発育不良(failure to thrive[FTT])

執筆者:Christopher P. Raab, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2019年 5月
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発育不良とは,年齢と性別に応じた体重に対して一貫して3~5パーセンタイル未満にあるか,体重が進行性に減少し3~5パーセンタイル未満になる,または短期間に2つの主要な成長指標のパーセンタイル順位が降下することである。医学的原因が明らかな場合もあれば,環境因子が関与する場合もある。いずれのタイプも不十分な栄養と関係している。治療は適切な栄養状態へ戻すことを目標とする。

病因

病因が何であれ,発育不良(FTT)の生理学的基礎は不十分な栄養にあり,以下のタイプに分けられる:

  • 器質性FTT

  • 非器質性FTT

  • 混合性FTT

FTTの大半の症例は多因子的である。

器質性FTT

発育不全が,栄養摂取,吸収,代謝,もしくは排泄を阻害するか,またはエネルギー所要量を増大させる急性あるいは慢性の疾患により生じる( see table 器質性発育不良の主な原因)。あらゆる器官系の疾病が原因になりうる。

表&コラム

非器質性FTT

発育不全児の最大80%には発育を阻害する明らかな(器質的)疾患がみられない;環境的ネグレクト(例,食物の不足),刺激の剥奪,またはその両方のために発育不全が発生する。

食物の不足は以下による:

  • 貧困

  • 授乳技術の理解不足

  • 人工乳の不適切な調製(例,経済的理由から増量のため過度に希釈した人工乳)

  • 母乳不足(例,母親がストレス,極度の疲労,栄養不良下にある)

非器質性FTTは,児と養育者との関係の障害が複雑にからみ合った結果であることが多い。症例によっては,非器質性FTTの心理的な因子が「ホスピタリズム」(刺激の剥奪に続発する抑うつ状態にある乳児にみられる症候群)と類似する場合がある。刺激を受けない小児は抑うつ,無関心,そして最後には食欲不振に陥る。養育者が以下のような場合に,刺激が不足する可能性がある:

  • 抑うつまたは無関心である

  • 養育技能が不足している

  • 養育者の役割について不安があるか,または充足感がない

  • 子どもに対し敵意を感じている

  • 現実的または感覚的な外的ストレス(例,大家族や複雑な家庭における他の子どもからの要求,夫婦関係の障害,重大な喪失,経済的な問題)に対応している

不適切な育児だけでは,非器質性FTTの全症例の説明は不可能である。養育者の育児様式は,児の気質,能力,および反応に助けられて形成される。よくみられるシナリオとして親子の不適合がある;この場合,子どもの要求が病的でないにもかかわらず親がそれを十分に満たせないが,こうした親でも別の要求をもつ子どもや,同じ子どもでも異なる状況の下ではうまくやっていける。

混合性FTT

混合性FTTでは器質性と非器質性の原因が重複している;器質性疾患を有する小児が,不安定な環境に置かれるか,親子関係の問題を併せもつ場合である。同様に,非器質性FTTによる重度の低栄養を呈する小児には,器質性の医学的問題が発生しうる。

診断

  • 体重の頻回なモニタリング

  • 病歴,家族歴,社会歴の詳細な聴取

  • 食事歴

  • 臨床検査

小児の器質性FTTは,基礎疾患次第で,どの年齢でも起こりうる。非器質性FTT児の大半は,1歳までに発育不全を示し,多くは生後6カ月までに明らかになる。WHOおよびCDCが推奨している標準成長および成長曲線などの上に,年齢に対する体重,身長,頭囲をプロットすべきである。(0~2歳の場合,WHO Growth Chartsを参照;2歳以上の場合,CDC Growth Chartsを参照のこと)。早産児では2歳に達するまで,年齢は在胎期間で補正するべきである。

体重は,栄養状態に関する最も感度の高い指標である。FTTが不十分なカロリー摂取による場合は,身長に先立ち体重がベースラインのパーセンタイルから低下する。直線的発育速度の低下は,通常は重度で長期にわたる低栄養を意味する。身長と体重が同時に低下する場合は,原発性発育障害または長期の炎症状態が示唆される。脳はタンパク質-エネルギー低栄養の影響を選択的に免れるため,頭囲の発育速度の低下は遅れて生じ,極めて重度かまたは長期にわたる低栄養を意味する。低体重児は同年代の小児に比べ小さくかつ低身長で,むずかりまたは啼泣,嗜眠または眠気,および便秘を呈することがある。FTTは運動発達遅滞(例,座る,歩く),社会的発達遅滞(例,相互作用,学習),およびより年長で起こった場合は思春期遅発に関連している。

発育不全が認められた場合,通常は病歴聴取(食事歴を含む― see table 発育不良の病歴聴取における必須項目)を行い,食事指導を行った上で,患児の体重を頻回にモニタリングする。外来での評価および介入にもかかわらず満足すべき体重増加が得られない場合,通常は入院させ,必要な全ての観察および診断検査を速やかに実施できるようにする。

発育不全の特異的な病因を示す証拠が病歴からも身体診察からも認められない場合,単独で器質性FTTと非器質性FTTを鑑別できる信頼性のある臨床的特徴もしくは検査は存在しない。小児は器質性と非器質性両方のFTTを有することがあるため,医師は基礎となる身体的な問題と,心理社会的原因を裏付ける患児個人,家族,患児と家族の関係に関する特徴の双方を,同時に調査する必要がある。医師,看護師,ソーシャルワーカー,栄養士,小児発達の専門家,そしてしばしば精神科医や心理士を含む集学的体制での評価が理想的である。入院下または外来のどちらの状況であっても,医療従事者を前にした患児の摂食行動と,親を前にした摂食行動を観察する必要がある。

親と協力して原因究明に当たることが不可欠である。このことは,親の自尊心を育てるとともに,我が子を育てられないことですでに挫折感や罪悪感を抱いている親への非難を回避するのに役立つ。家族には,可能な限り頻繁にそして長時間,訪れるように奨励する。スタッフは,親が歓迎されていると感じるようにさせ,哺乳の試みを支援し,親子の遊びや関係を深める玩具やアイデアを提供すべきである。

親としての適格性と責任感は評価すべきである。ネグレクトや虐待が疑われる場合は社会福祉機関に報告する義務があるが,多くの場合,援助や教育に関する家族のニーズ(例,食品割引券の追加発行,利用しやすい保育サービス,育児教室)への対応を目的とした,予防サービス機関への紹介の方が適切である。

入院中は,患児のその環境における他者との関わりを注意深く観察し,自己刺激的行動(例,体を揺らす,頭を叩きつける)を示す証拠に注意を払う。一部の非器質性FTTの患児は,人との密接なかかわりに非常に用心深く慎重であるといわれ,たとえ人との相互作用があったとしても,無生物とのかかわりの方を好むとされている。非器質性FTTの場合,虐待的育児よりもむしろネグレクトとの関係が深いが,虐待の証拠がないか否かも綿密に調査すべきである。発達水準のスクリーニング検査を行うべきであり,適応があればより詳細な評価を行う。適切な授乳技術,人工乳調製,およびカロリー量により体重が良好に増加し始める入院児は,非器質性FTTである可能性が高い。

表&コラム

検査:

広範囲の臨床検査を行っても通常は成果は得られない。徹底的な病歴聴取や身体診察により原因が特定されない場合,ほとんどの専門家は以下のスクリーニング検査に留めることを推奨している:

  • 血算と白血球分画

  • 赤沈

  • BUN,血清クレアチニン,電解質

  • 尿検査(濃縮能と酸性化能を含む)および尿培養

  • 便のpH,還元性物質,臭い,色,粘稠度,および脂肪含有量

その地域社会における特定の疾患の有病率によっては,血中鉛濃度,HIV,または結核の検査が必要となりうる。

ときに適切なその他の検査としては,サイロキシン(T4)値(体重増加より身長の伸びの障害がより重度の場合または身長と体重が同時に低下した場合[この場合は成長ホルモン欠損も疑うべきである]),および汗試験などが挙げられる。現在では新生児スクリーニング検査で嚢胞性線維症を評価するが,児に反復性の上下気道疾患の病歴,異常な食欲,腐敗臭のする多量の便,肝腫大,または嚢胞性線維症の家族歴がある場合は汗試験を行うべきである。他の遺伝性疾患の所見があるか新生児スクリーニング検査の結果を調べるべきである。

感染性疾患の検査は感染所見(例,発熱,嘔吐,咳嗽,下痢)のある小児にのみ行うべきであるが,尿路感染症(UTI)によるFTTの小児には他の症状と徴候がないこともあるため,尿培養が役立つ可能性がある。

放射線検査は,解剖学的または機能的病態の所見がみられる小児にのみ行うべきである(例,幽門狭窄症,胃食道逆流症)。ただし,内分泌系の原因が疑われる場合は,ときに骨年齢が測定される。

予後

器質性FTTの予後はその原因に依存する。

非器質性FTTでは,1歳以上の患児の大多数は3パーセンタイルを上回る安定した体重に達する。1歳前にFTTが発生した小児は認知機能,特に言語および数学的技能の遅れのリスクが高い。出生後の脳発育速度が最大である生後6カ月未満で診断された小児は最もリスクが高い。教師や精神医療従事者が気づくような一般的な行動上の問題が小児の約50%に発生する。特に摂食(例,偏食,遅い)または排泄に関連した問題が同程度の頻度で発生する傾向にあるが,そのような問題を有する患児では,その他の行動面またはパーソナリティ面に異常があるのが通常である。

治療

  • 十分な栄養

  • 基礎疾患の治療

  • 長期的な社会的支援

発育不全の治療は,満足のいく成長を促進するための健康面および環境面のリソースを提供することを目的とする。成長の遅れを取り戻すのに必要なカロリー(正常なカロリー必要量の約150%)を含む栄養食,および個々の患児に応じた医学的・社会的支援が通常は必要である。入院中に体重増加がみられても,非器質性FTTの乳児を器質性FTTの乳児と常に鑑別できるとは限らず,十分な栄養が与えられれば全ての小児が成長する。しかしながら,一部の非器質性FTTでは,入院中に体重減少がみられることがあり,この疾患の複雑さを浮き彫りにする。

器質性または混合性FTT児では,基礎疾患を速やかに治療すべきである。明らかな非器質性FTTまたは混合性FTT児では,親子関係に支障を来す問題を是正するため,教育や情緒的支援の提供を治療に取り入れる。長期的な社会的支援や精神医学的治療がしばしば必要となるため,評価チームができることは家族のニーズを見定め,初期の指導と支援を提供し,公共機関への適切な紹介を行うのみである場合もある。親はなぜ紹介されているのかを理解すべきであり,選択肢がある場合は,対象となる機関選定の決定に参加すべきである。患児を三次医療機関に入院させる場合は,地域の行政当局やその地域社会で利用できる専門的医療のレベルについて,紹介担当医師は相談に応じる必要がある。

病院職員,以後のフォローアップのサービスを提供する地域機関の代表者,主治医が会議を行い,事前に退院計画を相談しておくのが理想的である。責任と義務の範囲を明確にし,できれば文書にして,関係者全員に配布する。会議後,簡単な打ち合わせに親を招くべきであり,それにより彼らは地域のソーシャルワーカーと顔を合わせ,質問し,フォローアップの予約を取ることが可能となる。

場合によっては患児をフォスターケアに委ねる必要がある。最終的に小児が血のつながった親の元へ帰る予定であれば,育児技能訓練と精神的カウンセリングを行う必要がある。小児の発達は綿密にモニタリングされなければならない。血のつながった親の元に戻す際の判断は,経過した時間だけでなく,親が十分な育児能力を示しているかどうかに基づくべきである。

要点

  • 成長パラメータのパーセンタイル順位が著しく降下した,あるいは常に低順位(例,3~5パーセンタイル未満)である小児には発育不良(FTT)を疑うべきである。

  • 器質性FTTは医学的疾患(例,吸収不良,先天性代謝異常)によるものである。

  • 非器質性FTTは心理社会的問題(例,ネグレクト,貧困)によるものである。

  • 詳細な病歴,社会歴,および食事歴の聴取のほか,医療従事者は親/養育者の小児への食事の与え方を観察すべきである。

  • 小児を評価し,適切な授乳への反応を観察し,必要であれば授乳を支援するチームを関与させるため入院が必要なこともある。

より詳細な情報

  1. 0~2歳の場合,WHO Growth Charts

  2. 2歳以上の場合,CDC Growth Charts

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