がんの免疫療法

執筆者:Dmitry Gabrilovich, MD, PhD, Department of Pathology and Laboratory Medicine, Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania
レビュー/改訂 2020年 11月
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いくつかの免疫学的介入により,受動免疫および能動免疫の両方で腫瘍細胞を標的とすることができる。(免疫療法薬も参照のこと。)

細胞性免疫を利用する受動免疫療法

細胞性免疫を利用する受動免疫療法は,特異的なエフェクター細胞を患者の体内に直接注入する治療法であり,体内での誘導は起きない。

リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞は,患者の内因性T細胞から作製されるもので,患者からT細胞を採取して,細胞培養系でリンホカインのインターロイキン2(IL-2)に曝露させることにより増殖させる。その後,増殖したLAK細胞を患者の血流に戻す。LAK細胞は本来の内因性T細胞よりがん細胞に対する有効性が高いことが動物試験で明らかにされており,これは,その数が多いためとされている。ヒトを対象としたLAK細胞の臨床試験が進行中である。

腫瘍浸潤リンパ球(TIL)は,LAK細胞よりも殺腫瘍活性が高い可能性がある。これらの細胞は,LAK細胞と同様の方法により,培養において増殖させる。ただし,その前駆細胞は,切除した腫瘍組織から単離されたT細胞から構成される。理論的には,このプロセスにより,血流から採取する場合より腫瘍特異性が高い系統のT細胞が得られる。最近の臨床研究で非常に有望な結果が示されている。

遺伝子改変T細胞は以下の物質を発現する:

  • 腫瘍細胞に対して高い特異性を有する腫瘍関連抗原(TAA)を認識するT細胞受容体(TCR):このアプローチは研究段階にあるが,著しい臨床的効果が得られる可能性がある。初期の試験成績は有望である。

  • 腫瘍細胞の表面上に発現している特異的なタンパク質を認識するキメラ抗原受容体(CAR)。CAR-T細胞は現在,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫,高悪性度B細胞リンパ腫,および再発または難治性急性リンパ芽球性白血病の患者に使用されている。

TCR発現T細胞とは対照的に,CAR発現T細胞は腫瘍細胞上の比較的大きなタンパク質だけを認識する。したがって,CAR発現T細胞とTCR発現T細胞はがん治療における相互補完的なアプローチとなりうる。

インターフェロンを併用することで,腫瘍細胞上の主要組織適合抗原複合体(MHC)抗原およびTAAの発現が高まり,これにより,注入されたエフェクター細胞の殺腫瘍細胞能が高められる。

液性免疫を利用する受動免疫療法

液性免疫を利用する受動免疫療法は,外因性抗体の投与による。慢性リンパ性白血病に加え,T細胞およびB細胞リンパ腫の治療で抗リンパ球血清が使用され,リンパ球数またはリンパ節の大きさが一時的に減少するという結果が認められている。

腫瘍に対するモノクローナル抗体を毒素(例,リシン,ジフテリア)または放射性同位元素と結合させることにより,それらの毒性物質を腫瘍細胞へ特異的に送達することも可能である。別の手法として,二重特異性抗体,つまり腫瘍細胞と反応する1つの抗体と細胞傷害性エフェクター細胞と反応する第2の抗体を結合させたものがある。この手法は,腫瘍細胞のすぐ対面にエフェクター細胞をおくことで殺腫瘍活性を高めるものである。前臨床試験の結果は有望であり,これらの分子のいくつかは臨床試験の段階にある。

能動特異免疫療法

宿主における細胞性免疫の誘導(細胞傷害性T細胞が関与)では,自然に効果的な反応を生じることができなかったため,一般に宿主のエフェクター細胞に対して腫瘍抗原の提示を増強する方法が用いられる。特異的で十分に確立された抗原に対して細胞性免疫が誘導可能である。宿主応答を刺激するために,いくつかの技術が使用できる;このような技術の1つとして,ペプチド,DNA,または腫瘍細胞(宿主または他の患者から)が投与されることがある。ペプチドおよびDNAは,直接的に,電気穿孔法を用いるかアジュバントとともに注射するなどして経皮的に,または抗原提示細胞(樹状細胞)を用いて間接的に送達できる。このような樹状細胞は,付加的な免疫応答刺激物質(例,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子[GM-CSF])を分泌するように遺伝子操作されることもある。

ペプチドベースワクチンでは,確定したTAAからのペプチドを使用する。がん患者でT細胞の標的として同定されたTAAが増加しており,臨床試験で検討されている。最近のデータでは,樹状細胞を用いてTAAを届けた場合の応答が最も強力なことが示されている。これらの細胞を患者から採取し,望ましいTAAを付加した後に皮膚内に再注入する;それにより,内因性T細胞をTAAに反応するように刺激する。このペプチドは,免疫原性を有するアジュバントとの併用投与により届けることも可能である。

DNAワクチンでは,特異的な[確定した]抗原性タンパク質をコードした組換えDNAを使用する。DNAは,経皮的な電気穿孔法で直接送達するか,ウイルスに組み込んで患者に直接注入するか,患者から採取した樹状細胞に導入してそれを再び患者へ注入する。このDNAにより,標的となる抗原が発現し,患者の免疫応答を誘発したり,増強したりする。DNAワクチンの臨床試験では有望な結果が示されている。

自己腫瘍細胞(患者から採取した細胞)をex vivo技法(例,放射線照射,ノイラミニダーゼ処理,ハプテン結合,他の細胞系とのハイブリダイゼーション)を用いて悪性度を低減するとともに,抗原活性を高めた上で患者に再注入する。ときに,腫瘍細胞が免疫刺激分子(GM-CSFやインターロイキン2[IL-2]などのサイトカイン,B7-1などの共刺激分子,および同種MHCクラスI分子を含む)を産生するように遺伝子操作することもあり,この操作によって,エフェクター分子の誘引を助け,全身的な腫瘍標的化を強化している。GM-CSF修飾腫瘍細胞を用いた臨床試験では,有望な予備結果が得られている。

同種腫瘍細胞(他の患者から採取した細胞)が急性リンパ性白血病および急性骨髄性白血病の患者に使用されている。強力な化学療法および放射線療法により寛解へ誘導される。次に,遺伝的または化学的に操作して免疫原性を高めた同種腫瘍細胞に放射線を照射し,患者に注入する。ときには,腫瘍に対する免疫応答の増強を目的として,BCG(カルメット-ゲラン桿菌)ワクチンまたはその他のアジュバントを投与することもある(非特異的免疫療法と呼ばれる治療アプローチ)。寛解の延長または再寛解導入率の改善が一部の研究で報告されているが,ほとんどの研究では否定されている。

免疫療法と従来の化学療法を併用したがん治療への新規アプローチでは,様々ながん,ワクチンの種類,および化学療法を対象とした非ランダム化第I相および第II相臨床試験で,ある程度の成功が(歴史的対照と比較して)示されている。転移性の扁平上皮非小細胞肺癌に対する一次治療として,免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブ(下記参照)が化学療法と併用されている。トリプルネガティブ乳癌患者に対する治療として,免疫チェックポイント阻害薬のアテゾリズマブを化学療法と併用することができる。

免疫療法と分子標的薬による免疫応答の阻害

免疫チェックポイント阻害薬は,自然な免疫応答の阻害に関与する分子を標的とする抗体薬である。そのような標的分子としては以下のものがある:

  • CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4)

  • PD1(programmed cell death protein 1),PD-L1(programmed cell death ligand 1),およびPD-L2(programmed cell death ligand 2)

  • その他

CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4)は,抗原提示細胞(APC)によって誘発されるCD4陽性およびCD8陽性T細胞の活性化を抑制することができる。その機序は,CTL4のCD80およびCD86(共刺激分子)に対する親和性がAPC上の共刺激受容体であるCD28よりも高いことである可能性がある。CTLA-4は,T細胞受容体の活性化により,またインターフェロンγやインターロイキン12などのサイトカインによってもアップレギュレートされる。CTLA-4阻害薬であるイピリムマブは,転移性黒色腫において生存期間を延長し,高リスク黒色腫のアジュバント療法としてインターフェロンの代わりに使用できる。別のCTLA-4阻害薬であるトレメリムマブは,中皮腫およびその他の腫瘍を対象として研究されている。

PD-1,PD-L1,およびPD-L2阻害薬は,PD-1とPD-L1またはPD-L2との相互作用によって誘発される特定の免疫抑制作用を相殺することができる。PD-1はT細胞,B細胞,ナチュラルキラー(NK)細胞,その他の細胞(例,単球,樹状細胞)の表面に発現している。PD-L1(多くの腫瘍細胞,造血細胞,その他の細胞の表面に発現)およびPD-L2(主に造血細胞の表面に発現)と結合する。この結合により,腫瘍細胞のアポトーシスが阻害され,T細胞の疲弊と,細胞傷害性T細胞およびヘルパーT細胞の制御性T細胞への転換が促進される。PD-1およびPD-L1/2は,腫瘍内微小環境に存在するインターロイキン12やインターフェロンγなどのサイトカインによってアップレギュレートされ,T細胞の活性化と腫瘍細胞の認識を阻害する。ニボルマブおよびペムブロリズマブは,IgG4抗体のPD-1阻害薬であり,T細胞の活性化と腫瘍への浸潤を増強し,転移性黒色腫非小細胞肺癌頭頸部扁平上皮癌腎癌膀胱癌,およびホジキンリンパ腫において生存期間を延長する。その他のがんの治療におけるこれらの薬剤の使用に関して,臨床試験が継続されている。

その他の研究中の分子標的薬は,概して早期の臨床開発段階にある。例としては,BTLA(B and T cell lymphocyte attenuator;サイトカインの産生とCD4陽性細胞の増殖を減少させる),LAG3(lymphocyte activator gene 3;制御性T細胞の活性を増強する),TIM-3(T cell immunoglobulin and mucin domain 3;Th1細胞を死滅させる),およびVISTA(V-domain Ig suppressor of T cell activation;これを阻害すると腫瘍のT細胞活性が増強される)などがある。近年,このような分子のいくつかをまとめて標的とする二重特異性抗体が開発されており,現在臨床試験で検討されている。

免疫チェックポイント阻害薬の併用(例,転移性黒色腫または進行腎細胞癌に対するCTLA-4およびPD-1の阻害)については,現在研究段階にある。臨床試験ではかなりの臨床的便益が実証されているが,単独治療よりも高い毒性を伴っている。

非特異的免疫療法

インターフェロン(IFN-α,IFN-β,IFN-γ)は,抗腫瘍活性および抗ウイルス活性を有する糖タンパク質である。インターフェロンは,投与量に応じて,細胞性免疫と液性免疫の機能を亢進または低下させる場合がある。また,造血幹細胞などの様々な細胞における分裂および特定の合成プロセスを阻害することもある。臨床試験により,有毛細胞白血病,慢性骨髄性白血病,骨髄増殖性腫瘍,AIDS関連カポジ肉腫非ホジキンリンパ腫多発性骨髄腫,および卵巣がんを含む様々な悪性腫瘍に対してインターフェロンが抗腫瘍活性を示すことが示されている。ただし,インターフェロンには,発熱,倦怠感,白血球減少症,脱毛,筋肉痛,認知機能への影響や抑うつ作用,不整脈,甲状腺機能低下症など,重大な有害作用が起こりうる。

特定の細菌性アジュバント(BCG[カルメット-ゲラン桿菌]およびその誘導体,Corynebacterium parvumの滅菌懸濁液)は,殺腫瘍特性を有する。これらは,腫瘍抗原の添加または無添加にかかわらず,通常は強力な化学療法または放射線療法と併用して様々ながんの治療に用いられている。例えば,がん組織にBCGを直接注入することで,黒色腫の退縮と表在性膀胱癌の無病期間の延長が認められているほか,急性骨髄性白血病卵巣がん,および非ホジキンリンパ腫において,薬剤による寛解期間の延長に役立つ可能性がある。

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