リンパ系フィラリア症は、それぞれが回虫(線虫)の一種であるバンクロフト糸状虫(Wuchereria bancrofti)、マレー糸状虫(Brugia malayi)、チモール糸状虫(Brugia timori)によって引き起こされる感染症です。
リンパ系フィラリア症は、寄生虫が感染した蚊を介して人に感染します。
発熱、リンパ節の腫れ、四肢や鼠径部の痛み、慢性的な感染症になると、外観を損なうような腫れが持続的に起こります。
この感染症は、血液や組織のサンプル中に幼虫(ミクロフィラリア)が特定されると診断が下されます。
通常は、血液中の未熟な幼虫や成虫の一部を死滅するジエチルカルバマジンという薬で治療します。
蠕虫(ぜんちゅう)とは、人にも動物にも感染しうる寄生虫のことです。蠕虫には3種類あり、それらは吸虫(ジストマ)、条虫(絛虫)、回虫(線虫)です。バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、チモール糸状虫は、それぞれが糸状虫と呼ばれる回虫の一種です。
リンパ系フィラリア症は、バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、またはチモール糸状虫によって引き起こされます。バンクロフト糸状虫は、アフリカ、アジア、太平洋諸島、ハイチを含む南北アメリカ大陸の熱帯地域や亜熱帯地域に生息しています。マレー糸状虫チモール糸状虫は、南アジアと東南アジアでよくみられます。
世界保健機関(WHO)は、2000年にリンパ系フィラリア症撲滅のためのグローバルプログラムを開始しました。その結果、感染が発生する地域では、該当する人々に毎年大規模な治療を施すことで、感染拡大の阻止を大きく進展させることができました。2018年時点で、約5,100万人が感染しており、これはプログラム開始以来74%の減少になります。2023年には、39ヵ国で6億5,700万人以上が、感染の拡大を阻止するためのこの予防的治療を必要としました。
(寄生虫感染症の概要も参照のこと。)
リンパ系フィラリア症の伝播
リンパ系フィラリア症は、感染した蚊が人を刺し、皮膚に幼虫を付着させることにより人に感染します。幼虫はリンパ節を含むリンパ系に移動し、その中で成虫に成熟します。バンクロフト糸状虫のメスの成虫は、7.5~10センチメートルの長さになります。
メスの成虫は数百万匹の幼虫(ミクロフィラリアと呼ばれます)を産み、これが血流やリンパ系を循環します。蚊が感染者を刺し、その際にミクロフィラリアを取り込むことで感染が広がります。蚊の体内で、ミクロフィラリアは感染力のある幼虫に成長します。この蚊がまた別の人を刺すことで、幼虫の感染を広げます。
リンパ系フィラリア症の症状
リンパ系フィラリア症の症状は糸状虫の成虫によって引き起こされます。ミクロフィラリアは症状を引き起こさず、寄生虫が流行する地域を離れると、徐々に血流から消えていきます。
感染初期(急性)
感染の初期には、発熱、脇の下や鼠径部のリンパ節の腫れ、四肢や鼠径部の痛みが4~7日間続くことがあります。膿が脚にたまり、皮膚表面から排出されて瘢痕になることがあります。
この糸状虫がリンパ管(リンパ液と呼ばれる体液を体中に運ぶ管)を塞ぐため、皮膚や皮下組織の細菌感染症が起こる可能性が高くなります。この閉塞により、免疫系が皮膚や近くの組織を細菌から守る能力が低下します。
多くの場合、症状は消失してから再発します。この病気は、その地域に住んでいない人が初めてこの感染症にかかった場合に重症化します。
慢性感染
長年の感染後、閉塞したリンパ管が広がります。ほとんどの人では症状がみられません。しかし、少数の人では、リンパ管が広がって腫れ、徐々に永久的な状態(慢性)になります。脚に最もよく現れますが、腕、乳房、陰部が侵されることもあります。このリンパ浮腫と呼ばれる腫れは、以下の理由で起こります
成虫がリンパ系に生息するため、組織からのリンパ液の排出量が減り、体液が溜まることで組織が腫れます
糸状虫が免疫系からの反応を誘発し、炎症や腫れを引き起こします
リンパ浮腫があると、皮膚がスポンジのように弾力を失います。皮膚を指で押さえると、すぐには消えないくぼみ(圧痕と呼ばれます)ができます。慢性の圧痕性リンパ浮腫によって、皮膚が硬く厚くなる(象皮病と呼ばれます)ことがあります。象皮病は脚や、ときには腕、ときには陰嚢に起こることがあります。
リンパ系フィラリア症の患者では、皮膚の細菌感染症や真菌感染症がよくみられます。これらの感染症は、寄生虫による炎症とともに、痛みや不快感を引き起こすことがあります。これらの感染症もリンパ浮腫が発症する一因になります。
軽度の関節痛や血尿がみられる場合もあります。
一般的ではありませんが、肺が血流中のミクロフィラリアに侵され、肺の熱帯性好酸球増多症と呼ばれる病気になることもます。微熱、息切れ、せき、喘鳴がみられることがあります。感染が持続すると、正常な肺組織の瘢痕化(線維症)が起こることがあります。
これは、リンパ系フィラリア症の男性の下肢および陰嚢に発症した重度のリンパ浮腫の写真です。慢性的な腫れにより、皮膚が硬く厚くなる象皮病と呼ばれる病気が引き起こされました。
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リンパ系フィラリア症の診断
血液サンプルや生検サンプルの検査
血液検査
血液サンプルや、顕微鏡で調べたリンパ組織の生検サンプル中にミクロフィラリアが特定されると、リンパ系フィラリア症の診断が下されます。
超音波検査を行うと、幅の広がったリンパ管内で成虫が動いているのを確認することができます。
この糸状虫に対する抗体や糸状虫の抗原を特定するために、血液検査が行われることもあります。抗体は、寄生虫などによる感染から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質のことです。抗原は、線虫によって生成される物質で、体内で免疫反応を引き起こす可能性があります。(微生物に対する抗体や微生物の抗原を調べる検査も参照のこと。) しかし、血液検査ではリンパ系フィラリア症を引き起こす寄生虫とその他の寄生虫を区別できず、また、過去の感染症と現在のものとを区別できないため、実施する価値は限定されます。
リンパ系フィラリア症の治療
ジエチルカルバマジン
長期的な問題の治療
通常、医師はリンパ系フィラリア症の患者に対し、ジエチルカルバマジンを処方します。この薬は1日または12日間、経口で服用します。この薬でミクロフィラリアと一部の成虫を死滅させることができます。ジエチルカルバマジンに加えて、ドキシサイクリンやアルベンダゾールなどの薬を投与することもあります。
医師は、ジエチルカルバマジンによる治療を行う前に、ロア糸状虫症とオンコセルカ症(河川盲目症)と呼ばれる他のフィラリア感染症がないかを確認します。これは、ジエチルカルバマジンがロア糸状虫症とオンコセルカ症を併発している人に重篤な副作用を引き起こすことがあるためです。
長期的な問題の治療
慢性リンパ浮腫には綿密なスキンケアが必要になります。皮膚を傷つけないように注意し、小さな切り傷や擦り傷も十分に洗浄しなければなりません。このようなケアは細菌感染症の予防に役立ちます。
腫れは、患部のある腕や足の周囲に弾性包帯を巻くか、心臓より高く上げることによって軽減することがあります(慢性リンパ浮腫治療も参照のこと)。
陰嚢の腫れなどの象皮病が重度の場合は、リンパ系の排出を改善するために手術を行うことがあります。
細菌による皮膚感染症では、経口の抗菌薬による治療が行われます。抗菌薬は象皮病の進行を遅らせたり予防したりすることがあります。
肺の問題には、ジエチルカルバマジンを14~21日間服用します。しかし、約25%の人に再発が起こります。その場合は、治療を繰り返す必要があります。
リンパ系フィラリア症の予防
蚊に咬まれる回数を減らすには、以下を行うことができます。
露出した皮膚に防虫剤を使用する
殺虫剤のペルメトリンでコーティングされた衣類を身につける
ゆったりとしたフィット感の長袖シャツと長ズボンを着用する
寝具の上に蚊帳を吊るす
リンパ系フィラリア症の流行する地域では、世界保健機関のリンパ系フィラリア症撲滅のためのグローバルプログラムがさまざまな投薬計画を使用して感染拡大の防止に努めています。これらの薬は感染者の血液中のミクロフィラリアの数を減らすため、蚊が媒介する感染を減らすことができます。



