多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

(高アンドロゲン状態の慢性無排卵:Stein-Leventhal症候群)

執筆者:JoAnn V. Pinkerton, MD, University of Virginia Health System
レビュー/改訂 2020年 12月
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多嚢胞性卵巣症候群は,軽度の肥満,不規則な月経または無月経,およびアンドロゲン過剰の徴候(例,男性型多毛症,ざ瘡)を特徴とする臨床症候群である。ほとんどの患者では卵巣内に多発性嚢胞が生じる。診断は,妊娠検査,ホルモンの測定,画像検査による男性化腫瘍の除外による。治療は対症療法である。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は5~10%の女性に生じる。米国においては不妊の原因として最も一般的である。

PCOSは通常,卵巣嚢胞の存在ではなく,臨床症候群として定義される。しかし典型的には卵巣に2~6mmの多数の卵胞嚢胞やときに閉鎖細胞を含むさらに大きい嚢胞がみられる。卵巣は,滑らかで肥厚した被膜を伴って腫大するか,正常な大きさであることもある。

この症候群は無排卵または排卵障害および病因不明のアンドロゲン過剰を伴う。しかしながら,患者には17-水酸化酵素(アンドロゲン産生の律速酵素)に影響を与えるチトクロムP450c17の機能異常があり,結果としてアンドロゲン産生が増加することを示唆したエビデンスもある。

合併症

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)にはいくつかの重篤な合併症がある。

エストロゲン値が上昇し,子宮内膜増殖症,最終的には子宮内膜癌のリスクが高まる。

アンドロゲン値が上昇することが多く,メタボリックシンドロームのリスクが高まり,男性型多毛症を生じる。インスリン抵抗性による高インスリン血症を認めることがあり,卵巣でのアンドロゲン産生増加に寄与することがある。長期的には,アンドロゲン過剰は高血圧および高脂血症を含む心血管疾患のリスクを増加させる。アンドロゲン過剰とその合併症のリスクは,過体重でない女性においても,過体重である女性と同様に,高い可能性がある。

冠動脈の石灰化および頸動脈の内膜中膜複合体の肥厚はPCOSの女性でより多くみられ,潜在性動脈硬化(subclinical atherosclerosis)の可能性を示唆する。

2型糖尿病および耐糖能異常がより多くみられ,閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスクが高くなる。

最近の研究では,PCOSは軽度の慢性炎症と関連があり,PCOSの女性では非アルコール性脂肪性肝疾患のリスクが高いことが示されている(1)。

合併症に関する参考文献

  1. 1.Rocha AL, Oliveira FR, Azevedo RC, et al: Recent advances in the understanding and management of polycystic ovary syndrome.F1000Res 26;8, 2019.pii: F1000 Faculty Rev-565.doi: 10.12688/f1000research.15318.1 eCollection 2019.

症状と徴候

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状は典型的には思春期に始まり時間経過とともに悪化する。デヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル(DHEAS)過剰,しばしば腋毛の早期発育,体臭,微小面皰性のざ瘡を特徴とする思春期発来(アドレナーキ[adrenarche])の早期発現がよくみられる。

典型的な症状としては,軽度の肥満,軽度の男性型多毛症,不規則な月経,希発月経,または無月経などがある。しかし,PCOSの女性の最大半数では体重は正常で,一部の女性は低体重である。体毛は男性型に(例,上唇上部,顎,背部,母指,足趾;乳首周囲;下腹部白線に沿って)発育することがある。一部の女性ではざ瘡や側頭部の毛髪の減少など他の男性化徴候を認める。

その他の症状としては,体重増加(ときにコントロールが困難に見える),疲労,気力減退,睡眠に関連する問題(睡眠時無呼吸症候群を含む),気分変動,抑うつ,不安,頭痛などがある。一部の女性では,妊孕性が障害される。症状は女性により異なる。

肥厚し黒ずんだ皮膚(黒色表皮腫)の領域が腋窩,首の後ろ,皮膚のしわ,指関節および/または肘に生じることがある;原因はインスリン抵抗性による高インスリン値である。

PCOSの女性が妊娠した場合,妊娠合併症のリスクが増大し,女性が肥満の場合には合併症は悪化する。このような合併症には,妊娠糖尿病早産,および妊娠高血圧腎症などがある。

診断

  • 臨床基準

  • 血清テストステロン,卵胞刺激ホルモン(FSH)プロラクチン,および甲状腺刺激ホルモン(TSH)値

  • 骨盤内超音波検査

(併存症[例,冠動脈疾患,メタボリックシンドローム]の管理に関連する評価および検査については,後述を参照のこと。)

排卵障害が通常思春期に認められ,原発性無月経を起こす;このため初経後しばらく規則的な月経が起こる場合には多嚢胞性卵巣症候群の可能性は低い。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の患者の診察では通常,高エストロゲン値を反映する多量の頸管粘液を認める。PCOSは少なくとも2つの典型的な症状がある場合に疑われる。

検査には,妊娠検査,血清総テストステロン,FSH,プロラクチン,およびTSHの測定,ならびに症状を引き起こす他の原因を除外するための骨盤内超音波検査を含める。血清遊離テストステロンは総テストステロンよりも高感度であるが,測定は技術的により難しい(原発性および続発性性腺機能低下症の診断のアルゴリズムを参照)。テストステロンの正常から軽度の上昇,およびFSH値の軽度の低下はPCOSを示唆する。

診断には以下の3つの基準のうち少なくとも2つを満たす必要がある:

  • 排卵障害による月経不順

  • アンドロゲン過剰の臨床的または生化学的所見

  • 各卵巣当たり10個を超える卵胞(骨盤内超音波検査で検出される);通常は卵巣の辺縁に生じ,一連の真珠に似る。

これら基準を満たす女性では,クッシング症候群を除外するために血清コルチゾールを測定し,副腎性器症候群を除外するために早朝の血清17-ヒドロキシプロゲステロンを測定する。血清DHEASを測定する。DHEASが異常であれば,無月経に関する評価を行う。

経腟超音波検査が卵巣の異常を確認するために利用できる。しかし,青年期の女子には経腟超音波検査は行わない(以下参照)。

パール&ピットフォール

  • 初経後しばらく規則的な月経があった場合には多嚢胞性卵巣症候群の可能性は低い。

  • PCOSの症状がある青年患者では,テストステロン値を測定する。

青年期の女子におけるPCOSの診断

思春期の生理的変化(例,高アンドロゲン状態,月経不順)がPCOSの特徴と類似しているため,青年期におけるPCOSの診断は複雑である。そのため,青年期における別のPCOSの診断基準(1)が提唱されているが,コンセンサスは得られていない。これらの基準では,以下の両方の状態を満たす必要がある:

  • 異常な子宮出血のパターン(年齢または婦人科年齢[gynecologic age]に比して異常,または1~2年間持続する症状)

  • アンドロゲン過剰の所見(成人の基準を上回る持続的なテストステロン高値[最も有力な所見],中等度から重度の男性型多毛症,または高アンドロゲン血症検査の適応としての中等度から重度の炎症性尋常性ざ瘡に基づく)

青年に対する非古典型先天性副腎過形成症のスクリーニングのために17-ヒドロキシプロゲステロンの検査も行われることが多い。

骨盤内超音波検査は通常,血清アンドロゲン値または男性化の程度から卵巣腫瘍が示唆される場合にのみ適応となる。経腟超音波検査は青年期の女子のPCOSの診断には通常用いられないが,これは多嚢胞性の形態が検出されるのが女子の40%未満に過ぎないため,単独で使用してもPCOSの存在または発生を予測できないためである。

診断に関する参考文献

  1. 1.Tehrani FR, Amiri M: Polycystic ovary syndrome in adolescents: Challenges in diagnosis and treatment.Int J Endocrinol Metab 17 (3): e91554, 2019. doi: 10.5812/ijem.91554

治療

  • 間欠的プロゲスチンまたは経口避妊薬

  • 男性型多毛症の管理と成人女性ではホルモン異常による長期的リスクの管理

  • 妊娠を希望する女性には不妊治療

多嚢胞性卵巣症候群の治療は以下を目的とする:

  • ホルモン異常を是正し,これによりエストロゲン過剰のリスク(例,子宮内膜増殖症)およびアンドロゲン過剰のリスク(例,心血管疾患)を低減する

  • 症状を緩和し,妊孕性を改善する

体重の減量および定期的な運動が推奨される。これらは排卵を誘発し,月経周期をより規則的にし,インスリン感受性を高め,黒色表皮腫および男性型多毛症を改善するのに役立つことがある。減量も妊孕性の改善に有用な場合がある。しかし,体重が正常なPCOSの女性では,減量が有益となる可能性は低い。

PCOSの女性が妊娠を希望していない場合,月経異常,男性型多毛症,およびざ瘡にはホルモン避妊薬が第1選択の治療法である。通常,子宮内膜増殖症および子宮内膜癌のリスクを低減するために,間欠的プロゲスチン(例,メドロキシプロゲステロン5~10mg,経口,1日1回,1~2カ月毎に10~14日間)または混合型経口避妊薬を投与する。これらの治療により循環血中のアンドロゲンも低下し,通常,月経周期がより規則的になる。

PCOS,不規則な月経,および糖尿病またはインスリン抵抗性がある女性では,生活習慣の改善で効果がない場合や,ホルモン避妊薬を服用できない,またはこれに耐えられない場合,インスリン感受性を高めるためにメトホルミン(500~1000mg,1日2回)が使用される。メトホルミンはまた遊離テストステロン値を下げることもある。メトホルミンを使用する場合,血清血糖値を測定すべきであり,腎機能および肝機能についても定期的に検査すべきである。メトホルミンは排卵を誘発する可能性があるため,妊娠を望まない場合には避妊が必要である。メトホルミンは代謝および血糖の異常の是正に役立ち,月経周期をより規則的にするが,男性型多毛症,ざ瘡,不妊に対しては有益な効果はほとんどまたは全くない。

妊娠を望む女性には不妊治療の専門医を紹介すべきである。不妊治療(例,クロミフェン)が行われる。クロミフェンは現在,不妊に対する第1選択薬である。減量も助けになる場合がある。避妊効果を有する可能性のあるホルモン療法は避ける。アロマターゼ阻害薬のレトロゾールも排卵を刺激するために用いることができる。その他の排卵誘発薬を試すこともある。具体的には,卵巣を刺激する卵胞刺激ホルモン(FSH),FSH放出を刺激するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト,および排卵を誘発するヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)などがある。

PCOSの女性では妊娠合併症(妊娠糖尿病,早産,および妊娠高血圧腎症を含む)のリスクが高く,これらの合併症は肥満であると悪化するため,BMI,血圧,および経口ブドウ糖負荷の受胎前の評価が推奨される。クロミフェンやその他の薬剤が奏効しない場合,または他に腹腔鏡検査の適応がある場合は,腹腔鏡下卵巣多孔術(laparoscopic ovarian drilling)を考慮してもよいが,多孔術の長期合併症(例,癒着,卵巣機能不全)の可能性も考慮しなければならない。卵巣多孔術では,電気焼灼またはレーザーを用いて,卵巣のアンドロゲンを産生する小さな領域に複数の穴を開ける。卵巣楔状切除術は推奨されない。

男性型多毛症に対しては,物理的処理(例,漂白,電気分解,毛抜き,ワックス,除毛)が行われる。エフロルニチン(eflornithine)クリーム(13.9%,1日2回塗布)は,不要な顔毛の除去に有用である。妊娠を望まない成人女性では,アンドロゲン値を低下させるホルモン療法またはスピロノラクトンを試すことができる。スピロノラクトン(50~100mg,1日2回)は効果的であるが,この薬剤には催奇形性の可能性があるため,効果的な避妊法が必要である。抗アンドロゲン薬のシプロテロン(米国では入手できない)は,罹患女性の50~75%で不要な体毛の量を減少させる。肥満女性では減量によりアンドロゲン産生が低下するため,毛髪の成長が緩徐になることがある。

不要な体毛の治療薬としてGnRHアゴニストおよびアンタゴニストが研究中である。どちらの種類の薬剤も卵巣による性ホルモン産生を阻害する。しかし,どちらも骨量減少を引き起こし,骨粗鬆症につながる可能性がある。

ざ瘡は通常の薬物で治療できる(例,過酸化ベンゾイル,トレチノインクリーム,外用および経口抗菌薬)。イソトレチノインの全身投与は重症例にのみ用いられる。

併存症の管理

PCOSでは抑うつおよび不安のリスクが上昇するため,PCOSの女性および青年では病歴に基づいてこれらの問題のスクリーニングを行うべきであり,問題が同定された場合,必要に応じて精神医療従事者への紹介および/または治療を行うべきである。

過体重または肥満であるPCOSの青年および女性では,睡眠ポリグラフ検査により閉塞性睡眠時無呼吸症候群の症状がないかスクリーニングを行い,必要に応じて治療すべきである。

PCOSにより心血管疾患のリスクが上昇するため,PCOSの女性が以下のいずれかを有する場合,心血管疾患の予防のために心血管専門医への紹介が必要である:

医師はBMI(body mass index)の算出,空腹時脂質およびリポタンパク値の測定,ならびにメタボリックシンドロームの危険因子の同定により心血管リスクを評価すべきである。

PCOSの成人女性では,血圧と通常血清血糖値および脂質(脂質プロファイル)を測定しメタボリックシンドロームを評価する。

潜在性動脈硬化を調べるため,冠動脈石灰化および頸動脈の内膜中膜複合体肥厚の検査を行うべきである。

異常性器出血がみられる女性は,子宮内膜生検および/または経腟超音波検査もしくはオフィスヒステロスコピーにより子宮内膜癌のスクリーニングを行うべきである。

要点

  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は排卵障害の一般的な原因である。

  • 月経が不規則で,軽度の肥満および軽度の多毛を認める女性ではPCOSを疑うが,PCOSの多くの女性では体重が正常または低体重であることに留意する。

  • 類似の症状を来す可能性のある重篤な疾患(例,クッシング症候群,腫瘍)および合併症(例,メタボリックシンドローム)の検査を行う。

  • 女性が妊娠を希望していない場合,ホルモン避妊薬により治療し,生活習慣の改善を勧める;生活習慣の改善で効果がなければ,メトホルミンを追加する。

  • PCOSの女性が不妊で妊娠を望む場合は,生殖医療の専門医に紹介する。

  • 子宮内膜癌,気分障害および不安症,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,糖尿病,および心血管系危険因子(高血圧および高脂血症を含む)などの併存症のスクリーニングを行う。

より詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Legro RS, Arslanian SA, Ehrmann DA, et al: Diagnosis and treatment of polycystic ovary syndrome: An Endocrine Society clinical practice guideline.J Clin Endocrinol Metab 98(12):4565–4592, 2013.doi: 10.1210/jc.2013-2350: This evidence-based guideline uses the Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation (GRADE) system to describe the strength of recommendations and the quality of evidence.

  2. Goodman NF, Cobin RH, Futterweit W, et al: American Association of Clinical Endocrinologists, American College of Endocrinology, and Androgen Excess and PCOS Society Disease State Clinical Review: Guide to the best practices in the evaluation and treatment of polycystic ovary syndrome–Part 1.Endocr Pract 21(11):1291–300, 2015.doi: 10.4158/EP15748.DSC: This article summarizes the best practices of 2015.

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