がんのスクリーニング

執筆者:Robert Peter Gale, MD, PhD, DSC(hc), Imperial College London
レビュー/改訂 2020年 11月
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    定期的な身体診察とスクリーニング検査によって,ときに無症状の患者においてがんが検出されることがある。(がんの概要も参照のこと。)

    甲状腺,口腔,皮膚,リンパ節,精巣,前立腺,子宮頸部,および卵巣にがんがないか調べるための身体診察を,ルーチンの診療に組み込むべきである。

    スクリーニング検査は,リスクのある無症状の患者に実施される検査である。その根拠は,早期診断によりがんを早期かつ治癒可能な段階で発見することで,がん死亡率が低下する可能性があるためである。早期発見ができれば,侵襲的な治療を減らし,医療費を削減することが可能になる。リスクとして,偽陽性の判定が出た場合には,確認検査(例,生検,内視鏡検査)が必要になり,それが患者の不安,重大な合併症,および医療費の増大につながる可能性があり,偽陰性の判定が出た場合には,患者に誤った安心感を与えてしまい,その後の症状を軽視させる可能性がある。

    がんのスクリーニングは,以下の状況で実施すべきである:

    • 乳癌,卵巣がん,膵癌,造血器悪性腫瘍,結腸癌,または前立腺癌の家族歴がある人など,明確な高リスク集団が同定できる場合

    • スクリーニング検査による便益がリスクを上回ることが証明され,保健当局によって推奨されている場合

    スクリーニングの推奨スケジュールは,進行中の研究に基づいて常に進化している(平均的リスクの無症状者に対するスクリーニング手順に関するAmerican Cancer Society(ACS),US Preventive Services Task Force(USPSTF),およびAmerican College of Physicians(ACP)の推奨の表を参照)。スクリーニングに関する現時点での考慮事項として,がんのように見える(特に前立腺および乳房組織でみられる)一部の所見が,対象者が最終的に死亡するまでに実際にがんに進行するとは限らないという事実への理解を深めることが挙げられる。例えば,男性ではルーチンの血中前立腺特異抗原(PSA)濃度,女性ではルーチンのマンモグラフィーによるスクリーニングを受けると,その結果を受けて生検が施行され,そこで病理医はがんと判断するものの,その後も臨床的ながんの発症に至らない場合や,がん症状を呈しても,生存期間に悪影響を及ぼさない所見しか認められない場合もある。このような場合,がん治療(例,手術,化学療法,放射線療法)を受けても,患者はその恩恵を得られない可能性がある。

    スクリーニングにおける重要な問題は,1人のがん死亡を予防するのに,何人がスクリーニングを受ける必要があり,何人が不必要な介入を受けたり不必要な懸念を抱かされたりすることになるかである。こうした複雑な事情のため,スクリーニングの対象者,開始年齢,対象とするがんの種類については,かなりの議論がある。American Cancer Society(ACS),US Preventive Services Task Force(USPSTF),および様々な専門機関による推奨はそれぞれ異なる場合がある。American College of Physicians(ACP)は,既存のガイドラインとそれらに含まれる乳癌および結腸癌スクリーニングに関するエビデンスのレビューに基づいて,推奨を提示している。

    表&コラム
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