新生児髄膜炎については, 新生児細菌性髄膜炎を参照のこと。
病態生理
最も一般的には,細菌が血流を介してくも膜下腔および髄膜に達する。細菌はまた,感染した近傍の構造物から,あるいは先天性または後天性の頭蓋骨または脊椎の欠損を介して髄膜に到達することもある( 急性細菌性髄膜炎 : 経路)。
白血球,免疫グロブリン,および補体は正常では髄液にわずかしかないかまたは存在しないため,初期には細菌は炎症を起こすことなく増殖する。その後,細菌が内毒素,タイコ酸,およびその他の物質を放出し,これらが白血球やTNFなどを媒介として炎症反応を惹起する。典型的には,髄液中ではタンパクは増加する一方,細菌がブドウ糖を消費し,髄液中へのブドウ糖の運搬も減るため,ブドウ糖濃度は減少する。
くも膜下腔における炎症は皮質脳炎および脳室炎を伴うことがある。合併症の頻度は高く以下のものがみられることがある:
病因
可能性の高い細菌性髄膜炎の原因菌は以下によって変わる:
年齢
小児および若年成人の細菌性髄膜炎で最も一般的な原因は以下のものである:
髄膜炎菌(N. meningitidis)性髄膜炎ではときに数時間以内に死に至る。髄膜炎菌(N. meningitidis)によって引き起こされる敗血症は,ときに両側性の副腎出血性梗塞(Waterhouse-Friderichsen症候群)を来す。
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型は,以前は6歳未満の小児および全体で髄膜炎の最も一般的な原因であったが,現在ではインフルエンザ菌(H. influenzae)ワクチンが広く用いられている米国および西欧ではまれな原因である。しかしながら,ワクチンが広く使用されていない地域では,インフルエンザ菌(H. influenzae)は依然として一般的な原因となっており,特に生後2カ月から6歳の小児でその傾向が強い。
中年成人および高齢者の細菌性髄膜炎で最も一般的な原因は以下のものである:
頻度は低いが,髄膜炎菌(N. meningitidis)が中年成人および高齢者に髄膜炎を引き起こすこともある。加齢とともに宿主防御機構が低下すると,L. monocytogenesまたはグラム陰性細菌による髄膜炎を発症しうる。
全ての年齢層において,ときに黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が髄膜炎を引き起こすことがある。
患者の年齢で分類した細菌性髄膜炎の原因菌
経路
侵入経路としては以下のものがある:
上のいずれかの病態がある場合は髄膜炎を発症するリスクが高まる。
経路で分類した細菌性髄膜炎の原因菌
免疫状態
症状と徴候
ほとんどの症例において,細菌性髄膜炎は倦怠感,発熱,易刺激性,嘔吐などの非特異的症状が3~5日間の内に潜行的に進行することにより開始する。しかしながら,より急速に発症することもあり,劇症になる可能性があるため,細菌性髄膜炎はそれまで健常であった若年個人が軽度の症状で入眠し,二度と目覚めない結果となりうる数少ない疾患の1つである。
髄膜炎の典型的な症状および徴候としては以下のものがある:
急性細菌性髄膜炎の小児の最大40%で初期に痙攣発作が起こり,成人でみられることもある。最大12%の患者が昏睡状態で来院する。重症の髄膜炎は乳頭浮腫を生じうるが,たとえ頭蓋内圧が亢進していても初期には乳頭浮腫がみられないことがある。
合併することのある病原体別の全身感染症として,以下のものがある:
成人における非典型的な臨床像
診断
急性細菌性髄膜炎が疑われる場合は,直ちに血液培養および髄液検査のため腰椎穿刺(禁忌がない場合)を行う。
典型的な症候(通常は発熱,精神状態の変化,項部硬直など)がみられる患者では,細菌性髄膜炎を疑うべきである。しかしながら,新生児および乳児では現れる症候が異なり,また高齢者,アルコール依存症患者,および易感染性患者では症候が認められないか,初期には軽度となる場合があることに留意しておく必要がある。以下の患者では診断が困難になることがある:
焦点発作または局所神経脱落症状は,脳膿瘍などの局所病変を示唆している場合がある。
未治療の細菌性髄膜炎は致死的であるため,髄膜炎の可能性が少しでもあれば検査を行うべきである。乳児,高齢者,アルコール依存症患者,易感染性患者,および脳神経外科手技を受けた患者では,症状が非典型的となることがあるため,検査が特に有用である。
所見から急性細菌性髄膜炎が疑われれば,以下のルーチン検査を行う:
腰椎穿刺
禁忌がない限り,髄液検査のために直ちに腰椎穿刺を施行するのが診断の基本である。
緊急腰椎穿刺の禁忌は,著明な頭蓋内圧亢進または頭蓋内の腫瘤効果(mass effect)を示唆する徴候(例,浮腫,出血,または腫瘍によるもの)であり,典型的な徴候としては以下のものがある:
このような場合は,腰椎穿刺は脳ヘルニアの原因となる可能性があるため,神経画像検査(典型的にはCTまたはMRI)を行って頭蓋内圧亢進と腫瘤効果(mass effect)がないか確認するまで,腰椎穿刺は延期する。腰椎穿刺を延期した場合は,治療は直ちに開始するのが最善である(培養のための血液検体採取後かつ神経画像検査前)。頭蓋内圧が低下してから(亢進していた場合),腫瘤効果(mass effect)が検出されなければ,腰椎穿刺を施行できる。
髄液を検査室に提出すべきである:細胞数,タンパク,糖,グラム染色,培養,PCR(可能であれば),およびその他の検査を臨床適応に応じて行う。同時に血液検体を採取し,検査に出して髄液糖/血糖比を確定すべきである。白血球が採取管の壁に付着すると誤って低い値が出ることがあるため,可及的速やかに髄液細胞数を測定すべきである;極めて膿性の髄液では,白血球が溶解することがある。
細菌性髄膜炎の典型的な髄液所見としては以下のものがある:
髄液糖/血糖比 < 50%は髄膜炎の可能性を示唆する。髄液糖 ≤ 18mg/dLまたは髄液糖/血糖比 < 0.23の場合は,細菌性髄膜炎が強く示唆される。しかしながら,髄液糖の変化は血糖値の変化に対して30~120分遅れる可能性がある。急性細菌性髄膜炎では,タンパク上昇(通常100~500mg/dL)は血液脳関門の損傷を示唆する。
急性細菌性髄膜炎患者における髄液細胞数ならびにタンパクおよび糖値は常に典型的であるとは限らない。非典型的な髄液所見としては以下のものがありうる:
髄膜炎における髄液所見
原因菌の同定方法は,グラム染色,培養,可能な場合はPCRなどである。グラム染色はすぐに結果が出るが,得られる情報は限られている。細菌をグラム染色で確実に同定するには,105/mm3の菌数が必要である。髄液の扱いが適切でない場合,髄液が静置された後細菌が十分に浮遊しない場合,あるいは脱色またはスライドグラスの判読過程でエラーが起こった場合は,結果が偽陰性となることがある。
特定の細菌が原因であることの診断および抗菌薬感受性の判定には細菌培養を要する。嫌気性菌感染またはその他のまれな細菌が疑われる場合は,検体培養が開始される前に検査室にその旨を報告すべきである。先に抗菌薬療法が開始された場合は,グラム染色および培養による診断率は低下する可能性がある。PCRが利用可能であれば,有用な補助検査となる可能性があり,特に抗菌薬がすでに投与された患者ではその可能性が高い。
髄膜炎の原因が確定するまで,髄液または血液検体を使用して髄膜炎のその他の原因,例えばウイルス(特に単純ヘルペス),真菌,癌細胞などがないかを確認することもある。
その他の検査
予後
19歳未満の小児では,死亡率は3%と低いこともあるが,しばしばより高率である;生存児には難聴および精神神経学的障害が残ることがある。60歳未満の成人での死亡率は約17%であるが,60歳以上では最大37%である。黄色ブドウ球菌(S. aureus)による市中髄膜炎の死亡率は43%である。
一般に,死亡率は意識障害または昏睡の深度と相関する。予後不良に関連する因子としては以下のものがある:
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年齢60歳以上
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消耗性疾患の併存
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入院時にグラスゴー昏睡スケール(Glasgow Coma Scale)のスコアが低い( グラスゴー昏睡スケール(Glasgow Coma Scale)*および 乳児・小児用改変グラスゴー昏睡スケール(Modified Glasgow Coma Scale for Infants and Children))
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局所神経脱落症状
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髄液細胞数が少ない
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髄液圧の上昇(特に)
痙攣発作および髄液糖/血糖比の低下もまた予後不良を示すことがある。
治療
治療の中心は抗菌薬である。抗菌薬に加え,脳および脳神経の炎症や頭蓋内圧亢進を軽減する処置などを行う。
患者のほとんどはICUに収容される。
抗菌薬
抗菌薬は原因菌に対し殺菌作用のあるものでなければならず,また血液脳関門を貫通できるものでなければならない。
患者の状態が悪く,所見から髄膜炎が示唆される場合は,血液培養用の検体を採取し次第,たとえ腰椎穿刺を行う前であっても,直ちに抗菌薬( 急性細菌性髄膜炎に対する初期抗菌薬)とコルチコステロイドを開始する。また,神経画像検査の結果が出るまで腰椎穿刺を延期する場合は,神経画像検査を行う前に抗菌薬とコルチコステロイドによる治療を開始する。
適切な経験的抗菌薬は,患者の年齢および免疫状態ならびに感染経路によって異なる( 急性細菌性髄膜炎に対する初期抗菌薬)。一般に,肺炎球菌,髄膜炎菌,および黄色ブドウ球菌に効果を示す抗菌薬を使用すべきである。ときに(例,新生児および一部の免疫抑制患者において)単純ヘルペス脳炎が除外できないことがある;そのため,アシクロビルを追加する。抗菌薬療法は,培養および感受性試験の結果に応じて変更が必要になる場合がある。
一般的に使用されている抗菌薬としては以下のものがある:
急性細菌性髄膜炎に対する初期抗菌薬
急性細菌性髄膜炎に対する特異的な抗菌薬
急性細菌性髄膜炎に対する一般的な抗菌薬の用量*
抗菌薬 |
用量 |
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生後1カ月以上の小児 |
成人 |
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セフトリアキソン |
50mg/kg,12時間毎 |
2g,12時間毎 |
セフォタキシム |
50mg/kg,6時間毎 |
2g,4~6時間毎 |
セフタジジム |
50mg/kg,8時間毎 |
2g,8時間毎 |
セフェピム |
2g,12時間毎 |
2g,8~12時間毎 |
アンピシリン |
75mg/kg,6時間毎 |
2~3g,4時間毎 |
ベンジルペニシリン |
4百万単位,4時間毎 |
4百万単位,4時間毎 |
ナフシリンおよびオキサシリン |
50mg/kg,6時間毎 |
2g,4時間毎 |
バンコマイシン† |
15mg/kg,6時間毎 |
10~15mg/kg,8時間毎 |
メロペネム |
40mg/kg,8時間毎 |
2g,8時間毎 |
ゲンタマイシンおよびトブラマイシン† |
2.5mg/kg,8時間毎 |
2mg/kg,8時間毎 |
アミカシン† |
10mg/kg,8時間毎 |
7.5mg/kg,12時間毎 |
リファンピシン |
6.7mg/kg,8時間毎 |
600mg,24時間毎 |
*新生児向けの用量については, 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量を参照のこと。 |
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†腎機能をモニタリングすべきである。 |
コルチコステロイド
その他の対策
予防
物理的な予防策
予防接種
予防接種により,特定の病型の細菌性髄膜炎を予防することができる。
肺炎球菌結合型ワクチンは髄膜炎の原因菌の80%以上を占める13の血清型に対し効果があり,全ての小児に推奨される( 0~6歳を対象期間とする推奨予防接種スケジュール)。
インフルエンザ菌(H. influenzae)b型に対するルーチンのワクチン接種は非常に効果が高く,生後2カ月から開始する。
以下のような患者には4価髄膜炎菌ワクチンを接種する:
髄膜炎の流行中は,リスク集団(例,大学生,小さな町)を同定しなければならず,集団ワクチン接種を開始する前にリスク集団の大きさを判定しなければならない。取り組みには費用がかかり,公共教育および支援が必要であるが,これにより命が救われ,合併症が軽減する。
髄膜炎菌ワクチンに血清型Bの髄膜炎菌性髄膜炎に対する予防効果はなく,ワクチンを接種済みの患者が髄膜炎症状で来院した場合は,このことに留意すべきである。
化学予防
要点
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小児および成人における一般的な原因菌としては髄膜炎菌(N. meningitidis)や肺炎球菌(S. pneumoniae)などがあり,乳児および高齢者における一般的な原因菌としてはListeria属などがある;黄色ブドウ球菌(S. aureus)は全ての年齢層でときに髄膜炎を引き起こす。
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乳児,アルコール依存症患者,高齢者,易感染性患者,および脳神経外科手技後に髄膜炎を発症した患者では,典型的な特徴がないか,または軽微な可能性がある。
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局所神経脱落症状,意識障害,痙攣発作,または乳頭浮腫(頭蓋内圧亢進または腫瘤効果[mass effect]を示唆する)がある場合は,神経画像検査の結果が出るまで腰椎穿刺を延期する。
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急性細菌性髄膜炎は,たとえ診断確定前であっても,可及的速やかに治療を開始する。
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経験的に選択される一般的な抗菌薬レジメンには,しばしば第3世代セファロスポリン系薬剤(肺炎球菌[S. pneumoniae]および髄膜炎菌[N. meningitidis)]に対して),アンピシリン(L. monocytogenesに対して),バンコマイシン(肺炎球菌[S. pneumoniae ]のペニシリン耐性株および黄色ブドウ球菌[S. aureus)]に対して)が含まれる。
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肺炎球菌(S. pneumoniae)および髄膜炎菌(N. meningitidis)に対するルーチンのワクチン接種,ならびに髄膜炎菌(N. meningitidis)に対する化学予防は髄膜炎予防に役立つ。