乳児および小児におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症

執筆者:Geoffrey A. Weinberg, MD, Golisano Children’s Hospital
レビュー/改訂 2020年 7月
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ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,レトロウイルスの一種であるHIV-1により(また頻度は低くなるが近縁のレトロウイルスであるHIV-2によっても)引き起こされる。感染すると進行性の免疫機能低下が引き起こされ,日和見感染症や悪性腫瘍が発生するようになる。末期には後天性免疫不全症候群(AIDS)となる。診断は,生後18カ月以上の小児ではウイルス抗体によって,生後18カ月未満の小児では(ポリメラーゼ連鎖反応[PCR]検査などの)ウイルス核酸増幅検査によって行われる。治療は抗レトロウイルス薬の多剤併用による。

(成人については, See also page ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症

小児HIV感染症の全般的な自然経過と病態生理は成人のそれと同様であるが,感染形式,臨床像,および治療法は異なることが多い。HIV感染児には,社会的統合という特有の問題も存在する。

疫学

米国において,HIVは小児でもおそらく成人とほぼ同時期に出現していたと考えられるが,数年間にわたり臨床的に認識されるには至らなかった。これまでに,小児期および青年期早期の症例は約10,000例報告されているが,これは全症例の1%を占めるにすぎない。2018年には,13歳未満の小児で診断された新規症例は100例未満であった(1)。

米国のHIV感染児では,その95%以上が出生前または周産期の母から児への感染(垂直感染)である。残りの大部分(血友病またはその他の凝固障害の小児など)は,汚染血液または汚染血液製剤を投与された症例である。少数ではあるが性的虐待が原因の症例もある。米国での垂直感染率は,1991年の約25%(感染小児年間1600例以上)から2018年の1%以下(感染小児年間約100例のみ)へと有意に低下した。包括的な血清スクリーニングの導入,妊娠中および分娩時の両方における感染妊婦の治療,ならびに曝露した新生児への抗レトロウイルス薬短期予防投与によって,垂直感染は減少している。

しかしながら,周産期HIV感染の減少が見事に達成されたにもかかわらず,米国における青年および若年成人(13~24歳)のHIV感染者の総数は増加し続けている。この逆説的な増加については,周産期に感染した小児の生存数が増加したことと,それ以外の青年および若年成人(特に男性と性交する若年男性)で性感染による新規HIV感染例が増加したことの両方が原因である。男性間性交を行う若年男性でのHIV感染を減少させることが,垂直感染予防の継続と同様に,引き続き国内のHIV感染制御における重要な焦点である。

世界では,約170万人の小児がHIVに感染している(世界の全HIV症例の4%)。毎年,約160,000人の小児が新たに感染し(全新規感染例の9%),約100,000人の小児が死亡している。これらは疾患としては気の遠くなるような数字ではあるが,妊婦および小児に抗レトロウイルス療法(ART)を施行する新規プログラムのおかげで,新規小児感染および小児期死亡の年間総数は過去数年間で33~50%減少している(1)。それでも,感染した小児がARTを受ける頻度はいまだに成人ほど高くなく,垂直感染の阻止とHIV感染児の治療は,依然として世界の小児HIV医療における最も重要な2つの目標とされている。

HIVの伝播

妊娠中にARTを受けなかったHIV陽性の母親から生まれた乳児の感染リスクは,25%(範囲,13~39%)と推定されている。

垂直感染の危険因子としては以下のものがある:

  • 妊娠中または授乳中の抗体陽転(主要リスク)

  • 血漿ウイルスRNA濃度の高値(主要リスク)

  • 母体疾患の進行

  • 母体の末梢血CD4陽性T細胞数の低値

長時間の破水は,現在では重要な危険因子とは考えられていない。

有効陣痛発来前の帝王切開は母子感染のリスクを低下させる。しかしながら,母子感染のリスクを最も大きく低減できる方法が母親および新生児に対する多剤併用ART(通常,ジドブジン[ZDV]を含む)であることは明らかである( see page 予防)。ZDVの単剤療法により母子感染率は25%から約8%へ低下するが,現在の多剤併用ARTでは1%以下に低下する。

ヒトの母乳中では,細胞を含む画分と細胞を含まない画分の両方でHIVが検出されている。授乳による感染は,年間で母乳栄養児100人当たり約6人に発生する。全体で見た授乳を介した感染リスクの推定値は12~14%であり,これは授乳期間の違いを反映している。授乳を介した感染は,血漿ウイルスRNA濃度が高値の母親(例,妊娠中または授乳中に感染した女性)で最も多い。

疫学に関する参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: HIV Surveillance Report, 2018 (Updated).Vol.31.Published May 2020.Accessed 6/15/2020.

分類

HIV感染が引き起こす疾患は幅広いスペクトラムを形成するが,そのうち最も重症のものがAIDSである。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)が策定したかつての分類体系は,臨床的および免疫学的状態の悪化の進行度を定義したものである。多剤併用ARTが主流となった現在では,これらの臨床的および免疫学的カテゴリーの重要性は低下しつつある。多剤併用ARTが処方された通りに服用されれば,ほぼ必ず症状の軽減とCD4陽性T細胞数の増加が得られる。これらのカテゴリーは,臨床研究と13歳未満の小児における診断時の重症度の記載に最も有用である。13歳以上の青年および成人には,現在では新しい分類体系が使用されており,AIDS指標疾患(例,日和見感染症)が存在する場合を除き,単純にCD4陽性T細胞数が病期の主要要素とされている( see table 13歳未満のHIV感染児における臨床カテゴリー)。

13歳未満の小児における臨床カテゴリー see table 13歳未満のHIV感染児における臨床カテゴリー)は,頻度の高い特定の日和見感染症または悪性腫瘍の有無によって定義されている。臨床カテゴリー

  • N = 無症状

  • A = 軽度症候性

  • B = 中等度症候性

  • C = 重度症候性

13歳未満の小児における免疫カテゴリー(HIV感染症の病期) see table 13歳未満のHIV感染児における年齢相応のCD4陽性T細胞数の絶対値または全血球数に対する割合に基づく免疫学的カテゴリー(HIV感染症の病期))は,CD4陽性T細胞数(絶対数と総リンパ球数に対する割合)に基づく免疫抑制の程度を反映している:

  • 1 = 免疫抑制の徴候を認めない

  • 2 = 中等度の抑制

  • 3 = 重度の抑制

したがって,ステージB3と診断された小児は,中等度に進行した臨床症状を有し,かつ重度の易感染状態にあることになる。臨床および免疫カテゴリーは一方向性の階層で構成されており,一旦特定のレベルと判定したら,臨床的または免疫学的状態の改善に関係なく,より軽症のレベルに再判定することはできなくなる。

表&コラム
表&コラム

症状と徴候

無治療の小児における自然経過

周産期に感染した乳児は,多剤併用ARTが施行されない場合でも,通常は生後数カ月間にわたり無症状で経過する。発症年齢の中央値は約3歳であるが,適切なARTにより,5年間以上無症状の状態を維持し,成人期までの生存を期待できる場合もある。ART導入前の時代は,約10~15%の患児が急速に進行し,生後1年以内に発症して生後18~36カ月までに死亡していたが,それらの患児は子宮内で早期にHIVに感染したものと考えられていた。一方,大半の患児はおそらく分娩時またはその前後に感染したもので,進行はより緩徐である(ARTがルーチンに施行されるようになる前でも5年以上生存していた)。

ARTを受けない小児におけるHIV感染症の臨床像で特に頻度が高いものとしては,全身性リンパ節腫脹,肝腫大,脾腫,発育不良,口腔カンジダ症,中枢神経系疾患(進行性のこともある発達遅滞を含む),リンパ性間質性肺炎,反復性菌血症,日和見感染症,反復性の下痢,耳下腺炎,心筋症,肝炎,腎症,悪性腫瘍などがある。

小児におけるHIVの合併症

合併症が発生する場合,典型的には日和見感染症(およびまれに悪性腫瘍)がみられる。そのような感染は多剤併用ARTによって現在ではまれとなっており,主に未診断でART施行歴のない小児やARTのアドヒアランスが不良な小児に生じている。

日和見感染症が発生する場合,ニューモシスチス肺炎が最も頻度が高く,最も重篤で,死亡率が高い。ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎は生後4~6週という早い時期から発生することもあるが,多くは出生前または出生時に感染した生後3~6カ月の乳児に発生する。ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎を起こした乳児および児童では,安静時の呼吸困難,頻呼吸,酸素飽和度低下,乾性咳嗽,および発熱を伴う亜急性のびまん性肺炎を来すのが特徴的である(発症がより急性で劇症となる,HIV感染のない易感染状態の小児および成人とは対照的である)。

免疫抑制を来した患児でみられる他の日和見感染症としては,カンジダ(Candida)食道炎,播種性サイトメガロウイルス感染症,慢性または播種性の単純ヘルペスウイルス感染症および水痘帯状疱疹ウイルス感染症などがあり,より頻度の低いものとしては,結核菌(Mycobacterium tuberculosis)およびM. avium complexによる感染症,Cryptosporidiumまたはその他の病原体による慢性腸炎,播種性または中枢神経系のクリプトコッカス症またはToxoplasma gondii感染症などがある。

易感染状態となったHIV感染児における悪性腫瘍の発生は比較的まれであるが,平滑筋肉腫と中枢神経系リンパ腫やB細胞性の非ホジキンリンパ腫(バーキット型)などの特定のリンパ腫は,免疫能が正常な小児と比べてはるかに高い頻度で発生する。カポジ肉腫は小児のHIV感染者では非常にまれである。(HIV感染患者によくみられる悪性腫瘍を参照のこと。)

多剤併用抗レトロウイルス療法(ART)を受ける小児

多剤併用ARTの登場により,小児におけるHIV感染症の臨床像は大きく変化した。細菌性肺炎とその他の細菌感染症(例,菌血症,反復性中耳炎)は,HIV感染児では依然としてよくみられるが,日和見感染症と発育不全については,ART導入前の時代よりはるかに減少している。血清脂質値の変動,高血糖,脂肪分布異常(リポジストロフィーおよび脂肪萎縮症),腎症,骨壊死など新たな問題が報告されているが,それらの発生率は成人のHIV感染者と比べて小児では低くなっている。

多剤併用ARTは神経発達面の予後を明らかに改善するが,治療を受けたHIV感染児において行動面,発達面,認知面の問題の発生率が上昇しているようである。それらの問題がHIV感染児におけるHIV感染自体,治療薬,その他の生物心理社会的因子によるものか否かは不明である。成長や発達にとって重要な期間中に生じたHIV感染やARTによる上記以外の影響が後年に現れるかどうかも不明である。しかしながら,周産期に感染した小児がARTによる治療を受け,現在若年成人となっている患者において,そのような影響は認められていない。そうした有害な影響を検出するため,HIV感染児には経時的なモニタリングが必要になる。

診断

  • 血清抗体検査

  • ウイルス核酸検査(NAT;HIV DNA PCR[ポリメラーゼ連鎖反応]検査またはHIV RNA測定を含む)

HIV特異的検査

生後18カ月以上の小児におけるHIV感染症の診断は,血清を用いた第4世代のHIV-1/2抗原抗体同時検査,それに続く第2世代のHIV-1/2抗体鑑別検査,さらに必要に応じたHIV-1 RNA定量検査によって行う。この診断検査アルゴリズムは,血清検体で免疫測定法とウエスタンブロットによる確定を順に行っていた以前のアプローチに代わって主流になっている。非常にまれであるが,有意な低ガンマグロブリン血症のため,HIV感染児ではHIV抗体が検出されないこともある。

生後18カ月未満の小児は,母親からの移行抗体を保持しているため,第4世代のHIV-1/2抗原抗体同時検査でさえ偽陽性となることから,RNA定量検査(例,RNAのtranscription-mediated amplification法)やDNAポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査(NATと総称される)などのHIVのウイルス学的検査によって診断しなければならず,それにより出生時では約30~50%の症例が,生後4~6カ月までに100%の症例が診断可能である。HIVのウイルス培養は,感度および特異度ともに許容範囲内であるが,技術的により労力を要する上に危険であることから,NATに取って代わられている。

HIV RNA定量検査(すなわち,治療の効力をモニタリングするのに用いられる血漿中HIVウイルス量測定)は,NATの一種であり,乳児の診断検査により広く用いられるようになっている。ARTを受けていない乳児において,RNA定量検査はDNA PCR検査と同程度の感度を示すが,それほど高価ではなく,他のNATよりも広く利用可能である。しかし,RNA濃度が非常に低い場合(5000コピー/mL未満)の検査特異度は不明で,かつ分娩時に治療により完全にウイルスが抑制されていた母親から出生した乳児での感度は不明であることから,RNA検査を用いる場合は注意しなければならない。

HIV抗体の迅速免疫測定検査は,口腔内分泌物,全血,または血清を用いたポイントオブケア検査として施行でき,数分から数時間以内に結果が出る。米国では,これらの検査は陣痛・分娩室においてHIV血清状態不明の女性を検査する際に最も有用となっており,これによりカウンセリング,母子感染予防のためのARTの開始,および児の検査を出産時の来院中に手配することが可能となる。同様の利点は,他の突発的な治療の場(例,救急診療部,思春期医療クリニック,性感染症クリニック)や発展途上国においても生じる。しかし,迅速検査には,2つ目の抗原/抗体同時検査,HIV-1/2抗体の鑑別検査,またはNATなどの確定検査が典型的には必要である。予想されるHIV有病率が低い地域では,特異的迅速検査でもほとんどの場合偽陽性が得られる(ベイズの定理による陽性適中率が低い)ことから,このような確定検査は特に重要である。HIV感染の検査前確率(すなわち血清抗体保有率)が高いほど,検査の陽性適中率は高くなる。第4世代のHIV-1/2抗原/抗体同時検査により当日に診断できる検査施設が増えるにつれ,より感度および特異度が低い迅速検査を行う必要性は低くなる。

患児のHIV検査に先立ち,母親または第1養育者(および年齢が十分であれば患児本人)に対して,起こりうる心理社会的リスクと検査がもたらす有益性についてカウンセリングを行うべきである。州,地方,および病院の法律と規則に従い,口頭(または書面)での同意を得た上で,患者カルテに記録する。医学的に検査の適応がある場合は,カウンセリングおよび同意が必要であるという理由で検査が躊躇されるようなことがあってはならず,患者または保護者による同意の拒否は医師の職業的および法的責任を軽減するものではなく,ときには別の手段(例,裁判所命令)によって検査の権限を得なければならないこともある。検査結果について,家族,第1養育者,および年齢が十分であれば患児本人と話し合うべきである。HIV陽性の場合は,適切なカウンセリングとその後の継続治療を提供しなければならない。全例において,秘密保持が極めて重要である。

HIV感染またはAIDS基準を満たす小児および青年については,適切な保健局へ報告しなければならない。

(新生児の診断について,医師はPerinatal HIV Consultation and Referral Services Hotline:1-888-HIV-8765[1-888-448-8765]に電話で相談できる。)

周産期曝露に対するHIV検査スケジュール

(Department of Health and Human Services Panel on Antiretroviral Therapy and Medical Management of HIV-Infected ChildrenのWorking Group of the Office of AIDS Research CouncilによるGuidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection, April 14, 2020を参照のこと。AIDSinfoにて参照可能。)

検査スケジュールは,HIV感染者の母親を介して周産期にHIVに曝露した乳児の感染リスクが高いか低いかの判断によって異なり,高リスクの乳児には,より頻回に検査を行う。

HIVの周産期感染のリスクが低いとは,以下にように定義される:

  • 母親が妊娠中に抗レトロウイルス療法(ART)を受けた。

  • 分娩間近の時期に母親のウイルス学的コントロールが良好であったことが,血漿中HIVウイルスRNA量が50コピー/mL未満という結果により示されている。

  • 母親のARTへのアドヒアランスについて懸念がみられなかった。

低リスクの乳児の検査は,以下の時期に推奨される:

  • 生後14~21日

  • 生後1~2カ月(ARVの予防投与中止から2週間以上経過後)

  • 生後4~6カ月

HIVの周産期感染のリスクが高いとは,HIV感染者の母親が以下のいずれかに該当する場合と定義される:

  • 出生前ケアを受けなかった

  • 妊娠中にARTを受けなかった

  • 分娩前または分娩時に抗レトロウイルス薬の投与を受けかった

  • 分娩時にのみ薬剤の投与を受けた

  • 妊娠後半(第2トリメスター後期または第3トリメスター)にARTを開始した

  • 妊娠中に急性HIV感染症と診断された

  • 分娩間近の時期に血漿中HIVウイルス量が不明または検出下限以上(50コピー/mL以上)であった(特に経腟分娩の場合)

  • 妊娠中または授乳中(この場合は授乳を中止するべきである)に急性HIV感染症がみられた

高リスクの乳児の検査は,以下の時期に推奨される:

  • 出生時

  • 生後14~21日

  • 生後1~2カ月

  • 生後2~3カ月(ARVの予防投与中止から2~6週間後)

  • 生後4~6カ月

陽性と判定されたら,同一または別のウイルス学的検査法により直ちに確認検査を行うべきであり,2回の検査結果がともに陽性ならHIV感染が確定する。

生後2週以上と生後4週以上の時点で行ったHIVのウイルス学的検査が連続で陰性となり,かつAIDS指標疾患がみられない場合,その乳児は推定で未感染と判定される(精度は95%を超える)。HIVのウイルス学的検査が生後4週以上と生後4カ月以上の時点でも陰性となり,かつAIDS指標疾患がみられない場合,その乳児は確実に未感染と判定される(精度は約100%)。ただし,多くの専門家は,HIV感染を確実に除外してseroreversion(受動的に獲得されたHIV抗体の消失)を確認するためのフォローアップ抗体検査(18カ月以降にHIV-1/2抗原抗体同時検査を1回または6~18カ月の期間にそのような検査を2回)の施行を引き続き推奨している。抗体検査陽性でウイルス学的検査陰性の生後18カ月未満の乳児がAIDS指標疾患(カテゴリーC― see table 13歳未満のHIV感染児における臨床カテゴリー)を発症した場合は,HIV感染症と診断される。

その他の検査

感染が診断されれば,他の検査を行う:

  • CD4陽性T細胞数

  • CD8陽性T細胞数

  • 血漿ウイルスRNA濃度

感染児には,疾患の程度,予後,および治療効果の確認に有用な,CD4陽性およびCD8陽性T細胞数と血漿ウイルスRNA濃度の測定が必要である。CD4陽性細胞数は,初期には正常値(例,13歳未満のHIV感染児における年齢相応のCD4陽性T細胞数の絶対値または全血球数に対する割合に基づく免疫学的カテゴリー[HIV感染症の病期]の表に記載されたカテゴリー1の年齢別カットオフ以上の値)を示すこともあるが,最終的には低下する。CD8陽性細胞数は,初期に増加し感染後期まで減少しないのが通常である。細胞集団におけるこれらの変化は,HIV感染症に特徴的な(ただし他の感染症でも生じることがある)CD4陽性/CD8陽性細胞比の低下をもたらす。生後12カ月未満の無治療患では,通常,血漿ウイルスRNA濃度が異常高値(平均約200,000RNAコピー/mL)となる。生後24カ月までには,無治療の患児におけるウイルス濃度は(平均約40,000RNAコピー/mLにまで)減少する。小児ではHIV-RNA濃度の個人差が大きいため,この数値による病状や死亡率の予測の精度は成人の場合よりも低くなるが,血漿ウイルス濃度測定とCD4陽性細胞数を組み合わせる方が,予後予測上,一方のみのマーカー測定よりも正確な情報が得られる。総リンパ球数や血清アルブミン濃度などのより低コストの代替マーカーからも小児のAIDS死亡率を予測することができ,それらは発展途上国で有用であろう。

ルーチンには測定されないが,血清免疫グロブリン濃度(特にIgGおよびIgA)がしばしば著明に上昇する(ただし,汎低ガンマグロブリン血症を偶然発症している場合もある)。皮膚テストの抗原に対するアネルギーが生じていることがある。

予後

ART導入前の時代は,先進国では10~15%,発展途上国では50~80%の感染児が4歳未満で死亡していたが,適切な組合せの多剤併用ARTレジメンにより,現在では周産期感染の患児の大半が良好な状態で成人期を迎えている。そのように周産期に感染し,若年成人となった患者が出産したり,父親になったりする例が増えてきている。

しかしながら,日和見感染症(特にニューモシスチス[Pneumocystis]肺炎),進行性の神経疾患,または重度の消耗が生じた場合には,多剤併用ARTによってウイルス学的および免疫学的コントロールが再度得られない限り,予後不良となる。ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎による死亡率は治療下では5~40%,無治療ではほぼ100%とである。早期(生後7日まで)にウイルスが検出される場合と生後1年以内に症状が出現する場合も,予後不良である。

複製能を有するHIVが根絶された(すなわち5年以上にわたり「治癒」している)ことが十分に確認されている成人例が,これまでに1例のみ報告されている。HIVに感染したこの成人は,白血病のために造血幹細胞移植を必要とした。ドナー細胞はCCR5-Δ32変異のホモ接合体で,それにより移植リンパ球にCCR5指向性HIV感染に対する抵抗性が付与されたもので,それ以降HIVは検出限界未満の状態が維持されている。ART,骨髄破壊的処置,および移植片対宿主病も,この患者の治癒に寄与した可能性が高い。骨髄移植を受けたHIV感染症患者でHIV感染症の治癒が確認された例は他に報告されていないが,複製能を有するHIVが一時的に根絶された乳児例についての詳細な報告は散見される。そのうちの1例は,出生前ケアおよび出生前(および分娩時)ARTのいずれも受けていないHIV感染者の母親からの出生である。生後2日目から,生後2週以内の使用について安全性と有効性が未知であった高用量の多剤併用ARTが開始された。そのARTは約15カ月間継続されたが,それ以降は意図せず中止されてしまった。にもかかわらず,生後24カ月時にウイルスRNAの複製は検出不能(「機能的治癒」)であったが,その時点でもプロウイルスDNAは検出可能であった。その後HIVの増幅が始まった。HIVの複製が一時的に中断された同様の乳児症例はいくつか報告されているが,いずれの症例でもHIV感染症の「治癒」は確認されておらず,治療が可能であるかどうかはまだ不明である。しかしながら,HIV感染は効果的なARTが施行されれば長期生存も望める治療可能な感染症となったことが判明した。将来の研究は間違いなく,ARTの忍容性および効力を改善する道を明らかにして,治癒をもたらす治療法というゴールの達成に役立つであろう。現在,ARTの中断は推奨されていない

治療

  • 抗レトロウイルス薬:多剤併用ARTでは,核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)2剤に加えてプロテアーゼ阻害薬(PI)1剤またはインテグラーゼ阻害薬(INSTI)1剤を併用するのが最も一般的であるが,ときに非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)1剤とNRTI 2剤が併用されることもある。

  • 支持療法

多剤併用ARTによる治療が成功を収めていることから,現在は,医学的問題と社会的問題の両方に対処する,慢性疾患としてのHIV感染の管理が注目されている。重要な長期の医学的問題として,HIV関連および薬剤関連の代謝性合併症を管理し,薬物動態および薬力学の年齢に関連した変動を考慮する必要性が挙げられる。社会的問題としては,青年の非感染者からの圧力を対処すること,成績向上と適切なキャリア選択を確実なものとすること,感染リスクについて小児を教育することなどがある。青年では医療上の助言を求めることや助言に従うことに困難がある場合が多く,治療のアドヒアランスを維持するために特別な支援が必要になる。小児および青年患者の管理は,小児HIV感染症の管理について経験のある専門家と協力して進めるべきである。

小児におけるARTの適応

(ARVの種類および用量については,小児における抗レトロウイルス療法を参照のこと。)

小児へのARTの開始基準は成人の場合と同様であり,基本的にHIV感染症の小児には全例で可及的速やかにARTを行うべきである(rapid initiation,診断後1~2週間以内)。治療の目標は成人の場合と同様に,最小限の薬物毒性でHIVの複製を抑制する(血漿中HIVウイルス量で判定する)ことと,年齢相応のCD4陽性細胞の絶対数および割合を維持または達成することである。治療開始を決定するに先立ち,医療従事者は養育者と患児にARVによる治療を遵守する準備ができているかを十分に評価し,治療に伴う有益性とリスクについて話し合うべきである。治療戦略に関する専門家の意見は急速に変化するため,専門家へのコンサルテーションが強く勧められる。

アドヒアランス

抗レトロウイルス療法の成功は,複雑となりうる投薬レジメンを家族および患児が遵守できる場合にのみ達成できる。アドヒアランス不良は,HIVのコントロール失敗につながるだけでなく,薬剤耐性をもつHIV株を選択することにより,将来の治療選択肢を制限することにもなる。アドヒアランスを阻む障壁には,治療開始前に対処しておくべきである。障壁としては,錠剤または懸濁剤の入手可能性および嗜好性,有害作用(現在の治療との薬物相互作用に起因するものなど),食事とともに摂取または空腹時摂取の必要性などの薬物動態学的な因子,服用における患児の他者への依存度(HIVに感染した親は自身の服薬を覚えておくことが困難な場合がある)などが挙げられる。より新しい1日1回または1日2回投与の併用レジメンと味が改良された小児用製剤がアドヒアランス向上に役立つ可能性がある。

青年では,周産期のHIV感染であるのか,性行為や注射薬物使用による後天的なHIV感染であるのかにかかわらず,アドヒアランスについて特に問題がみられる。青年には,自尊心の低さ,無秩序で混沌とした生活習慣,病気のために仲間外れになることへの恐れ,ときに家族の支えがないことなど,アドヒアランスを妨げる可能性のある複雑な生物心理社会的問題がみられる。さらに,青年は無症状の感染期間中にも投与が必要である理由を発達過程上理解できないこともあり,有害作用について強く心配することもある。医療体制との頻回な接触にもかかわらず,周産期感染者の青年は自身のHIV感染症を恐れたり否定したりし,医療チームが提供する情報を疑い,成人医療ケア体制への移行がうまく進まないこともある(成人医療への移行を参照)。青年に対する治療レジメンは,これらの問題とバランスをとる必要がある。目標は青年患者に最大限強力なARVレジメンを遵守させることであるが,患者の成熟度と支援体制を現実的に評価することにより,日和見感染症の回避に焦点を置いた治療計画を開始でき,生殖医療サービス,住居,および良好な学校生活に関する情報を提供できる可能性がある。青年が適切な支援を受けているとケアチームが確信する場合は,どのARVが最良かを正確に決定することができる。

モニタリング

薬物毒性や治療失敗を確認するために,臨床所見および検査所見のモニタリングが重要となる。

  • 治療開始時およびART開始時(およびARTレジメンを変更する場合):身体診察,アドヒアランスの評価,血算,血清生化学検査値(電解質,肝および腎機能検査など),血漿中HIVウイルス量,CD4陽性リンパ球数,ならびに青年期女子には妊娠検査

  • 3~4カ月毎:身体診察,アドヒアランスの評価,血算,血清生化学検査値(電解質,肝および腎機能検査など),血漿中HIVウイルス量,ならびにCD4陽性リンパ球数

  • 6~12カ月毎:脂質プロファイルおよび尿検査

治療開始時とウイルス学的失敗が疑われることによるARTの変更時には,HIV遺伝子型の薬剤耐性試験を行うべきである。

アバカビルを処方する際には,HLA-B* 5701アレルの有無を検査する必要があり,アバカビルはHLA-B* 5701陰性の患者にのみ処方すべきである。この検査は,将来アバカビルを使用する場合の安全性を明らかにするために,治療開始時に行われることが多い。

治療の状態が安定している場合,すなわち,12カ月以上にわたりHIV RNAが検出不能で,CD4陽性リンパ球数が年齢相応の正常値であり,毒性の臨床徴候がなく,家族支援の体制が安定している場合には,多くの医師が臨床検査による評価の間隔を6カ月間まで延長している。ただし,アドヒアランスを評価し,成長および臨床症状をモニタリングし,必要であれば体重に基づくARVの用量を更新する機会を得るために,3カ月毎に受診させるのが有益である。

HIV感染児の社会的統合

小児のHIV感染症はその家族全体に影響を及ぼす。同胞および両親の血清学的検査が推奨される。医師は教育と継続的なカウンセリングを提供しなければならない。

他者へのリスクを低減するため,感染児には適切な衛生対策および行動に関する教育を行うべきである。この疾患について,いつ,どの程度まで教えるかは,年齢および成熟度に依存する。児童および青年には,自身の診断を認識させるべきであり,また性感染の可能性について適切なカウンセリングを行うべきである。家族は,社会的孤立がもたらされる可能性があるため,診断を肉親以外の人に話すのを望まないことがある。罪悪感がよくみられる。小児を含めた家族が臨床的に抑うつ状態となり,カウンセリングが必要となることもある。

HIV感染症は小児間でみられる典型的な接触(例,唾液や涙液)では伝播しないため,HIV感染児には制限のない登校が許可されるべきである。同様に,HIV感染児の里親制度,養子紹介,および保育を制限する特別な理由も存在しない。他者へのリスクが増大しうる状況(例,激しく噛みつく,被覆できない滲出性の濡れた皮膚病変)では,特別な注意が必要になる場合がある。

患児の状態を知る学校職員は,適切なケアを確保するのに最小限必要な数にとどめるべきである。家族には学校に通知する権利があるが,感染児のケアや教育に携わる者は,患児のプライバシー権を尊重しなければならない。情報の開示は,親または法的保護者のインフォームド・コンセントと小児からの年齢相応の同意が得られた場合のみに制限されるべきである。

予防接種

いくつかの例外はあるものの,HIV感染児にもルーチンの小児期予防接種計画( see table 小児期の予防接種スケジュール)が推奨される。主な例外としては,ウイルスおよび細菌の生ワクチン(例,BCG[カルメット-ゲラン桿菌])は避けるか,特定の状況でのみ使用すべきという点が挙げられる( see table HIV感染児における生ワクチンの接種に対する考慮事項)。さらに,一連のB型肝炎ワクチンの最終接種から1~2カ月後,HIV感染児には,B型肝炎表面抗原に対する抗体(HBs抗体)が防御値(10 mIU/mL以上)か測定検査を行うべきである。18歳未満の小児および青年のHIV感染者は,13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV-13)肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV)の接種を受けるべきである。特定の曝露後投与に関する推奨にも相違点がある。最近では,HIVに感染した小児,青年,および成人に4価髄膜炎菌結合型ワクチンのルーチン接種およびキャッチアップ接種が推奨されている(HIV感染症患者への髄膜炎菌結合型ワクチンの使用については,Advisory Committee for Immunization Practices[ACIP]による勧告を参照)。

経口ポリオ生ワクチンと弱毒生インフルエンザワクチンは推奨されないが,不活化ポリオワクチンはルーチンのスケジュールに従って接種し,不活化インフルエンザワクチンは毎年接種すべきである。

麻疹・ムンプス(流行性耳下腺炎)・風疹混合(MMR)生ワクチン水痘生ワクチンは,重度の免疫抑制を示している小児には接種してはならない。しかしながら,MMRおよび水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)ワクチン(別々に接種する;弱毒化水痘ウイルスが高力価のMMRVとしては併用しないこと。MMRVの安全性はこの集団では確認されていない)は,ルーチンの接種スケジュールに従っている無症状の患者,およびHIV症状があったが重度の易感染状態ではない患者(すなわち,CD4陽性T細胞の割合が15%以上など,カテゴリー3[ see table 13歳未満のHIV感染児における年齢相応のCD4陽性T細胞数の絶対値または全血球数に対する割合に基づく免疫学的カテゴリー(HIV感染症の病期)]ではない患者)には接種することができる。可能であれば,症状のある患者では免疫反応が得られる可能性を高めるために,すなわち免疫機能が低下する前に,生後12カ月時点でMMRおよびVZVワクチンを開始すべきである。できるだけ早く抗体陽転を誘導するため,それぞれの2回目の接種は4週以降に速やかに行う(典型的には13歳未満の非感染児での水痘ワクチンの接種間隔は3カ月が望ましいとされている)。アウトブレイク時など,麻疹曝露のリスクが高まっている場合は,生後6~9カ月など早い時期に麻疹ワクチンを接種しておくべきである。

ロタウイルスの経口生ワクチンは,HIV曝露またはHIV感染のある乳児にもルーチンの接種スケジュールに従って接種することができる。症候性の乳児患者における安全性および有効性のデータは限られているものの,予防接種は全体的な便益につながる可能性が非常に高く,とりわけロタウイルス感染症による死亡率が有意に高い地域では特にその傾向が強い。

米国は結核有病率が低い地域であるため,BCGワクチンの接種は推奨されない。しかしながら,特に結核有病率の高い発展途上国など世界の別の地域では,BCGがルーチンに接種されており,それらの国の多くは妊娠可能な女性におけるHIV有病率も高くなっている。細菌生ワクチンとしてのBCGは,HIV感染児にとっていくらか有害であるが,非HIV感染児と一部のHIV感染児の結核感染を予防する可能性が高い。世界保健機関(World Health Organization:WHO)は現在では,たとえ無症状でもHIV感染が判明している小児にはBCGを接種すべきでないと推奨している。しかしながら,特定の地域では,結核とHIV感染症の相対的な発生率に応じて,HIVに感染した母親から出生したHIV感染状態が不明の無症状の乳児にBCGが接種されることもある。BCGはまた,HIV感染状態が不明の女性から出生した無症状の乳児にも接種することがある。

世界の一部の地域では,黄熱ワクチンが小児にルーチン接種されているが,これは重度の免疫抑制がない小児に限定して接種すべきである。

症候性のHIV感染児は通常,ワクチンに対する免疫反応が乏しいため,ワクチンで予防可能な疾患(例,麻疹,破傷風,水痘)に曝露した際には,ワクチン接種歴に関係なく感受性が高いと考えるべきである。そうした小児は免疫グロブリン静注療法による受動免疫を受けるべきである。免疫グロブリン静注療法は,麻疹に曝露した免疫のない家族全員にも行うべきである。

症候性のHIV感染者と生活する血清反応陰性の小児は,経口ポリオワクチンではなく不活化ポリオウイルスワクチンの接種を受けるべきである。インフルエンザ(不活化または生),MMR,水痘,およびロタウイルスワクチンについては,これらのワクチンウイルスは一般的にワクチンによって伝播することがないため,通常どおりに接種することができる。家庭内の成人接触者は,HIV感染者にインフルエンザを感染させるリスクを低減するため,毎年インフルエンザワクチン(不活化または生)の接種を受けるべきである。

表&コラム

成人医療への移行

若年のHIV感染者が小児対象の医療モデルから成人対象の医療モデルへと移行するには,時間と事前計画が必要になる。この過程は積極的かつ継続的なものであり,単に成人を対象とする医療機関に1度紹介すれば済む問題ではない。小児対象の医療モデルは家族を中心とする傾向があり,ケアチームには医師,看護師,ソーシャルワーカー,および精神医療の専門職で構成される集学的チームが含まれ,周産期感染の若年者は出生以来そのようなチームによるケアを受けてきたことになる。

対照的に,成人を対象とする典型的な医療モデルは,個人を中心とする傾向があり,関係する医療従事者は個々の医療機関におり,何回もの受診を必要とする。成人対象の医療機関の医療従事者は,しばしば多数の患者を管理しており,受診の遅れや受診忘れ(青年でよくみられる)への対応はより厳しいものとなる。最後に,青年または若年成人における保険適用範囲の変化も医療の移行を複雑にする要因となりうる。数カ月かけて計画的に移行を進め,かつ小児医療および成人医療の従事者と青年を話し合わせ,双方合同での診察に青年を受診させることにより,移行がスムーズとなり,成功の可能性を高めることができる。HIVに感染した若年者の成人医療への移行については,米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)のリソースが利用可能である(Transitioning HIV-Infected Youth Into Adult Health Careを参照)。

予防

曝露後予防については, see page 曝露後予防(PEP)を参照のこと。

周産期感染の予防

出生前の適切なARTは,母体を至適な健康状態とし,母子感染を予防し,子宮内での薬物毒性を最小限に抑えることを目指すものである。ARVおよびHIV検査が容易に利用できる米国やその他の国々では,ARVによる治療が全てのHIV感染妊婦に対する標準となっている(成人におけるHIV感染症の治療を参照)。陣痛が発来した妊婦の迅速HIV検査により,HIV血清状態の記録がなくても,こうした処置の即時開始が可能となる。

全てのHIV感染妊婦は,母子感染の予防と自身の健康のため,HIV感染症と診断され,ARTの服薬遵守が可能になると同時に,多剤併用ARTを開始すべきである。多剤併用ARTは妊娠の全期間中にわたり継続する。妊娠は多剤併用ARTレジメンの禁忌ではなく,特に,第1トリメスター中のドルテグラビルおよびエファビレンツはいずれも禁忌ではない。ボツワナで実施された臨床試験によって,受胎前後のドルテグラビルへの曝露に乳児における神経管閉鎖不全のわずかな増加との関連が示されたが,この増加が真にドルテグラビルによるものであったのか,葉酸欠乏などの他の因子によるものであったのかは不明である。大半の専門家は,すでに多剤併用ARTを受けているHIV感染妊婦は第1トリメスター早期でもその治療を継続すべきであると考えている。

母体の血漿中HIVウイルス量が1000コピー/mLを超える場合には,陣痛発来前の待機的帝王切開が推奨される。陣痛がすでに始まっている場合,帝王切開により母子感染が減少するか否かはあまり明らかではない。

陣痛時には,以下の少なくとも1つに当てはまる女性に対し,ZDVを最初の1時間は2mg/kgで静注し,その後分娩まで1mg/kg/時で静注する:

  • 最近の血漿中HIVウイルス量 > 1000コピー/mL

  • 分娩間近の時期の血漿中HIVウイルス量が不明

  • ARTに対するアドヒアランスが不完全と考えられる

現在では多くの専門家が,多剤併用ARTを受けて分娩間近の時期に血漿中HIVウイルス量が50コピー/mL未満になった女性には,陣痛時のZDVの静注は必要ないと考えている。しかしながら,分娩時または分娩間近の時期にウイルス量が50~999コピー/mLである女性では,ZDVの静注を考慮すべきであり,これにより周産期感染に対するさらなる予防効果が得られる可能性がある。

分娩後には,過去にARTを受けていない場合も含めた全ての女性に対して多剤併用ARTを継続する。

HIVに曝露した全ての新生児に,HIV感染のリスクを低減するために分娩後のARVレジメンを投与するべきである。治療は可及的速やかに開始すべきである(分娩後6~12時間以内が望ましい)。ARVレジメンは,母体および乳児の周産期HIV感染の危険因子により決定される(HIV周産期曝露またはHIV感染がある新生児の抗レトロウイルス療法による管理に関するガイドラインを参照)。

予防レジメンは以下のように分類される:

  • ARV予防投与:低リスク(0.5~1%未満)の新生児に1剤または複数のARVを投与する。

  • 経験的HIV療法:リスクの高い(1~25%)新生児に予防治療として2剤または3剤併用レジメンを実施するが,後からHIV感染が確認された新生児に対する予備的な治療の役割も果たす。

低リスクの乳児はARV予防投与の適応である。これには,分娩間近の時期にARTによるウイルス学的コントロールが良好(血漿中HIVウイルス量50コピー/mL未満で示される)で,ARTに対するアドヒアランスに関する懸念のない女性から正期産で生まれた新生児が含まれる。低リスクの乳児には,ZDV 4mg/kg,経口,1日2回によるARV予防投与を生後4週間行うべきである。ZDVは乳児予防のバックボーンであり,HIV感染女性から出生した全ての乳児に対し,危険因子とは無関係に用いられる。

高リスクの乳児には,6週間のZDVとネビラピン3回投与の2剤併用レジメン,または3剤併用レジメンのいずれかにより,経験的HIV療法を行う(HIV感染のリスクに応じた新生児の抗レトロウイルス薬管理の表を参照)。母親の血漿中HIVウイルス量が200~400コピー/mL未満の場合に2剤併用予防レジメンを選択する専門家もいる。3剤併用レジメンには,ジドブジン,ラミブジン,およびネビラピン(治療用量)またはラルテグラビルの6週間にわたる併用などがある(用量については周産期にHIVに曝露した新生児に対する抗レトロウイルス薬の用量の表を参照)。生後14日未満の乳児に対し安全かつ効果的とみなされているARV(重要なものはZDV,ネビラピン,ラミブジン,およびラルテグラビル)は非常に少なく,早産児で利用可能な投与データがある薬剤はさらに少ない(ジドブジン,ラミブジン,およびネビラピンのみ)。ARVに対する薬剤耐性をもつウイルスに感染した妊婦から生まれた新生児に対する至適なARVレジメンは不明である。

その後にHIVのウイルス学的検査で陽性と判定された乳児には,3剤併用のARTを施行する。小児HIVまたは母体HIV感染の専門家へのコンサルテーションを直ちに行うべきである(AIDSinfoまたはNational Clinician Consultation Centerの情報を参照)。HIVの垂直感染の軽減策および新生児の診断に関して,医師はPerinatal HIV Consultation and Referral Services Hotlineに電話(1-888-HIV-8765[1-888-448-8765])で相談することもできる。

表&コラム
表&コラム

HIV感染女性の母乳栄養または母乳バンクへの提供は,安全で低価格な代替乳が容易に入手できる米国やその他の国々においては,禁忌である。しかしながら,感染症や低栄養が幼児期死亡の主要な原因となっていて,かつ安全な乳児用人工乳を低価格で入手できない国々においては,呼吸器および消化管感染症による死亡リスクを低下させる母乳栄養による防御効果がHIV感染のリスクを相殺する場合がある。このような発展途上国では,HIVに感染した母親は生後6カ月間は母乳を与え,その後は速やかに離乳食へ移行するようにWHOは推奨している。

HIVに感染した母親が幼若乳児のために食べものを咀嚼して与えることも禁忌である。

青年の感染予防

青年は特にHIV感染のリスクが高いため,教育を受けるとともに,HIV検査を受けて自身の血清状態を知っておくべきである。教育には,感染に関する情報,感染による影響,ならびにリスクの高い行動の自制や性的に活動的である青年であれば安全な性行為(例,一貫した正しいコンドームの使用)などの予防戦略を含めるべきである。HIV感染リスクが高い青年(特に人口統計学上,最速で増加しつつある米国の若年新規HIV感染者である男性間性交を行う黒人およびヒスパニックの青年男性)を対象とした予防対策を講じるべきであり,全ての青年がリスクを低減するための教育を受けるべきである。

米国のほとんどの州では,検査やHIV血清状態に関する情報の開示にインフォームド・コンセントが必要とされている。患者の同意を得ることなくセックスパートナーにHIV感染状態を開示することに関する決定は,パートナーへの開示後の患者に対するドメスティックバイオレンスの可能性,パートナーのリスク状態の程度,リスクを疑って予防処置を講じる妥当な理由がパートナーにあるか,ならびに,そのような情報を保留または開示する法的要件の有無に基づいて判断すべきである。フマル酸テノホビル ジソプロキシルとエムトリシタビン(TDF/FTC)の固定用量配合剤による曝露前予防(PrEP―感染予防も参照)は,HIVに感染した成人のHIV陰性パートナーに対してしばしば使用されている。比較的年長の青年もPrEPを受けることができるが,秘密保持と費用の問題(保険により払い戻されない可能性がある)のため,成人がPrEPを受ける場合よりも複雑である。さらなる考察については,New York State Department of Health AIDS InstituteのPrEP to prevent HIV and promote sexual healthおよびAIDSinfoのPre-Exposure Prophylaxis (PrEP)を参照のこと。

日和見感染症の予防

特定のHIV感染児には,ニューモシスチス肺炎およびM. avium complex感染症の予防を目的とする,予防的薬物療法が推奨される。その他の微生物(サイトメガロウイルス,真菌,トキソプラズマなど)による日和見感染症の予防については,データが限られている。これらおよびその他の日和見感染症の予防に関するガイダンスは,AIDSinfoでも入手可能である。

ニューモシスチス()肺炎の予防は以下の場合に適応となる:

  • 6歳以上のHIV感染児でCD4陽性細胞数が200/μL未満またはCD4陽性細胞の割合が14%未満である場合

  • 1~6歳のHIV感染児でCD4陽性細胞数が500/μL未満またはCD4陽性細胞の割合が22%未満である場合

  • CD4陽性細胞の絶対数および割合を問わず,生後12カ月未満のHIV感染児

  • HIV感染の女性から出生した乳児(生後4~6週に開始),ウイルス学的検査結果が計2回(生後2週以上で1回と生後4週以上で1回)陰性となることによりHIV感染が暫定的に否定できるか,ウイルス学的検査結果が計2回(生後1カ月以上で1回と生後4カ月以上で1回)陰性となることにより確定的に否定されるまで(注:HIV感染を否定するこれらの定義の妥当性が確認されるまでは,母乳を与えてはならない。)

多剤併用ARTによる免疫再構築が起こった場合,6カ月以上にわたり多剤併用ARTを受け,かつ連続3カ月以上にわたりCD4陽性細胞の絶対数および割合が前述の治療閾値より高く維持されているHIV感染児には,ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎に対する予防の中止を考慮する。その後,3カ月に1回以上の頻度でCD4陽性細胞の絶対数および割合を再評価し,当初の基準に達した場合は予防を再開すべきである。

年齢を問わず,ニューモシスチス(Pneumocystis)肺炎の予防における第1選択の薬剤はトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)TMP 75mg/SMX 375mg/m2,経口,1日2回,連続3日/週(例,月曜,火曜,水曜)で,代替スケジュールは同用量の1日2回連日投与,同用量の1日2回隔日投与,または2倍量(TMP 150mg/SMX 750mg/m2)の1日1回投与,連続3日/週である。体重に基づく用量(TMP 2.5~5mg/SMX 12.5~25mg/kg,経口,1日2回)の方が使用が容易と感じる専門家もいる。

TMP/SMXに耐えられない患者には,ジアフェニルスルホン2mg/kg(100mgを超えないこと),経口,1日1回が代替となる(特に5歳未満の患者)。アトバコン経口剤の連日投与またはエアロゾル化されたペンタミジン(5歳以上の小児には専用吸入器により300mg)の月1回投与が別の代替法である。ペンタミジンの静注剤も使用されているが,両剤とも効果が低く,より毒性が強い。

complex感染症の予防は以下の場合に適応となる:

  • 6歳以上の小児でCD4陽性細胞数が50/μL未満の場合

  • 2~6歳の小児でCD4陽性細胞数が75/μL未満の場合

  • 1~2歳の小児でCD4陽性細胞数が500/μL未満の場合

  • 1歳未満の小児でCD4陽性細胞数が750/μL未満の場合

アジスロマイシン週1回またはクラリスロマイシン連日も第1選択の薬剤であり,リファブチン連日が代替薬である。

要点

  • 乳児および小児のHIV感染例は,その大半が出生前または出生時の母子感染か,安全で手頃な乳児用人工乳が入手できない国における母乳栄養によって発生する。

  • 母親に対する抗レトロウイルス療法(ART)により,母子感染の発生率は約25%から1%未満まで低下する。

  • 生後18カ月未満の小児は,RNA定量検査(例,RNAのtranscription-mediated amplification法)またはDNAポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査により診断する。

  • 生後18カ月以上の小児は,第4世代のHIV-1/2抗原抗体同時検査に続いて第2世代のHIV-1/2抗体鑑別検査および必要に応じてHIV-1 RNA定量検査を行う手順により診断する。

  • 12カ月未満の全てのHIV感染児;III期の日和見感染症がある,またはCD4陽性細胞数< 500/μLの1~6歳未満の感染児;III期の日和見感染症がある,またはCD4陽性細胞数< 200/μLの6歳以上の感染児には,緊急治療を行う(rapid initiation)。

  • HIVに感染している他の全ての小児および青年には,アドヒアランスをさらに十分に評価し,その問題について小児と保護者が取り組むと同時に,治療を行う。

  • 多剤併用ARTでは,アドヒアランス向上のため,可能であれば固定用量配合剤を使用するのが望ましい。

  • 年齢とCD4陽性細胞数に基づいて日和見感染症の予防を行う。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

有害作用,用量(特に固定用量配合剤の情報),薬物相互作用などの薬物治療に関する情報,教材,および関連トピックへのクイックリンクについては,継続的に更新されている以下の政府のサイトを参照のこと:

  1. AIDSinfo.gov: Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection

  2. AIDSinfo.gov: Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Adults and Adolescents Living with HIV

  3. AIDSinfo.gov: Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents

  4. AIDSinfo.gov: Pre-Exposure Prophylaxis (PrEP)

以下の資料では,HIV/AIDSの予防,治療,教育について他の様々な側面に関する情報が提供されている:

  1. New York State Department of Health AIDS Institute HIV Clinical Guidelines Program: Disseminates practical, evidence-based clinical guidelines that promote quality medical care for people in New York who are living with and/or are at risk of acquiring HIV and certain other illnesses

  2. New York State Department of Health AIDS Institute: Pre-exposure prophylaxis (PrEP) guidelines, education, and training for HIV prevention

  3. New York State Department of Health AIDS Institute: Comprehensive information regarding all aspects of HIV/AIDS, including treatment, social awareness, resources for consumers, and training for professionals

  4. UNAIDS: Comprehensive information on how the organization directs, advocates, coordinates, and provides technical support needed to connect leadership from governments, the private sector, and communities to deliver life-saving HIV services

  5. National Clinician Consultation Center: Up-to-date HIV/AIDS guidelines and key treatment protocols for HIV/AIDS treatment, prevention, and exposure

  6. Perinatal HIV Consultation and Referral Services Hotline 1-888-HIV-8765 (1-888-448-8765): Free 24-hour clinical consultation and advice on treating HIV-infected pregnant women and their infants

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