心筋症は心筋の原発性疾患である(心筋症の概要 心筋症の概要 心筋症は心筋の原発性疾患である。冠動脈疾患や弁膜症,先天性心疾患といった構造的心疾患とは明確に異なる疾患概念である。心筋症は病理学的特徴に基づき,以下に示す3つの主な病型に分類される( 心筋症の病型の図を参照): 拡張型 肥大型 拘束型 虚血性心筋症という用語は,重症 冠動脈疾患の患者で(梗塞領域の有無にかかわらず)発生することがある,心... さらに読む も参照)。拡張型心筋症はあらゆる年齢で発生しうるが,約50歳未満の成人でより多くみられる。拡張型心筋症を発症する人の約10%が65歳以上である。米国では,本疾患は男性で女性の約3倍,黒人で白人の約3倍多く発生している。毎年10万人当たり約5~8人がこの疾患を発症する(1 総論の参考文献 拡張型心筋症は,心室拡大と収縮機能障害を主体とする心不全を引き起こす心筋機能障害である。症状としては,呼吸困難,疲労,末梢浮腫などがある。診断は臨床的に行われ,ナトリウム利尿ペプチド高値,胸部X線,心エコー検査,およびMRIによる。治療は原因に対して行う。心不全が進行性かつ重度の場合には,心臓再同期療法,植込み型除細動器,中等度から高度の弁逆流に対する修復術,左室補助人工心臓,または心臓移植術が必要となることがある。... さらに読む )。

総論の参考文献
1.Dec GW, Fuster V: Idiopathic dilated cardiomyopathy.N Engl J Med 331:1564–1575, 1994.
拡張型心筋症の病態生理
原発性心筋疾患として,拡張型心筋症の心筋機能障害は,重度の閉塞性 冠動脈疾患 冠動脈疾患の概要 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血, 狭心症, 急性冠症候群( 不安定狭心症, 心筋梗塞), 心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の... さらに読む や心室に圧負荷または容量負荷が生じる状態(例, 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む
, 心臓弁膜症 心臓弁膜症の概要 いずれの心臓弁も狭窄または閉鎖不全(逆流とも表現される)を起こす可能性があり,その場合,症状出現のかなり前から血行動態に変化が生じる。弁の狭窄または閉鎖不全は,個々の弁で独立して起こる場合が最も多いが,複数の弁膜症が併存する場合もあれば,1つの弁に狭窄と閉鎖不全が併発する場合もある。... さらに読む )など,心筋の拡張を引き起こしうる他の病態を伴わずに発生する。一部の患者では,拡張型心筋症は急性 心筋炎 心筋炎 心筋炎は,心筋細胞の壊死を伴う心筋の炎症である。心筋炎は,多くの疾患(例,感染症,心毒性物質,薬剤,サルコイドーシスなどの全身性疾患)によって引き起こされるが,特発性のことも多い。症状は様々で,疲労,呼吸困難,浮腫,動悸,突然死などがありうる。診断は症状のほか,心血管系危険因子がなければ心電図検査,心筋バイオマーカー,および心臓画像検査の... さらに読む
(おそらくはほとんどの症例でウイルス性)とともに始まって,その後は一様でない潜伏期間,心筋細胞のびまん性壊死(ウイルスにより変性した筋細胞に対する自己免疫反応による)が生じる段階を経て,慢性の線維化へと続くと考えられている。原因にかかわらず,心筋は拡張して菲薄化し,代償性に肥大するが(心筋症の病型 心筋症の病型
の図を参照),これらの変化により機能性の 僧帽弁逆流 僧帽弁逆流症 僧帽弁逆流症(MR)は,僧帽弁の閉鎖不全により,心室収縮期に左室から左房に向かって逆流が生じる病態である。MRは一次性(一般的な原因は僧帽弁逸脱およびリウマチ熱)または左室拡大もしくは心筋梗塞による二次性の可能性がある。合併症としては進行性心不全,不整脈,心内膜炎がある。症状と徴候には動悸,呼吸困難,全収縮期の心尖部雑音がある。診断は身体診察および心エコー検査による。予後は左室機能およびMRの病因,重症度,期間によって異なる。軽度で症状... さらに読む または 三尖弁逆流 三尖弁逆流症 三尖弁逆流症(TR)は,三尖弁の閉鎖不全により,収縮期に右室から右房に向かって逆流が生じる病態である。最も一般的な原因は右室の拡大である。症状や徴候は通常みられないが,重症TRでは頸部の拍動,全収縮期雑音,および右室由来の心不全または心房細動が引き起こされる。診断は身体診察および心エコー検査による。TRは通常良性で治療を必要としないが,一部の患者では弁輪形成術,弁修復術,または弁置換術が必要になる。... さらに読む と心房拡大を来すことが多い。
ほとんどの患者で両心室が侵され,左室のみの発生はわずかであり,右室のみの発生はまれである。
一旦心腔の拡張および機能障害が顕著になると,血液のうっ滞により壁在血栓が形成されることがある。心筋炎急性期や慢性化後の拡張相後期には,しばしば 頻拍性不整脈 不整脈の概要 正常な心臓は規則正しく協調的に拍動するが,これは固有の電気的特性を有する筋細胞によって電気パルスが生成・伝達され,それにより一連の組織化された心筋収縮が誘発されることによって生じる。不整脈と伝導障害は,そうした電気パルスの生成,伝導,またはその両方の異常により引き起こされる。 先天的な構造異常(例,房室副伝導路)や機能異常(例,遺伝性のイ... さらに読む を合併するほか, 房室ブロック 房室ブロック 房室ブロックとは,心房から心室への興奮伝導が部分的または完全に途絶する状態である。最も一般的な原因は,伝導系に生じる特発性の線維化および硬化である。診断は心電図検査による;症状および治療はブロックの程度に依存するが,治療が必要な場合は通常,ペーシングが行われる。 ( 不整脈の概要も参照のこと。) 房室ブロックの最も一般的な原因は以下のものである: 伝導系に生じる特発性の線維化および硬化(約50%の患者)... さらに読む
も合併することがある。左房の拡大に伴い, 心房細動 心房細動 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗凝固療法による血栓塞栓症の予防のほか,ときに洞調律に復帰させるための薬剤投与またはカルディオバージョ... さらに読む がよくみられるようになる。
拡張型心筋症の病因
拡張型心筋症には既知の原因も多いが,未知の原因も多いと考えられる(拡張型心筋症の原因 拡張型心筋症の原因 の表を参照)。20種以上のウイルスが拡張型心筋症を引き起こす可能性があり,温帯地域では コクサッキーウイルスB群 心筋心膜炎 エンテロウイルスは,ライノウイルス( 感冒を参照)およびヒトパレコウイルスとともに,ピコルナウイルス科(小さな[pico]RNAウイルス)に属する。ヒトパレコウイルス1型および2型は,かつてはエコーウイルス22型および23型と呼ばれていたが,現在ではパレコウイルスに再分類されている。全てのエンテロウイルスは不均一な抗原性を有... さらに読む の頻度が最も高い。中南米では,クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)による シャーガス病 シャーガス病 シャーガス病はクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)による感染症で,主な伝播経路はサシガメ類昆虫による咬傷であるが,まれに感染したサシガメやその糞に汚染されたさとうきびジュースまたは食品からの伝播,母から子への経胎盤感染,感染したドナーからの輸血または臓器移植を介した伝播もみられる。症状は典型的にはサシガメ類に咬まれた後に皮膚病変または一側性の眼窩周囲浮腫で始まり,続いて発熱,倦怠感,全身性リンパ節腫... さらに読む
が最も一般的な感染性の原因である。
その他の原因としては,長期にわたる頻拍, HIV感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む , トキソプラズマ症 トキソプラズマ症 トキソプラズマ症は,Toxoplasma gondiiによる感染症である。症状はないこともあれば,良性リンパ節腫脹(単核球症様疾患)から,易感染者における生命を脅かす中枢神経系疾患やその他の臓器の障害まで,様々である。AIDS患者およびCD4陽性細胞数が少ない患者では,脳炎が発生する可能性がある。先天性感染症では網脈絡膜炎,痙攣発作,および知的障害が起こる。診断は血清学的検査,病理組織学的検査,またはポリメラーゼ連鎖反応(... さらに読む
, 甲状腺中毒症 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能亢進症は,代謝亢進および血清遊離甲状腺ホルモンの上昇を特徴とする。症状は多数あり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などを呈する。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。 ( 甲状腺機能の概要も参照のこと。) 甲状腺機能亢進症は,甲状腺放射性ヨード摂取率および血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類できる( 様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。... さらに読む
, 脚気 チアミン欠乏症 チアミン欠乏症(脚気を引き起こす)は,白米または高度に精製された炭水化物を常食としている発展途上国の人,およびアルコール依存症患者で最もよくみられる。症状としては,びまん性の多発神経障害,高拍出性心不全,ウェルニッケ-コルサコフ症候群などがある。欠乏症の診断および治療を補助するために,チアミンが投与される。 チアミンは食事から,特に全粒穀類,肉(特に豚肉およびレバー),栄養強化シリアル製品,ナッツ類,豆類,およびイモ類(... さらに読む などがある。多くの毒性物質,特にアルコール,様々な有機溶媒,鉄または重金属,および特定の化学療法薬(例,ドキソルビシン,トラスツズマブ)は,心臓の傷害を引き起こす。高頻度の心室性異所性収縮(1日当たり1万回を超える心室性期外収縮)は,左室収縮機能障害との関連が報告されている。
突然の精神的ストレスなど,アドレナリン過剰になる状態は急性の拡張型心筋症の誘因となる可能性があり,そのような心筋症は(長期にわたる頻拍によって引き起こされるものと同様に)典型的には可逆性である。その一例として,たこつぼ型心筋症(acute apical ballooning cardiomyopathy)が挙げられる。この疾患では,通常は心尖部やときに左室の他の部分が侵され,局所壁機能異常やときに局所的な拡張(ballooning)が生じる。
20~35%の症例では遺伝因子が関与しており,60を超える遺伝子ないし遺伝子座との関連が報告されている。
拡張型心筋症の症状と徴候
拡張型心筋症の発症は通常緩やかであるが,急性心筋炎,たこつぼ型心筋症,および頻拍性不整脈によるミオパチーは例外である。拡張型心筋症の全患者の約25%は非定型の胸痛を呈する。他の症状はどちらの心室が侵されたかに依存する。
左室機能障害が起きると,左室拡張期圧の上昇と心拍出量の低下により,労作時呼吸困難および疲労が生じる。
右室不全では末梢浮腫および頸静脈怒張がみられる。まれではあるが,若年患者では右室のみが侵されることがあり,その場合は心房性不整脈のほか,悪性心室性頻拍性不整脈による突然死を来すのが典型的である。
拡張型心筋症の診断
胸部X線
心電図
心エコー検査
心臓MRI
心内膜心筋生検(一部の症例のみ)
適応に応じて原因検索のための検査
拡張型心筋症の診断は,病歴聴取および身体診察,ならびに心室不全の他の一般的な原因(例,全身性 高血圧 高血圧 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,原発性アルドステロン症,糖尿病,または肥満に起因する。高血圧は重症となるか長期... さらに読む ,原発性 弁膜症 心臓弁膜症の概要 いずれの心臓弁も狭窄または閉鎖不全(逆流とも表現される)を起こす可能性があり,その場合,症状出現のかなり前から血行動態に変化が生じる。弁の狭窄または閉鎖不全は,個々の弁で独立して起こる場合が最も多いが,複数の弁膜症が併存する場合もあれば,1つの弁に狭窄と閉鎖不全が併発する場合もある。... さらに読む , 心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む
― 心筋症の診断と治療 心筋症の診断と治療
の表を参照)の除外による。特に明らかな原因が認められない拡張型心筋症の症例では,早期発症の心疾患, 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む
,または突然死の可能性がある家族を同定するために,入念に家族歴を聴取すべきである。多くの医療機関では,第1度近親者に心機能障害のスクリーニング(心エコー検査など)を行う。心室不全の他の一般的な原因を除外する必要があるため,胸部X線,心電図,心エコー検査,および心臓MRIが必要である。選択された症例では心内膜心筋生検を行う。
急性症状または胸痛がみられる場合は,血清心筋マーカーを測定する。トロポニン値の上昇は典型的には冠動脈虚血を示唆するが,トロポニン値は 心不全 心不全 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む でもしばしば上昇する(特に腎機能が低下している場合)。血清ナトリウム利尿ペプチド値は,心不全が存在する場合には典型的に上昇する。
臨床的に疑われる特異的な原因を診断する(本マニュアルの別の箇所を参照)。特異的な原因が臨床的に明らかでない場合は,血清フェリチン値および鉄結合能ならびに甲状腺刺激ホルモン値を測定する。
適切な症例には,トキソプラズマ(Toxoplasma),クルーズトリパノソーマ(T. cruzi),コクサッキーウイルス,HIV,およびエコーウイルスの血清学的検査を施行してもよい。
胸部X線では,心拡大がみられ,通常は全ての心腔に及ぶ。肺静脈圧の上昇と間質性浮腫に伴い,しばしば胸水(特に右側)が生じる。
心電図検査 心電図検査 標準的な心電図検査では,四肢・胸壁に装着した陽極・陰極間の電位差によって反映される心臓の電気的活動が12個のベクトルのグラフとして示される。それらのうち6つは前額面(双極肢誘導I,II,IIIと単極肢誘導aVR,aVL,aVFを使用する),6つは水平面(単極胸部誘導V1,V2,V3,V4,V5,V6を使用する)のベクトルである。標準的な12誘導心電図は,以下のような多くの心疾患を確定診断する上で極めて重要である(... さらに読む では,洞頻拍と低電位またはT波逆転を伴う非特異的なST低下を認めることがある。ときに,胸部誘導で異常Q波がみられ,陳旧性心筋梗塞に類似する。左脚ブロックおよび心房細動がよくみられる。
心エコー検査 心エコー検査 この写真には,心エコー検査を受けている患者が写っている。 この画像には,4つの心腔全てと三尖弁および僧帽弁が示されている。 心エコー検査では,超音波を利用して心臓,心臓弁,および大血管の画像を描出する。この検査は心臓壁の厚さ(例,肥大または萎縮)や運動の評価に役立ち,虚血および梗塞に関する情報が得られる。収縮機能や左室拡張期の充満パターンの評価に利用できることから,左室肥大,... さらに読む では,心腔の拡大と壁運動低下がみられ,一次性の弁膜症を除外できる。拡張型心筋症では経過が断続的となることがあるため,局所壁運動異常も起こりうる。心エコー検査では壁在血栓を認めることもある。
心臓MRI MRI 心臓の画像検査によって,心臓の構造および機能を描出することができる。標準的な画像検査としては以下のものがある: 心エコー検査 胸部X線 CT MRI さらに読む は施行が増えてきており,心筋の構造および機能に関する詳細な画像を得る上で有用である。ガドリニウム造影剤を使用するMRIでは,心筋組織の異常なテクスチャーや瘢痕パターン(すなわち遅延造影)を確認できることがある。遅延造影のパターンから,活動性心筋炎,サルコイドーシス,筋ジストロフィー,またはシャーガス病の診断につながる場合もある。
陽電子放出断層撮影 PET(陽電子放出断層撮影) 心臓の画像検査によって,心臓の構造および機能を描出することができる。標準的な画像検査としては以下のものがある: 心エコー検査 胸部X線 CT MRI さらに読む (PET)は,心臓サルコイドーシスの診断感度が高いことが示されている。
非侵襲的検査を行っても診断に疑いが残る場合は,左室機能障害の原因として冠動脈疾患を除外するために冠動脈造影が必要になることがある。胸痛を訴える患者,心血管系危険因子が複数ある患者,および高齢の患者では,冠動脈疾患が存在する可能性がより高くなる。その結果により管理方針が変わってくる一部の状況では,カテーテル検査中に両心室とも生検が可能である。
巨細胞性心筋炎,好酸球性心筋炎,またはサルコイドーシスが疑われる場合は,その結果により管理方針が左右されるため,心内膜心筋生検の適当となる。
拡張型心筋症の予後
拡張型心筋症の予後は概して不良であったが,最近では新しい管理レジメン(例,β遮断薬,アンジオテンシン変換酵素[ACE]阻害薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬,植込み型除細動器,または心臓再同期療法)によって改善されている。最初の1年間に約20%の患者が死亡し,その後は年間約10%が死亡する;死亡の約40~50%は突然死であり,悪性不整脈または塞栓イベントが死因となる。予後は,代償性肥大により心室壁厚が維持されれば良好であり,心室壁が著しく菲薄化して心室が拡張した場合は不良となる。治療により拡張型心筋症の影響が十分に代償された患者は,何年間にもわたり安定する可能性がある。
拡張型心筋症の治療
原因(ある場合)の治療
心房細動またはその他の適応がある場合は抗凝固薬
ときに植込み型除細動器,心臓再同期療法(CRT),左室補助人工心臓,または移植
巨細胞性心筋炎,好酸球性心筋炎,またはサルコイドーシスの患者では免疫抑制療法
治療可能な原因(例,トキソプラズマ症,急性シャーガス病,ヘモクロマトーシス,甲状腺中毒症,脚気)があれば是正する。HIV感染患者には 抗レトロウイルス療法 抗レトロウイルス療法:一般原則 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,2つの類似したレトロウイルス(HIV-1およびHIV-2)のいずれかにより生じ,これらのウイルスはCD4陽性リンパ球を破壊し,細胞性免疫を障害することで,特定の感染症および悪性腫瘍のリスクを高める。初回感染時には,非特異的な熱性疾患を引き起こすことがある。その後に症候(免疫不全に関連するもの)が現れ... さらに読む (ART)を最適化すべきである。免疫抑制薬による治療は,生検で巨細胞性心筋炎,好酸球性心筋炎,またはサルコイドーシスが証明された患者に限定するべきである。
そうでなければ,治療は 駆出率が低下した心不全 治療 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む に対するものと同じであり,ACE阻害薬,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,ARNI(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬),ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT)阻害薬,ヒドララジン/硝酸薬,利尿薬,およびジゴキシンなどを使用する。研究により,特発性拡張型心筋症の患者は標準の心不全治療に対する反応が特に良好で,概して虚血性心疾患の患者より反応が良好であることが示されている。
周産期心筋症 妊娠中の心疾患 心疾患は,母体の産科的死亡の約10%を占める。米国では,リウマチ性心疾患の発生率が著しく減少しているため,妊娠中のほとんどの心臓障害は先天性心疾患に起因する。しかしながら,東南アジア,アフリカ,インド,中東,およびオーストラリアとニュージーランドの一部では,リウマチ性心疾患はいまだ一般的である。 重度の先天性心疾患および他の心疾患を有する患者の生存率と生活の質の劇的な改善にもかかわらず,依然として以下のような特定の高リスク疾患では妊娠は... さらに読む の治療には特別な注意が必要である。胎児に害が及ぶリスクがあるため,妊娠中は多くの薬剤(例,ACE阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬)を避けるべきである。さらに,授乳中の女性にもそのような薬剤は推奨されない。
過去には,別の病型の心筋症において壁在血栓の予防のために 経口抗凝固薬 抗凝固薬 深部静脈血栓症(DVT)とは,四肢(通常は腓腹部または大腿部)または骨盤の深部静脈で血液が凝固する病態である。DVTは肺塞栓症の第1の原因である。DVTは,静脈還流を阻害する病態,内皮の損傷または機能不全を来す病態,または凝固亢進状態を引き起こす病態によって発生する。DVTは無症状の場合もあるが,四肢に疼痛および腫脹が生じる場合もあり,肺塞栓症が直接の合併症の1つである。診断は病歴聴取と身体診察で行われ,客観的検査法(典型的にはdupl... さらに読む の予防投与が用いられている。左室機能が低下しているが洞調律を維持している患者に対する抗凝固薬の使用については,依然として議論があり,この状況での抗凝固薬の使用はルーチンではない。特定の適応(例,脳塞栓症の既往,同定された心内血栓,心房細動,心房粗動)がある場合は,ワルファリンまたは直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が推奨される。
American Heart AssociationとEuropean Society of Cardiology Guidelinesはいずれも,駆出率が非常に低い周産期心筋症患者では,妊娠中の凝固亢進状態のリスクを踏まえ,抗凝固療法を考慮することを推奨している(1 治療に関する参考文献 拡張型心筋症は,心室拡大と収縮機能障害を主体とする心不全を引き起こす心筋機能障害である。症状としては,呼吸困難,疲労,末梢浮腫などがある。診断は臨床的に行われ,ナトリウム利尿ペプチド高値,胸部X線,心エコー検査,およびMRIによる。治療は原因に対して行う。心不全が進行性かつ重度の場合には,心臓再同期療法,植込み型除細動器,中等度から高度の弁逆流に対する修復術,左室補助人工心臓,または心臓移植術が必要となることがある。... さらに読む , 2 治療に関する参考文献 拡張型心筋症は,心室拡大と収縮機能障害を主体とする心不全を引き起こす心筋機能障害である。症状としては,呼吸困難,疲労,末梢浮腫などがある。診断は臨床的に行われ,ナトリウム利尿ペプチド高値,胸部X線,心エコー検査,およびMRIによる。治療は原因に対して行う。心不全が進行性かつ重度の場合には,心臓再同期療法,植込み型除細動器,中等度から高度の弁逆流に対する修復術,左室補助人工心臓,または心臓移植術が必要となることがある。... さらに読む
)。ただし,ワルファリンは胎児のリスクがあるため妊娠中の特定の時期には使用してはならない。
心不全に対する内科的治療は不整脈のリスクを低減するが,至適な内科的治療にもかかわらず引き続き駆出率が低下したままの患者には,突然の不整脈による死亡を予防するために 植込み型除細動器 医療機器を用いる治療 心不全は心室機能障害により生じる症候群である。左室不全では息切れと疲労が生じ,右室不全では末梢および腹腔への体液貯留が生じる;左右の心室が同時に侵されることもあれば,個別に侵されることもある。最初の診断は臨床所見に基づいて行い,胸部X線,心エコー検査,および血漿ナトリウム利尿ペプチド濃度を裏付けとする。治療法としては,患者教育,利尿薬,ア... さらに読む を使用してもよい。急性心筋炎時の房室ブロックはしばしば消失するため,通常は恒久型ペースメーカーがすぐに必要とされることはない。ただし,慢性化後の拡張相で房室ブロックが残るか新たに発生した場合は,恒久型ペースメーカーが必要となることがある。至適な内科的治療にもかかわらず,QRS幅の増大,左室駆出率低値,および重度の症状がみられる場合には, 心臓再同期療法 心臓再同期療法(CRT) 不整脈治療のニーズは,不整脈の症状および重篤度に依存する。治療は原因に対して行う。必要に応じて, 抗不整脈薬, カルディオバージョン/電気的除細動, 植込み型除細動器(ICD), ペースメーカー(および特殊なペーシング,心臓再同期療法), カテーテルアブレーション, 手術,またはこれらの併用などによる直接的な抗不整脈療法が用いられる。 一部の患者では,心腔が収縮を繰り返す間の整然とした正常な順序関係が崩壊している(同期不全を呈している)... さらに読む を考慮すべきである。
治療にもかかわらず難治性の心不全がある患者は, 心臓移植 心臓移植 心臓移植は,以下の疾患を有する患者のうち,最適な薬物および医療器具を用いているにもかかわらず,死亡のリスクが持続しており,耐えがたい症状のある場合の選択肢の1つである: 末期 心不全 冠動脈疾患 不整脈 肥大型心筋症 さらに読む の適応となりうる。その選択基準としては,全身性疾患および精神障害の合併がないことや,不可逆的な肺血管抵抗の上昇がみられることなどがあるが,心臓の提供数が少ないため,より若年の患者(通常70歳未満)が優先される。 一部の患者(例,心臓移植の適応がない患者)では,心臓移植までのブリッジとして,またはdestination therapyとして,左室補助人工心臓(LVAD)の使用が考慮される場合もある。Destination therapyでは,LVADを難治性の心不全患者に対する(心臓移植までの一時的な措置としてではなく)恒久的な治療法として使用する。
治療に関する参考文献
1.Bozkurt B, Colvin M, Cook J, et al: Current diagnostic and treatment strategies for specific dilated cardiomyopathies: A Scientific Statement From the American Heart Association.Circulation 134(23):e579–e646.2, 2016.
2.Regitz-Zagrosek V, Roos-Hesselink JW, Bauersachs J, et al: 2018 ESC Guidelines for the management of cardiovascular diseases during pregnancy: The Task Force for the Management of Cardiovascular Diseases during Pregnancy of the European Society of Cardiology (ESC).European Heart Journal 39: 3165–3241, 2018.
拡張型心筋症の要点
拡張型心筋症では,心筋が拡張して菲薄化し,続いて肥大する。
原因としては,感染(一般的にはウイルス性),毒素,代謝性疾患,遺伝性疾患,結合組織疾患などがある。
胸部X線,心電図検査,心エコー検査,および心臓MRIを施行して疾患の程度を評価するとともに,一部の患者には心内膜心筋生検を行う。
必要であれば心不全の他の原因を探る。
可能であれば一次性の原因を治療し,標準的な心不全の治療法を用いる(例,アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬,ARNI(アンジオテンシン受容体/ネプリライシン阻害薬),ヒドララジン/硝酸薬,利尿薬,ジゴキシン,植込み型除細動器,および/または心臓再同期療法)。
一部の患者には経口抗凝固薬と免疫抑制薬を使用する。
より詳細な情報
以下の英語の資料が有用であろう。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American Heart Association guidelines on dilated cardiomyopathies: Bozkurt B, Colvin M, Cook J, et al: Current diagnostic and treatment strategies for specific dilated cardiomyopathies: A Scientific Statement From the American Heart Association.Circulation 134(23):e579–e646.2, 2016.
European Society of Cardiology guidelines on cardiomyopathy in pregnant patients: Regitz-Zagrosek V, Roos-Hesselink JW, Bauersachs J, et al: 2018 ESC Guidelines for the management of cardiovascular diseases during pregnancy: The Task Force for the Management of Cardiovascular Diseases during Pregnancy of the European Society of Cardiology (ESC).European Heart Journal 39: 3165–3241, 2018.