疲労

執筆者:Michael R. Wasserman, MD, California Association of Long Term Care Medicine
レビュー/改訂 2021年 3月
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疲労は,複合症状の一部としてみられることがほとんどであるが,それが唯一のまたは主な症状の場合でも,疲労は最も一般的な症状の1つである。

疲労とは,エネルギー不足による活動の開始および維持が困難な状態であり,休みたいという欲求を伴う。疲労は,運動,長期のストレス,および睡眠不足の後では正常である。

患者は,特定の他の症状を疲労と言うことがある;常にではないが,通常は詳細な問診によってそれらと疲労を鑑別することが可能である。

  • 筋力低下は神経系または筋疾患の症状であり,最大限の努力時における不十分な筋収縮力である。重症筋無力症およびイートン-ランバート症候群などの疾患は,活動に伴って悪化する筋力低下を引き起こす可能性があり,疲労に類似する。

  • 労作時呼吸困難は心および肺疾患の初期症状で,運動耐容能を低下させることがあり,疲労に類似する。呼吸器症状は通常,注意深い問診によって聞き出すことができる,または後に発生することがある。

  • 傾眠は,睡眠不足を引き起こす疾患(例,アレルギー性鼻炎食道逆流,痛みを伴う筋骨格系疾患,睡眠時無呼吸症候群,重度の慢性疾患)の症状であり,異常に強い睡眠の欲求である。日中の時間帯にあくびをしたり睡眠に陥ることは一般的である。患者は,通常傾眠と疲労の違いは判別できる。しかしながら,深い非急速眼球運動睡眠の不足は筋肉痛および疲労を引き起こすことがあり,疲労を認める患者の多くは睡眠障害があるため,疲労と傾眠を判別するのが難しいことがある。

疲労は,以下のように様々な時間のカテゴリーに分類することができる:

  • 最近の疲労:1カ月未満

  • 長期の疲労:1~6カ月間

  • 慢性の疲労:6カ月以上

慢性疲労症候群は,慢性の疲労の原因の1つである。現在では,慢性疲労症候群には,筋痛性脳脊髄炎および全身性労作不耐症の2つの別の用語があるが,現時点ではこれらを明確に区別することはできない。COVID-19患者では,ウイルス感染後疲労(ウイルス感染後疲労症候群とも呼ばれる)や慢性疲労症候群に類似する症状が数週間から数カ月続くことがあり,これは「long(長期)COVID」や「long-haul(長期遷延)COVID」として知られている。

病因

ほとんどの重篤な(および多くの軽症の)急性および慢性疾患が疲労を引き起こす。しかしながら,それらの多くでは,他のより顕著な症状(例,疼痛,咳嗽,発熱,黄疸)が主訴となる。ここでは,疲労が主症状となりうる疾患に焦点を置く。

最近の疲労(1カ月以内の持続)を主症状とする最も一般的な障害は以下のものである:

長期の疲労(1~6カ月の持続)を主症状とする最も頻度の高い原因は以下のものである:

慢性の疲労(6カ月以上持続)を主症状とする最も頻度の高い原因は以下のものである:

複数の因子が疲労(通常は長期または慢性の疲労)の主訴を引き起こしているか,関与していることが多い(一般的に長期または慢性の疲労に関与している因子の表を参照)。

表&コラム

評価

疲労は極めて主観的な場合がある。疲労をどのようなものと考えているか,およびどのようにそれを表現するかについては患者ごとに異なる。また,疲労を客観的に確認したり,その重症度を示したりする方法はほとんどない。病歴および身体診察は,基礎疾患(特に感染症,内分泌およびリウマチ性疾患,貧血,およびうつ病)の軽微な症状を同定することに重点を置き,それに基づいて検査を行う。

病歴

現病歴の聴取には,どのような「疲労」かについての開かれた質問を含め,労作時呼吸困難,傾眠,または筋力低下を示唆する説明がないか注意して聴取する。症状出現,時間経過およびパターン,ならびに疲労を増悪または軽快させる因子と同様に,疲労,活動,休息,および睡眠の関係を明らかにすべきである。

疲労の潜在的原因は非常に多く,また多様であるため,システムレビュー(review of systems)は徹底するべきである。重要な非特異的症状として発熱,体重減少,および盗汗がある(がん,リウマチ性疾患,または感染症を示唆している可能性がある)。妊娠可能年齢の女性では月経歴を聴取する。原因が明らかでない限り,精神障害(例,うつ病,不安,薬物乱用,身体表現性障害,ドメスティックバイオレンス)に対するスクリーニング質問票から質問すべきである。

既往歴の聴取では,既知の疾患について問診すべきである。完全な薬物使用歴の聴取では,処方薬,OTC医薬品,およびレクリエーショナルドラッグを対象に含めるべきである。

社会歴の聴取では,食事,薬物乱用,ならびに疲労が生活の質,仕事,社会的関係,および家族関係に及ぼしている影響について説明を求めるべきである。

身体診察

バイタルサインをチェックし,発熱,頻脈,頻呼吸,および低血圧がないか確認する。全身状態の観察は,患者の全般的な外観と心臓,肺,腹部,頭頸部,乳房,直腸(前立腺の診察および便潜血検査を含む),生殖器,肝臓,脾臓,リンパ節,関節,および皮膚の診察を含めて,特に包括的に行うべきである。神経学的診察には,少なくとも,精神状態,脳神経,気分,感情,筋力,筋肉量および筋緊張,反射,ならびに歩行の検査を含めるべきである。通常,疲労が最近生じた場合,より集中的な診察によって原因が明らかとなる。疲労が慢性の場合,診察で原因が明らかになる可能性は低いが,詳細な身体診察は患者との信頼関係(rapport[ラポール])を構築するための重要な方法であり,ときに診断に役立つ。

警戒すべき事項(Red Flag)

  • 慢性体重減少

  • 慢性発熱または盗汗

  • 全身性リンパ節腫脹

  • 筋力低下または疼痛

  • 重篤な非疲労性症状(例,喀血,吐血,重度の呼吸困難,腹水,錯乱,希死念慮)

  • 2つ以上の器官系の関与(例,発疹と関節炎)

  • 高齢者における新たな,もしくは異なる頭痛または視力障害,特に筋肉痛を伴う場合

所見の解釈

一般的に,疲労が唯一の症状である場合より,疲労が多くの症状のうちの1つである場合の方が原因が特定される可能性が高い。活動により悪化し,休息により軽減する疲労は身体疾患を示唆する。疲労が絶えず存在し,休息により軽減しない場合,特に時折,急にエネルギーにあふれることもある場合,心理的疾患を示唆している可能性がある。

レッドフラグサインがない場合,徹底的な病歴聴取,身体診察,およびルーチンの臨床検査(加えて特異的な所見に対する検査―疲労の評価における特定の所見の解釈を参照)は初期評価としては十分である。検査結果が陰性の場合,注意深い経過観察が通常適切である;疲労が増悪する場合,または他の症状と徴候が生じる場合,患者の再評価を行う。

長期または慢性の疲労および一部の他の一般的または特異的な臨床所見を呈する患者にはいくつかの原因が考えられる。

表&コラム

検査

検査は,臨床所見に基づいて疑われる原因に対して行われる。臨床所見に基づいて明らかなまたは疑われる原因がない場合,臨床検査で原因を特定できる可能性は低い。それでもなお,多くの医師は以下の検査を推奨している:

  • 血算

  • フェリチン

  • 赤血球沈降速度(赤沈)

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)

  • 電解質,グルコース,カルシウム,腎機能および肝機能検査を含む生化学検査

筋肉痛または筋力低下がある場合,クレアチンキナーゼ(CK)が推奨される。危険因子がある患者では,HIV検査および精製ツベルクリン(PPD)検査が推奨される。咳嗽または呼吸困難がある場合,胸部X線が推奨される。感染または免疫不全に対する検査などその他の検査は,示唆する臨床所見がない限り推奨されない。

筋痛性脳脊髄炎/全身性労作不耐症/慢性疲労症候群の診断には以下の2つが必要である:

  • 日常生活機能に影響を及ぼし,休息により軽減せず,かつ臨床所見または上述の臨床検査の異常所見によって説明されない慢性の疲労

  • 全身性労作不耐症/慢性疲労症候群に対しては,認知障害または起立不耐症のいずれかに加えて,労作後の倦怠感および休息感の得られない睡眠

  • 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群に対しては,以下の4つ以上の存在:咽頭痛,休息感の得られない睡眠,集中または短期記憶の困難,筋肉痛,関節の腫脹を伴わない多発関節痛,新たなまたはこれまでとは異なる頭痛,および圧痛のある頸部または腋窩リンパ節

治療

疲労を軽減するための治療は,原因に対して行う。筋痛性脳脊髄炎/全身性労作不耐症/慢性疲労症候群および特発性慢性疲労の患者は同様に治療する。病因は現在不明であることを,はっきりと告げるべきである。医療従事者が辛抱強く,中立的で,疲労の実際の影響を理解している場合に,治療はしばしばより成功しやすくなる。可能性のある治療法としては,理学療法(例,段階的な運動療法)や心理的支援(例,認知行動療法)などがある。睡眠の改善と疼痛の緩和に重点を置くことも助けになりうる。治療目標としては,仕事への復帰および正常な活動レベルの維持が挙げられる。

老年医学的重要事項

高齢患者では,疲労が疾患の初発症状であることがより多い。例えば,高齢女性における肺炎の初発症状は,肺症状ではなく疲労であることがある。巨細胞性動脈炎など他の疾患の初発症状も,高齢患者では疲労のことがある。高齢患者では,突然の疲労の直後に重篤な疾患が明らかになることがあるため,原因をできる限り早急に特定すべきである。高齢者ではまた,疲労が巨細胞性動脈炎または他の重篤な身体疾患によって引き起こされる可能性がいくらか高くなる。

要点

  • 疲労は一般的な症状である。

  • 主に身体疾患による疲労は活動によって増悪し,休息によって軽減する。

  • 臨床検査は,示唆する臨床所見がない場合,あまり得るところがない。

  • 医療従事者が辛抱強く,理解を示す場合に,治療が成功する可能性がより高い。

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