心停止

執筆者:Robert E. O’Connor, MD, MPH, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2019年 12月
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【訳注:最新の情報については,2020 American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular careを,感染症を考慮した対応については,American Heart Association's COVID-19 Resuscitation Algorithmsを参照のこと。】心停止は心臓の機械的活動の停止であり,その結果,循環が途絶する。心停止が起こると血液が重要な臓器に流れなくなり,臓器が酸素欠乏に陥り,未治療のまま放置すると死に至る。突然の心停止とは,発症期間の短い(ときに前兆を伴わない)予期せぬ循環停止である。米国では,病院外での突然の心停止が毎年350,000人以上に生じており,そのうち90%が死亡している。

呼吸停止と心停止は異なるものであるが,無治療の場合一方は必ず他方を引き起こす。(呼吸不全呼吸困難,および低酸素症も参照のこと。)

(院外および院内心停止については,American Heart Associationによる心疾患および脳卒中統計の2018 updateも参照のこと。)

心停止の病因

成人では,突然の心停止の原因は主に心疾患(あらゆる種類,特に冠動脈疾患)である。かなりの割合の患者で,突然の心停止が心疾患の初発症状である。心停止のその他の原因としては,心疾患以外(特に肺塞栓症消化管出血,外傷)による循環性ショック,換気不全,代謝障害(薬物過量服用を含む)などがある。

乳児および小児では,心原性の突然の心停止は,成人よりまれである。乳児および小児における突然の心停止の主な原因は呼吸不全であり,これは様々な呼吸器疾患(例,気道閉塞,煙の吸入,溺水,感染症,乳幼児突然死症候群[SIDS])によって起こりうる。突然の心停止のその他の原因としては,外傷や中毒などがある。

心停止の病態生理

心停止は広範囲の虚血を引き起こし,その結果細胞レベルで起こった異常が蘇生後臓器機能に有害作用を及ぼす。主な結果として,直接細胞損傷および浮腫形成がある。浮腫は,膨張する空間がほとんどない脳では特に有害であり,蘇生後にしばしば頭蓋内圧亢進およびそれに伴う脳灌流の低下を引き起こす。蘇生が成功した患者の多くに,意識レベルの変化(中等度の錯乱から昏睡まで),痙攣発作,または両方を症状とする,短期または長期の脳機能障害が生じる。

アデノシン三リン酸(ATP)の産生が低下することで細胞膜が損傷し,カリウムの流出とナトリウムおよびカルシウムの流入が起こる。ナトリウム過剰は細胞浮腫を引き起こす。過剰なカルシウムはミトコンドリアを損傷し(ATP産生を抑制),一酸化窒素産生を促進し(有害なフリーラジカルの産生につながる),特定の状況においては,細胞にさらなる損傷を与えるプロテアーゼを活性化させる。

イオンの異常な流れはニューロンの脱分極を引き起こし,神経伝達物質を放出させ,その一部は有害な作用をもたらす(例,グルタミン酸は特定のカルシウムチャネルを活性化し,細胞内のカルシウム過剰を助長する)。

炎症メディエーター(例,インターロイキン1B,TNF-α[腫瘍壊死因子α])が合成される;その一部は,微小血管血栓症および血管損傷を引き起こし,さらなる浮腫をもたらす。一部のメディエーターはアポトーシスを惹起し,細胞死を加速させる。

心停止の症状と徴候

重症(critically ill)患者または終末期の患者では,心停止が起こる前に,速く浅い呼吸,動脈圧低下,および進行性の意識レベルの低下など臨床症状が悪化する時期がしばしば存在する。突然の心停止では前触れもなく虚脱が起こり,ときに短時間(5秒未満)の痙攣発作を伴う。

心停止の診断

  • 臨床的評価

  • 心モニタリングと心電図

  • ときに原因の検査(例,心エコー検査,胸部X線検査,または胸部超音波検査)

心停止の診断は,臨床所見としての無呼吸,脈拍消失,意識消失を認めることによる。動脈圧は測定不能である。数分後には瞳孔は散大し,対光反射がなくなる。

心電図モニタリングを行うべきであり,心電図では心室細動(VF),心室頻拍(VT),または心静止がみられる。ときに,灌流リズム(perfusing rhythm)(例,極度の徐脈)がみられる;これは真の無脈性電気活動(PEA,電気収縮解離)または脈拍が検出できない極度の低血圧を示す場合がある。

治療可能な潜在的原因がないか評価する;有用な記憶法は「HとT」である:

  • H:低酸素症(hypoxia),循環血液量減少(hypovolemia),アシドーシス(水素イオン,[hydrogen ion]),高カリウム血症または低カリウム血症(hyperkalemiaまたはhypokalemia),低体温(hypothermia),低血糖(hypoglycemia)

  • T:薬物あるいは中毒(tablet or toxin ingestion),心タンポナーデ(cardiac tamponade),緊張性気胸(tension pneumothorax),血栓症(thrombosis[肺塞栓症または心筋梗塞]),外傷(trauma)

残念ながら,原因の多くは心肺蘇生(CPR)中には同定できない。身体診察,胸部超音波検査,および胸部X線検査により緊張性気胸を発見できる。心臓超音波検査により,心収縮を検出でき,心タンポナーデ,極度の循環血液量減少(empty heart),肺塞栓を示唆する右室負荷,心筋梗塞を示唆する局所的な壁運動異常を認識できる。ベッドサイドでの迅速血液検査によりカリウムや血糖値の異常を検出できる。家族や救急隊員から聴取した病歴から,薬物などの過量服用が示唆される場合がある。

心停止の予後

生存退院,特に神経学的後遺症のない生存は,単なる自己心拍再開よりも転帰として意味がある。

生存率には大きなばらつきがある;予後良好因子としては以下のものがある:

  • バイスタンダーによる早期かつ効果的なCPR

  • 目撃のある心停止

  • 病院内(特にモニタリングされているところ)

  • 最初のリズムがVFまたはVT

  • 早期の除細動(初回の胸骨圧迫後にVTまたはVFだった場合)

  • 循環補助および心臓カテーテル法を含む,蘇生後管理

  • 成人では,目標を定めた体温管理(体温を32~36℃に維持する)および低体温の回避(1,2)

多くの予後因子が良好であれば(例,ICUまたは救急部門で目撃されたVF),成人の約50%が生存退院可能である。病院内での心停止(VT/VFおよび心静止/PEA)からの生存率は全体で約25%である。

良好な予後因子がなければ(例,病院外で目撃なしの心停止を起こし,心静止となった),生存の可能性は低い。病院外で心停止を起こした場合の生存率(報告されたもの)は全体で約10%である。

心停止を起こして生還した全患者のうち,退院時に中枢神経系の機能が良好であるのは約10%に過ぎない。

予後に関する参考文献

  1. 1.Bernard SA, Gray TW, Buist MD, et al: Treatment of comatose survivors of out-of-hospital cardiac arrest with induced hypothermia.N Engl J Med 346:557–563, 2002.doi 10.1056/NEJMoa003289.

  2. 2.Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al: Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest.N Engl J Med 369:2197–2206, 2013.doi: 10.1056/NEJMoa1310519.

心停止の治療

  • CPR

  • 可能なら直接的な原因を治療する

  • 蘇生後管理

迅速な治療が不可欠である。

(CPRおよび心血管救急処置に関するAmerican Heart Associationのガイドラインも参照のこと。)

心肺蘇生(CPR)は,心停止に対する系統立てられた一連の対応であり,胸骨圧迫(「強く早く圧迫」)を直ちに開始して【訳注:COVID19を意識した蘇生では,安易に胸骨圧迫から開始することを避ける】途切れなく行うことと,VFまたはVT(成人により多い)を起こした患者に対する早期の除細動が成功への鍵となる。

小児では心停止の原因として窒息が最も多く,典型的な最初のリズムは徐脈性不整脈であり,次いで心静止になる。しかしながら,小児の約15~20%(特に,突然の心停止に呼吸器症状が先行していないとき)はVTやVFを呈するため,やはり迅速な除細動を必要とする。12歳以上の小児では,最初に記録されるリズムとしてVFの発生率が増加する。

心停止の原因を速やかに治療しなければならない。治療可能な症状が存在せず,心臓の動きが検出されるか脈がドプラによって検出される場合,重度の循環性ショックとみなされ,輸液(例,失血に対し,1Lの生理食塩水,全血,またはその組合せ)が行われる。輸液に対する反応が不十分な場合,多くの医師は1種類または複数種類の昇圧薬(例,ノルアドレナリン,アドレナリン,ドパミン,バソプレシン)を投与する;しかしながら,これらの昇圧薬が生存率を改善するという明らかな証拠はない。

原因の治療に加え,蘇生後の処置として一般的に行われるのは,酸素投与の最適化,心原性の疑いがある症例に対し迅速な冠動脈造影,目標を定めた体温管理(成人では32~36℃)および体温を正常化する治療(小児および乳児では36~37.5℃––1, 2)などである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Moler FW, Silverstein FS, Holubkov R, et al: Therapeutic hypothermia after in-hospital cardiac arrest in children.N Engl J Med 376:318–332, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1610493

  2. 2.Moler FW, Silverstein FS, Holubkov R, et al: Therapeutic hypothermia after out-of-hospital cardiac arrest in children.N Engl J Med 372:1898–1908, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1411480

心停止についてのより詳細な情報

  1. American Heart Association's 2018 update of heart disease and stroke statistics

  2. American Heart Association's guidelines for CPR and emergency cardiovascular care

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