成人における咳嗽

執筆者:Rebecca Dezube, MD, MHS, Johns Hopkins University
Reviewed ByRichard K. Albert, MD, Department of Medicine, University of Colorado Denver - Anschutz Medical
レビュー/改訂 修正済み 2023年 11月
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咳嗽は防御反射の1つであり,誤嚥を防ぎ,気道から粒子および刺激物を排出するためのものである。しかしながら,制御不能になったり生活に支障が出たりすることもあり,受診するきっかけとして最も一般的な症状の1つである。(小児の咳嗽も参照のこと。)

考えられる咳嗽の原因は(の表を参照),症状が急性(8週間未満)か慢性かによって異なる(1, 2)。

急性咳嗽の最も一般的な原因は以下のものである:

  • 急性気管支炎を含む上気道感染症(URI

  • 後鼻漏

  • 肺炎

慢性咳嗽の最も一般的な原因は以下のものである:

  • 後鼻漏

  • 胃食道逆流

  • 喘息

  • 慢性気管支炎

  • COPD(慢性閉塞性肺疾患)

  • ウイルス性または細菌性の呼吸器感染症から回復後の気道過敏性(すなわち,感染後咳嗽)

  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬および,より頻度は低いが,アンジオテンシンII受容体拮抗薬

小児における咳嗽の原因は成人と似ているが,小児では喘息の頻度がより高い可能性がある。異物誤嚥は,成人では発達障害,認知症,嚥下障害がある場合を除けばまれであるが,小児ではより多くみられる。

純粋な心因性の咳嗽はまれであり,除外診断により診断する。ただし,慢性咳嗽を伴う患者では,咳嗽に対する続発性の反射や心因性の要素が生じることがある。また,長引く咳嗽は気管支粘膜を傷害する恐れがあり,それがさらなる咳嗽を引き起こすことがある。

表&コラム
表&コラム

総論の参考文献

  1. 1.Iyer VN, Lim KG: Chronic cough: an update. Mayo Clin Proc 88(10):1115–1126, 2013.doi:10.1016/j.mayocp.2013.08.007

  2. 2.Morice AH, Millqvist E, Bieksiene K, et al: ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children.Eur Respir J 55(1): 1901136, 2020.doi: 10.1183/13993003.01136-2019

咳嗽の評価

病歴

現病歴の聴取では,咳嗽の持続期間や特徴を対象に含めるべきである(例,乾性または痰もしくは血液を伴う湿性か否か,および呼吸困難胸痛またはその両方を伴うか否か)。誘発因子(例,冷気,強い臭い)および咳嗽のタイミングを尋ねることで原因が明らかになる可能性がある(例,咳嗽が主に臥位で発生する場合,原因として胃食道逆流症心不全が示唆される)。

システムレビュー(review of systems)では,鼻汁および咽頭痛(上気道感染症[URI],後鼻漏);発熱,悪寒,および胸膜性胸痛(肺炎);盗汗および体重減少(腫瘍結核);胸やけ(胃食道逆流);ならびに飲食時における嚥下困難または窒息の既往(誤嚥)などの,考えられる原因の症状がないか検討すべきである。

既往歴の聴取では,最近の呼吸器感染症(すなわち,過去1~2カ月以内);アレルギー喘息COPD(慢性閉塞性肺疾患),および胃食道逆流症の既往;結核またはHIV感染症の危険因子(または診断歴);ならびに喫煙歴などに注意すべきである。薬歴には,特にアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の使用を含めるべきである。慢性咳嗽の場合,呼吸器刺激物質やアレルゲンとなりうるものへの曝露,および真菌性疾患の流行地域への旅行または居住について聴取すべきである。

身体診察

バイタルサインを評価し,頻呼吸および発熱の有無を調べる。

全身状態の観察では呼吸窮迫の徴候および慢性疾患の徴候(例,消耗,嗜眠)を確認すべきである。

鼻および咽頭の診察では,鼻粘膜の外観(例,色,うっ血)および分泌物の有無(外部または咽頭後壁)に焦点を置くべきである。耳の診察では異物,腫瘤,または感染の徴候がないか調べるべきである。

頸部および鎖骨上部の視診および触診を行い,リンパ節腫脹の有無を確認すべきである。

肺の完全な診察を行い,特に空気の出入りは十分か;呼吸音は左右対称か;および断続性ラ音,笛音(びまん性か限局性か)またはその両方がないかを調べる。硬化の徴候(例,やぎ声,打診時の濁音)がないかを考慮すべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 呼吸困難

  • 喀血

  • 体重減少

  • 長く続く発熱

  • 結核またはHIV感染の危険因子

所見の解釈

所見の中には特定の診断につながるものもある(1の表を参照)。

重要な所見でも特異性が低いものもある。例えば,喀痰の色(例,黄色,緑)および粘稠度は,細菌性か他の原因かの鑑別に有用ではない。呼気性喘鳴はいくつかの原因で起こりうる。少量の喀血は多くの病因による重度の咳嗽によって起こりうるが,比較的量の多い喀血は気管支炎気管支拡張症結核,原発性肺癌を示唆する。発熱,盗汗,体重減少は,がんだけでなく多くの慢性感染症でも起こりうる。

検査

呼吸困難または喀血のレッドフラグサインがみられる患者や肺炎または他の実質性肺疾患が強く疑われる患者では,パルスオキシメトリーと胸部X線を施行すべきである。体重減少が認められるか,または結核およびHIV感染症の危険因子を有する患者では,胸部X線およびこれらの感染症の検査を行うべきである。

レッドフラグサインのない患者では,多くの場合,病歴および身体所見に基づいて診断を下し,検査をせずに治療を開始することができる。明らかな原因がなくレッドフラグサインもない患者に対しては,後鼻漏に対する治療(例,抗ヒスタミン薬および鼻閉改善薬の併用,コルチコステロイドの鼻噴霧,またはムスカリン受容体拮抗薬の鼻噴霧),気道過敏性に対する治療(例,吸入コルチコステロイドまたは短時間作用型β作動薬),または胃食道逆流症に対する治療(プロトンポンプ阻害薬,H2受容体拮抗薬)を経験的に開始する医師が多い。これらの介入に十分な反応を示せば,通常それ以上の評価は不要である。

推定治療(presumptive treatment)で効果がみられない慢性咳嗽の患者では,胸部X線を施行すべきである。胸部X線で著明な所見が認められない場合は,引き続き,喘息(標準的なスパイロメトリーが正常な場合,メサコリン吸入試験を含む肺機能検査),副鼻腔疾患(副鼻腔CT),および胃食道逆流症(食道pHモニタリング)の検査を実施する医師が多い。

百日咳,結核,または非結核性抗酸菌感染症などの緩徐進行型の感染症である可能性がある患者では,喀痰培養が役立つ。

肺癌または他の気管支腫瘍が疑われる場合(例,長期喫煙歴がある,非特異的な全身徴候がある)および経験的治療が無効で事前の検査で決定的な所見を得られない場合は,胸部CTと可能であれば気管支鏡検査を施行すべきである。

評価に関する参考文献

  1. 1.Morice AH, Millqvist E, Bieksiene K, et al: ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children.Eur Respir J 55(1): 1901136, 2020.doi: 10.1183/13993003.01136-2019

咳嗽の治療

治療は,原因の管理である(1)。

鎮咳薬または粘液溶解薬の使用を支持するエビデンスはほとんどない。咳嗽は,気道から分泌物を除去するための重要な機序であり,呼吸器感染症から回復する助けとなりうる。ゆえに,患者はしばしば鎮咳薬を希望または要求するがそのような治療は注意して行うべきであり,URIの患者,および基礎疾患に対する治療を受けており依然として咳嗽に苦しんでいる患者に限るべきである。咳に反射性または心因性の要素がみられるか,または気管支粘膜に損傷が生じている慢性咳嗽の患者には,鎮咳薬が有用である場合がある。

鎮咳薬は,延髄の咳中枢を抑制するか(デキストロメトルファンおよびコデイン),または気管支および肺胞にある迷走神経の求心性線維の伸展受容器を麻痺させる(ベンゾナテート)。デキストロメトルファンは,オピオイドであるレボルファノール(levorphanol)と同属であり,錠剤またはシロップ剤としての投与が効果的である。コデインは鎮咳,鎮痛,および鎮静作用を有するが,依存性が問題となる可能性があり,悪心,嘔吐,便秘,および耐性形成が頻度の高い有害作用である。その他のオピオイド(例,ヒドロコドン,ヒドロモルフォン,メサドン,モルヒネ)は鎮咳作用を有するが,依存および乱用を招く可能性が高いため投与は避けられる。テトラカインの同属であるベンゾナテートは液体カプセルとして入手できる。

去痰薬は,分泌物の粘稠度を低下させ,喀出(咳をして吐き出すこと)を促すと考えられているが,ほとんどの場合効果があったとしても限られている。グアイフェネシンは,重篤な有害作用がないため最もよく使用されるが,ブロムヘキシンおよびヨウ化カリウム飽和溶液(SSKI)など多くの去痰薬がある。噴霧式去痰薬にはアセチルシステイン,DNase(ドルナーゼ アルファ),および高張食塩水などがあり,一般に気管支拡張症または嚢胞性線維症の患者の咳嗽に対する院内治療で用いられる。十分な水分補給を確実に行うと痰の喀出が容易になる場合があり,蒸気の吸入でも同様のことが起こりうるが,いずれも厳密な検証が行われたわけではない。

局所療法として,アカシア,甘草,グリセリン,はちみつ,およびセイヨウミザクラの咳止めドロップまたはシロップ(粘滑薬)などがあり,これらの薬剤は局所的およびおそらく気分的に症状を緩和するが,その使用は科学的根拠によって支持されているものではない。

咳刺激薬は咳嗽を誘発し,嚢胞性線維症および気管支拡張症などの疾患に適応となるが,このような疾患では湿性の咳嗽が気道クリアランスおよび肺機能の維持に重要であると考えられている。DNaseまたは高張食塩水の投与と,胸部の理学療法および体位ドレナージの併用は,咳嗽および喀痰を促す。この方法は嚢胞性線維症には有益であるが,慢性咳嗽のその他の原因の大半には有益ではない。

サルブタモールおよびイプラトロピウムまたは吸入コルチコステロイドなどの気管支拡張薬は,URI後および咳喘息の咳嗽に効果的である可能性がある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Morice AH, Millqvist E, Bieksiene K, et al: ERS guidelines on the diagnosis and treatment of chronic cough in adults and children.Eur Respir J 55(1): 1901136, 2020.doi: 10.1183/13993003.01136-2019

要点

  • 危険徴候には呼吸窮迫,慢性の発熱,体重減少,および喀血などがある。

  • 通常は臨床診断で十分である。

  • 潜在性の胃食道逆流症も可能性のある原因として覚えておくべきである。

  • 鎮咳薬および去痰薬は選択的に使用されるべきである。

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