(ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群では,糸球体疾患が原因で尿タンパク排泄量が3g/日を超え,これに浮腫および低アルブミン血症が伴う。小児でより多くみられ,原発性および続発性いずれの原因もある。診断は随時尿検体の尿タンパク/クレアチニン比測定または24時間蓄尿での尿タンパクの測定により,原因は病歴,身体診察,血清学的検査,腎生検に基づき診断される。予後および治療は原因によって異なる。 ( 糸球体疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む も参照のこと。)
糸球体足細胞のM-typeのホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)が,沈着した免疫複合体の主要な標的抗原として同定されている。
膜性腎症(MN)は大半が成人にみられ, ネフローゼ症候群 ネフローゼ症候群の概要 ネフローゼ症候群では,糸球体疾患が原因で尿タンパク排泄量が3g/日を超え,これに浮腫および低アルブミン血症が伴う。小児でより多くみられ,原発性および続発性いずれの原因もある。診断は随時尿検体の尿タンパク/クレアチニン比測定または24時間蓄尿での尿タンパクの測定により,原因は病歴,身体診察,血清学的検査,腎生検に基づき診断される。予後および治療は原因によって異なる。 ( 糸球体疾患の概要も参照のこと。)... さらに読む の一般的な原因である。
病因
MNは通常は特発性であるが,以下のいずれかに続発することもある:
薬物(例,金,ペニシラミン,NSAID)
感染症(例,B型またはC型肝炎ウイルス感染症,梅毒,HIV感染症)
自己免疫疾患(例,全身性エリテマトーデス)
甲状腺炎
がん
寄生虫疾患(例,マラリア,住血吸虫症,リーシュマニア症)
患者の年齢に応じて,4~20%が基礎疾患としてがんを有しており,具体的には肺,結腸,胃,乳房,腎臓の悪性固形腫瘍や,ホジキンまたは非ホジキンリンパ腫,慢性リンパ性白血病,黒色腫などがある。
小児のMNはまれであり,発生した場合は通常,B型肝炎ウイルス感染症かSLEが原因である。
腎静脈血栓症 腎静脈血栓症 腎静脈血栓症は主要な腎静脈の一側性または両側性の血栓性閉塞で,急性腎障害または慢性腎臓病を生じる。一般的な原因は,ネフローゼ症候群,原発性の凝固亢進性疾患,悪性腎腫瘍,外因性圧迫,外傷,まれに炎症性腸疾患である。腎不全の症状,およびときに悪心,嘔吐,側腹部痛,肉眼的血尿,尿量低下または静脈血栓塞栓症の全身症状が起こる場合がある。診断はCT,MRアンギオグラフィー,または腎静脈造影による。治療をした場合の予後は,一般に良好である。治療は抗... さらに読む はMNでより多くみられ,通常は無症状であるが,側腹部痛,血尿,および高血圧がみられることがある。肺塞栓症に進行する可能性もある。
症状と徴候
典型的には浮腫とネフローゼレベルのタンパク尿がみられるほか,ときに顕微鏡的血尿および高血圧もみられる。MNを引き起こす疾患(例,がん)の症候が最初に出現する場合がある。
診断
腎生検
続発性の原因の評価
診断は,ネフローゼ症候群の発生により示唆され,特にMNの潜在的な原因を有する患者で示唆される。診断は生検により確定される。
タンパク尿は患者の80%でネフローゼレベルである。臨床検査は,ネフローゼ症候群に対する適応に従って施行する。GFRは測定した場合,正常か,または低値である。
電子顕微鏡検査では,免疫複合体が高電子密度沈着物として認められる( Professional.see figure 免疫性糸球体疾患の電子顕微鏡所見 免疫性糸球体疾患の電子顕微鏡所見 )。早期には上皮下に高電子密度沈着物が生じ,沈着領域の間には基底板のスパイクを認める。後に沈着物はGBM中にみられ,著明な肥厚が起こる。びまん性の顆粒状パターンのIgG沈着がGBMに沿って認められ,細胞増殖,浸出または壊死は伴わない。
PLA2R抗体の有無およびIgG沈着のサブクラスを同定することは,特発性膜性腎症と二次性膜性腎症の鑑別に役立つ可能性がある。例えば,特発性の場合の沈着はPLA2R抗体陽性でIgG4が優勢となるが,悪性腫瘍関連のMNでは,PLA2R抗体は典型的には陰性で,IgG1および2が優勢となる (1) 診断に関する参考文献 膜性腎症は,免疫複合体が糸球体基底膜(GBM)に沈着し,GBM肥厚を伴う。原因は通常不明であるが,続発性の原因として薬物,感染症,自己免疫疾患,がんなどがある。臨床像は,良性の尿沈渣所見を伴った浮腫および重度タンパク尿の潜行性の発生,腎機能正常,血圧正常または高値などである。診断は腎生検による。自然寛解がよくみられる。進行のリスクが高い患者の治療は,通常はコルチコステロイドおよびシクロホスファミドまたはクロラムブシルによる。... さらに読む 。
免疫性糸球体疾患の電子顕微鏡所見
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原因の診断
MNと診断された患者の評価には通常以下のものが含まれる:
潜在がんの探索,特に体重が減少した患者,原因不明の貧血または便潜血がみられる患者,高齢者
薬剤性MNの考慮
B型およびC型肝炎の血清学的検査
抗核抗体検査
潜在がんの探索は通常,年齢に適切なスクリーニングに限定される(例,大腸内視鏡検査は年齢50歳以上またはその他の症状もしくは危険因子を有する患者,マンモグラフィーは年齢40歳以上の女性,前立腺特異抗原測定は50歳以上[黒人では40歳以上]の男性,胸部X線およびおそらく胸部CTは肺癌のリスクを有する患者)。
診断に関する参考文献
Beck LH , Bonegio RG, Lambeau G: M-type phospholipase A2 receptor as target antigen in idiopathic membranous nephropathy.N Engl J Med 361(1):11, 2009.
予後
約25%の患者は自然寛解し,25%ではネフローゼレベルに達しない持続性のタンパク尿を来し,25%は持続性のネフローゼ症候群を発症し,25%は末期腎臓病へ進行する。ネフローゼレベルに達しないタンパク尿を有する女性,小児,若年成人および診断から3年後も正常な腎機能を保持する患者では,疾患の進行はほとんどみられない傾向にある。ネフローゼレベルのタンパク尿がみられ,かつ無症状であるか利尿薬でコントロール可能な浮腫を有する患者では,50%以上で3~4年以内に部分または完全寛解が得られる。
腎不全へ進行するリスクは,以下のものを有する患者で最も高い:
8g/日以上の持続性タンパク尿がみられる(特に50歳以上の男性)
診察時または診断時に血清クレアチニン高値
生検で広範な間質炎症の所見
治療
続発性の原因およびネフローゼ症候群を適応に応じて治療
進行のリスクが高い患者では免疫抑制療法
末期腎臓病患者に対する腎移植
主な治療は原因の治療である。特発性MN患者のうち,タンパク尿がネフローゼレベルに達していない無症状の患者では治療は不要であるが,腎機能は定期的にモニタリングすべきである(例,外見的に安定している場合は年2回)。
ネフローゼレベルのタンパク尿がみられ,かつ無症状であるか利尿薬でコントロール可能な浮腫を有する患者には,ネフローゼ症候群の治療を行うべきである。
高血圧患者にはACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬を投与すべきであり,これらの薬剤は,高血圧のない患者に対してもタンパク尿の軽減という効果をもたらしうる。
免疫抑制療法
免疫抑制薬は,症状を呈する特発性ネフローゼ症候群患者および進行性疾患のリスクが最も高い患者に対してのみ考慮すべきである。しかしながら,ネフローゼ症候群の成人患者で免疫抑制療法が長期的に有益となることを裏付ける強いエビデンスは存在しない。高齢患者および慢性疾患を有する患者は,免疫抑制薬に起因する感染性合併症のリスクが高い。
コンセンサスが得られたプロトコルは存在しないが,かつては,一般的なレジメンとしてコルチコステロイドとそれに続いてクロラムブシルが投与されていた。しかしながら,このレジメンは現在ではあまり用いられない(Cochraneの抄録レビューImmunosuppressive treatment for idiopathic membranous nephropathy in adults with nephrotic syndromeを参照)。ネフローゼ症候群の成人患者で免疫抑制薬による治療が長期的に有益となることを裏付ける強いエビデンスは存在しない。大半の専門家はシクロホスファミドおよびコルチコステロイドが良好な安全性プロファイルを有していることからこれらの併用を好む。
細胞傷害性薬剤に耐えられない患者や反応しない患者に対しては,シクロスポリン4~6mg/kg,経口,1日1回,4カ月間,またはリツキシマブ375mg/m2,静注,週1回,4週間が有益となりうる。
長期的評価がまだ立証されていない治療としては,免疫グロブリン静注およびNSAIDがある。
末期腎臓病患者では腎移植が選択肢の1つである。MNは約10%の患者で再発し,移植腎の喪失が最大50%で発生する。
要点
MNは通常特発性であるが,患者はがん,自己免疫疾患,感染症などの治療可能な関連疾患を有している場合がある。
初期の臨床像は,典型的にはネフローゼ症候群の症候である(例,浮腫,ネフローゼレベルのタンパク尿,ときに顕微鏡的血尿,高血圧)。
診断は腎生検で確定され,関連疾患および原因を考慮する。
ネフローゼ症候群を治療し,高血圧を最初はアンジオテンシン阻害により治療する。
免疫抑制療法は,進行のリスクを有する特発性ネフローゼ症候群患者に対してのみ考慮する。