壊死性腸炎

執筆者:William J. Cochran, MD, Geisinger Clinic
レビュー/改訂 2020年 3月
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壊死性腸炎は主に早期産児および病気の新生児に起こる後天性疾患で,粘膜またはさらに深部の腸管壊死を特徴とする。新生児で最も多い消化管の緊急事態である。症候として哺乳不耐(feeding intolerance),嗜眠,体温不安定,イレウス,腹部膨隆,胆汁性嘔吐,血便,便中の還元性物質,無呼吸などがみられ,ときに敗血症の徴候もみられる。診断は臨床的に行い,画像検査によって確定する。治療は主に支持療法であり,経鼻胃管吸引,静脈輸液,完全静脈栄養,抗菌薬,感染症の場合には隔離などが含まれ,ときに手術を要する。

壊死性腸炎(NEC)の90%以上は早産児に発生する。新生児集中治療室に入る小児の約1~8%に発生する。

危険因子

壊死性腸炎の一般的な危険因子としては,未熟性に加えて以下のものがある:

3つの腸管因子が通常存在する:

  • 先行する虚血性傷害

  • 細菌の定着

  • 腸管腔内の基質(すなわち,経腸栄養)

病因

壊死性腸炎の正確な病因は不明である。しかしながら,未熟な腸管における透過性の亢進および未熟な免疫機能が素因となる。虚血性傷害により腸粘膜が損傷し,腸管の透過性が増加することで,腸管が細菌の侵襲を受けやすくなると考えられている。経腸栄養の開始前にNECが起こることはまれであり,母乳栄養児で起こることも比較的少ない。しかし,一旦哺乳などの経腸栄養が始まると,十分な基質が管腔内細菌の増殖に供給され,これらが損傷した腸壁に入り込み水素ガスを生じる。腸管壁内にガスが蓄積するか(腸管壁内気腫像),門脈にガスが流入することがある。抗菌薬や胃酸分泌抑制薬による治療後にみられるようなdysbiosis(腸内細菌叢の変化)も,病原性を示しうる細菌を増加させる可能性があることから,寄与因子の1つとなっている可能性がある。

最初の虚血性傷害は腸間膜動脈の血管攣縮の結果であることがあり,この血管攣縮は,腸血流を著明に減少させる原始的な潜水反射を誘発する無酸素性傷害によって生じうる。腸管虚血は,交換輸血施行中もしくは敗血症時の,または高浸透圧の人工乳使用からくる血流減少が原因で生じることもある。同様に,全身血流の減少や動脈血酸素飽和度の低下を伴う先天性心疾患も腸管の低酸素/虚血につながり,NECの素因となりうる。

NECは,新生児集中治療室で集団発生またはアウトブレイクを起こすことがある。一部の集団は特定の微生物(例,Klebsiella属細菌,大腸菌[Escherichia coli],コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)と関連しているようであるが,特定の病原体が同定されないことも多い。

壊死性腸炎の合併症

壊死は粘膜から始まり,壊死が腸壁全層に及ぶ場合があり,腸穿孔(続いて腹膜炎が発生し,しばしば腹腔内遊離ガスを伴う)を来すこともある。穿孔は回腸末端でよくみられ,結腸および上部小腸ではあまりみられない。20~30%の患児が敗血症を起こし,死に至ることもある。

症状と徴候

患児は,哺乳困難および胆汁性嘔吐に移行しうる血性または胆汁性胃内残存物(哺乳後),腹部膨隆を示すイレウス,もしくは肉眼的血便を呈する。敗血症は嗜眠,体温不安定,無呼吸発作の増加,および代謝性アシドーシスで発症する。

診断

  • 便中血液の検出

  • 腹部X線

  • 超音波検査

初期のX線は非特異的であり,イレウスのみが示されることがある。しかしながら,X線検査を繰り返しても変化しない固定され拡張した腸係蹄像は,NECを示唆する。NECの診断につながるX線所見は,腸管壁内気腫像と門脈内ガス像である。気腹症は腸穿孔と緊急手術の必要性を示唆する。

NEC症例で超音波検査の利用が増えている。超音波検査では,腸管の壁厚,腸管壁内気腫像,および血流の観察が可能になる。しかしながら,この検査法は検者の技量に大きく依存するため,依然として単純X線の方が頻用されている。

治療

  • 哺乳などの経腸栄養中止

  • 経鼻胃管吸引

  • 輸液蘇生(fluid resuscitation)

  • 広域抗菌薬

  • 完全静脈栄養(TPN)

  • ときに手術または経皮的ドレナージ

死亡率は20~30%である。積極的支持療法と適切なタイミングの外科的介入が,生存の可能性を最も高くする。

支持療法

75%以上の症例では手術によらない支持療法で十分である。NECが疑われた場合は,哺乳などの経腸栄養は直ちに中止しなければならず,ダブルルーメンの経鼻胃管を用いた間欠的吸引により腸管減圧を行うべきである。広範な腸管の炎症および腹膜炎はサードスペースへのかなりの液体の損失につながるため,循環を補助するために適切なコロイドおよび電解質輸液を行う必要がある。腸管が治癒するまでの10~14日間はTPNが必要である。

β-ラクタム系抗菌薬(例,アンピシリン,チカルシリン)およびアミノグリコシド系薬剤による全身抗菌薬療法を直ちに開始すべきである。さらに嫌気性菌域(例,クリンダマイシン,メトロニダゾール)の追加も考慮し,10~14日間継続すべきである(投与量については, see table 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量)。感染性のアウトブレイクもありうるため,特に短期間に複数の症例が発生した場合は,患児の隔離を考慮すべきである。

綿密なモニタリング,徹底した頻回の再評価(例,少なくとも12時間毎),ならびに一連の腹部X線,血算,血小板数,および血液ガスが必要である。腸狭窄はNECの長期合併症として最も多くみられるものであり,生存例の10~36%に起こる。狭窄は,典型的にはNEC発症の2~3カ月以内に現れる。狭窄はほとんどが結腸(特に左側)で認められる。その場合,狭窄部の切除が必要となる。

手術

外科的介入が必要となるのは患児の25%以下である。絶対的適応は腸穿孔(気腹症),腹膜炎の徴候(腸音の消失,広範な筋性防御および圧痛,もしくは腹壁の紅斑および浮腫),または穿刺による腹腔からの膿性物質の吸引である。手術以外の支持療法にもかかわらず臨床状態と検査所見が悪化するNEC患児では,外科手術を考慮すべきである。

当初から経皮的腹腔ドレナージを行うのも選択肢の1つであり,ベッドサイドで施行できる。この手技では,外科医が右下腹部を切開し,そこから温かい生理食塩水を注入して腹腔内を洗浄する。その後,ドレーンを留置して腹部のドレナージを継続する。排液が止まったら,ドレーンを毎日少しずつ引き戻し,最終的に除去することができる。この手技は,非常に状態の悪い超低出生体重児が手術室に搬送するとリスクが高くなる状況で比較的よく行われるが,死亡率が高まる可能性がある。

開腹術を施行している乳児には,腸管の壊疽した部分を切除し,ストーマを作成する。(残存腸管に虚血徴候がみられない場合は,一期的再吻合を行ってもよい。)敗血症および腹膜炎が消失すれば,数週間または数カ月後に腸管の連続性は再確立される。

予防

リスクのある乳児は理想的には母乳栄養とすべきであり,少量から開始し標準化されたプロトコルに従って徐々に増量すべきである。(母乳が利用できない場合,早産児用人工乳が代替として適切である。)高浸透圧の人工乳,薬剤,または造影剤は避けるべきである。赤血球増多症は,速やかに治療すべきである。可能であれば,抗菌薬および胃酸分泌抑制薬の使用は控えるべきである。

プロバイオティクス(例,Bifidus infantisLactobacillus acidophilus)はNEC予防に役立つが,ルーチンの使用を開始するには,その前に至適投与量と適切な株を明らかにする研究が必要である。

早産のリスクがある妊婦には,壊死性腸炎を予防するためにコルチコステロイドを投与してもよい(1)。

予防に関する参考文献

  1. 1.Xiong T, Maheshwari A, Neu J, et al: An overview of systematic reviews of randomized-controlled trials for preventing necrotizing enterocolitis in preterm infants.Neonatology 13:1–11, 2019.doi: 10.1159/000504371.

要点

  • 壊死性腸炎(NEC)は病因不明の腸管壊死であり,経腸栄養開始後の早産児または病的新生児に主に発症する。

  • 合併症としては腸穿孔(回腸末端が最も多い)や腹膜炎などがあり,20~30%に敗血症が起こり,死亡することもある。

  • 初期症状は,哺乳困難および血性または胆汁性の胃内残留物(哺乳後)に続く胆汁性嘔吐,腹部膨隆,および/または肉眼的血便である。

  • 単純X線により診断される。

  • 輸液蘇生,経鼻胃管吸引,広域抗菌薬,および完全静脈栄養による支持療法は,75%以上の症例で効果がみられる。

  • 腸管の壊疽部分を切除し穿孔を治療する外科手術は,患児の25%未満で必要となる。

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