環境性肺疾患は,塵埃,アレルゲン,化学物質,ガス,または環境汚染物質などを吸入することで生じる。肺は絶えず外部環境に曝され,様々な環境負荷の影響を受けやすい。病理学的プロセスには,以下の肺の部位が関与する:
気道(例, 職業性喘息 職業性喘息 職業性喘息は可逆性の気道閉塞であり,職場における数カ月から数年のアレルゲンへの感作を経て発症する。症状は,呼吸困難,喘鳴,咳嗽であり,ときに上気道のアレルギー症状がみられる。診断は職業歴に基づき,従事している活動,職場におけるアレルゲン,仕事と症状との時間的関連の評価などを行う。アレルゲンの皮膚テストおよび吸入誘発試験は専門施設で行われる... さらに読む , 反応性気道機能不全症候群 反応性気道機能不全症候群(reactive airways dysfunction syndrome[RADS])および刺激物質誘発性喘息 喘息は,様々な誘発刺激により引き起こされ,部分的または完全に可逆的な気管支収縮を生じさせる気道のびまん性炎症疾患である。症状および徴候には,呼吸困難,胸部圧迫感,咳嗽,および喘鳴などがある。診断は病歴,身体診察,および肺機能検査に基づく。治療には誘発因子の制御および薬物療法があり,吸入β2作動薬および吸入コルチコステロイドが最も多く用いら... さらに読む , 毒素の吸入 刺激性ガス吸入傷害 刺激性ガスとは,吸入されると気道粘膜内の液体に溶解し,通常酸性またはアルカリ性のラジカルの放出により炎症反応を引き起こすものである。刺激性ガスへの曝露は主に気道を侵し,気管炎,気管支炎,および細気管支炎を引き起こす。吸入により傷害を起こすその他の物質には,直接的に有害であるもの(例,... さらに読む , 大気汚染関連疾患 大気汚染関連疾患 先進国における大気汚染の主な要素は次のものである: 二酸化窒素(化石燃料の燃焼による) オゾン(日光が二酸化窒素と炭化水素に与える影響による) 浮遊粒子または液体粒子 硫黄酸化物 さらに読む , 綿肺症 綿肺症 綿肺症は,綿,亜麻,および麻の栽培および加工に携わる労働者に発生する気管支収縮を特徴とする 反応性気道疾患の1つの形態である。病因は綿塵に含まれる細菌性内毒素である。症状は胸部圧迫感および呼吸困難であり,週明けの仕事の初日に悪化し,週末に向けて軽減する。診断は病歴および肺機能検査所見に基づく。治療には曝露の回避および抗喘息薬の使用などがあ... さらに読む において)
肺実質(例, 塵肺症 炭坑夫塵肺症 炭坑夫塵肺症(coal workers’ pneumoconiosis)は石炭の粉塵の吸入が原因である。粉塵の蓄積により細気管支の周囲に粉塵を取り込んだマクロファージが集積し(炭粉斑[coal macule]),ときに局所的細気管支性肺気腫を引き起こす。炭坑夫塵肺症は通常無症状であるが,肺機能障害を伴う進行性広汎性線維化病変(progre... さらに読む , 過敏性肺炎 過敏性肺炎 過敏性肺炎は,環境性(しばしば職業性)抗原への感作および続発する過敏反応により引き起こされる咳嗽,呼吸困難,および疲労から成る症候群である。急性,亜急性,および慢性の形態が存在する;全てが急性の間質性炎症,ならびに長期曝露に伴う肉芽腫および線維化の発生を特徴とする。診断は病歴,身体診察,画像検査,気管支肺胞洗浄,および生検の組合せに基づく... さらに読む , 珪肺症 珪肺症 珪肺症は遊離結晶性シリカの塵の吸入により起こり,結節性の肺の線維化を特徴とする。慢性珪肺症は初期には無症状または軽い呼吸困難のみであるが,長年をかけて進行して肺の大部分を侵し,呼吸困難,低酸素血症,肺高血圧症,および呼吸器障害を引き起こすことがある。診断は病歴および胸部X線所見に基づく。効果的な治療は支持療法以外にはなく,重症例では肺移植... さらに読む において)
環境からの吸入曝露は,喘息(職業性喘息 職業性喘息 職業性喘息は可逆性の気道閉塞であり,職場における数カ月から数年のアレルゲンへの感作を経て発症する。症状は,呼吸困難,喘鳴,咳嗽であり,ときに上気道のアレルギー症状がみられる。診断は職業歴に基づき,従事している活動,職場におけるアレルゲン,仕事と症状との時間的関連の評価などを行う。アレルゲンの皮膚テストおよび吸入誘発試験は専門施設で行われる... さらに読む を参照)の危険因子として古くから知られているが,喫煙以外の COPD 慢性閉塞性肺疾患(COPD) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,毒素の吸入(しばしばタバコ煙)に対する炎症反応によって引き起こされる気流制限である。比較的まれな原因として,非喫煙者におけるα1-アンチトリプシン欠乏症および様々な職業曝露がある。症状は数年かけて発現する湿性咳嗽および呼吸困難であり,一般的な徴候には呼吸音の減少,呼気相の延長,および喘鳴などがある。重症例で... さらに読む (慢性閉塞性肺疾患)の原因として認識されることも多くなってきている。American Thoracic Societyは職業性および環境性曝露によるCOPDの人口寄与割合を約20%と見積もっている(すなわち,環境性曝露を0にまで削減すれば,COPDの発生率およびCOPDによる死亡率が約20%減少する)。
医師は,全ての患者から職業歴および生活環境歴を聴取すべきであり,蒸気,塵,ガス,煙,および/またはバイオマスの煙(すなわち,木材,動物の排泄物,作物の焼却による)への過去および現在の曝露状況について具体的に尋ねるべきである。肯定的な返答があれば,より詳細に尋ねる。
環境性肺疾患の予防
職業性および環境性肺疾患の予防は,曝露を減らすことが中心となる(一次予防)。曝露は以下を用いて制限できる:
管理運営的コントロール(例,有害な環境に曝される人数を制限する)
工学的コントロール(例,囲い込み,換気システム,安全な清浄化法)
製品の変更(例,より安全で毒性の低い物質を使用する)
呼吸用保護具(例,レスピレーターマスク,ガスマスク)
多くの臨床医は,レスピレーターマスクまたはその他の呼吸用保護具を使用していた患者は十分に保護されていたとの誤った考えをもつ。レスピレーターマスクは,特に新鮮な空気がタンクまたはエアホースにより供給されていた場合にある程度の保護にはなるが,その有効性は限定的であり人によって異なる。
レスピレーターマスクの使用を勧める場合には,臨床医はいくつかの要素を考慮すべきである。心血管疾患がある労働者の場合,もし自給式呼吸器(タンク)を装着しなければならないとしたら,激しい労働を要する仕事を行えない可能性がある。密着型の,フィルターカートリッジを通して空気を吸い込む必要があるレスピレーターマスクは,呼吸仕事量を増加させるため,喘息,COPD,または間質性肺疾患の患者では特に困難な場合がある。
人工呼吸器が推奨される場合,確実にフィットするよう,患者に合わせて呼吸マスクを毎年調整すべきである。
医学的サーベイランスは二次予防の1つの形態である。治療が長期的な影響の軽減に有用である可能性がある場合は,労働者に対して疾患の早期発見のための医学的検査を行うこともある。