不整脈源性右室心筋症(ARVC)は,不整脈源性右室異形成症(ARVD)とも呼ばれる,主に右室を侵す遺伝性心疾患であり,心室性頻拍性不整脈を引き起こし,突然死のリスクを高める。症状としては動悸,失神,心停止などがあり,疾患の悪化に伴い右室不全の症候が現れる。診断は心電図検査,心臓の画像検査,コンセンサス基準などによる。治療には運動制限が必要であり,通常はβ遮断薬および植込み型除細動器(ICD)が使用される。
いくつかの遺伝子変異が,心筋細胞同士を接続している構造物である介在板の構造および機能に悪影響を及ぼす。最も頻度が高いのは,デスモソーム(中間径フィラメントを細胞膜につなぎ止める接着性の細胞間結合)と呼ばれる介在板の構成要素に影響を及ぼす変異である。デスモソームは,心筋細胞のように機械的ストレスを受ける組織にある細胞同士の結合を助けている。影響を受ける可能性があるデスモソームタンパク質として,プラコフィリン,デスモプラキン,デスモグレインなどがある。これらのタンパク質に異常があると,機械的ストレス(例,長時間の労作などによる心仕事量の増加)による損傷を受けやすくなる。そのような損傷が修復されることで筋細胞が線維脂肪組織に置換されるが,これは右室流出路と右室流入路と右室心尖部で作られる三角形の領域に優位にみられるほか,ときに左室後壁外側が優位であったり,左室後壁外側のみにみられることもある。疾患としての臨床像は電気生理学的変化と構造的変化の両方の結果であり,最初は心室性期外収縮と心室性頻拍性不整脈として顕在化するが,最終的には右室の構造的異常(例,拡張および菲薄化)を引き起こして,うっ血性の右室心筋症に至る。障害が両心室に及ぶ場合や左室優位の場合には,左室心筋症が発生することもある。
最も頻度が高いのは常染色体顕性(優性)の形式で遺伝する変異(浸透度は様々)であるが,常染色体潜性(劣性)変異も知られている。ARVCの発生率には地域差があり,2000~5000人当たり1例である(1)。持続的で激しい労作(例,持久系スポーツ)は,疾患の発症および進行を早めると考えられている。
総論の参考文献
1.Krahn AD, Wilde AAM, Calkins H, et al.Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy. JACC Clin Electrophysiol 2022;8(4):533-553.doi:10.1016/j.jacep.2021.12.002
ARVCの症状と徴候
患者は無症状のこともあるが,症候性の場合の初発症候は通常,心室頻拍(VT),心室細動(VF),または突然死である。ARVCは若年成人の突然死の約10%の原因となっている(1)。心室性頻拍性不整脈は,特に精神的または身体的ストレス下にあるときに起こりやすくなる。
動悸や失神がみられることもある。
心房細動に加えて右室または左室収縮不全の徴候を認めるのは,通常は進行した臨床像である。
症状と徴候に関する参考文献
1.Krahn AD, Wilde AAM, Calkins H, et al.Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy. JACC Clin Electrophysiol 2022;8(4):533-553.doi:10.1016/j.jacep.2021.12.002
ARVCの診断
心電図検査
ときに加算平均心電図検査
心臓画像検査(例,心エコー検査,心臓MRI,右室造影)
ときに右室生検
遺伝子検査
第1度近親者のスクリーニング
ARVCの診断は進行した右室収縮機能障害がない状況では困難であるが,それゆえに本疾患は従来あまり認識されてこなかった。臨床的に明らかな構造的心疾患がない患者で動悸,心臓性失神,記録された心室性頻拍性不整脈,または原因不明の心停止からの蘇生の既往がある場合にはARVCを疑うべきであり,特に若年患者では強く疑うべきである。
ARVCが最初に疑われるのは,患者の心室性不整脈が右室起源であると認識された時点であることが多く,典型的には左脚ブロック型のQRS波と前額面で上向きの軸偏位によって示唆される(後者は,より良性の特発性右室流出路起源心室頻拍[通常はQRS軸が前額面で下方に偏位する]とARVCの鑑別に役立つ)。
不整脈源性心筋症が疑われる患者の初回評価では,病歴聴取,家族歴,心電図検査,2次元心エコー検査,心臓MRIなどを行う。自発的な心室性不整脈が認められない場合は,運動負荷試験,携帯型心電図モニタリング,および/または心臓電気生理検査が必要になることがある。それでも診断に疑いが残る場合は,ほかに加算平均心電図検査,心臓電気生理検査,右室心内膜心筋生検なども行われることがある(1)。右室造影はルーチンでは行われないが,施行すれば特徴的な構造的異常が明らかになることがあり,右室生検も可能になるが,生検所見はしばしば非特異的であり,生検が施行されるのはまれである。
単一の検査で診断を下すことはできないため,国際的なタスクフォースにより,大診断基準および小診断基準が提案されている(2)。具体的には以下の診断基準がある:
画像検査での右室疾患の所見
右室生検で筋細胞が線維組織,脂肪組織,またはその両方に置換されている
右側胸部誘導でのT波逆転を含む心電図の再分極期の変化
右側胸部誘導でのε波を含む心電図の脱分極期の変化
加算平均心電図で遅延電位を認める
右室起源の心室性不整脈の記録
ARVCまたは突然死の家族歴
ARVCに関連する遺伝子変異の同定
鑑別診断で考慮すべき重要な疾患は,心臓サルコイドーシス,スポーツ心臓,心筋炎,および特発性右室流出路起源心室頻拍である。
ARVCが疑われる患者では通常,遺伝子検査を行う。タスクフォースの基準を満たした場合の検出率は約50%である(3)。
患者の第1度近親者は有意な疾患リスクを有する。臨床的評価(不整脈を示唆する症状を検出する),心電図検査,携帯型心電図モニタリング,および心エコー検査を10~12歳から開始し,その後はこれを1~3年毎に行うべきである。発端者で変異が同定されている場合は遺伝子検査を行う。発端者にみられる変異をもたない家系員にはそれ以上のフォローアップは不要である。
診断に関する参考文献
1.Towbin JA, McKenna WJ, Abrams DJ, et al: 2019 HRS expert consensus statement on evaluation, risk stratification, and management of arrhythmogenic cardiomyopathy. Heart Rhythm 16(11):e301–e372, 2019.doi:10.1016/j.hrthm.2019.05.007
2.Corrado D, Anastasakis A, Basso C, et al: Proposed diagnostic criteria for arrhythmogenic cardiomyopathy: European Task Force consensus report. Int J Cardiol 395:131447, 2024.doi:10.1016/j.ijcard.2023.131447
3.Ackerman MJ, Priori SG, Willems S, et al: HRS/EHRA expert consensus statement on the state of genetic testing for the channelopathies and cardiomyopathies this document was developed as a partnership between the Heart Rhythm Society (HRS) and the European Heart Rhythm Association (EHRA). Heart Rhythm 8(8):1308–1339, 2011.doi:10.1016/j.hrthm.2011.05.020
ARVCの治療
過度の身体活動を控える
しばしば植込み型除細動器(ICD)
通常はβ遮断薬
ときに抗不整脈薬(特にソタロールまたはアミオダロン)
必要に応じて心不全の治療(移植を含む)
ARVCの治療では,突然死の予防と症候性の心室性頻拍性不整脈の予防に重点を置く。
持久系スポーツは疾患の進行と生命を脅かす不整脈の発生の両方を助長するため,患者はこれを避けるべきである。これらのリスクは,男性患者と進行した(タスクフォースの基準をより多く満たすことが証拠となる)患者でより高い(1)。
生命を脅かす不整脈の初回発症の5年リスクは約2~50%であり,年齢,性別,診断後1年以内の心臓性失神の有無,非持続性VTの有無,心室性期外収縮の頻度,T波逆転の程度,および右室駆出率に依存する。生命を脅かす不整脈を発症したことがない患者を対象とするオンラインのリスク計算ツールが利用可能である(https://www.ARVCrisk.com)。
突然死の予防はICDによる(ICDの適応の表も参照)。以下がみられるARVC患者にはICDが推奨される(1):
蘇生された心停止の既往
血行動態不安定を伴う持続性VTの既往
重度の右室(または左室)収縮機能障害
判断は分かれるが,血行動態の不安定性を伴わない持続性VTの既往(クラスIIaの適応)
判断は分かれるが,心室性不整脈が原因である可能性が疑われる失神(クラスIIaの適応)
判断は分かれるが,心室性不整脈の主要および軽微な危険因子の様々な組合せ(クラスIIaおよびクラスIIbの適応)
有意な右室または左室機能障害には薬物療法が必要である。大半の患者にβ遮断薬を使用すべきである。
フレカイニドまたはIII群抗不整脈薬(特にソタロールまたはアミオダロン)による不整脈治療は,症候性の心室性頻拍性不整脈を減少させる可能性があるが,ICDの代用にはならない。しかしながら,β遮断薬による十分な治療にもかかわらず,頻回の適切なICD放電がみられる患者では,これらの薬剤が有益となる可能性がある。このような患者には不整脈源性基質に対する経カテーテルアブレーションも有用となる可能性がある(1)。
治療に関する参考文献
1.Towbin, JA, McKenna WJ, Abrams DJ, et al: 2019 HRS expert consensus statement on evaluation, risk stratification, and management of arrhythmogenic cardiomyopathy.Heart Rhythm 16:e301–e372, 2019.doi: 10.1016/j.hrthm.2019.05.007
要点
不整脈源性右室心筋症は,心筋細胞が線維脂肪組織に置換される遺伝性疾患であり,不整脈,やがては右室不全につながる。
持久運動をする患者では疾患の進行がより速い。
診断は,臨床所見,心電図所見,心臓画像検査,および遺伝子検査を考慮したコンセンサス基準に基づく。
第1度近親者には疾患の有意なリスクがあり,初回スクリーニングおよび定期的な検査が必要である。
治療では,過度の身体活動を控え,β遮断薬を使用するほか,しばしばICDが必要となる。



