心不全

(うっ血性心不全)

執筆者:Nowell M. Fine, MD, SM, Libin Cardiovascular Institute, Cumming School of Medicine, University of Calgary
レビュー/改訂 2022年 9月
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やさしくわかる病気事典

心不全とは、心臓が体の需要を満たせなくなった状態のことで、血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり心臓を硬化させたりする他の変化などを引き起こします。

  • 心不全は心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらの変化は一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。

  • 心臓に影響を及ぼす多くの病気が心不全の原因になります。

  • 多くの場合、最初は無症状で、数日または数カ月の間に徐々に息切れや疲労がみられるようになります。

  • 肺、腹部、または脚に体液が貯留することがあります。

  • 医師は通常、症状から心不全を疑いますが、通常は心機能を評価するために心エコー検査(心臓の超音波検査)などの検査を行います。

  • 治療では、心不全の原因疾患を治療するとともに、生活習慣を改善し、手術を含む処置や薬の使用によって心不全自体を治療することに重点が置かれます。

心不全は年齢を問わず発生し、幼い小児(特に生まれつき心臓に異常がある場合)にも起こります。しかし、高齢者は心不全になりやすい病気(心筋を損傷する冠動脈疾患など)や心臓弁膜症をもっている可能性が高いため、他の年齢層よりはるかに多くの人でみられます。また、加齢に伴う心臓の変化により、心臓の機能が低下する傾向もあります。

米国では、心不全は約650万人にみられ、毎年約96万人で新たに発生しています。世界全体では約2600万人にみられます。余命が長くなり、一部の国では肥満糖尿病、喫煙、高血圧など、心臓病の危険因子をもつ人が多くなっていることから、心不全の患者は増加する傾向にあります。

心不全とは、心臓が停止することではありません。心臓が体のすべての部分に十分な血液を送るために必要な動き(仕事量)を維持できなくなることです。しかし、この定義はいくぶん単純化されています。心不全は複雑な状態で、その原因、病態、分類、予後(経過の見通し)は様々であるため、単純に定義することはできません。

心臓の機能は、ポンプのように血液を送り出すことです。このポンプ機能により、血液をある場所から他の場所に送ります。心臓には以下の機能があります。

  • 心臓の右側部分は静脈から戻ってきた血液を肺に送り出す

  • 心臓の左側部分は、肺から戻ってきた血液を取り込み、動脈を介して体内の他の部分に送り出す

血液は心筋が収縮したとき(収縮期)に心臓から出ていき、心筋が弛緩したとき(拡張期)に心臓に流れ込みます。心不全は、心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生しますが、これらは一般的に、心筋が弱ったり硬くなったりすることが原因で起こります。その結果、十分な量の血液が送り出されなくなります。また血液が組織にたまることで、うっ血が起きる場合もあります。そのため、このような心不全は、うっ血性心不全と呼ばれています。

知っていますか?

  • 心不全はうっ血性心不全と呼ばれることがありますが、これは組織内に血液がたまり、その組織でうっ血を引き起こす場合があるからです。

心臓の左側部分に入ってくる血流が停滞すると、肺にうっ血が起こり、呼吸が苦しくなります。反対に、心臓の右側部分に入ってくる血流が停滞すると、体のあちこち(脚や肝臓など)でうっ血が起きて体液がたまります。心不全は通常、心臓の左右両側にいくらかの影響を及ぼしますが、片側により強く影響が出ることもあります。そのような場合は、右心不全あるいは左心不全と呼ばれることがあります。

心不全になると、心臓が全身で必要とされる酸素や栄養分を供給するのに十分な量の血液を送り出せなくなります。その結果、脚や腕の筋肉が疲れやすくなったり、腎臓が正常に機能できなくなったりします。腎臓は血液をろ過して水分や老廃物を尿として排出する役割を担っていますが、心臓のポンプ機能が不十分になると、腎臓の機能が低下して、血液から余分な水分を取り除くことができなくなります。その結果、全身の血流量が増えることで、弱った心臓にかかる負担が増大するという悪循環が起こります。そのため、心不全はさらに悪化します。

心不全の種類

心不全の種類は駆出率(EF)(1回の心拍で心臓から送り出される血液の割合で、心臓のポンプ機能の指標となる数値)に従って分類されます。左心室の正常な駆出率は約55~60%です。

駆出率が低下した心不全(HFrEF―収縮性心不全と呼ばれることもあります):

  • 心臓の収縮力が弱まり、心臓に戻ってきた血液のうち外に送り出す血液の比率が低下します。そのため、心臓にたまる血液が多くなります。さらに肺や静脈にも血液がたまるようになります。

駆出率が保持された心不全(HFpEF―拡張性心不全と呼ばれることもあります):

  • 心臓が硬くなることで収縮後に十分拡張できなくなり、それにより血液を取り込む能力が低下します。心臓の収縮は正常であるため、正常時と同じ割合で血液を心室から送り出すことができますが、1回の収縮で送り出される血液の量は減少する可能性があります。ときには、血液を取り込む能力の低下を補うために、硬くなった心臓が正常時より高い割合で血液を送り出すようになります。しかし、最終的には収縮性心不全と同じように、心臓に戻るべき血液が肺や静脈の中にたまるようになります。

駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)は新しい概念で、駆出率が保持された心不全と駆出率が低下した心不全の中間に該当する人がこれに含まれます。

心不全:拡張機能障害と収縮機能障害

正常な状態では、心臓は拡張することで血液を取り入れ(拡張期)、収縮することで全身に血液を送り出しています(収縮期)。心臓を構成する4つの部屋(心腔)のうち、血液の拍出を主に担っているは左右の心室です。

収縮機能障害による心不全は、通常は心臓が正常に収縮できなくなることで発生します。その場合、血液を取り込むことはできますが、心筋(心臓の筋肉)の力が弱くなっているため、あるいは心臓弁に機能障害が起きているために、取り込んだ血液を十分に送り出すことができません。その結果、全身や肺に送られる血液量が減少するとともに、通常は心室が拡大します。

拡張機能障害による心不全は、心筋が硬くなり(特に左心室)、心臓が十分な血液を取り込めなくなるために発生します。その結果、血液が左心房や肺の血管の中にたまり、うっ血を起こします。しかし、この状況でも、心臓が血液を取り込む量と送り出す量の比率が正常を維持している場合があります(ただし送り出される血液の総量は減少します)。

心房や心室には常にある程度の血液が入っていますが、この図では、拍動毎に出入りする血液の量が異なることを矢印の太さで示しています。

心不全の原因

心不全の原因はしばしば以下のように分類されます。

  • 心臓に直接影響を及ぼす病気(心原性)

  • 心臓に間接的に影響を及ぼす体の他の部位の病気(非心原性)

心臓に直接的または間接的に影響を及ぼす病気は、どれも心不全の原因になります。急速に心不全を引き起こす病気もあれば、何年もかけて心不全を引き起こす病気もあります。収縮性心不全を引き起こす病気もあれば、拡張性心不全を引き起こす病気もあり、高血圧や一部の心臓弁膜症(心臓弁の病気)などは両方の種類の心不全を引き起こします。

心不全の原因となる心原性の病態

収縮性心不全を引き起こす心臓の病気は、心臓の全体または一部に損傷を与えます。多くの場合、心不全は複数の要因が組み合わさって起こります。

心不全の原因となる一般的な心原性の病態は以下のものです。

心筋が正常に収縮するためには酸素が必要であるため、冠動脈疾患により酸素を豊富に含む血液の流量が減少すると、広範囲の心筋に損傷が生じます。冠動脈が閉塞することで、心筋の一部に重大な損傷を与える心臓発作が発生する場合もあります。その結果、損傷した部分の心筋は正常に収縮できなくなります。

その他の心原性の病態には以下のものがあります。

  • 心筋炎(心臓の筋肉の炎症)

  • 一部の薬剤(例えば、一部の化学療法薬)

  • 一部の毒素(例えば、アルコール)

  • 心臓弁膜症

  • 心腔間の異常な交通(例えば、心室中隔欠損

  • 心臓の刺激伝導系に影響を及ぼし、不整脈を引き起こす病気

  • 一部の遺伝性疾患

  • 心臓が硬くなる病気

細菌やウイルスなどの感染が原因で起こる心筋炎(心臓の炎症)では、心筋の全体または一部に損傷が生じて、心機能が低下します。

がんの治療に使用される薬やある種の有害物質(アルコールなど)が心筋に損傷を与えることもあります。

心臓弁膜症とは、心臓の弁の開口部が狭くなることで心臓を通る血流が妨げられる病気(狭窄症)や、心臓の弁で血液が逆流する病気(逆流症または閉鎖不全症)のことですが、これらの病気も心不全の原因になる可能性があります。弁の狭窄と血液の逆流は、どちらも心臓にとって大きな負担になりますので、次第に心臓が拡大していき、十分に収縮できなくなります。

心臓の左右を隔てる壁に異常な通路(例えば、心室中隔欠損症など)があると、心臓内で血液が再循環するために心臓の負担が増加し、結果として心不全になる可能性があります。

心臓の刺激伝導系に悪影響を及ぼす病気(図「心臓の電気刺激の伝導経路」を参照)により、心拍の変化(特に頻脈などの不整脈)が長期にわたり起こることで、心不全が発生する場合もあります。心拍が異常になると、心臓は血液を十分に送り出せなくなります。

一部の遺伝性疾患は、心臓に影響を及ぼし、心不全を引き起こします。例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、(他の多くの筋肉とともに)心筋の衰弱を引き起こします。ダウン症候群は心臓の先天性の異常を引き起こすことがあります。

心不全は、浸潤や感染のように心臓の壁を硬く変化させる異常によって起こることがあります。例えば、アミロイドーシスでは、アミロイドという異常なタンパク質が全身の組織に入り込みます(浸潤)。このアミロイドが心臓の壁に入り込むと、壁が硬くなり、心不全が起こります。熱帯の国々では、特定の寄生虫が心筋の内部に入り込んで心不全を引き起こすことがあり(シャーガス病など)、これは若い人にも起こります。

収縮性心膜炎では、心臓を包んでいる袋状の膜(心膜)が硬くなり、たとえ心臓が健康であっても、血液の出入りが妨害されます。

知っていますか?

  • 心不全とは、心臓が停止することではありません。心臓が必要とされる機能を維持できなくなったことを意味します。

心不全の原因となる非心原性の病態

心不全の原因となる非心原性の病態で最も一般的なものは、以下のものです。

高血圧があると、正常な状態よりも高い血圧に抵抗して動脈内に血液を送り込まなくてはならないため、心臓にかなりの負荷がかかります。その結果、心臓の壁が厚く(肥大)硬くなります。硬くなった心臓は十分な血液を素早く取り込むことができず、1回の収縮で送り出せる血液の量が少なくなります。糖尿病肥満も、心室の壁が硬くなる原因です。

加齢によっても、心臓の壁は硬くなります。高血圧、肥満と糖尿病の組合せは高齢者によくみられ、これに加齢による心臓の壁の硬化が加わるため、心不全は特に高齢者で多くみられます。

心不全の原因となる非心原性の病態であまり一般的でないものは、以下のものです。

  • 肺に至る動脈内での血圧上昇(肺高血圧。ときに肺塞栓症により引き起こされる)

  • 貧血

  • 甲状腺の病気

  • 腎不全

  • 一部の薬

肺高血圧症などの一部の肺疾患では、肺の血管(肺動脈)が変化したり、損傷したりすることがあります。その結果、肺に血液を供給している心臓の右側部分により大きな負担がかかるようになります。やがて肺性心という状態になり、右心室が拡大して、右心不全になります。

1つまたは複数の血栓が突然、肺動脈を重度に閉塞させることで(肺塞栓症)、肺動脈への血液の送り出しが急激に困難になり、右心不全に陥る場合もあります。

貧血とは、赤血球が重度に欠乏した(赤血球の数が減少した)状態のことです。赤血球は肺から全身の組織へ酸素を運んでいます。貧血になると、同じ量の血液で運ばれる酸素の量が少なくなるため、全身の組織に正常時と同じ量の酸素を供給するのに心臓はより激しく収縮しなければならなくなります。貧血の原因になるものは数多くあり、心不全自体もそれに含まれます。

甲状腺機能亢進症(甲状腺が過剰に活発になる病気)では、心臓が過剰に刺激されて速く拍動しすぎるため、それぞれの拍動で心房や心室から血液が十分に出ていきません。甲状腺機能低下症(甲状腺が不活発になる病気)では、全身の筋肉は甲状腺ホルモンによって正常な機能を維持しているため、心臓を含むすべての筋肉が結果的に弱くなります。

腎不全では、腎臓で血流から余分な水分を取り除けなくなることで、心臓がより多くの血液を送り出さなければならなくなるため、心臓に負担が加わります。最終的に心臓が限界を超えると、心不全に至ります。

非ステロイド系抗炎症薬などの一部の薬は、体内への水分の貯留を引き起こし、それにより心臓の負担を増大させ、心不全を引き起こすことがあります。

加齢に関連する注意点:高齢者における心不全の原因

加齢自体が心不全の原因になるわけではありません。しかし高齢者では、長期間続いている高血圧や冠動脈疾患による心臓発作など、心不全の一般的な原因が存在する可能性が高くなります。

心不全を引き起こす病気には、以下の2通りがあります。これらの病気は以下の心臓の機能を妨げます。

  • 血液を取り込む

  • 血液を送り出す

高齢者では、血液を取り込む機能の異常(拡張機能障害と呼ばれます)と血液を送り出す機能の異常(収縮機能障害と呼ばれます)は、同じくらいの頻度でみられます。

拡張機能障害

拡張機能障害は、心室の壁が硬くなることによって起こります。それにより心室は正常に血液を取り込むことができなくなり、少しの血液しか送り出せなくなります。高齢になるほど心筋が硬くなる傾向があるため、拡張機能障害により心不全が起きる可能性が高くなります。高血圧は、心筋を厚く硬く変化させるため、拡張機能障害を引き起こす可能性があります。

拡張機能障害には、心臓が硬くなること以外の原因もあります。例えば、心房細動(加齢とともに多くみられるようになる不整脈)の場合、心房の拍動は速く不規則になります。そのため、心房が心室に十分な血液を送ることができなくなります。高齢者では心房細動が突然起こり、心不全につながることもあります。

収縮機能障害

収縮機能障害は、通常は心筋の損傷によって起きます。損傷を受けた心臓は送り出せる血液が減り、心臓内の圧力が高まって心房や心室が拡大します。

高齢者における心臓の損傷の最も一般的な原因は、心臓に血液を供給する動脈の閉塞による心臓発作です。

心臓弁膜症も収縮機能障害を引き起こします。

大動脈弁狭窄症(心臓弁膜症の一種)では、左心室と大動脈の間の開口部(大動脈弁)が狭くなります。その結果、心臓が血液を送り出すときの負担が増えます。大動脈弁狭窄症は、高齢者における心不全の一般的な原因です。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)や瘢痕(肺線維症)などの肺疾患が長期化すると、肺の中の血圧が高くなります。その結果、右心室が肺に血液を送り出すことが困難になります。

代償機構

体には心不全による機能低下を補うための仕組み(代償機構)がいくつか備わっています。

ホルモンの反応

心不全を含めた負荷に対する体の最初の反応は、闘争・逃走ホルモンとも呼ばれるアドレナリン(エピネフリン)とノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の分泌です。例えば、心臓発作で心筋が損傷すると、これらのホルモンが直ちに分泌されます。アドレナリンノルアドレナリンも心臓を速く強く拍動させます。まずは、これらのホルモンが心臓から送り出される血液の量(心拍出量)をときに正常な量にまで増やすことで、低下した心機能を補います。

心臓病のない人であれば、短期的に心機能を高めるなど、これらのホルモンの分泌によって有益な変化がもたらされます。しかし、慢性心不全の人では、この反応が持続して起こることで、すでに損傷している心臓にさらに大きな負担がかかります。時間の経過とともに、心臓はホルモンに対しても反応しなくなり、増大した負担によって心機能が低下していきます。

腎臓の反応

心不全で血流が減少したときに働くもう1つの主な代償機構は、腎臓の働きで体内に保持する塩分と水分の量を増加させるというものです。塩分と水分を尿中に排泄せずに体内に保持することで、血液の量が増え、血圧を維持するのに役立ちます。しかし、血液の量が増加すると、心筋が伸びて、心腔(特に心室)が拡大します。当初、心筋は伸びるにつれ、いっそう力強く収縮するようになり、心機能を向上させます。しかし、ある程度伸びてしまうと、伸びすぎた輪ゴムのように、もはや心臓の収縮を助けられなくなり、心臓の収縮力は弱まります。その結果、心不全は悪化します。さらに、塩分と水分が体内に貯まっていくことで、肺などの臓器内で体液のうっ滞が助長され、その結果としても心不全の症状が悪化します。

心臓の肥大

また別の重要な代償機構として、心室の筋肉の壁を厚くする心室肥大があります。心臓が激しく働くと、心臓の壁は数カ月間ウェイトトレーニングをした後の上腕二頭筋のように大きく厚くなります。最初のうちは、心臓が肥大することで、心臓から送り出される血液の量(心拍出量)を維持できるようになります。しかし、肥大した心臓の壁は最終的には硬くなり、心不全の発生や悪化につながります。また、肥大により心臓弁の開口部が伸びると、その弁は機能不全に陥り、収縮機能障害がひどくなることがあります。

心不全の症状

心不全の症状は突然始まる場合があり、特に心臓発作による心不全ではその傾向が顕著です。しかし、ほとんどの人では、心臓に問題が起き始めた時点では症状がみられません。その後、数日から数カ月、ときには数年かけて、徐々に症状が現れてきます。心不全は長い間安定している場合もありますが、知らない間にゆっくり進行することが多いです。しかし、症状のために初めて活動が制限されたときや、安静時にも症状が現れるようになったときなど、症状が突然認識される場合もあります。

よくみられる症状は以下の通りです。

  • 息切れ

  • 疲労

  • 脚のむくみ(浮腫

  • 運動や労作を必要とする他の活動ができない

高齢者の心不全では眠気、錯乱、見当識障害などの漠然とした症状がみられます。

心不全の重症度は通常、患者が日常生活の行動をどの程度良好に行うことができるかに基づいて分類されます。ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類は、患者やそのケアをする人が病気の重症度や生活への影響について理解する上で重要なツールです。

右心不全と左心不全では現れる症状が異なります。両方の心不全が起こっている場合でも、どちらか一方の症状が強く現れることがあります。最終的には、左心不全によって右心不全が起こります。

右心不全の症状

右心不全の主な症状は、足、足首、脚、腰部、肝臓、腹部に体液がたまって生じる腫れやむくみ(浮腫)です。体液がたまる場所は、余分な体液の量と重力のかかり方によって異なります。立っている場合は、脚や足に体液がたまります。あお向けに寝ている場合は、通常は腰の辺りに体液がたまります。体液の量が多ければ、腹部にもたまります。肝臓や胃に体液がたまると、吐き気や腹部膨満、食欲不振などが生じます。重度の右心不全では、体重が減り、筋肉が衰えることがあります。この状態を心臓悪液質といいます。

左心不全の症状

左心不全では、肺の内部に体液がたまり、息切れが起こります。当初は息切れが生じるのは運動中だけですが、心不全が悪化するにつれて、軽い運動でも息切れが生じ、ついには安静時にも起こるようになります。重度の左心不全がある人では、横になると息切れがすることがあり(起座呼吸)、これは重力によってより多くの体液が肺に移動するためです。そのため、患者はよく目を覚まして、あえいだり喘鳴(ぜんめい)を起こしたりします(この状態を発作性夜間呼吸困難といいます)。上体を起こすと体液が肺の底部に移動するため、呼吸が楽になります。左心不全のある人は、筋肉に十分な量の血液が行きわたらないため、体を動かすと疲労や体力の低下を感じます。

重度の心不全の症状

心不全が進行すると、チェーン-ストークス呼吸(周期性呼吸)がみられることがあります。この異常な呼吸パターンでは、数秒間の呼吸をしない期間があった後に、呼吸が再開して次第に速く深くなり、そこから遅く浅くなっていき、再び短時間の呼吸停止に入って、また再開するというサイクルを繰り返します。チェーン-ストークス呼吸は、脳への血流が減少し、呼吸を調節する脳の部位に十分な酸素が行きわたらないために起こります。チェーン-ストークス呼吸は中枢性睡眠時無呼吸症候群の一種と考えられています。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(気道の閉塞によって睡眠が妨げられ、日中の眠気が生じる病態です)は、心不全がある人にもない人にも起こりうる、別の一般的な呼吸障害です。重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、心不全を悪化させることがあります。

急性肺水腫は、肺に大量の水分が突然蓄積する状態です。ひどい呼吸困難、速い呼吸、皮膚が青白くなる変化、気分が落ち着かない感覚、不穏(落ち着かなくなる)、不安、窒息感などが起こります。人によっては、気道のけいれん(気管支れん縮)や喘鳴がみられることがあります。急性肺水腫は、心不全の人で血圧が非常に高くなったり心臓発作が起きたりしたときなどに発生する生命を脅かす緊急事態で、ときには心不全の薬の服用を中断したり、塩辛い物を食べたりしただけで発生することもあります。

心臓がひどく損傷すると、心腔内に血栓ができることがあります。心腔内の血流が滞りがちになることが原因で血栓が形成される場合もあります。血栓が剥がれ落ちて、血流に乗って移動すると、体内のどこかの動脈に詰まり、その動脈が部分的または完全に閉塞することがあります(この現象を塞栓といいます)。脳に向かう動脈がこの塞栓で閉塞すると、脳卒中が起こります。

重症の心不全患者では、抑うつや精神機能の低下がよくみられ、特に高齢者でその傾向が強く、入念な評価と治療が必要になります。

心不全の診断

  • 胸部X線検査

  • 心電図検査

  • 心エコー検査、ときにその他の画像検査

  • 血液検査

医師は通常、臨床症状から心不全を疑います。身体診察において、弱くてしばしば速い脈拍、血圧の低下、聴診器で確認できる心音の異常や心雑音と肺への液体貯留、心臓の拡大、首の静脈の膨張(頸静脈怒張)、肝臓の腫大、腹部や脚のむくみなどがあれば、診断の裏付けになります。

通常は心機能を評価する検査も行います。心不全の原因を特定する検査も必要です。

胸部X線検査

胸部X線検査では、心臓の拡大、血管内でのうっ血、肺への液体貯留がみられます。

心電図検査

通常は心電図検査を行って、心拍が正常かどうか、心室の壁が厚くなっているかどうか、心臓発作を起こしていないかどうかを調べます。

心エコー検査

超音波を利用した心臓の画像検査である心エコー検査は、心拍出量や心臓弁の働きなど、心機能を評価するのに最も優れた検査法の1つです。心エコー検査では、以下の点が明らかになります。

  • 心臓の壁は厚くなっているか、また正常に弛緩しているか

  • 心臓弁は正常に機能しているか

  • 収縮が正常か

  • 心臓に異常な収縮がみられる部分はないか

心エコー検査は、心臓の壁の厚さと硬さ、駆出率を評価することで、心不全が収縮機能障害によるものか、拡張機能障害によるものかを判断するのに役立ちます。駆出率とは、1回の拍動で心臓から送り出される血液の割合のことで、心機能を測る重要な指標です。左心室の正常な駆出率は約55~60%です。駆出率が低い(40%未満)場合は、収縮性心不全の診断が確定します。心不全の症状がある人の駆出率が正常以上である場合は、拡張性心不全の可能性が高くなります。

血液検査

血液検査がほぼ必ず行われます。多くの場合、ナトリウム利尿ペプチドという物質が測定されます。ナトリウム利尿ペプチドは、心不全がある状況で血液中に蓄積する物質ですが、息切れを引き起こすほかの病気がある状況で蓄積することは少ないです。心不全を引き起こす病気がないか確かめるために、他の血液検査が行われることもあります。

その他の検査

心不全の原因を究明するため、そのほかに核医学検査MRI検査CT検査血管造影を伴う心臓カテーテル検査運動負荷試験などを実施することがあります。

まれに、アミロイドーシスで起こるような心臓への浸潤や、細菌やウイルスなどの感染症による心筋炎が疑われる場合に、心筋の生検が必要になります。

心不全の予防

予防措置として、心不全が起きる前に心不全の原因となる病気を治療します。治療可能なその他の原因としては、以下のものがあります。

  • 高血圧

  • 肥満

  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群

  • 冠動脈の閉塞

  • 心臓弁膜症

  • 一部の不整脈

  • アルコール依存症

  • 貧血

  • 甲状腺疾患

心不全の治療

  • 食事と生活習慣の改善

  • 心不全の原因に対する治療

  • 薬剤

  • ときに植込み型除細動器、心臓再同期療法、または機械的循環補助

  • ときに心臓移植

心不全の治療には、いくつかの一般的な対策に加えて、心不全の原因になっている病気の治療、生活習慣の改善、心不全に対する薬の服用が必要です。

一般的な対策

心不全はほとんどの人にとって慢性の病気ですが、身体活動に伴う不快感を軽減し、生活の質を向上させ、突然の悪化(急性心不全)のリスクを最小限に抑え、余命を延ばすためにできる対策はたくさんあります。心不全患者とその家族は、自宅でも多くのケアが必要になることから、心不全に関する知識をできるだけ多く学ぶ必要があります。特に心不全の悪化を警告する初期症状を識別する方法を知り、必要な対策(例えば、食塩の制限、利尿薬の追加服用、主治医への連絡)を把握しておかなければなりません。

心不全は突然悪化することがあるため、常に医療従事者と連絡をとって医師の診察を受けることが非常に重要です。例えば、看護師が心不全のある人に定期的に電話をして、体重や症状の変化を確認します。それにより、医師の診察が必要かどうかを判断します。

また心不全専門の医療機関を受診することもできます。このような医療機関には心不全に関する専門知識をもった医師が在籍していて、特別な訓練を受けた看護師やその他の医療従事者(薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど)と密接に連携しながら、患者および介護者に自己管理のスキルを指導し、心不全患者の治療を行います。このような医療機関では、患者に最も効果的な治療が行われていることを確認するとともに、患者が自ら積極的に治療に取り組む方法を教えることで、症状の軽減や入院期間の短縮が可能になるほか、余命が延びる場合もあります。このようなケアは、かかりつけの医師の治療に代わるものではなく、それを補完するものです。

心不全のある人は、新しい薬の服用を始める前に、たとえ処方薬ではないとしても、必ず担当医に確認する必要があります。一部の薬剤(関節炎の治療薬の多くを含む)は、塩分や体液の貯留を引き起こす場合があります。心機能の効率を下げてしまう可能性がある薬剤もあります。薬の飲み忘れは症状を悪化させる原因としてよく起こるため、飲み忘れを防ぐ方法を教わっておくとよいでしょう。

インフルエンザにより心不全が突然悪化する可能性があるため、心不全がある人には年1回のインフルエンザ予防接種が推奨されます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防接種も推奨されます。

知っていますか?

  • 心不全は通常、慢性の病気ですので、生活習慣を変えることで症状を軽減し、機能を改善することができます。

原因の治療

例えば、心不全の原因が心臓弁の狭窄や逆流、あるいは心腔同士の異常な連結である場合には、手術によって問題を是正できる場合が多いです。冠動脈の閉塞に対しては、薬物療法、手術、または冠動脈ステントによる血管形成術が行われます。降圧薬を使用して血圧を下げ、高血圧をコントロールします。一部の感染症は抗菌薬で根治させることができます。

生活習慣の改善

心不全の人では、生活習慣を変えることで、気分や身体機能が改善する場合があります。

心不全の人は、激しい運動はできなくても、できるだけ体力を維持するようにすべきです。軽い心不全の場合は、医師に指示された運動プログラムを実施します。重い心不全では、心血管系専門のリハビリテーション施設で専門家の監督の下で運動を行います。

過体重の心不全患者では、運動すると心臓にさらに負担がかかり、心不全が悪化します。そのような場合は、理想的な体重まで減量してそれを維持するために、食事療法を行う必要があります。

喫煙は血管を傷つけます。大量のアルコールは心臓に直接悪影響を与えます。そのため、喫煙と飲酒は心不全を悪化させる可能性があり、やめてしまうか、少なくとも最小限の量に減らすべきです。

塩分(ナトリウム)の多い食事は体液が貯留する原因になるため、排泄する水分の量を増やして水分貯留を軽減する目的で投与された薬剤(利尿薬など)の作用を打ち消してしまいます。したがって、塩分の過剰摂取は症状を悪化させます。ほぼすべての心不全の人は、食塩や塩辛い食べものの摂取を控え、塩分を控えた食事をとる必要があります。加工食品に含まれる塩分量はラベルを読んで確認できます。重い心不全の患者には通常、どのように塩分の摂取を制限するかが詳しく指示されます。栄養士による指導も役立ちます。塩分摂取量を制限している人でも、体液がひどくたまっているのでない限り、通常は正常時と同じだけ水分を摂取することができます。ただ、余分な水分はとらない方がよいでしょう。

体にたまった体液の量を調べる簡単で信頼性の高い方法は、毎日体重を測ることです。心不全の人は、できるだけ正確に毎日体重を測るよう医師に指示されますが、典型的には、朝起きて排尿してから朝食をとる前までに測定します。毎日同じ時間に同じ体重計を使い、同じような重さの服を着て体重を測り、毎日の体重を記録すれば、体重の変化の傾向を簡単に把握できます。1日当たり約1キログラム以上の体重増加は、体液の貯留を示す早期の警告です。急激な体重増加(1日に約1キログラムなど)が一貫してみられる場合は、心不全の悪化が疑われます。

食塩摂取を制限しても、むくみが生じる人はたくさんいます。そうした人は、腰掛けるときに腫れた脚を台の上などに乗せて高くすべきです。この姿勢は余分な体液の再吸収と排泄を促します。人によっては、体液がたまるのを防ぐのに役立つフルレングスの弾性ストッキングの着用も必要になります。肺に水分がたまっている場合は、枕を重ねて上体を高くして寝るか、ベッドの頭の方を高くして寝ると、楽に眠れます。

心不全の治療薬

心不全の薬物療法では以下の薬剤を使用します。

具体的な薬剤およびクラスの詳細は、心不全の薬物療法を参照してください。

どの種類の薬剤を使用するかは、心不全の種類によって異なります。収縮性心不全(駆出率が低下した心不全)には、すべてのクラスの薬剤が役立ちます。拡張性心不全(駆出率が保持された心不全)では、一般的にACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、ベータ遮断薬のみが使用されます。HFmrEFでは、ARNIが役に立つことがあります。

薬を定期的に服用し、薬がなくなっていないか確認しておくことが重要です。

その他の治療

肺水腫のある人には酸素を供給する必要があり、特別なマスクを用いる場合もあります。場合によっては気管内にチューブを挿管し、人工呼吸器によって呼吸を補助し、呼吸仕事量の増加に対応します。

重度の心不全がある人には、ときに胸部に小さなモニター装置が埋め込まれることがあります。そのモニターで肺の中の圧力を継続的に測定できるため、主治医が薬剤を調整する上で役に立ちます。この装置は、心不全の発作を繰り返し、同時に腎不全もある人で特に有用です。

心不全が非常に重度で悪化しており、薬物療法が効かない人では、心臓移植が選択肢の1つになることもあります。

薬物療法が効かない極めて重症の心不全患者には、血液の拍出を補助する機械器具が使用されます。器具の種類としては以下のものがあります。

  • 大動脈内バルーンポンプ(IABP):カテーテルの先端に取り付けたソーセージ型のバルーンを大動脈の中に留置します。機械が心臓の拍動をモニタリングして、バルーンを心臓が弛緩するタイミングで膨らませ、心臓が収縮するタイミングでしぼませることにより、心臓からの血液の送り出しを容易にします。

  • 補助人工心臓:左心室または右心室の内部または付近に機械式のポンプを埋め込むことで、心臓からの血液の送り出しを助けることができます。

  • 血管内用の循環補助装置:大動脈などの太い血管の中に小型のポンプを留置することで、血液の送り出しを助けることができます。

  • 体外式膜型人工肺(ECMO):人工心肺に似た装置で、太い動脈から血液を受け取って、それを血液に酸素を溶け込ませることができる膜を通過させた後、ポンプで太い静脈の中に戻すものです。

心拍の異常には、薬が役に立つこともありますが、ペースメーカーが必要になる人もいます。一部の心不全患者では、ワイヤーが2~3本ついた特殊なペースメーカーを使用して心腔の収縮の順序を正常に戻すことができ(心臓再同期療法)、その後の経過を改善できる可能性があります。心機能が大幅に低下している人では、突然死のリスクが高いため、植込み型除細動器の使用が検討されることがあります。

心不全の原因が心臓弁の問題であれば、医師はその弁の修復または置換を行うことがあります。

急性心不全の治療

突然発症した心不全や急激に悪化した心不全に対しては、病院での緊急の治療が必要です。

急性肺水腫(肺に急激に体液がたまる病気)を起こしている場合は、フェイスマスクから酸素吸入を行います。利尿薬を静脈内注射し、ニトログリセリンなどの薬を静脈内または舌下投与することで、症状は急速かつ劇的に改善します。急性肺水腫に通常伴う不安感はモルヒネで軽減されますが、呼吸数も減少するため、現在ではあまり用いられていません。これらの治療を行っても呼吸が十分に改善しない場合は、制御された圧力で酸素供給できる専用のマスクを使用するか、気道にチューブを挿管することにより、人工呼吸器を使用して呼吸を補助します。

より症状が重く、治療がうまくいかない場合は、心臓の収縮を刺激するために、ドパミンやドブタミンといったアドレナリンノルアドレナリンと似た作用のある薬や、ミルリノンなどの心臓のポンプ機能を高める薬を短期間使用する場合もあります。これらの薬は長期間の治療には有用ではありません。

終末期の問題

患者の余命は、心不全の重症度、原因を是正できたかどうか、そして行われた治療の内容といった、多くの要因によって異なります。しかし、心不全で入院する必要があった人のうち、その後5年生存できるのは、約3分の1だけです。重度の心不全患者の約半数が2年以上生存します。余命は治療によって延ばすことができます。

心不全になってしばらくした人は、やがて生活の質が低下し、限られた治療法しか受けられなくなる可能性があり、特に心臓移植を受けられない高齢者では治療法の選択肢が非常に限られます。最終的には、延命を試みるより、快適な状態を保つことの方が重要になる場合もあります。患者自身とその家族が治療方針の決定に関与するべきです。実際、重症の心不全患者とその家族は、この問題について話し合うことを望むものであり、そうすることで不必要な苦痛を回避できるということが、多くの研究によって示されています。思いやりのあるケアを提供し、症状を緩和して、個人の尊厳を保つ上で、できることがたくさんあります(死と死期を参照)。

心不全の人は、症状の悪化を経ることなく、突然予期しない死を迎えることもあります。したがって、心不全の人は、自分が受けるケアについて意思決定ができなくなった場合に備えて、どのようなケアを希望するかについて、事前指示書をできれば作成しておくべきです。また、遺言書を作成したり見直したりすることも重要です。

さらなる情報

以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。

  1. 米国心臓協会(American Heart Association):心不全とともに生きる人々とその家族向けに資源と情報を提供している

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