(染色体異常症の概要 染色体異常症の概要 染色体異常は様々な疾患の原因となる。性染色体(XおよびY染色体)の異常よりも常染色体(男女とも22対ある相同な染色体)の異常の方が多くみられる。 染色体異常はいくつかのカテゴリーに分けられるが,大きく数的異常と構造異常に分けて考えることができる。 数的異常としては以下のものがある:... さらに読む および 性染色体異常の概要 性染色体異常の概要 性染色体異常には性染色体の異数性,部分欠失,または重複が関与し,モザイクの場合もある。 ( 染色体異常症の概要も参照のこと。) 性染色体異常はよくみられ,様々な先天奇形や発育異常を合併する症候群の原因となっている。その大多数は出生前から疑われることはないが,母体年齢が高いなどの他の理由で実施された核型分析の際に偶然発見されることがある。出生時に異常を認識することも困難である場合が多く,思春期まで診断されないこともある。... さらに読む も参照のこと。)
ターナー症候群は世界中で出生女児の約1/2500に発生する。しかしながら,45,Xの受胎は99%が自然流産となる。
患児の約50%が45,Xの核型を有し,そのうちの約80%が父親由来のX染色体が欠損したものである。残りの50%の大半はモザイク型である(例,45,X/46,XXまたは45,X/47,XXX)。モザイク型の女児では,典型的なターナー症候群から正常のものまで,表現型は多彩である。ときに,正常なX染色体1つと環状のX染色体1つを有する女児もいる。また,正常なX染色体と長腕同腕染色体(X染色体2つの短腕欠失とその結果生じたX染色体長腕2つの結合によって形成される)を1つずつ有する女児も存在する。このような女児は,ターナー症候群の表現型特性の多くを有している傾向があり,このことから,X染色体短腕の欠失がこの典型的な表現型の発生に重要な役割を果たしていると考えられる。
病態生理
よくみられる心奇形として, 大動脈縮窄症 大動脈縮窄症 大動脈縮窄症は,大動脈内腔の限局的な狭小化によって上肢高血圧,左室肥大,ならびに腹部臓器および下肢の灌流不良が生じる病態である。症状は奇形の重症度に応じて異なり,頭痛や胸痛,四肢冷感,疲労,跛行などから,劇症性心不全やショックに至るまで様々である。縮窄部上で弱い血管雑音が聴取されることがある。診断は心エコー検査またはCTもしくMRアンギオグラフィーによる。治療法は,ステント留置を伴うバルーン血管形成術,または外科的修復である。... さらに読む や大動脈二尖弁などがある。しばしば加齢とともに高血圧を生じるようになるが,これは大動脈縮窄がない場合も同様である。腎奇形および血管腫も高率にみられる。ときに消化管で毛細血管拡張が発生し,それにより消化管出血やタンパク質喪失を来す。難聴が起こり, 斜視 斜視 斜視とは眼位の異常で,正常では平行になる注視時の視線に偏位が生じたものである。診断は,角膜光反射の観察や遮閉試験の実施など,臨床的に行う。治療には,眼帯および矯正レンズの装用による視力障害の是正,矯正レンズによる眼位矯正,外科的修復などがある。 斜視は小児の約3%に発生する。無治療で放置すると,斜視患児の約50%で 弱視(視力発達過程における眼の不使用によって引き起こされる機能的な視力低下)に起因する視力障害が発生する。... さらに読む および遠視がよくみられ, 弱視 弱視 弱視とは,視力発達過程における眼の不使用によって引き起こされる機能的な視力低下のことである。弱視の発見および治療が8歳までになされない場合,患眼の重度の視力障害に至ることがある。他に病因がなく,最大矯正視力に左右差が検出された場合に診断される。治療は原因に応じて異なる。 弱視は小児の約2~3%に発生し,通常は2歳未満で始まるが,約8歳未満... さらに読む のリスクが高い。一般集団と比べて,甲状腺炎,糖尿病,およびセリアック病の頻度が高い。
乳児期には 発育性股関節形成不全 発育性股関節形成不全(DDH) 発育性股関節形成不全(かつての先天性股関節脱臼)は股関節の発育異常である。 ( 頭蓋顔面部および筋骨格系の先天異常に関する序論も参照のこと。) 発育性股関節形成不全は,亜脱臼または脱臼に至り,片側性の場合と両側性の場合がある。高リスク因子として以下のものがある: 骨盤位 他の変形の存在(例, 斜頸, 先天性足変形) さらに読む のリスクが高い。青年期には,10%の頻度で脊柱側弯症がみられる。ターナー症候群の女性では,骨粗鬆症と骨折がかなり多くみられる。性腺形成不全(両側の卵巣が筋状の線維性間質で置換され,卵子の発育はみられない)が90%の頻度で発生する。ターナー症候群の青年の15~40%では思春期が発来するが,初経が発来するのは2~10%のみである。
知的障害はまれであるが,多くの女児で非言語性学習障害, 注意欠如・多動症 注意欠如・多動症(ADD,ADHD) 注意欠如・多動症(ADHD)は,不注意,多動性,および衝動性から構成される症候群である。不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つの病型に分類される。診断は臨床的な基準により下される。治療では通常,精神刺激薬による薬物療法,行動療法,教育的介入などが行われる。 注意欠如・多動症(ADHD)は,神経発達障害と考えられている。神経発達障... さらに読む ,またはその両方が認められ,その結果,たとえ知能検査の言語性課題では平均以上の成績を残したとしても,動作性検査と数学では成績は不良となる。
症状と徴候
新生児では多くの場合,症状はごく軽度であるが,手背および足背の著明なリンパ浮腫や,頸部背面にリンパ浮腫や弛緩した皮膚の襞がみられる場合もある。この他に頻度の高い奇形としては,翼状頸,乳頭間離開と陥没乳頭を伴う幅の広い胸郭などがある。患児は家族と比して低身長となることが多い。
比較的頻度の低い所見としては,頸部背面の毛髪線低位,眼瞼下垂,多発性の色素性母斑,第4中手骨および中足骨の短縮,指腹に渦状紋を伴う指尖部の隆起,爪の低形成などがある。肘の外反角(キャリーアングル)の増大も認められる。
心奇形の症状は重症度に依存する。大動脈縮窄症では,上肢の高血圧,大腿動脈拍動の減弱,および下肢の血圧低下または測定不能が起こりうる。
性腺形成不全により思春期が発来せず,乳腺の発達や月経の開始がみられない。ターナー症候群に関連するその他の医学的問題は,成長とともに発生し,スクリーニングを行わなければ明らかにならない場合もある。
診断
臨床的な外観
核型分析,蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)解析,および/または染色体マイクロアレイ解析による細胞遺伝学的検査
合併症の検査
新生児では,リンパ浮腫または翼状頸の存在からターナー症候群が疑われることがある。これらの所見がみられない場合は,低身長,思春期発達の欠如,および無月経に基づいて後から診断されることがある。
細胞遺伝学的検査(核型分析,FISH解析,および/または染色体マイクロアレイ解析)により診断を確定する。(染色体異常症の診断 診断 染色体異常は様々な疾患の原因となる。性染色体(XおよびY染色体)の異常よりも常染色体(男女とも22対ある相同な染色体)の異常の方が多くみられる。 染色体異常はいくつかのカテゴリーに分けられるが,大きく数的異常と構造異常に分けて考えることができる。 数的異常としては以下のものがある:... さらに読む および 次世代シークエンシング技術 遺伝子診断技術 遺伝子診断技術は急速に発展している。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法でDNAまたはRNAを増幅することで,遺伝子または遺伝子断片のコピーを大量に複製することが可能である。 ( 遺伝学の概要も参照のこと。) 遺伝子プローブを用いれば,特定の正常または変異DNA断片の位置を同定することが可能である。様々な種類のプローブにより,幅広い大きさのDNA配列を検討することができる。既知のDNA分節をクローニングして蛍光分子で標識することもでき(蛍光... さらに読む も参照のこと。)
心奇形の検出と継続的サーベイランスのため,心エコー検査またはMRIが適応となる。
Y染色体を有する細胞系列とのモザイク(例,45,X/46,XY)を除外するため,性腺形成不全の患者には全例で細胞遺伝学的検査とY染色体特異的プローブによる検査を施行する。このような個人の表現型は通常女性であり,様々な程度でターナー症候群の特徴が認められる可能性がある。性腺腫瘍,特に性腺芽腫の発生リスクが高く,その一部は悪性化しうる。このがん化の可能性を理由として,議論の分かれるところであるが,しばしば予防的な性腺摘除術が推奨される。
併発症
ターナー症候群に合併する異常を同定する上では,特定のルーチン評価が役立つ(1 診断に関する参考文献 ターナー症候群の女児は,2つのX染色体のうち1つが部分的または完全に欠失した状態で出生する。診断は臨床所見に基づき,細胞遺伝学的分析で確定する。治療法は臨床像に応じて異なり,心奇形に対して手術を行うこともあれば,しばしば低身長に対する成長ホルモン療法と思春期発来異常に対するエストロゲン補充を行うこともある。 ( 染色体異常症の概要および 性染色体異常の概要も参照のこと。) ターナー症候群は世界中で出生女児の約1/2500に発生する。しか... さらに読む ):
診断時の心エコーおよび心電図検査による心臓の評価,ならびに伝導異常および大動脈拡張をモニタリングするためのその後の継続的評価
診断時の腎超音波検査,泌尿器系奇形がある患者では年1回の尿検査,血中尿素窒素,クレアチニン
3~5年毎に言語聴覚士による聴覚評価および聴力検査
小児期および青年期の年1回の 脊柱側弯症 診断 特発性側弯症は,脊柱の側方への弯曲である。診断は臨床的に行い,脊椎X線を含める。治療法は弯曲の重症度によって異なる。 特発性側弯症は脊柱側弯症で最もよくみられる病型であり,10~16歳の小児の2~4%にみられる。男児と女児が同様に侵されるが,女児では進行して治療を要する可能性が10倍高い。 遺伝的素因が本疾患発症リスクとして約3分の1で関与する。一部の症例で さらに読む / 後弯症 診断 ショイエルマン病(Scheuermann disease)は,椎体に限局性変化を引き起こして背部痛および後弯を来す 骨軟骨症である。診断は脊椎X線による。治療としては通常,荷重負荷の軽減および激しい運動を減らすことのみである。 ショイエルマン病は青年期に発症し,男子にやや多くみられる。これはおそらく同様の症状を呈する疾患群を反映しているものであるが,病因および発生機序は不明である。椎体上下の軟骨の終板における骨軟骨炎または外傷に起因する... さらに読む の評価
生後12~18カ月時または診断時の眼科的評価;その後は年1回の評価
診断時とその後年1回の甲状腺機能検査
10歳から年1回の耐糖能障害のスクリーニング
診断に関する参考文献
1.Shankar RK, Backeljauw PF: Current best practice in the management of Turner syndrome.Ther Adv Endocrinol Metab 9(1):33–40, 2018.doi: 10.1177/2042018817746291.
治療
併発症の管理
ときに心臓の異常の外科的修復
ときに成長ホルモンおよびエストロゲン
基礎にある遺伝学的病態に対する特異的な治療法は存在せず,各症例の所見に基づいて管理する。
大動脈縮窄症は通常,外科的に修復される。その他の心奇形はモニタリングの対象とし,必要に応じて修復する。
リンパ浮腫は通常,サポート靴下とその他の方法(マッサージなど)でコントロールできる。
成長ホルモン療法で成長を刺激することができる。通常は思春期を発来させるためにエストロゲン補充療法が必要であり,典型的には12~13歳時に行う。その後,第二次性徴を維持するためにプロゲスチンを含有する経口避妊薬を投与する。骨端線が閉鎖するまでは,エストロゲン補充とともに成長ホルモンを投与することができるが,骨端線閉鎖時に成長ホルモンは中止する。エストロゲン補充を継続することが,至適な骨密度および骨格発達を達成する助けとなる。
要点
女児において,検査した一部または全ての細胞で2つのX染色体のうちの1つまたはその一部が欠失している。
臨床像は多彩であるが,低身長,翼状頸,幅の広い胸郭,性腺形成不全,および心奇形(大動脈縮窄症と大動脈二尖弁が多い)がよくみられ,知的障害はまれである。
性腺悪性腫瘍のリスクが増大しており,しばしば予防的な性腺摘除術が推奨されるが,これに関しては議論が分かれる。
合併症(例,心奇形および腎奇形)を検出するために年齢に応じたスクリーニングを行う。
思春期を発来させ,第二次性徴を維持するためホルモン治療を行う。
個々の臨床像に応じた治療を行うとともに,社会的支援,教育支援,および遺伝カウンセリングを提供する。