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急性冠症候群(ACS)の概要

(不安定狭心症,急性心筋梗塞,心筋梗塞)

執筆者:

James Wayne Warnica

, MD, FRCPC , The University of Calgary

最終査読/改訂年月 2016年 9月
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急性冠症候群は冠動脈の急性閉塞により引き起こされる。その結果は閉塞の程度と位置によって異なり,不安定狭心症から非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI),ST上昇型心筋梗塞(STEMI),さらには心臓突然死に至るまで様々である。これらの症候群(突然死は除く)のそれぞれで症状は類似しており,胸部不快感がみられるほか,呼吸困難,悪心,および発汗を伴う場合がある。診断は心電図検査と血清マーカーの有無による。治療法は抗血小板薬,抗凝固薬,硝酸薬,β遮断薬,ならびにSTEMIに対する血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンション,または(ときに)冠動脈バイパス術による緊急再灌流療法である。

冠動脈疾患の概要も参照のこと。)

分類

急性冠症候群には以下のものがある:

  • 不安定狭心症

  • 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)

  • ST上昇型心筋梗塞(STEMI)

これらの症候群はいずれも急性の冠動脈虚血を伴い,症状,心電図所見,および心筋マーカーの測定値に基づいて鑑別される。予後と治療法が異なるため,症候群単位での鑑別が助けになる。

不安定狭心症(急性冠機能不全,心筋梗塞前狭心症,中間症候群)は,心筋マーカー値が心筋梗塞の基準を満たさない患者において以下のうち少なくとも1つに該当する場合と定義される:

  • 長時間にわたる(通常は20分以上)安静時狭心症

  • 重症度がCanadian Cardiovascular Society(CCS)分類( 狭心症のCanadian Cardiovascular Society分類)でクラス3以上の新規発症した狭心症

  • 増悪している狭心症,すなわち以前に診断された狭心症の頻度,重症度,持続時間の増大または閾値の低下が著明なもの(例,CCSクラスで1段階以上の増悪,またはCCSクラス3以上への増悪)。

不安定狭心症の発生時にはST低下,ST上昇,T波逆転などの心電図変化がみられるが,いずれも一過性である。心筋マーカーのうち,CKは上昇しないが,心筋トロポニンは(特に高感度トロポニン検査[hs-cTn]で測定した場合)わずかに上昇することがある。不安定狭心症は臨床的に不安定であり,しばしば心筋梗塞もしくは不整脈または(あまり多くないが)突然死の前兆となる。

非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI,心内膜下心筋梗塞)は,急性のST上昇を伴わない心筋壊死である(血中心筋マーカーで証明され,トロポニンIまたはトロポニンTとCKが上昇する)。ST低下,T波逆転,またはその両方などの心電図変化が現れることがある。

ST上型昇心筋梗塞(STEMI,貫壁性心筋梗塞)は,心電図変化としてニトログリセリンで速やかに解消されないST上昇,または新たな左脚ブロックを伴う心筋壊死である。心筋マーカーのトロポニンIまたはトロポニンTとCKが上昇する。

どちらの病型の心筋梗塞でも,心電図上でQ波がみられる場合とみられない場合がある(Q波心筋梗塞,非Q波心筋梗塞)。

病因

急性冠症候群の最も一般的な原因は以下の通りである:

  • 動脈硬化を来した冠動脈に形成される急性血栓

アテローム性プラークはときに不安定になるか,炎症を起こして破裂または分裂を来し,それにより血栓形成物質を露出する結果,血小板と凝固カスケードが活性化して急性血栓が形成される。血小板の活性化では膜糖タンパク(GP)IIb/IIIa受容体の高次構造が変化し,それにより血小板の架橋形成(ひいては凝集)が可能になる。ごく小さな閉塞をもたらすアテロームであっても,破裂すれば血栓症につながる可能性があり,50%を超える症例ではイベント発生前の狭窄が40%未満である。このため,狭窄の重症度は症状の予測に有用であるが,急性血栓性イベントを常に予測するわけではない。結果として生じる血栓により,心筋の各部分への血流が突然阻害される。約3分の2の患者では血栓溶解が自然に起こり,24時間後に血栓性閉塞が認められる患者の割合は約30%に過ぎない。しかしながら,ほぼ全例において,組織壊死が生じるのに十分な時間にわたり閉塞が持続する。

急性冠症候群のまれな原因としては以下のものがある:

  • 冠動脈塞栓症

  • 冠攣縮

冠動脈塞栓症は,僧帽弁または大動脈弁狭窄症,感染性心内膜炎,衰弱性心内膜炎(marantic endocarditis)などで発生する可能性がある。ときに,コカイン使用やその他の原因による冠攣縮によって心筋梗塞が発生することもある。冠攣縮による心筋梗塞は,正常な冠動脈と動脈硬化を来した冠動脈のどちらでも生じうる。

病態生理

発生初期の影響は閉塞の大きさ,位置,および持続時間によって異なり,一過性の虚血から梗塞まで様々である。より新しい高感度マーカーの測定により,たとえ軽症型でもいくらかの細胞壊死はおそらく起きているということが示されており,したがって,虚血イベントは連続的な現象であり,亜群への分類は有用であっても,やや恣意的である。急性イベントの後遺症は主に,梗塞を起こした心組織の重量と種類に依存する。

心筋機能障害

虚血(梗塞には至っていない)組織は収縮性と弛緩性が障害され,その結果として運動低下または無収縮部位が生じ,それらの部位は収縮期に拡大や膨隆を起こすことがある(奇異性運動と呼ばれる)。生じる影響は罹患領域の大きさによって決まり,軽微から軽度の心不全から心原性ショックまで様々であるが,通常は心筋のかなりの部分が虚血状態になった場合に重大な心筋機能障害を引き起こす。急性心筋梗塞による入院患者の約3分の2では,ある程度の心不全が生じる。心拍出量の減少と心不全が持続する場合は,虚血性心筋症と呼ばれる。乳頭筋に及ぶ虚血は,僧帽弁逆流につながることがある。壁運動に障害があると,壁在血栓が形成されるようになる可能性がある。

心筋梗塞

心筋梗塞とは,心筋の一部分への冠血流量が突然減少することにより生じる心筋壊死である。梗塞組織は恒久的に機能障害を呈するが,その周囲には回復の可能性がある虚血領域が隣接して存在する。心筋梗塞では主に左室が侵されるが,心筋損傷が右室または心房に及ぶこともある。

梗塞は貫壁性の場合と非貫壁性の場合がある。貫壁性梗塞は心外膜から心内膜までの心筋全層が侵されたもので,通常は心電図上の異常Q波を特徴とする。非貫壁性梗塞や心内膜下梗塞は,心室壁全層までは及ばず,ST部分およびT波(ST-T)の異常のみを生じる。心室壁における壊死の深さは臨床的には正確に測定できないため,梗塞は通常,心電図上のST上昇またはQ波の有無によりSTEMIとNSTEMIに分類される。

心室中隔または心室壁が一定以上壊死すると,その部分で破裂して,悲惨な結果になる可能性がある。心室瘤または仮性心室瘤が形成されることもある。

電気的機能障害

電気的な機能障害は,いずれのACSでも重大となる可能性がある。虚血細胞や壊死細胞は正常な電気的活動を行えないため,結果として様々な心電図変化(主にST-T異常),不整脈,および伝導障害を引き起こす。虚血のST-T異常としては,ST低下(しばしばJ点からの下降傾斜型),T波逆転,ST上昇(しばしば傷害電流と呼ばれる),梗塞の超急性期にみられるT波の尖鋭化などがある。伝導障害は,洞結節,房室結節,または特殊伝導系組織の損傷を反映する。ほとんどの変化は一過性であるが,一部は恒久的である。

症状と徴候

ACSの症状は,いくらかは閉塞の範囲と位置に依存し,かなり多様である。心臓を含む胸部臓器に由来する疼痛刺激は,圧迫感,引き裂かれたような痛み,切迫感を伴うガスの貯留,消化不良,灼熱感,鈍い痛み,刃物で刺されたような痛み,ときに針で刺されたような鋭い痛みなどと表現される,様々な不快感を引き起こす。多くの患者は痛みを否定し,「不快感」のみだと主張する。梗塞範囲が広い場合を除き,症状のみから虚血範囲の広さを認識することは困難である。

ACSの症状は狭心症のそれに類似しており,不安定狭心症および急性心筋梗塞の項でより詳細に考察されている。

急性イベントの後には,多くの合併症が起こりうる。通常は以下の機序が関係する:

  • 電気的機能障害(例,伝導障害,不整脈)

  • 心筋機能障害(例,心不全,心室中隔または自由壁の破裂,心室瘤,仮性心室瘤,壁在血栓形成,心原性ショック)

  • 弁機能障害(典型的には僧帽弁逆流)

電気的機能障害はいずれのACSでも有意となりうるが,通常,有意な心筋機能障害が生じるには広範囲の心筋に虚血が生じる必要がある。ACSのその他の合併症には,虚血の再発や心膜炎などがある。心筋梗塞の発症から2~10週後に生じる心膜炎は,心筋梗塞後症候群またはドレスラー症候群として知られる。

診断

  • 一連の心電図検査

  • 一連の心筋マーカー検査

  • STEMI患者および合併症(例,胸痛の持続,低血圧,心筋マーカーの著明な上昇,不安定な不整脈)のある患者には直ちに冠動脈造影

  • NSTEMI患者および上記の合併症がない不安定狭心症患者には待機後の血管造影(24~48時間)

主症状が胸痛または胸部不快感である30歳以上の男性および40歳以上の女性(糖尿病患者ではより若年)患者では,ACSを考慮すべきである。疼痛については,肺炎,肺塞栓症,心膜炎,肋骨骨折,肋骨と肋軟骨の分離,食道痙攣,急性大動脈解離,腎結石,脾梗塞,または様々な腹部疾患の疼痛と鑑別する必要がある。以前に食道裂孔ヘルニア,消化性潰瘍,または胆嚢疾患と診断されたことのある患者の場合,新たな症状をこれらの疾患によるものと判断するには慎重になる必要がある。(診断のアプローチについては胸痛も参照のこと。)

いずれのACSが疑われる場合にも,診断アプローチは同じであり,初回および一連の心電図検査と一連の心筋マーカー測定を施行し,これらにより不安定狭心症,NSTEMI,およびSTEMIを鑑別できる。全ての救急部門は,迅速な評価と心電図検査を行うべき胸痛患者を直ちに同定するためのトリアージ制度を整備するべきである。パルスオキシメトリーと胸部X線(特に縦隔拡大[大動脈解離を示唆する]を検出するため)も行う。

心電図検査

心電図検査は最も重要な検査であり,受診から10分以内に施行すべきである。血栓溶解薬はSTEMI患者には有益であるが,NSTEMI患者ではリスクを増加させる可能性があるため,この検査が臨床判断の中心となる。また,緊急心臓カテーテル検査は急性STEMI患者では適応となるが,NSTEMI患者では適応とならない。

STEMIでは,初回心電図検査で診断に至るのが通常であり,損傷領域内の隣接した2つ以上の誘導で1mm以上のST上昇が認められる( 急性左室側壁梗塞(発症後数時間以内に記録された波形))。

急性左室側壁梗塞(発症後数時間以内に記録された波形)

I,aVL,V4,V6誘導で超急性期の著明なST上昇を認め,他の誘導では相反性の低下を認める。

急性左室側壁梗塞(発症後数時間以内に記録された波形)

異常Q波は診断に必須ではない。ST上昇は(特に下方誘導[II,III,aVF]では)明確でないことがあるため,心電図の判読は慎重に行わなければならず,ときに判読者の注意がST低下を示す誘導に誤って向けられることもある。特徴的な症状がみられる場合,心電図上のST上昇は,心筋梗塞の診断に対して特異度90%および感度45%の所見となる。一連の記録(1日目は8時間毎,その後は1日1回)で徐々により正常な安定したパターンに変化していく場合,または数日間で異常Q波が発生してくる場合( 左室下壁(横隔膜側)梗塞(発症から24時間後))は,診断確定の傾向にある。

左室下壁(横隔膜側)梗塞(発症から24時間後)

II,III,aVF誘導でST部分の上昇度の減少とともに有意なQ波がみられる。

左室下壁(横隔膜側)梗塞(発症から24時間後)

非貫壁性(非Q波)梗塞は通常,心内膜下または心筋中間層で生じるため,心電図上では診断に至るQ波や著明なST上昇は認められない。むしろ,様々な程度のST-T異常のみを認めるのが一般的で,それらの異常はあまり顕著でなかったり,一定しなかったり,非特異的でときに解釈が困難であったりする(NSTEMI)。反復して測定した心電図でそのような異常が消失(または悪化)する場合は,虚血の可能性が非常に高くなる。しかしながら,反復して記録した心電図に変化がみられない場合は,急性心筋梗塞の可能性は低く,それでも臨床的に疑われる場合には,その他の所見が診断に必要とされる。非疼痛時の心電図が正常でも,不安定狭心症は除外されない;疼痛時の正常な心電図は狭心症を除外しないが,疼痛が虚血によるものでないことを示唆する。

右室梗塞が疑われる場合は,15誘導心電図を記録するのが通常であり,追加の誘導はV4Rと後壁梗塞を検出するためにV8およびV9に配置する。

心筋梗塞の心電図診断は,左脚ブロックの波形がみられる場合,STEMIの変化と類似するため,より困難となる( 左脚ブロック)。QRS波と一致したST上昇は,2つ以上の胸部誘導での5mmを超えるST上昇と同様に,心筋梗塞を強く示唆する。しかし一般的には,示唆的な症状と新規発症(または陳旧性かどうか不明)の左脚ブロックがみられる患者は,STEMIと同様に治療される。

左脚ブロック

左脚ブロック

心筋マーカー

心筋マーカー(心筋細胞傷害の血清マーカー)とは以下のものを指す:

  • 心筋酵素(例,CK-MB)

  • 細胞内容物(例,トロポニンI,トロポニンT,ミオグロビン)

これらのマーカーは心筋細胞の壊死後に血流中に放出される。心筋マーカーは損傷後のそれぞれ異なる時期に出現し,その濃度は異なる速度で低下する。心筋細胞傷害に対する感度および特異度は,これらのマーカー間で有意に異なるが,トロポニン(cTn)が感度および特異度とも最も高く,現時点で第1選択のマーカーとなっている。最近,心筋トロポニンを対象とする非常に精度の高い新規の高感度アッセイ(hs-cTn)がいくつか利用できるようになった。これらのアッセイにより,Tn値(TまたはI)を0.003~0.006ng/mL(3~6pg/mL)という低値でも信頼性をもって測定することが可能となり,研究段階のいくつかのアッセイでは0.001ng/mL(1pg/mL)という低値にまで達している。

以前の感度があまり高くないcTn検査では,急性の心障害を呈している患者を除けば,Tnを検出できる可能性は低かった。そのため,Tn「陽性」(すなわち,検出下限を上回る)は非常に特異的な所見であった。しかしながら,新しいhs-cTn検査では,多くの健常者で少量のTnが検出される可能性がある。このため,hs-cTn値は正常範囲を参照する必要があり,参照集団の99%より高い値を示した場合のみが「上昇」と定義されている。さらに,トロポニン値の上昇は心筋細胞傷害を示唆するが,損傷の原因は示唆しない(ただし,トロポニン値の上昇は多くの疾患において望ましくない転帰のリスクを高める)。ACSに加え,他の多くの心疾患と心臓以外の疾患によりhs-cTn値が上昇する可能性があり( トロポニン高値の原因),全てのhs-cTn値上昇が心筋梗塞を反映するわけではなく,たとえ病因が虚血であったとしても,全ての心筋壊死が急性冠症候群に起因するわけでもない。しかしながら,hs-cTnアッセイはTnをより低値で検出することにより,他のアッセイより早期に心筋梗塞を同定することが可能であり,多くの医療施設で他の心筋マーカーに取って代わっている。

ACSが疑われる患者では,受診時および3時間後にhs-cTn値を測定すべきである(標準のTnアッセイを用いる場合は0時間および6時間後)。

hs-cTn値は,以下の情報から臨床的に推定される疾患の検査前確率に基づいて解釈しなければならない:

  • ACSの危険因子

  • 症状

  • 心電図

検査前確率が高く,かつhs-cTn値が高値の場合はACSが強く示唆されるが,検査前確率が低く,かつhs-cTn値が正常の場合は,ACSのある可能性は低くなる。検査結果が検査前確率と一致しない場合は,診断はより困難となるが,そのような場合は連続測定したhs-cTn値がしばしば有用となる。検査前確率が低く,最初の検査でhs-cTn値が軽度の高値を示し,かつ再検査で安定を維持している患者は,おそらくACS以外の心疾患(例,心不全,安定した冠動脈疾患)を有している。一方,再検査で有意な上昇(すなわち,20~50%の上昇)がみられた場合は,ACSの可能性がはるかに高くなる。検査前確率が高く,かつ正常であったhs-cTn値が再検査では50%を超えて上昇した患者では,ACSの可能性が高く,正常値が持続(疑いが強い場合はしばしば6時間後およびそれ以降を含む)する場合は,別の疾患を検索する必要性が示唆される。

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トロポニン高値の原因

種類

状態

心筋梗塞(虚血性)

ACS

古典的なAMI

  • STEMI

  • NSTEMI

ACS以外(冠動脈)

需要の増加(安定したCAD病変)

冠動脈攣縮,塞栓症,または解離

処置関連(PCI,CABG)

コカインまたはメタンフェタミン

ACS以外(冠動脈以外)

低酸素症

広範囲虚血

低灌流

胸部手術

心臓突然死

直接的な心筋損傷(虚血性以外)

心疾患

心不全

心筋症(例,肥大型,ウイルス性)

高血圧

心筋炎,心膜炎

損傷(アブレーション手技,心挫傷,カルディオバージョン,電気ショック)

浸潤性疾患(例,アミロイドーシス)

全身性疾患

肺塞栓症

毒性(例,アントラサイクリン系薬剤)

外傷(重度の熱傷)

極度の労作

腎不全

敗血症

脳卒中

くも膜下出血

解剖学的

測定法に基づくもの

性能不良

較正エラー

検体に基づくもの

異好抗体

物質による干渉

ACS = 急性冠症候群;AMI = 急性心筋梗塞,CABG = 冠動脈バイパス術;NSTEMI = 非ST上昇型心筋梗塞;PCI = 経皮的冠動脈インターベンション;STEMI = ST上昇型心筋梗塞。

冠動脈造影

冠動脈造影は,多くの場合,診断と経皮的冠動脈インターベンション(PCI,すなわち血管形成術,ステント留置術)を兼ねる。可能な場合は,緊急冠動脈造影およびPCIを急性心筋梗塞の発症後可及的速やかに施行する(primary PCI)。多くの三次医療施設では,このアプローチにより合併症発生率および死亡率が有意に低下し,長期成績が改善している。疼痛発生からPCIまでの時間が短ければ(3~4時間未満),実際に梗塞を途中で解消できることも多い。

STEMI患者,最大限の薬物療法を行っても胸痛が持続する患者,合併症(例,心筋マーカーの著明な上昇,心原性ショック,急性僧帽弁逆流症,心室中隔欠損症,不安定な不整脈)を有する患者では,緊急血管造影を施行する。合併症のないNSTEMI患者と症状が消失した不安定狭心症患者では,典型的には入院後24~48時間以内に血管造影を施行して,治療を要する可能性のある病変を検出する。

冠動脈造影はまた,最初の評価と治療の終了後に,虚血の持続を示唆する所見(心電図所見や症状)がみられる場合や,不安定な血行動態や繰り返す心室性頻拍性不整脈など虚血イベントの再発を示唆する異常がみられる患者に施行されることがある。さらに一部の専門家は,負荷画像検査で誘発可能な虚血を認めるか駆出率が40%未満であるSTEMI患者には,退院前にも血管造影を施行することを推奨している。

その他の検査

ルーチンの臨床検査では診断を確定することはできないが,施行すれば組織壊死に一致する非特異的な異常を示すことがある(例,赤沈亢進,左方移動を伴う中等度の白血球数増加)。ACSで入院した患者では,全例で24時間以内に空腹時脂質プロファイルを測定すべきである。

心筋マーカーまたは心電図検査で陽性となった場合は,診断に心筋イメージング心臓画像検査)は必要ない。しかしながら,心筋梗塞患者では,ベッドサイドでの心エコー検査が機械的合併症を検出するのに非常に有用でCSを示唆する症状がみられるが,心電図検査で診ある。ACSを示唆する症状がみられるが,心電図検査で診断がつかず,かつ心筋マーカーが正常な患者には,退院前または退院後すぐに負荷画像検査(薬物または運動負荷を伴う核医学検査または心エコー検査)を施行すべきである。このような患者における画像上の異常は,その後の3~6カ月間の合併症発生リスクの上昇と血管造影の必要性を示唆するもので,血管造影は退院前または退院直後に施行すべきであり,必要に応じてPCIまたはCABGも施行する。

先端にバルーンが付いた肺動脈カテーテルを用いた右心カテーテル法では,右心圧,肺動脈圧,肺動脈楔入圧,および心拍出量を測定することができる。この検査はルーチンには推奨されず,重大な合併症(例,重症心不全,低酸素症,低血圧)がある場合に限り,カテーテルの留置および管理について豊富な経験を有する医師によって施行されるべきである。

予後

総合的なリスクは,正式な臨床リスクスコア(Thrombolysis in Myocardial Infarction[TIMI],Global Registry of Acute Coronary Events[GRACE],PlateletGlycoprotein IIb/IIIa in Unstable Angina: Receptor Suppression Using IntegrilinTherapy[PURSUIT])または以下の高リスク所見の組合せに基づいて推定すべきである:

  • 安静時または低レベルの活動時に再発を繰り返す狭心症/心筋虚血

  • 心不全

  • 増悪する僧帽弁逆流症

  • 高リスクを示唆する負荷試験の結果(症状,著明な心電図異常,低血圧,または複雑心室性不整脈[complex ventricular arrhythmias]のために5分以内で検査中止)

  • 血行動態不安定

  • 持続性心室頻拍

  • 糖尿病

  • 過去6カ月間のPCI

  • CABGの既往

  • 左室駆出率 < 0.40

治療

  • プレホスピタルケア:酸素,アスピリン,疼痛に対する硝酸薬および/またはオピオイド鎮痛薬,ならびに適切な医療施設へのトリアージ

  • 薬物治療:抗血小板薬,狭心症治療薬,および抗凝固薬のほか,一部の例ではその他の薬剤

  • 多くの場合,冠動脈の解剖を評価するための血管造影

  • 多くの場合,再灌流療法:血栓溶解薬,経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術

  • 支持療法

  • 退院後のリハビリテーションと冠動脈疾患の長期管理

薬物治療を含む治療は,苦痛の軽減,血栓形成過程の停止,虚血の解消,梗塞範囲の制限,心仕事量の軽減,ならびに合併症の予防および治療を目的として計画する。ACSは医学的緊急事態であり,その予後は迅速な診断と治療に大きく影響される。

治療は診断と同時に行う。

状態を悪化させる疾患(例,貧血,心不全)を積極的に治療する。

心筋梗塞の胸痛は通常,12~24時間以内に消失するため,胸痛が持続または後に再発する場合は検査を行う。それにより,虚血の再発,心膜炎,肺塞栓症,肺炎,胃炎,潰瘍などの合併症が明らかになることがある。

プレホスピタルケア

  • 酸素

  • アスピリン

  • 硝酸薬またはモルヒネ

  • 適切な医療施設へのトリアージ

確実な静脈ラインを確保し,酸素を投与(典型的には鼻カニューレで2L)するとともに,持続的な単一誘導の心電図モニタリングを開始する必要がある。救急救命士による病院到着前の介入(心電図検査,アスピリンの咀嚼服用[325mg],硝酸薬またはオピオイドによる疼痛管理[ 冠動脈疾患に対する薬剤*],適応があり可能であれば早期血栓溶解療法,primary PCIが可能な適切な病院への搬送など)により,死亡および合併症のリスクが低下する可能性がある。早期の診断データと治療に対する反応は,primary経皮的冠動脈インターベンションが可能でない場合に血行再建術の必要性と施行時期を判断する上で有用となりうる。

病院到着後

  • 再灌流戦略に応じた抗血小板薬および抗凝固薬やその他の薬剤を使用する薬物療法

  • 患者のリスク層別化と再灌流戦略の選択(STEMI患者には血栓溶解薬の投与または心血管造影とPCIもしくはCABG,不安定狭心症およびNSTEMI患者には心血管造影とPCIまたはCABG)

患者が緊急処置室に到着したら,診断を確定する。薬物療法および血行再建術の選択は,急性冠症候群の種類と臨床像に依存する( 急性冠症候群へのアプローチ)。薬物療法の選択については急性冠症候群の薬剤で,再灌流戦略の選択については急性冠症候群の血行再建術でさらに考察されている。

急性冠症候群へのアプローチ

急性冠症候群へのアプローチ

*合併症ありとは,狭心症再発もしくは心筋梗塞,心不全,または持続性心室性不整脈の合併を意味する。これらの事象がいずれもなければ,合併症なしと呼ばれる。

以下に該当する患者に対しては,一般にPCIよりもCABGが望ましい:

  • 左主幹部病変または左主幹部同等病変

  • 左室機能障害

  • 治療中の糖尿病

また,長い病変や分岐部に近い病変はPCIに適さないことが多い。

CABG = 冠動脈バイパス術;GP = 糖タンパク;LDL = 低比重リポタンパク;NSTEMI = 非ST上昇型心筋梗塞;PCI = 経皮的冠動脈インターベンション;STEMI = ST上昇型心筋梗塞。

診断がはっきりしない場合は,ACSが疑われる低リスク患者(例,初回検査で心筋マーカーが陰性で,心電図で診断がつかない患者)を同定するのにベッドサイドでの心筋マーカー検査が役立つ可能性があり,そのような患者は24時間観察ユニットまたは胸痛センターで管理可能である。より高リスクの患者は,モニタリング体制のある入院病棟または冠動脈疾患集中治療室(CCU)に入院させるべきである。妥当性の確認されたいくつかのツールがリスクの層別化に役立つ可能性がある。Thrombolysis in Myocardial Infarction(TIMI)リスクスコアが最も広く使用されているツールと考えられる。

NSTEMIが疑われる中リスクまたは高リスク患者は,入院病棟またはCCUに入院させるべきである。STEMI患者はCCUに入院させるべきである。

ルーチンの継続的なモニタリングに一貫して有用となる指標は,単一誘導の心電図モニターで記録された心拍数と心リズムのみである。しかしながら,一過性に再発するST部分の上昇または低下を同定するため,ST部分の連続記録を伴う複数誘導のモニタリングをルーチンに推奨する臨床医もいる。このような所見は,たとえ無症状であっても,虚血を示唆し,より積極的な評価および治療が必要となりうる高リスク患者を同定する。

資格のある看護師であれば,心電図上の不整脈を判読し,その治療プロトコルを開始することができる。全てのスタッフが心肺蘇生の方法を知っておくべきである。

支持療法

治療室は静かで,落ち着いた,安らげる場所とするべきである。個室が望ましく,モニタリングを行いながらも,プライバシーを確保すべきである。通常,最初の数日間は訪問および電話を家族のみに制限する。壁時計,カレンダー,および外の見える窓は患者の見当識を保ち,孤立感を予防する上で有用であり,ラジオ,テレビ,および新聞を利用できるようにすることも同様の効果がある。

最初の24時間は床上安静が必須である。合併症(例,血行動態の不安定性,進行する虚血)のない患者は,血栓溶解薬またはPCIによる再灌流療法が成功した患者も含めて,初日に椅子に座り,受動運動を開始し,室内便器を使用することが可能である。その後間もなく,トイレへの歩行とストレスのない書類仕事を許可する。最近の研究では,急性心筋梗塞に対するprimary PCIが成功して合併症が発生していない患者では,速やかに歩行を開始させてよく,3~4日で安全に退院できることが示されている。

再灌流療法が不成功に終わるか合併症が発生した場合は,より長期の床上安静が必要となるが,患者(特に高齢患者)にはできるだけ早く歩行を開始させるべきである。長期臥床は急激な身体的デコンディショニングへとつながり,それにより起立性低血圧の発症,作業能力の低下,労作時の心拍数増加,および深部静脈血栓症のリスク増加を来す。長期臥床はまた,抑うつや無力感も助長する。

不安,気分変化,および否認がよくみられる。弱い精神安定薬(通常はベンゾジアゼピン系薬剤)がしばしば投与されるが,この種の薬剤が必要になる状況はほとんどないと考える専門家も多い。

反応性うつ病は第3病日までによくみられ,ほぼ全ての患者が回復過程のいずれかの時点で経験する。急性期を経過した後の最も重要な課題は,しばしば抑うつの管理,リハビリテーション,および長期予防プログラムの導入となる。床上安静,活動制限,および疾患の重篤性を過度に強調することは,不安や抑うつの傾向に拍車をかけることにつながるため,患者にはできるだけ早く起座位をとり,ベッドから出て,適度な活動に従事することを奨励する。疾患の影響,予後,および個別化したリハビリプログラムについて患者に説明すべきである。

いきみを避けるため,便軟化剤(例,ジオクチルソジウムスルホサクシネート)を用いて正常な排便機能を維持することが重要である。高齢者では尿閉がよくみられ,数日間の床上安静後やアトロピンの投与後には特に多い。カテーテル留置が必要になる場合もあるが,通常は立位または座位で排尿できるようになれば抜去できる。

病院では喫煙が禁止されるため,禁煙を奨励する機会として入院を活用するべきである。禁煙が恒久的に持続するように,全ての介護者が相当の努力を払うべきである。

急性疾患の患者は食欲がほとんどないが,少量の美味しい食事は意欲を高めるためによい。通常,ナトリウムを2~3gまで減らした1500~1800kcal/日の軟らかい食事を提供する。心不全の所見がなければ,ナトリウム制限は最初の2日または3日以後は不要である。低コレステロールかつ低飽和脂肪の食事を提供し,それを用いて健康的な食事について患者を教育する。

糖尿病とSTEMIを併発した患者には,集中的な血糖コントロールはもはや推奨されておらず,ガイドラインではインスリンベースのレジメンにより血糖値180mg/dL未満を達成および維持しつつ,低血糖を回避するよう要請している。

リハビリテーションと退院後の治療

  • 機能評価

  • 生活習慣の改善:定期的な運動,食習慣の改善,減量,禁煙

  • 薬剤:抗血小板薬,β遮断薬,ACE阻害薬,およびスタチン系薬剤の継続

機能評価

入院中に冠動脈造影が施行されなかった患者,高リスクの特徴(例,心不全,狭心症の再発,24時間後の心室頻拍または心室細動,新規の心雑音などの機械的合併症,ショック)がみられない患者,および駆出率が40%を上回る患者には,血栓溶解療法を受けたか否かにかかわらず,通常は退院前または退院直後に何らかの負荷試験を施行すべきである( 心筋梗塞後の機能評価)。

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心筋梗塞後の機能評価

運動耐容量

心電図が解釈可能な場合

心電図が解釈不能な場合

運動が可能

退院前または退院後に,最大未満または症状に応じて制限した負荷での心電図検査

運動心エコーまたは核医学検査

運動が不可能

薬物負荷試験(心エコーまたは核医学検査)

薬物負荷試験(心エコーまたは核医学検査)

活動

退院後最初の3~6週間で運動量を徐々に増やしていく。性行為(しばしば患者とパートナーにとって大きな関心事である)およびその他の適度な身体活動の再開は奨励してもよい。急性心筋梗塞後に6週間にわたり心機能が良好に維持された場合,ほとんどの患者は全ての日常活動に復帰できる。生活習慣,年齢,および心臓の状態に応じた定期的な運動プログラムにより,虚血イベントのリスクを低下させ,全般的な健康状態を向上させることができる。

危険因子

急性期の病状とACSの治療を機会として,患者に危険因子の是正を強く促すべきである。患者の身体面および感情面の状態を評価し,それらについて患者と話し合い,生活習慣(例,喫煙,食事,仕事や趣味の習慣,運動)について助言するとともに,積極的に危険因子を管理していくことで,予後を改善できる可能性がある。

薬剤

いくつかの薬剤は心筋梗塞後の死亡リスクを明らかに低下させるため,禁忌がなく患者が耐えられる場合は使用する。

  • アスピリンおよび他の抗血小板薬

  • β遮断薬

  • ACE阻害薬

  • スタチン系薬剤

アスピリンとその他の抗血小板薬は,心筋梗塞後の死亡率および再梗塞率を低下させる。長期投与には,アスピリン腸溶錠81mgの1日1回投与が推奨される。ワルファリンは,単剤またはアスピリンとの併用で死亡率および再梗塞率を低下させることが研究データから示唆されている。

β遮断薬は標準治療と考えられている。使用可能なβ遮断薬の大半(例,アセブトロール,アテノロール,メトプロロール,プロプラノロール,チモロール)は,心筋梗塞後の死亡率を少なくとも7年間にわたり約25%低下させる。

ACE阻害薬も標準治療とされており,可能であれば心筋梗塞後の全患者に投与する。これらの薬剤は,内皮機能を改善することによって,長期的な心保護作用をもたらす可能性がある。咳嗽または発疹(血管性浮腫または腎機能障害ではない)のために患者がACE阻害薬に耐えられない場合は,アンジオテンシンII受容体拮抗薬が代替薬となりうる。

スタチン系薬剤も標準治療であり,ルーチンに処方される。心筋梗塞後にコレステロール値を低下させることにより,コレステロール値が高値または正常な患者では,虚血イベントの再発率および死亡率が低下する。スタチン系薬剤は,初期のコレステロール値にかかわらず,心筋梗塞後患者には有益となるようである。主な問題がHDL低値またはトリグリセリド高値である心筋梗塞後患者では,フィブラート系薬剤が有益となりうるが,有益性のエビデンスはあまり明白ではない。脂質低下薬は,重大な有害作用が発現しない限り無期限に継続すべきであり,LDL値70~80mg/dL(1.81~2.07mmol/L)を達成できるように増量すべきである。

要点

  • 不安定狭心症,NSTEMI,およびSTEMIの違いは,心筋の虚血および壊死の程度を表しており,その鑑別は予後を判定して治療方針を判断する上で有用となる。

  • 診断は一連の心電図検査および心筋マーカー値に基づき,特に新しい高感度トロポニンT検査を用いる。

  • 即時に開始すべき薬物療法は,具体的な症状と患者特性に依存するが,典型的には抗血小板薬,抗凝固薬,β遮断薬,および硝酸薬を必要に応じて(例,胸痛,高血圧,肺水腫に対して)使用するとともに,予後改善のためスタチン系薬剤を使用する。

  • 不安定狭心症およびNSTEMIに対しては,入院後24~48時間以内に血管造影を施行して,PCIまたはCABGを要する冠動脈病変を同定する;血栓溶解薬は有用ではない。

  • STEMIに対しては,病院到着から初回バルーン拡張までの時間(door to balloon-inflation time)が90分以内になるならば緊急PCIを施行し,この時間内にPCIを行えない場合には血栓溶解療法を施行する。

  • 回復後には,禁忌がない限り,ほとんどの場合,アスピリンおよび他の抗血小板薬,β遮断薬,ACE阻害薬,ならびにスタチン系薬剤の投与を開始または継続する。

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