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アイゼンメンジャー症候群

(アイゼンメンジャー症候群;肺血管閉塞性病変)

執筆者:

Lee B. Beerman

, MD, Children's Hospital of Pittsburgh of the University of Pittsburgh School of Medicine

レビュー/改訂 2020年 12月
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アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡または大動脈から肺動脈への左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が徐々に増大するにつれて,やがて重度の肺高血圧が生じ,右左短絡の進行性の増大を伴う両方向性短絡に至る。チアノーゼと低酸素症により,後述の複数の合併症がもたらされることは不可避である。身体所見は基礎にある異常および病態生理学的異常の程度によって異なる。診断は心エコー検査または先進的な画像検査および心臓カテーテル検査に基づく。アイゼンメンジャー症候群になると,増大した肺血管抵抗と肺高血圧は不可逆となり,元々の異常を根本的に是正することが不可能になる。そのため,治療は一般に支持療法となるが,症状が重度の場合は心肺同時移植が選択肢の1つとなりうる。心内膜炎予防が推奨される。

アイゼンメンジャー症候群により右左短絡が生じると,チアノーゼとその合併症が生じる。体循環血の酸素飽和度低下により,指趾のばち状変形, 二次性赤血球増多症 周産期の赤血球増多症および過粘稠度症候群 赤血球増多症とは赤血球量の異常な増加(新生児では静脈血ヘマトクリットが65%以上と定義される)であり,血管内の血液の泥化(sludging),およびときに血栓を伴う過粘稠につながることがある。新生児赤血球増多症の主な症候は非特異的であり,赤味がかった皮膚,哺乳困難,嗜眠,低血糖,高ビリルビン血症,チアノーゼ,呼吸窮迫,および痙攣などがある。診断は臨床的に,かつ動脈血または静脈血のヘマトクリット測定により行う。治療は部分交換輸血による。... さらに読む ,過粘稠度症候群,喀血,中枢神経系事象(例,脳膿瘍,脳卒中),肺動脈血栓症,赤血球代謝の亢進による続発症(例,痛風を引き起こす高尿酸血症,胆石症を引き起こす高ビリルビン血症,貧血を伴うまたは伴わない鉄欠乏症)などを来す。

総論の参考文献

  • 1.Diller GP, Korten MA,Bauer UMM, et al: Current therapy and outcome of Eisenmenger syndrome: data of the German National Register for congenital heart defects.Eur Heart J 37(18): 1449–1455, 2016.doi: 10.1093/eurheartj/ehv743

症状と徴候

アイゼンメンジャー症候群の症状は,原因に応じて様々な年齢で発生する。

左右短絡が三尖弁より前にある場合(ASD,部分肺静脈還流異常症),症状は通常,後になる(20~40歳)まで現れない。しかしながら,三尖弁以降の短絡(VSD,PDA,またはより複雑な先天性心疾患)が修復されていない患者は,生後数年以内に不可逆的かつ症候性の肺血管疾患を発症する可能性がある。

症状としてはチアノーゼ,失神,運動中の呼吸困難,疲労,胸痛,動悸などがある。突然死する患者もいる。

喀血は遅発症状である。 脳塞栓 虚血性脳卒中 虚血性脳卒中とは,局所的な脳虚血に起因して突然生じる神経脱落症状のうち,永続的な脳梗塞(例,MRIの拡散強調画像で陽性となるもの)を伴うものである。一般的な原因は(頻度の高い順に)太い動脈のアテローム血栓性閉塞;脳塞栓症(塞栓性脳梗塞);深部の細い脳動脈の非血栓性閉塞(ラクナ梗塞);および近位部の動脈狭窄に加えて動脈分水嶺領域の脳血流量を減少させる血圧低下を伴うもの(血行力学性の脳卒中)である。診断は臨床的に行うが,出血を除外して脳卒中... さらに読む 虚血性脳卒中 脳膿瘍 脳膿瘍 脳膿瘍は脳内に膿が蓄積した状態である。症状としては,頭痛,嗜眠,発熱,局所神経脱落症状などがある。診断は造影MRIまたはCTによる。治療は抗菌薬に加えて,通常はCTガイド下穿刺吸引術または外科的ドレナージによる。 ( 脳感染症に関する序論も参照のこと。) 脳膿瘍は,脳の炎症領域が壊死に陥り,その周囲を神経膠細胞と線維芽細胞が被膜で覆うことによって形成される。膿瘍周囲の浮腫は,膿瘍そのものと同様に,頭蓋内圧を亢進させることがある。... さらに読む 脳膿瘍 ,または 心内膜炎 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎は,心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌またはブドウ球菌)または真菌による。発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こすことがある。疣贅の発生は,弁の閉鎖不全または閉塞,心筋膿瘍,感染性動脈瘤につながる可能性がある。診断には血液中の微生物の証明と通常は心エコー検査が必要である。治療... さらに読む 感染性心内膜炎 の症候がみられることもある。

二次性赤血球増多症による症状(例,言語不明瞭または他の神経症状を伴う一過性脳虚血発作,視力障害,頭痛,疲労増大,血栓塞栓症の徴候)がよくみられる。胆石症による腹痛が発生することもある。高尿酸血症から,疼痛を伴う痛風性関節炎が生じることがある。

身体診察では,中枢性チアノーゼとばち指が検出される。 右室不全 心不全 心不全 の徴候(例,肝腫大,末梢浮腫,頸静脈怒張)がみられることもある。触診で傍胸骨拍動を認めることがある。三尖弁逆流による全収縮期雑音が胸骨左縁下部に聴取されることがある。肺動脈弁逆流に起因する高調な漸減性の拡張早期雑音が胸骨左縁に聴取されることもある。大きな単一II音(S2)が一貫してみられる所見であり,肺動脈駆出音もよく聴取される。

診断

  • 胸部X線および心電図

  • 心エコー検査または心臓カテーテル検査

アイゼンメンジャー症候群の診断は,未修復の先天性心疾患の病歴から疑われ,胸部X線および心電図によって裏付けを得て,カラードプラ法を用いた2次元心エコー検査によって確定する。心臓カテーテル検査は,肺動脈圧,肺血管抵抗,および肺血管拡張薬への反応を測定するためにしばしば施行される。

臨床検査では,ヘマトクリット値が55%を超える赤血球増多を認める。赤血球代謝の亢進は,鉄の欠乏状態(例,小赤血球症),高尿酸血症,および高ビリルビン血症を反映している可能性がある。鉄欠乏症は,トランスフェリン飽和度とフェリチン値を測定することで同定できる。

胸部X線では通常,肺動脈中枢部の拡張,末梢肺血管陰影の消失,および右心拡大を認める。

心電図では,右室肥大と右軸偏位のほか,ときに右房拡大も認める。

治療

  • 肺動脈性肺高血圧の治療薬(例,プロスタサイクリン誘導体,エンドセリン拮抗薬,ホスホジエステラーゼ5阻害薬)

  • 「treat and repair」アプローチ

  • 支持療法

  • 心肺同時移植

プロスタサイクリン誘導体(例,トレプロスチニル,エポプロステノール),エンドセリン拮抗薬(例,ボセンタン),およびホスホジエステラーゼ5阻害薬(例,シルデナフィル,タダラフィル)の投与により,6分間歩行試験の結果が改善し,N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)の測定値が低下することが示されている。少数の患者では,新しい肺血管拡張薬による積極的治療によって,正味の血行動態が左右短絡となって,基礎疾患の心奇形に対する外科的修復が可能となり,平均肺動脈圧を有意に低下させることができる。この戦略はtreat and repairアプローチと呼ばれている。

支持療法としては,本症候群を増悪させる可能性がある状態の回避(例,妊娠,体液量減少,等尺性運動,高所への移動,喫煙)。酸素投与がいくらか有益となる場合がある。

症候性の赤血球増多症は,慎重な瀉血と生理食塩水による体液補充を同時に行うことで治療可能であり,ヘマトクリットを55~65%まで低下させる。ただし,代償性および無症候性の赤血球増多症には,ヘマトクリットの値にかかわらず,瀉血は不要である。瀉血は最終的に鉄欠乏症につながり,予後不良との関連が認められている。鉄欠乏症が確認された場合は,貯蔵鉄の補充のため,鉄剤を慎重に投与すべきである。

高尿酸血症はアロプリノール300mg,経口,1日1回で治療できる。

抗凝固療法については,肺動脈血栓症やその他の血栓塞栓現象が起きるリスクと肺出血のリスクとのバランスを勘案する必要があるため,その使用について議論がある。ワルファリン療法は,肺出血のリスクがあることから有害となる可能性があるため,抗凝固薬の使用は個別化すべきである(1 治療に関する参考文献 アイゼンメンジャー症候群は,大量の心内左右短絡または大動脈から肺動脈への左右短絡が是正されない場合に発生する合併症である。肺血管抵抗が徐々に増大するにつれて,やがて重度の肺高血圧が生じ,右左短絡の進行性の増大を伴う両方向性短絡に至る。チアノーゼと低酸素症により,後述の複数の合併症がもたらされることは不可避である。身体所見は基礎にある異常および病態生理学的異常の程度によって異なる。診断は心エコー検査または先進的な画像検査および心臓カテーテ... さらに読む )。明確なエビデンスはないが,低用量アスピリンにより血栓性合併症を予防できる可能性がある。

期待余命は基礎にある先天奇形の種類および重症度に依存し,その範囲は20~50年である。無治療の患者では,運動耐容能の低下と二次性の合併症により生活の質が著しく制限される。先進的な肺血管拡張療法によって機能的容量が改善することが示されており,生存期間が延長するようである。

治療に関する参考文献

  • 1.Diller GP, Korten MA, Bauer UMM, et al: Current therapy and outcome of Eisenmenger syndrome: data of the German National Register for congenital heart defects.Eur Heart J 37(18):1449–1455, 2016. doi: 10.1093/eurheartj/ehv743

  • 2.Kempny A, Hjortshoj CS, Gu H, et al: Predictors of death in contemporary adult patients with Eisenmenger syndrome: a multicenter study.Circulation 135(15): 1432–1440, 2017.doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.116.023033

要点

  • 大量の心内左右短絡を伴う心奇形は,しばしば肺血管抵抗の上昇を引き起こし,それにより短絡が両方向性となり,最終的には右左短絡が生じる(短絡の逆転)。

  • 短絡の逆転に伴い,酸素化される前の血液が体循環に入るようになる結果,低酸素症とその合併症(例,指趾のばち指,二次性赤血球増多症)が発生する;赤血球増多症により,過粘稠度症候群,脳卒中や他の血栓塞栓症,高尿酸血症などが引き起こされる可能性もある。

  • 左右短絡が三尖弁より前にある場合,症状は通常,20~40歳になるまで現れないのに対し,三尖弁以降に短絡がある場合には,生後数年以内に症状が現れる可能性がある。

  • 症状としては,チアノーゼ,失神,労作時呼吸困難,疲労,胸痛,動悸,心房性および心室性不整脈,喀血,右心不全などがある。

  • アイゼンメンジャー症候群の発生を予防するため,基礎にある心奇形に対する修復手術を適切な年齢で施行すべきである。

  • この症候群が発症すると,心肺同時移植以外に特異的な治療法はないものの,肺血管抵抗を低下させる薬剤(例,プロスタサイクリン誘導体,エンドセリン拮抗薬,ホスホジエステラーゼ5阻害薬)が有用である。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

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