珪肺症は吸入性結晶性シリカの塵の吸入により起こり,結節性の肺の線維化を特徴とする。慢性珪肺症は一般に潜行性に進行し,進行性塊状線維症(progressive massive fibrosis)および呼吸障害に進行しうる。診断は病歴および胸部画像所見に基づく。治療の要は支持療法であり,重症例では肺移植である。
(環境性および職業性肺疾患の概要も参照のこと。)
珪肺症の病因
シリカは地殻中に最も豊富に存在する鉱物の1つであり,自然界に広く分布している。珪肺症は,吸入可能な結晶性シリカ(通常は石英)の粒子を吸入することにより引き起こされる。最もリスクが高いのは,岩や砂の運搬または爆破に携わる労働者(炭鉱労働者,採石場労働者,石切り工,建設労働者),またはシリカを含有する岩または砂の研磨材を使用する労働者(研磨作業員,ガラス職人のほか,鋳造,宝石の原石,および陶磁器の職人,陶芸家)である。人工石産業の労働者においても重度の珪肺症のアウトブレイクが確認されている。
珪肺症の発生率および重症度に影響する因子としては以下のものがある:
曝露の期間および強度
シリカ粒子の形状および表面の特徴
ガラスや珪藻土などの非結晶質シリカは,結晶構造をもたないため,珪肺症の原因とはならない。
珪肺症の病態生理
シリカによる毒性の機序は複雑である。肺胞マクロファージが遊離シリカの粒子を貪食し,サイトカイン,活性酸素種,およびメディエータの放出を開始させ,炎症および線維化を促進する。これらの物質は,マクロファージ,マクロファージによって活性化されたリンパ球,および線維芽細胞から放出される。
シリカを貪食したマクロファージは,肺内で特有の珪肺結節の形成を促進する。これらの結節は初期には膠原線維と偏光顕微鏡で最もよく見える散在した複屈折性をもつシリカ粒子を含んでいる。成熟するにつれ,中心部に配列した膠原線維が炎症細胞から成る外層に囲まれる。
軽度または短期の曝露では,これらの結節は孤立したままであり,肺機能を悪化させることはない(慢性単純性珪肺症[simple chronic silicosis])。より強い曝露または長期の曝露(慢性複雑性珪肺症)では,これらの結節が融合して進行性の線維化および肺の拘束性障害を引き起こすこともあれば,ときに集塊化した大きな腫瘤を形成(進行性塊状線維症[progressive massive fibrosis]と呼ばれる)することもある。
Image courtesy of David W.Cugell, MD.
慢性珪肺症は最も一般的な病型であり,一般に緩徐に発生し,典型的には初回曝露から数十年後に発症する。慢性珪肺症には,単純性と複雑性(進行性塊状線維症[progressive massive fibrosis])の病型がある。
急速進行型珪肺症(accelerated silicosis)は慢性珪肺症に類似しているが,高レベルの曝露を受けた患者ではより急速に発生し,初回曝露から5~10年以内に発症する。
進行性塊状線維症(progressive massive fibrosis:PMF,または集塊性珪肺症[conglomerate silicosis] もしくは複雑性珪肺症[complicated silicosis])は,慢性または急速進行型珪肺症が進行した病型である。典型的には上肺野に線維塊が広範にみられることを特徴とする。
急性珪肺症(acute silicoproteinosisとしても知られる)は,短期間(数カ月または数年)の強いシリカ曝露により引き起こされる。本症は通常,高濃度の吸入性結晶性シリカへの初回曝露後数週間から数年で発生する。臨床像は肺胞タンパク症に類似することがある。
合併症
珪肺症の患者には以下のような疾患のリスクがある:
珪肺症の患者では,抗酸菌感染症の発生リスクが高い。珪肺症の患者には,潜在性結核感染症の治療が推奨される。
シリカへの曝露はCOPD(肺気腫および慢性気管支炎)のリスク増加と関連している。
結晶性シリカは,International Agency for Research on Cancer(IARC)により,グループ1のヒト肺発がん物質として特定されている。いくつかのメタアナリシスでは,珪肺症の労働者において全ての組織型の肺癌が増加することが示されている(1, 2)。
結晶性シリカへの曝露には,関節リウマチや全身性強皮症など,いくつかの全身性リウマチ性疾患のリスク増加との関連がみられる。
病態生理に関する参考文献
1.Poinen-Rughooputh S, Rughooputh MS, Guo Y, Rong Y, Chen W.Occupational exposure to silica dust and risk of lung cancer: an updated meta-analysis of epidemiological studies. BMC Public Health 2016;16(1):1137.doi:10.1186/s12889-016-3791-5
2.Shahbazi F, Morsali M, Poorolajal J.The effect of silica exposure on the risk of lung cancer: A dose-response meta-analysis. Cancer Epidemiol 2021;75:102024.doi:10.1016/j.canep.2021.102024
珪肺症の症状と徴候
珪肺症の診断
シリカへの職業曝露歴
胸部CTまたはX線
珪肺症と他の疾患の鑑別のための補助的検査
珪肺症の診断は曝露歴の聴取から始め,特に特定の職業(鉱業,採石場作業,石切り,建設作業,研磨,ガラス製造,鋳造作業,宝石用原石のカット,陶磁器および陶器製造など)における曝露歴を聴取する(1, 2)。曝露期間,職場環境で実施されている安全対策,および症状発現の経時的変化を明らかにすることが重要である。
結晶性シリカは環境中に遍在し,様々な製造現場で曝露が増加する可能性があるにもかかわらず,珪肺症は依然として過小診断されているため,慎重かつ詳細な病歴聴取の必要性が強調される。
画像検査
珪肺症は通常,シリカへの曝露歴のある患者において胸部X線またはCT所見に基づいて認識される。珪肺症を検出し,その進行をモニタリングするには,胸部X線より胸部CTの方が感度が高い。
胸部X線では,重症度は国際労働機関の策定した基準(International Classification of Radiographs of Pneumoconioses)により分類されている。
慢性珪肺症は,胸部画像検査で単純性または複雑性に分類される。単純性珪肺症の患者では,両側性の1~3mmの網状結節状陰影が上葉優位にみられる。肺門リンパ節および縦隔リンパ節の石灰化は一般的で,ときに卵殻様像を呈する;しかしながら,卵殻様石灰化は珪肺症に特異的な所見ではない。胸膜肥厚は,重度の実質性病変が胸膜に接している場合を除き,まれである。
胸部画像所見では,いくつかの疾患が慢性珪肺症に類似することがある。具体的には,サルコイドーシス,慢性ベリリウム症,過敏性肺炎,炭坑夫塵肺症,粟粒結核,真菌性肺疾患,転移性悪性腫瘍などがある。
複雑性珪肺症(complicated silicosis)は,胸部X線上の大きな陰影または胸部CT上の石灰化を伴う塊状影を特徴とする。単純性珪肺症が複雑性珪肺症に進行すると,画像検査で結節の融合が認められる。
急速進行型珪肺症(accelerated silicosis)は,胸部画像で慢性珪肺症に類似するが,より急速に発症する。
急性珪肺症では,胸部CT所見として,両側肺底部のびまん性肺胞陰影など,肺胞タンパク症に類似したパターンを呈する。急性珪肺症は,急性感染症と誤解されることもある。
Image courtesy of David W.Cugell, MD.
単純性珪肺症の上肺野の拡大像。
単純性珪肺症の上肺野の拡大像。
Image courtesy of David W.Cugell, MD.
Image courtesy of David W.Cugell, MD.
Image courtesy of David W.Cugell, MD.
追加の診断検査
肺機能検査およびガス交換の測定結果は,病期に応じて様々であり,正常であることもあれば,閉塞性,拘束性,または混合性の異常を示すこともある。
進行性塊状線維症(progressive massive fibrosis)では,肺機能検査で肺気量の減少,肺拡散能(DLCO)の低下,および気道閉塞が明らかになる。動脈血ガス測定では低酸素血症が示される。
自己免疫の血清学的検査所見(抗核抗体やリウマトイド因子値の上昇)が,併存する全身性リウマチ性疾患(例,全身性強皮症,関節リウマチ)の評価に用いられる。
結核,癌,またはサルコイドーシスなどの他の間質性肺疾患が疑われる場合は,喀痰培養,細胞診,および気管支鏡検査が適応となることがある。
診断に関する参考文献
1.Fazio JC, Gandhi SA, Flattery J, et al.Silicosis Among Immigrant Engineered Stone (Quartz) Countertop Fabrication Workers in California. JAMA Intern Med 2023;183(9):991-998.doi:10.1001/jamainternmed.2023.3295
2.Hua JT, Rose CS, Redlich CA.Engineered Stone-Associated Silicosis-A Lethal Variant of an Ancient Disease. JAMA Intern Med 2023;183(9):908-910.doi:10.1001/jamainternmed.2023.3260
珪肺症の治療
さらなる曝露の回避
急性珪肺症には,ときに全身コルチコステロイドおよび/または全肺洗浄
慢性珪肺症には,対症療法(例,吸入気管支拡張薬および吸入コルチコステロイド)
合併症および併存症の管理
急性珪肺症
急性珪肺症の治療には,全身コルチコステロイドのほか,全肺洗浄が用いられている。しかし,臨床上の便益はよくわかっていない。急性珪肺症の予後は不良である。
慢性珪肺症
慢性珪肺症の労働者,特に症状がみられるか進行性の疾患を有する労働者は,さらなる曝露を制限すべきである。早期および軽症例では,職場での曝露を最小限に抑える努力と併せて,失業の影響を考慮に入れるべきである。
慢性珪肺症に対して証明された特異的な治療法はない。治療は主に支持療法である。
気道閉塞のある患者には,気管支拡張薬および吸入コルチコステロイドを用いる治療が有益となりうる。低酸素血症をモニタリングし,治療すべきである。
感染症は結核も含め迅速に治療すべきである。
呼吸リハビリテーションは,患者の日常生活動作を行いやすくする可能性がある。
末期肺疾患を有する患者は,肺移植に適格となりうる。
珪肺症の予防
一次予防策として,曝露の排除または低減から始める。最も効果的な一次予防は,吸入性シリカへの曝露を制限する工学的対策の導入である。呼吸用マスクによる防護効果は限られており,包括的な曝露管理プログラムとともに使用すべきである。
医学的サーベイランスによる二次予防は,疾患の早期発見に役立つ可能性がある。
合併症の予防策としては,禁煙のほか,肺炎球菌,COVID,およびインフルエンザワクチンの接種などがある。医師はシリカ曝露患者,特に炭鉱労働者における,結核および非結核性抗酸菌感染症のリスクに注意しなければならない。シリカに曝された労働者は毎年ツベルクリン反応検査またはインターフェロンγ遊離試験を受けるべきである。
珪肺症の発生が持続していることから,米国労働安全衛生庁(Occupational Safety and Health Administration:OSHA)は2016年に更新版のRespirable Silica Standardを発行した。この基準では,許容曝露限界値(Permissible Exposure Limit:PEL)が引き下げられ,シリカ曝露労働者に対する雇用前および定期的な医学的サーベイランスが求められている。医学的サーベイランスには,質問票,肺機能検査,および胸部X線を含めるべきである。
要点
珪肺症は,米国および世界において依然として重要かつ十分に認識されていない職業性肺疾患である。
慢性珪肺症が最も一般的な病型であるが,急性および急速進行型のアウトブレイクもみられている。
診断は曝露歴および一致する画像所見に基づく。
珪肺症は,結核,COPD,肺癌,および全身性リウマチ性疾患のリスク増加と関連している。
治療は主に支持療法である。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Krefft S, Wolff J, Rose C.Silicosis: An Update and Guide for Clinicians. Clin Chest Med 2020;41(4):709-722.doi:10.1016/j.ccm.2020.08.012
Lanzafame M, Vento S.Mini-review: Silico-tuberculosis.J Clin Tuberc Other Mycobact Dis 2021; 23:100218.doi: 10.1016/j.jctube.2021.100218.PMID: 33598569; PMCID: PMC7868994.
Leung CC, Yu IT, Chen W.Silicosis.Lancet 2012; 379(9830):2008-2018.doi:10.1016/S0140-6736(12)60235-9
Occupational Safety & Health Administration [OSHA].Respirable crystalline silica.2016.Regulations (Standards-29 CFR 1926.1153.



