アスリートは一般的に,スポーツ活動を開始する前にリスクを同定するためのスクリーニングを受ける。スクリーニングでは,心血管リスクとその他のリスクを対象とするべきである。
スポーツ参加のための心血管リスクのスクリーニング
アスリートは一般的に,スポーツ活動を開始する前に心血管リスクを同定するためのスクリーニングを受ける。米国では,アスリートは2年毎(高校生の年齢層)または4年毎(大学生以上の年齢層)に再評価を受ける。欧州では,年齢にかかわらず,2年毎にスクリーニングが繰り返される。
大学年齢の若年成人を対象として米国で推奨されているスクリーニングには(小児および青年向けも同様である),以下の要素が含まれている(1):
病歴
身体診察
病歴と身体所見に基づいて選択された検査
病歴聴取では以下について問診すべきである:
既知の高血圧または心雑音
胸痛,特に新たに発症したもの:痛みの性質(例,胸膜痛,圧迫感,灼熱感),部位,持続時間,強度,活動との関係,関連症状を評価する
運動能力向上薬または違法薬物(米国アンチドーピング機構[Anti-Doping Agency]のウェブサイトを参照のこと。)とQT延長症候群の素因となる薬剤の使用
成人では冠動脈疾患の危険因子
身体診察では心血管系の診察として,両腕の血圧測定,仰臥位および立位での心臓と肺の聴診,ならびにマルファン症候群の特徴など他の病態を検出するための評価を行うべきである。これらの測定の目的は,一見して健康ながら生命を脅かす心イベント(例,不整脈,肥大型心筋症,または他の構造的心疾患のある人)のリスクが高い個人を同定することにある。
欧州のガイドラインは,全ての小児,青年,および大学年齢のアスリートを対象として心電図によるスクリーニングを推奨しており,この点で米国のガイドラインと異なっている(2)。
Canadian Guidelinesは以下の3段階のスクリーニングを推奨している:
病歴聴取/質問票
身体診察
臨床所見から適応ありと判断される場合のみ心電図検査
臨床的に必要であれば検査を続ける(3)。
リスクを有する比較的高年齢(35歳以上)の成人に対するスクリーニングでは,症状限界点までの漸増運動負荷試験が施行されることもある(特にアスリートが座位時間の長い生活を数年にわたり送っている場合)。
病歴聴取と診察は感度も特異度も十分でなく,一見して健康な集団の心疾患有病率が極めて低いことから,偽陰性および偽陽性の所見がよくみられる。スクリーニングに心電図または心エコー検査を利用すれば疾患の検出率は向上するであろうが,偽陽性の診断がさらに増えると考えられ,集団レベルでは実用的でない。
アスリートのスクリーニングとしての肥大型心筋症またはQT延長症候群の遺伝子検査は推奨されず,実行可能でもない。
選択された検査
例えば肥大型心筋症,QT延長症候群,不整脈源性右室心筋症,ブルガダ症候群,マルファン症候群などの家族歴または症候がみられるアスリートには,さらなる評価が必要である。典型的には評価として以下の一方または両方が行われる:
心電図検査
心エコー検査
これらの疾患のいずれかが確認された場合には,スポーツへの参加は困難なることがある。
心電図によりMobitz II型房室ブロック,完全房室ブロック,真性右脚ブロック,または左脚ブロックが明らかにされた場合と,上室性もしくは心室性不整脈の臨床所見または心電図所見が認められる場合には,心疾患の検索が必要である。
失神前状態または失神がみられるが,非侵襲的検査で原因が明らかにならないアスリートでは,冠動脈奇形を検索するための評価も行うべきである。評価は以下によって行う:
心臓カテーテル検査
大動脈の拡張が心エコー検査で(または偶然)検出された場合には,さらなる評価が必要である。
スポーツへの参加に関する推奨
アスリートには違法薬物や運動能力向上薬を使用させないようにカウンセリングすべきである。軽症または中等症の心臓弁膜症の患者は,激しい身体活動に参加できる可能性がある。
以下がみられる患者など,特定の患者は競技スポーツや激しいレクリエーションスポーツに参加すべきではない:
重症の心臓弁膜症,特に狭窄がある場合
大半の構造的心疾患および不整脈心疾患(例,肥大型心筋症,冠動脈奇形,不整脈源性右室心筋症)
過去6カ月程度の心筋梗塞
急性心筋炎(軽快して心室機能が完全に回復するまで)
心筋梗塞の既往があるアスリートには,心血管系リハビリテーションと高強度の身体活動に復帰するための段階的アプローチが必要になる。
心血管系のスクリーニングに関する参考文献
1.Maron BJ, Thompson PD, Ackerman MJ, et al: Recommendations and considerations related to pre-participation screening for cardiovascular abnormalities in competitive athletes: 2007 update: a scientific statement from the American Heart Association Council on Nutrition, Physical Activity, and Metabolism: endorsed by the American College of Cardiology Foundation. Circulation 2007;115(12):1643–1655, 2007.doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.107.181423
2.Corrado D, Pelliccia A, Bjørnstad HH, et al: Cardiovascular pre-participation screening of young competitive athletes for prevention of sudden death: proposal for a common European protocol.Consensus Statement of the Study Group of Sport Cardiology of the Working Group of Cardiac Rehabilitation and Exercise Physiology and the Working Group of Myocardial and Pericardial Diseases of the European Society of Cardiology. Eur Heart J 26(5):516–524, 2005.doi:10.1093/eurheartj/ehi108
3.Johri AM, Poirier P, Dorian P, et al: Canadian Cardiovascular Society/Canadian Heart Rhythm Society joint position statement on the cardiovascular screening of competitive athletes.Can J Cardiol 35:1-11, 2019.doi: 10.1016/j.cjca.2018.10.016
スポーツ参加に伴うその他のリスクを検出するためのスクリーニング
アスリートは,スポーツ活動を開始する前に,筋骨格系のリスクとその他のリスクを検出するためのスクリーニングも受けるべきである。
心血管系以外の危険因子は,心血管系危険因子よりも一般的である。成人に,以下の項目に関する問診を行う:
以前または現在の筋骨格系の損傷(脱臼しやすい状態も含む)
関節障害,特に主な荷重関節(例,膝関節,足関節,股関節)を侵すもの
全身性感染を示唆する症状
紫斑ができやすいまたは易出血性
痙攣発作
次の2つの損傷リスクが高い集団は,看過されることが多い:
晩熟型の男児は,体が大きく体力のある少年とのコンタクトスポーツで損傷するリスクが高いと考えられる。
過体重または肥満の人は,自身の過剰な体重とそれに関連して関節や組織に加わる力が原因で,筋骨格の問題のリスクが高い。リスクの1つは,オーバーユース損傷と軟部組織の炎症であり,とりわけ運動の強度を高めたり持続時間を延ばしたりするのが急激すぎる場合に起こりやすい。長期的には荷重関節に変形性関節症を来すリスクがある。さらに,跳躍や高い敏捷性が求められる運動に参加した場合は,動作の急な停止と開始を行うことによる損傷のリスクもある。
アスリート(特に青年および若年成人)には,違法薬物および運動能力向上薬の使用について問診すべきである。(米国アンチドーピング機構[Anti-Doping Agency]のウェブサイトを参照のこと。)
女児と若年女性では,スクリーニングで初潮の遅れを検出すべきである。女児と若年女性に対し,女性アスリートの三主徴(摂食症,無月経またはその他の月経不順,骨密度の減少)の有無について,スクリーニングを行うべきである。摂食症のスクリーニング方法として,以下の2つの質問をすることについて妥当性が確認されている:
これまでに摂食症を患ったことはありますか?
今の体重に満足していますか?
スポーツ参加の禁忌
特定の心血管疾患を除けば,スポーツへの参加に対する絶対的禁忌はほとんどない。
小児には以下の例外がある:
相対的禁忌は成人では比較的頻度が高く,以下のように予防策を講じること,または比較的望ましいスポーツに参加することが推奨される:
脱臼を繰り返しているか簡単に脱臼したという既往がある人や,脳振盪の既往が複数回ある人は,身体接触や衝突を伴わないスポーツに参加すべきある。
男性(特に精巣が1つしかない弾性)は,大半のコンタクトスポーツに対して保護カップを着用すべきである。
耐暑性低下(heat intolerance)および脱水のリスクがある人(例,糖尿病,嚢胞性線維症,鎌状赤血球症もしくは鎌状赤血球形質を有する人,または熱関連の疾患の病歴を有する人)は特に,長時間の運動中には頻回に水分補給を行うべきである。
発作の制御が最適でない人は,水泳,重量挙げ,およびアーチェリーやライフル射撃などのスポーツは(他者への損傷を予防するために)避けるべきである。
喘息患者は,自身の症状を綿密にモニタリングする必要がある。
要点
比較的若年の運動参加者(小児から若年成人まで)には,病歴聴取と身体診察によるスクリーニングを行い,異常所見または家族歴がみられる場合には,心電図および/または心エコー検査を施行すべきである。
危険因子を有する比較的高齢の運動参加者には(特に座位時間の長い生活を数年以上送っている場合),病歴聴取および身体診察のほか,通常は運動負荷試験によるスクリーニングを行う。
重症の心臓弁膜症および大半の構造的または不整脈源性心疾患(例,肥大型心筋症)を有するアスリートには,競技に参加しないよう推奨する。
小児では,急性の脾臓腫大がみられるか最近の伝染性単核球症の既往がある場合,他の症状を伴った発熱や長期間続く発熱がみられる場合,ならびに脱水の素因となる有意な下痢または嘔吐がみられる場合には,それらの病態が解消されるまで参加を見合わせるよう推奨する。
どのような患者においても,存在する医学的状態に応じて適宜,特定のスポーツへの参加を制限する。



