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狭心症

執筆者:

Ranya N. Sweis

, MD, MS, Northwestern University Feinberg School of Medicine;


Arif Jivan

, MD, PhD, Northwestern University Feinberg School of Medicine

最終査読/改訂年月 2018年 12月
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狭心症とは,梗塞を伴わない一過性の心筋虚血によって前胸部に不快感または圧迫感が生じる臨床症候群である。狭心症は典型的には労作または精神的ストレスにより増悪し,安静またはニトログリセリンの舌下投与により軽快する。診断は症状,心電図,および心筋イメージングによる。治療法としては,抗血小板薬,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,ACE阻害薬,スタチン系薬剤,冠動脈形成術または冠動脈バイパス術などがある。

病因

狭心症は以下の場合に起こる:

  • 心仕事量および心筋の酸素需要が冠動脈の十分な酸素化血液供給を上回る

このような供給と需要の不均衡は,動脈が狭小化すると生じる可能性がある。狭小化は冠動脈に 動脈硬化 アテローム性動脈硬化 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む アテローム性動脈硬化 が生じることで起きるのが通常であるが, 冠動脈攣縮 異型狭心症 異型狭心症は,心外膜の冠動脈攣縮に続発する狭心症である。症状としては,安静時の狭心症や,まれに労作に伴う狭心症がみられる。診断は,心電図検査とエルゴノビンまたはアセチルコリンを用いた誘発試験による。治療にはカルシウム拮抗薬と舌下ニトログリセリンを用いる。 (冠動脈疾患の概要も参照のこと。) 異型狭心症患者の多くに,1枝以上の主要冠動脈に固定された有意な狭窄も認められる。固定された狭窄がないか,あっても軽度の患者は,重度の固定された狭窄が... さらに読む やまれに冠動脈塞栓によっても生じうる。冠動脈の急性血栓症は,閉塞が部分的または一過性の場合には狭心症を引き起こすことがあるが,通常は 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む 急性心筋梗塞 を引き起こす。

心筋酸素需要は主に心拍数,収縮期の壁張力,および収縮性により決定されるため,冠動脈の狭小化は,典型的には労作時に発生して安静により軽快する狭心症を引き起こす。

心仕事量は,労作のほか, 高血圧 高血圧の概要 高血圧とは,安静時の収縮期血圧(130mmHg以上),拡張期血圧(80mmHg以上),またはその両方が高値で維持されている状態である。原因不明の高血圧(本態性高血圧)が最も多くを占める。原因が判明する高血圧(二次性高血圧)は通常,睡眠時無呼吸症候群,慢性腎臓病,または原発性アルドステロン症に起因する。高血圧は重症となるか長期間持続しない限... さらに読む 高血圧の概要 大動脈弁狭窄症 大動脈弁狭窄症 大動脈弁狭窄症(AS)は,大動脈弁が狭小化することによって,収縮期の左室から上行大動脈への血流が妨げられる病態である。原因としては,先天性二尖弁,石灰化を伴う特発性の変性硬化,リウマチ熱などがある。無治療のASは進行して症候性となり,古典的三徴(失神,狭心症,労作時呼吸困難)のうち1つまたは複数が生じ,心不全および不整脈を来すこともある。漸増漸減性の駆出性雑音が特徴である。診断は身体診察および心エコー検査による。成人の無症候性ASは通常... さらに読む 大動脈弁狭窄症 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症 大動脈弁逆流症(AR)は,大動脈弁の閉鎖不全により,拡張期に大動脈から左室に向かって逆流が生じる病態である。原因としては,弁変性および大動脈基部拡張(二尖弁の合併を含む),リウマチ熱,心内膜炎,粘液腫様変性,大動脈基部解離,結合組織疾患(例,マルファン症候群),リウマチ性疾患などがある。症状としては,労作時呼吸困難,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,動悸,胸痛などがある。徴候としては,脈圧増大や拡張早期雑音などがある。診断は身体診察および心... さらに読む 大動脈弁逆流症 肥大型心筋症 肥大型心筋症 肥大型心筋症は,拡張機能障害を伴うが後負荷の増大(例,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄,全身性高血圧などによるもの)を伴わない著明な心室肥大を特徴とする先天性または後天性の疾患である。症状としては,呼吸困難,胸痛,失神などがあり,突然死を来すこともある。閉塞性肥大型心筋症では,典型的には収縮期雑音が聴取され,バルサルバ手技により増強する。診断は心エコー検査または心臓MRIによる。治療は,β遮断薬,ベラパミル,ジソピラミドのほか,ときに流出路閉塞... さらに読む 肥大型心筋症 などの疾患により増加する可能性がある。そのような場合,動脈硬化の有無にかかわらず狭心症が発生しうる。また,これらの疾患では心筋重量が増加する(それにより拡張期血流量が減少する)ため,心筋灌流量が相対的に低下することもある。

酸素供給量の減少(重度の貧血または低酸素症などでみられる)は狭心症の誘発または増悪につながりうる。

病態生理

狭心症は以下のように分けられる:

  • 安定

  • 不安定

安定狭心症では通常,仕事量または酸素需要と虚血との関係が比較的予測しやすい。

動脈硬化による動脈内腔の狭小化は完全に固定されたものではなく,全ての人にみられる正常な動脈緊張の変動に伴って変化する。したがって,狭心症は動脈緊張が比較的高まる朝方に発症することが多い。また,内皮機能の異常が動脈緊張の変動の一因となることもあり,例えば,アテロームによる傷害を受けた内皮では,カテコールアミンの急上昇による負荷が血管拡張(正常な反応)ではなく血管収縮を引き起こす。

心筋が虚血に陥ると,冠静脈洞血pHの低下,細胞内カリウムの喪失,乳酸の蓄積,心電図異常の出現,および心室機能(収縮期および拡張期の両方)の悪化がみられる。狭心症の発生中には,通常は左室拡張期圧が上昇し,ときに肺うっ血と呼吸困難を誘発する。虚血により不快感が生じる正確な機序は不明であるが,低酸素状態で生じた代謝物による神経刺激が関与していると考えられる。

症状と徴候

狭心症では,ほとんど気にならない漠然とした痛みのみのこともあれば,前胸部が押しつぶされるような重度の強い感覚が急激に生じることもある。狭心症が「痛み」として表現されることはまれである。 不快感が生じる部位は様々であるが,胸骨の裏側が最も一般的である。不快感は左肩から左腕内側を下方に放散し,ときに指まで達することもあれば,直接背部に放散したり,喉,顎,および歯に広がったり,ときには右腕内側を下方に放散することもある。上腹部に感じられる場合もある。狭心症の不快感が耳より上または臍より下で発生することはない。

非典型的な狭心症(例,腹部膨満,ガス,腹部不快感)を示す患者もいる。そうした患者は,しばしば症状を消化器の異常によるものと考え,げっぷにより症状が軽快するように感じることもある。急激かつ可逆性の左室充満圧の上昇により呼吸困難を示す患者もおり,しばしば虚血を伴う。患者の説明はしばしば不正確であり,問題が狭心症なのか,呼吸困難なのか,またはその両方なのかの見極めが困難なことがある。虚血症状は消失するまでに1分以上かかるため,ごく短時間で消失する感覚が狭心症を反映していることはまれである。

狭心症の発作と発作の間には,さらには発作中でも,身体所見が正常となることがある。しかしながら,通常の発作時には,心拍数は軽度に上昇することがあり,血圧はしばしば上昇し,心音はより小さくなり,心尖拍動がより広範に聴取される。虚血発作時は左室駆出が延長するため,II音が奇異性となることがある。IV音はよく聴取され,III音が発生することもある。虚血により局所的な乳頭筋機能不全が生じ,僧帽弁逆流が発生している場合には,収縮中期または後期に心尖部雑音,振戦(吹鳴様であるが特に大きくはない)がみられることがある。

狭心症は典型的には労作または強い感情が引き金となり,通常,持続時間は数分以内で,安静により消失する。労作に対する反応は通常,予測可能であるが,一部の患者では,動脈緊張の変動のため,ある日に耐えられた運動で翌日には狭心症が誘発されることがある。食後の労作や寒冷な気象条件下の労作は症状を増悪させ,風に向かって歩いたり,暖かい部屋から出て冷たい空気に触れたりすることでも,発作が誘発されることがある。症状の重症度は,狭心症をもたらす労作の程度により分類されることが多い(狭心症のCanadian Cardiovascular Society分類 狭心症のCanadian Cardiovascular Society分類 狭心症のCanadian Cardiovascular Society分類 の表を参照)。

発作は1日数回のこともあれば,無症状の間隔が数週間,数カ月,あるいは数年続くこともある。発作の頻度が増加していき(漸増性狭心症[crescendo angina]と呼ばれる),心筋梗塞や死に至ることもあるが,冠循環に十分な側副血行路が発達する場合,虚血領域に梗塞が生じる場合,または心不全もしくは間欠性跛行を併発して活動が制限される場合には,次第に発作回数が減少ないし消失することもある。

夢により呼吸,脈拍数,血圧に著しい変化が生じる場合には,夜間狭心症が起きることがある。夜間狭心症は,繰り返す左室不全の徴候であることもあり,夜間呼吸困難と同様である。臥位では静脈還流が増加し,心筋の伸展および壁張力が増大するため,酸素需要が増加する。

安静時狭心症は,安静時に自然に発生する狭心症である。安静時狭心症は通常,心拍数のわずかな上昇と,ときに血圧の著明な上昇を伴い,それにより酸素需要が増加する。これらの上昇は,安静時狭心症の原因である可能性もあれば,プラーク破綻と血栓形成により誘発された虚血の結果である可能性もある。狭心症が軽快しない場合,充足されていない心筋酸素需要がさらに増大することで,心筋梗塞の可能性が高まる。

不安定狭心症

患者毎の狭心症の特徴は予測可能であるのが通常であるため,いずれの変化(すなわち,安静時狭心症,新たに発症した狭心症,増悪していく狭心症)も重篤と考えるべきであり,とりわけ狭心症が重症(すなわち,Canadian Cardiovascular Society分類のクラス3または4)の場合は特に重要である。このような変化は 不安定狭心症 不安定狭心症 不安定狭心症は心筋梗塞を伴わない冠動脈の急性閉塞によって生じる。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療は,抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,スタチン系薬剤,およびβ遮断薬による。しばしば,冠動脈造影と経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術が必要とされる。 (急性冠症候群の概要も参照のこと。)... さらに読む と呼ばれ,迅速な評価と治療が必要である。

無症候性心筋虚血

冠動脈疾患患者(特に 糖尿病 糖尿病(DM) 糖尿病(DM)はインスリン分泌障害および様々な程度の末梢インスリン抵抗性であり,高血糖をもたらす。初期症状は高血糖に関連し,多飲,過食,多尿,および霧視などがある。晩期合併症には,血管疾患,末梢神経障害,腎症,および易感染性などがある。診断は血漿血糖測定による。治療は食事療法,運動,および血糖値を低下させる薬剤により,薬剤にはインスリンお... さらに読む 患者)では,無症状の心筋虚血が生じることがある。無症候性心筋虚血はときに,負荷試験や24時間ホルター心電図検査の施行中に一過性かつ無症候性のST-T異常として明らかになることがある。核医学検査では,ときに身体的または精神的ストレスを負荷した際に無症候性の心筋虚血を記録できることがある。無症候性心筋虚血と狭心症が併存することもあるが,これらは異なる時間に発生する。予後は冠動脈疾患の重症度に依存する。

診断

  • 典型的な症状

  • 心電図検査

  • 心電図または画像検査(心エコー検査,核医学検査,またはMRI)を用いた負荷試験

  • 有意な症状または負荷試験の陽性所見に対する冠動脈造影

典型的な胸部不快感がみられ,それが労作により誘発され,安静により軽快する場合,狭心症を疑う。病歴に 冠動脈疾患 危険因子 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血,狭心症,急性冠症候群(不安定狭心症,心筋梗塞),心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の是正である... さらに読む  危険因子 の有意な危険因子が認められれば,報告された症状の重要性が高まる。胸部不快感が20分を超えて持続するか安静時に起こる患者と,失神または心不全がみられる患者には, 急性冠症候群 急性冠症候群(ACS)の概要 急性冠症候群は冠動脈の急性閉塞により引き起こされる。その結果は閉塞の程度と位置によって異なり,不安定狭心症から非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI),ST上昇型心筋梗塞(STEMI),さらには心臓突然死に至るまで様々である。これらの症候群(突然死は除く)のそれぞれで症状は類似しており,胸部不快感がみられるほか,呼吸困難,悪心,および発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮... さらに読む に対する評価を行う。

胸部不快感 胸痛 胸痛は非常に一般的な愁訴である。多くの患者は,胸痛が生命を脅かす可能性がある疾患の警告であることをよく意識しており,ごく軽微な症状でも医療機関を受診する。一方で,重篤な疾患のある多くの患者を含めて,この警告を過小評価したり無視したりする患者もいる。疼痛の知覚(特徴と重症度の両方)は個人間あるいは男女間で大きく異なる。胸痛の訴えがどのような... さらに読む は,たとえ冠血流量が損なわれていない場合でも,消化管疾患(例, 胃食道逆流 胃食道逆流症(GERD) 下部食道括約筋の機能不全によって胃内容が食道に逆流し,灼熱痛が起こる。逆流が持続することで,食道炎,狭窄,まれに化生または癌がもたらされる可能性がある。診断は臨床的に行い,ときに内視鏡検査を併用し,場合によっては胃酸検査を併用する。治療は,生活習慣の改善とプロトンポンプ阻害薬による胃酸分泌抑制のほか,ときに外科的修復による。 (食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。) 胃食道逆流症(GERD)は頻度の高い疾患であり,成人の10~20... さらに読む 胃食道逆流症(GERD) 食道痙攣 びまん性食道痙攣 びまん性食道痙攣は,一連の運動障害の一部を構成する病態であり,推進力のない収縮,収縮亢進,または下部食道括約筋圧の上昇によって様々に特徴づけられる。症状は 胸痛のほか,ときに 嚥下困難がみられる。診断は食道造影または内圧検査による。治療は困難であるが,方法としては硝酸薬,カルシウム拮抗薬,ボツリヌス毒素の注射,外科的または内視鏡的筋層切開術,逆流防止治療などがある。 ( 食道疾患および嚥下障害の概要も参照のこと。)... さらに読む 消化不良 消化不良 消化不良(dyspepsia)は,上腹部に疼痛または不快感を覚える症状であり,しばしば反復性である。消化障害,ガスの充満,早期満腹感,食後の膨満感,さしこみ痛,灼熱痛などとして報告される場合もある。 消化不良には一般的な原因( Professional.see table 消化不良(dyspepsia)の主な原因)がいくつかある。 多くの患者では,検査で何らかの所見(例,十二指腸炎,蠕動障害,... さらに読む 胆石症 胆石症 胆石症は,胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態である。先進国では,成人の約10%と65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられる。胆石は無症状のことが多い。最も一般的な症状は胆道仙痛であり,胆石によって消化不良や高脂肪食に対する不耐症が生じることはない。より重篤の合併症としては,胆嚢炎,ときに感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による[総胆管結石症]),胆石性膵炎などがある。診断は通常,超音波検査による。胆石症による症状... さらに読む 胆石症 ),肋軟骨炎, 不安 不安症の概要 恐怖や不安は誰もが日常的に経験するものである。恐怖とは,直ちに認識可能な外部からの脅威(例,侵入者,凍結した路面でスピンする車)に対する情動的,身体的,および行動的な反応である。不安とは,神経過敏や心配事による苦痛で不快な感情状態であり,その原因はあまり明確ではない。脅威が生じる厳密な時期と不安との間に強い結びつきはなく,不安は脅威の前に... さらに読む パニック発作 パニック発作およびパニック症 パニック発作は,身体症状および/または認知面での症状を伴う強い不快感,不安,または恐怖が,突然に,個別に,短時間発現する現象である。パニック症は,パニック発作が繰り返し発生し,典型的にはそれに付随して,将来の発作に対する恐怖,または発作を起こしやすいと考えられる状況を回避しようとする行動の変化が生じる。診断は臨床的に行う。個々のパニック発作は治療を要さないこともある。パニック症は薬物療法,精神療法(例,曝露療法,認知行動療法),またはそ... さらに読む ,過換気,その他の心疾患(例, 大動脈解離 大動脈解離 大動脈解離は,大動脈内膜の裂口を介して壁内に血液が急激に流入することで,内膜と中膜が分離して偽腔(チャネル)が生じる病態である。内膜裂口は原発性に生じることもあれば,中膜内の出血に続発することもある。大動脈解離は大動脈のあらゆる部位から始まる可能性があり,さらに中枢または末梢に進展して他の動脈に及ぶこともある。高血圧が重要な寄与因子の1つである。症状と徴候には,胸部または背部に突然生じる引き裂かれるような痛みがあるほか,解離により大動脈... さらに読む 大動脈解離 心膜炎 心膜炎 心膜炎とは心膜の炎症であり,しばしば心嚢液貯留を伴う。心膜炎は,多くの疾患(例,感染症,心筋梗塞,外傷,腫瘍,代謝性疾患)によって引き起こされるが,特発性のことも多い。症状としては胸痛や胸部圧迫感などがあり,しばしば深呼吸により悪化する。心タンポナーデまたは収縮性心膜炎が発生した場合には,心拍出量が大きく低下することがある。診断は症状,心膜摩擦音,心電図変化,およびX線または心エコー検査での心嚢液貯留の所見に基づく。原因の特定には,さら... さらに読む 心膜炎 僧帽弁逸脱 僧帽弁逸脱症(MVP) 僧帽弁逸脱症(MVP)は,僧帽弁尖が収縮期に左房側へ落ち込むようになる状態である。最も一般的な原因は特発性の粘液腫様変性である。MVPは通常良性であるが,合併症として僧帽弁逆流症,心内膜炎,腱索断裂などがある。通常,MVPは有意な逆流がみられない場合は無症候性であるが,一部の患者では胸痛,呼吸困難,めまい,動悸の発生が報告されている。徴候としては歯切れのよい収縮中期クリックがあり,逆流がある場合は収縮後期雑音がこれに続く。診断は身体診察... さらに読む 僧帽弁逸脱症(MVP) 上室頻拍 リエントリー性上室頻拍(SVT),WPW症候群を含む リエントリー性上室頻拍(SVT)は,ヒス束分岐部より上位の要素を含むリエントリー性伝導路が関与する。患者には突然始まって突然停止する突発性の動悸がみられ,患者によっては呼吸困難や胸部不快感もみられる。診断は臨床および心電図所見による。通常,初期治療は迷走神経刺激による。それが無効に終わった場合,QRS幅の狭い調律,あるいは房室結節伝導を必要とする変行伝導を伴うリエントリー性SVTと判明しているQRS幅の広い調律は,静注のアデノシンまたは... さらに読む 心房細動 心房細動 心房細動は,心房における速い絶対的不整(irregularly irregular)の調律である。症状としては,動悸のほか,ときに脱力感,運動耐容能低下,呼吸困難,失神前状態などがみられる。心房内血栓が形成されることがあり,その場合塞栓性脳卒中のリスクが有意に増大する。診断は心電図検査による。治療としては,薬剤によるレートコントロールと抗凝固療法による血栓塞栓症の予防のほか,ときに洞調律に復帰させるための薬剤投与またはカルディオバージョ... さらに読む )などにより生じることがある。

心電図検査を常に施行する。より特異度の高い検査には,心電図または心筋イメージング(例,心エコー検査,核医学検査,MRI)による負荷試験と冠動脈造影などがある。非侵襲的検査をまず考慮する。

心電図検査

心電図検査が狭心症発作中に行われた場合,可逆的な以下の虚血性変化がみられる可能性が高い:

  • T波とQRSベクトルの不一致

  • ST低下(典型的):

  • ST上昇

  • R波減高

  • 心室内または脚伝導異常

  • 不整脈(通常は心室性期外収縮)

典型的な狭心症の病歴を有する患者では,たとえ広範な3枝病変がある場合でも,非発作時の安静時心電図(および通常は左室機能)は約30%で正常となる。残り70%の患者の心電図では,過去の梗塞または肥大の所見か非特異的なST部分およびT波(ST-T)の異常が認められる。安静時心電図の異常のみでは,診断を確定することも除外することもできない。

負荷試験

運動負荷心電図検査は,患者の安静時心電図所見が正常で,運動ができる場合に行われる。狭心症を示唆する胸部不快感がみられる男性では,負荷心電図検査の特異度は70%,感度は90%である。女性では感度は同程度であるが,特異度はより低く,55歳未満の女性では特に低い(70%未満)。しかしながら,女性は男性と比べて,冠動脈疾患がある場合に安静時心電図が異常となる可能性が高い(32%対23%)。運動負荷心電図検査は,感度は適度に高いが,重度の冠動脈疾患を(左主幹部または3枝病変でさえ)見逃すことがある。症状が典型的でない患者で負荷心電図が陰性となった場合は,通常,狭心症および冠動脈疾患は除外される;陽性の結果は冠動脈虚血を反映していることもあれば,そうでないこともあるため,さらなる検査が必要であることを意味する。

負荷心電図検査ではST変化の偽陽性がよくみられるため,安静時心電図が異常である場合には心筋イメージングによる負荷試験が行われる。運動または薬物負荷(例,ドブタミンまたはジピリダモールの注入)を選択できる。画像検査の選択肢には,負荷心エコー検査,単一光子放出型CT(SPECT)または陽電子放出断層撮影(PET)による心筋血流イメージング,負荷MRIなどがある。画像検査の選択は,各施設での利用可能性と経験に依存する。画像検査は左室機能および負荷に対する反応を調べるのに役立ち,虚血領域,梗塞領域,およびバイアビリティのある組織を同定し,リスクの高い心筋の部位および範囲を決定することができる。負荷心エコー検査では,虚血により誘発された僧帽弁逆流も検出できる。

血管造影

冠動脈造影 血管造影 心臓カテーテル法とは,末梢の動脈または静脈から心腔,肺動脈,冠動脈,および冠静脈までカテーテルを挿入する手技である。 心臓カテーテル法は,以下のものを含む様々な検査に用いることができる: 血管造影 血管内超音波検査(IVUS) 心拍出量(CO)の測定 さらに読む  血管造影 は冠動脈疾患の診断における標準検査であるが,必ずしも診断確定に必須というわけではない。その主な適応は,血行再建術(経皮的冠動脈インターベンション[PCI]または冠動脈バイパス術[CABG])が考慮されている際に,冠動脈病変の位置を同定し,重症度を評価することである。労働上または生活習慣上の必要性(例,仕事またはスポーツ活動の中止)について助言する上で冠動脈の解剖の情報が必要である場合も,血管造影の適応となりうる。血管造影所見は冠動脈病変の血行動態上の重要性を直接的に示すものではないが,内腔の径が70%を超えて減少している場合は,その閉塞は生理学的に有意であると判定される。この内径の減少は,攣縮または血栓症が併発していない限り,狭心症の存在とよく相関する。

血管内超音波検査では冠動脈構造の画像が得られる。カテーテル先端に取り付けられた超音波プローブを血管造影時に冠動脈に挿入する。この検査からは,冠動脈の解剖に関する情報が他の検査より多く得られ,病変の性質が不明の場合,または疾患の見かけの重症度が症状の重症度と一致しない場合に適応となる。血管形成術と併用することにより,ステントの至適な留置を確実にする一助となる。

圧または流量センサー付きのガイドワイヤーを使用すれば,狭窄部の血流量を推定することができる。血流量は冠血流予備量比(FFR)として表されるが,これは正常な最大血流量に対する狭窄部の最大血流量の比である。これらの血流量の測定は,重症度に疑問のある病変(40~70%狭窄)がある患者で,血管形成またはCABGの必要性を評価する場合に最も有用である。FFRは1.0が正常とされ,0.75~0.8未満は心筋虚血との関連がみられる。FFRが0.8を上回る病変では,ステント留置術が有益となる可能性がやや低くなる。

画像検査

安静時の画像検査により冠動脈を評価できる。

電子線CTでは,冠動脈プラーク内のカルシウムの量を検出できる。カルシウムスコアは,その後の冠動脈イベントのリスクとおおまかに比例する。しかしながら,有意な狭窄がない状況でカルシウムが存在する場合もあることから,カルシウムスコアは血管形成術またはCABGの必要性とは良好な相関を示さない。このため,American Heart Associationは,電子線CTによるスクリーニングは特定の患者集団のみに実施するべきであって,病歴および臨床データと組み合わせて死亡または非致死的心筋梗塞のリスクを推定する場合に最も有用になると推奨している(1 診断に関する参考文献 狭心症とは,梗塞を伴わない一過性の心筋虚血によって前胸部に不快感または圧迫感が生じる臨床症候群である。狭心症は典型的には労作または精神的ストレスにより増悪し,安静またはニトログリセリンの舌下投与により軽快する。診断は症状,心電図,および心筋イメージングによる。治療法としては,抗血小板薬,硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬,ACE阻害薬,スタチン系薬剤,冠動脈形成術または冠動脈バイパス術などがある。... さらに読む )。そのような患者集団としては,10年ASCVDリスクの推定値が中程度(10~20%)である無症状の患者や,負荷試験の結果が不確かで症状を呈する患者などが考えられる。電子線CTは,救急診療部を受診し,非定型の症状がみられ,トロポニン値が正常で,血行動態的に有意な冠動脈疾患の可能性が低い患者において,有意な冠動脈疾患を除外する上で特に有用である。このような患者には外来診療として非侵襲的検査を施行することが可能である。

マルチスライスCTによる冠動脈造影は,冠動脈狭窄を正確に同定することが可能であり,いくつかの長所がある。この検査は非侵襲的で,冠動脈狭窄を高い精度で除外することが可能であり,ステントやバイパスグラフトの開存性を確認でき,心臓および冠静脈の解剖的構造を示すことができ,石灰化および非石灰化プラークの量を評価することができる。しかしながら,放射線被曝量が有意であり,心拍数65/分を超える患者,不整な心拍を呈する患者,妊娠中の女性には適していない。また,患者が検査中3~4回にわたり15~20秒間の息止めを行えなければならない。

マルチスライスCTによる冠動脈造影の適応は拡大を続けており,以下のものが含まれる:

  • 症状のない高リスク患者,非典型的もしくは典型的な狭心症がみられるが運動負荷試験の結果が確定的でないか実施が不可能である患者,または心臓以外の大手術を施行する必要がある患者

  • 侵襲的な冠動脈造影で主要冠動脈またはグラフトの位置を同定できなかった患者

心臓MRIは多くの心臓および大血管異常を評価する上で貴重な手段となっている。いくつかの手法により冠動脈疾患の評価に使用でき,これにより冠動脈狭窄の直接的な視覚化,冠動脈血流量の評価,心筋灌流および代謝の評価,負荷時の壁運動異常の評価,梗塞心筋と生存心筋の比較評価などを行える。

現時点での心臓MRIの適応には,心臓の構造および機能の評価,ならびに心筋バイアビリティの評価などがある。心臓MRI,特に負荷心筋パーフュージョンMRIおよび心筋血流定量解析は,冠動脈疾患が既知または疑われる患者における診断およびリスク評価にも適応となる場合がある。

診断に関する参考文献

予後

狭心症の望ましくない主な転帰は, 不安定狭心症 不安定狭心症 不安定狭心症は心筋梗塞を伴わない冠動脈の急性閉塞によって生じる。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療は,抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,スタチン系薬剤,およびβ遮断薬による。しばしば,冠動脈造影と経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術が必要とされる。 (急性冠症候群の概要も参照のこと。)... さらに読む 心筋梗塞 急性心筋梗塞 急性心筋梗塞は,冠動脈の急性閉塞により心筋壊死が引き起こされる疾患である。症状としては胸部不快感がみられ,それに呼吸困難,悪心,発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,スタチン系薬剤,および再灌流療法である。ST上昇型心筋梗塞に対しては,血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法を施行する。非ST上昇型心筋梗塞... さらに読む 急性心筋梗塞 ,そして不整脈による突然死である。心筋梗塞の既往がなく,安静時心電図および血圧が正常の狭心症患者における年間死亡率は約1.4%である。しかしながら,冠動脈疾患を有する女性の予後は,より悪い傾向にある。収縮期高血圧がある場合の死亡率は約7.5%であり,心電図異常がある場合は8.4%,両方が存在する場合は12%である。2型糖尿病があると,それぞれの場合の死亡率が約2倍になる。

加齢,狭心症症状の重症化,器質的病変の存在,および心室機能の低下は予後を悪化させる。左冠動脈主幹部または左前下行枝近位部の病変は,特にリスクが高い。予後は罹患冠動脈の数および重症度と相関するが,安定狭心症患者の予後は,心室機能が正常であれば,3枝病変であっても,驚くほど良好である。

治療

  • 危険因子(喫煙,血圧,脂質)の是正

  • 抗血小板薬(アスピリンのほか,ときにクロピドグレル,プラスグレル,チカグレロル)

  • β遮断薬

  • 症状のコントロールのためにニトログリセリンおよびカルシウム拮抗薬

  • ACE阻害薬およびスタチン系薬剤

  • 薬物療法を行っても症状が持続する場合は血行再建術

可逆的な危険因子の是正 治療 アテローム性動脈硬化は,中型および大型動脈の内腔に向かって成長する斑状の内膜プラーク(アテローム)を特徴とし,そのプラーク内には脂質,炎症細胞,平滑筋細胞,および結合組織が認められる。危険因子には,脂質異常症,糖尿病,喫煙,家族歴,座位時間の長い生活習慣,肥満,高血圧などがある。症状はプラークの成長または破綻により血流が減少ないし途絶した... さらに読む 治療 をできる限り行う。喫煙者は禁煙すべきであり,2年以上の禁煙後には,心筋梗塞のリスクは喫煙経験のない者と同レベルまで低下する。軽度の高血圧でも心仕事量は増加するため,高血圧(冠動脈疾患の患者では > 130/80)は積極的に治療する。しばしば,減量のみで狭心症の重症度が軽減する。軽度の左室不全を治療することで,ときに狭心症が著明に軽減される。逆説的ではあるが,ジギタリスはときに狭心症を悪化させることがあり,これはおそらく心筋収縮性の亢進による酸素需要の増加,動脈緊張の亢進,またはその両方によるものと考えられる。 総コレステロール値 治療 脂質異常症とは,血漿コレステロール,トリグリセリド(TG)値,もしくはその両方が高値であること,またはHDLコレステロールが低値であることであり,動脈硬化発生に寄与する。原因には原発性(遺伝性)と二次性とがある。診断は,総コレステロール,TG,および各リポタンパク質の血漿中濃度測定による。治療は食事の変更,運動,および脂質低下薬である。 (脂質代謝の概要も参照のこと。)... さらに読む 治療 と低比重リポタンパク質(LDL)コレステロール値を積極的に低下させる治療(食事療法とスタチン系薬剤)は,冠動脈疾患の進行を遅延させ,一部の病変を退縮させることがあり,内皮機能の改善により負荷に対する動脈の反応を改善する。ウォーキングを重視した運動プログラムは,しばしば健康感を増進し,急性虚血イベントのリスクを低下させるとともに,運動耐容能を改善する。

狭心症治療薬

狭心症治療の主な目標は以下の通りである:

  • 急性症状を緩和する

  • 虚血を予防または低減する

  • 将来的な虚血イベントの発生を予防する

急性発作に対しては,ニトログリセリンの舌下投与が最も効果的な薬物療法である。

虚血の予防にはいくつかのクラスの薬剤が使用される:

  • 抗血小板薬:冠動脈疾患と診断されているか冠動脈疾患の発生リスクが高い全ての患者

  • β遮断薬:ほとんどの患者(禁忌があるか耐えられない場合を除く)

  • カルシウム拮抗薬および/または長時間作用型硝酸薬:必要であれば

抗血小板薬は血小板凝集を阻害する。アスピリンは血小板と不可逆的に結合し,さらにシクロオキシゲナーゼおよび血小板凝集を阻害する。その他の抗血小板薬(例,クロピドグレル,プラスグレル,チカグレロル)はアデノシン二リン酸による血小板凝集を阻害する。これらの薬剤は虚血イベント(心筋梗塞,突然死)のリスクを低減できるが,併用した場合に最も効果的となる。一方の薬剤に耐えられない患者には,もう一方を単剤で投与すべきである。

β遮断薬は症状を制限し,他の薬剤よりも梗塞および突然死の予防に優れている。β遮断薬は,心臓の交感神経刺激を遮断し,収縮期血圧,心拍数,収縮性,および心拍出量を低下させ,それにより心筋酸素需要を減少させ,運動耐容能を増大させる。β遮断薬は心室細動閾値も上昇させる。これらの薬剤には,ほとんどの患者がよく耐えられる。多くのβ遮断薬が使用可能でかつ効果的である。用量は,徐脈または有害作用により制限されるまで,必要に応じて漸増する。β遮断薬に耐えられない患者には,陰性変時作用をもつカルシウム拮抗薬(例,ジルチアゼム,ベラパミル)を使用する。β遮断薬に耐えられない可能性が高い患者(例,喘息患者)には,おそらく投与前後に薬剤性気管支攣縮を検出する肺機能検査を施行することで,心選択性β遮断薬(例,ビソプロロール)を試験的に投与することができる。

ニトログリセリンは強力な平滑筋弛緩薬であり,血管拡張薬である。その主な作用部位は,末梢血管系(特に静脈系ないし容量血管系)と冠血管にある。重度の動脈硬化を来した血管でも,アテロームのない部分は拡張する可能性がある。ニトログリセリンは収縮期血圧を下げ,全身の静脈を拡張させるため,心筋酸素需要の主要な決定因子である心筋壁張力を低下させる。急性発作に対して,または労作前の予防用としてニトログリセリンを舌下投与する。通常は,劇的な軽快が1.5~3分以内にみられ,約5分で完全に軽快し,その状態が最大30分まで持続する。症状の軽快が不十分な場合は,4~5分毎に3回まで反復投与することができる。狭心症発作時に直ちに使用できるようにするため,ニトログリセリンの錠剤またはエアゾルスプレーを患者に常時携帯させるべきである。薬効が失われないようにするため,錠剤は遮光ガラス製の密閉容器に保存させるべきである。この薬剤はすぐに劣化するため,頻回に少量ずつ入手させるべきである。

β遮断薬を最大用量まで増量しても症状が持続する場合は,長時間作用型硝酸薬(経口または経皮)を使用する。狭心症発作が発生する時間帯を予測できる場合は,それをカバーするように硝酸薬を使用させる。経口の硝酸薬には,二硝酸イソソルビド(硝酸イソソルビド)と一硝酸イソソルビド(二硝酸イソソルビドの活性代謝物)などがある。これらは1~2時間以内に効果を発揮し,4~6時間持続する。一硝酸イソソルビドの徐放性製剤は有効性が1日中維持されるようである。経皮投与については,主に軟膏は不便で汚れの原因となるという理由から,ニトログリセリン軟膏は大部分がニトログリセリンの経皮パッチに取って代わられている。パッチからはニトログリセリンが徐々に放出されるため,作用が長時間持続する;運動耐容量はパッチ貼付から4時間で改善され,18~24時間後には低下する。硝酸薬は耐性が生じることがあり,特に血漿中濃度が一定に保たれる場合に生じやすい。心筋梗塞のリスクは早朝に最も高くなるため,午後や夕方早めによく狭心症を発症する患者でない限り,これらの時間帯は硝酸薬を休薬とするのが妥当である。ニトログリセリンの場合は,休薬時間は8~10時間で十分のようである。イソソルビドでは12時間の休薬が必要なことがある。一硝酸イソソルビドの徐放性製剤は,1日1回投与であれば,耐性は生じないようである。

硝酸薬の使用にもかかわらず症状が持続する場合や患者が硝酸薬に耐えられない場合は,カルシウム拮抗薬を使用することができる。カルシウム拮抗薬は,高血圧または冠攣縮もみられる場合に特に有用である。カルシウム拮抗薬は種類によって作用が異なる。ジヒドロピリジン系薬剤(例,ニフェジピン,アムロジピン,フェロジピン)は変時作用がなく,陰性変力作用には大きな差がみられる。短時間作用型のジヒドロピリジン系薬剤は,反射性頻脈を引き起こすことがあり,冠動脈疾患患者では死亡率の上昇と関連しており,安定狭心症の治療に単剤で使用してはならない。ジヒドロピリジン系薬剤の長時間作用型製剤は頻拍作用がより少なく,β遮断薬との併用で最もよく使用されている。長時間作用型ジヒドロピリジン系薬剤の中では,アムロジピンが最も陰性変力作用が弱く,左室収縮機能障害のある患者に使用できる。他の種類のカルシウム拮抗薬であるジルチアゼムとベラパミルは,陰性変時作用と陰性変力作用を有する。これらの薬剤は,β遮断薬に耐えられない患者や左室収縮機能が正常な喘息患者に単剤で使用できるが,左室収縮機能障害のある患者では心血管死亡率を上昇させる可能性がある。

ラノラジン(ranolazine)は,慢性狭心症の治療に使用可能なナトリウムチャネル遮断薬である。ラノラジン(ranolazine)はQTc延長を引き起こす可能性もあるため,他の狭心症治療薬による至適な治療を行っても症状が持続する患者のみに使用されるのが通常である。ラノラジン(ranolazine)は,女性には男性ほど効果的ではない可能性がある。めまい,頭痛,便秘,および悪心が最も頻度の高い有害作用である。

血行再建術

薬物療法を行っても狭心症が持続し,生活の質が悪化している場合,または(血管造影で認めた)器質的病変から死亡リスクの上昇が想定される場合は, PCI 経皮的冠動脈インターベンション(PCI) 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)には,経皮的冠動脈形成術(PTCA)やステント留置を伴うPTCAなどがある。最も重要な適応は以下の治療である: 狭心症(安定または不安定) 心筋虚血 急性心筋梗塞(特に心原性ショックを起こしているか,その発生が確認された患者) 貫壁性のST上昇型心筋梗塞(STEMI)では,疼痛の発生から90分以内のPTCAおよびステント留置が至適な治療である。待機的PCIは,退院前に再発性または誘発性の狭心症がみ... さらに読む 経皮的冠動脈インターベンション(PCI) (例,血管形成術,ステント留置術)または CABG 冠動脈バイパス術(CABG) 冠動脈疾患では,冠動脈の血流が障害され,そのほとんどがアテロームに起因する。臨床像としては,無症候性心筋虚血,狭心症,急性冠症候群(不安定狭心症,心筋梗塞),心臓突然死などがある。診断は症状,心電図検査,負荷試験,ときに冠動脈造影による。予防法は可逆的な危険因子(例,高コレステロール血症,高血圧,運動不足,肥満,糖尿病,喫煙)の是正である... さらに読む 冠動脈バイパス術(CABG) による 血行再建 急性冠症候群に対する血行再建術 血行再建術は,急性冠症候群の患者において進行中の傷害を軽減し,心室の易刺激性を低下させ,短期および長期予後を改善するべく,虚血心筋への血液供給を復旧させる処置である。血行再建術の方式としては以下のものがある: 血栓溶解薬による血栓溶解療法 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)単独またはPCIとステント留置 冠動脈バイパス術(CABG) 血行再建術の採用,施行時期,および方法は,認められる急性冠症候群(ACS)の種類,受診のタイミング... さらに読む を考慮すべきである。PCIかCABGかの選択は,器質的病変の範囲および部位,外科医および医療施設の経験,そしてある程度は患者の希望に依存する。

PCIは通常,解剖学的に適した状態にある1枝または2枝病変に対して選択されるが,3枝病変への施行例も増加してきている。長い病変や分岐部に近い病変はPCIに適さないことが多い。しかしながら,ステント技術の改善に伴い,より複雑な症例にもPCIが使用されるようになってきている。

CABGは選択された狭心症患者では非常に効果的である。糖尿病の患者とバイパス術が適した多枝病変がある患者では,PCIよりCABGの方が優れている。理想的な適応は,局所病変を有する重度の狭心症患者と,糖尿病患者である。約85%の患者で症状の完全な消失または劇的な軽快が得られる。運動負荷試験では,グラフトの開存と運動耐容能の改善との間に正の相関がみられるが,運動耐容能はときにグラフトが閉塞しても改善を維持することがある。

左主幹部病変を有する患者,3枝病変で左室機能が低下した患者,および2枝病変を有する一部の患者は,CABGにより生存期間が延長する。しかしながら,軽度または中等度の狭心症(CCSクラス1または2)患者と心室機能が良好な3枝病変の患者では,CABGによる生存期間の延長はごくわずかのようである。保護されていない(すなわち,左前下行枝または左回旋枝へのグラフトを行っていない)左主幹部狭窄に対してPCIが選択されることが増えてきており,1年時点での成績はCABDと同程度である。1枝病変の患者では,薬物療法,PCI,およびCABGのいずれでも成績は同様であるが,例外として左主幹部病変と左前下行枝近位部病変があり,これらには血行再建術が優れているようである。

要点

  • 狭心症は,心仕事量が十分量の酸素化血液を供給する冠動脈の能力を上回ったときに発生する。

  • 安定狭心症の症状は,ほとんど気にならない漠然とした痛みから,前胸部が押しつぶされるような重度の強い感覚まであり,典型的には労作により誘発され,数分以上は持続せず,安静により消失する。

  • 安静時心電図が正常の患者には,心電図検査による負荷試験を,安静時心電図で異常を認めた患者には,心筋イメージング(例,心エコー検査,核医学検査,MRI)による負荷試験を施行する。

  • 血行再建術(経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術)を考慮している場合は,冠動脈造影を施行する。

  • 狭心症には迅速な症状緩和のため,ニトログリセリンを投与する。

  • 抗血小板薬,β遮断薬,およびスタチン系薬剤の投与を継続し,再発予防のため,必要に応じてカルシウム拮抗薬を追加する。

  • 薬物療法を行っても重大な狭心症が持続する場合,または血管造影で認めた病変から死亡リスクの上昇が示唆される場合は,血行再建術を考慮する。

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