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妊娠中の肝疾患

執筆者:

Lara A. Friel

, MD, PhD, University of Texas Health Medical School at Houston, McGovern Medical School

レビュー/改訂 2021年 10月
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妊娠中の肝疾患は以下の可能性がある:

  • 妊娠に特有

  • 既存

  • 妊娠と同時に生じ,おそらく妊娠により増悪

黄疸

黄疸の産科以外の原因としては以下のものがある:

胆石は妊娠中の方がよくみられるようであるが,おそらく胆汁の胆石形成性が増大し,胆嚢収縮性が障害されるためであろう。

黄疸の産科的原因としては以下のものがある:

どちらも肝細胞傷害および溶血の原因となる。

急性ウイルス性肝炎

妊娠中にみられる黄疸の最も一般的な原因は, 急性ウイルス性肝炎 急性ウイルス性肝炎の概要 急性ウイルス性肝炎は,多様な伝播様式と疫学的性質を有する一群の肝親和性ウイルスによって引き起こされる,肝臓のびまん性炎症である。ウイルス感染による非特異的な前駆症状に続いて,食欲不振,悪心,しばしば発熱または右上腹部痛がみられる。黄疸がしばしばがみられ,典型的には他の症状が消失し始める頃に発生する。ほとんどの症例で自然消失するが,慢性肝炎に進行する場合もある。ときに,急性ウイルス性肝炎から急性肝不全に進行する(劇症肝炎を示唆する)。診断... さらに読む である。妊娠は大半の病型のウイルス性肝炎の経過に影響を及ぼさないが(A型,B型,C型,D型), E型肝炎 E型肝炎 E型肝炎は,糞口感染で伝播するRNAウイルスにより引き起こされる疾患であり,食欲不振,倦怠感,黄疸などウイルス性肝炎の典型的な症状を引き起こす。妊娠中を除き,劇症肝炎や死亡はまれである。診断は抗体検査による。治療は,慢性感染症が慢性化しない限り,支持療法である。 ( 肝炎の原因および 急性ウイルス性肝炎の概要も参照のこと。) E型肝炎ウイルス(HEV)には4つのゲノタイプが存在する。いずれのゲノタイプも急性ウイルス性肝炎を引き起こす可能... さらに読む は妊娠中に重症化することがある。

急性ウイルス性肝炎は早産の原因となりうるが,催奇形性はないと考えられる。

B型肝炎 B型肝炎,急性 B型肝炎は,しばしば血液感染するDNAウイルスによって引き起こされる。食欲不振,倦怠感,黄疸など,ウイルス性肝炎の典型症状がみられる。劇症肝炎や死に至ることがある。慢性肝炎は肝硬変および/または肝細胞癌につながる可能性がある。診断は血清学的検査による。治療は支持療法である。ワクチン接種で予防可能であり,曝露後もB型肝炎免疫グロブリンを使用することで発症を予防できるか,臨床症状を軽減することができる。... さらに読む ウイルスは分娩直後に新生児に,または頻度は少ないが経胎盤的に胎児に感染する可能性がある。女性がB型肝炎のE抗原陽性および表面抗原(HBs抗原)の慢性キャリア,または第3トリメスターで肝炎に感染した場合に特に感染する可能性が高い。感染した新生児は臨床的な肝炎を発症するよりも,無症状の肝機能障害を来しキャリアとなる可能性が高い。全ての妊婦でHBs抗原を検査し,垂直感染に対する予防が必要か否かを判断する(B型肝炎ウイルスに曝露した新生児に対する免疫グロブリンおよびワクチン接種による 出生前予防 予防 新生児B型肝炎ウイルス感染症は通常,分娩時の感染によって発生する。通常は無症状であるが,小児期後期または成人期には慢性の不顕性疾患を引き起こすことがある。症候性感染では,黄疸,嗜眠,発育不良,腹部膨隆,および粘土色の便がみられる。診断は血清学的検査による。まれに重症の場合,急性肝不全を起こして,肝移植が必要となることがある。それほど重症でない場合は対症的に治療する。能動および受動免疫が垂直感染の予防に役立つ。... さらに読む )。

慢性肝炎

慢性肝炎 慢性肝炎の概要 慢性肝炎は肝炎が6カ月以上続く場合をいう。一般的な原因としては,B型およびC型肝炎ウイルス,非アルコール性脂肪肝炎(NASH),アルコール性肝疾患,自己免疫性肝疾患(自己免疫性肝炎)などがある。多くの患者では急性肝炎の病歴がなく,最初の徴候は無症候性のアミノトランスフェラーゼ高値である。受診時から肝硬変やその合併症(例,門脈圧亢進症)がみられる場合もある。確定診断とグレードおよび病期の判定のために,ときに生検が必要となる。治療は合併症と... さらに読む (特に肝硬変を伴った)により妊孕性が損なわれる。妊娠した場合, 自然流産 自然流産 自然流産は,妊娠20週より前に起きる,誘発によらない胎芽もしくは胎児の死亡,または受胎産物の排出である。切迫流産は,この時期に起こる頸管開大を伴わない性器出血で,生存可能な胎児の子宮内妊娠が確認された女性において自然流産が起こる可能性を示唆するものである。診断は臨床基準および超音波検査による。治療は通常,切迫流産に対しては待機的観察であり,自然流産が生じた,または不可避と思われる場合は,観察または子宮内容除去術を行う。... さらに読む および 未熟児 早産児 在胎37週未満で出生した児は早産児とみなされる。 未熟性は出生時点での 在胎期間により定義される。かつては,体重2.5kg未満の新生児であればいずれも未熟児と呼ばれていた。早産児は小さい傾向にあるが,多くの体重2.5kg未満の乳児は成熟している場合や 過期産児および過熟児である場合,および 在胎不当過小である場合もあるため,この体重に基づいた定義は不適切である;このような新生児は外観も異なれば,抱える問題も異なる。... さらに読む のリスクが増大するが,母体死亡のリスクは増大しない。

標準的な免疫学的予防にもかかわらず,ウイルス量の多い女性から生まれた多くの新生児はB型肝炎ウイルスに感染している。データは第3トリメスターに抗ウイルス薬を投与することで免疫学的予防の失敗を防ぐ可能性があることを示唆している。女性が進行した肝炎をもつ場合,または肝臓の代償不全のリスクがある場合にのみ抗ウイルス薬を使用することで,胎児への曝露を最小限にすべきである。ラミブジン,テルビブジン(telbivudine),またはテノホビルが最も頻用される。

妊娠前に慢性自己免疫性肝炎の治療のために使われたコルチコステロイドは,コルチコステロイドによる胎児リスクが母体の慢性肝炎によるリスクを超えることが証明されていないため,妊娠中も継続できる。アザチオプリンおよび他の免疫抑制薬は,胎児へのリスクがあるにもかかわらず,重度の疾患に適応となることがある。

妊娠中の肝内胆汁うっ滞(そう痒)

比較的よくみられるこの疾患は,ホルモン変化による正常な胆汁うっ滞の特異体質性増悪により生じるようである。民族により発生頻度は異なり,ボリビアとチリで最も高い。

妊娠中の肝内胆汁うっ滞の結果として,以下のリスクが上昇することがある:

最も初期の症状である激しいそう痒は,第2,または第3トリメスターに出現する;暗色尿と黄疸がそれに続くこともある。急性疼痛および全身症状はない。肝内胆汁うっ滞は通常分娩後に消失するが,妊娠するたびに,または経口避妊薬の服用時に再発する傾向がある。

肝内胆汁うっ滞は症状に基づいて疑われる。最も感度が高く特異的な臨床検査所見は,空腹時血清総胆汁酸値 > 10mmol/Lである。この所見が存在する唯一の生化学的異常であることがある。空腹時総胆汁酸値が > 40mmol/Lの場合には胎児死亡が起こる可能性がより高い。

ウルソデオキシコール酸(UDCA)5mg/kg,経口,1日2回または1日3回(または最大7.5mg/kg,1日2回)が選択すべき薬剤である。これは症状の重症度を緩和し,肝機能の生化学的マーカーを正常化させるのに役立つが,胎児合併症の発生頻度を減少させる効果はない。根治的治療は胎児の娩出である。

妊娠脂肪肝

病態がほとんど解明されていない,このまれな疾患は,妊娠満期近くに発生し,ときに 妊娠高血圧腎症 妊娠高血圧腎症および子癇 妊娠高血圧腎症は妊娠20週以降の新規発症の高血圧または既存の高血圧の悪化で,タンパク尿を伴うものである。子癇は妊娠高血圧腎症の患者における原因不明の全身痙攣である。診断は臨床的に行い,尿タンパク測定による。治療は通常,硫酸マグネシウム静注および満期での分娩である。 妊娠高血圧腎症は妊婦の3~7%に生じる。妊娠高血圧腎症および子癇は妊娠20週以降に発生する;最大25%の症例は分娩後に発生し,最も頻繁には初めの4日間に起こるが,ときに分娩後... さらに読む を伴う。患者にはミトコンドリア脂肪酸β酸化(骨格筋および心筋にエネルギーを供給する)に遺伝的異常がみられることがあり,長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)に影響を及ぼす変異,特に1つまたは両方のアレルにG1528Cの変異(常染色体遺伝)を有する女性では妊娠脂肪肝のリスクは20倍高くなる。

脂肪肝の症状としては,急性悪心,嘔吐,腹部不快感,黄疸などがあり,重症例では後に急速に進行する肝細胞不全が生じる。重症例では母体および胎児の死亡率が高い。

高用量のテトラサイクリン系薬剤が静注された場合に,妊娠の段階にかかわらず,見かけ上同一の障害が発生することがある。

臨床所見および検査所見は,アミノトランスフェラーゼ値が500単位/L未満であること,および高尿酸血症が存在する場合があることを除いて,ウイルス性劇症肝炎に類似する。

妊娠脂肪肝の診断は,以下に基づいて行う:

  • 臨床診断基準

  • 肝機能検査

  • 肝炎の血清学的検査

  • 肝生検

生検では,肝細胞中にびまん性の小脂肪滴が示されるが(通常,一見して壊死は微小である),所見がウイルス性肝炎と区別できない症例もある。

罹患した女性とその乳児は,LCHADの既知の遺伝子多型を検出する検査を受けるべきである。

妊娠週数に応じて,通常は早急の分娩または人工中絶が勧められるが,それらが母体の転帰を変えるかどうかは明らかではない。生存例では完全に回復し,再発することはない。

妊娠高血圧腎症

腹腔内出血を伴う被膜下血腫がときに生じ,HELLP症候群(溶血,肝酵素値上昇,および血小板数減少)に進行する妊娠高血圧腎症の妊婦で最も多く生じる。まれに血腫が肝の自然破裂の原因となる;肝破裂は生命を脅かし,発生機序は不明である。

慢性肝疾患

要点

  • 妊婦の肝疾患は妊娠に関連していることも,無関連のこともある。

  • 妊娠中にみられる黄疸の最も一般的な原因は,急性ウイルス性肝炎である。

  • 妊娠は大半の病型のウイルス性肝炎の経過に影響を及ぼさないが(A型,B型,C型,D型),E型肝炎は妊娠中に重症化することがある。

  • B型肝炎ウイルスは分娩直後に新生児に,または頻度は少ないが経胎盤的に胎児に感染する可能性がある;全ての妊婦でHBs抗原を検査し,垂直感染に対する予防が必要か否かを判断する。

  • 妊娠中の肝内胆汁うっ滞は激しいそう痒を引き起こし,胎児の未熟性,死産,および呼吸窮迫症候群のリスクが上昇する。

  • 妊娠脂肪肝は妊娠満期近くに発生し,ときに妊娠高血圧腎症を伴う;重症例では母体および胎児の死亡率が高くなることがあるため,通常は早急の分娩または人工中絶が勧められる。

  • 通常,妊娠は慢性肝疾患の女性に害とならない。

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