アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症の概要

執筆者:Thomas M. Yuill, PhD, University of Wisconsin-Madison
レビュー/改訂 2020年 3月
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アルボウイルス(節足動物媒介ウイルス)という名称は,特定の吸血性節足動物,主に昆虫(ハエおよび蚊)とクモ形網動物(マダニ)を媒介生物としてヒトおよび/または他の脊椎動物に伝播する全てのウイルスに適用される。アルボウイルスは,ウイルスゲノムの性質および構造に基づいた現在のウイルス分類体系には含まれていない。

現在の分類体系で一部のアルボウイルスが含まれる科としては,以下のものがある:

  • ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)(ブニヤウイルス,フレボウイルス,ナイロウイルス,およびハンタウイルス)

  • トガウイルス科

  • フラビウイルス科(Flaviviridae)(フラビウイルスのみ)

  • レオウイルス科(Reoviridae)(コルチウイルスおよびオルビウイルス)

  • トガウイルス科(Togaviridae)(アルファウイルス)

パール&ピットフォール

  • アルボウイルスとは,ウイルス科の名称ではなく,特定の種の節足動物(arthropod)によって伝播されるウイルスという事実だけを意味する用語であり,すなわち節足動物(arthropod)媒介性(borne)ウイルスということである。

  • 様々なウイルス科にアルボウイルスが存在する。

ウイルス性出血熱に関連するウイルスの大半は,アレナウイルス科(Arenaviridae)かフィロウイルス科(Filoviridae)に分類される。しかしながら,一部のフラビウイルス(黄熱ウイルス,デングウイルス)と一部のブニヤウイルス(Bunyaviridae)(リフトバレー熱ウイルス,クリミア-コンゴ出血熱ウイルス,重症熱性血小板減少症候群ウイルス,およびハンタウイルス)は,出血症状に関連している可能性がある。

アルボウイルス属に属するウイルスは250種を超え,世界中に分布している;少なくとも80種のアルボウイルスがヒトに疾患を引き起こす。鳥類はしばしばアルボウイルスの病原体保有生物になり,ウイルスは蚊を媒介生物としてウマ,その他の家畜,およびヒトへと伝播される。アルボウイルスのその他の病原体保有生物としては,節足動物や脊椎動物(しばしば齧歯類,サル,およびヒト)などがある。これらのウイルスは,ヒト以外の病原体保有生物からヒトへ直接広がることもあれば,ウイルスの種類に応じて,輸血,その他の臓器移植,性的接触,出生時の母子感染によりヒトからヒトへ伝播することもある。ほとんどのアルボウイルスに関しては,日常的な軽い接触を介したヒトからヒトへの伝播は報告されていない。ほとんどのアルボウイルス感染症は,ヒトから伝播することはないが,これはおそらく一般にヒトに生じる程度のウイルス血症では,媒介節足動物を感染させるのに不十分なためである;しかしながら,デングウイルス感染症黄熱ジカウイルス感染症,およびチクングニア熱は例外であり,蚊を媒介としてヒトからヒトへ伝播する。また,ジカウイルスは性行為を介しても感染し,症状のある感染した男性からそのセックスパートナーへ,または感染した女性からそのセックスパートナーへと伝播する。

一部の感染症(例,ウエストナイルウイルス感染症,コロラドダニ熱,デングウイルス感染症ジカウイルス感染症)は,輸血または臓器提供によって広がる。

アレナウイルス科(Arenaviridae)には,リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスラッサ熱ウイルス,モペイアウイルス,タカリベウイルス,フニンウイルス,ルジョウイルス,マチュポウイルスなどが含まれ,いずれも齧歯類を介して伝播し,それゆえアルボウイルスではない。ラッサ熱ウイルスはヒトからヒトへ伝播する可能性がある。

フィロウイルス科(Filoviridae)は2つの属,すなわちエボラウイルス属(Ebolavirus)(5種)とマールブルグウイルス属(Marburgvirus)(2種)から構成される。これらのウイルスの特異的媒介生物は確認されていないが,フルーツコウモリが有力な候補とされている;したがって,フィロウイルス科(Filoviridae)はアルボウイルスではない。エボラウイルスおよびマールブルグウイルスのヒトからヒトへの伝播は迅速に起こる。

これらの感染症の多くは無症候性である。症候性の場合,一般に非特異的な軽度のインフルエンザ様疾患として始まり,何らかの症候群に進行することがある(アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症の表を参照)。これらの症候群としては,リンパ節腫脹,発疹,無菌性髄膜炎脳炎,関節痛,関節炎,非心原性肺水腫などが生じる。多くが発熱および出血傾向(出血熱)を引き起こす。ビタミンK依存性凝固因子の合成低下,播種性血管内凝固症候群,および血小板機能の変化が出血の一因である。

診断検査としては,しばしばウイルス培養,ポリメラーゼ連鎖反応検査,電子顕微鏡検査,可能であれば抗原および抗体検出法が行われる。

表&コラム

治療

  • 支持療法

  • ときにリバビリン

これらの感染症の大半に対する治療は支持療法である。

出血熱では,出血によりフィトナジオン(ビタミンK1)投与を要することがある。濃厚赤血球または新鮮凍結血漿の輸血も必要となりうる。アスピリンとその他のNSAID(非ステロイド系抗炎症薬)は抗血小板活性があるため,禁忌である。ハンタウイルス心肺症候群の進行した症例では,体外式膜型人工肺(ECMO)が必要になることがある。

ラッサ熱リフトバレー熱,クリミア-コンゴ出血熱など,アレナウイルスまたはブニヤウイルスによって引き起こされる出血熱には,以下の薬剤が推奨される:

  • リバビリン30mg/kg(最大2g),静注の負荷投与に続いて,16mg/kg(最大1g/回),静注,6時間毎で4日間,さらに8mg/kg(最大500mg/回),静注,8時間毎で6日間投与する

腎症候性出血熱の治療はリバビリン静注による:リバビリン33mg/kg(最大2.64g)の負荷投与に続いて,16mg/kgを6時間毎(最大1.28g,6時間毎)に4日間,さらに8mg/kgを8時間毎(最大0.64g,8時間毎)に3日間投与する。

他の症候群に対する抗ウイルス療法はまだ十分に研究されていない。リバビリンは,フィロウイルスおよびフラビウイルス感染症の動物モデルで効果がみられたことはない。しかしながら,モノクローナル抗体のカクテルであるREGN-EB3および単一のモノクローナル抗体であるmAb114は,コンゴ民主共和国におけるエボラアウトブレイクの実地試験において死亡を減少させた。

予防

  • 媒介生物の管理

  • 媒介生物による刺咬の予防

  • ときにワクチン接種

アルボウイルスは数が多く多様であるため,特異的なワクチンや薬物療法を開発するよりも,媒介節足動物を駆除し,刺咬を防止し,生息場所を除去することの方が,感染制御策としてより簡単で安価であることが多い。

媒介生物の管理および刺咬の予防

蚊またはマダニによって媒介される疾患は,多くの場合,以下の対策で予防できる:

  • 体をできる限り覆う服を着る

  • 殺虫剤(例,DEET[ジエチルトルアミド])を使用する

  • 昆虫またはマダニへの曝露の可能性を最小限にする(例,蚊に関しては,湿潤地での外出時間を制限する;マダニに関しては,コラム「ダニ刺咬の予防」を参照)

  • 最近,ネッタイシマカ(Aedes aegypti)の個体数を,不妊の雄や遺伝子操作された雄を放出することによって減少させる技術の進歩がみられる。また,ボルバキア菌に感染させたネッタイシマカ(Aedes aegypti)を野生に放つ実地試験が進行中である。このような細菌は蚊の個体数を減少させるわけではない。その代わりに,蚊がデングウイルス,チクングニアウイルス,およびジカウイルスに感染するのを阻止することで,疾患の伝播を抑制する。ボルバキア菌が感染した蚊の子孫に伝播することで,この手法の有効性は増大する。

齧歯類の排泄物によって伝播される疾患は,以下の対策で予防できる:

  • マウスがいた閉鎖空間は洗浄する前に15分以上換気する。

  • 掃き掃除または拭き掃除の前に,10倍希釈の漂白剤で家具などの表面を湿らせる。

  • ホコリを舞い散らさない。

  • 齧歯類が家屋や付近の建物に侵入できるような穴を塞ぐ。

  • 齧歯類を食物に近づけない。

  • 家の中や周囲に齧歯類が巣を作りそうな場所があれば除去する。

齧歯類の排泄物の清掃および齧歯類の排泄物が存在する可能性のある場所での作業に関するガイドラインが,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)から入手できる。

フィロウイルス科に属するエボラウイルスおよびマールブルグウイルスの伝播は,ヒトからヒトによるものが優勢であるため,伝播の予防には厳重な検疫および隔離措置を要する。

予防接種

現状のところ,米国ではエボラウイルス黄熱ウイルスおよび日本脳炎ウイルスにのみ効果的なワクチンがある。ダニ媒介性脳炎のワクチンは,欧州,ロシア,および中国で入手できる。デングウイルス感染症に対するワクチンは,米国以外のいくつかの国で承認されているが,その効力は限られており,デングウイルスに対する免疫状態,血清型や患者の年齢によっても変動する;現在研究が進められている。

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