嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)は、特定の分泌腺が異常に粘り気の強い分泌物を生産し、それによって組織や器官、特に肺や消化管が損傷を受ける遺伝性疾患です。
嚢胞性線維症は、親から受け継いだ異常遺伝子によって嚢胞性線維症に関連するタンパク質の機能に変化が生じ、粘り気の強い濃厚な分泌物が肺やその他の臓器を詰まらせることで引き起こされます。
典型的な症状としては、腹部膨満、軟便、体重増加不良のほか、せき、喘鳴(ぜんめい)などがあり、生涯にわたって気道感染症が頻繁にみられます。
診断は汗検査や遺伝子検査の結果に基づいて下されます。
米国では、この病気の患者の半数以上が成人です。
治療としては、抗菌薬、気管支拡張薬、肺の分泌物を薄める薬剤の投与、呼吸の問題に対する気道クリアランス手技、消化障害に対する膵酵素やビタミンの補充のほか、特定の異常遺伝子がみられる患者では嚢胞性線維症に関連するタンパク質の機能を改善するための薬剤の投与などがあります。
一部の患者には肝移植と肺移植が必要です。
嚢胞性線維症は、短命の原因となる遺伝性疾患です。米国では、この病気は白人の乳児の約3300人に1人、黒人の乳児の約1万5300人に1人の割合で発生します。アジア系の人にみられることはまれです。米国には約40,000人の嚢胞性線維症患者が住んでおり、世界中で約105,000人が嚢胞性線維症と診断されています。治療の進歩により、嚢胞性線維症の人の余命が伸びているため、米国では嚢胞性線維症の患者のほぼ60%が成人です。嚢胞性線維症の発生率は男児と女児で同程度です。
図のセクションAは、嚢胞性線維症によって影響を受ける可能性のある臓器(副鼻腔、肺、皮膚、肝臓、膵臓、腸、生殖器)を示しています。
セクションBは、壁に粘液の薄い層がある正常な気道を示しています。
セクションCは、嚢胞性線維症を伴う気道を示しています。気道が広がると、血液や細菌を含む粘り気の濃い粘液でふさがれます。
出典:National Heart, Lung, and Blood Institute; National Institutes of Health; U.S. Department of Health and Human Services.
嚢胞性線維症の原因
遺伝子異常
嚢胞性線維症は、両親からそれぞれ受け継いだ2本の染色体にある特定の遺伝子の両方に異常(突然変異)がある場合に発生します。この遺伝子は嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)と呼ばれます。CFTR遺伝子の変異にはいくつかの種類があります。例えば、最も一般的なものはF508del変異と呼ばれています。CFTR遺伝子は、塩化物イオン、重炭酸イオン、およびナトリウムイオンが細胞膜を越えて移動する量を調節するタンパク質の生産を制御しています。CFTR遺伝子の変異が原因でタンパク質が正常に機能しなくなります。タンパク質が正しく機能しないと、塩化物イオン、重炭酸イオン、およびナトリウムイオンの移動が阻害されるため、体中の分泌物の濃度が高くなって粘り気が強くなります。
全世界で、白人の約4%は、CFTR遺伝子の片方に異常があります。遺伝子の片方に異常がある人はキャリアと呼ばれますが、それだけで病気になるわけではありません。この遺伝子の2つの異常のあるコピーを遺伝すると、嚢胞性線維症を発症します。
分泌物の異常
嚢胞性線維症は、全身の多くの器官に影響を与え、管の中に液体を分泌する外分泌腺のほぼすべてが障害を受けます。
影響を最も受けやすい器官は以下の通りです。
肺
膵臓
腸
肝臓と胆嚢
生殖器
肺は、出生時点では正常ですが、その後、粘り気の強い分泌物によって粘液の栓ができ、細い気道をふさぐようになるため、いつでも呼吸障害が起こる可能性があります。この粘液の栓により慢性的な細菌感染症や炎症が生じ、気道に永続的な損傷(気管支拡張症)を引き起こします。これらの障害によって呼吸がますます困難になり、血液中に酸素を取りこむ肺機能が低下します。また、細菌による呼吸器感染症(副鼻腔が侵されます)も頻繁にみられます。
膵臓では、膵管がふさがれると消化酵素が小腸に届かなくなります。これらの酵素がないと、脂肪、タンパク質、ビタミンなどの吸収が悪くなります(吸収不良)。この結果、栄養が不足して、発育が遅れる原因となることがあります。最終的には膵臓が瘢痕化して、もはや十分なインスリンを産生できなくなり、糖尿病になる患者もいます。ただし、嚢胞性線維症で特定の遺伝子変異がある患者の少数では、膵臓に由来する消化の問題は生じません。
腸が粘り気の強い分泌物でふさがれることもあります。胎児の消化管の内容物(胎便と呼ばれます)の異常な粘り気のため、この閉塞は出生後すぐの段階でよくみられます。このような閉塞を、小腸の場合は胎便性イレウス、大腸の場合は胎便栓症候群といいます。年長児や成人では、便秘や腸の閉塞が起こることもあります(遠位腸閉塞症候群)。
粘り気の強い分泌物によって、肝臓および胆嚢が詰まることもあり、最終的に肝臓の瘢痕化を引き起こします(線維化)。胆石が生じることがあります。
粘り気の強い分泌物によって生殖器が詰まることもあり、不妊の原因となります。ほとんどすべての男性患者が不妊となりますが、女性患者が不妊になることははるかにまれです。
汗腺からは正常時よりも塩分を多く含んだ液体が分泌されるため、脱水症のリスクが高まります。
嚢胞性線維症の症状
嚢胞性線維症の症状は年齢によって様々です。
新生児および乳幼児
嚢胞性線維症の新生児の約20%に胎便性イレウスがみられます。胎便性イレウスは、嘔吐、腹部の膨隆(膨満)、排便の欠如などの原因になります。胎便性イレウスでは、ときに腸の穿孔が合併することがあります。これは感染や腹膜炎(腹腔および腹部臓器を覆っている組織の炎症)を引き起こす危険な状態で、治療しなければショックを起こし死に至ります。腸のねじれ(腸捻転)や腸の発育不良がみられる新生児もいます。胎便性イレウスの新生児では、ほとんどの場合、別の嚢胞性線維症の症状が現れます。
胎便性イレウスにならなかった乳児では、嚢胞性線維症の最初の症状として、出生時にいったん体重が減少した後になかなか回復しない、あるいは生後4~6週間で体重が十分に増えないことがよくみられます。この体重増加の不良は、膵酵素の量が不十分なことに関連するもので、栄養素を十分に吸収できないことが原因です。この病気の乳児では、悪臭のする脂ぎった大量の排便(脂肪便と呼ばれます)が頻繁にみられ、腹部の膨れ(腹部膨満)がみられることもあります。食欲が正常または旺盛であっても、治療しなければ体重はゆっくりとしか増加しません。
年長児および成人
新生児スクリーニングで嚢胞性線維症と診断されない場合、この病気の約半数の小児は、頻繁なせき、喘鳴、気道感染症などで初めて医師を受診します。せきは最も気づきやすい症状で、しばしば吐き気、嘔吐、睡眠障害などを伴います。呼吸困難または喘鳴、あるいはその両方がみられる小児もいます。病気が進行するにつれて、小児の運動耐容能が低下し、肺の感染症の頻度が高くなる傾向がみられ、胸部がたる状になり、酸素不足によって指がばち状になる場合(「ばち指」を参照)や爪の下にある皮膚(爪床)が青っぽくなる場合があります。鼻にポリープができることもあります。副鼻腔が粘り気の強い分泌物で満たされ、感染し、副鼻腔炎が慢性化したり、再発を繰り返したりすることがあります。
年長の小児や成人では便秘や腸の閉塞がみられ、腸の閉塞は再発を繰り返すか、ときに慢性になることもあります。排便パターンの変化、けいれん性の腹痛、食欲減退、ときに嘔吐が症状としてみられます。小児および成人で、胃食道逆流症が比較的よくみられます。
嚢胞性線維症の小児や成人が、暑い日や発熱時に大量の汗をかいた場合、体内の塩分や水分が不足して脱水症になることがあります。小児の皮膚に塩の結晶がみられたり、塩辛かったりすることに親が気づくこともあります。
青年の場合、成長が遅く、思春期の遅れがみられることがよくあります。
病気が進行するにつれて、再発性肺感染症が大きな問題となり、肺に持続的な損傷を引き起こします。
嚢胞性線維症の合併症
嚢胞性線維症には多くの合併症があります。
脂溶性のビタミンA、D、E、Kの吸収が不十分になって、夜盲症、骨減少症(骨密度が低下する)、骨粗しょう症、貧血、出血性疾患が起こることがあります。治療を受けていない乳幼児では、直腸の内層が肛門から飛び出す直腸脱と呼ばれる病態がみられることがあります。まれですが、嚢胞性線維症の乳児はタンパク質を十分に吸収できないため、大豆乳や低アレルゲン乳で育てると、貧血や四肢のむくみがみられることがあります。
進行した嚢胞性線維症の青年や成人の合併症として、胸膜腔(肺と胸壁の間にあるすき間)に向かって肺胞(肺にある空気の袋)が破裂してしまうこともあります。この結果、空気がそのすき間に入り込み、肺がつぶれる気胸が起こります。その他の合併症には、心不全、気道内の大量出血や再発性の出血などがあります。
嚢胞性線維症の青年の20%と成人の最大50%が糖尿病を発症し、インスリン投与が必要になりますが、これは瘢痕化した膵臓が十分なインスリンを産生できなくなるためです。
胆管が粘り気の強い分泌物でふさがれると炎症が生じることがあり、最終的には嚢胞性線維症の患者の約3~4%に肝臓の瘢痕化(肝硬変)が発生します。肝硬変になると、肝臓に流れ込む静脈の血圧が上昇して門脈圧亢進症となることがあります。この状態になると、食道の下端にある静脈が拡張してもろくなり、食道静脈瘤が形成され、これが破裂してひどい出血を起こすおそれがあります。
嚢胞性線維症では、ほぼすべての患者の胆嚢は小さくて、粘り気の強い胆汁で満たされているため、ほとんど機能しません。一部の患者に胆石ができますが、症状がみられる患者の割合はわずか数パーセントです。手術による胆嚢の切除が必要になることはまれです。
嚢胞性線維症の患者では、生殖機能の障害がよくみられます。ほぼすべての男性が、精巣の管(精管)の片方の発育が異常で、精子の移動が妨げられるため、精子の数が減少するか存在しない状態となり不妊症になります。女性では、子宮頸部の分泌物の粘り気が強すぎるため、妊よう性が低下します。しかしながら、この病気の多くの女性が、満期まで妊娠を持続しています。その妊娠の結果として、母体と新生児がどうなるかについては、しばしば妊娠中の母体の健康状態に関連します。その他の性機能には、男女とも異常はみられません。
他の合併症としては、関節炎、慢性の痛み、睡眠障害、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、腎結石、腎疾患、抑うつおよび不安などのほか、耳に損傷を与える薬剤(特にアミノグリコシド系薬剤)による感音難聴や耳鳴り、慢性副鼻腔感染症、そして胆管、膵臓、腸管にがんができるリスクが高くなることなどが挙げられます。
嚢胞性線維症の診断
新生児スクリーニング検査
汗試験
遺伝子検査
キャリア・スクリーニング
その他の検査
新生児スクリーニング
嚢胞性線維症のスクリーニング検査は、米国や、嚢胞性線維症の検査が可能な世界の他の地域のすべての新生児を対象に行われます。少量の血液をろ紙片に採取し、トリプシン(膵臓からの消化酵素)の濃度を測定します。血液中のトリプシン濃度が高い場合、米国の一部の州では再検査が必要です。いずれの場合でも、トリプシン検査が陽性の新生児では、汗の検査や遺伝子検査(DNA検査)などの確認検査を行います。嚢胞性線維症のほとんどが新生児スクリーニングで見つかっています。
新生児スクリーニングを受けなかった場合、嚢胞性線維症の診断は、乳児期または小児初期に確定するのが普通ですが、青年期または成人初期まで発見されないことも時折あります。
汗試験
新生児スクリーニング検査で陽性と判定された新生児と、嚢胞性線維症が疑われる症状がみられる乳児や小児および成人に対して、汗試験が行われます。この検査(外来で行われます)では、汗の中の塩分の量を測定します。まず、ピロカルピンという薬を皮膚の上に貼って発汗を促し、ろ紙または細いチューブを皮膚に押し付けて汗を集めます。それから、汗に含まれる塩分濃度を測定します。嚢胞性線維症の症状がある人や嚢胞性線維症の兄弟姉妹がいる人では、塩分濃度が正常値よりも高いことで嚢胞性線維症の診断が確定します。この検査は、生後48時間を過ぎた新生児であればいつでもできますが、生後約2週間に満たない新生児では、検査に必要な量の汗を採取することが困難な場合があります。
遺伝子検査
新生児スクリーニング検査で陽性になった新生児や、嚢胞性線維症に典型的な症状が1つでもみられる人、嚢胞性線維症の兄弟姉妹がいる人では、CFTR遺伝子の異常を調べる遺伝子検査が診断の助けになる可能性があります。嚢胞性線維症にかかわる遺伝子が両方とも異常(変異)であることが分かれば、嚢胞性線維症の診断と一致します。ただし、診断を確定するためには、汗試験の結果が陽性である必要があります。加えて、一般的な遺伝子検査では、嚢胞性線維症に関係する2000種類を超える変異のすべてを調べるわけではないため、両方の遺伝子に変異が確認されなかったとしても、嚢胞性線維症ではないと断定できるわけではありません(ただし嚢胞性線維症である可能性は非常に低くなります)。出生前の胎児でも、絨毛採取や羊水穿刺で得た組織の遺伝子検査を行うことでこの病気を診断できます。
新生児スクリーニング検査で嚢胞性線維症であるとの結果を得た乳児の一部では、たとえ汗試験や遺伝子検査を行った後であっても、分類が難しい場合があります。例えば乳児に、嚢胞性線維症に関連する症状がみられない、汗試験の結果が正常値と異常値の間にある、嚢胞性線維症にかかわる遺伝子の変異が1つしかみられないかまったくみられない場合などです。このグループに属する場合、CFTR遺伝子関連メタボリックシンドローム(CFTR-related metabolic syndrome[CRMS];cystic fibrosis screen positive, inconclusive diagnosis[CFSPID]とも呼ばれます)と診断されます。このような乳児のほとんどは健康な状態を維持するものの、一部(10%以下)のケースでは後に嚢胞性線維症に関連する症状がみられるようになり、嚢胞性線維症または嚢胞性線維症関連疾患と診断されます。ゆえに、このグループに属する小児はすべて、嚢胞性線維症のケアセンターにて定期的に経過観察を行う必要があります。
中には、1つの臓器のみに症状がみられる人がおり(通常は成人)、多くの場合、汗試験の結果が中間で、嚢胞性線維症を引き起こす変異が両方そろっていません。例えば、症状が膵臓のみ(膵炎を引き起こす)、肺のみ(気管支拡張症を引き起こす)、あるいは男性の生殖器のみ(不妊症を引き起こす)に生じることがあります。それらはCFTR関連疾患と診断されます。
保因者検査
子どもをもうけたいと考えている人や、出生前ケアを受けたいと考えている人は保因者検査を受けることができます。特に、近親者に嚢胞性線維症を発症した小児がいる場合、自分たちに同じ病気の子どもが生まれるリスクが高いかどうか知りたいと考えるのはもっともなことであり、心配であれば遺伝子検査やカウンセリングを受けるべきです。嚢胞性線維症にかかわる遺伝子に異常(変異)があるかどうか判定するために、血液サンプルを採取します。
両親ともに嚢胞性線維症にかかわる遺伝子の少なくとも片方に変異が認められない限り、子どもが嚢胞性線維症になることはありません。両親ともに嚢胞性線維症にかかわる遺伝子の片方に異常がある場合、妊娠すれば25%の確率で嚢胞性線維症の子どもが生まれ、50%の確率で異常遺伝子を保有する子どもが、また25%の確率で異常遺伝子を保有しない子どもが生まれます。
その他の検査
嚢胞性線維症は様々な器官に影響を及ぼす可能性があるため、他の検査が診断に有用である場合があります。膵酵素の濃度は通常低下しており、便検査では消化酵素であるエラスターゼ(膵臓から分泌される)の濃度低下や検出不能が認められ、便中脂肪量の増加が明らかになることがあります。膵酵素の濃度が最初は正常であっても、嚢胞性線維症が進行するにつれて変化することがあるため、定期的に測定します。
インスリンの分泌量が低下しているかどうか、血糖値が上昇しているかどうかを確認するために血液検査が行われます。肝臓の異常を調べる検査や脂溶性ビタミンの濃度を測定するための血液検査も行われます。
通常、医師はのどやせきで出てくるたんなどの物質のサンプルを採取し、培養して気道の細菌を特定しますが、これはどの抗菌薬が必要かを医師が決める助けになります。
肺機能検査で呼吸障害が明らかになることがあるため、この検査は肺機能の程度を示すよい指標となります。こうした検査は一般的に年に数回、および健康状態が悪化した場合はいつでも行います。
また、胸部X線検査や胸部CT検査は、肺感染症や肺の損傷範囲を確認するのに有用になる場合があります。副鼻腔に重篤な症状がある場合、特に鼻茸(はなたけ)がみられる場合や手術が検討されている場合には、副鼻腔のCT検査が行われます。
嚢胞性線維症の治療
定期予防接種
抗菌薬、気道の分泌物を薄めるための吸入薬、気道の分泌物を除去するための気道クリアランス手技
気道が狭くなるのを予防する薬剤(気管支拡張薬)およびときにステロイド(グルココルチコイドまたはコルチコステロイドとも呼ばれます)
膵酵素およびビタミンサプリメント
高カロリー食
特定の変異がみられる場合には、CFTR修飾薬
嚢胞性線維症の患者にはこの病気の治療経験が豊富な医師によって管理された包括的な治療プログラムが必要です。通常は小児科医や内科医に加え、他の専門医、看護師、栄養士、呼吸療法士または理学療法士、そして理想的にはソーシャルワーカー、遺伝カウンセラー、薬剤師、および精神医療の専門家などがチームに加わります。治療の目的には、肺疾患や消化器疾患、その他の合併症の長期的な予防と治療、良好な栄養状態の維持、身体活動の促進などがあります。
嚢胞性線維症の小児は、普通の小児が行う活動に参加できずそのため疎外感を覚えることがあるため、精神的・社会的な支援が必要な場合があります。嚢胞性線維症の小児の治療に伴う負担のほとんどが親にかかってくるため、病気のメカニズムや治療の意味づけを理解できるよう、親は十分な情報提供やトレーニング、そしてサポートを受ける必要があります。
青年には、独り立ちして自分自身のケアに責任をもてるよう、助言と教育が必要です。
成人では、雇用、パートナーなどとの関係、健康保険、そして健康状態の悪化などの問題に対応できるよう、サポートが必要になります。
肺に対する治療
肺疾患の治療は、以下に重点が置かれます。
気道の閉塞を防ぐ
感染症を管理する
患者は、すべての定期予防接種、特にインフルエンザ菌、インフルエンザウイルス、麻疹、百日ぜき、肺炎球菌、水痘、COVID-19などの呼吸器の問題を引き起こす感染症に対する予防接種を受ける必要があります。
気道クリアランス手技には、体位ドレナージ、胸部叩打、振動法、せきの補助などがあり、嚢胞性線維症が初めて診断されたときから始めます(「胸部の理学療法」を参照)。幼児の場合は、親がこれらの呼吸療法のやり方を習得して、毎日家庭で実施します。年長児や成人では、特別な呼吸用の機器や高頻度で振動する膨張式ベスト(high-frequency oscillation vest)のほか、特別な呼吸法を用いて、自分で気道クリアランス手技を行うことができます。有酸素運動を定期的に行うことも、気道のクリアランスを保つ助けになります。
気管支拡張薬は、気道が狭くなるのを防ぐ助けとなる薬剤です。気管支拡張薬は通常は吸入薬として用います。
重い肺疾患がある場合や血液中の酸素レベルが低い場合は、酸素療法が必要になることがあります。
一般的に、慢性の呼吸不全の患者に対する人工呼吸器の使用は有効ではありません。しかし、急性の感染症になった場合や外科手術の後、あるいは肺移植の待機中などでは、入院して人工呼吸器を短期間だけ使用することが有効な場合があります。一部のケースでは、鼻または鼻と口の両方をぴったり覆うマスクを用いることがあります。このマスクを通して、酸素と空気の混合気体を加圧して供給します。この方法は、二相性陽圧換気(BiPAP)または持続陽圧呼吸(CPAP)と呼ばれ、睡眠中に酸素レベルを正常に保つのに役立ちます。
気道の濃い粘液を薄くする薬剤、例えばドルナーゼ アルファや高張食塩水(高濃度食塩水)などが広く使用されています。これらの薬剤はネブライザーで吸入します。これらによって、せきと一緒にたんが吐き出されやすくなり、肺機能が改善するため、重い気道感染症にかかる頻度が低くなることもあります。
プレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)やデキサメタゾンなどのステロイド(ときにグルココルチコイドまたはコルチコステロイドと呼ばれます)の服用によって、気管支に重度の炎症がみられる乳児や、気管支拡張薬では気道の狭窄防ぐことができない場合のほか、ある種の真菌による肺のアレルギー反応(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)がみられる場合に、症状が緩和できます。アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の治療は抗真菌薬の内服もしくは静脈内投与またはその両方によっても行われます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)やマクロライド系抗菌薬であるアジスロマイシンなどの抗炎症薬が、肺機能の悪化を遅らせるために用いられることがあります。
抗菌薬
嚢胞性線維症の患者では、急性および慢性の気道感染症の治療に抗菌薬がしばしば使用されます。吐き出されたたんのサンプルか、のどの奥または扁桃の裏側をぬぐってサンプルを採取し、健康状態が安定している期間と症状が悪化する期間の両方で定期的に検査を行うことで、感染の原因微生物が特定でき、それに対して最も効果がある可能性の高い薬剤を医師が選択できるようになります。黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性株またはメチシリン感受性株を含む)および緑膿菌が一般的にみられる原因菌です。ブドウ球菌による感染症の治療では、経口で投与できる抗菌薬が数多くあります。新たなシュードモナス(Pseudomonas)感染症の治療では、トブラマイシン、アズトレオナム、またはコリスチンが吸入薬で4週間投与されます。
しかし、重症の場合や、症状や肺の機能が著しく悪化した場合には、抗菌薬の静脈内投与が必要になることもあります。この場合、アミノグリコシド系のトブラマイシン(またはときにアミカシン)という抗菌薬が、シュードモナス属(Pseudomonas)の細菌を特に標的とする別の抗菌薬とともに投与されます。この種の他の抗菌薬としては、セファロスポリン系薬剤、ペニシリン、フルオロキノロン系薬剤、およびモノバクタム系薬剤などがあります。抗菌薬による治療では、しばしば入院が必要になりますが、治療の一部を自宅で行うこともできます。
トブラマイシンやアズトレオナムの吸入薬を2カ月毎に長期間使用し、同じく抗菌薬であるアジスロマイシンの経口薬を週に3回、継続して使用することで、慢性のシュードモナス(Pseudomonas)感染症をコントロールし、肺機能の悪化を遅らせるのに役立つ場合があります。
CFTR修飾薬
CFTR修飾薬は、長期的に服用する経口薬で、CFTR遺伝子の変異によってできる異常なタンパク質の機能を改善します。
特定の変異がある人に対し、CFTR調節薬やその組み合わせがいくつかあり、嚢胞性線維症の人の約90%の治療に使用できます。医師は、患者の年齢と変異に基づいてこれらの薬剤を投与します。
イバカフトール(ivacaftor)は、生後1カ月以上で、特定の嚢胞性線維症の変異が少なくとも1コピー認められる場合に投与可能です。
ルマカフトール(lumacaftor)とイバカフトール(ivacaftor)の合剤は1歳以上の嚢胞性線維症の患者で、F508del変異が2コピー認められる場合に投与できます。
テザカフトール(tezacaftor)とイバカフトール(ivacaftor)の合剤は6歳以上で、F508del変異または他の特定の変異が2コピー認められる場合に投与できます。
エレクサカフトール(elexacaftor)、テザカフトール(tezacaftor)、イバカフトール(ivacaftor)の合剤は2歳以上で、F508del変異が少なくとも1コピーまたは特定のまれな変異が1コピー認められる場合に投与できます。
Vanzacaftor(バンザカフトール)、テザカフトール(tezacaftor)、イバカフトール(ivacaftor)の合剤は6歳以上で、F508del変異が少なくとも1コピーまたは特定のまれな変異が1コピー認められる場合に投与できます。
CFTR修飾薬によって、肺機能、膵機能、およびQOLを改善し、体重を増加させ、汗の中の塩分濃度を低下させ、肺感染症の頻度や入院の頻度を減らすことができます。
現在、嚢胞性線維症を引き起こす他の遺伝子変異をもつ患者の助けとなる薬剤の開発が進められています。
浣腸と便軟化剤
食事とサプリメント
正常な発育のためには、食事によって十分なカロリーとタンパク質を摂取する必要があります。膵酵素のサプリメントを摂取している場合でも、消化と吸収が異常である可能性があるため、ほとんどの小児の患者では、発育に支障がでないよう、通常推奨量よりカロリーを30~50%多く摂取する必要があります。脂肪の割合は標準~高めにすべきです。高カロリーの経口サプリメントを利用すれば、小児患者も成人患者も追加でカロリーを摂取できます。
食べものから十分な栄養を吸収できない患者では、胃や小腸に挿入したチューブを通して栄養補給を行う必要があります。
嚢胞性線維症の患者は、吸収しやすくした特殊な製剤で、脂溶性ビタミンA、D、E、Kを1日の通常推奨量の2倍の量を摂取し、これらのビタミンの欠乏症を防ぐべきです。
食欲を刺激する薬剤が役立つ場合があります(ただし、嚢胞性線維症の患者の多くは、そのような薬剤がなくても強い食欲を示します)。運動時や発熱時、気温が高いときは、水分と塩分の摂取量を増やす必要もあります。
膵酵素のサプリメント
嚢胞性線維症によって膵臓に障害が生じている場合は、食事や間食をするたびに膵酵素補充用のカプセルを服用しなければなりません。乳児では、カプセルをあけて中身をアップルソースなどの酸性の食べものと混ぜて与えることで、膵酵素補充用カプセルの特別なコーティングが腸に届く前に溶けてしまわないようにします。一部の人では、ヒスタミンH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などの胃酸を減らす薬剤を服用することで、膵酵素の有効性が改善する可能性があります。タンパク質と脂肪を含んだ特殊な人工乳は消化しやすいため、膵臓に障害があり、発育が遅い乳児に有効な場合があります。
インスリン
嚢胞性線維症の患者で、糖尿病を発症している場合には、インスリンの注射が必要です。糖尿病用の経口薬では十分な治療にはなりません。
インスリンの注射に加え、糖尿病の管理には、栄養カウンセリング、糖尿病自己管理教育プログラム、眼および腎臓の合併症のモニタリングが含まれます。また、糖尿病だけ、あるいは嚢胞性線維症だけを考慮した標準的な食事の推奨内容では不十分なため、特別な栄養カウンセリングが必要です。
手術
その他の治療
副鼻腔の慢性炎症(副鼻腔炎)を治療する薬剤も、副鼻腔炎が非常によくみられるため必要とされます。治療の選択肢としては、食塩水で鼻の中を洗い流す(生理食塩水による鼻洗浄)、ネブライザーを用いて鼻にドルナーゼアルファを吸入する、抗菌薬で鼻および副鼻腔を洗い流すなどがあります。鼻粘膜の炎症および腫れ(アレルギー性鼻炎)の治療には、ステロイドの鼻腔スプレーが推奨されます。
心不全がみられる場合には、体液量を減少させるため、利尿薬を投与します。利尿薬には、腎臓によって体から排泄される水分の量を増やすのを助ける働きがあります。ナトリウム(塩分や多くの食品に含まれる)の摂取量を制限する必要もあります。
ヒト成長ホルモンの注射によって、肺機能が改善し、身長が伸び、体重が増加し、入院の回数が減ることがあります。ただし、この薬剤は投与を受けるのに費用がかかり、問題も生じるため、一般的には処方されません。
終末期の問題
嚢胞性線維症の患者は家族とともに、病気の予後(経過の見通し)やどのような種類の治療を受けたいかについて、主治医やケアチームと話し合う必要があります。このような話し合いをもつことは、肺機能が悪化している場合に特に重要です。将来起こることに備えて、余命を伸ばすためにどのような治療が行われるかを知る必要があります。進行した嚢胞性線維症の患者やその家族は、肺移植における便益と負担の可能性について話し合う必要があります。
嚢胞性線維症の患者には、治療の選択に必要な情報が提供されるべきです。これには、予後を理解し、終末期に関する希望や計画について慎重に、折良く話し合うという複雑なプロセスを通じて、患者を助けることが含まれます。積極的な治療が役に立たなくなった場合には、症状の緩和のみを目的とした治療(緩和ケアと呼ばれます)が開始されることがあります。終末期ケアに関するこのような決断は、必要性が生じる十分前に行っておくとよいでしょう。病気が進行すると、自分の望みを説明できなくなることが多いため、早めに話し合っておくことが非常に重要です。こうした終末期ケアに関する要望を事前に決定するプロセスは事前ケア計画と呼ばれます。この計画には、終末期ケアに関する患者の希望を反映させた適切な法的書面の執行も含めるべきです。
嚢胞性線維症の予後(経過の見通し)
嚢胞性線維症の重症度は、人によって大きく異なり、年齢とは無関係です。主にどれだけ肺が損傷しているかで、重症度が決定されます。米国では、2023年に生まれた嚢胞性線維症の人は約68歳まで生存すると予測されています。生存期間の見通しは確実に長くなってきており、それは主に早期に診断されるようになったことと、肺に生じる異常の一部を治療によって遅らせることが可能になったためです。膵臓に障害が生じなかった患者では、生存期間が著しく長くなります。
しかし、症状の悪化は避けられず、肺機能が失われ、やがて死に至ります。嚢胞性線維症の患者は、一般に肺機能が悪化し始めて何年も経ってから呼吸不全で死亡します。これ以外にも、少数ですが、心不全、肝疾患、気道内の出血、肺や肝臓の移植などの手術の合併症によって死亡することもあります。嚢胞性線維症の患者は多くの障害を抱えながらも、生産的な生活を送り、死亡する少し前まで、たいていの場合は学校や職場に通っています。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こうした情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いかねることをご了承ください。





