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分娩損傷

執筆者:

Arcangela Lattari Balest

, MD, University of Pittsburgh, School of Medicine

レビュー/改訂 2021年 4月
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分娩時の力により,ときに新生児に身体的損傷が引き起こされる。難しい回転術, 吸引分娩 鉗子・吸引分娩 鉗子・吸引分娩では,分娩第2期に分娩を補助および促進するために,鉗子または吸引器を児頭に対して使用する。 鉗子分娩および吸引分娩の適応は,本質的に同じである: 分娩第2期(子宮口の全開大から胎児娩出まで)の遷延 胎児機能不全の疑いがある(例,異常な心拍数パターン) 母体の有益性のために第2期を短縮する必要がある―例,母体の心機能障害(例,左右短絡)または神経疾患(例,脊髄外傷),いきみが禁忌であるまたは効果的ないきみを妨げる母体の疲労 さらに読む 中位鉗子分娩または高位鉗子分娩 鉗子・吸引分娩 鉗子・吸引分娩では,分娩第2期に分娩を補助および促進するために,鉗子または吸引器を児頭に対して使用する。 鉗子分娩および吸引分娩の適応は,本質的に同じである: 分娩第2期(子宮口の全開大から胎児娩出まで)の遷延 胎児機能不全の疑いがある(例,異常な心拍数パターン) 母体の有益性のために第2期を短縮する必要がある―例,母体の心機能障害(例,左右短絡)または神経疾患(例,脊髄外傷),いきみが禁忌であるまたは効果的ないきみを妨げる母体の疲労 さらに読む に代わり 帝王切開 帝王切開 帝王切開は,子宮を切開する外科手術による分娩である。 米国では最大30%の分娩が帝王切開による。帝王切開率は変動する。帝王切開率は最近上昇しており,これは一部には帝王切開後の経腟分娩(VBAC)を試みる女性での子宮破裂のリスク上昇についての懸念による。 帝王切開における合併症発生率および死亡率は低いが,依然として経腟分娩のそれよりは数倍高い;したがって帝王切開は妊婦または胎児にとって経腟分娩より安全な場合にのみ施行すべきである。... さらに読む を用いることが増えているため,困難な分娩または外傷を引き起こしうる分娩に起因する新生児の損傷発生率は低下している。

新生児が 在胎期間に対して大きい 在胎不当過大児(LGA児) 在胎期間に対して体重が90パーセンタイル以上の新生児は,在胎不当過大(large for gestational age)に分類される。巨大児とは,出生体重が4000g以上の正期産児をさす。主な原因は母体糖尿病である。合併症には,分娩外傷,低血糖,過粘稠度,および高ビリルビン血症がある。 在胎期間は,大まかには,最後の正常な月経がみられた日から分娩日までの週数として定義されている。より正確には,在胎期間は受胎日の14日前から分娩日までの... さらに読む 場合(母体糖尿病 妊娠中の糖尿病 妊娠は,既存の1型(インスリン依存性)および2型(インスリン非依存性) 糖尿病を増悪させるが,糖尿病網膜症,腎症,または神経障害を悪化させることはないようである( 1)。 妊娠糖尿病(妊娠中に始まる糖尿病[ 2])は,過体重,高インスリン血症,インスリン抵抗性の妊婦,またはやせ型,相対的にインスリンの不足している妊婦に発生しうる。妊娠糖尿病は全妊娠の少なくとも5%に起こるが,特定の集団(例,メキシコ系アメリカ人,アメリカンインディアン,... さらに読む に関連する場合がある)や, 骨盤位や他の異常胎位 胎児が原因の難産 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む である場合(特に初産婦において)などに,外傷のリスクが上昇する。

頭部(頭蓋外)の損傷

頭部の損傷は,出生に関連する最もよくみられる損傷であり,通常は軽度であるが重篤な損傷がときに起こる。

頭部の変形

経腟分娩では,児が産道を通過する際に可鍛性がある頭蓋に子宮収縮による圧力がかかるため,頭部の変形がよくみられる。この変形は正常な過程であり,外傷の徴候ではない。これは治療を必要としない。

頭皮擦過傷

産瘤

産瘤とは,頭位分娩中の圧迫により児頭の先進部の頭皮に生じる,漿液血性の骨膜外皮下集積である。

帽状腱膜下出血

帽状腱膜下出血は,帽状腱膜と骨膜との間に生じる。より大きい外傷を原因とし,側頭部を含む頭皮全体に生じる波動性の腫瘤が特徴であり,出生後数時間で現れる。空隙となりうる頭皮下の領域は大きく,著しい失血および出血性ショックの可能性があり,輸血が必要になる場合がある。帽状腱膜下出血は鉗子または吸引器の使用に起因する場合や,凝固障害に起因する場合がある。

症例によっては,帽状腱膜下出血の程度が臨床的に全て明らかになる前に,重度の循環血液量減少およびショックが発生する。帽状腱膜下出血の治療はほとんどが支持療法であり,生理食塩水および濃厚赤血球を必要に応じて点滴する。

頭血腫

頭血腫は骨膜下に生じた出血である。頭血腫は,発生部分が明確に1つの骨を覆う領域に限定されるため(骨膜が縫合線に密着している),帽状腱膜下出血との鑑別が可能である。頭血腫は片側性で頭頂部にみられることが多い。ごく一部の新生児に,発生部位の骨に線状骨折が認められる。通常,血腫は生後数日間みられるが,数週間で解消する。

頭蓋骨陥没骨折

頭蓋骨陥没骨折はまれである。ほとんどが児の頭部が子宮内の骨隆起に引っかかっていることが原因か, 鉗子 鉗子・吸引分娩 鉗子・吸引分娩では,分娩第2期に分娩を補助および促進するために,鉗子または吸引器を児頭に対して使用する。 鉗子分娩および吸引分娩の適応は,本質的に同じである: 分娩第2期(子宮口の全開大から胎児娩出まで)の遷延 胎児機能不全の疑いがある(例,異常な心拍数パターン) 母体の有益性のために第2期を短縮する必要がある―例,母体の心機能障害(例,左右短絡)または神経疾患(例,脊髄外傷),いきみが禁忌であるまたは効果的ないきみを妨げる母体の疲労 さらに読む を用いる補助分娩によるものである。頭蓋骨陥没骨折または他の頭部外傷がある児は,硬膜下出血, くも膜下出血 くも膜下出血 (SAH) くも膜下出血は,くも膜下腔への突然の出血である。自然出血の最も一般的な原因は動脈瘤破裂である。症状としては突然の重度の頭痛などがあり,通常は意識消失または意識障害を伴う。二次性の血管攣縮(局所的な脳虚血を引き起こす),髄膜症,および水頭症(持続性の頭痛および意識障害を引き起こす)がよくみられる。診断はCTまたはMRIによる;脳画像検査が正常であれば,診断は髄液検査による。治療は支持療法と脳神経外科手術または血管内治療によるが,包括的脳卒... さらに読む くも膜下出血 (SAH) ,または脳自体の挫傷もしくは裂傷を伴うこともある( Professional.see page 頭蓋内出血 頭蓋内出血 分娩時の力により,ときに新生児に身体的損傷が引き起こされる。難しい回転術, 吸引分娩, 中位鉗子分娩または高位鉗子分娩に代わり 帝王切開を用いることが増えているため,困難な分娩または外傷を引き起こしうる分娩に起因する新生児の損傷発生率は低下している。 新生児が 在胎期間に対して大きい場合( 母体糖尿病に関連する場合がある)や, 骨盤位や他の異常胎位である場合(特に初産婦において)などに,外傷のリスクが上昇する。... さらに読む  頭蓋内出血 )。頭蓋骨陥没骨折では触知可能な(ときに可視)陥没部分が生じ,頭血腫で生じる触知可能な骨膜縁の隆起との鑑別が必要である。

頭蓋骨陥没骨折の診断を確定し合併症を除外するためにCTまたはMRIを施行する。

脳神経外科的な挙上が必要となることがある。

顔面神経の損傷

顔面神経が損傷を受けることが最も多い。鉗子による圧迫が一般的な原因であるが,一部の損傷は胎位によって(例,頭部が肩,仙骨岬角,または子宮筋腫の方向に倒れていることによって)子宮内で神経が圧迫された結果であると考えられる。

顔面神経の損傷は通常,茎乳突孔からの出口部またはその遠位で生じ,その結果,特に泣いているときに顔面非対称となる。顔面のどちら側が損傷を受けているのかの判断に迷うことがあるが,神経損傷のある側の顔面筋は動かない。損傷は個々の神経枝に生じることもあり,下顎縁枝に生じることが最も多い。

顔面非対称の別の原因として子宮内での圧迫による下顎非対称があり,この場合,筋の神経支配は損なわれておらず,顔面の両側が動く。下顎非対称では上顎咬合面と下顎咬合面が平行ではなく,これにより顔面神経損傷と鑑別できる。非対称の笑顔を起こしうる先天異常に,口角下制筋の片側性欠損がある;この異常は臨床的に重要ではないが,顔面神経の損傷と鑑別しなければならない。

顔面神経末梢部の損傷または下顎非対称に対して,顔面神経損傷の検査や治療は必要ない。通常,生後2~3カ月までに消失する。

腕神経叢損傷

腕神経叢損傷は 肩甲難産 肩甲難産 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む 骨盤位娩出 骨盤位 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む ,頭位における頸部過外転による,分娩中の頸部の外側への伸展に続いて起こることが多い。損傷は,神経の単純な伸展,神経内出血,神経または神経根の裂傷,頸髄損傷を伴う神経根の引き抜きなどにより起こりうる。関連する損傷(例,鎖骨または上腕骨の骨折,肩または頸椎の亜脱臼)がみられることがある。子宮内での圧迫も一部の症例で原因となる。

損傷が影響する部位は以下の通りである:

  • 腕神経叢(C5~C7):肩および肘周囲の筋肉

  • 下腕神経叢(C8~T1):主に前腕および手の筋肉

  • 全腕神経叢:上肢全体およびしばしばT1交感神経

神経根損傷の位置および型によって予後が決定する。

Erb麻痺は,最もよくみられる腕神経叢損傷である。Erb麻痺は,前腕の回内を伴う肩の内転および内旋を引き起こす腕神経叢(C5~C7)の損傷である。ときに上腕二頭筋反射は消失し, Moro反射 神経系 感染予防のため,全ての職員は手洗いが不可欠である。 母親とパートナーの両者が出産に向けて積極的に関わることが育児への順応に有用である。 分娩後直ちに新生児の呼吸状態,心拍数,皮膚の色,筋緊張,刺激反射を評価すべきである;これらは全て生後1分および5分時に取られるアプガースコアの重要な要素である(... さらに読む 神経系 は非対称である。同側に 横隔神経損傷 横隔神経損傷 分娩時の力により,ときに新生児に身体的損傷が引き起こされる。難しい回転術, 吸引分娩, 中位鉗子分娩または高位鉗子分娩に代わり 帝王切開を用いることが増えているため,困難な分娩または外傷を引き起こしうる分娩に起因する新生児の損傷発生率は低下している。 新生児が 在胎期間に対して大きい場合( 母体糖尿病に関連する場合がある)や, 骨盤位や他の異常胎位である場合(特に初産婦において)などに,外傷のリスクが上昇する。... さらに読む 横隔神経損傷 による横隔膜麻痺もよくみられる。通常,Erb麻痺の治療は理学療法および保護的な姿勢による支持療法であり,腕を上腹部に固定することによって肩が過度に動かないように保護する方法,生後1週間から罹患関節に対する愛護的な他動的関節可動域訓練を毎日実施することにより拘縮を予防する方法などがある。

一般的に,Erb麻痺とKlumpke麻痺のいずれも,断裂または引き抜けを示唆する明白な感覚消失を生じることはない。通常,これらの病態は急速に改善するが,障害が持続することもある。障害がより重度である場合や1~2週間を超えて持続する場合は,理学療法または作業療法により適切な肢位を取らせたり,腕を愛護的に動かしたりすることが推奨される。1~2カ月にわたり改善がみられなければ,長期の障害および成長障害のリスクが上昇する。外科的検索と顕微鏡手術下に行う神経移植による腕神経叢の再建が予後を改善する可能性があるかどうかを判断するための小児専門病院での小児神経科医および/または整形外科医による評価が適応となる。

腕神経叢全体の損傷は比較的まれであるが,結果として上肢は弛緩しほとんどまたは全く動かず,反射の欠如,および通常は感覚も消失する。最重症例では,同側のホルネル症候群がみられる。同側性の錐体路徴候(例,動きの減少,バビンスキー徴候)は脊髄損傷を示唆し,MRIを行うべきである。

横隔神経損傷

乳児には呼吸窮迫および患側の呼吸音減弱がみられる。

その他の末梢神経損傷

新生児では,他の末梢神経(例,橈骨神経,坐骨神経,閉鎖神経)の損傷はまれであり,また通常は分娩と関連しない。通常は局所の外傷的事象(例,坐骨神経内またはその近傍への注射)に続発するものである。

末梢神経損傷の治療には,麻痺した筋に拮抗する筋を回復まで安静に保つ方法がある。損傷神経の脳神経外科的検索が適応となることはまれである。ほとんどの末梢神経損傷で完全な回復が得られる。

脊髄損傷

脊髄損傷( Professional.see also page 小児における脊髄損傷 小児における脊髄損傷 10歳未満の小児では,脊髄損傷の発生率は最も低いものの,まれではない。小児の脊椎・脊髄損傷は大半が頸部で発生する。 8歳未満の小児では,頸椎損傷はC4より上で発生する場合が最も多く,自動車事故,転倒・転落,および虐待が原因である場合が最も多い。8歳以上の小児では,C5~C8の損傷がより多く,自動車事故やスポーツ損傷(特に体操,ダイビング,乗馬,アメリカンフットボール,およびレスリング)によって生じる。小児では成人と比べて,明らかな骨損傷... さらに読む )はまれであり,損傷の程度は様々で,出血を伴うことが多い。脊髄の完全な損傷は極めてまれである。通常, 骨盤位分娩 骨盤位 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む で脊椎に縦方向の過剰な牽引力がかかることにより損傷が生じる。硬膜外出血による脊髄圧迫または子宮内での児頸部の過伸展(「flying fetus」)が原因となる可能性もある。通常は下頸部(C5~C7)に損傷が生じる。高位に損傷が生じると,呼吸機能が完全に損なわれるため,通常は致死的である。分娩時にクリック音またはスナップ音が聞かれることがある。

まず損傷部位より下位に筋弛緩を伴う脊髄ショックが起こる。通常,損傷部位より下位では感覚または運動がまばらに存在する。数日または数週間以内に痙縮が発現する。横隔神経は起始が典型的な脊髄損傷部位より高位(C3~C5)に位置しており損傷されないため,呼吸は横隔膜性となる。脊髄が完全に損傷されると,肋間筋および腹筋が麻痺し,直腸および膀胱の括約筋の随意調節が発達しない。損傷部位より下位では感覚および発汗が失われ,環境の変化に伴う体温変動を引き起こしうる。

脊髄のMRIによって損傷部位を描出できることがあり,脊髄を圧迫している先天性腫瘍や血腫など外科的に治療可能な病変が除外される。髄液は通常,血性である。

ほとんどの新生児は,適切なケアによって何年も生存する。死因は通常,反復性肺炎および進行性の腎機能喪失である。脊髄損傷の治療には,看護による皮膚の潰瘍予防,尿路および呼吸器感染症の迅速な治療,閉塞性尿路疾患の早期発見のための定期的な評価などがある。

頭蓋内出血

脳内または脳周囲の出血はどの新生児にも発生しうるが,特に早産児によくみられ,1500g未満の早産児の約25%に頭蓋内出血がある。

頭蓋内出血の主要な原因としては以下のものがある:

  • 低酸素虚血

  • 血圧の変動

  • 再灌流を伴う低灌流

  • 分娩中の頭部にかかる異常な圧力

早産児では胚芽層(側脳室側壁の尾状核上を覆う胚性細胞の塊で,出血しやすい)の存在が,脳室内出血の可能性をさらに高くする。また,血液疾患(例, ビタミンK欠乏症 ビタミンK欠乏症 ビタミンK欠乏症は,極めて不十分な摂取,脂肪の吸収不良,またはクマリン系抗凝固薬の使用によって起こる。欠乏症は母乳栄養の乳児に特によくみられる。欠乏すると,血液凝固が障害される。診断は,ルーチンの凝固検査所見に基づいて疑い,ビタミンK投与に対する反応によって確定する。治療は,ビタミンKの経口投与か,脂肪の吸収不良が原因である場合,または出血のリスクが高い場合には,静脈内投与による。... さらに読む 血友病 血友病 血友病はよくみられる遺伝性出血性疾患で,第VIII因子または第IX因子のいずれかの凝固因子の欠乏に起因する。因子の欠乏の度合いで出血の確率および重症度が決まる。通常は外傷の数時間以内に深部組織または関節内への出血が生じる。診断は,プロトロンビン時間および血小板数が正常かつ部分トロンボプラスチン時間の延長を認める患者で疑い,特異的因子の測定により確定する。治療には,急性出血が疑われる場合,確認された場合,または発生する可能性が高い場合(例... さらに読む 播種性血管内凝固症候群 播種性血管内凝固症候群(DIC) 播種性血管内凝固症候群(DIC)は,循環血中のトロンビンおよびフィブリンの異常な過剰生成に関係する。その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進する。緩徐に(数週間または数カ月かけて)進行するDICでは,主に静脈の血栓性および塞栓性の症状がみられる;急速に(数時間または数日で)進行するDICでは,主に出血が生じる。重度で急速進行性のDICは,血小板減少症,部分トロンボプラスチン時間およびプロトロンビン時間の延長,血漿Dダイマー(または血... さらに読む )によってもあらゆる頭蓋内出血のリスクが増大する。

出血はいくつかの中枢神経系の腔に生じうる。くも膜下,大脳鎌,およびテントでの小出血は,非中枢神経系の原因により死亡した新生児の剖検でよく得られる偶発的所見である。くも膜下もしくは硬膜下,脳実質,または脳室での大出血は,頻度は低いがより重篤である。

以下がみられる新生児では頭蓋内出血が疑われる

  • 無呼吸

  • 痙攣

  • 嗜眠

  • 神経学的異常所見

そのような乳児には,最初の評価の一部として頭部画像検査を行うべきである。頭部超音波検査はリスクがなく,鎮静を必要とせず,脳室または脳実質内の血液を容易に同定できる。くも膜下または硬膜下の薄い血液層および骨損傷には,超音波検査よりもCTの方が感度が高いが,CTは乳児を電離放射線に曝露させる。頭蓋内出血および脳損傷には,CTまたは超音波検査よりもMRIの方が感度および特異度が高いが,画像の描出にはCTより時間がかかる。頭蓋内出血を迅速に同定するためにはCTを行う。

頭蓋内出血の治療は出血の部位および重症度に依存するが,通常は支持療法のみを施行し,ビタミンKの投与(前に投与されていない場合),および基礎に何らかの凝固異常があればその管理などを行う。重大な出血(例,硬膜下出血)の場合は,介入を要する乳児を同定するため,神経外科へのコンサルテーションを行うべきである。

硬膜外血腫

ほとんどの硬膜外血腫は自然に軽快し治療を必要としない。介入を要する場合,外科的および非外科的な選択肢がある。非外科的な選択肢は,経皮的硬膜外穿刺または超音波ガイド下針穿刺である。外科的選択肢として開頭術などがあるが,開頭は急速に進行する症例または他の介入が無効である症例のみに用いられる。

迅速に特定され治療された場合,神経学的予後は良好である。

脳室内出血および/または脳実質内出血

脳室内出血および/または脳実質内出血は,通常,生後3日間に発生し,頭蓋内出血の中で最も重篤である。出血は 早産児 早産児 在胎37週未満で出生した児は早産児とみなされる。 未熟性は出生時点での 在胎期間により定義される。かつては,体重2.5kg未満の新生児であればいずれも未熟児と呼ばれていた。早産児は小さい傾向にあるが,多くの体重2.5kg未満の乳児は成熟している場合や 過期産児および過熟児である場合,および 在胎不当過小である場合もあるため,この体重に基づいた定義は不適切である;このような新生児は外観も異なれば,抱える問題も異なる。... さらに読む に最も多くみられ,しばしば両側性であり,通常は胚芽層に生じる。正期産児の脳室内出血はまれではあるが,生じることはある。ほとんどは上衣下または脳室内の出血であり,出血量は少ない。重度の出血では,脳実質内へ血液が流入し,大槽や脳底槽に大量の血液が入ることがある。脳室内出血およびくも膜下出血にはしばしば低酸素虚血が先行する。低酸素虚血により毛細血管内皮が損傷し,脳血管の自己調節が障害されることに加え,脳血流量の増加および静脈圧の上昇が起こる可能性があり,このいずれによっても出血の可能性が高くなる。脳室内出血のほとんどは無症候性であるが,出血量が多い場合には無呼吸,チアノーゼ,または突然の失神を来すことがある。

脳室内出血が少量の場合,予後は良好である。しかし,脳室内に大出血のある場合,特に出血が脳実質まで拡大している場合は予後が不良である。生存例の多くで神経脱落症状が残る。重度の脳室内出血歴がある早産児には出血後 水頭症 水頭症 水頭症とは,過剰な量の髄液が集積した状態であり,脳室拡大および/または頭蓋内圧亢進が生じる。症状と徴候には,頭部拡大,泉門膨隆,易刺激性,嗜眠,嘔吐,痙攣などがある。診断は,閉鎖前の泉門がある新生児および幼若乳児では超音波検査により,月齢の高い乳児および小児ではCTまたはMRIによる。治療は重症度と症状の進行度に応じて,経過観察から外科的介入までに及ぶ。 水頭症では,頭蓋腔内の過剰な髄液に起因する内圧上昇により,頭蓋骨が異常に拡大するこ... さらに読む 水頭症 の発生リスクがあり,身体診察,頭囲測定,および適応に応じた頭部超音波検査により綿密なモニタリングを行わなければならない。

ほとんどの出血に対する治療は,支持療法である。しかしながら,水頭症が進行する患児には,脳室リザーバの皮下留置またはシャントを用いた髄液ドレナージが必要になる可能性がある。選択された患児において,水頭症の治療に内視鏡的脳室開窓術が行われることが増えてきている。多くの患児には神経脱落症状がみられるため,フォローアップおよび早期介入への紹介が重要である。

くも膜下出血

くも膜下出血は,おそらく最もよくみられるタイプの頭蓋内出血である。くも膜と軟膜の間の出血を伴う。新生児には,典型的に無呼吸,痙攣,嗜眠,または神経学的異常所見が生後2日または3日にみられる。

くも膜下出血の予後は通常良好であり,重大な長期後遺症は伴わない。しかし大出血では,それに関連する髄膜の炎症により,患児の成長に伴い交通性水頭症を来すことがある。

くも膜下出血の治療は水頭症を検出するための適切なモニタリングによる支持療法である。

硬膜下出血

硬膜下出血は,硬膜と軟膜の間の出血である。大脳鎌,テント,または架橋静脈の断裂によって起こる。厚さ3mmまでの小さな硬膜下出血は非常によくみられ,生後72時間以内にMRIを受けた無症状の正期産児の半分近くにみられる。このような出血は典型的に良性である。大きな硬膜下出血は母親が初産婦である場合,大きい新生児である場合,難産である場合など,頭蓋内血管に異常な圧力を生み出す可能性がある状況において生じる傾向がある。新生児は,無呼吸,痙攣,頭部の急激な拡大,筋緊張低下を伴う神経学的異常所見,Moro反射低下,または広範な網膜出血を呈することがある。

大きな硬膜下出血の予後は注意を要するものである。

大きな硬膜下出血の治療は支持的に行われるが,生命維持に必要な頭蓋内構造を圧迫したり,臨床徴候やバイタルサインを悪化させるような,急速進行性の出血には,血腫の脳神経外科的ドレナージが必要な場合がある。

骨折

出生時に最もよくみられる骨折である鎖骨中央部の骨折は, 肩甲難産 肩甲難産 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む のほか,外傷を伴わない正常分娩でも発生する。当初は,ときに易刺激性がみられ,自発的にもMoro反射が誘発された場合にも患側の腕を動かさないことがある。ほとんどの鎖骨骨折は若木骨折であり,速やかに問題なく治癒する。このような骨折は病院での診察時にはよく見落とされ,1週間以内に骨折部位に大きな仮骨が形成されてから診断される場合が多い。リモデリングが1カ月以内に完了し,後遺症は残らない。

特異的な治療は必要ないが,シャツの患側の袖を反対側にピンで留めることで1週間腕を動かさないよう試みることを推奨する医師もいる。鎖骨骨折のある乳児は典型的には痛みの徴候を示さないため,鎮痛薬は必要ない。

上腕骨および大腿骨は難産で骨折することがある。そのほとんどは骨幹部中1/3の若木骨折であり,初めに中等度の屈曲が生じても,通常は骨の極めて良好なリモデリングがこれに続く。長管骨の場合は骨端線を超えて骨折することがあるが,予後は極めて良好である。

軟部組織損傷

全ての軟部組織は,先進部であるかまたは子宮収縮力の支点である部位であれば,分娩中に損傷を受けやすい。損傷後,特に顔位では眼窩周囲および顔面の組織, 骨盤位分娩 骨盤位 胎児が原因の難産は,胎児の大きさまたは胎位の異常が原因で起きる難産である。診断は,診察,超音波検査または陣痛促進に対する反応による。治療は,手技による胎位の変換, 鉗子・吸引分娩または 帝王切開による。 胎児が原因の難産は胎児が以下の場合に起こることがある: 骨産道に対して大きすぎる(胎児骨盤不均衡) 胎位が異常である場合(例,骨盤位) 治療は,胎児が原因の難産の理由によって異なる。 さらに読む では陰嚢または陰唇に,浮腫および斑状出血が発生することが多い。血腫が発生すると常に,その組織内の血液分解およびヘムのビリルビンへの変換が起こる。このビリルビンの追加負荷が,光線療法,およびまれに交換輸血を必要とするほどの 新生児高ビリルビン血症 新生児高ビリルビン血症 黄疸とは,高ビリルビン血症(血清ビリルビン濃度の上昇)が原因で皮膚および眼球が黄色く変色することである。黄疸を発生させる血清ビリルビン値は,皮膚の色調および体の部位によって異なるが,通常,2~3mg/dL(34~51μmol/L)で強膜に,約4~5mg/dL(68~86μmol/L)で顔面に黄疸が認められるようになる。ビリルビン値が上昇す... さらに読む を引き起こすことがある。他の治療は必要ない。

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