刺激性ガス吸入傷害

執筆者:Carrie A. Redlich, MD, MPH, Yale Occupational and Environmental Medicine Program Yale School of Medicine;
Efia S. James, MD, MPH, Bergen New Bridge Medical Center;Brian Linde, MD, MPH, Stanford University
Reviewed ByRichard K. Albert, MD, Department of Medicine, University of Colorado Denver - Anschutz Medical
レビュー/改訂 2023年 10月 | 修正済み 2023年 12月
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刺激性ガス吸入傷害(irritant gas inhalation injury)は,気道に入ると気道粘膜の水分に溶解して炎症反応を引き起こすガスを吸入した結果として生じる病態である。刺激性ガスへの曝露は主に気道を侵し,咳嗽,喀血,喘鳴,レッチング,および呼吸困難を呈する気管炎,気管支炎,および細気管支炎を引き起こす。一部のより溶解性の低いガスは吸収され,全身に影響を及ぼす。診断は,吸入ガスの同定,曝露時間,ならびに胸部X線および酸素化の評価の結果による。治療としては,曝露の回避,支持療法,具体的な毒性物質と重症度に応じた追加的処置などがある。

窒息剤および環境性および職業性肺疾患の概要も参照のこと。)

有害となりうる物質は気体(ガス),ヒューム,蒸気,ミスト,エアロゾル,および煙として吸入される可能性がある。空気中の毒性物質は気道を損傷させる(局所作用)だけでなく,全身性の損傷を引き起こすこともある。大半の刺激性ガスは水溶性であり,接触した粘膜表面に刺激症状を突然引き起こす。それらの症状(流涙,鼻漏,口腔および顔面の灼熱感など)は,警告徴候とみなすことで曝露を回避するのに役立つ可能性がある。水への溶解性がより低いガスでは,警戒すべき特性があまりみられない。

医師は,職業環境での曝露に加えて,その他の環境での曝露の可能性も認識しておくべきである。家庭でよくみられる曝露の可能性としては,漂白剤を含む洗剤を家庭用アンモニアと混合することが挙げられ,それにより刺激性ガスであるクロラミンが放出される。

刺激性ガスへの急性曝露

高濃度の有毒ガスへの短期間の急性曝露は,ガスタンク内のバルブまたはポンプの故障に起因するものや,ガス輸送中に起こるものなど,産業事故に特徴的なものである。曝露は職場の特定の労働者に限定されることもあれば,より多くの人に影響を及ぼすこともある。広範な曝露を引き起こした事故の顕著な例としては,1984年にインドのボーパールにある化学工場からイソシアン酸メチルが放出され,数千人の死者を出した例や,2023年にオハイオ州にあるイースト・パレスティーンという小さな町で列車脱線事故が発生し,塩化水素やホスゲンなどの化学物質が放出された例がある。

呼吸器障害はガスの濃度および水への溶解度ならびに曝露時間に関連する。高強度の曝露は,実際の曝露量に応じて,数秒,数分,または数時間以内に臨床的な影響を引き起こす可能性がある。急性の影響に加えて,長期的な影響もありうる。

より水溶性の高いガス(例,塩素,アンモニア,二酸化硫黄,塩化水素)は上気道に溶解し,直ちに粘膜刺激を引き起こすため,それが曝露から回避する必要性に対する警告となりうる。ガス発生源からの避難が妨げられた場合など,より高レベルの曝露により,上気道および下気道に恒久的な損傷が生じ,上気道では咳嗽および喉頭痙攣が,下気道では肺水腫および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が引き起こされる可能性がある。

より溶解性の低いガス(例,二酸化窒素,ホスゲン)では,一般に上気道は侵されない。これらの物質では早期の警告徴候がみられる可能性が低く,下気道の損傷は症状が現れるまでに数時間の遅れがあることが多い。

合併症

特定の刺激性ガスへの短期間で高強度の曝露も,反応性気道機能不全症候群(RADS)の発生など,長期的な影響につながる可能性がある。

重度の曝露において,直ちに発生する可能性のある最も重篤な合併症は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)であり,通常は,有意な下気道の曝露後に急速に発生するが,遅ければ24時間かかることもある。

重症の下気道損傷を有する患者は細菌感染症を発症する可能性がある。

閉塞性細気管支炎は,特定の有毒ガス(例,二酸化窒素,アンモニア,二酸化硫黄)への曝露による比較的まれな合併症であり,最初の損傷から1~3週間後に発生する。内因性修復過程において肉芽組織が終末気道および肺胞管に蓄積することで,器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎が発症する可能性がある。これらのうち少数の患者は遅発性の肺線維症を発症する。

刺激性ガスへの急性曝露でみられる症状と徴候

症状の重症度は,曝露の程度と特定の刺激性ガスの性質に依存する。

水溶性の刺激性ガスは,眼,鼻,咽喉,気管,および主気管支に重度の熱傷およびその他の刺激症状を引き起こす。重度の咳嗽,喀血,喘鳴,レッチング,および呼吸困難が一般的である。浮腫,分泌物,または喉頭痙攣により,上気道が閉塞することがある。

不溶性ガスでは,すぐに現れる上気道刺激症状はより少ないが,下気道に達した後,遅発性の影響が生じる可能性がある。

刺激性ガスへの急性曝露の診断

  • 曝露歴

  • 胸部X線

呼吸器の症状および徴候の原因として刺激性ガスへの曝露を同定するには,通常は曝露歴の聴取で十分である。曝露歴聴取の重要な要素としては,曝露に関与した特定の毒性物質(判明している場合),曝露の期間,曝露が起こった物理的空間の状況,意識消失が生じたか否かなどがある。

初期評価では,胸部X線およびパルスオキシメトリーによる酸素化の評価を行うべきである。胸部X線は吸入傷害に対する感度が低いが,斑状あるいは融合性の肺胞の浸潤影(consolidation)を示す所見は通常,肺水腫を示唆し,より重度の損傷を伴う。

吸入による傷害は,気道のいずれの部位にも起こる可能性があり,上気道,気管気管支系,または肺実質など,主な損傷部位に基づいて分類することができる。気道を直接観察することが,損傷の重症度を判定し,診断を確定するのに役立つ可能性がある。

曝露後に有意な持続性症状が認められる場合は,肺機能検査および胸部CTが役立つ可能性がある。

肺機能検査は急性期の状況では通常行われないが,症状が持続する場合は役立つことがある。閉塞性障害が最も一般的であるが,高用量の塩素に曝露した後は拘束性障害が優勢となることがある。

刺激性ガスへの急性曝露の治療

  • 曝露の回避

  • 支持的な呼吸器ケア

  • 適応があれば機械的人工換気

治療法は曝露の性質と重症度によって異なる。支持的な呼吸器ケアが治療の要である。まず患者を新鮮な空気の下に移し,酸素投与を行うべきである。治療では,適切な状況で十分な酸素化および換気の確保をはかる。高強度の曝露を受けた患者は,まずは初期対応者によって管理されることが多く,その後,さらなる評価および治療のために病院に搬送される。

曝露がそれほど重度でない場合は,気管支拡張薬および酸素療法が用いられることがある。

重度の気道閉塞は,ラセミ体アドレナリンの吸入,気管挿管または気管切開,および機械的人工換気で管理する。

高用量曝露または非水溶性ガスへの曝露による下気道損傷が疑われる患者では,ARDSを発症をしていないか観察すべきである。吸入による傷害に起因するARDSに対するコルチコステロイドの効力に関する質の高いデータは不足している。

急性期の管理後も,症状が持続する患者では,反応性気道機能不全症候群,器質化肺炎を伴うまたは伴わない閉塞性細気管支炎,および肺線維症が発生していないかモニタリングすべきである。

刺激性ガスへの急性曝露の予後

予後は曝露の性質と重症度によって異なる。曝露がそれほど重度でない場合は,大半の患者が完全に回復するが,可逆性の気道閉塞(反応性気道機能不全症候群)や,頻度は低いものの細気管支炎や気管支拡張症を伴って長引く肺損傷が起こる可能性もある。 

ARDSにつながる重度の曝露を受けた患者では,死亡率が高い。

刺激性ガスへの急性曝露の予防

ガスおよび化学物質の保管,取扱い,および輸送に注意することが最も重要な予防策である。

非常時に救助者が十分な呼吸器保護手段(例,空気供給器内蔵型のガスマスク)を利用できることもまた非常に重要である;防護器具を装着せず刺激性ガスに曝露した患者を救助するために駆けつけた救助者が,しばしば自ら負傷することがある。

刺激性ガスへの慢性曝露

事故に関連するようなより急性の曝露に加えて,低濃度への反復曝露も健康に悪影響を及ぼす可能性がある。

大きな事故よりも低濃度の慢性曝露の方が頻度が高い。漂白剤から放出される塩素などの刺激性ガスへの曝露は,刺激物質誘発性喘息につながる可能性がある。

明確な曝露がない場合,慢性曝露の診断を下すには,その特定のためにより高度な臨床的疑いが必要となることがある。病歴聴取には家庭および職場環境の評価を含めるべきである。

治療は,曝露の排除や,上気道刺激症状に対する対症療法による。

煙への曝露

煙は気体と粒子状物質の複雑な混合物である。煙の成分に影響を及ぼす因子は,火で燃焼する物質の種類,燃焼温度,および存在する酸素の量である。一酸化炭素や粒子状物質などの他のガスと同様に,煙の中には刺激性ガスがしばしば存在する。診断と治療の詳細については,煙の吸入を参照のこと。

要点

  • 吸入による傷害の部位および程度は,主にガスの水への溶解度および曝露の程度に依存する。

  • 急性曝露の診断は主に曝露歴に基づき,臨床的重症度に応じてさらなる検査を行う。

  • 治療法は曝露の性質と重症度によって異なる。重症度の低い曝露はしばしば支持療法で管理できるが,重症例では緊急治療および集中治療が必要になることがある。

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