骨髄異形成症候群(MDS)

執筆者:Ashkan Emadi, MD, PhD, University of Maryland;
Jennie York Law, MD, University of Maryland, School of Medicine
レビュー/改訂 2020年 5月
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骨髄異形成症候群(MDS)は,末梢の血球減少症,異形成の造血前駆細胞,過形成または低形成の骨髄,および急性骨髄性白血病への移行リスクが高いことを特徴とする疾患群である。症状は最も強く障害された特定の細胞系列に由来するものであり,具体的には易疲労感,筋力低下,蒼白(貧血に起因),感染および発熱の増加(好中球減少症に起因),出血および皮下出血の増加(血小板減少症に起因)などがみられる。診断は血算,末梢血塗抹検査,骨髄穿刺および骨髄生検による。アザシチジンまたはデシタビン(decitabine)による治療が助けになる場合がある;急性骨髄性白血病を併発した場合は,通常のプロトコルに従って治療する。

米国で骨髄異形成症候群(MDS)と診断される年間患者数は不明である。約10,000例とする推計もあるが,それよりはるかに多い推計もある。MDSは70歳代で最も多く診断される。

MDSの病態生理

骨髄異形成症候群は,クローン性の造血幹細胞疾患の総称であり,造血幹細胞の固有な遺伝子変異(RNAのスプライシングに関与する遺伝子の変異が最も多い)の存在によりまとめられる。骨髄異形成症候群は,無効造血および異形成を伴う造血を特徴とし,以下が含まれる:

  • 不応性貧血:網状赤血球減少を伴う貧血;赤芽球過形成および赤血球生成障害を伴う正常または過形成の骨髄;芽球は有核骨髄細胞の5%以下

  • 環状鉄芽球を伴う不応性貧血:環状鉄芽球が有核骨髄細胞の15%を超えていることを除き,網状赤血球減少を伴う不応性貧血と同じ

  • 多血球系異形成を伴う不応性血球減少症:赤血球に限定されない血球減少症;白血球前駆細胞および巨核球の顕著な異形成

  • 多血球系異形成と環状鉄芽球を伴う不応性血球減少症:環状鉄芽球が有核骨髄細胞の15%を超えている

  • 芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB):造血細胞の形態学的異常を伴う2つ以上の血球系の血球減少症;赤血球異形成および顆粒球異形成を伴う過形成の骨髄;芽球は有核骨髄細胞の5~9%(RAEB-I)または10~19%(RAEB-II)

  • 分類不能な骨髄異形成症候群:いずれの分類定義にも当てはまらないMDS

  • 孤立したdel(5q)を伴うMDS:典型的に重度の貧血および血小板増多症がみられ,5番染色体の長腕の欠失を伴う

  • 慢性骨髄単球性白血病(CMML)および若年性骨髄単球性白血病(JMML):骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍の混在;血中の単球数増加(> 1000/µL[1/L]);骨髄単球前駆細胞の有意な増加

  • 慢性好中球性白血病:好中球増多の存在とフィラデルフィア染色体およびBCR-ABL1融合遺伝子を認めないことを特徴とする

骨髄異形成症候群の病因は不明である。特定の造血幹細胞のクローン性増殖および優位性を促進する体細胞変異の獲得により加齢に伴いリスクが高まるほか,ベンゼンなどの環境有害物質,放射線,および化学療法薬(特に長期または強力なレジメン,アルキル化薬,ヒドロキシカルバミド,および/またはトポイソメラーゼ阻害薬を含むレジメン)への曝露もリスクの増大に寄与する可能性がある。染色体異常(例,欠失,重複,構造異常)がしばしば存在する。

骨髄は低形成の場合も過形成の場合もある。無効造血により,貧血(最も多い),好中球減少症,血小板減少症,またはこれらの組合せが生じ,骨髄形成不全に至ることさえある。著明な貧血,難治性貧血,または慢性貧血がある患者は,輸血および/または消化管からの鉄の吸収亢進によって最終的に鉄過剰になる。

この造血障害は,骨髄中および血液中における血球の形態学的異常にも関係している。髄外造血が生じることがあり,肝腫大および脾腫を来す。骨髄線維症がMDSの進行過程で発生することがある。分類は血液および骨髄所見のほか,核型および遺伝子変異にもよる。MDSクローンは,急性骨髄性白血病へ進行する傾向がある。

MDSの症状と徴候

骨髄異形成症候群の症状は最も強く障害された細胞系列を反映する傾向を示し,具体的には蒼白,筋力低下,および易疲労感(貧血による);発熱および感染(好中球減少症);ならびに皮下出血,点状出血,鼻出血,および粘膜出血の増加(血小板減少症)などがみられる。脾腫および肝腫大は,まれではない。

MDSの診断

  • 血算

  • 末梢血塗抹検査

  • 骨髄検査

不応性貧血,白血球減少症,または血小板減少症の患者(特に高齢患者)では,骨髄異形成症候群が疑われる。自己免疫疾患ビタミンB12欠乏症葉酸欠乏症,特発性再生不良性貧血発作性夜間血色素尿症銅欠乏症亜鉛中毒,または薬剤の作用に起因する血球減少症を除外する必要がある。診断は,末梢血および骨髄検体において特定の系統の血球の10~20%に形態学的異常を認めることにより示唆されるが,確定診断は特異的な細胞遺伝学的異常と体細胞変異を証明することによる。

貧血が最も一般的な特徴であり,通常は大赤血球症および赤血球大小不同を伴う。このような変化は,自動血球計算機を用いると,平均赤血球容積および赤血球分布幅の増加により示される。

通常はある程度の血小板減少がみられ,末梢血塗抹標本では,血小板の大きさが不同で,低顆粒と判定されることもある。不応性鉄芽球性貧血の患者は,JAK2 V617F変異と併せて,血小板増多症になる場合がある。

白血球数は正常,増加,減少のいずれの可能性もある。好中球の細胞質顆粒は減少し,大小不同および顆粒数のばらつきを伴う。好酸球に異常顆粒がみられることもある。pseudo Pelger-Huët核異常(低分葉核好中球)がみられることがある。

単球増多症は,慢性および若年性骨髄単球性白血病亜型の特徴であり,より未分化な亜型で未熟骨髄細胞がみられることがある。細胞遺伝学的所見は,通常異常であり,5番または7番染色体に1つまたは複数のクローン性細胞遺伝学的異常がみられることが多い。

5q欠失症候群は骨髄異形成症候群の特殊な病型であり,主に女性に発生し,典型的には大球性貧血と血小板増多が認められる。5q欠失症候群の貧血はレナリドミドに反応すると考えられる。

MDSの予後

骨髄異形成症候群の予後は,分類と併存疾患に大きく依存する。5q欠失症候群,不応性貧血,または環状鉄芽球を伴う不応性貧血の患者では,より悪性の病型へ進行する可能性が低い。

MDSにおける改訂国際予後スコアリングシステム(IPSS-R)によって,MDS患者の転帰が予測される。IPSS-Rでは以下の危険因子を考慮している:

  • 細胞遺伝学的所見:最悪の予後は,高リスクまたは複数の異常と関連

  • 骨髄中芽球割合:最悪の予後は,芽球数増加(特に10%を超える場合)と関連

  • 血球減少の程度:最悪の予後は,ヘモグロビン < 8g/dL(80g/L),血小板数 < 50,000/µL(50 × 109/L),および好中球数(ANC)< 800/µL(0.8 × 109/L)と関連

危険因子が多いほど,予後は不良である。リスクが最も高い患者群における全生存期間の中央値は0.8年である。リスクが最も低い患者群における全生存期間の中央値は約8年である。

MDSの治療

  • 症状改善および支持療法

  • 化学療法

  • 造血幹細胞移植

一般に,治療は症状のある患者に対してのみ行う。

症状のある患者は通常,長期の血液および血小板の輸血を必要とする。これらの患者はその後,二次性の鉄過剰を発症することが多い。低リスクの骨髄異形成症候群でフェリチン値が1000ng/mL(1000μg/L)を超える患者では,鉄キレート薬が有益となる場合がある。

赤血球造血刺激因子製剤(ESA)は,MDS患者の15~20%で貧血の重症度を低下させ,特に輸血に依存しておらず血清エリスロポエチン濃度が500mIU/mL(500IU/L)未満である貧血患者での有効性が高い。環状鉄芽球を伴う不応性貧血では,赤血球刺激薬と顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を併用する治療により,赤血球反応率が40%近くまで高まる可能性がある。しかし,MDSの全ての型において,増殖因子(ESA+G-CSF)による治療では,生存期間が改善されず,かつ/またはAMLへの形質転換のリスクが低下しない。

MDSの治療に使用される薬剤

  • アザシチジン

  • デシタビン(decitabine)

  • レナリドミド

アザシチジンは,ピリミジンヌクレオシドアナログである。アザシチジンでは,支持療法および従来の化学療法と比べて全生存期間が延長する。アザシチジンによる治療を受けた全ての亜型のMDS患者で,生存期間の中央値は21カ月である。4~6サイクル以上の治療を実施し,患者に効果が認められている限り,投与を継続すべきである。

デシタビン(decitabine)は,ピリミジンヌクレオシドアナログである。MDS患者で43%もの高い寛解率が得られる。全ての病型のMDS患者の治療に適応となる。

アザシチジンおよびデシタビン(decitabine)は,DNAを脱メチル化するエピジェネティックモジュレーターである。DNAの特定領域の高メチル化は,がん抑制遺伝子を阻害し,MDSの悪性化に役割を果たすと考えられる。

レナリドミドは,5q欠失症候群のMDS患者において赤血球輸血の必要性を減らすのに効果的な免疫調節薬である。

低形成性MDSの患者では,シクロスポリンに場合により抗胸腺細胞グロブリン(ATG)を併用する免疫抑制療法が効果的であることが,血球数の改善と輸血必要性の低下によって示されている。

同種造血幹細胞移植がMDSに対する唯一の根治的治療である。比較的若年で医学的に状態良好な患者には同種造血幹細胞移植が適応となる。

MDSの要点

  • 骨髄異形成症候群は,異常な造血幹細胞のクローン性増殖を伴う造血細胞産生障害である。

  • 通常は,赤血球(最も多い),白血球,および/または血小板の欠乏を呈する。

  • 急性骨髄性白血病への移行がよくみられる。

  • アザシチジンおよびデシタビン(decitabine)は,症状を軽減し,急性白血病への移行率を低下させる可能性がある。

  • 造血幹細胞移植は唯一の根治的治療法であり,比較的若年で健康状態が良好な患者では選択すべき治療法である。

MDSについてのより詳細な情報

以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. MDS Foundation

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