排尿困難

執筆者:Geetha Maddukuri, MD, Saint Louis University
レビュー/改訂 2021年 1月
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排尿困難とは,排尿に疼痛または不快感を伴うことであり,典型的には鋭い灼熱感が生じる。一部の疾患では膀胱または会陰部に強い疼痛が生じる。排尿困難は女性では極めて頻度の高い症状であるが,男性にもみられ,年齢を問わず生じる。

排尿困難の病態生理

排尿困難は膀胱三角部または尿道の刺激によって生じる。尿道の炎症または尿道狭窄により,排尿開始が困難になり,排尿時に灼熱痛が生じる。膀胱三角部の刺激は膀胱収縮の誘因となり,それにより頻尿と排尿時痛が生じる。排尿困難の最も頻度の高い原因は下部尿路感染症(UTI)であるが,上部尿路感染症でも排尿困難を生じることがある。上部UTIにおける頻尿の主な理由は,腎濃縮能の障害である。

排尿困難の病因

排尿困難は典型的には尿道または膀胱の炎症により生じるが,女性では会陰部の病変(例,外陰腟炎または単純ヘルペスウイルス感染症によるもの)が尿に曝された際に疼痛が生じる可能性がある。ほとんどの症例は感染が原因であるが,ときに非感染性の炎症性疾患が原因の場合もある(排尿困難の主な原因の表を参照)。一部の患者では,特定の飲食物の摂取に伴って排尿困難や頻尿がみられる。一般的な刺激物としては,アルコール,カフェイン,酸性食品(例,柑橘類)などがある。

全体として,排尿困難の最も頻度の高い原因は以下の通りである:

表&コラム

排尿困難の評価

病歴

現病歴の聴取では,症状の持続期間と過去の既往の有無を対象に含めるべきである。重要な随伴症状としては,発熱,側腹部痛,尿道または腟分泌物,膀胱刺激症状(頻尿,尿意切迫),閉塞症状(排尿遅延,尿滴下)などがある。尿における血液の混入,混濁,および悪臭の有無と,分泌物がある場合はその性質(例,さらさらして水っぽい,粘ついて膿性)を患者に質問すべきである。また,患者が無防備な性交を最近経験しなかったか,会陰部に刺激物を適用しなかったか,泌尿器の器具操作(例,膀胱鏡検査カテーテル挿入,手術)を最近受けなかったか,ならびに妊娠している可能性はないかも質問すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,考えられる原因の症状がないか検討すべきであり,具体的には背部痛,関節痛,眼の刺激(結合組織疾患),下痢など消化管症状(反応性関節炎)が挙げられる。症状を引き起こす可能性のある飲食物の検討も必要である。

既往歴の聴取では,過去の尿路感染症(小児期のものも含む)と既知の尿路異常(腎結石の既往も含む)に注意すべきである。何らかの感染症が考えられる場合と同様に,易感染状態(HIV/AIDSを含む)の既往と最近の入院歴が重要である。

身体診察

診察はバイタルサインの評価から始め,特に発熱の有無に注意する。

皮膚,粘膜,および関節を診察して,反応性関節炎を示唆する病変(例,結膜炎,口腔内潰瘍,手掌,足底,爪周囲の小胞または痂皮病変,関節の圧痛)がないか確認する。側腹部を打診して,腎臓に圧痛がないか確認する。腹部を触診して,膀胱に圧痛がないか確認する。

女性には内診を行うべきであり,会陰部の炎症または病変や腟または子宮頸管に分泌物がないか確認する(子宮頸管炎を参照)。性感染症(STD)の検査および直接鏡検(ウェットマウント)に使用する拭い液検体を,2回目の診察時ではなく,この時点で採取すべきである。

男性には陰茎の病変および分泌物がないか確認するため外観の視診を行うべきであり,包皮下の領域も診察すべきである。精巣および精巣上体を触診して,圧痛または腫脹がないか確認する。直腸診では,前立腺を触診して,大きさ,硬さ,および圧痛の有無を調べる。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見は特に注意が必要である:

  • 発熱

  • 側腹部の疼痛または圧痛

  • 最近の器具操作

  • 易感染性患者

  • 繰り返す再発(小児期の頻回の感染を含む)

  • 既知の尿路異常

  • 男性

所見の解釈

一部の所見は非常に示唆的である(排尿困難の主な原因の表を参照)。健康な若年女性に排尿困難と有意な膀胱刺激症状がみられる場合,原因として最も可能性が高いのは膀胱炎である。尿道または子宮頸管分泌物が視認できる場合は,STDが示唆される。通常,粘稠な膿性分泌物は淋菌によるものであり,さらさらないし水っぽい分泌物は淋菌以外による。腟炎および単純ヘルペスウイルス感染症による潰瘍性病変は,典型的には視診で明らかである。男性では,前立腺の強い圧痛は前立腺炎を示唆し,精巣上体の圧痛および腫脹は精巣上体炎を示唆する。その他の所見も参考になるが,診断にはつながらないこともあり,例えば,外陰腟炎の所見を認める女性は,尿路感染症(UTI)にも罹患していたり,排尿困難の他の原因を有していたりする場合がある。症状に基づくUTIの診断は,高齢患者では精度が比較的低くなる。

レッドフラグサインを認める患者では,感染を示唆する所見がより大きな懸念となる。発熱,側腹部痛,またはその両方を認める場合は,腎盂腎炎の合併が示唆される。頻回のUTIの既往がある場合は,基礎にある解剖学的異常または免疫不全状態を懸念すべきである。入院後または器具操作後に生じた感染は,非定型または耐性病原菌を示唆している可能性がある。

検査

一律に受け入れられている単一のアプローチはない。他の点では健康な若年女性に古典的な排尿困難,頻尿,および尿意切迫がみられ,かつレッドフラグサインは認められない場合には,検査を行わずに(ときには尿検査すら省略して),膀胱炎と推定した上で抗菌薬を投与する臨床医も多い。一方,清潔に採取した中間尿による尿検査および尿培養を全例に行う医師もいる。多剤耐性感染症の危険因子を有する患者には尿培養が推奨される。また一部には,尿試験紙検査で白血球が検出されない限り,培養を延期する臨床医もいる。妊娠可能年齢の女性には妊娠検査を行う(妊娠中のUTIは,切迫早産または前期破水のリスクを上昇させる可能性があるため,懸念事項である)。腟分泌物には直接鏡検(ウェットマウント)が必要である。多くの臨床医はSTD検査(淋菌およびクラミジアの培養またはポリメラーゼ連鎖反応[PCR]法)のために子宮頸管(女性)または尿道(男性)滲出液をルーチンに採取しているが,これは多くの感染患者が典型的な臨床像を示さないためである。

結果が1mL当たり105コロニー形成単位(CFU)を上回る場合は,感染が示唆される。症状がみられる患者では,ときに測定値が102または103CFUといった低値でもUTIが示唆されることがある。培養で無菌と判定された患者の尿検査で白血球が認められた場合は,これは非特異的な所見であり,性感染症外陰腟炎前立腺炎結核,腫瘍,間質性腎炎,その他の原因で起こりうる。白血球が検出されず,培養も無菌と判定された患者の尿検査で赤血球が検出された場合は,これはがん,結石,異物,糸球体異常,または尿路に対する最近の器具操作が原因として考えられる。

抗菌薬に無反応,症状の再発,感染のない血尿のいずれかに該当する患者には,閉塞,解剖学的異常,がん,その他の問題の有無を確認するための膀胱鏡検査尿路画像検査が適応となる場合がある。再発性下部尿路感染症または複数菌感染症の男性では,直腸膀胱瘻を検討すべきである。妊娠中の患者,男性,高齢患者,および長期または再発性の排尿困難を呈する患者には,より緊密な注意とより徹底的な検査が必要である。

排尿困難の治療

治療は原因に対して行う。レッドフラグサインを認めない女性の排尿困難については,診察および尿検査の結果から原因が明らかでなければ,治療を行わない医師が多い。治療を行うと決定した場合は,トリメトプリム/スルファメトキサゾール,ニトロフラントイン,またはホスホマイシンの3日間投与が推奨される。フルオロキノロン系薬剤は,腱障害を引き起こす可能性があるため,単純性尿路感染症(UTI)には可能な限り使用すべきでなく,また耐性を回避するため,フルオロキノロン系薬剤は他の薬剤が使用できない場合と重篤な感染症にのみ使用すべきである。同様に著明な所見のない男性患者には,性感染症(STD)と推定した上で治療を行う医師もいる一方,STDの検査結果を待つ(特に信頼できる患者で)医師もいる。

膀胱炎に起因する耐え難い急性の排尿困難は,フェナゾピリジン100~200mg,経口,1日3回を最初の24~48時間投与することで,ある程度軽減できる可能性がある。この薬剤は尿を赤橙色に変色させて下着を汚すことがあり,この作用を感染の進行や血尿と混同しないよう患者に注意しておくべきである。複雑性UTIには,グラム陰性菌(特に大腸菌[Escherichia coli])に効果的な抗菌薬による10~14日間の治療が必要である。

排尿困難の要点

  • 排尿困難は常に膀胱感染によるものとは限らない。

  • STDおよびがんも考慮すべきである。

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