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鎌状赤血球症

(ヘモグロビンS症)

執筆者:

Evan M. Braunstein

, MD, PhD, Johns Hopkins University School of Medicine

最終査読/改訂年月 2019年 3月
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鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症 異常ヘモグロビン症の概要 異常ヘモグロビン症は,ヘモグロビン分子の構造または産生に影響を及ぼす遺伝性疾患である。 ヘモグロビン分子はポリペプチド鎖で構成され,ポリペプチド鎖の化学構造は遺伝的に制御されている。電気泳動の移動度で識別される各種ヘモグロビンは,発見された順にアルファベット(例,A,B,C)で命名されているが,最初に発見された異常ヘモグロビンである鎌状赤血球ヘモグロビンは,ヘモグロビンSと命名された。... さらに読む )は,ほぼ黒人だけに生じる慢性溶血性貧血である。ヘモグロビンS遺伝子がホモ接合性に遺伝することによって生じる。鎌状の赤血球は血管の閉塞を引き起こし,溶血を起こしやすいことから,重度の疼痛発作,臓器虚血,および他の全身性合併症につながる。急性増悪(クリーゼ)が頻繁に起こることがある。感染症,骨髄無形成,または肺病変(急性胸部症候群)を急性発症し,死に至ることがある。貧血がみられ,通常は末梢血塗抹標本で鎌状赤血球が明らかに認められる。診断にはヘモグロビン電気泳動を要する。疼痛発作は鎮痛薬およびその他の支持療法で治療する。ときに輸血を要する。細菌感染に対するワクチン,抗菌薬の予防投与,および積極的な感染症治療は延命につながる。ヒドロキシカルバミドによりクリーゼおよび急性胸部症候群の頻度が減少する場合がある。

異常ヘモグロビン症は,ヘモグロビン分子に影響を及ぼす遺伝性疾患である。ヘモグロビンSが最初に同定された異常ヘモグロビンであった。ホモ接合体(米国の黒人の約0.3%)では,鎌状赤血球貧血がみられ,ヘテロ接合体(黒人の8~13%)では,典型的には貧血はみられないが,他の合併症のリスクが高くなる。

病態生理

ヘモグロビン分子はポリペプチド鎖で構成され,ポリペプチド鎖の化学構造は遺伝的に制御されている。正常な成人型ヘモグロビン分子(ヘモグロビンA)は,α鎖およびβ鎖と命名された2組の分子鎖から構成される。正常な成人の血液には,2.5%以下の割合でヘモグロビンA2(α鎖およびδ鎖から成る)も,また2%未満の割合でヘモグロビンF(胎児型ヘモグロビン,β鎖の部位をγ鎖が占めている)も含まれている(妊娠中の異常ヘモグロビン症 妊娠中の異常ヘモグロビン症 正常では,妊娠中には骨髄の赤芽球過形成が起こり,赤血球量は増加する。しかしながら,血漿量の不均衡な増加により血液希釈(妊娠水血症)が生じる:ヘマトクリット(Hct)は妊娠していない健康な女性の場合38~45%であるが,単胎妊娠後期では約34%,多胎妊娠後期では30%に減少する。以下のヘモグロビン(Hb)値およびHct値は貧血として分類され... さらに読む も参照)。在胎中はヘモグロビンFが多数を占め,出生後徐々に減少していき,特に生後数カ月で大きく減少するが,特定のヘモグロビン合成障害や 再生不良性貧血 再生不良性貧血 再生不良性貧血は,血球前駆細胞の減少,骨髄の低形成または無形成,および2系統以上(赤血球,白血球,血小板)の血球減少が生じる造血幹細胞の疾患である。症状は貧血,血小板減少症(点状出血,出血),または白血球減少症(感染症)によって引き起こされる。診断には,末梢血塗抹での汎血球減少と骨髄生検での骨髄低形成の証明が必要である。治療としては通常,ウマ抗胸腺細胞グロブリン【訳注:現在,日本で使用できるのはウサギ抗胸腺細胞グロブリンのみである。】お... さらに読む および 骨髄増殖性腫瘍 骨髄増殖性腫瘍の概要 骨髄増殖性腫瘍は,骨髄幹細胞がクローン性に増殖する病態で,循環血中の血小板,赤血球,または白血球の増加として現れることがあり,ときに骨髄の線維化亢進として現れることもあり,結果として髄外造血(骨髄外での血球産生)が生じる。これらの異常に基づき,以下のように分類される: 本態性血小板血症(血小板増多)... さらに読む では,その濃度が上昇する。

一部の異常ヘモグロビン症は,ホモ接合体の患者で重度の貧血を引き起こすが,ヘテロ接合体の患者では軽度である。一部の患者は,2つの異なる異常ヘモグロビン症の複合ヘテロ接合体で,様々な程度の貧血がみられる。

電気泳動の移動度で識別される各種ヘモグロビンは,発見された順にアルファベット(例,A,B,C)で命名されているが,最初に発見された異常ヘモグロビンである鎌状赤血球ヘモグロビンは,ヘモグロビンSと命名された。電気泳動の移動度は同じであるが構造が異なるヘモグロビンは,それぞれ発見された都市または場所にちなんで命名されている(例,ヘモグロビンSメンフィス,ヘモグロビンCハーレム)。ある患者のヘモグロビン組成を表す場合,濃度が最も高いヘモグロビンを最初に記載するのが標準である(例,鎌状赤血球形質ではAS)。

米国で重要な貧血は,ヘモグロビンS症または ヘモグロビンC症 ヘモグロビンC症 ヘモグロビンC症は,異常ヘモグロビン症の1つで,溶血性貧血の症状を引き起こす。 (溶血性貧血の概要も参照のこと。) 米国における黒人のヘモグロビンC保有率は約2~3%である。ヘテロ接合体では,症状がみられない。ホモ接合体では通常,軽度の慢性溶血性貧血および脾腫,ならびに貧血に一致する症状がみられる。胆石症が最も頻度の高い合併症であり,splenic sequestrationが生じうる。... さらに読む の原因となる遺伝子変異および サラセミア サラセミア サラセミアは,ヘモグロビン合成障害を特徴とする先天性小球性溶血性貧血の一群である。αサラセミアは,アフリカ,地中海沿岸,または東南アジアに祖先をもつ人々に特に多くみられる。βサラセミアは,地中海沿岸,中東,東南アジア,またはインドに祖先をもつ人々に多くみられる。症状および徴候は,貧血,溶血,脾腫,骨髄過形成の加え,輸血を複数回経験している場合は鉄過剰に起因する。診断は遺伝子検査およびヘモグロビンの定量分析に基づく。重症型に対する治療とし... さらに読む により引き起こされる。東南アジアからの移民が増加したことにより, ヘモグロビンE症 ヘモグロビンE症 ホモ接合体のヘモグロビンE症は,軽度の溶血性貧血を引き起こすが,通常は脾腫を生じない異常ヘモグロビン症である。 (溶血性貧血の概要も参照のこと。) ヘモグロビンEは,世界で3番目に(ヘモグロビンAおよびヘモグロビンSに次いで)多くみられるヘモグロビンである。主に東南アジア人(ホモ接合体疾患の発生率が15%を超える)集団にみられるが,まれに中国系の人にもみられる。ヘテロ接合体(ヘモグロビンAE)では,症状がみられない。ヘモグロビンEとβサ... さらに読む はよくみられる疾患になっている。

ヘモグロビンSでは,β鎖の6番目のアミノ酸であるグルタミン酸がバリンに置換されている。酸素化ヘモグロビンSは,酸素化ヘモグロビンAよりはるかに溶けにくい;酸素化ヘモグロビンSは半流動性ゲルを形成し,酸素分圧が低い部位で赤血球を鎌状に変形させる。歪んで変形能に乏しい赤血球は,血管内皮に付着して小径動脈および毛細血管を詰まらせ,梗塞が生じる。血管の閉塞は内皮の損傷も引き起こし,それにより炎症が生じ,血栓形成に至る。鎌状赤血球は脆弱であるため,循環血流の機械的損傷により溶血が起こる(溶血性貧血の概要 溶血性貧血の概要 赤血球は正常な寿命(約120日)が尽きると,循環血液から取り除かれる。溶血が起きると赤血球が未熟な段階で破壊され,それにより赤血球寿命が短くなる(120日未満)。骨髄での赤血球産生が赤血球寿命の短縮を代償できなくなると貧血が生じるが,この状態を非代償性溶血性貧血と呼ぶ。骨髄により代償できている場合,その状態を代償性溶血性貧血と呼ぶ。... さらに読む 溶血性貧血の概要 を参照)。代償性の骨髄造血亢進が長期にわたると,骨変形が生じる。

急性増悪

急性増悪(クリーゼ)が間欠的に生じるが,原因不明の場合が多い。一部の症例では,以下のものによりクリーゼが誘発されると考えられる:

  • 発熱

  • ウイルス感染症

  • 局所的な外傷

血管閉塞クリーゼ(疼痛発作)が最も一般的な病型であり,これは虚血,組織低酸素,および梗塞に起因し,典型的には骨に発生するが,脾臓,肺,または腎臓に起こることもある。

無形成発作(aplastic crisis)は,ヒトパルボウイルスによる急性感染症の発生時に骨髄での赤血球産生が低下することで生じ,その期間に急性赤芽球減少症が起こることもある。

小児では,脾臓において急激な鎌状赤血球の滞溜(sequestration crisis)が生じることがあり,貧血が増悪する。

急速な肝腫大を伴ってhepatic sequestration(肝滞溜)が起きる可能性がある。

合併症

慢性的な脾臓損傷により,autoinfarction(自己梗塞)が生じることがあり,感染,特に肺炎球菌およびSalmonella属細菌(サルモネラ[Salmonella]骨髄炎を含む)に対する易感染性が高まる。これらの感染症は特に幼児期に多く,死に至ることがある。

繰り返す虚血および梗塞により,多数の異なる器官系における慢性の機能障害が生じうる。合併症としては, 虚血性脳卒中 虚血性脳卒中 虚血性脳卒中とは,局所的な脳虚血に起因して突然生じる神経脱落症状のうち,永続的な脳梗塞(例,MRIの拡散強調画像で陽性となるもの)を伴うものである。一般的な原因は(頻度の高い順に)太い動脈のアテローム血栓性閉塞;脳塞栓症(塞栓性脳梗塞);深部の細い脳動脈の非血栓性閉塞(ラクナ梗塞);および近位部の動脈狭窄に加えて動脈分水嶺領域の脳血流量を減少させる血圧低下を伴うもの(血行力学性の脳卒中)である。診断は臨床的に行うが,出血を除外して脳卒中... さらに読む 虚血性脳卒中 痙攣発作 痙攣性疾患 脳起源の発作(seizure)は,大脳皮質の灰白質で発生する無秩序な異常放電のために正常な脳機能が一過性に妨げられる現象である。典型的な発作では,意識変容,異常感覚,局所的な不随意運動,または痙攣(広範囲の随意筋に生じる激しい不随意収縮)が引き起こされる。診断は臨床的に下すこともあるが,新規発症の発作では神経画像検査,臨床検査,および脳波... さらに読む ,股関節の阻血性骨壊死,腎濃縮障害, 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 心不全 心不全 (HF) 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む 心不全 (HF) 肺高血圧症 肺高血圧症 肺高血圧症は,肺循環における血圧の上昇である。肺高血圧症には二次性の原因が数多く存在し,中には特発性の症例もある。肺高血圧症では,肺の血管が収縮かつ/または閉塞する。重症の肺高血圧症は,右室への過負荷および右室不全を引き起こす。症状は,疲労,労作時呼吸困難であり,ときに胸部不快感および失神がみられる。肺動脈圧の上昇を証明することで診断がつ... さらに読む ,肺線維症,網膜症などがある。

ヘテロ接合体

ヘテロ接合体(ヘモグロビンAS)の患者は,溶血も疼痛発作も経験しない。しかし, 慢性腎臓病 慢性腎臓病 慢性腎臓病(CKD)とは,腎機能が長期にわたり進行性に悪化する病態である。症状は緩徐に現れ,進行すると食欲不振,悪心,嘔吐,口内炎,味覚異常,夜間頻尿,倦怠感,疲労,そう痒,精神的集中力の低下,筋収縮,筋痙攣,水分貯留,低栄養,末梢神経障害,痙攣発作などがみられる。診断は腎機能検査に基づき,ときに続いて腎生検を施行する。治療は主に基礎疾患... さらに読む 慢性腎臓病 および 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む 肺塞栓症(PE) のリスクが高い。さらに,持続的かつ消耗性の運動中に横紋筋融解症および突然死が生じることがある。尿濃縮能障害(低張尿)が多くみられる。片側性血尿(機序不明で,通常は左腎に起因)が生じることがあるが,自然に軽快する。典型的な腎乳頭壊死が起こりうるが,ホモ接合体の患者よりも少なく,極めてまれな腎臓の髄様癌と関連がある。

症状と徴候

ほとんどの症状は,ホモ接合体の患者のみにみられ,以下に起因して生じる:

  • 貧血

  • 組織の虚血および梗塞に至る血管閉塞イベント

肝脾腫が小児に多くみられるが,成人の脾臓は,たび重なる梗塞およびその後の線維化により,萎縮していることが多い(autosplenectomy)。心拡大および収縮期駆出性(血流)雑音が多く認められる。胆石症および足関節周辺の慢性の打ち抜き潰瘍が一般的である。

疼痛を伴う血管閉塞クリーゼは,長管骨,手足,背部,および関節に重度の疼痛を引き起こす。大腿骨頭の阻血性骨壊死によって股関節痛が生じることがある。重度の腹痛(嘔吐を伴う場合も伴わない場合もある)が生じることがあり,通常背部痛および関節痛を伴う。

急性胸部症候群(acute chest syndrome)は,突然の発熱,胸痛,および肺浸潤を特徴とする。細菌性肺炎に続いて生じることがある。低酸素血症が急速に現れて,呼吸困難を来すことがある。

診断

  • DNA検査(出生前診断)

  • 末梢血塗抹標本

  • 溶解性試験

  • ヘモグロビン電気泳動(または薄層等電点電気泳動)

実施する検査の種類は患者の年齢に応じて異なる。DNA検査は,出生前診断または鎌状赤血球遺伝子型の診断確定に用いることができる。米国のほとんどの州で新生児スクリーニングが利用可能で,ヘモグロビン電気泳動が含まれている。小児および成人のスクリーニングおよび診断では,末梢血塗抹標本,ヘモグロビン溶解性試験,およびヘモグロビン電気泳動が行われる。

出生前スクリーニング

新生児スクリーニング

現在,全例検査が推奨されており,しばしば一連の新生児スクリーニング検査の1つとなっている。ヘモグロビンF,S,A,Cを鑑別するために推奨されている検査は,酢酸セルロースまたはクエン酸寒天を用いたヘモグロビン電気泳動,薄層等電点電気泳動,または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるヘモグロビン分画検査である。診断確定には生後3~6カ月で再検査を要することがある。生後数カ月でのヘモグロビンSの溶解性試験は信頼性が低い。

小児および成人のスクリーニングと診断

鎌状赤血球症またはその形質の家族歴がある患者は,末梢血塗抹標本,ヘモグロビン溶解性試験,およびヘモグロビン電気泳動によるスクリーニングを行うべきである。

鎌状赤血球症またはその合併症(例,発育不良,急性の原因不明の骨痛,大腿骨頭の無菌性壊死,原因不明の血尿)が示唆される症状または徴候がみられる患者,および正球性貧血(特に溶血がみられる場合)の黒人患者では, 溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血 自己免疫性溶血性貧血は,37℃以上(温式抗体による溶血性貧血)または37℃未満(寒冷凝集素症)の温度で赤血球と反応する自己抗体により引き起こされる。溶血は通常血管外性である。直接抗グロブリン試験(直接クームス試験)により診断が確定され,原因が示唆されることがある。治療は原因に応じて異なり,コルチコステロイド,脾臓摘出,免疫グロブリン静注,免疫抑制薬,輸血の回避(生命を脅かす貧血の場合は除く),誘因(例,寒冷)の回避,薬剤の中止などがある... さらに読む 自己免疫性溶血性貧血 に対する臨床検査,ヘモグロビン電気泳動,および赤血球の鎌状化についての検査が必要である。鎌状赤血球症が存在する場合,赤血球数は通常200万~300万/μLであり,これに比例してヘモグロビンも減少している;赤血球は正球性である(小球性であればαまたはβサラセミアの合併が示唆される)。有核赤血球が頻繁に末梢血中にみられ,10%以上の網状赤血球増多が一般的である。染色後の塗抹乾燥標本で鎌状赤血球(三日月型,しばしば端が伸びたり尖ったりしている)が認められることがある。

ホモ接合体の状態は,電気泳動でヘモグロビンSとともに種々の量のヘモグロビンFのみが認められることによって,鎌状赤血球を呈する他の異常ヘモグロビン症と鑑別される。ヘテロ接合体は,電気泳動でヘモグロビンSよりもヘモグロビンAが多く認められることによって鑑別される。ヘモグロビンSは,特徴的な赤血球の形態を明らかにすることによって,類似した電気泳動パターンを示す他のヘモグロビンと鑑別しなければならない。

診断に骨髄検査は用いられない。他の貧血と鑑別するために骨髄検査を行った場合,正赤芽球を主体とする過形成がみられる;鎌状化または重症感染症で骨髄が無形成となることがある。他の疾患(例,手足の疼痛を引き起こす若年性関節リウマチ)を除外するために赤沈値を測定した場合,低値を示す。

骨格X線検査での偶発的所見として,頭蓋骨板間層の拡大および板間層における太陽光線様の骨梁形成がみられることがある。長管骨では,しばしば骨皮質の菲薄化,密度の不整,および骨髄腔内での骨新生を認める。

原因不明の血尿では,鎌状赤血球症が疑われていない患者であっても,鎌状赤血球症の形質を考慮すべきである。

増悪の評価

鎌状赤血球症であると確認された患者が疼痛,発熱,その他の感染症状など急性増悪を呈した場合,無形成発作を考慮し,血算および網状赤血球数の測定を行う。網状赤血球数が1%未満で,特にヘモグロビンが患者の通常レベルを下回るまで低下した場合は,無形成発作が示唆される。骨髄無形成を伴わない疼痛発作では,白血球数が増加し,特に細菌感染時には左方移動がしばしば認められる。血小板数は通常増加するが,急性胸部症候群では低下することがある。血清ビリルビン値を測定した場合は通常上昇し(例,2~4mg/dL[34~68μmol/L]),尿にウロビリノーゲンが含まれることがある。

胸痛または呼吸困難を呈している患者では,急性胸部症候群および 肺塞栓症 肺塞栓症(PE) 肺塞栓症とは,典型的には下肢または骨盤の太い静脈など,他の場所で形成された血栓による肺動脈の閉塞である。肺塞栓症の危険因子は,静脈還流を障害する状態,血管内皮の障害または機能不全を引き起こす状態,および基礎にある凝固亢進状態である。肺塞栓症の症状は非特異的であり,呼吸困難,胸膜性胸痛などに加え,より重症例では,ふらつき,失神前状態,失神,... さらに読む 肺塞栓症(PE) を考慮する;胸部X線およびパルスオキシメトリーが必要である。急性胸部症候群は鎌状赤血球症における主な死因であるため,早期の認識および治療が極めて重要である。低酸素血症または胸部X線での肺実質浸潤からは,急性胸部症候群または 肺炎 肺炎の概要 肺炎は,感染によって引き起こされる肺の急性炎症である。初期診断は通常,胸部X線および臨床所見に基づいて行う。 原因,症状,治療,予防策,および予後は,その感染が細菌性,抗酸菌性,ウイルス性,真菌性,寄生虫性のいずれであるか,市中または院内のいずれで発生したか,機械的人工換気による治療を受けている患者に発生したかどうか,ならびに患者が免疫能... さらに読む が示唆される。肺浸潤を伴わない低酸素血症からは,肺塞栓症が示唆される。

発熱を呈している患者では,感染症および急性胸部症候群を考慮する;培養,胸部X線,およびその他の適切な診断検査を行う。

予後

ホモ接合体患者の寿命は着実に延びており,50歳を超えている。一般的な死因は,急性胸部症候群,併発感染症,肺塞栓症,重要臓器の梗塞,および慢性腎臓病である。

治療

  • 広域抗菌薬(感染症に対して)

  • 鎮痛薬および静注輸液(血管閉塞性の疼痛発作に対して)

  • ときに輸血

  • 予防接種,葉酸補充,およびヒドロキシカルバミド(健康維持のため)

治療には,通常の健康維持のための措置に加え,合併症が生じたときの特異的な治療が含まれる。合併症は支持療法で治療する。In vivoで効果的な抗鎌状化薬は存在しない。脾臓摘出に価値はない。

遺伝子治療では治癒が期待できるが,まだ研究段階である。

入院の適応には,重篤な(全身性を含む)感染症が疑われる場合,無形成発作,急性胸部症候群のほか,しばしば難治性疼痛,または輸血が必要になる場合がある。発熱のみでは入院の理由とならない場合がある。ただし,急性疾患と考えられ,体温が38℃を超える患者では,複数の部位から培養検体を採取し,静注抗菌薬を投与できるように入院させるべきである。

抗菌薬

重篤細菌感染症が疑われる患者または急性胸部症候群の患者には,直ちに広域抗菌薬が必要である。

鎮痛薬

疼痛発作は鎮痛薬(通常はオピオイド)の十分量の投与により管理する。静注モルヒネ(持続または急速静注)が効果的かつ安全である;ペチジンは避ける。クリーゼ時の疼痛および発熱は5日程度続くことがある。オピオイドの需要を軽減するために非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が有用であることが多いが,腎疾患を有する患者では慎重に使用する必要がある。

輸液

脱水は鎌状化の一因となり,クリーゼを誘発しうるが,クリーゼ時に積極的な補液が助けになるかどうかは不明である。それでも,正常な循環血液量の維持が治療の中心となっている。

輸血

多くの状況で輸血が行われているが,その効果は実証されていない。ただし,反復性の脳血栓症を予防する上で(特に小児の場合),ヘモグロビンSの割合を30%未満に維持するために,長期の輸血療法が適応となる。

特異的な急性期の適応としては,急性のsplenic sequestration,無形成発作,心肺系の症候(例,高拍出性心不全,酸素分圧が65mmHg未満の低酸素血症),術前使用,持続勃起症,酸素供給の改善が有益と考えられる生命を脅かす事象(例,敗血症,重症感染症,急性胸部症候群,脳卒中,急性の臓器虚血)などがある。輸血は,合併症のない疼痛発作時には役に立たない。妊娠中は,輸血が必要なことがある。

無形成発作またはsplenic sequestrationが起きている場合など,目標が貧血の是正である場合は単純輸血が行われることがある。急性胸部症候群などの他の急性事象の発生時には,ヘモグロビンSの割合を下げ,虚血を予防するために,交換輸血を行う。これは最新のアフェレーシス装置を用いて実施できる。ただし,事前のヘモグロビンが低値(7g/dL[70g/L]未満)の場合には,この処置を最初の赤血球輸血の前に開始してはならない。部分交換輸血により,鉄の蓄積および過粘稠が最小限に抑えられる。

健康維持

長期管理に関して,特に小児期では,以下の介入により死亡率が低下する:

  • 肺炎球菌,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae),インフルエンザ(不活化ワクチンで,生ワクチンは使用しない),および髄膜炎菌ワクチン

  • 重篤細菌感染症の早期発見および治療

  • 抗菌薬の予防投与で,生後4カ月から6歳までの経口ペニシリンの予防的継続投与を含む

  • ヒドロキシカルバミドの投与および葉酸補充

通常は,葉酸補充(1mgの1日1回経口投与)が処方される。

ヒドロキシカルバミドは,ヘモグロビンFを増加させ,それにより鎌状化を減少させることで,疼痛発作が(50%)減少し,急性胸部症候群および輸血の必要性も低下する。繰り返す疼痛発作または他の合併症がある患者で適応となる。ヒドロキシカルバミドの用量は定まっておらず,血算および有害作用に基づいて調節する。ヒドロキシカルバミドは白血病誘発物質であるとともに,好中球減少症および血小板減少症を引き起こす。さらに,催奇形性もあるため,妊娠する可能性のある年齢の女性に投与してはならない。

小児における経頭蓋ドプラ法による血流測定は,脳卒中のリスクの予測に役立つ可能性があり,多くの専門家が2~16歳の小児に対して年1回のスクリーニングを推奨している。リスクの高い小児では,ヘモグロビンSを総ヘモグロビン量の30%未満に保つように,交換輸血を予防的に長期にわたり行うことが有益と考えられる; 鉄過剰 二次性鉄過剰症 二次性鉄過剰症は,特に赤血球産生障害の患者における過剰な鉄吸収,頻回の輸血,または過剰な鉄摂取に起因する。結果として,全身症状,肝疾患,心筋症,糖尿病,勃起障害,および関節障害がみられることがある。診断は,血清フェリチン,鉄,およびトランスフェリン飽和度の高値により行う。鉄キレート薬による治療が一般的である。 (鉄過剰症の概要も参照のこと。) 二次性鉄過剰症は,典型的に以下の患者にみられる:... さらに読む が多くみられ,スクリーニングと治療が必要になる。

要点

  • ヘモグロビンSのホモ接合体の患者は異常β鎖を有するため,赤血球が脆弱で相対的に変形しにくいことから,毛細血管を詰まらせて組織の梗塞を引き起こすことがあるほか,溶血を生じて貧血を起こしやすい。

  • 疼痛発作,sequestration crisis(滞溜クリーゼ),無形成発作,急性胸部症候群などの様々な急性増悪がみられる。

  • 長期合併症には,肺高血圧症,慢性腎臓病,脳卒中,無菌性壊死,感染症のリスク増大などがある。

  • ヘモグロビン電気泳動を用いて診断する。

  • 急性クリーゼでは,疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を投与し,貧血の悪化(骨髄無形成またはsequestration crisisが示唆される)および急性胸部症候群または感染症の徴候をチェックするとともに,生理食塩水の投与により正常な循環血液量に回復させた後に維持輸液を行う。

  • ワクチン接種および抗菌薬の予防投与により感染症を予防する;ヒドロキシカルバミドの投与により疼痛発作を防ぎ,急性胸部症候群のリスクを低減する。

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