 上(hyper-):上方偏位

  • 下(hypo-):下方偏位

斜視における眼球偏位の図を参照)

斜視(tropia)とは,両眼を開いた(つまり両眼視)状態で検出できる顕性の偏位である。斜視には恒常性のものも間欠性のものもあり,片眼性のものも両眼性のものもある。

斜位(phoria)とは,片眼を遮閉し単眼視の状態でのみ検出できる潜伏性の偏位である。脳が外眼筋により軽微な眼位異常を修正するため,斜位における偏位は潜伏性である。

共同性斜視では,どの方向を固視しても眼位異常の程度や角度が一定である。

非共同性斜視では,固視の方向によって眼位異常の程度や角度が変化する。

斜視における眼球偏位

両眼性斜視;ここでは左眼を示している。偏位方向は接頭辞の内(eso)-,外(exo)-,上(hyper)-,下(hypo)-で表す。偏位が視認可能な場合,接尾辞の-斜視(tropia)および-斜位(phoria)で表す。

斜視の病因

大半の斜視は以下によって起こる:

  • 屈折異常

  • 筋不均衡

まれな原因として,網膜芽細胞腫または他の重篤な眼異常,および神経疾患などがある。

斜視には乳児性のものも後天性のものもある。乳児性という用語(先天性ではなく)の方が好まれるが,これは出生時の真性斜視の存在はまれであり,乳児性という用語であれば生後6カ月以内に発症するものも含まれるためである。後天性という用語は,生後6カ月を過ぎてから発症するものを意味している。

乳児斜視の危険因子としては,家族歴(第1度または第2度近親者),遺伝性疾患(ダウン症候群およびCrouzon症候群),出生前の薬物曝露(アルコールを含む),未熟性または低出生体重,先天性の眼異常脳性麻痺などがある。

後天性斜視は,急速に発現することも,徐々に発現することもある。後天性斜視の原因としては,屈折異常(高度遠視),腫瘍(例,網膜芽細胞腫),頭部外傷,神経疾患(例,脳性麻痺; 二分脊椎第3脳神経第4脳神経,または第6脳神経麻痺),ウイルス感染(例,脳炎髄膜炎),後天性の眼異常などがある。偏位の種類によって特異的な原因は異なる。

内斜視は一般に乳児性である。乳児内斜視は,融像の異常が原因として疑われるものの,特発性とされている。調節性内斜視は,後天性内斜視で頻度の高いもので,2~4歳の間に発現し,遠視と関連する。感覚性内斜視は,重度の視力障害(白内障,視神経異常,または腫瘍などの疾患に起因するもの)によって,眼位を維持しようとする脳の働きが干渉を受ける場合に発生する。

斜視(内斜視)
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この写真には,内斜視の小児が写っており,小児の左眼に右眼方向への内方偏位がみられる。
DR P. MARAZZI/SCIENCE PHOTO LIBRARY

麻痺性内斜視もみられ,原因が第6脳神経(外転神経)麻痺であるために命名されたが,まれな原因である。症候群の1症状として内斜視が発生することもある。具体例として,Duane症候群(第3脳神経[動眼神経]による外直筋神経支配の異常を伴う外転神経核の先天的欠如)およびメビウス症候群(複数の脳神経の異常)が挙げられる。

外斜視は間欠性かつ特発性のことが最も多い。頻度は低いものの,乳児外斜視または第3脳神経(動眼神経)麻痺と同様に,恒常性かつ麻痺性の外斜視もある。

上斜視には麻痺性のものがあり,先天的または頭部外傷後に発生する第4脳神経(滑車神経)麻痺により発生したり,頻度は低いが第3脳神経麻痺の結果として発生したりする。

下斜視には制限性のものがあり,眼球運動への神経学的干渉ではなく,眼球の機械的な最大可動域の制限によって発生する。例えば,眼窩底または眼窩壁の吹き抜け骨折が原因で制限性の下斜視が起こる。頻度は低いものの,バセドウ眼症(甲状腺眼症)によって制限性の下斜視が発生することがある。その他のまれな原因として,第3脳神経麻痺およびBrown症候群(先天性または後天性の上斜筋腱の緊張および運動制限)がある。

斜視の症状と徴候

重度でない限り,斜位による症状はめったにみられない。斜位による症状がある場合は,典型的に眼精疲労がみられる。

斜視はときに症状を引き起こす。例えば,眼位異常に起因した脳での結像困難を代償したり,複視を軽減したりするために,斜頸が起きることがある。斜視があっても視力は正常で左右差もない小児もあるが,混乱や複視を回避するために偏位眼の像に対して皮質からの抑制が働く結果,斜視は高頻度で弱視を合併する。

斜視の診断

  • 小児健診時の身体診察および神経学的診察

  • 検査(例,角膜光反射試験,交互遮閉試験,遮閉-遮閉除去試験)

  • プリズム

斜視は小児健診における病歴聴取および眼科診察の際に発見されることがある。評価時には,弱視または斜視の家族歴について質問し,家族または養育者が注視の偏位に気づいている場合は,偏位が始まった時期,どのようなときにどのくらいの頻度で偏位が現れるか,固視する際に一方の眼のみを使用する傾向がないかについても質問すべきである。身体診察には視力,瞳孔反応,および外眼筋運動の程度についての評価を含めるべきである。白内障の徴候を検出するために細隙灯顕微鏡検査を施行し,構造異常の徴候や網膜芽細胞腫などの疾患の病変の徴候を検出するために眼底検査を実施する。神経学的診察(特に脳神経の検査)が重要である。

角膜光反射検査は良好なスクリーニング検査であるが,小さな偏位の検出に対する感度が特に高いわけではない。被験児に光を見せながらその瞳孔からの反射光(反射像)を観察する;正常であれば,反射像は左右対称に観察される(すなわち,各眼瞳孔上の同じ位置にくる)。外斜視眼では光の反射像が瞳孔中心よりも鼻側に寄り,一方の内斜視眼では反射像が瞳孔中心よりも耳側に寄る。訓練を受けた一般職員がフォトスクリーナーなどの視覚スクリーニング機器を使用することで,リスクのある小児を同定できる場合がある。

遮閉試験を実施する場合は,まず被験児に1つの物体を固視するよう指示する。それから片眼の動きを観察しながら他眼を遮閉する。このとき眼位が正常であれば動きは全く検出されないが,それまで物体を固視していた方の眼が遮閉される毎に,遮閉されていない方の眼が固視達成のために移動する場合には,顕性斜視が存在する。この検査を対眼に対しても繰り返す。

遮閉試験のバリエーションである交互遮閉除去試験では,患児に1つの物体を固視するように指示し,その間に検者は遮閉と遮閉除去を右眼から左眼,その逆へと交互に行っていく。潜伏性斜視のある眼は,遮閉が除去されるときに眼位が変化する。外斜視では,遮閉が除去されるときに遮閉されていた方の眼が固視のために内側に移動する;内斜視では,遮閉が除去されるときに固視のために外側に移動する。偏位の測定を可能にするものとして,偏位眼が固視のために動く必要がないようにプリズムを配置する方法がある。ここで偏位を引き起こさなかったプリズムの度数により,偏位の程度が定量でき,さらに視軸のずれの強度も測定可能になる。測定単位として眼科医が使用しているのが,プリズムジオプトリである。1プリズムジオプトリとは,1mの位置における1cmの視軸偏位である。

斜視は偽斜視と鑑別すべきであり,偽斜視とは,両眼とも良好な視力をもつが鼻梁が幅広いまたは内眼角贅皮が大きいため,側面からみた際に鼻側の白目部分の大半が覆い隠される小児にみられる内斜視の所見である。偽斜視の小児では角膜光反射試験および遮閉試験が正常である。

後天性脳神経麻痺の原因を同定するため,神経画像検査が必要な場合がある。また,特定の眼形成異常には遺伝学的評価が有益となることがある。

斜視の予後

いずれ回復するという憶測で,斜視を無視してはならない。斜視とそれに伴う弱視が速やかに治療されない場合,永続的な視力障害が生じる可能性があり,遅れて治療を受けた小児もいくらかは治療に反応するが,視覚系の成熟(典型的には8歳までにみられる)が終わってからでは,ほとんど反応しなくなる。そのため,全ての小児が就学まで正式な視覚スクリーニングを定期的に受けるべきである。

斜視の治療

  • 合併する弱視に対する眼帯またはアトロピン点眼

  • コンタクトレンズまたは眼鏡(屈折異常の場合)

  • 視能訓練(輻輳不全のみの場合)

  • 手術による眼位矯正

斜視の治療における初期の目標は,視力の均等化(すなわち弱視の矯正)とその後(至適な視力が得られてから)の眼位矯正である。弱視の小児の治療では,弱視眼を視覚的優位とするために,視力のよい方の眼への眼帯装着やアトロピン点眼などにより弱視眼の使用を促進する対策が必要である;弱視眼の視力改善は,両眼視の発達と斜視の治療として手術を行った場合の安定性についての予後改善につながる。しかしながら,眼帯では斜視の治療にならない。特に調節性内斜視の患児で,融像を妨げるほどに屈折異常が強度の場合は,ときに眼鏡またはコンタクトレンズが使用される。輻輳不全を伴う間欠性外斜視の矯正に視能訓練が助けになる。

一般に外科的修復は,手術以外の方法では十分な眼位矯正が達成できない場合に行われる。外科的修復は弛緩(後転)および引締(短縮)の手技で構成され,ほとんどの場合に水平直筋が含まれるほか,ほとんどの場合に両側に対して行われる。外科的修復は典型的には外来で実施される。眼位矯正の成功率は80%を超える可能性があるが(1),約20%では別の外科的処置が必要になる。最も頻度の高い合併症は,過剰矯正または矯正不足,および後年の斜視再発である。まれな合併症としては,感染症,過度の出血,視力障害などがある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Ekdawi NS, Nusz KJ, Diehl NN, Mohney BG: Postoperative outcomes in children with intermittent exotropia from a population-based cohort.J AAPOS 13(1):4–7, 2009.doi: 10.1016/j.jaapos.2008.06.001

要点

  • 斜視とは眼位の異常である;小児の約3%に起こり,その約半数が一定の視力低下(弱視)を来す。

  • 大半の症例は屈折異常または筋力低下によって起こるが,ときに重篤な疾患(例,網膜芽細胞腫,脳神経麻痺)が関与している。

  • 斜視とそれに伴う弱視が速やかに治療されない場合,永続的な視力障害が生じる可能性があり,8歳以降になると,視覚系が治療に反応しなくなることが多い。

  • 斜視はその大半が身体診察で検出できる。

  • 治療は原因により異なるが,外眼筋手術がときに必要である。

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