急性低酸素性呼吸不全 (AHRF,ARDS)

執筆者:Bhakti K. Patel, MD, University of Chicago
Reviewed ByRichard K. Albert, MD, Department of Medicine, University of Colorado Denver - Anschutz Medical
レビュー/改訂 2024年 4月 | 修正済み 2024年 9月
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急性低酸素性呼吸不全(cute hypoxemic respiratory failure:AHRF)は,高炭酸ガス血症を伴わない重度の低酸素血症(PaO2 < 60mmHg)である。これは,その結果として気腔の体液貯留もしくは虚脱(例,心原性または非心原性肺水腫,肺炎,肺出血)あるいは場合によっては気道疾患(例,ときに喘息,COPD)に起因する換気血流(V/Q)不均衡が生じるような血液の肺内短絡によって引き起こされるか,または血液を右から左へ循環させる心内短絡によって引き起こされる。所見には呼吸困難および頻呼吸などがある。診断は動脈血ガス測定および胸部X線による。その管理には,高流量酸素投与や持続陽圧呼吸療法などの様々な非侵襲的酸素投与戦略が含まれるほか,必要に応じて侵襲的機械的人工換気を用いる。

機械的人工換気の概要も参照のこと。)

AHRFの病因

急性低酸素性呼吸不全(cute hypoxemic respiratory failure:AHRF)における気腔への体液貯留は以下に由来する:

  • 毛細血管静水圧の上昇,左室不全肺水腫を引き起こす)または循環血液量増加時などにみられる

  • 毛細血管透過性の亢進,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の原因となる病態でみられる

  • 血液(びまん性肺胞出血などでみられる)または炎症性滲出液(肺炎もしくは他の炎症性肺疾患でみられる)

脱酸素化された静脈血が肺を迂回して体循環に流入する心内右左短絡は,通常は未治療の大量の左右短絡(例,卵円孔開存心房中隔欠損によるもの)の長期合併症として発生する。この現象をアイゼンメンジャー症候群と呼ぶ。本章では,肺に原因のある難治性低酸素血症に焦点を当てる。

AHRFの病態生理

ARDS

ARDSは,AHRFの原因となる,びまん性の炎症性肺損傷である(1)。ARDSは酸素化障害および臨床的な基準に基づき,軽症,中等症,および重症の3つのカテゴリーに分類される。軽症のカテゴリーは以前に急性肺損傷(ALI)と呼ばれていたものに対応する。

表&コラム
表&コラム

ベルリン定義に基づくARDSの診断は,現在の診療環境(すなわち,高流量鼻カニューレの使用が増え,パルスオキシメトリーが普遍的に用いられるようになった)では容易ではなくなっており,また医療資源が乏しい状況(胸部X線撮影,動脈血ガス用の採血,および機械的人工換気をルーチンに利用できない状況)では適用できないことが多い。そこでコンセンサスパネルはベルリン定義を改変し,両側性陰影の確認に超音波検査を含めること,呼気終末陽圧(PEEP)および高流量酸素(少なくとも30L/分)を用いること,ならびに酸素飽和度が97%以下の場合に酸素飽和度/吸入気酸素濃度(FiO2 315を定義に追加することを提唱した(2)。医療資源に乏しい環境向けの新たな定義では,重症度の分類を行わない。

ARDSでは,肺または全身性の炎症がサイトカインおよび他の炎症性分子の放出を引き起こす。サイトカインは肺胞マクロファージを活性化し,好中球を肺に遊走させるが,その好中球がロイコトリエン,オキシダント,血小板活性化因子,およびプロテアーゼを放出することで,肺やその他の臓器に組織障害が生じる(biotrauma)。これらの物質は毛細血管内皮および肺胞上皮を傷害し,毛細血管と気腔間の壁を破壊する。浮腫液,タンパク質,細胞残渣が気腔および間質に充溢し,サーファクタントの破壊,肺胞の虚脱,換気血流不均衡,シャント,および肺高血圧症を引き起こす。気腔の虚脱は肺の荷重部に起こることがより多い。このARDSの早期段階は滲出期と呼ばれる。その後,肺胞上皮の増殖および線維化が起こり,線維増殖期となる。

ARDSの原因には,直接的または間接的な肺損傷が関与しうる。

直接的な肺損傷の一般的な原因は以下のものである:

直接的な肺損傷の比較的まれな原因は以下のものである:

間接的な肺損傷の一般的な原因には以下のものがある:

  • 敗血症

  • 遷延する循環血液量減少性ショックを伴う外傷

間接的な肺損傷の比較的まれな原因としては以下のものがある:

敗血症および肺炎はARDS症例の約60%を占める。

難治性低酸素血症

AHRFにおける気腔への体液貯留の原因が何であれ,気腔が充満しているか虚脱していると,吸気の入る余地がなく,どれほどFiO2を高めても,そのような肺胞を灌流する血液は,混合静脈血中の酸素濃度のままである。こうして酸素化されていない血液が一定の割合で肺静脈へ混入するため,動脈血低酸素血症が起こる。対照的に,肺胞は換気されているが血流に比して換気が少ない(すなわち,喘息または慢性閉塞性肺疾患[COPD]や,ある程度はARDSでも起こる換気血流比の低下による)ために起こる低酸素血症は,酸素投与によってすぐに是正される;つまり,喘息またはCOPDに起因する呼吸不全は,低酸素血症性呼吸不全よりも換気によるものであることが多い。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Grasselli G, Calfee CS, Camporota L, et al: ESICM guidelines on acute respiratory distress syndrome: definition, phenotyping and respiratory support strategies. Intensive Care Med 49(7):727–759, 2023.doi:10.1007/s00134-023-07050-7

  2. 2.Matthay MA, Arabi Y, Arroliga AC, et al.A New Global Definition of Acute Respiratory Distress Syndrome. Am J Respir Crit Care Med 2024;209(1):37-47.doi:10.1164/rccm.202303-0558WS

AHRFの症状と徴候

急性の低酸素血症(酸素飽和度の低下も参照)は,呼吸困難,不穏,および不安を引き起こすことがある。徴候には,錯乱または意識変容,チアノーゼ,頻呼吸,頻脈,および発汗などがある。不整脈および昏睡に至ることもある。

閉塞した気道が吸気時に開くことにより,胸部聴診で断続性ラ音(crackle)が聴取される;断続性ラ音は典型的にはびまん性にみられるが,ときに肺底部(特に左下葉)でより高度であり,これは心臓の重量によって無気肺の範囲が増えるためである。頸静脈怒張は高い呼気終末陽圧(PEEP)または右室不全により起こる。

AHRFの診断

  • 胸部X線,パルスオキシメトリー,および動脈血ガス測定

  • 臨床定義(ARDSのベルリン定義の表を参照)

低酸素血症は通常,パルスオキシメトリーで最初に認識される。酸素飽和度が低い患者には,胸部X線検査を行うとともに,結果を待っている間も酸素を投与すべきである。動脈血ガス測定は,酸素飽和度が低い患者全例で必要となるわけでない。

酸素投与によっても酸素飽和度が > 90%に改善しない場合,血液の右左短絡を疑うべきである。胸部X線上の明らかな肺胞浸潤影は,原因が心内短絡ではなく体液貯留であることを示唆する。しかしながら,病態の発生時は,X線検査で変化が認められる前に低酸素血症が起こることがある。

AHRFの診断がついたら,その原因を同定する必要がある。肺の原因と肺以外の原因を両方とも考慮すべきである。ときに,既知の疾患(例,急性心筋梗塞膵炎敗血症)が原因として明らかであることもある。それ以外の場合は病歴が参考になり,易感染状態の患者では肺炎が疑われ,骨髄移植後の患者や全身性リウマチ性疾患の患者では肺胞出血が疑われる。しかしながら,重篤患者は蘇生のために大量輸液を受けていることが多いため,治療の結果として圧負荷型のAHRFが起こっているのか(例,心室不全や体液過剰により引き起こされる),背景に非圧負荷型のAHRFがあるのか(例,敗血症や肺炎により引き起こされる)を鑑別しなければならない。

左室不全による圧上昇に起因する肺水腫を示唆する所見は,診察上はIII音聴取,頸静脈怒張,および末梢浮腫,胸部X線上ではびまん性中心性の浸潤影,心拡大,異常に太い血管陰影である。ARDSのびまん性の両側浸潤影は一般に,より末梢性である。限局性の浸潤影は,典型的には大葉性肺炎,無気肺,または肺挫傷によって起こる。心エコー検査により左室機能障害が明らかになることがあり,その場合心原性であることが示唆されるが,心筋収縮性の低下は敗血症でも起こるためこの所見は特異的とはいえない。

ARDSの胸部画像
急性呼吸窮迫症候群
急性呼吸窮迫症候群

この立位胸部X線写真上では,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に特徴的なびまん性かつ両側性の透過性低下がみられる。

この立位胸部X線写真上では,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に特徴的なびまん性かつ両側性の透過性低下がみられる。

By permission of the publisher. From Herdegen J, Bone R. In Atlas of Infectious Diseases: Pleuropulmonary and Bronchial Infections.Edited by G Mandell (series editor) and MS Simberkoff.Philadelphia, Current Medicine, 1996.

ARDS患者のCT
ARDS患者のCT

赤矢印は,ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者のびまん性肺胞性陰影を示している。この患者には心拡大もみられ,3本のリードがある自動植込み型除細動器の先端が右室内に,スワンガンツカテーテルの先端が肺動脈内にみられる。

赤矢印は,ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者のびまん性肺胞性陰影を示している。この患者には心拡大もみられ,3本のリードがある自動植込み型除細動器の先端が右室内に,スワンガンツカテーテルの先端が肺動脈内にみられる。

© 2017 Elliot K.Fishman, MD.

ARDS患者のX線写真
ARDS患者のX線写真

矢印は,ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者のびまん性肺胞性陰影の一部を示している。

矢印は,ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者のびまん性肺胞性陰影の一部を示している。

© 2017 Elliot K.Fishman, MD.

ARDSの診断がついたものの,原因が明らかでない(例,外傷,敗血症,重症の呼吸器感染症,膵炎)場合は,違法薬物,薬剤,最近の診断検査,手技,および治療を見直すことにより,例えばX線造影剤の使用,空気塞栓輸血といった,それまで認識できていなかった原因を発見できる可能性がある。いかなる素因もみつからない場合,気管支鏡により気管支肺胞洗浄を行って肺胞出血および好酸球性肺炎を除外し,この手技によっても明らかにならなければ,他の疾患(例,過敏性肺炎急性間質性肺炎)の除外のため肺生検を行うことを推奨する専門家もいる。

AHRFの治療

  • 非侵襲的酸素投与

  • 高流量酸素投与にもかかわらず酸素飽和度が90%を下回る場合は,機械的人工換気

AHRFに対しては通常,70~100%酸素を非侵襲的(例,非再呼吸式マスクを用いる)に投与することで治療を開始する(1)。なお,COVID-19パンデミックの発生時には,急性低酸素性呼吸不全の初期管理に高流量鼻カニューレ(HFNC)や非侵襲的陽圧換気(NIPPV)などの非侵襲的な酸素投与が選択されることが増えたが,これは人工呼吸器を温存する傾向があったことによるものである。

非侵襲的な酸素投与により気管挿管とその合併症を回避できる可能性があるが,過度の努力を伴う自発呼吸は,自発呼吸誘発性肺傷害(patient self-inflicted lung injury)として知られる肺損傷を誘発する可能性がある。気管挿管回避におけるHFNC,フェイスマスクによるNIPPV,および標準酸素療法の効力を比較したある臨床試験では,PaO2/FiO2比が200未満の患者ではHFNCにより気管挿管を回避できる可能性が示唆された(2)。HFNCと比較して,フェイスマスクによるNIPPVと標準酸素療法にランダムに割り付けられた患者では90日死亡率の上昇が認められた。フェイスマスクによるNIPPV群で死亡率が高くなった理由の1つとして,1回換気量が多すぎると肺損傷が悪化することが考えられる。

ヘルメットによる酸素投与をフェイスマスクによる酸素投与と比較した別の小規模臨床試験では,ヘルメットを使用した場合の方が気管挿管率および死亡率が低かったことが明らかにされた(3)。COVID-19に関連した急性低酸素性呼吸不全の患者を対象としてヘルメットによるNIPPVとHFNCを比較した限定的なデータがあり,ヘルメットによるNIPPVによって気管挿管率は低下する可能性があるものの,呼吸補助なしの日数は改善しないことが示唆されている(4)。したがって,低酸素血症の初期管理においてどちらのアプローチが優れているかを示す決定的なエビデンスはない。PaO2/FiO2比が150以下の患者では,挿管の遅れにより死亡率が上昇するとの懸念があることから,中等度から重度の低酸素血症に非侵襲的な酸素投与を用いる際には慎重を期すべきである(5)。

もし非侵襲的酸素投与によって酸素飽和度 > 90%とならなければ,機械的人工換気を考慮すべきである。具体的な管理法は状態によって異なる。

医学計算ツール(学習用)

心原性肺水腫における機械的人工換気

機械的人工換気(機械的人工換気の概要も参照)は,機能が低下している左室にいくつかの点で有益な効果をもたらす。吸気圧が陽圧になることで左右心室の前負荷,左室の後負荷が減少し,呼吸仕事量が減る。呼吸仕事量が減ることにより,限られた心拍出量が,過剰に仕事をしていた呼吸筋から再分布される。呼気圧(呼吸気道陽圧[EPAP]またはPEEP)により肺水腫が肺胞から間質へ再分布し,より多くの肺胞がガス交換に携わることができるようになる。(しかしながら,低心拍出量の患者を機械的人工換気から非侵襲的換気へ移行させる際には,気道にかかる圧が陽圧から陰圧へ変化することにより後負荷が増大し,急性肺水腫またはさらなる血圧低下につながる可能性がある。)

非侵襲的陽圧換気(NIPPV)は,持続陽圧換気と二相性換気のいずれも,薬物療法でしばしば速やかな改善が得られる多くの患者において,気管挿管の回避に有用である。一般的な設定は,通常,吸気気道陽圧(IPAP)が10~15cmH2OおよびEPAPが5~8cmH2Oである。

従来の機械的人工換気では,いくつかの換気モードを使用できる。急性期の設定において完全な換気補助が望まれる場合,最もよく用いられるのは補助/調節換気(A/C)モードである。最初の設定は,1回換気量が理想体重1kg当たり6~8mL,呼吸数が25回/分,FiO2が1.0,PEEPが5~8cmH2Oである。PEEPはその後2.5cmH2Oずつ増加させて調節することがあり,一方FIO2は毒性を与えない値まで減少させる。

プレッシャーサポート換気もまた,(類似のPEEP値で)利用可能である。吸気時の最初に気道にかける圧は,呼吸筋を休ませるのに十分な強さとするべきであり,これは患者の主観的評価,呼吸数,および呼吸補助筋の使用の有無によって判断される。一般的には,PEEPを10~20cmH2O上回る値でのプレッシャーサポートが必要である。

ARDSにおける機械的人工換気

ほぼ全てのARDS患者が機械的人工換気を必要とするが(1),人工換気は酸素化の改善に加え,呼吸筋を休ませることで酸素需要も減少させる。目標は以下の通りである:

  • プラトー圧 < 30cmH2O(胸壁および腹部のコンプライアンスを減少させうる因子を考慮する)

  • さらなる肺損傷を最小限に抑えるため,理想体重1kg当たり6mLの1回換気量

  • 十分な酸素飽和度を維持しつつ,酸素毒性を最小限に抑えられる低いFIO2

28~30cmH2Oのプラトー圧が達成されるまで,肺胞を開いたまま維持してFIO2を最小限に抑えるのに十分な高さのPEEPを保つべきである。中等症~重症のARDSの患者は,高めのPEEPを使用することで,死亡率を下げられる可能性が非常に高い。

ARDSでは非侵襲的陽圧換気(NIPPV)がときに有用である。しかしながら,心原性肺水腫の治療と比較すると,必要な継続期間はより長く,より高度のサポートを要し,十分な酸素化を維持するのにしばしば8~12cmH2OのEPAPが必要とされる。この呼気圧を達成するには18~20cmH2Oを超える吸気圧が必要となるが,患者が耐えにくい;十分に密閉を維持するのが困難で,マスクがより不快になり,皮膚の壊死および胃への送気も起こりうる。また,NIPPVによる治療を受けた後に挿管が必要になった患者は,早期に挿管を受ける場合と比べて総じて病状が進行しているため,挿管の時点で酸素飽和度が危機的な水準まで低下している可能性がある。NIPPVを使用する場合,集中的なモニタリングおよび慎重に患者を選択することが必要である。

ARDSにおける通常の機械的人工換気では,以前は動脈血ガス値を正常化することに焦点を当てていた。1回換気量を低めに設定することにより死亡率が低下することが明らかである。したがって,大半の患者では,1回換気量は理想体重1kg当たり6mLに設定すべきである(コラム「ARDSにおける人工呼吸器の初期管理」を参照)。この設定にすると,呼吸数を増加させる必要があり,二酸化炭素を十分に除去できる肺胞換気を得るのに35回/分もの高水準を要することもある。ときとして呼吸性アシドーシスが生じるが,これは人工呼吸器関連肺損傷の抑制を優先してある程度まで許容され,総じて耐容しやすいものである(特にpH 7.15以上の場合)。pHが7.15未満まで低下した場合は,重炭酸イオンの点滴が役立つ可能性がある。同様に,「正常な」レベルより低い酸素飽和度も許容され,目標飽和度を88~95%とすることで,毒性をもたらす過剰なFIO2のレベルの曝露を制限でき,それでもなお延命上のメリットがある。

高炭酸ガス血症または1回換気量の減少のみで呼吸困難が引き起こされ,患者の呼吸が人工呼吸器と同期しなくなる可能性があるため,鎮痛薬(フェンタニルやモルヒネ)および鎮静薬(例,プロポフォールを5μg/kg/分から開始し,効果を高めるために最大50μg/kg/分まで増量するが,高トリグリセリド血症のリスクがあるため,トリグリセリドを48時間毎に測定すべきである)が必要になることがある(鎮静および快適性も参照)。神経筋遮断薬を使用しても鎮静は必要であり,また神経筋遮断薬により遷延する筋力低下を来すことがあるため,神経筋遮断より鎮静の方が望ましい。

PEEPによって,肺胞リクルートメント(換気される肺胞を増やすこと)により含気肺の容量が増大することでARDSにおける酸素化が改善され,FIO2を低めに保つことができる。PEEPの理想的な値とそれを同定する方法は,議論されているところである。リクルートメント手技(例,PEEPを最大圧35~40cmH2Oに調節し,1分間続ける)をルーチンで行い,その後PEEPを漸減させた場合,28日間死亡率が高くなることがわかった(6)。そのため,多くの臨床医は単純に,FIO2が毒性を示さない範囲で十分な動脈血酸素飽和度を達成できる最小のPEEPを使用している。多くの患者でこのPEEPの値は8~15cmH2Oであるが,ときに重症のARDSの患者では20cmH2Oを超える値が必要になる。このような症例では,酸素投与を最適化し,酸素消費量を最小限にする他の方法に細心の注意を払わなければならない。

肺胞の過膨張を示す最良の指標は,吸気ホールドによるプラトー圧の測定であり,プラトー圧を4時間毎に,さらにPEEPまたは1回換気量を変更するたびにチェックすべきである。胸壁コンプライアンスが正常な患者におけるプラトー圧の目標値は,30cmH2O未満である。胸壁コンプライアンスに異常(例,腹水胸水,急性腹部膨満,胸部外傷)のある患者では,低換気を回避するため,プラトー圧の目標値をより高く設定する必要がある場合がある。対照的に,プラトー圧が30cmH2Oを超え,その圧上昇に寄与している可能性のある胸壁の問題がみられない場合には,1回換気量を患者が耐えられる範囲で0.5~1.0mL/kgずつ,最小4mL/kgまで減らし,分時換気量の減少を代償するために呼吸数を増やし,人工呼吸器の波形表示を調べて完全な呼気があることを確認するべきである。不十分な呼気によるエアトラッピングが顕在化するまで,呼吸数はしばしば最大35回/分まで増やされることがある。プラトー圧が25cmH2O未満かつ1回換気量が6mL/kg未満の場合,1回換気量を6mL/kgまで,またはプラトー圧が25cmH2Oを超えるまで増やすことがある。

圧規定換気は量規定換気より肺の保護効果が高いと信じている研究者もいるが,この見解を裏付けるデータは十分でなく,またコントロールされるのはプラトー圧ではなく最高圧である。圧規定換気では,1回換気量が患者の肺コンプライアンスの変化により変動するため,1回換気量を持続的にモニタリングし,吸入圧を調整することにより,1回換気量が多すぎるまたは少なすぎることがないよう注意する必要がある。

ARDSにおける人工呼吸器の初期管理

一般に,ARDSにおける人工呼吸器管理には次のアプローチが推奨される:

  • 最初はA/Cモードを用い,1回換気量を理想体重1kg当たり6mL,呼吸数を25回/分,流速を60L/min,FIO2を1.0,PEEPを15cmH2Oとする。

  • 一旦酸素飽和度が90%を超えれば,FIO2を低下させる。

  • その後,FiO2 0.6で動脈血酸素飽和度90%を達成できる最小のPEEPを同定するため,患者が耐えられる範囲でPEEPを2.5cmH2Oずつ下げていく。

  • pHが7.15を上回るまで,または呼気流量記録が終末呼気流量を示すまで,呼吸数は最大で35回/分まで増加させる。

機械的人工換気を受けている肺疾患患者の適切な1回換気量を決定するためには,実際の体重よりも理想体重が用いられる:

腹臥位にすることで,換気の起きていない肺領域のリクルートメントが可能になることで,患者によっては酸素化が改善する。この腹臥位により生存率が大きく改善することを示唆したエビデンスもある (7, 8)。興味深いことに,腹臥位による死亡率の改善は,低酸素血症の程度またはガス交換異常の程度とは関連していないが,人工呼吸器関連肺損傷の軽減と関連している可能性がある。

ARDS患者の輸液管理では,末端臓器の灌流を保つのに十分な循環血漿量の需要を満たすことと,前負荷を低下させ,肺からの漏出液を減らすこととのバランスをとるのが理想である。大規模多施設研究の結果によると,輸液投与量を少なめにする従来の輸液管理アプローチは,より新しい戦略に比べて,機械的人工換気の継続期間および集中治療室滞在期間を短くすることがわかった。しかしながら,この2つのアプローチの間に生存率の差はなく,また肺動脈カテーテルの使用によって成績が改善されることもなかった(9)。ショック状態にない患者はこうしたアプローチの適応であるが,低血圧や乏尿,微弱な脈拍,四肢冷感など,末端臓器の灌流低下を示唆する所見について注意深くモニタリングするべきである。

ARDSの罹患率および死亡率を低下させる決定的な薬物療法はまだ見つかっていない。一酸化窒素吸入,サーファクタントの補充,活性化プロテインC(drotrecogin alfa)および炎症反応の制御を目指すその他の薬剤が研究されてきたが,これらによって罹病率または死亡率が低下することはないことがわかっている(10)。ARDSにおけるコルチコステロイドの効力に関するデータは決定的ではない(11)。中等度から重度のARDSに対してデキサメタゾンを早期に投与する最近の非盲検臨床試験では,人工呼吸器を使用しない日数および死亡率の改善が示唆されたが,登録が進まず試験が早期に中止されたため,治療効果が拡大解釈されている可能性がある(12)。そのため,ARDSにおけるコルチコステロイドの役割は依然として不明であり,さらなるデータが必要である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Grasselli G, Calfee CS, Camporota L, et al: ESICM guidelines on acute respiratory distress syndrome: definition, phenotyping and respiratory support strategies. Intensive Care Med 49(7):727–759, 2023.doi:10.1007/s00134-023-07050-7

  2. 2.Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al: High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure.N Engl J Med 372:2185–2196, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1503326

  3. 3.Patel BK, Wolfe KS, Pohlman AS, et al: Effect of noninvasive ventilation delivered by helmet vs face mask on the rate of endotracheal intubation in patients with acute respiratory distress syndrome: A randomized clinical trial.J AMA 315(22):2435–2441, 2016.doi: 10.1001/jama.2016.6338

  4. 4.Grieco DL, Menga LS, Cesarano M, et al: Effect of helmet noninvasive ventilation vs high-flow nasal oxygen on days free of respiratory support in patients With COVID-19 and moderate to severe hypoxemic respiratory failure: The HENIVOT randomized clinical trial.JAMA 325(17):1731–1743, 2021.doi: 10.1001/jama.2021.4682

  5. 5.Bellani G, Laffey JG, Pham T, et al: Noninvasive ventilation of patients with acute respiratory distress syndrome.Insights from the LUNG SAFE study.Am J Respir Crit Care Med 195(1):67–77, 2017.doi: 10.1164/rccm.201606-1306OC

  6. Demiselle J, Calzia E, Hartmann C, et al: Target arterial PO2 according to the underlying pathology: a mini-review of the available data in mechanically ventilated patients. Ann Intensive Care 11(1):88, 2021.doi:10.1186/s13613-021-00872-y

  7. 6.Writing Group for the Alveolar Recruitment for Acute Respiratory Distress Syndrome Trial (ART) Investigators, Cavalcanti AB, Suzumura ÉA, et al: Effect of lung recruitment and titrated positive end-expiratory pressure (PEEP) vs low PEEP on mortality in patients with acute respiratory distress syndrome: A randomized clinical trial.JAMA 318(14):1335–1345, 2017.doi: 10.1001/jama.2017.14171

  8. 7.Guérin C, Reignier J, Richard JC, et al: Prone positioning in severe acute respiratory distress syndrome.N Engl J Med 368(23):2159–2168, 2013.doi: 10.1056/NEJMoa1214103

  9. 8.Scholten EL, Beitler JR, Prisk GK, et al: Treatment of ARDS with prone positioning.Chest 151:215–224, 2017.doi: 10.1016/j.chest.2016.06.032.Epub 2016 Jul 8

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AHRFの予後

予後は極めて多様であり,以下を含む様々な因子に依存する:

  • 呼吸不全の病因

  • 疾患の重症度

  • 年齢

  • 慢性の健康状態

全体として,ARDSの死亡率は過去には非常に高かったが(40~60%),ここ数年で25~40%まで低下しており(1),これはおそらく機械的人工換気および敗血症治療の改善によるものである。しかしながら,重症のARDSの患者(すなわち,PaO2:FiO2 < 100mmHgの患者)の死亡率はいまだに非常に高い(40%を超える)。

死亡の原因は呼吸機能障害よりも敗血症および多臓器機能不全であることの方が多い。気管支肺胞洗浄液中に好中球および高濃度サイトカインが持続的に検出されると,予後が不良であることが予想される。それ以外に死亡率を高める因子には,加齢,敗血症の存在,および先行する重度の臓器機能不全または併存する重度の臓器機能障害がある。

ARDSから回復した患者の大半では,6~12カ月で肺機能が正常近くまで回復するが,経過が長引いた患者や重症化した患者では,呼吸器症状が残ることがあり,その多くで神経筋伝達障害による筋力低下,運動制限,および認知障害が遷延する。

予後に関する参考文献

  1. 1.Bellani G, Laffey JG, Pham T, et al.Epidemiology, Patterns of Care, and Mortality for Patients With Acute Respiratory Distress Syndrome in Intensive Care Units in 50 Countries [published correction appears in JAMA 2016 Jul 19;316(3):350] [published correction appears in JAMA 2016 Jul 19;316(3):350]. JAMA 2016;315(8):788-800.doi:10.1001/jama.2016.0291

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