妊娠中の肝疾患

執筆者:Lara A. Friel, MD, PhD, University of Texas Health Medical School at Houston, McGovern Medical School
Reviewed ByOluwatosin Goje, MD, MSCR, Cleveland Clinic, Lerner College of Medicine of Case Western Reserve University
レビュー/改訂 2023年 9月 | 修正済み 2024年 3月
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妊娠中の肝疾患は以下の可能性がある:

  • 妊娠に特有

  • 既存

  • 妊娠と同時に生じ,おそらく妊娠により増悪

黄疸

黄疸は,産科以外の病態によって起こることもあれば,産科の病態によって起こることもある。

黄疸の産科以外の原因としては以下のものがある:

胆石は妊娠中の方がよくみられるようであるが,おそらく胆汁の胆石形成性が増大し,胆嚢収縮性が障害されるためであろう。

黄疸の産科的原因としては以下のものがある:

どちらも肝細胞傷害および溶血の原因となる。

急性ウイルス性肝炎

妊娠中にみられる黄疸の最も一般的な原因は,急性ウイルス性肝炎である。妊娠は大半の病型のウイルス性肝炎の経過に影響を及ぼさないが(A型,B型,C型,D型),E型肝炎は妊娠中に重症化することがある。

急性ウイルス性肝炎は早産の原因となりうるが,催奇形性はないと考えられる。

B型肝炎ウイルスは分娩直後に新生児に,または頻度は少ないが経胎盤的に胎児に感染する可能性がある。女性がB型肝炎のE抗原陽性および表面抗原(HBs抗原)の慢性キャリア,または第3トリメスターで肝炎に感染した場合に特に感染する可能性が高い。感染した新生児は臨床的な肝炎を発症するよりも,無症状の肝機能障害を来しキャリアとなる可能性が高い。全ての妊婦でHBs抗原を検査し,垂直感染に対する予防が必要か否かを判断する(B型肝炎ウイルスに曝露した新生児に対する免疫グロブリンおよびワクチン接種による出生前予防)。

慢性肝炎

慢性肝炎(特に肝硬変を伴った)により妊孕性が損なわれる。妊娠した場合,自然流産および未熟児のリスクが増大するが,母体死亡のリスクは増大しない。

標準的な免疫学的予防にもかかわらず,ウイルス量の多い女性から生まれた多くの新生児はB型肝炎ウイルスに感染している。データは第3トリメスターに抗ウイルス薬を投与することで免疫学的予防の失敗を防ぐ可能性があることを示唆している。女性が進行した肝炎をもつ場合,または肝臓の代償不全のリスクがある場合にのみ抗ウイルス薬を使用することで,胎児への曝露を最小限にすべきである。ラミブジン,テルビブジン(telbivudine),またはテノホビルが最も頻用される。

妊娠前に慢性自己免疫性肝炎の治療のために使われたコルチコステロイドは,コルチコステロイドによる胎児リスクが母体の慢性肝炎によるリスクを超えることが証明されていないため,妊娠中も継続できる。アザチオプリンおよび他の免疫抑制薬は,胎児へのリスクがあるにもかかわらず,重度の疾患に適応となることがある。

妊娠中の肝内胆汁うっ滞(そう痒)

比較的よくみられるこの疾患は,ホルモン変化による正常な胆汁うっ滞の特異体質性増悪により生じるようである。民族により発生頻度は異なり,ボリビアとチリで最も高い。

妊娠中の肝内胆汁うっ滞の結果として,以下のリスクが上昇することがある:

最も初期の症状である激しいそう痒は,第2,または第3トリメスターに出現する;暗色尿と黄疸がそれに続くこともある。急性疼痛および全身症状はない。肝内胆汁うっ滞は通常分娩後に消失するが,妊娠するたびに,または経口避妊薬の服用時に再発する傾向がある。

肝内胆汁うっ滞は症状に基づいて疑われる。最も感度が高く特異的な臨床検査所見は,空腹時血清総胆汁酸値 > 10mmol/Lである。この所見が存在する唯一の生化学的異常であることがある。空腹時総胆汁酸値が > 40mmol/Lの場合には胎児死亡が起こる可能性がより高い。

ウルソデオキシコール酸(UDCA)5mg/kg,経口,1日2回または1日3回(または最大7.5mg/kg,1日2回)が選択すべき薬剤である。これは症状の重症度を緩和し,肝機能の生化学的マーカーを正常化させるのに役立つが,胎児合併症の発生頻度を減少させる効果はない。根治的治療は胎児の娩出である。American College of Obstetricians and Gynecologists(ACOG)/Society for Maternal-Fetal Medicine(SMFM)は以下のことを推奨している(1):

  • 総胆汁酸値が100μmol/L未満の妊婦では,妊娠36~39週での分娩,または39週以降に診断された場合は診断時点での分娩

  • 総胆汁酸値が100μmol/L以上の妊婦では,妊娠36週での分娩,またはそれ以降に診断された場合は診断時点での分娩

妊娠脂肪肝

病態がほとんど解明されていない,このまれな疾患は,妊娠満期近くに発生し,ときに妊娠高血圧腎症を伴う。患者にはミトコンドリア脂肪酸β酸化(骨格筋および心筋にエネルギーを供給する)に遺伝性の異常がみられることがあり,長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(LCHAD)に影響を及ぼす変異,特に1つまたは両方のアレルにG1528Cの変異(常染色体遺伝)を有する女性では妊娠脂肪肝のリスクは20倍高くなる。

脂肪肝の症状としては,急性悪心,嘔吐,腹部不快感,黄疸などがあり,重症例では後に急速に進行する肝細胞不全が生じる。重症例では母体および胎児の死亡率が高い。

高用量のテトラサイクリン系薬剤が静注された場合に,妊娠の段階にかかわらず,見かけ上同一の障害が発生することがある。

臨床所見および検査所見は,アミノトランスフェラーゼ値が500単位/L未満であること,および高尿酸血症が存在する場合があることを除いて,ウイルス性劇症肝炎に類似する。

妊娠脂肪肝の診断は,以下に基づいて行う:

  • 臨床診断基準

  • 肝機能検査

  • 肝炎の血清学的検査

  • 肝生検

生検では,肝細胞中にびまん性の小脂肪滴が示されるが(通常,一見して壊死は微小である),所見がウイルス性肝炎と区別できない症例もある。

罹患した女性とその乳児は,LCHADの既知の遺伝子多型を検出する検査を受けるべきである。

妊娠週数に応じて,通常は早急の分娩または人工中絶が勧められるが,それらが母体の転帰を変えるかどうかは明らかではない。生存例では完全に回復し,再発することはない。

妊娠高血圧腎症

重度の妊娠高血圧腎症は肝フィブリン沈着,壊死,出血を伴う肝臓障害を引き起こし,腹痛,悪心,嘔吐,および軽度の黄疸を招くことがある。

腹腔内出血を伴う被膜下血腫がときに生じ,HELLP症候群(溶血,肝酵素高値,および血小板数低値)に進行する妊娠高血圧腎症の妊婦で最も多く生じる。まれに血腫が肝の自然破裂の原因となる;肝破裂は生命を脅かし,発生機序は不明である。

慢性肝疾患

妊娠は,原発性胆汁性肝硬変における胆汁うっ滞および他の慢性胆汁うっ滞性疾患を一時的に悪化させ,肝硬変を伴う妊婦では,第3トリメスターでの血漿量の増加により静脈瘤出血のリスクがわずかに上昇する。しかしながら,妊娠は通常,慢性肝疾患の女性に害とならない。

帝王切開は通常の産科的適応により実施される。

総論の参考文献

  1. 1.American College of Obstetricians and Gynecologists’ Committee on Obstetric Practice, Society for Maternal-Fetal Medicine.Medically Indicated Late-Preterm and Early-Term Deliveries: ACOG Committee Opinion, Number 831. Obstet Gynecol 138(1):e35-e39, 2021.doi:10.1097/AOG.0000000000004447

要点

  • 妊婦の肝疾患は妊娠に関連していることも,無関連のこともある。

  • 妊娠中にみられる黄疸の最も一般的な原因は,急性ウイルス性肝炎である。

  • 妊娠は大半の病型のウイルス性肝炎の経過に影響を及ぼさないが(A型,B型,C型,D型),E型肝炎は妊娠中に重症化することがある。

  • B型肝炎ウイルスは分娩直後に新生児に,または頻度は少ないが経胎盤的に胎児に感染する可能性がある;全ての妊婦でHBs抗原を検査し,垂直感染に対する予防が必要か否かを判断する。

  • 妊娠中の肝内胆汁うっ滞は激しいそう痒を引き起こし,胎児の未熟性,死産,および呼吸窮迫症候群のリスクが上昇する。

  • 妊娠脂肪肝は妊娠満期近くに発生し,ときに妊娠高血圧腎症を伴う;重症例では母体および胎児の死亡率が高くなることがあるため,通常は早急の分娩または人工中絶が勧められる。

  • 通常,妊娠は慢性肝疾患の女性に害とならない。

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